――どりるみるきぃぱんち――夕呼先生が駆る車に撥ね飛ばされる純夏――料理対決をはじめる純夏と冥夜――ラクロス対決に燃える委員長、反発する慧――牛丼特盛りつゆだく――誕生日――温泉、バルジャーノン、尊人――婚約の夢――。
【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」
静止した空間に、白銀武と武御雷だけが、いる。
薄桃色の塗装を施された武御雷は、古流剣術必殺の一撃を放たんとする姿勢のまま動かず、白銀武は深紅に発光する武御雷のセンサーアイを睨みつけたまま、動けない。……もはや逃げることがかなわないことは、白銀武も分かっていた。たとえ接近戦用長刀の一撃を、奇跡的に回避出来たとしても、二の太刀――いや、戦術機が生身の人間を殺すのに、武器など必要ない。ただ主腕、あるいは主脚を振り回すだけで、事足りる。
だが、武御雷――純武号は、動かない。
実はこの時、純武号は致命的な障害に陥っていた。
社霞が読み取った白銀武の思考が、純武号の根幹を為す生体管制装置に伝達された途端に、その障害は発生した。主管制装置たる生体脳――鑑純夏は、あくまでも「目の前の目標(BETA)」を殺そうとしたが、副管制を務める他の生体脳が、それを静止。特に純武号が直前まで実施しようとしていた戦闘行動――下段斬撃は、鑑純夏が預かる行動ではなかった為に、純武号は行動停止に陥った。
一種の葛藤が、純武号の体内ではじまっていた。
鑑純夏は、既に白銀武のことを忘れてしまっている。彼女が抱いているのは、BETAに対する殺意のみ。他の少女達も、誰一人として白銀武のことなど知らない。
だがどうしてか、社霞から与えられた情報には、白銀武と生前の自身が共に生活する、そんなビジョンが含まれていた。戦争の気配などいっさい感じさせない、圧倒的なまでの平穏。まやかしに、決まっていた。しかし、どこか、懐かしい――!
セプテントリオンも、この事態をまったく予測していなかった訳ではなかった。
全ての事象は、理論だけで片付くものではない。白銀武と彼女達が接することで、何か予測出来ない事態が発生する可能性も、否定はされていなかった。だが確率自体は、酷く低いものだと考えられていたのだ。なにせ、白銀武と、この世界で生体管制装置に供された少女達は、何の関わりもないのだから。
「純武号を回収する。……白銀武は、捕獲しろ」
少女に幼馴染の少年を殺させることに失敗した岩田は、やむなく部下に新たな命令を下した。純武号は、回収。無防備な状態にある白銀武の処理は、殺害から捕獲に切り替わった。純武号不正挙動の理由は、白銀武にある。仮にここで白銀武を殺せば、純武号が更なる行動を起こす可能性も否定出来なかった。
モニタリング映像を眺める岩田の傍に控えていた副官が、横浜市内に待機中の私設部隊に指示を出し、出し終わると、岩田に問いかけた。
「あの白銀武(イレギュラー)――はどうするおつもりで」
「あのうさぎほど愉しめそうもないですものねぇええええええ――純武号の調律が完全となった時点で、生体部品にでも加工する。それまではヨーコ、お前に預ける」
「はっ」
岩田の副官、ヨーコ小杉は、女性にしては長身に過ぎる身体を折り曲げて返礼する。
元5121小隊隊員、現セプテントリオン幹部の彼女は、岩田よりはまだ「常識的な」人間であった。貪欲なまでに愛を求め、薬物に溺れ、運命を信じる、有体に言えば弱い――弱いが故にセプテントリオン内で伸し上がり、「BL」というコードネームを手に入れるまでに至った人間だ。
この時点では、彼女は白銀武や鑑純夏に対して、何の特別な感情も持っていない。
『おい――なんなんだアンタらッ! 帝国、いや国連軍か! 先生にッ! 夕呼先生に会わせてくれ! 香月夕呼博士に――何しやがる! 放せ、放せよ! 香月博士に伝えてくれ――俺は白銀武だッ! 5番目の計画を阻止――4番目の計画を成功させる為にやってきた! 4番目の計画を成功させて、人類を――! 畜生ォ――!』
画面の向こう側では、工作員達に羽交い絞めにされる白銀武が映し出されていた。
おそらく香月夕呼にコンタクトを取る為か、必死になってオルタネイティヴ計画の存在を仄めかす言葉を絶叫している姿が、事情を知る岩田にとっては滑稽に、ヨーコにとっては哀れに映った。既にオルタネイティヴ計画はセプテントリオンに接収済み、香月夕呼は大した活動も出来ない状況に追いやられているというのに。
F-15SEPから成る一個戦術機甲連隊が、純武号と白銀武の周辺警戒にあたり、拘束された白銀武は、引き摺られるように装甲車へと押し込められる。幾ら衛士経験があるといっても、多勢に無勢、彼らを振り解いて逃げることなど出来ようがなかった。
純武号は、その光景をただただ、見つめているだけであった。
――タケルちゃんを、とらないで。
いまも心のどこかは陵辱の最中にあり、また意志のすべてを憎悪に傾けている鑑純夏は、ほんの一瞬だけ心を揺るがせたが、だがそれだけだった。純武号は、微動だにしない。この時、鑑純夏が決断していれば、純武号はあらゆる停止命令に逆らって、白銀武を救助する為の行動を開始したであろう。
だが、彼女は、動かなかった。
動けなかった。
タケルちゃんは、BETAに殺された。
もしもタケルちゃんが生きていたとしても、もう会って話をする資格なんて、ない。
BETAにきもちよくさせられて、こわくて、おこって――タケルちゃんのことなんか、すぐにわすれちゃったわたしが――!
そして鑑純夏は、自分の殻に閉じ篭り、白銀武を認識することを止めた。鑑純夏を補佐する少女達の脳は、鑑純夏に意見具申した。「白銀武を助けるべきだ」、と。だがしかし、戦術歩行戦闘機を担架する専用トレーラーが到達するまでの間、純武号はただただ立ち尽くしていた。
純武号は、怖れていた。
白銀武を。白銀武に、自分の正体が露見することを。
試験を途中で打ち切られた純武号と、捕獲された白銀武が向かったのは、奇しくも甲22号目標横浜ハイヴ跡地であった。そこには、前世界で白銀武が所属した、国連軍横浜基地は存在しない。その代わりに横浜基地を上回る、巨大施設がそこにはあった。
七星重工横浜工廠。
反応炉が爆破された後、その機能を喪失した横浜ハイヴ跡地に建造されたこの横浜工廠は、複数個の七星重工戦術機甲連隊が駐留出来るだけの地上施設と、日産108機の戦術歩行戦闘機を製造可能となる地下生産設備、G元素を扱う研究設備を有しており、日本帝国のあらゆる軍事・工業施設を、質・量の上で凌駕する複合施設である。そして純武号のバックアップを担う専用設備を有する、唯一の施設でもあった。
支援車輌後部担架に拘束されたまま、純武号は車輌ごと昇降機に載せられた。向かうは、地下19階に存在する純武号専用ハンガー。核爆発による破壊やN・E・Pの有効範囲から逃れる為に、地中奥深くに備えられた地下牢獄。そこは端的に言えば、異常空間であった。人型戦車が為の輸血用血液と、純武号搭乗者が撒き散らす小便の臭い――絶望の腐臭が充満し、「換えの生体脳」が浮かぶ専用の水槽が並べられる異常空間。
純武号は、格納された。
主機は既に停止している。その証拠に純武号のセンサーアイからは、あの怨恨を表現する灯火が失せていた。白銀武のことなど忘れたか――命令されるがまま睡眠休止状態に入った鑑純夏は、仮初の平穏をいま享受している。彼女が次に目覚める時は、また殺しを命じられる時であろう。
「降りろ」
「……」
純武号に続く形で地下19階まで降ろされた装甲車から、セプテントリオンの工作員達が飛び出し、中の人間――白銀武に降りるように促した。白銀武は、抵抗の意志を見せることなく、言われるがままに装甲車から降車する。彼は既に方針転換を決めていた――つまり、彼ら不審者に対してはいま無抵抗を貫き、気力・体力を温存しておこう、と目論んでいた。
地下19階に立った白銀武は、最初から吐き気を催した。嗅覚を襲った激臭と、視界に飛び込んできた光景は、白銀武にとっては刺激的に過ぎたのだ。嘔吐物と血液の入り混じった異臭と、水槽の中に浮かぶ脳、そして、薄桃色の武御雷が、彼の五感を責め立てた。
「酷い場所だろう」
「……」
「だが、“白銀武に紹介するように”命令されたのは、この地下19階自体じゃないんだ」
「……」
「こちらアルファ・リーダー。これから、お客様を歓迎する。手筈どおりにやれ」
自身の傍らに立つ男の言葉に、白銀武は(こいつ、何言ってやがる)とだけ思った。
相手は余裕綽々に、通信機で方々に命令を出し始め、一瞬こちらに注意を外す。白銀武は、眼だけを動かして、周囲の様子を窺った。武器を手にして傍にいる連中は、全部で4人――これくらいの「隙」では、とても逃げおおせるとは思えない。だが、いつかは逃げ出せる、と確信していた。
(こいつら、油断しまくりだ――!)
注意力さえ失わなければ、連中の眼を掻い潜って逃走することも不可能ではない!
白銀武がそう思った瞬間、その真正面にそびえる純武号に動きがあった。
整備士達の操作によって、胸部装甲が開放され、操縦席が引き出される。白銀武は思わず、眼をすがめた。前の世界で戦術歩行戦闘機に衛士が乗降する光景など、見慣れている。ただ、操縦席に収まっている搭乗者が、気になった。Kを名乗る男と共に現れた、異色の大部隊を全滅させた衛士――白銀武はただ彼、あるいは彼女が、どんな人間なのか、一目見ようと思ったのだ。
そして、思わず、仰け反った。
「どうだ、白銀武――」
「……」
「あれが、おまえを助けようとした愚かな連中を一蹴した怪物だ――」
操縦席から昇降機へと倒れ込み、ゆっくりと地上へ降ろされる小さな影に、白銀武は見覚えがあった。兎の耳を思わせるヘッドセット、色素の抜け落ちたかのような銀髪、ちいさな体躯――前の世界で、白銀武は彼女を知っていた。純夏の代わりに、その世界に居た、少女。白銀武に絵に描いたゲームガイをプレゼントした、少女が――そこにいた。
少女は、酷い姿を、白銀武に晒していた。
彼女専用の強化衛士装備は、全身から垂れ流された体液に汚れ、額や手の甲には無意識下で行われた自傷行為の痕がみえる。玉の如き汗が浮かぶ顔面には、同時に憔悴しきった表情が張り付き、そして絶望だけを映す瞳は、沈んでいた。
白銀武の傍らで通信機と拳銃を弄ぶ男は、口許を嘲りの形に変えながら、白々しく、言った。
「なんだ、知り合いか? ――行ってやれ」
白銀武は男達に殴りかかるよりも、彼らの嘲笑を背中にして、社霞の元へ走ることを選んだ。白銀武は、全てを悟った。連中は年端もいかない少女、霞に戦争をさせているのだ。腸が煮えくり返る思いであった。この一瞬で、こいつらを絶対許さない、とまで決意したが、だがしかし、いまは社霞を気遣うことが優先すべき事柄だった。
脱力し昇降機の床に崩れ落ちたままの社霞を、白銀武は抱き締め、その顔面を覗き込む。だいじょうぶか、かすみ、と呼びかけたが、反応は一切返ってこない。……社霞は白銀武の思考を読み、白銀武の全てを――元の世界からここに至るまでの道程全てを、一瞬で理解していたが、彼女が白銀武に対してみせたのは、消極的拒絶であった。
先の第5世代クローンとの邂逅、そして七星重工に接収されて以来、少女は自身が「道具」であることを、完璧に理解していた。自身に必要なものは感情や思い出ではなく、機能や命令に対する履行能力。彼女は「前の世界」の自分とは異なり、白銀武なる人物との交流に対して価値を見出すことは、出来なかった。
少女は白銀武に対して怒りさえ覚えることなく、次の命令を待った。
その光景を、男達は――そして彼らの上司、岩田は厭らしい表情で眺めていた。
「おまえらッ――霞に何をしやがった!」
「社霞はESP能力者だ。それ相応の扱いをしたに過ぎない」
「何――」
「相手の思考を読み、それを搭乗機の管制装置に伝達し、戦闘行動に役立てる。それが、社霞の役割だ」
「霞を部品みたいに言うんじゃねえッ!」
「社霞は、オルタネイティヴ3計画の最高傑作――情報収集機の部品だ。横浜基地に社霞が居たのも、機材としての価値が認められたからに過ぎない。文句は、前の世界の大人に、香月夕呼博士のような大人につけることだな」
「……」
白銀武は、激情と共に立ち上がる。
まず、夕呼先生は関係ない、と白銀武は思った。確かに国連軍横浜基地に社霞が居た理由については、「前の世界」で詳しく知る機会はなかった。だが社霞が物のように扱われ、外道に過ぎる悪行の責任が先生に転嫁されようとしている。それを黙って認める訳には、いかなかった。
怒りに震える白銀武を一瞥した男達は、握る拳銃を向けるでもなく、更に笑みをこぼした。
「だが、我々にも非はある」
「……」
「御剣冥夜を――鑑純夏を、こんな形にしてしまって申し訳ないな」
「な、に――なんでそこで純夏が出てくんだよ!」
「おおかた前の世界では、香月夕呼博士に、“鑑純夏という人物は存在しない”とでも言われたんだろ? ――それは、大嘘だ。鑑純夏は、お前が迷い込んだ世界に居たんだ。そして、この世界にも居る――それも、目の前になァ!」
「ふざけんなッ――! どこに、どこにいるってんだ――まさか――この脳味噌が――」
「バカが、お前の真正面にいるだろう――鑑純夏、御剣冥夜、榊千鶴、珠瀬壬姫、彩峰慧、鎧衣美琴――いまはもう、戦術歩行戦闘機純武号専用生体管制装置(ヴァルキリーズ)、と名前を変えてしまっているがな」
何を言ってやがる、嘘を吐くのも大概にしろ!
白銀武の叫びは、純武号と、脳髄を収めた水槽にぶつかって反響する。
そして、何の変化も、及ぼさなかった。
帝国陸軍練馬基地、某演習場。
俄かに騒がしくなった空を仰ぎ、ひとりの帝国軍人が嘆息した。
彼の頭上を翔る戦術歩行戦闘機は、帝国陸軍、斯衛軍はおろか、国連軍さえも制式採用した覚えのない機種であった。その機影は89式戦術歩行戦闘機陽炎に酷似しているが、細部が異なっている。七星重工製F-15SEP。それが大隊規模、戦闘隊形を堅持して翔け抜けるさまを、男は苦々しげに見つめていた。
道理で考えれば、一国の主権が及ぶ領内にて活動する軍事組織は、政府によって認められた国軍か、条約等によって駐留を認可された他国軍に限る。だがその道理が堂々と踏み躙られているのが、現在の日本帝国であった。
七星重工を名乗る「なにか」は、今や帝国政治の中枢に影響力を持つに至り、また多くの私兵を、帝国領内にて活動させている。国防省・城内省を除く帝国省庁は、既に七星重工の言いなり――榊内閣崩壊後の内閣も、親七星重工の閣僚が占めている。
(帝国陸海軍が、七星重工に呑み込まれるのも時間の問題――それどころか、日本帝国の国体が消滅する未来も、そう遠くはない……)
彼は、自身の危惧が杞憂に終わって欲しいと願っていたが、どうもそうならないであろうことも同時に分かっていた。近い将来、自身が起たなければならなくなることも。実際のところ七星重工の存在がなければ、日本帝国は立ち枯れる。無辜の民が、命を落とす。だがしかし七星重工の跳梁跋扈を、看過することは、彼には到底出来なかった。
七星重工には、黒い噂が絶えない。
帝国臣民を拉致誘拐し生体実験に供している、また七星重工が買い占めた元官有地は、いまやNBC兵器の試験場になっているとも聞く。……現時点では、決定的証拠はない。だが逆に決定的証拠を掴むことがあれば、男は迷わず決起するつもりでいた。数週間前には、戦略研究会なる組織を主催して立ち上げ、対人戦闘研究や七星重工施設制圧の戦略・戦術的研究を開始していた。
「大尉」
七星重工の悪行に憤りを覚え、今後の展望に思いを馳せていた男は、すぐ傍に自身の副官がやって来たことにようやく気がついた。黒縁の眼鏡を掛けた、知的な風貌の彼女は男の思想に賛同する理解者であった。衛士としての戦術眼はまだまだ甘いが、帝国軍人として信頼出来る人格を持っている、と男は彼女を評価している。
「お時間です」
「わかった」
男――沙霧尚哉陸軍大尉は、頷いた。
今日は午後より、戦略研究会について話を伺いたい、という第12戦術機甲連隊連隊副官との会談が予定されていた。
帝国陸軍内でも七星重工閥――七星重工の私兵に成り下がる部隊も現れる中で、帝国陸軍第12戦術機甲連隊は、幸いにも非七星重工閥であった。この戦術機甲連隊、先の98年本土防衛戦においては、佐渡島より来襲するBETA群に常時対峙し続け、防戦によく努めた部隊であり、沙霧としては個人的に好意がもてる。
必ずしも七星重工排撃の動きに同調するとは限らないが、だがしかし探りを入れて脈がありそうならば、是非とも同志に迎え入れたいところであった。
ふたりは、演習場を後にして兵舎へ歩み出す。
第12戦術機甲連隊副官との会談の場は、普段から下級士官達が屯し、いまは沙霧が掌握した同志達が集う士官次室(ガンルーム)。仮に第12戦術機甲連隊の人間に怪しい動きがあれば、すぐさま制圧を可能とする為の処置であった。
白銀武防衛作戦に失敗したプレイヤー達に、後はない。もはやどんな手を使ってでもセプテントリオンによって始末される前に、白銀武を救出しなければならなかった。だが先の戦闘で実働部隊を喪失した彼らには、既に選択肢がほとんど残っていなかった。新たな儀式魔術を完成させ、実働部隊を再編成させるのには、酷く時間が掛かることは明らかであり、そうしていたのでは白銀武救出には間に合わない。
故に芝村達は、賭けに出た。
史実では帝国政府に叛旗を翻し、国連軍と対戦したクーデター軍――沙霧大尉ら「戦略研究会」を、七星重工横浜工廠にぶつけ、それを陽動として、エースプレイヤーを初めと擦る少数精鋭が工廠内に侵入し、白銀武を救出する。「白銀武奪還作戦」と名付けられたこの策には、賛否両論が噴出した。「そうするほかない」という消極的賛成と、「うまくいく可能性は低い」という消極的反対の意見がネット上で飛び交い、結局はこの策が採用された。
白銀武奪還作戦において、沙霧大尉ら「戦略研究会」は捨て駒となる。薄桃色の武御雷を5分だけでも地上に拘束する役割を果たした時、彼らは全滅しているであろうことは間違いない。だがその5分があれば、エースプレイヤーは白銀武を救出することは不可能ではなかった。
最大の問題は、「戦略研究会」を動かせるか、にあった。
彼らは、買収や脅迫では動かない。
芝村はAlpha&ageインダストリ経由で、非七星重工閥の帝国陸軍第12戦術機甲連隊に話をつけ、そして戦略研究会に赴く連隊副官に、複数枚の紙を手渡していた。ハードボイルドペンギンと鎧衣左近が調査した、七星重工の非道が纏められたそれは、間違いなく彼らを決起に導くに違いなかった。
「七星重工生体実験被験者一覧表」
【甲種】
御剣冥夜
珠瀬壬姫
榊千鶴
彩峰慧
鎧衣美琴
【乙種】
伊隅みちる
速瀬水月
涼宮遥
涼宮茜
柏木晴子
宗像美冴
風間祷子
【丙種】
……
……
【真愛編】2話、「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」終
【真愛編】3話、「変わらないあしたなら、もういらない!」につづく