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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」
Name: 686◆1f683b8f ID:e208e170 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/06/03 11:18
 異常潮流によって航行が不能となり海岸に激突、大破して塩の荒野に残された船舶が転がり、本土防衛軍の阻止砲撃によって粉砕されたBETA群の死骸が、硫黄めいた死臭をあげる。積みあがるBETAの骸の合間には、全身を塩と血に食まれた戦術歩行戦闘機が倒れ伏す。かつての大海は、今や塩と鉄と骸に覆い尽くされる荒野に変貌を遂げていた。BETAの大策源地ユーラシア大陸と、未だ千万単位の人々が暮らす日本列島を隔てていた天然の要害「日本海」は、既に一滴の海水までも失い、その惨い姿を晒している。
 そしてこの荒涼たる大地に、塩が混じる砂煙が止む日はない。旧中華人民共和国領及び朝鮮半島を進発したBETAは、粉砕された同属の死骸を踏み潰し、抗戦した英霊達の痕跡を吹き飛ばしながら、旧日本海へ、そして日本列島へと殺到する。既に本土防衛軍の防衛線は、旧日本海上から旧海岸線付近にまで後退していた。

 度重なるBETAの侵攻とそれに応ずる人類軍決死の防戦によって、僅かに建物の基礎を残すのみとなった新潟市街の上空を、閃光と曳火が奔る。榴弾と噴進弾がほとんど平地となった市街地に降り注ぎ、上陸したBETA群を薙ぎ倒す。だが殲滅するには、至らない。単純な量の問題もあるが、遥か後方、旧日本海海上に展開する重光線級による防空照射によって、BETAに到達する砲弾数は酷く少なくなる。
 突撃級と要撃級から成る先頭集団のごく一部が、噴進弾の直撃を受けて擱座する程度しか、帝国陸軍砲兵連隊の攻撃は効果を及ぼさない。決死の思いで前進観測の任務に就く観測班と、砲兵連隊の努力も虚しく、師団規模のBETA群は新潟大学跡地を突っ切り、信濃川へと達した。かつて日本海に注いでいた雄大なる信濃川は、日本海と同じく干上がり、もはや見る影も無い。BETA群は旧信濃川流域に沿って、南下を開始する。
 この間、本土防衛軍の近接戦闘はいっさい行われない。
 帝国陸軍諸部隊は、新潟市南部――内陸に展開していた。上陸したBETA群が、優速の突撃級・要撃級・戦車級と、足の遅い光線級とに分離するように、わざと内陸へ誘引させるのが、彼らの基本戦術となっていた。もはや上陸直後の優勢なるBETA群目掛け、光線級吶喊をやるだけの体力は、本土防衛軍にはなかった。
 信濃川のかつての川底を走る突撃級の前脚が突如として破裂し、塩混じりの砂を巻き上げながら前のめりに停止する。その脇では要撃級が、下腹に火焔と破片が綯い交ぜとなった爆風を受けて、絶命した。対戦車地雷の大量散布。これが本土防衛軍が新潟市北部で行える、精一杯の応戦であった。動きを止めた大型種は、侵攻路を塞ぎ、後続に迂回を強要することになる。敵の衝撃力を和らげ、同時に少しでも時間を稼ごうとする、本土防衛軍の涙ぐましい努力であった。



『CPよりチューリップ。BETA群先頭集団は、新潟県庁跡地を通過。接敵まであと10分を予想』



 国道460号の線に展開した帝国陸軍第31師団は、既に戦闘態勢を整えていた。98年の本土防衛戦により、新潟市街は前述の通り更地に近い。視界は開け、射点の確保は容易であった。戦術歩行戦闘機や主力戦車は好射点を確保し、機械化装甲歩兵や防塵面を着装した歩兵達は、小型種に備え、一帯に散兵、更に重火器を備えた強力な火点を複数箇所設け、BETAが真正面に現れるのを、てぐすね引いて待っていた。
 30度を超える炎天下の最中だが、戦塵に気管をやられないように防塵面を着けた歩兵達は、自動小銃を抱えたまま、BETAが現れるであろう方角をじっと睨みつけていた。口うるさい下士官が、新兵達に幾度も「大型種は戦術機と戦車に任せろ、小型種を撃て」と告げている。
 それでいい、と第58歩兵連隊の某小隊長は思った。迫るBETAに圧倒された新兵達は、恐慌状態のままに大型種へと、全く意味を為さない射撃を行うことがままある。大型種を阻止するのは、あくまで機甲科の役割。戦車級を重火器で、その他小型種を携行火器で片付けるのが、歩兵の役回りだ。
 小隊長は悠々とした仕草を心がけつつ、もう一度、首を巡らせて周囲の布陣を確認した。旧式の61式戦車が主力とはいえ定数を満たした戦車大隊と、中隊規模の機械化装甲歩兵が居並ぶ光景は、壮観だ。そして図抜けて背が高い戦術歩行戦闘機が、その甲殻類めいた双眼を以て北の方角を睨む。正確にはそれは、戦術歩行戦闘機ではない。



『こちらネーデル。攻撃機の電探でも既に先頭集団を捉えている』



 81式強襲歩行攻撃機、A-6J「海神」がそこにいる。日本海消失以来、BETA上陸地点に逆襲を掛ける本来の運用が不可能となったまま、存在意義を失っていた海神は、いまは複数門の36mmチェーンガンを備える強力な固定砲台としての能力を期待されて、内陸の防衛線に配置されていた。
 最初こそ海神の実力に懐疑的であった陸軍歩兵達であったが、現在ではこの異形の戦術機に大きな信頼を寄せている。携行火器の破壊力は先頭を走る突撃級を真正面から粉砕するに足り、またその連射力は戦車級の群れを殲滅するに十分。彼らは本気で、「海神(こいつ)と同じ戦場でよかった」と思っていた。

 疲弊しきった帝国陸海軍ではあったが、まだ彼らは本土防衛を諦めていなかった。







【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」



 天井で煌々と点り続ける蛍光灯と、何も変化が起きない無機質な空間のせいで、白銀武は時間に対する感覚を失いつつあった。社霞と、鑑純夏と呼ばれた武御雷との対面の後、この独房へ叩き込まれてから、既に睡眠を3回、差し入れられる食事を6回摂っている。排便は、独房の隅に設けられた便器で2回。順当に言えば、経った日数は3日か――それとも2日か。白銀武は焦燥感を覚えるよりも、無力感に襲われたまま、独房の片隅に座り込んでしまっていた。
 脱出方法を考える為の、取っ掛かりがなかった。
 監視兵が常時居るならば、彼に罵声なりなんなりを浴びせて反応を窺うことも出来たし、拷問に掛けられるにしても、そこには独房を出入りする「移動」が付随する。そこには基地構造を理解する機会もあれば、もっと直接的に監視の隙を窺う機会もあろう。……だが白銀武には、独房に押し込められたまま、定時に食事が差し入れられるだけの「変化」しか与えられなかった。
 拷問、暴行はおろか、尋問さえ行われない。



(メシが運ばれてくる時を狙うしかないか――?)



 急病でもなんでも装って、食事を運んできた人間を油断させた上で脱出する――これは白銀武が何度も思い当たり、思い当たる度に没となる脱出案であった。食事は武装した人間が、鉄格子の一部に設けられた小窓を通して渡してくる。人数は、四人。食事を差し入れる男こそ両手に武器は持っていないが、残る三人は狭い空間でも取り回しの利く自動拳銃や多目的銃剣を携行している。
 急病を演じ、医務室に運び込まれて仮病が発覚する前に、四人を無力化することは、不可能に近かった。相手がただのごろつきならばともかく、相手はおそらく訓練を受けた正規兵に近い人間だ、と白銀武は踏んでいたし、実際そうであった。互いに徒手空拳の状態でも、白銀武は七星重工の人間を打ち倒すのは難しいであろう。
 ……手詰まりであった。
 何か変化を起こす為に、もう少し安全な方法はないだろうか。あるいは脱出に使えるものはないだろうか。「元の世界」で見たテレビ番組で、鉄格子に味噌汁を掛け続け、腐食させて脱出した話が紹介されていたことを白銀武は思い出したが、それはあまりにも時間が掛かり過ぎる。便所を破壊しての脱出や、天井を破壊しての脱出もやはり非現実的に思えた。

(……)

 そう言えば以前、同じような経験をした覚えがある、と白銀武は思った。「前の世界」、何も分からずに横浜基地へ向かった時のことだ。あの時、横浜基地で拘束された際は、何も分からないままに「御剣財閥が仕組んだドッキリに違いない」だとか、漠然と「夕呼先生がなんとかしてくれるに違いない」だとか、そんなことを考えていた。
 ……生憎と自分が囚われている状況は現実であったし、いまは「自分でなんとかする」しかなかった。Kを名乗った男の言葉を全面的に信じるのであれば、夕呼先生やまりもちゃん――香月夕呼博士や神宮司まりも教官は無事だ。だがふたりが、自分を助けに動いてくれる可能性は皆無に等しいだろう。現時点では自分と先生は、赤の他人だ。
 Kの話を思い出すと同時に、白銀武は、先程社霞との再会の場で男に聞かされた話――「前の世界」の夕呼先生が嘘をついていた、という話の真偽を考えざるを得なかった。社霞の素性、鑑純夏の存在――「前の世界」では、まったく分からなかったことだった。



(たしかにオレに秘密をバラしても、先生にメリットなんてない。でもウソをついて得することもないはずだ……ホントに「前の世界」に純夏がいたのかよ?)



 そして桃色の武御雷が、鑑純夏だ、という言葉の意味も白銀武はまったく理解出来ていなかった――脳髄だけになった少女達が、まさか管制装置として純武号に収められているとは、白銀武は到底信じられないことであったし、常識から言えばあり得ないことだった。戦術機の機能をコントロールするのは、機械(コンピューター)がやることだ。



「情報がない」



 白銀武は、つぶやいた。
 この場所では非人道的な「何か」が行われており、そして社霞が酷い目に遭っている。分かっているのは精々それだけで、この施設の構造や外の状況はおろか、自分を拘束した勢力の正体さえも分からない。これでは動きようがない。考え難いことではあるが、Kを名乗った男の勢力が本当の敵であり、自分を拘束した勢力が味方である可能性も、ない訳ではなかった。

「……!」

 白銀武が口を閉じ唇を合わせたあたりで、廊下から足音が聞こえてきた。
 白銀武は速やかに耳を澄ませる――たぶん、ひとり! 今までにない「変化」に、彼は興奮した。前述の通り食事の差し入れは、複数人で行われる。と、なると――。
 白銀武が何か動きを見せる前に、彼が収容されている独房の前にひとりの女性が立った。



「ヨーコ小杉、といいまス」

「……」



 白銀武は、ヨーココスギと名乗った彼女を素早く観察した。
 黒人女性、都市迷彩が施された野戦戦闘服。筋肉の発達具合は、成人日本男性ほどか。薄いプラスチック製の電子板を、小脇に抱えている。腰には自動拳銃。表情は柔らかい。母性さえ感じられる程だ。だが警戒を解くことは出来ない。



「何の用っすか」

「そろそろ退屈かト思ってきまシタ」

「アンタと話すことなんかない」

「ワタシも聞くこと、ありまセン」

「は?」

「岩田営業部長の、命令で来まシタ。これをご覧ください」



 ヨーコ小杉はそう言って、小脇に抱えていた電子板を白銀武に見せつけた。第7世界で云うところの「タブレット」に等しいそれは、自身の画面上にて動画を再生する。画面左上には「Live」の文字。



「岩田営業部長からの伝言でス――“何も出来ないままに、死んでゆけ”――だそうでス」



 白銀武の瞳が、見開かれる。
 そこには、BETAと本土防衛軍の死闘が、映し出されていた。







 突撃破砕砲撃も虚しく、大型種の群れが帝国陸軍の防御線を踏み潰す。後方跳躍で逃れようとした撃震は、一瞬遅れる形で突撃級の大波の中へ消えてゆく。行進間射撃を実施しながら全力後進を行っていた74式戦車が、要撃級が放つ横殴りの一撃で吹き飛ばされ、絶望的退避に移っていた歩兵達を巻き込んで転がっていく。



『新潟防衛線阿賀野川方面ッ――防衛線崩壊! 至急増援求む!』



 旧信濃川流域に殺到した師団規模のBETA群に続く形で、旧阿賀野川流域へ流入した軍団規模のBETA群約4万と対峙した本土防衛軍諸部隊は、全滅あるいは敗走に近い後退を余儀なくされ、組織的反撃を実施することが困難になりつつあった。
 砲兵連隊の間接砲撃や大量の対戦車地雷を以てしても、衰えることを知らない大型種の集団が誇る蹂躙突撃の衝撃力が、阿賀野川方面の防衛線に正面からぶちあたったのだ。氾濫する河川の激流と、それに立ちはだかる貧弱な堤防の関係を連想させる光景が、至るところで見られた。防衛線の脆弱な箇所がまず突き破られ、そして抉じ開けられた穴の周囲が瞬時にして突き崩されてゆく。
 数歩も退くことが出来ないままに歩兵が小隊・中隊単位で轢殺され、行進間射撃で前面の大型種を撃破しながら後退を試みる主力戦車は、戦車級に喰らいつかれて擱座し、そのまま乗員を捕食されて沈黙する。

『アップル各機、金刀比羅神社跡地まで後退する! ブラボー・チャーリー両隊は即時後退、アルファ小隊はこの場に留まり後衛戦闘!』

『こちらザンジバルッ――2時方向――県道27号方面から新手だ! HQ、指示を!』

『こちらHQ、北東からの新手はヤマト及びザンジバルが対応せよ。県道46号沿いに阻止線を張れ』

 衛士達は自機を操り、後退と射撃を繰り返す。彼らの網膜に投影される戦域図には、戦術歩行戦闘機以外の友軍マーカーは既に存在していない。戦車大隊及び随伴歩兵全滅。いま旧阿賀野流域に殺到した軍団規模の敵群と対峙するのは、たった二個戦術機甲大隊、72機以下の戦術機に過ぎなかった。
 旧阿賀野川を横断する県道46号まで後退した89式戦術歩行戦闘機陽炎から成る二個戦術機甲中隊は、押し寄せる新手の先頭――深緑の波頭を照準に収める。87式突撃砲が一斉に火を噴き、同時に衛士達は舌打ちをした。大抵の36mm機関砲弾は、突撃級の正面装甲を貫徹することも出来ずに弾かれてゆく。
 突撃級に対しては後背に回り込んでの射撃が有効――対突撃級戦術の定石は、机上の空論に近い。光線級が存在する戦場では、突撃級を飛び越えるだけの高度を取れないことが大抵であるし、仮に突撃級を飛び越えて背後に回りこんだとしても、そこはBETAの大海が広がっている。実戦においてはやはり、真正面から突撃級をぶち抜けるだけの威力をもつ120mm弾が重宝されるが、その携行弾数は36mm機関砲弾に較べれば酷く少ない。
 突撃級と陽炎の群れの合間は、みるみる間に縮まってゆく。
 一個中隊を預かる中隊長は、賢明な判断を下した。
 


『ヤマト・リーダーより各機。後退しろ、彼我距離1500を堅』



 そして、命令を下し終わる前に絶命した。
 僅か数秒閃いた青白の破壊光線は陽炎の胸部装甲を貫き、一瞬で中隊長を蒸発させ、彼の操る鈍色の巨兵を爆散せしめた。弾け飛ぶ装甲板と主腕が、周囲に居合わせた他の陽炎に衝突し、乾いた金属音を立てる。

『権田少佐機、大破炎上――』

 彼らの部下は、すぐに状況を悟った。
 光線級が、前線に顔を出した。89式戦術歩行戦闘機陽炎の頭部センサーアイが、素早く前線全体を走査する。閃光通過時に空中及び地上に残った熱を追跡し、光線級の居場所を特定する――大気をプラズマ化させながら奔るレーザー光線が放たれた発射位置を、探知することはそう難しいことではない。
 実際、中隊副官が駆る機体が、光線級を発見するのに掛かった時間は2秒以下であった。

『阿賀野川公園跡地に光』

 だが次の瞬間、中隊副官機は、阿賀野公園跡地とは全く別の方角からの狙撃を受け、上半身を丸ごと失っていた。

『ちっくしょォ! 公園跡地だけじゃねえッ――県道3号付近に光線級複数体――!』

 旧阿賀野川下流を渡る県道3号沿いに、若緑の表皮をもつ人外がいた。先程要塞級から降ろされたばかりの彼らは、そのつぶらな瞳をBETAの死骸の合間から覗かせている。体高18mの巨体を誇る戦術機達は、既に彼らがもつその視界に収まってしまっていた。
 そして始まるは、あまりにも分の悪い射撃戦。
 射程は事実上ほぼ無限、静物に対しては100パーセントの命中率を誇り、必殺に足る破壊力を誇る光線級と、有効射程は2000m前後かつ命中率を手数で補う形になる戦術機の突撃砲が、互いに攻撃を開始する。更に戦術機側の不利を加速させるように、彼らは光線級だけに集中することが出来なかった。

『8時方向ォ――デッ――突撃級複数体ぃ!』

『なっ、信濃川の連中は何をし』

『漆原――バーバリアン4、全損!』

 南西、新潟防衛線信濃川戦域方面からの新手の出現。端的に言えば「あり得ない」方向から阿賀野川戦域に雪崩れ込んできた新手のBETA群は、正面の光線級の対処に忙殺されていた戦術機甲部隊の横合いを衝いた。突撃級に突き飛ばされた94式戦術歩行戦闘機不知火は、そのまま転がされ踏み潰されて、ただの鉄塊へと換えられてしまう。

『こちらアップル・リーダーよりHQ――信濃川方面からBETA流入ッ! 状況はどうなってる!』

『こちらHQ、重金属雲発生の影響か、信濃川戦域の諸部隊とは連絡が取れない状況がつ』

『馬鹿かッ! そいつはァ全滅だ――!』

 近隣戦域崩壊に伴うBETAの大規模流入。もはや二個戦術機甲大隊が対処出来るレベルを超えている――中隊長の誰もが思った時には、もう遅い。彼らは既に半包囲された状況で、扼殺される時を待つことしか出来ない状況に陥っていた。
 光線級の一斉照射、回避機動を試みる陽炎は横合いに現れた突撃級に激突し、全壊して部品を撒き散らす。その脇では予備照射を振り切れなかった不知火が、本照射を浴びて溶解し、また別の不知火は跳躍装置を要撃級の前腕に捥ぎ取られ、BETAの海に孤立してゆく――。







「ふざけんなあああああああ!」

 白銀武は、吼えた。
 加速する無力感と焦燥感が、彼にそうさせた。

「なんで、なんで、見殺しにするんだよッ――お前らの力があれば、みんなを助けることだって出来るんじゃないのか!」



 白銀武の脳裏には、薄桃色の武御雷が、あった。
 あれさえ出張れば、現在前線に殺到しているBETAなど鎧袖一触で殲滅出来るであろうし、また前線将兵の死傷者は激減するに違いなかった。なのに、何故それをしようとしないのか。「前の世界」でも理解が困難な権力闘争があったようだけれども、それでも彼らの行動には「人類勝利」が念頭に置かれていたはずだ。勝利に至る道筋や、勝利の後の展望は違えども、BETAが当面の「共通の敵」であることは間違いなかった。
 ならば、現在進行形の殺戮劇を傍観、無視していられる彼らは何者なのか――。



「……わたしたちは、あなたたちがどうなろうと知ったことでハないのでス」



 ヨーコ小杉は白銀武の心中を読んで、答えた。

 実際、セプテントリオンはこの世界に存在する国家や、人類の存亡など心底どうでもよかった。この世界には大量破壊兵器の実験場に転用出来るだけの広大な更地があり、また新兵器の標的にはちょうど良い連中もいる。鑑純夏回収成功後、あと利用価値があるものがあるとすれば、BETA由来の新資源「G元素」程度であり、これの回収には現地国家の力など一切必要ない。故に、彼らとしては人類国家が壊滅しようと、現地人類が絶滅しようと、どうでもよいのである。
 白銀武はそのあたりの事情を何となくだが、悟った。



「目の前で苦しんでる人が居るのに、戦ってるヤツが居るのに――それを助けてやる力があるのに――それを見殺しにして! そんなこと――」



 許される訳ねえだろ、と叫ぼうとした白銀武を、ヨーコ小杉は制した。

 そしてあまりにも残酷な言葉を、吐いた。



「……武サン、わたしたちはスゴイ力もってまス。その気になれば、あなたを“元の世界”に戻すこと、出来まス。もちろん武サンの選択次第デスが」

「な……! なにを言っ」

「うん、と言え! ――お前自身が“この世界”を見殺しにすることを認めろ! そうすれば私達はお前を、“元の世界”に戻してやってもいい。その背伸びした偽善を棄てろ。そうすれば安楽な生活を取り戻せる、という訳だ。“何もかも元通り”とはならないだろうが、それでもこの滅びゆく世界よりはマシだ」

「ふっ――ふざけんなッ! オレは――オレは――」

「社霞や“この世界の”鑑純夏を見棄てろ。敗北を認めろ、それが条件だ。世界を救う、お前には荷が重過ぎた。何がしたいのか、言ってみろ。それを私は実現してやる――これは社霞の望みでもある」



 ヨーコ小杉は、白銀武が「元の世界に戻りたい」と認めるに決まっている、と考えていた。実際、第7世界において知られている「史実」では、彼は「元の世界」に一度逃げている。あれは恩師の死の直後もあってのことだが、白銀武が少なからず心の弱さをもっていることの証明でもあった。
 セプテントリオンにとって白銀武は、どうでもいい存在になりつつあった。因果導体となった白銀武を「元の世界」に戻し――周囲の人間が白銀武のことを忘却し、そして因果に惨殺されてゆく「元の世界」で――絶望へ追い込まれてゆくサマを観察することも、悪くない、程度にしか岩田は考えていなかった。



「オレは――」



 白銀武は、次の言葉を口にする決断が出来ずにいた。
 本音を言えば、何もかも忘れて元の世界には戻りたい。だがしかし、いままさに滅びの時を迎えようとする人々を「知ってしまった」、そして一生分滅び行く世界で過ごした経験をしただけに、全てを見棄てて逃げることなど、出来ようもなかった。



「オレは、この世界を、諦めない――!」



 それは、「オレが全てを救ってやる」といった、勇猛な感情のほとばしりではない。ふたりの少女に言い寄られ、そのふたりの合間で揺れ動くような、優柔不断染みた心情から来るものだった。要は実を言えば「元の世界」に戻りたいが、「この世界」を棄てるのはどうも後味が悪い、といった形である。
 だがしかしそれが真心であり、真心である以上は仕方がない。
 それに、経過がどうであろうと、結局白銀武は昂然とヨーコ小杉に告げたのだ。



「てめえらの事情なんざ知らねえッ――オレは霞を助け出す! 人類を救えるかは分からない――でも、オレは最後まで戦ってやる!」



 人類はもう一度「前の世界」と、同じ末路を辿るのかもしれない。
 そしてもう一度オレは、世界を繰り返すことになるのかもしれない。
 ……それでも、まだもう少し頑張ってみてもいいんじゃないか。



「……」



 ヨーコ小杉は、舌打ちをした。
 顔面全体に悪鬼が如き表情を張り付け、「面倒なことだ」とだけ呟いた。

 彼女は実を言えば、この独房に来る前に、社霞と約束をしてしまっていた。それは白銀武の望みをひとつ叶えてやる、という約束であった。白銀武を帰還させてやろうと思ったのか、社霞の真意は分からない。ところが蓋を開けてみれば、白銀武の望みは「社霞の解放と、戦う手段を得る」こと、であった。これをヨーコ小杉が、実現に移そうと思えば、セプテントリオンへの裏切りになりかねない。

 だがセプテントリオンがこの世界をどうでもいい、と考えているように、ヨーコ小杉もセプテントリオンなどどうでもいい、と考えている節があった。彼女にとっては、世界間移動組織より世界の命運より1億の生命より何よりも、幼女との約束が優越するのである。







【真愛編】3話、「変わらないあしたなら、もういらない!」終

【真愛編】4話、「千の覚悟、人の愛」につづく。


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