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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "光を心に一、二と数えよ"
Name: 686◆6617569d ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/26 20:57
"光を心に、一、二と数えよ"



 世界は平行して存在していることは、紛れもない事実。現段階では人類と幻獣が死闘を繰り広げる第5世界より、学兵部隊がBETAに蚕食されたこの宇宙へとやって来たことが、何よりの証明であり、また後に本格的な動きを見せるオルタネイティヴ4計画は、後にまた異なる平行世界より現れた少年の活躍によって、一応の成功を収めている。

 1999年7月9日、現在日本帝国九州地方には10万以上のBETAが着上陸を果たし、その殺戮のための橋頭堡を築き、また前述の通り前川・球磨川以北の八代市街には、北上を開始するBETAを除いても、市街に留まり破壊の限りを尽くすBETA群が1万弱存在している。
 この1万弱の敵群を相手取るは、陸自の1個連隊(第123普通科連隊)と帝国陸軍第58戦術機甲大隊。
 前川・球磨川の南岸には、数個歩兵連隊と1個戦車大隊が張り付いているが、彼らは第46師団司令部及び各々の上級司令部によって、「球磨川絶対防衛線の構築」を命じられていた。絶対防衛線とは聞こえはいいが、結局のところ球磨川以北を見捨てよ、という命令である。
 BETA1万、旅団規模。対して避難民を守る人類軍は、陸自と帝国陸軍合わせ1個連隊強。
 未だBETAは、海岸沿いに要塞級と光線級を多数残している。例え学兵部隊が優れた装備を運用していたとしても、帝国陸軍の衛士らが獅子奮迅の活躍をみせたとしても、増援がなければ、いずれBETAの大波に消えることは明らかであった。

 もしもこの情勢を観測している人間が――何らかの手段を以て、BETAが上陸したこの九州地方の惨状を観測している人間が居れば、誰もが思うであろう。
 なんとかならないか、と。
 その傍観者の中には、力及ばず同級生の戦死や年少者の餓死、謀略に巻き込まれた恋人の落命を目撃した者もいたであろう。オルタネイティヴ5の発動とG弾投下を前提としたハイヴ攻略戦によって、未曾有の大災害に見舞われた地球を見た者もいるかもしれない。
 だがその悲劇を傍観者の立場から、あらゆる手段を用いて回避した経験をもつ者も、少なからずいる。



 7月9日1109時、何者かが本土防衛軍の指揮系統に介入した。

 中部九州地方の方面軍・軍司令部と、第46師団司令部をはじめとする幾つかの師団司令部、前線部隊と前線部隊を繋ぐあらゆる戦術・戦域データリンクに、不正な命令が捻じ込まれた。前線部隊はそれを疑いもせず、実行に移した。部隊によっては折り返し上級司令部に確認をとったが、返答は「命令に誤りはない、貴隊の勇戦に期待する」。逆に上級司令部には、前線部隊より当たり障りのない報告が上げられた。
 この状況は中部九州で1300時まで続き、戦闘終了後には情報畑の将兵による原因の究明が行われるも、介入の方法等は全く明らかにはならなかった。責任問題も発生したが結局のところ、前線部隊による状況に即した柔軟な作戦行動ということで決着、この件に関して処分を受けた者は、誰一人出なかった。



OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
――This Omnipotent Vicarious Enlist a Recruit Silent System――

宛 帝国陸軍第147歩兵連隊本部
発 帝国陸軍第46師団司令部

 貴隊は現時点を以て、現防衛線を破棄。前川・球磨川を渡河、一路北上し八代市街へ進入。以降、帝国陸軍第59戦術機甲大隊及び日本国陸上自衛軍第123普通科連隊と合流後、臨時戦闘団として八代市内のBETA群撃滅に臨まれたし。

臨時戦闘団名:光の軍勢

臨時戦闘団指揮:陸上自衛軍第106師団司令部

 陸上自衛軍第123普通科連隊本部、及び陸上自衛軍第106師団司令部が利用する無線周波数は、追って知らせる。以上、帝国陸軍第147歩兵連隊の勇戦を期待す。

OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS







「第58師団第51歩兵旅団、続いて第52歩兵旅団! 動きます!」

「第48戦車大隊、補給完了」

「よし第147歩兵連隊(われわれ)も出る。第1中隊から渡河し、橋頭堡を確保しろ。第48戦車大隊の花道をつくってやるんだ」



 自動車化歩兵連隊は対BETA戦において、あまりにも軟過ぎる人類の剣である。その悲惨さ足るやとても語り尽くせず、攻勢でも防戦でも撤退戦でも犠牲者を多く出すのは、前線の歩兵と相場が決まっていた。第147歩兵連隊も、上陸直後の遭遇戦と南進するBETA群に対する阻止戦闘で、既に多くの将兵を失っている。
 それでも彼らの士気は、高かった。

「撃て撃て撃て撃てえッ!」

「前進! そうだ、前進しろ! さっきの機械化装甲歩兵どもに、俺らの勇姿を見せてやれ!」

 帝国陸軍歩兵連隊は、対岸で戦う友軍を見捨てるような組織であってはならない。八代市庁舎の上で太刀を掲げBETAを斬り棄てる新型戦術機と、それを援護する見慣れた撃震、そして直協する機械化装甲歩兵の姿を見て、将兵達は自分が安全圏にいることに安堵しつつも、どこかで「これでいいのか?」と考えていた。対岸には未だ市民が残っていることは、大局を知る権限のない一兵卒でも分かっていたし、前川・球磨川以南で逼塞していれば、彼らを助けることが出来ないことも理解していた。友軍を助けることが出来ない、歯がゆさもある。僅かでも安堵感を得た自分に、嫌悪した兵士もいた。
 そうしてフラストレーションが溜まっていたところに、遂に前進の命令が下った。

 機械化歩兵装甲もない、歩兵戦闘車もない。
 期待出来る援護は、歩兵連隊持ちの迫撃砲だけという有様。
 どこまでもただの自動車化歩兵連隊が、敵地に斬り込んで往く。
 対BETA戦史上初かもしれぬ、自動車化歩兵連隊単独による肉薄突撃・敵中突破。彼らが往くそれは常識で考えれば、死・全滅と通ずる道であろう。だが、この日彼らは、勝利への道をひた走っていたのである。



―――――――



 神々は遂に集った。
 太古の昔"あしきゆめ"を相手取った総力戦たる悲しみの聖戦当時には勿論、ふた月前の火の国(熊本)における一大決戦よりも駆けつけた神族の数は少ないが、僅か一刻と少しで往来を埋め尽くすほどの神族が集ったのだ。これはやはり醜悪なるものどもの闊歩を、人族に味方するしない以前の問題として、到底看過することは出来ないからであろう。
  悲しみの聖戦に参加した経験もある、英雄にして戦神、猫神族のブータニアス卿の子――スパルタクスは、天翔る巨人に付き添っていた兎神に問うた。

「其方はどうであった」

 第58戦術機甲大隊第2中隊機にしがみつき、BETAにたっぷりと鉛弾を喰らわせた兎神は、自身の愛銃に拳銃弾を詰め直していた。空翔る巨人に張り付かなければ、敵中で弾切れに陥り立ち往生するところであった、と彼はおもったほどだ。巨人自体も何度か危うい目に遭い、絶技を使用するべきか、と考えたことも一度や二度ではない。

「……天翔る異形の巨人は、我らが知る巨人族とは何もかも違う。いくさぐるまのようなものだ、何の神格も感じられん。だがこの"あしきゆめ"に引導を渡してやらんとする思いは、同じであろう」

 鋼鉄の甲冑を身に纏った巨人からは何の神格も感じられず、瞳はなるほど、青い半透明な覆いに隠されている。恐らくその瞳自体は、"よきゆめ"も"あしきゆめ"も宿していない。つまり御者の意思によってその立場を変えるのであろう。だが少なくともいまは人族側に立ち、"あしきゆめ"と対峙している。

「そうか」

 スパルタクスは自身の武楽器を振るうまでもなく、手近の化生を八つ裂きにした。血飛沫が路面を汚し、肉塊がぼとりぼとりと落下する。
 こやつらはなんだ、とスパルタクスはおもう。絶望と静止そのものである"あしきゆめ"、その顕現たる幻獣はこの世の繋がりが絶たれれば、またこの世ならざるところへ還るのが常。だがこやつらは斃れ伏しても、まだこの世に骸を曝している。これはどういうことだ?

「スパルタクス、そろそろ狼煙をあげてはどうだ」

 思考していた猫神に、鳥神族の一柱が話しかける。スパルタクスが顔を上げると、案の定頭上には、血気さかんな古参の雀神の雀之児従四位下左衛門督がさえずっていた。彼は空よりの物見だけには飽き足らず、片っ端から地を這い蹲る化生どもに襲い掛かっていたが、まったくもって溜飲は下がらないらしい。
 それを聞いた神族たちも応、応と声をあげた。

「もう役者は揃ったであろう」

「応とも、ブータニアス卿にいつまでも頼るわけにもいくまいて。今日こそは我ら聖戦を知らぬ若輩者も、希望の担い手となり、"あしきゆめ"を折檻しようではないか」

「見れば川を渡りて、数千の人族も我らの旗の下に馳せ参ずる趣。この戦、人族には決して後れはとれぬなあ」

 同調能力の低い人間が傍から見れば、ただ動物たちが威嚇の声をあげているだけにしか聞こえないであろうが、それでも憤怒の感情だけは感じ取れるはずだ。
 これは心根より出でし、真の言葉である。いまこの"あしきゆめ"を屠らずして、いつ屠るというのか。この醜悪なるものども、混沌呼び寄せんものどもをあと一刻もこの地上に生かしておくことも我慢ならない。

 スパルタクスは、口の端を歪めて微笑すると後ろ足で立ちあがり、前足を振るった。脱けた一本の毛が宙を舞ったかと思えば、一秒掛からずそれは彼の得物、"鼓杖"へと姿を変える。それを右前足で器用に掴んだ猫神は、鼓杖で地をついた。
 ぼんっ、と杖の先端についた小さな鼓が、打たれたような音を立てる。
 それが、神々を統率する号令となった。

「ならば武楽器構えられたし! 先陣は我ら猫神族が戴くぞ!」

 スパルタクスに続く猫神がそれに倣い、同じく鼓杖を構えた。ぼんっ、ぼんっとリズミカルに打たれる鼓。未だ武器と楽器が分離していなかった時代、戦闘と歌唱が深く結びついていた時代より受け継がれてきた神々の得物は、音を反響させながらこの戦場に清浄なる空間を作り上げていく。同時に兎神達が、己の火器を上空に向け信号弾を打ち上げた。幾千本もの閃光は曇天の空を貫き、一時的に八代一帯に光を取り戻す。
 猫神の鼓杖と兎神の信号弾は、世界の意識子、情報子、霊子、精霊、数多の別名をもつリューン――一言で言えば、「世界そのものの意志」を行使する絶技戦の合図であった。そしてもう一度、否、何度でも、地に希望を、天に夢を取り戻す、臨時戦闘団光の軍勢が作戦開始の合図でもあった。

「犬神族(われら)はその脇を固める」

「猫神族は多くの英雄・戦神を生む武神の集まり。先陣は譲ろう。やむをえん、討ち洩らしは我らに任されよ」

 猫神族が先鋒、その脇を猫神達に追随する犬神族が固める先頭集団が前へ。次鋒は絶技は不得手であるがその腕力では、神族一の猿神族と銃器を取り回す兎神族が並び、先頭集団が討ち洩らした化生を倒す構えだ。鳥神族は上空からの援護。その他の神族は数こそ少ないが、鼠神、大神、蛇神、蜘蛛神、蟲神、蛙神、亀神、馬神、牛神、猪神、山羊神、象神、熊神――人里、山、ひいては遠国の動物園より参陣している。
 まさにこの世界、生きとし生けるものの総力戦に相応しい陣容であった。
 前途にわだかまるは、幾千の敵。その向こう側では、人族と巨人族が万の敵を相手取る。彼らと合流するには、目の前の敵陣を貫き、駆逐して往く他ない。スパルタクスは、最初からそのつもりでいた。
 "あしきゆめ"はようやく、彼ら光の軍勢を敵、あるいは障害と見做したようであった。白・赤・緑、けばけばしい色彩が湧き出しては、対抗するかのように密集陣形をとりはじめる。神族はそれをにらみつけた。
 お得意の蹂躙突撃か、ならばよい。
 居並ぶ神族はいっせいに、歌を編みはじめた――"あしきゆめ"、きさまらが大手をふって歩けるのも、今日までだ!

「それは深き絶望にて残る一握の希望」

「それは深き闇に燦然と射す一条の光」

「この大地の生きとし生けるものよ、万物の精霊よ! 歓喜せよ! 我ら光の軍勢が、世界の最終防衛機構としての役目を果たさんと戻ってきた!」

 あらゆる神族の合唱を前に、結集を終えた"あしきゆめ"が、畏れもせず雪崩をうって前進を開始した。人家を破壊し、電線を断ち切りながら押し進む先頭は、緑の巨体。その足元を固めるのは、厭らしい赤と白。少し奥には海坊主のような、巨大な化け蜘蛛もみえる。それでも神族は怯まない。神族にとってはこの一戦、再来した光の軍勢の初戦だ、寧ろ敵に不足はないであろう。

「猫、第一撃用意!」

 スパルタクスの絶叫とともに、猫神族が協力し、世界を形作らない攻性リューンを使役して、"あしきゆめ"の軍勢と光の軍勢、彼我の間に絶対物理防壁を作り出した。攻撃的な性格をもつとされる攻性リューンを、防御に転用することは本来難しいとされる。だが彼らは無為に、戦後の時を過ごしていた訳ではなかったのだ。
 厚さにして1mm、だがあらゆる物理干渉を遮断する、不可視のシールドが形作られ、何もわからないまま緑の巨体がそれに激突していく。重量数十トン、時速約200kmの物体が衝突しても、シールドは身じろぎもせず、彼らを跳ね返した。

「猫前進!」

 むしろ赤(ビアナ)のオーマに属する猫神族の本領は、ここからであった。
 絶対物理防壁によって敵勢を抑えるや否や、スパルタクスの号令の下、彼らは横隊のまま空中へと駆け上がり、その不可視の障壁を自身に纏わせる。

 そして、シールドを前に押し立てての、最大加速敵中突撃。

 猫神一柱、一柱が砲弾の如き速度で緑や赤の色彩に突っ込み、その装甲を拉げさせ、潰し、遂には押し退けてしまう。絶対物理防壁を展開してからのシールド突撃は、猫神族の十八番(この戦術を生み出したのは、グレーター招き猫)であり、"あしきゆめ"が絶対物理防壁を破る手段をもたない以上は、この戦術は非常に有効。猫神族が、大抵の戦で先陣を務める理由は、ここにある。
 猫神族が、"絶対物理防壁展開"、"バレルロール"、"シールド突撃"の絶技連続使用によって抉じ開けた風穴を、雷球をぶん回す犬神族が支え、後続の神々が討ち洩らした"あしきゆめ"に引導を渡していく。惜しげもなく繰り出される絶技の数々。熊神が吼え爆速突撃、"あしきゆめ"どもを一掃したかと思えば、牛神が茨や鎖を作り出し、敵を絡めとっては廃墟へと叩き込む。

 戦、というよりは蹂躙に近かった。この程度の敵勢に手こずるようでは、生命を守る最後の一線、世界の最終防衛機構、正義最後の砦としては落第だ。世界の意識たるリューンも荒ぶっていた。人を喰らい、動物を喰らい、植物を喰らい、大地をも喰らうその所業に、リューンは憤怒しながらも何も出来ず、己を使役する者が現れるのをずっと待っていたのだ。
 この日BETAは初めて、全炭素生命体の憤怒と相対することとなった。



「人々が寝静まる夜を守り、人々が覚醒す朝に消える我らだが、今日よりは無休!」

「我ら生まれは違えども、心はひとつ――相違ないな! 力を貸すぞ、小童ども!」

 前川・球磨川を渡河したはいいが、未だ多く残る小型種の群れを前に、ともすれば前進を挫折しそうになる帝国陸軍第147歩兵連隊の将兵達の大半は、そんな空耳を聞いた。声を聞いた歩兵が慌てて周囲を見回しても、前方には兵士級と闘士級の群れ、両隣、後背には見るまでもないであろう、荒い息を抑えながら、89式小銃を構える友軍兵士しかいない。
 他にはBETAや歩兵の合間を駆け抜ける、犬猫の姿くらいだ。動物とて必死であろう、BETAは基本的に兵器を運用する人間を攻撃の最優先目標とするが、最後には動物達も闘士級や戦車級の餌食となり、突撃級に踏み潰されてしまう。当座生き延びたとしても、BETAの占領地は不毛の大地となる以上、絶滅は免れない。
 うまく逃げろよ、と誰かが呟いたとき、目の前のBETAの横陣が崩れた。闘士級も兵士級も、まるで見えない壁にぶちあたったかのように前進を止め、あるものは転回してこちらに背を向ける始末。

「馬鹿! 好機だ、撃て撃て撃て撃てえ!」

 一瞬戸惑いを見せた兵士達も、下士官の怒号によって我に返り、小銃弾と機関銃弾を機能不全に陥ったBETAの群れに撃ち掛け、死骸の山を作りあげる。
 不思議なこともあるもんだ、と思ったひとりの伍長は、次の瞬間には5,56mm小銃弾のシャワーの中を運良く生き残った数体の闘士級が、死骸の合間から顔を出すのを見た。
 まずい、あれを撃て、と周囲に注意喚起する前に、彼ら闘士級は数回勢いをつけるように小跳躍し距離を詰め、一気に歩兵の頭目掛け、大跳躍をしてみせる。伍長は、空中で鼻を振り上げる一体の闘士級と、視線があった。咄嗟の出来事に身体が反応しない。死ぬ――と伍長が確信したとき、空中で小さな影がぶちあたり、闘士級は路上へと墜ちた。見れば他の闘士級も、地面に叩きつけられ起き上がろうとしたところを、小銃弾で射抜かれている。
 半ば放心状態で、自身を狙っての攻撃に失敗した闘士級を撃ち殺した伍長は、どうも今日は幸運に恵まれすぎている、と思った。

「前進しろ! 前進!」

 下士官達があちらこちらで怒鳴り、歩兵達は一歩一歩確実に前進する。
 戦闘終了後、彼らの多くは自身が体験した奇跡を語り、まるで何かに後押しされていたようだ、とも語った。ともあれ彼らはこの日、機械化歩兵装甲をもたないにも関わらず、敵を駆逐しながら前進し続けた。戦死者は出なかった。史上稀にみる偉業を、彼らは成し遂げた。







―――――――



(歴史的補講)

 7月9日1130時。八代海及び八代市一帯において、急激な天候回復が認められた。帝国海軍連合艦隊第四艦隊は、光線級の照射圏にある八代海へ一路突入、洋上より艦砲射撃を開始。旗艦のミサイル巡洋艦「鹿島」以下、駆逐艦等の小艦艇から成る第四艦隊は、決死の覚悟でこの任務に臨んだが、光線級は別方角を照射し続け艦艇を無視、損害は発生しなかった。
 ちなみに1200時より1300時、艦砲射撃と陸上部隊によって放たれた砲弾の光線級迎撃率は僅か4%であり、光線級が八代海に遊弋する第四艦隊所属艦艇でもなく、降り注ぐ各種砲弾でもなく、何を目標として照射を行っていたかは、戦闘終了後も明らかになることはなかった(一部将兵は、途中でレーザーが屈折したと証言している)。

 1200時には、帝国陸軍第48師団及び第50師団所属部隊が八代市街へ突入、臨時戦闘団光の軍勢と共同で、BETA掃討を開始。
 1300時、帝国陸軍西部方面軍司令部は指揮系統を回復(同時に不正な命令によって編成された、臨時戦闘団は解散)。現状の再確認が行われつつも、八代市内のBETAは一部小型種を除いて掃討が完了しており、1500時に上級司令部は各師団に、球磨川以北に残る市民の避難誘導と、中部防衛線の再構築を指示した。

 本土防衛軍は約700名(帝国軍人戦死・行方不明者数)の犠牲と引き換えに、八代市街で破壊行動を行っていたBETA約11000の掃討に成功した。人類史上、稀にみる歴史的圧勝。だが前線将兵は、この勝利を手放しに喜ぶことは出来なかった。八代市民の死者・行方不明者は万単位となり、前線部隊内では前川・球磨川以南に部隊を留め、戦力を温存しようとした上級司令部の姿勢に対し、戦略的・戦術的には頷けても、やはり疑問を抱く者も現れていた。

 一方で陸上自衛軍第123普通科連隊は、この一戦で携行弾薬を全て使い果たし、一旦中部戦線を離脱し南下、学兵部隊が収容されている高等学校にて補給を受ける必要性が生じていた。
 また陸上自衛軍第106師団司令部及び九州軍総司令部では、現状の把握と八代市街より分派し、北上する2万のBETAを食い止める為の防衛線の構築を急いでいたが、帝国陸軍側の前線部隊とのトラブルもあり、部隊移動が捗らない。帝国陸軍との連携は、もはや避けられないことは明らかであった。帝国陸軍第123歩兵連隊や緊急逮捕した帝国軍憲兵より得た情報から、早急に日本帝国との接触をとるべく、林凛子九州軍総司令以下生徒会連合の人間は行動に出ようとしていた。

 しかしながら人神一体の奮戦も未だ大局には影響を与えず、九州戦線全体を見れば、未だ人類劣勢は変わらない。帝国陸軍は北部九州で約7万のBETAを相手に後退を続け、帝国海軍連合艦隊は荒天の影響から、思うように洋上からの支援が出来ずにいる。また中部九州に着上陸後、早々に八代市街を出て北上を開始したBETA群2万は、宇城地区(宇土市・宇土郡・下益城郡の総称)へ侵入。――その宇城地区を抜ければ、そこはもう日本国陸上自衛軍の本拠、熊本市である。

 そして7月9日1500時、中国地方に激震が走った。







―――――――
 リタガン18話の影響を大きく受けています
 以下考察







 士魂号M型(99式士魂号)は7月9日時点では、約50機前後が運用されている設定です。図書館資料によれば総生産数は192機、完成数は51機。熊本戦中に完成した51機の多くは少なからず損傷を受けたはずですが、熊本戦後に未完成機を解体し、共食い整備させることで、多くの士魂号を戦線復帰させることに生徒会連合は成功した……という想定をしています。また士魂号パイロットは、熊本戦を愛機と共に戦い抜いた猛者揃いなので、かなりの錬度でしょう。
 
 第5世代は、市井に紛れ込んでこちらに転移した可能性があります。といっても何か強い影響力をもっている訳ではなく、イメージ的にはリタガンに登場した幻獣共生派グループのリーダーを務め、後方撹乱に実体化するといった働きを見せる程度です。図書館資料にあるような、1万の大型幻獣と1億の中小型幻獣の群れを率いたりするような化物は、野放しにはされていないという方向で(あるいは芝村が匿っている)。

 NEPについて考えたのですが、「この世界で使用出来るのか出来ないのか」、よりも「BETA相手にNEPを使用しても構わないのか」という問題も大きいことに気がつきました。幻獣はその特性上、幾らNEPの標的にしたところで何の憂いもありません。幻獣はどんな世界に転移させようが、転移先では黒い月との繋がりが絶たれますから、すぐに消失するからです。しかしBETAの場合は――仮にNEPを本編中に登場させるならば、この問題を扱うことを、避けては通れません。
 NEPと関連してこの第5世界、PBEの開発・製造は為されていることにします。ゲーム原作中ではブレインのような大型幻獣が出現しなかったこと、またあまりの非効率さから運用されなかっただけで、芝村の管理下で戦略兵器として死蔵されており、今回の転移に巻き込まれました。……賛否あると思いますが、そういうことにしておいてください。
 PBEはTVアニメ「ガンパレード・マーチ~新たなる行軍歌~」に登場する特殊兵器で、年齢固定型クローン(幼児)によって起動、一定時間が経過すると炸裂します。敷設方法は、士魂号2機掛かりによる運搬です。有効範囲は約2km程度でしょうか。G弾に酷似している兵器で、起爆後はマイクロブラックホール(のようなもの)が発生し、有効範囲内を呑み込んだ上、幻獣は勿論、地表の建造物をも消滅させる兵器です(原理も説明されてませんし、こんなことしか書けません)。


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