Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第9話 抹消された戦術機(前編)訓練部隊の午前中の訓練も佳境に差し掛かった頃、グランドに思わぬ人物がやって来ていた。「訓練中失礼します・・・白銀大尉、香月副司令が御呼びです」「ピアティフ中尉・・・珍しいですね貴女がこんな場所にいらっしゃるなんて。何かあったんですか?」「私も詳しい事は聞いておりません。急いで大尉をお連れするようにとの命令でしたので・・・」「そうですか、解りました。と言う訳で神宮司軍曹、後はよろしくお願いします」「ハッ!了解しました」そう言うと武はピアティフと共に急いで夕呼の執務室へと向かう。その時武はふと疑問に思う事があった。こうやって急に呼び出される時は、殆どの場合霞が連絡役を引き受けるケースが多い。何故霞では無くピアティフなのだろうかと考えていたのだが、それを察したのだろうか、彼女が口を開く・・・「・・・どうかなさいましたか大尉?」「い、いえ・・・こう言う時って大体霞が連絡に来ることが多かったもんで、霞にも関係してる事なんでしょうか?」「彼女は今手が離せないそうです。何か別の作業を受け持ってるそうですよ」「あ~、そう言えばキョウスケ大尉達の訓練を手伝うとか言ってた様な気がするなぁ・・・」武は訓練開始前の事を思い出していた。今日はキョウスケ達の機種転換訓練が行われている。自分も参加しようと夕呼に言ってみたのだが、『アンタが居ても邪魔』の一言で参加させて貰えなかったのだ。「そう言えばこうやって大尉とお話するのは初めてですね」「・・・そう言えばそうですね」「・・・白銀大尉は不思議な方ですね」「どうしたんですか急に?」「いえ、その年齢で大尉になられた方ですから、きっと真面目で厳しい方だと思っていたのですが、ちょっと自分の思っていたイメージとは違うと言うか・・・」「なるほど、良く言われますよ」「すみません、変な事を言ってしまって・・・」「いえ、全然気にしてませんよ。それを言うならピアティフ中尉だって凄いじゃないですか。夕呼先生の秘書官なんですから」「私なんてまだまだですよ。いつも必死と言うか余裕が無いと言うか・・・」「そんな事無いと思いますよ。中尉が頑張ってくれるおかげで先生も自分の仕事に集中できるんだと思いますし」「ありがとう御座います大尉・・・一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」「何でしょうか?」「以前から気になっていたのですが、大尉は何故副司令の事を先生と?私の記憶では、副司令はどこかで教鞭を執っていたと言う話は聞いた事が無いのですが・・・」「ああ、その事ですか・・・」この時武はどうしたものかと考えていた。自分が何故夕呼の事を先生と呼んでいるのか・・・自身の記憶の中にある夕呼は別世界の彼の教師である。その記憶があるせいで彼女の事を先生と呼んでしまうのだが、この事をそのまま伝える訳にはいかない・・・「えーっとですね・・・昔、少しの間なんですけど先生の下で色々と勉強させて頂いていた時期があるんですよ。その時の癖で先生って呼んじゃうんです・・・本当は副司令とか博士とか呼ばなくちゃいけないんでしょうが、先生自身もあまり気にしてらっしゃらないようなんでついそのままに・・・」正直、彼自身これが通用するとは思ってなかった。現状で武が考えうる最良の策だと思い、とっさにこう答えたのであったが・・・「・・・なるほど、やはり大尉は凄い方なのですね」「どうしてです?」「新型OSの発案者は白銀大尉だと窺ってます。副司令の下で指導を受けていたと言うお話を聞いて納得がいったと言う訳ですよ」「いや、そんな大したものじゃ無いですよ俺は・・・」「そんな事ありません。私も技術仕官の端くれです、資料を拝見させて頂いてこう思いました。このOSなら前線の衛士の損耗率は大幅に下がるだろうと・・・もっとご自分に自信を持たれても大丈夫だと思います」「そ、そうですかね?」「はい!」彼女の意外な一面が見れた様な気がする・・・それが武の率直な感想だった。正直今までピアティフとこうして話した事は無かった。武の中の彼女は落ち着きのある、そして少し硬そうな人物・・・と言ったイメージだった。しかし、目の前の彼女は笑顔で自分にもっと自信を持てと言っている。この様に言われて喜ばない男は居ないだろうと彼は思っていた・・・「ありがとう御座います中尉。そう言って貰えるとなんだか俺も自信が湧いてきましたよ」「いえいえ・・・ってヤダ、私ったら上官に向って・・・申し訳ありませんでした大尉」「いえ、俺の方が年下ですし、どちらかと言うと俺も今みたいに接して貰える方が嬉しいですよ。階級が上ってだけで自分より年上の方から敬語で話されるのって何か肩がこりますし」「・・・そうですか?」「ええ、ですからこれからも気にせず今みたいに接して下さい」「解りました。でも時と場所は選ばせて貰いますね」「はい、これからも宜しくお願いしますピアティフ中尉」「こちらこそよろしくお願いします」そんな会話が続いているうちに気付けば夕呼の執務室の前まで来ていた。「失礼します。白銀大尉をお連れしました」「御苦労さま、貴女は下がってくれていいわよ」「了解しました」敬礼をし執務室を後にするピアティフ。「まったく、敬礼は良いっていつも言ってるのにねぇ・・・あら白銀、何か良い事でもあったの?」「え?なんでですか?」「随分と顔がニヤけてるわよ?ま、そんな事はどうでもいいわ・・・」そう言うと彼女は急に真剣な顔つきになる。彼女の表情から武は呼び出された理由がかなり深刻な内容だと言う事を察した。「先生、一体何があったんですか?」「・・・南部達の機体データの解析がある程度終了したわ」「そのデータに何か問題でも?」「データそのものに問題は無いわ。こちらとしても計画を進める上でかなり有意義な物を手に入れる事が出来たし・・・」「では一体何が?」「・・・そのデータの一部と第四計画に関するデータの一部が何者かによってハッキングを受けたわ」「な、なんですって!?」「巧妙にハッキングの後を改竄してあるけど、ほぼ間違いないわね」「先生落ち着いてますね・・・ひょっとして既に犯人の目星は立ってるとか?」「・・・まだ断定はできていないけどね。恐らく内部犯の犯行よ」「でも、かなりヤバいんじゃないですか?データが外部に漏れたりしたら・・・」「今の所は大丈夫そうね・・・基地内部から外部にデータを送信しようとすれば隠し通せるものじゃ無いし、もし持ち出そうと考えていたとしても、警備の連中の目を掻い潜って持ち出す事は不可能に近いわ」「・・・でもどうやってハッキングを?」「そこが問題なのよ・・・この端末は基地内の他の端末とは独立してるわ。それにアクセスするにはパスワードが必要になって来るし、そのパスワードに関しても定期的に変更している・・・パスワードを変更したのはアンタが来る前日、こんなに早く解読されるはずも無いでしょうしね」「・・・なるほど」ここで武はふと疑問に思う事があった。「先生」「何かしら?」「この部屋の端末から他の部屋の端末へのアクセスとかは可能なんですか?」「一応は可能よ、ただし常時接続可能と言う訳じゃないわ。何重ものプロテクトも掛けられているし、基本的にアタシ以外の人物がここから他の端末へアクセスする事は不可能と言っても過言ではない位にね・・・」「・・・と言う事は、相手がその回線を利用すれば外部端末からハッキングは可能なんじゃ無いんですか?」「無理よ」「何故です?」「その回線の使用にはS5レベルのセキュリティーを解除できる人物のIDが必要となって来るわ。アンタや南部達に渡したIDはS4レベルまで、それに情報閲覧に関するレベルは一般兵と何ら変わりないもの。それにS5レベルのIDカードは基地内部でも極限られた人間にのみ与えられる物・・・その全ての人間をアタシが把握している訳だから、使用すればすぐに分かるって訳・・・解ったかしら?」「でも、ハッキングの後は巧妙に改竄されてたんでしょ?」「ええ、そうよ」「じゃあ、そのIDを持っている人物の中でそれだけの事ができる人物が居れば可能なんじゃ・・・」「そう言う事になるわね・・・だから暫くは様子を見る事に決めたのよ」「その様子見の間に外部にデータが漏れたらどうするんです?」「その辺は既に手を打ってあるわ。基地内部からある特定のデータが送信されようとしたら即座にその発信源を突き止めウイルスプログラムが流れる様になっているわ。バックアップを取ってある可能性も否定できないでしょうけど、その時には既に遅し・・・保安部の連中にしょっ引かれているでしょうね」「なるほど・・・ある程度泳がせておいて時期が来たら捕まえると言う訳か・・・」「そう言う事・・・また何かあったらアンタにも知らせるわ。それからこの事は誰にも言ってはダメよ?」「キョウスケ大尉達にもですか?」「正直言うとね、アタシは彼らの内の誰かが・・・と言う線も考えているの」「エエッ!!」「彼らの中には潜入工作のエキスパートも居るわ・・・正直アタシのセキュリティーを破れるとは思っていないけど、警戒するに越した事は無いのよ」「でも、あの人達がデータを盗んだとしても何に利用するんです?俺には何のメリット考えられ無いんですけど・・・」「確かに、ね・・・でもね白銀、念には念を入れる事に越した事は無いわ。だから彼らにも内密で事を進めるのよ」「・・・解りました」「じゃ、次の話に移るわね」「まだあるんですか?」「こっちの話は直ぐに終わるわ。今日の夕方頃に例の試作機がロールアウトする予定よ。それでアンタにはその機体が完成次第それの調整をお願いしたいって訳」「意外と早かったですね。調整って基本的にテストか何かですか?」「今日は着座調整と簡単な稼働テストだけやってくれればいいわ。それからこれがその機体の資料。時間までにしっかりと目を通しておきなさい」そう言われた武は資料に目を通す。「・・・Type94K・不知火改型(仮)ですか?」「ええ、とりあえず正式な名称はまだ決まってないわ。改型って言うのは便宜上つけた名前なのよ」「なるほど、だから(仮)か・・・ざっと見ただけですけど、何か凄そうですね」「期待して良いわよ。詳しい事は後で整備班の班長にでも聞いて頂戴」「了解しました」「それから、南部に今日の午後からの訓練内容を変更する事を伝えて貰えるかしら?」「機種転換訓練じゃ無いんですか?」「アンタが来る少し前に叢雲の整備が完了したって連絡があってね。機種転換訓練も問題無さそうだから実機テストに変更した訳」「シミュレーター訓練も無しにですか?」「残念な事にこの基地に複座型のシミュレーターは今は無いの。手配はしてあるんだけど、納期が遅れていてね」「叢雲って複座型なんですね・・・って言うか名前も今聞いたところだし・・・」「あら、言ってなかったかしら?まあ良いわ、そう言う事だから頼んだわよ」「解りました。それじゃ失礼します」そう言うと武は部屋を後にしPXへと向かう。丁度時間帯は昼飯時だ。恐らく彼らもPXに居るだろうと考えたのである。・・・PX・・・PXでは午前の訓練を終えたB、C小隊の面々が食事に来ていた。「おばちゃ~ん、鯖味噌定食頂戴」「あいよっ!アンタはよく食べるからねぇ、サービスで大盛りにしといたよ」「やったぜ!サンキューおばちゃん」「なーに良いってことよ。午後からの訓練も頑張るんだよ」「了解ッス!」そう言ってアラドはトレーを手にテーブルへと向かう。「相変わらず良く食べるよなお前も・・・」「消耗したエネルギーを回復するには飯を食うのが一番ッスから」「それも一理あると思うけど、午後からは座学よ・・・お腹一杯で眠くなったりしたら困ると思うなぁ」「大丈夫ッスよクスハさん」そうは言ったアラドであったのだが、この後の座学で案の定寝てしまい一人腕立てを命じられてしまったと言うのはまた別のお話・・・暫くして武がPXへとやって来た。207訓練部隊の面々が食事をしていた事に気付いた彼はトレーを片手に隣の空いている席へ向かう事にする。「よっ、ここ座っても良いか?」「た、大尉!?」「ああ、敬礼とかは良いからさ・・・俺階級とかそう言うのお堅いの嫌いなんだよ」「しかし・・・」「あー、細かい事は気にすんなって。とりあえず先ずは飯だ飯」「はぁ・・・」そう言うと武は食事を始める・・・食事を続けながら彼は昨日の一件で自分も色々と考えさせられた事を思い返していた。武はC小隊の面々が戦う理由を知った。そしてB小隊の面々が戦う理由は既に知っている。しかし、皆の気持ちを再確認しようと考え質問してみる事にした。これによってそれぞれの理由を再確認し、より良い方向へと持って行きたいと考えていたのだ。「皆に聞きたいんだけどさ・・・守りたいモノって・・・ちゃんとあるか?」「どうされたんですか突然・・・」「・・・以前言っておられた、目的があれば人は努力できる・・・と言う話でしょうか?」「ああ、俺は2、3年ぐらい前まで自分の命が一番大事だと思ってた・・・確かに今でもそれは大事だ・・・けど、それを危険にさらしてでも守らなきゃならないものがある。一番守りたいモノが自分の命であってもなにか他の大切なものであっても・・・自分一人の力じゃ守れないんだ・・・」『『「・・・!」』』『・・・それをお前らが教えてくれたんだぜ』武はそう心の中で呟く。「強い意志と高い志を持った奴らが協力し合わなきゃBETAには勝てない。俺達の誰か一人が失敗して失うものは・・・そいつのものだけじゃ無いんだ」「・・・それ・・・わかります!」「だから、さ・・・皆にも一つのチームとして頑張って欲しい」「はい!!」「・・・そだね」「・・・うむ」「・・・そうね、がんばりましょう」彼女らB小隊に続き、C小隊の面々も頷く。武は自分の中にある昔の事を思い出していた・・・丁度良い機会だと判断したのか、皆との交流を深める為に彼はある提案をする。それは以前と同じ様な関係を気付く為の第一歩であった・・・「・・・と、真面目な話が終わったところで・・・だ」『『「?」』』「榊の事委員長って呼んでいい?」「ええ!?・・・ど、どうして今の話から突然そんな所に飛ぶんですか!?」「さっきも言ったけどさ、そう言うお堅い奴ってあんまり好きじゃないんだ。それにいずれは背中を預け合う戦友になる訳だろ?歳も同い年なんだし、お互い親近感があった方がいいじゃん」「・・・開き直ったな・・・」「冥夜、今更何言ってんだお前。皆が居ない時はお前だって俺の事タケルって呼ぶじゃねーか」『『「!?」』』「と言う訳で、榊は『委員長』、御剣は『冥夜』、珠瀬は『たま』、彩峰は『彩峰』って呼ぶからな。俺の事は『タケル』でも『白銀』でも構わないからさ。あ、できればたまにはタケルさんって呼んで欲しいかな?何となくその方がしっくりくるから」「・・・しかし、大尉」「んじゃ、『俺の前で敬語は使うな』って言う命令だって事にしよう。俺も常にそうしろって言ってるんじゃ無いんだ。俺たち以外の人間が居る時は敬語を使ってくれても構わないから。それにブリット達は既に名前で呼んでくれてるんだぜ」「そうそう、それなのに訓練中にタケルさんって呼んだら怒られるし・・・」「・・・訓練中に上官をあんな風に呼んだら怒られるのは当然」「そばには神宮司軍曹もいらっしゃいましたものね」「そうよね、あれは場を弁え無かったアラドが悪いわね」「うう・・・そっちの言い分が正しいだけに言い返せない・・・」アラドがそう言った直後にそんな彼を見て皆が笑っていた。彼が『笑うなよ』と反論したのは言うまでも無いが、そんな彼らを見て武は上手く打ち解けてくれたようだと安心する。「・・・そう言う事なら・・・解りました」「そうだな、今更かしこまる必要性は無いな」「・・・なんだか私、猫みたいですねぇ~」「・・・私だけ普通」「じゃあ、お前も慧って名前で呼ぼうか?」「・・・断固拒否」「そんなに否定しなくても良いじゃねぇかよ・・・」「・・・ところで白銀、さっき御剣に言ってた『皆が居ない時は』って言うのはどう言う事?」「え?」「・・・初めて訓練部隊に白銀が来た時も抱きついてたし、この前の夜もグランドで何か良い雰囲気だったし」「ゲッ・・・見てたのか彩峰」「・・・それはもうしっかりくっきりと」『最悪だ・・・あの時感じた気配は彩峰だったのか・・・ヤバい、どうする俺・・・」皆その話に興味津々と言った様子だ・・・そんな中冥夜の方へ眼をやると、彼女は真っ赤になっている。『オイオイ、そんなあからさまなリアクション取ったら変に疑われるじゃねぇか!』「タケルさん、二人は恋人同士なんですか?」『勘弁してくれアラド・・・何でそんな事を言うんだ・・・』「・・・ねえ、どうなの?」そう言った彩峰の表情はどこかニヤけている。どうやら彼女はこの状況を楽しんでいる様だ・・・『こ、コイツ、明らかにこの状況を、と言うより俺で遊んでやがる・・・下手な事を言ったら後々とんでもない事に発展しかねないぞコレ・・・』この状況を打破する為にどうするかを必死で考える武。冥夜に救援を求めようにも彼女は相変わらず顔を赤くしたままだ・・・覚悟を決めようと思ったその時、彼の眼に丁度PXへやって来たキョウスケの姿が映った。『ナイスタイミングだ大尉!俺は今、もの凄く神様の存在を信じたくなったぜ』そう心の中で呟くと彼は『急用を思い出した』と言い、大急ぎでキョウスケの元へと向かう。「逃げたわね」「逃げられましたですの」「ああ、逃げたな」「・・・でも大丈夫。もう一人の獲物がここに・・・アレ?」「御剣さんも居ませんよ?」「あ、あそこに!」「逃がすかよっ!」アラドはそう叫ぶと冥夜の腕を掴む。「ええい、放せっ放さぬかアラド!」「ダメッス。いい加減白状して下さいよ冥夜さん」「良いから放せっ!それにしても何と言うバカ力だ・・・振り解けんではないかっ!」「・・・御剣、潔く観念した方がいいよ」「そうですの、皆さんこの手の話には興味津々ですの」「くっ、タケルめ・・・まんまと一人だけ逃げおって・・・」「・・・二人で手と手を取って逃避行?」「違うっ!」「み、皆さん、御剣さんが可哀想ですよ」「そ、そうですよぉ」「・・・白状するまでは駄目」「もう、ブリット君も黙ってないでなんとか言ってよ」「そこで俺に振られてもなぁ・・・と言うか、止めれないだろこの状況じゃ」ブリットの言う通りこの状況下で止めに入れば今度は自分が何を言われるか分からない。それこそ今度は自分とクスハの事について色々と聞かれる可能性もある。そんな中、状況を見兼ねた千鶴が場を収めようとする。「いい加減にしなさいよあなた達!ここはPXなのよ・・・こんな所で大騒ぎしたら他の方々に迷惑になるじゃないの!」「・・・あんたの声が一番五月蠅い」「何ですってっ!」「ほら、榊も落ち着けって。確かにここで大騒ぎするのは良くないよな・・・」そう言って周りを見渡すと、PX内の目線がこちらに集中している。騒がせて申し訳ないという思いからか、そのまま皆大人しく席に着いていた。結局、冥夜は武との関係を白状させられる事になったのだが、『昔からの友人』と言う事で一応納得して貰う事が出来た。一部の人間は疑っているようだったが、千鶴の『これ以上の詮索は無し』と言う一言でこの一件は片付く事となった。・・・その日の午後・・・武から連絡を受けたキョウスケとエクセレンは指定されたハンガーへと来ていた。相変わらず整備員達が慌ただしく働いている。そんな中、彼らに気付いた班長が近づいてくる。「よう、あんた等が90式のテストパイロットかい?」「ハッ!南部 響介大尉とエクセレン・ブロウニング中尉です。よろしくお願いします」「ワシはここの整備班を預かっている班長の飯塚だ。よろしく頼む」「班長、これが我々がテストする叢雲ですか?」「ああ、既にOSも新型に換装してある。今回のテストは今後こいつを改良して実戦配備する為のデータ収集だそうだな」「はい、副司令からはそう窺ってます」「それにしてもなんだか他の機体とは雰囲気が違う機体よね・・・」「こいつはな、設計された当時は画期的な機体って事でかなり評価が高かったんだ・・・しかし、テストを行ううちに色々な欠陥が見つかってな。そんな訳で存在を抹消された可哀想な奴なのさ・・・」「・・・班長?」「おっと、すまねぇな・・・ワシはこいつの開発に携わってた事があるんだよ。こいつがまた陽の目を見る事になるなんて考えても居なかったんでな・・・」「そう言う事でしたか・・・」「そう言う事なら班長さんの為にも頑張らないといけないわねキョウスケ」「ああ、そうだな。ところで班長、隣の機体は例の新型機ですか?」「もうじき組み上がる予定だ。こいつは凄いぞ・・・スペックデータを見て年甲斐も無くはしゃいじまう程にな」「なるほど、これがタケルが言っていた新型か・・・」「見た目は不知火にそっくりだけど、そんなに性能が違うものなのかしら?」「こいつは帝国製戦術機を帝国の技術で強化、発展させる事を目的に開発されたそうだ。米国の技術を導入した弐型が気に入らないって奴らも居るんだろうな・・・まあ、ワシら技術屋にとっては関係ない事だが」「色々と事情があるのはどこも同じなのね・・・」「そう言う事だお嬢さん。それじゃあボチボチテストを始めるとするか・・・オペレーターは先に演習場に行って準備を始めているそうだから急いでやってくれ」「了解です」そう言うと彼らはハンガーに固定されている叢雲に乗り込む。その存在を抹消されていた戦術機・・・この機体が未来を掴む事が出来るかどうかはキョウスケとエクセレンの二人に委ねられる事となったのであった。あとがき今回はどうも上手く纏める事が出来ずに話が長くなってしまいそうだったので前後編とさせて頂きました。そのお詫びと言っては何ですが、ついにそのベールを脱いだ試作型戦術機『Type90・叢雲』の詳細を書かせて頂きます。Type90・叢雲正式採用が見送られた戦術機。帝国軍が第3世代純国産戦術機開発へ向けたノウハウ収得の為に陽炎をベースとして開発された戦術機の一つ。位置的には2.5世代辺りに属する。複座型として開発されており、前部座席が基本操縦を、後部座席が火器管制処理やナビゲートなどを行うようになっているが前部座席のみでも運用可能。防御性や耐久性を重視した設計で従来機よりも一回り大きい外観となっているのだが、基本的に現存の戦術機の手持ち兵装の殆どは使用可能。また専用の武装もいくつか装備されている。陸戦運用を主眼に開発されており、機動性を向上させる目的で脚部に無限軌道が装備されている。長時間の匍匐飛行による推進剤の消耗を抑える為に採用された無限軌道であるが、今までに無いシステムであった為にその扱いは極めて困難なものとなった。軽量化による機動性を重視した第3世代機の設計思想とは異なる事と、上記の無限軌道採用による機体の扱い難さ、コスト面、また現存のOSでの運用が困難などの理由で試作機が数機作られた時点で開発は中止となる。名前は東雲級駆逐艦二番艦、叢雲より。形式番号は自衛隊の90式戦車より拝借。武装腕部内蔵型36mmチェーンガン×2折り畳み式電磁粉砕爪(プラズマクロー)×2240mm迫撃砲×265式近接戦闘短刀×2この機体を考えた理由はいたって単純、『戦術機が航空機をモチーフにしているのなら戦車をモチーフにした機体があっても良いのでは?』と言った理由からです(笑)機体のイメージとしては、オルタ登場の陽炎に劇場版機動戦艦ナデシコに出て来たアルストロメリアを足して2で割った所に戦車っぽい物をプラスしてみた感じでしょうか。無限軌道やクローと言った装備はアルストロメリアから拝借しております。無限軌道は足裏からかかとの部分に装備されていて、ローラーダッシュが可能と言う事になっています。240mm迫撃砲は折り畳み可能で、74式稼働兵装担架システムにマウントして使用可能な他、主腕で持つ事で運用も可能と言う設定です。そしてこの機体にはさらなる秘密が・・・これは後々明らかにさせて頂きますね。そして、初のオリキャラ・・・と言うほどのモノではないですが、整備班の班長の登場ですwと言っても以前から登場していたんですが、今回登場させるにあたって名前を考えました。叢雲の活躍は次回の後編にて書かせて頂きます。引っ張って本当に申し訳ないですがご容赦ください^^;それでは感想の方お待ちいたしております^^