Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第12話 白銀の力「っ!・・・一体何がどうなっているって言うの・・・こんな事・・・あり得ないわ・・・」彼女は不知火のコックピットで現在起こっている出来事に対して驚いていた。彼女の名は『速瀬 水月』・・・A-01部隊伊隅戦乙女中隊所属の衛士で、同部隊のナンバー2であり突撃前衛長(ストーム・バンガード1)を務めている。模擬戦が開始されるや否や水月を含むヴァルキリーズの面々は、見た事の無い機体の動きに先程から翻弄されっ放しだった。そして、レーダーで相手の動きを追うのが精一杯と言う現状に彼女はイラつく・・・そんな中、その機体に対してあまり驚いていない人物が約二名・・・「あらあら、圧倒的ねぇ・・・」「まったくです。こうも簡単に5機も落とされるとは・・・」彼女達の発言が更に水月をイラつかせる・・・「ヴァルキリー11、ヴァルキリー12ッ!私語は慎め!」「・・・失礼しました速瀬中尉」「まあまあ、怒らないでよ水月ちゃん・・・怒ると折角の美人が台無しよ?」「・・・茶化さないで下さいエクセレン中尉・・・今は模擬戦中です。今回の模擬戦に参加する為の臨時的処置とは言え、現在は貴女もヴァルキリーズの一員です。ふざけて貰っては困ります」「ハイハイ、でも圧倒的って言うのは本当なんだから仕方ないんじゃ無い?」「そんな事は解ってますっ!」「・・・速瀬中尉、この様な所で言い争っていても仕方ありません。エクセ姉様もそれくらいにされた方が宜しいかと」「確かにラミアちゃんの言う通りね。そろそろ真面目にやらないと何にもさせて貰えないうちに終わっちゃいそうだし・・・」確かに彼女らの言う通りだ。このままでは相手に良い様に翻弄されたまま終わってしまう。水月は落ち着きを取り戻そうとする為にも今までの事を整理しようとした・・・数分前に開始された模擬戦・・・自分達の目の前に唐突に現れた敵機は見た事が無い機体だった。外観は不知火に酷似しているが、細部が異なっている。一目見て分かる違いは、機体背部に装備された跳躍ユニットだ。その機体を見たとき、今回の模擬戦はその機体のテストなのだという事が直ぐに解かった。だがその機体の周囲はおろか、演習場内にはその機体以外の敵機の反応は無い・・・と言う事は、相手はたった1機で11機の不知火全てを相手にするつもりなのだ。「・・・随分と舐められたものね」こんな事を言ってしまっていた自分を後悔する・・・相手の力量を見る前に舐めてかかっていたのは自分達だったのだ。何故この様な模擬戦が行われる事になったのか・・・それは夕呼からの提案だったのだが、敵の突発的な出現に対応する為の訓練としか聞かされてはいない。『Need to know』訓練内容を聞いたところで、こう返されていただろう。今回の訓練に関しては唐突な事が多すぎた。謎の戦術機の事もそうだが、模擬戦の為だけに見知らぬ人物が二名、臨時要員としてヴァルキリーズに配属された事も謎である。これに関しては、今回のテストに彼女らの存在が必要だと言う事は明かされたが、それ以上の事は聞いていない。二人とも自分と同じ階級と言う事だが、それ以上の事も伝えられていない。そんな状況でいきなり彼女達と足並みを揃えろと言われたのだ。そう簡単に行く筈も無い・・・そして時間は二日ほど前へと遡る・・・・・・夕呼の執務室・・・「ヴァルキリーズとの模擬戦ですか?」「ええそうよ。改型のデータ収集も思ったよりも早く進んでいるし、アンタもそろそろ慣れて来たころでしょうから問題無いでしょ?」「確かに機体の方には慣れてきましたけど、いきなり彼女達と模擬戦って言うのは・・・」「あら、不安なの?」「いえ、自信が無いとかそう言うのじゃありませんよ。改型って一応機密扱いなんでしょ?それなのにヴァルキリーズと模擬戦なんかやっちゃって良いのかと思って・・・」「なるほどね・・・今回の模擬戦は改型のデータ収集以外にも彼女達にアンタの機動を見せるという意味合いもあるわ」「XM3をヴァルキリーズの機体に搭載させる為にですか?」「そう、あの子達には口で説明するよりも実際に見せた方が速いと思ったのよ」「見せるだけなら映像や同じ機体で模擬戦をするとかでも問題無いんじゃないですか?確か前の世界でも映像やデータを見せてから納得させたって言ってませんでしたっけ?」「確かにね。でも今回は別・・・改型の性能評価も行わなきゃならないもの。その為には中途半端な衛士と模擬戦させるより、ヴァルキリーズと模擬戦する方がより良いデータが取れるわ。データに関しては帝国軍へも提出しなくちゃならないし、向こうを納得させれるような内容じゃなきゃ意味が無いって訳よ。それにアンタ、同じ機体で彼女達と模擬戦して勝てる自信あるの?」「・・・それだとちょっと厳しいですね・・・そう言う事なら解りました」「詳しい内容はまた後で連絡するわ。今日の所は下がってくれていいわよ」「はい」そう言うと武は部屋を後にする。彼が部屋を出た事を確認すると、夕呼は続いての企みを実行に移す為の行動に出ていた・・・・・・模擬戦開始直後・・・『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズ、間も無くターゲットが出現します。予定通り、これを撃破して下さい』『『「了解っ!」』』CPにてオペレーターを担当している『涼宮 遙』が現状を報告する。ヴァルキリーズの面々は、敵がいつどこから現れても良い様に二機連携(エレメント)を組んでそれぞれのポイントに待機していた。しかし、今回は隊長である伊隅が模擬戦には参加して居ない為、どうしても一人余ってしまう。その為、新任である七瀬、麻倉、高原達は三人で隊列を組んでいた。これは彼女達の力量を考慮した上で水月が指示を出していたのだが・・・『白銀、準備は良い?』「問題ありません。いつでも行けますよ」『そう・・・そろそろ時間だからタイミングはアンタに任せるわ。好きなように暴れてらっしゃい・・・ただし、機体は壊すんじゃないわよ?』「相手はヴァルキリーズですからね、その辺はなるべく努力します・・・」そう言うと武は一旦通信を終える。彼はレーダーに目をやると、ヴァルキリーズの配置を確認する。「9時方向に2機、正面に3、その奥に2、3時方向に2、後方に2機か・・・9時方向の機体は距離がある事を考えると、恐らく宗像中尉と風間少尉だろうな・・・動きから考えると正面の三機は恐らく新任だな。動きが微妙にぎこちない・・・まあ、考えててもしょうがないし、とりあえず始めるとするか」そう言うと武は、ペダルを踏み込み機体を跳躍させる。轟音と共に自らの機体の位置を晒すと、彼は正面にあるひと際大きいビルの残骸へと飛び移った。『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズ、今回のターゲットはその機体です。ターゲットの撃破が最優先ですのでよろしくお願いします』『『「了解っ!」』』『それにしてもたった一機とは・・・』「たった一機で私達11人を相手にしようだなんて、よっぽど腕に自信があるのか、それともただのバカか・・・随分と舐められたものね」『あの様な場所に居ては狙って下さいと言っているようなものですわね』「・・・一番近いのは七瀬達の班か、七瀬、麻倉、高原っ!そいつにありったけの弾を撃ち込んでやんなさい!風間はミサイルで援護、宗像、エクセレン中尉、ラミア中尉は敵機を狙撃しつつ接近、茜、柏木、築地は私と一緒に来なさい。奴を追い込んで包囲、せん滅するわよっ!」『『「了解っ!」』』水月の号令を受けてヴァルキリーズの面々はそれぞれ与えられた役割をこなそうと行動に移す・・・この時一部を除いて、これだけの圧倒的な戦力差なのだから直ぐに決着がつくと考えていた。そう、明らかに彼女らは油断していたのである。一番近くに居た七瀬達は、弾幕を張る事で相手の機体を足止めし、その間に水月達が接近するまでの時間稼ぎを行うべく射撃体勢に入る・・・轟音と共に突撃砲から発射される36mmが武の改型の元へと飛んで行く。武は機体を少し後方へ下がらせると、そのままビルの上から飛び降りた・・・彼は機体を反転させながら最小限の動作でそれらをかわすと、そのまま一気に跳躍ユニットを吹かして加速し七瀬達3人の目の前に着地する。そして一言・・・「遅いっ!」改型の突撃砲が火を噴く・・・一瞬にして3機の不知火を行動不能にすると、次のターゲットへ向けて機体を走らせる。「う、嘘・・・」「今のは一体・・・」「何が起こったの・・・」一瞬の出来事に対し、彼女らは何が起こったのか解らないでいた。戦術機が着地する時、姿勢制御の為のオートバランサーが働く為にどうしても機体が一瞬硬直する。彼女達はその隙を突こうとしたのだ。だが、目の前の機体は着地とほぼ同時にこちら側を攻撃していた。そして更に三機の状態を確認する前に次の行動に移っていたのである。一連の動作はとてもスムーズで、あまりにも見事なその機動に彼女達は唖然としていた。「そ、そんな・・・一瞬で3機も?」『茜っ!驚いてる場合じゃないよ。こっちに向かって来てる!』「っ!わ、解ったわ晴子、私が食い止めるから援護をお願いっ!」『了解っ!』突撃砲を構え、相手を牽制しようとする茜。柏木も支援突撃砲を構えると、彼女の動きにあわせ援護を開始しようとする。敵機が有効射程内に入るのを確認すると、柏木は躊躇する事無くトリガーを引く・・・しかし、相手の機体は遮蔽物を上手く利用しこちらの攻撃をすべて防いでいた。だが、それもこちらの計算の内だ・・・突撃砲で弾幕を張りつつ、敵機に接近する茜。このまま一気に距離を詰めれば仕留める事が出来る・・・彼女はそう考えていた。「涼宮と柏木か・・・相変わらず良いコンビだな。でもっ!」武はそう言うと、右手に持った突撃砲を少し前方の地面へ向けて乱射する。撒き上がる土煙り・・・そう、彼はその土煙りを利用し、相手の死角を作っているのだ。だが、これは逆の事も言える。この土煙りのおかげで相手から自分は見えないのだが、こちら側も向こう側が見えない・・・いくらレーダーやセンサーがあると言っても、こう接近した状況ではあまりあてにならない。無造作に突撃砲を撃たれるだけでも命中する可能性があるのだ・・・茜も柏木も相手は恐らく左右かそのまま前に来るかのどちらかだと考えていた。相手の後方に水月と築地の機体が接近してきているので、この状況下では後退し距離を取る事は考えにくい。普通に考えればそのどれかしか回避パターンは無い筈である。茜は兵装を長刀に変更し身構える。「晴子、相手が突っ込んで来たら私が仕留める。左右の場合は貴女が仕留めて」『了解。油断しないでよ茜』「解ってるわよ」だがこの考えが甘かった・・・通信を終えた直後に響き渡るブースト音・・・来ると確信した彼女らは、神経を研ぎ澄ませ、どちら側に現れても良いように体制を整える。しかし・・・「なっ!」『う、上から!?』彼女らは光線級の怖さを良く知っている。こう言う状況下で上空へ回避行動を取るというケースはまず考えられない。そんな事をすれば間違いなく光線級の餌食になるからだ。だが目の前の機体はそんな誰もが予想しなかった行動に出ている。普通に考えたならば相手の衛士は自殺志願者としか言いようが無い・・・確かに今は模擬戦だ。そう言った点から考えるのであれば、この様な回避行動もあるのかもしれない。しかし、目の前の機体は躊躇する事無く上空へと飛びあがっていた。この瞬間、彼女達は明らかに戸惑いを見せているのが良く解る。そして、その隙を見逃すほど武は甘くない・・・『ハッ!茜、下がってっ!』彼女が叫んだ時には既にもう遅かった。銃弾の雨にさらされる茜の不知火。そして、突撃砲を発射しながらも武は空いた左手で長刀を引き抜く。そのまま一気に距離を詰めると、目の前の不知火をすれ違い様に一閃・・・続け様に柏木の不知火も沈黙させられていた・・・「やられたっ!?」『そんな・・・』一瞬の出来事に彼女達は反応できなかった。油断していたとは言え、こうも簡単に落されるなど考えられなかったのである。「茜っ!柏木っ!こんのぉ!!」『は、速瀬中尉、落ち付いて下さいっ!!っ!クッ・・・』「築地っ!?」『だ、大丈夫です・・・左腕をやられただけですから・・・』武は柏木の機体を撃墜した後、そのまま後方に向けて威嚇射撃を行っていた。別に狙って撃った訳では無い。水月達との距離を取る為に無造作に乱射していただけだった。築地はそれに偶然当たってしまっただけなのだが、おかげで距離を稼ぐ事に成功する。「ふー・・・運が良かったな。現状で速瀬中尉を相手にするのはちょっと無理がある・・・もう少し数を減らさないと」現在ヴァルキリーズ側は11機中5機が行動不能、1機が損傷軽微と言ったところだ。数の上で考えるなら武の方が圧倒的不利である。速瀬と築地を同時に相手するだけならば、上手く立ち回る事で何とかなるかもしれない。だが、演習場のどこかに宗像や風間が潜んでいるまま彼女達と戦うのは得策とは言えない。なぜならば、常に周囲を警戒しなければならないのだ。目に見える位置からの攻撃ならば回避する事は可能かもしれないが、そこへ第三者の介入があった場合はそう言う訳にもいかない。そして、狙撃された場合はもっと危険度が増す。距離がある為に回避行動をとった際に目の前の相手に隙を突かれる可能性もあるのだ。「今の所確認できてるのは誰か分かるんだけど・・・この二機が気になるな。前の世界では俺達が配属される前に何人か居たらしいから、多分その人達なんだと思うけど・・・」彼は一番最初に確認したデータを見ていた。以前の世界の記憶を基にこの模擬戦に挑んでいる訳なのだからある程度動きを見ていれば誰が誰だか分かる。しかし、最初に倒した3人や築地、それから残る二機の動きに関しては情報が無い。幸いな事に相手が油断して居てくれた為、問題無く落とす事ができたわけなのだが、この二機だけは何かが違うと彼は感じていた。先に宗像や風間を落としたかったのだが、反応を捉えると直ぐにこの二機のどちらかが援護に入って来るのだ。狙撃や牽制もかなり上手く、なかなか此方側に追撃のタイミングを与えてくれない。「新任衛士って訳じゃ無さそうだな・・・伊隅大尉とも違うみたいだし、それに何だろうこの違和感・・・ちょっと試してみるか」そう言うと武はレーダーに映る一番近い反応を目指す。「・・・こちらに来たか。エクセ姉様、援護の方よろしくお願いしちゃったり・・・ゴホン、お願いします」『りょ~かい。あんまり無理しないでね~』「了解」ラミアの駆る不知火の視界に武の改型が映る・・・彼女は右手の突撃砲を構えると、後退しながら改型に目掛けて36mmを発射する。「クッ、良い腕だ・・・でもっ!」回避行動をとりつつ武も突撃砲で応戦する。しかし、相手の機体は遮蔽物を上手く利用しながら彼の機体をかわす・・・「このままじゃらちが明かないな・・・よしっ!」武は正面にラミアの不知火を捉えながら機体を左右に旋回させ相手をかく乱する。だがラミアは落ち着きながらそれに対処していた。「なるほど、良い動きだ。だがっ!」彼女はそう叫ぶと一気に上空へ跳躍する。「この状況で上へ逃げる?・・・ハッ!」とっさに回避行動に移る武。すると、先程まで彼が居た場所に数発の銃弾が着弾する。「ん~もうちょっとだったわねぇ・・・」『このまま仕掛けます。援護を』「おまかせ~」そう、ラミアは闇雲にジャンプした訳では無い。彼女は武の攻撃を避けるフリをしながらエクセレンの射線軸上に彼を誘導していたのだ。後少し彼女の存在に気付くのが遅れていたら間違いなく武の機体は損傷を受けていただろう・・・いや、下手をすれば直撃を受けていたかもしれない・・・それほどまでに彼女の射撃は正確だった。尚も射撃は続いている。そして改型のコックピット内に鳴り響く警告音。先程上空へジャンプしたラミアが長刀を構え斬りかかろうとしていたのだ・・・「クッ!そうは行くかよっ!」急いで武器を長刀に持ち変え、ラミアの斬撃を受け止める武。『流石だな、良い腕をしている』「ら、ラミア中尉?」接触回線が開かれた事で相手の衛士が誰かと言う事が解った・・・まさか模擬戦相手の中に彼女が混じっているなど武には考えられなかったのだ。それ以上に驚かされたのは彼女の腕前である。機動兵器のパイロットをしていたとは言え、先程までの彼女の動きを見ている限りでは機種転換訓練を終えたばかりの腕前だとはとても思えなかった。「な、なんでラミア中尉がヴァルキリーズに?」『私も居るわよタケル君』「え、エクセレン中尉まで?」『こんな事で驚くとは、お前もまだまだ青いな・・・』「クッ!」そう言いながらも彼女は攻撃の手を休める事を止めない。振り下ろされる長刀を受け止めるのがやっとの状態だ。少しでも気を抜けばあっという間に撃墜される。不意に彼女の機体が後ろに下がったと思うと、ピンポイントでエクセレンの援護射撃が飛んでくる。「クソッ!なんて連携の良さだ・・・このままじゃ囲まれる!」武はレーダーに目をやりながらそう叫ぶ。徐々にではあるが何機かこちらに向けて近づいて来ている。この状況で囲まれてしまえば間違いなくこちらの負けだ・・・しかし、目の前のラミアを何とかしない事には身動きが取れない。『随分と焦っているようだな・・・すぐに楽にしてやろう』『ラミアちゃん、それってなんだか悪者のセリフよ?』苦笑いを交えながらエクセレンはそう言うが、その射撃の手を休めている訳では無い。絶妙なタイミングでラミアを援護し続けているのだ・・・『・・・どうすれば良い・・・このままじゃヤバいぞ』武はその思考をフル回転させ、現状を打破するにはどうするかを考える・・・この状況を打破する方法は一つだけあるのだが、今後の事を考えるならばリスクが大きい。その方法とはリミッターを解除する事だ・・・だが、制限時間は3分。たった3分で残り6機の不知火を倒す事は厳しい。それ以前にリミッターを解除した改型の機動がどれ程のものかを彼は試していない。この状況で博打とも言える危険を冒すのは正直分が悪すぎる・・・リミッターを解除する以外の方法で目の前の二人を倒すしかないのだ。『これで終わりにさせて貰うっ!』ラミアはそう叫ぶと武に向けて機体を突っ込ませる。振り下ろされた長刀を何とか受け止めた武はとっさに思いついた方法を実行に移す。「こうなったら一か八かだっ!」武はそう叫ぶと武器セレクターを操作する。74式稼働兵装担架システムが前方へスライドしマウントされている突撃砲が火を噴く・・・『な、何っ!』突然の事に反応できないラミア・・・彼女のディスプレイには『動力部損傷により大破』の文字が映し出されていた。「このまま一気にっ!」4機の跳躍ユニットをフルブーストさせエクセレンの不知火に向けて距離を詰める武。その間も彼女は此方を狙撃して来るのだが、ラミアが落とされた事によって若干動揺しているのだろうか?先程までの正確さが嘘の様にブレている・・・そのまま勢いに乗せ長刀を振るうと彼女の機体も沈黙していた・・・『あ~あ、やられちゃったか・・・』「仕方ありません。それに香月副司令に言われた役割は果たせている訳ですし、後は残りの面々に任せちゃいましょうです・・・任せましょう」『そうね・・・後で水月ちゃんに何か言われそうで嫌だわ・・・』「ですが、白銀大尉の実力を測ると言う任務は達成してます。今回限りの配置ですし、後に響く事は無いと思いますが・・・」『ま、そうなんだけどね・・・』「ところで中尉・・・最後の狙撃、わざと外してましたね?」『あら、解ってた?・・・まあ、あんまり長引かせても駄目かと思ったのよねぇ~。それに気付くなんて流石はラミアちゃんねぇ、お姉さんは嬉しいわよ』「は、はぁ・・・」『とりあえず、残りの子達にデータを送信して見物と洒落込みましょうか』「了解です」そう言うと彼女達は端末を操作し、現在の細かな状況を伝える。「あの御二人さんもやられたか・・・梼子、どう考える?」『あの機体の動き・・・まるでこちらの動きを読んでいるような気がしますわね』「確かにそうだな・・・機体性能にも差があるのは解るが、それ以上にこちらの攻撃に対しての対処方法があまりにも正確すぎる・・・」『あの機体の衛士は我々の事をよく知る人物と言う事かしら?』「どうだろうな。偶然と言う事も考えられなくも無いが、我々の動きや癖などを把握している人物などそうは居ない。現状で考えられるのは伊隅大尉と神宮司教官ぐらいなものだが・・・」『と言う事は、美冴さんはあの機体の衛士は神宮司教官だと?』「それが分かれば苦労はしないよ・・・それ以前に神宮司教官にしては、機動が違い過ぎる・・・あの人はあそこまで無謀な動きはしないだろう?」『それもそうですわね・・・』「さて、御喋りはこの位にしよう・・・お客さんからのご指名だ」『援護は任せて下さいね』「頼りにしてるよ」改型に向け進撃を始める宗像と風間の2名。『ヴァルキリー4、フォックス・ワン!』「ヴァルキリー3、フォックス・スリー!」それぞれが友軍に注意を促しながら攻撃を開始する。風間がミサイルで武の足を止め、その隙に宗像が突撃砲で攻撃を仕掛ける。それぞれのポジションの特性を生かしたシンプルな戦い方だ。先程のエクセレンとラミアの攻撃パターンを応用しているようなものだが、二機連携での戦闘は戦術機運用の基本と言っても過言では無い。宗像は迎撃後衛(ガン・インターセプター)、風間は制圧支援(ブラスト・ガード)・・・二人は本来ならば前衛の援護に入るポジションである為、武の改型を前衛が撃ち漏らした敵と想定すればこう言う位置取りになるのだろう。「流石風間少尉だな・・・弾幕の張り方が絶妙だ。宗像中尉も次のミサイルが来るまでの時間を上手く稼いでいる・・・ミサイルの弾切れを待っていても良いんだけど、その間に速瀬中尉達が来るだろうなぁ・・・」そう呟きながらも、攻撃をかわし続ける武。相手が単純であれば彼のこの行動に対し、痺れを切らして突っ込んでくるのだろうが、彼女達はこの部隊でもかなり冷静な部類に入る。その為、間違いなく速瀬達がこちらに来るまでの時間を稼いでいると言う事が簡単に分かるのも事実だ。迂闊に距離を詰めて攻撃を仕掛けてくるなどあり得ないだろうと彼は思っていた・・・「そろそろかな・・・梼子、例の作戦を実行に移すぞ」『了解』彼女達の攻撃が唐突に止んだ・・・武は弾切れかと考えたが、そんなに早く弾切れが起こるはずも無い・・・それに二人揃って弾切れを起こすなど、普通に考えればあり得ない事だ。何かあると考えていた武であったが、ふと目の前に何かが落ちている事に気付く・・・「・・・不発弾?い、いや、これはっ!」その時、彼の耳に突撃砲の発射音が響く・・・「クッ!・・・やられたっ!まんまと誘い込まれたって言うのかよ」そう、彼の周囲には本来突撃砲に装填されている筈の120mm用の炸裂弾が転がっていたのである。そして現在、それらが風間の手によって的確に撃ち抜かれている・・・正確に言うならば、撃ち抜かれていると言うよりは衝撃を与える事で爆発させているのだが、まさにその光景は知らずに地雷原に立ち入ってしまったと言ってもおかしくは無かった。次々と炸裂弾が爆発し、彼の視界が遮られる。回避しようにも、不用意に回避行動をとればいつ足下の炸裂弾が爆発するか分からない。いくら訓練用の模擬弾とはいえ、爆発に巻き込まれれば被弾した事と同じだ。被弾してしまえばプログラムによってダメージを受けたと判定された部位は損害個所として認識されてしまう。前後左右と逃げ道を塞がれた彼の逃げ道は上空しか無い。こうしている間にも容赦なく攻撃は続く・・・「上手く掛かった様だな・・・仕留めさせて貰うよっ!」そう言うと宗像は武の改型に向けて突き進む。改型に向けてスラスター音が近づいてくるのが分かる・・・このままでは危険だと彼の勘が告げる。「そうは行くかよっ!」武は意を決して一つしか無い逃げ道である上空へ向けて跳躍する・・・「そう来るだろうと思ってましたわ」「何っ!」モニターに表示される被弾報告・・・どうやら、風間の狙撃によって肩部に装備されていたスラスターユニットが被弾したようだ。「このまま行かせて貰うっ!」長刀を引き抜き、改型に向けて跳躍する宗像・・・そう、二人は最初から彼の行動パターンを予測していたのだ。戦術機にはデータリンクを行う事で、戦術パターンの共有を行う事が可能である。彼女達二人は、今まで倒された仲間達のデータを基にタケルの回避パターンをある程度予想していたのだった。相手の視界を遮り、その一瞬の隙を突く・・・これは先ほど武が涼宮と柏木を倒した時に行った戦法を応用したものだ。予め逃げ道を一つに絞り込んでしまえば、ほぼ間違いなく上空へと回避行動を取るであろうと考えた彼女達の策が見事に決まったのである。「まだだっ!」こちら側に向かってくる宗像機を確認した武は、跳躍をキャンセルし急遽下降し始める。「なっ!そんな馬鹿なっ!」宗像が驚くのも無理はない。跳躍の途中で急降下など、普通に考えれば出来ないのである。そして武は地面に向けて突撃砲を放つ。次々と爆発する炸裂弾・・・足場を確保した彼は、着地するとそのまま跳躍ユニットを吹かし風間機へと突撃砲を放ちながら突貫する。突然の事に驚いていた彼女は成す術無く撃墜させられていた・・・そして直ぐに機体を反転させると、宗像の背後に回りこみ彼女の機体を行動不能に追い込んでいた・・・「・・・やられたか」『ええ、まさかあの様な方法で回避されるとは思いませんでしたわ・・・』「まったくだな。跳躍中に急降下など普通では考えられん・・・」彼女達がそう思うのは当たり前だ。従来のOS搭載機である彼女達の不知火はキャンセルや先行入力と言った概念が存在しない。跳躍中に姿勢制御を行う事は可能であっても、跳躍事態を急停止し更に急降下する事など不可能なのだ。この勝負の勝敗を分ける結果となったのは機体の性能差では無く、OSの性能だと言う事がこの一瞬の攻防から見てとれる。二人の機体を撃墜した武は、その場に留まる事無く次の目標へ向けて突き進む・・・「さっきのはヤバかった・・・流石に時間がかかってる分、相手にもこちらの手の内が解って来るか・・・」武は少々焦っていた。流石は伊隅戦乙女中隊と言ったところだろうか。彼女達はこの模擬戦の中でも成長を遂げている。データリンクを介する事で情報を整理し、それらを生かす事で戦況に応じて行動している。これは先程の宗像と風間を見ていれば解る事だ。恐らく、さっきの戦闘データは既に残りの2人にも伝わっているだろう。ここに来て武は、水月を後回しにした事を後悔しそうになっていた。「こんな事なら先に先任達を落としておくんだったな・・・まあ、今更愚痴っても仕方ないのは解ってるけど」そう考えているとモニターに『敵機接近中』の警告が表示される。レーダーを確認すると、速瀬機と築地機が後方に迫っている事が解った。「築地、何としてもあいつを落とすわよっ!」『り、了解です中尉!『あっという間に皆落されちゃった・・・わ、私に中尉の援護が出来るのかな・・・』』「・・・築地、大丈夫よ。普段の訓練を思い出しなさい・・・アンタなら出来るわ」『は、はいっ!』「よ~し、その意気よその意気!その調子であのムカツク奴をぶっとばすわよっ!」『了解っ!』そう言うと彼女達は36mmを放ち武を牽制する。操縦桿を小刻みに操作しながらそれらを回避する武。最大速度で言えばこちらの方が上なのだが大型のスラスターユニットを装備している分、小回りが利きにくいと言う弱点がある為に簡単に彼女達を引き離す事が出来ない。跳躍を行い一気に引き離しても良いのだが、既に回避行動パターンがある程度バレている為、迂闊にジャンプできないでいた。「築地、迂回ルートを使ってポイントA-05へ向かいなさい。そこへ私が奴を追い込むから、そのまま挟み撃ちよ」『了解です』二手に分かれる二機の不知火。武は本来ならば1対1の状況に持ち込めたこの有利な展開を生かすべきなのだろうが、水月は反撃の隙を与えようとはしない。36mmを乱射し、時折120mmも織り交ぜて攻撃して来る。下手に反撃しようにも、築地が何処に居るかが解らない現状で進行方向から目を離す事はあまり良い事では無い。最も警戒すべきなのは挟み撃ちにあう事だ。恐らく二手に分かれたと言う事は、それを実行する為の行動だろうと武は予想する。水月に対しては記憶からどう言った行動を取るかが考えられるのだが、築地に至っては全く分からない。ある意味今回の模擬戦でのジョーカーと言える存在かもしれないのだ。「流石は速瀬中尉、何とかして中尉の隙を作らないと・・・」武は現状を踏まえた上で相手の行動の先を考えていた。「現在の進行ルート、と言うか中尉が俺を追い込もうとしている場所は恐らくポイントA-05だな。あそこは両脇に廃ビルが沢山並んでて、殆ど一本道・・・左右への回避行動は著しく制限されるし、待ち伏せには絶好のポジションだ。もう一機の不知火は、多分新任だと思うんだけど、実力が解らない以上は速瀬中尉クラスと思って考えた方がいいな・・・アーッ!くっそー・・・解っていながら追い込まれてる自分が情けないぜ・・・」状況を把握しているのだが、打開策が見つからない。そして追い込まれているポイントとは違う方へ行きたいのだが、背後の水月がそうさせてはくれない・・・そうこうしている内にポイントA-05はもう直ぐそこだ。「どうする・・・このままじゃ相手の思うつぼだ・・・何か、何か無いのか・・・」次第に焦りが見え始めていた。「築地、聞こえる?後少しで追い込みが完了するわ。準備は良いわね?」『だ、大丈夫ですっ!』「よしっ!奴が射程内に入ったら迷わず撃ちなさい」『了解ですっ!』仕込みは万全、後は目の前の敵機を追い込むだけ・・・散々引っかき回された揚句にこういう勝ち方しか出来ないのは少々悔しいが、負けるよりはマシだと水月は考えていた。このまま自分達がやられてしまえば先に落とされたメンバーは犬死にと言う結果になる。『Never die in vain. 』決して犬死にするな・・・彼女達の隊規にある様に、彼女達にとってのそれは任務失敗よりも辛い事である。しかし、勝てると考えた時点で彼女は少なからず油断をしていた事に気付いていなかった・・・こう言う時に限って運命の女神と言うものは気まぐれに微笑むものであるのだ。ポイントA-05に差し掛かり、いよいよ万事休すとなってしまった武・・・それでもなお勝ちに行く為に彼は策を考える。そんな彼に二つの物が眼に入る・・・一つは築地の不知火。もう一つは彼女の機体の手前、廃ビルの側面に架かった看板だった・・・「っ!あれだっ!」彼はそう叫ぶとその看板周辺へ向けて36mmを発射する。着弾時の衝撃で崩れ落ちるビルの外壁と看板・・・それを確認すると同時に彼はフルブーストで跳躍を敢行する。そんな武を追う為に水月も跳躍を行おうとするが・・・「は、破片がっ!」目の前には先ほど彼が破壊したビルの残骸が落下して来ていた・・・そして武は跳躍とキャンセルを繰り返し、その破片を回避すると前方の築地機に向けて加速する・・・距離が開いた事によって水月は彼女のカバーに入る事が出来ない。そして築地は、ビルの破片で武の機体を見失っていた。反撃する間もなく沈黙させられる築地の不知火。「後は速瀬中尉だけだっ!」そう言いながら振り返ると、そこに彼女の機体は居なかった・・・いや、正確にはビルの残骸の向こうに居たのだ。彼女は武の機体を追って跳躍を開始した直後に落下する破片の存在に気付いた・・・回避しようにも跳躍をキャンセルする事が出来ずにその破片とぶつかってしまったのである。幸いにも機体本体へのダメージはそれほど深刻では無く直ぐにでも戦闘可能だったのだが、その隙を見逃すほど武は甘くは無かった。コックピットに響き渡るロックオンサイン・・・この時点で彼女の負けは決定してしまったのである。「チェックメイトですね速瀬中尉」『クッ・・・』彼女は何も言い返せないでいた・・・この様な無様な負け方をしてしまっては、仲間に会わす顔が無いと考えてしまう程に悔しかったのである・・・そして、模擬戦終了が告げられようとしていたその時である・・・「状況終了・・・っ!レーダーに反応あり、これは・・・」「どうした涼宮?」「データに無い機体がこちらに近づいてきてます」突然の事に対し戸惑っている彼女達に対し夕呼が通信を開く・・・『それなら問題無いわよ。それは次の模擬戦相手、今回の模擬戦は突発的な敵の出現に対応する為の物だって言ってなかったかしら?』「そ、それはそうですが」『ちょ、ちょっと待って下さいよ先生!聞いてませんよそんなの』『だから言ったでしょ?模擬戦に参加している以上、これはアンタにも適応されてるのよ』『そんな無茶苦茶な』また夕呼の気まぐれが始まったと武は思っていた。確かに改型の性能評価試験の為の模擬戦と聞いていたが、ヴァルキリーズ以外にそれを担当する者が居るなどと聞いてはいない。やっとの事で勝てたと言うのに、更に模擬戦を続けろと言うのだ・・・愚痴の一つも言いたくなるものである。だが、不意に開かれた通信相手の声を聞いた事で、彼のその様な考えは吹き飛ぶ事となる・・・『言いたい事はそれだけかタケル?』「き、キョウスケ大尉?」『お前も衛士ならば自分の置かれた状況を理解し、即座に頭を切り替えろ・・・それが出来ない奴は戦場で死ぬだけだ』確かに彼の言う通りだ。戦場に置いて戸惑いや迷いと言った感情は大きな弱点となる。武は頭を切り替えると、接近する機体に目を向ける・・・だが、その機体を見た事で彼は更に戸惑う事となる・・・「そ、その機体は・・・」『そう、彼の機体よ・・・だからアンタも本気でやらないと簡単に落される事になるわね』『そう言う事だ・・・本気で掛かって来いっ!』「・・・解りました・・・行きますっ!」彼の眼に映ったその機体・・・それは戦術機とは似て非なるもの・・・そう・・・「いきなりのぶっつけ本番だが、こう言う事には慣れている・・・生まれ変わったアルトの力、試させて貰うぞっ!」不知火改型VSアルトアイゼンリーゼの戦いの火蓋が切って落とされようとしていた・・・あとがき改型の模擬戦内容をお届けしました。何だかとても長くなってしまって申し訳ありません・・・上手く纏める事が出来ない自分が情けないですねTT今回登場したヴァルキリーズの新任衛士達はマブラヴエクストラなどからかき集めて登場して貰いました。恐らく彼女達が207A分隊のメンバーなのだろうと勝手に解釈しております。今回、ヴァルキリーズに臨時要員としてエクセレンとラミアを配属させた事には色々と理由があります。この事に関しては次回で詳しく書かせて頂くとして、アクセルはどこ行った?と仰りたい方もいらっしゃると思います。彼は今、別件で動いております。皆様から寄せられるアドバイスを基に奮闘しているのですが、上手く纏める力量が無い自分が情けないッスTT207C分隊の面々の活躍も色々と書きたいのですが、なかなか上手く行かないですね・・・表現方法についてもう少し勉強しようと思います。そして、最後に登場するキョウスケと改修されたアルト・・・これは以前から考えていたネタです。改修には戦術機のパーツとかき集めたPTのパーツが用いられております。こんな場所でアルトの存在を明かしてしまって良いのか?と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、その辺はきちんと考えております。詳しくは次回でと言う事にさせて頂きますが、正直受け入れられるかどうかが心配でたまりません・・・長々と書いてしまって申し訳ありませんでしたが、次回もお楽しみに。それでは感想お待ちしております。