Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第13話 激突!孤狼と白銀「あの機体は一体何なの・・・?この新型と言いあの赤い機体と言い、スペックが段違いじゃないのよ・・・」不知火のコックピット内で水月が呟く・・・模擬戦が継続される事となり、彼女達は一度自分達の機体を下がらせるよう指示を受けていたのだが、彼女はその場から動く事が出来なかった。目の前で繰り広げられている攻防に目を奪われそれどころでは無かったのだ・・・「これが、これがパーソナルトルーパーの力・・・いや、キョウスケ大尉の実力なのか・・・」『どうしたタケル、お前の実力はその程度か?これなら先程お前が戦っていたヴァルキリーズの方が良い動きをしていたぞ』「クッ!あんなに重そうな機体なのに、何だよこのスピードは・・・改型の速度について来れるなんて・・・」模擬戦開始直後から武は相手の速度に翻弄されていた・・・一見鈍重そうな外見からは想像もつかないような速度で目の前の機体は彼の改型に追従してくる・・・それ以前に相手の手の内が全く分からない。距離を取りつつ突撃砲で牽制しているのだが、全くと言っていいほどダメージが与えられない・・・ある程度距離が離れている為、通常より威力は低いかもしれないが、こちらの攻撃はすべて外れている訳では無い。何発か命中しているにも関わらず、目の前の機体はその速度を落とす事無くこちらに向けて距離を詰めようとしているのだ。「戦術機の装甲よりも頑丈って事かよっ!こんな相手どうやって倒せって言うんだ!」コックピット内で武が叫ぶ・・・突撃砲では有効打が与えられない。距離を取り過ぎていると言う事も一つの理由なのだが、相手がどの様な攻撃を仕掛けてくるか分からない以上迂闊に近づく事は出来ない。この様な膠着した状態が続いている事が彼をイラつかせている原因の一つでもあった・・・「あらあら、うちのダーリンったら手加減なしね」『ですが、現状でアルトアイゼンは100%の力を出す事ができません。本来のアルトなら開始早々決着がついていると思っちゃったりなんか・・・思うのですが』「そうね・・・それにしてもアルトちゃんったら、前にも増してゴツゴツした機体になったわねぇ・・・差し詰めフリッケライ・アイゼン(独語で継ぎ接ぎだらけの鉄)と言ったところかしら?」『戦術機のパーツで足りない部分を補っているそうですからそれも仕方ないのでは?』「私のヴァイスちゃんもあんな風にされちゃうのかしら・・・私って結構面食いなんだけどなぁ~」『は、はぁ・・・』そんなやり取りが続いている間も武とキョウスケの戦いは続く・・・今回の模擬戦は夕呼の提案なのだが、これには色々と理由があった。一つ目はヴァルキリーズの機体にXM3を搭載するにあたって、その概念実証と従来機との違いを見せつける為。二つ目は改型の性能テスト。三つ目は『白銀 武』の実力を測る為・・・実はこの三つ目の理由が重要なのだ・・・この世界の彼は数多の世界に散らばる『シロガネ タケル』と言う存在の経験と記憶を引き継いだ存在である。と言う事は、『香月 夕呼』自身の記憶にある『白銀 武』と全く同じと言う訳ではないのだ・・・確かに以前の世界では彼の存在が計画成功に繋がったと言っても過言では無い。しかし、この世界の『白銀 武』が彼と全く同じ事が出来るとは言い難いのである。武は戦術機の操縦に関してはヴァルキリーズと同等かそれ以上の腕前を見せている。だが、言い換えればそれは経験と記憶のなせる業であり、この世界の彼の本当の実力とは言えないのだ。そう言った意味で彼女は今回の模擬戦を思いついたのである。先ずヴァルキリーズと戦わせ、これに負ける様であれば彼の現状での実力はその程度だと言う事だ。ヴァルキリーズを退けたならば彼の実力は彼女達以上・・・そして、更なる相手をぶつける事で彼の上限を測ろうという考えだった。その為には更なる猛者をぶつけなければならない・・・現状で考えられる者と言えば数は限られてくる・・・自分の手持ちの駒でそれが可能な者と言えばキョウスケ達しか居なかったのである。しかし、キョウスケ達がいくら機動兵器の扱いに慣れているとは言え、スペックの劣る不知火で相手をさせる事は無謀だ。そこで今回の模擬戦を思いついた時点で、何としてでも模擬戦までに彼のアルトアイゼンを使えるようにしなければならないと考えた。不知火のパーツを用いて修復作業を行っていたのだが、ここに来て難問にぶち当たる事となる・・・機体の重量だ。アルトアイゼンはその両肩に装備されているクレイモアによって機体重量がかなり重い部類に入る。不知火では満足のいく状態に持って行くどころか、機体重量を支える事が極めて困難と言う結果になったのである・・・そのアルトアイゼンが何故模擬戦に参加する事が可能となったのか?それを語る為に話は少し前へと遡る・・・・・・叢雲性能テスト終了後・・・夕呼は悩んでいた・・・改型の模擬戦までに何としてもアルトアイゼンの修復を完了したいと考えていたのだが、重量問題を解決する為の策が思いつかないのだ。バックパックの改修プランは問題無いのだが、機体の重量を支える為の脚部が使えないとなるとそれも無意味になる。それなりの知識はあっても彼女は元々戦術機の専門家では無い。これ以上無駄な事に時間を割きたくは無いと言うのにそれが理由でイライラしていた・・・「失礼します」ノック音が部屋に響くと共に執務室へとキョウスケがやって来る。「副司令、叢雲の報告書をお持ちしました」「その辺においといてくれる?」「・・・何かあったのですか?」「・・・別に何でもないわ」「そうですか・・・少しお話したい事があるのですがよろしいでしょうか?」「何?」「本日のテストで思いついた事があります」「・・・どう言う事?」「テストをしていて思ったのですが、叢雲の脚部パーツ・・・特に無限軌道はかなり使える物だと判断しました。一応報告書にも記載しておいたのですが、自分としてもなるべく早く慣れ親しんだ機体を使いたい・・・そう思って早めに伝えるべきと判断したのですが・・・」彼の話を聞いた夕呼の表情が変わる・・・「・・・ったく、アタシとした事が何故その事に気付かなかったのかしら」「は?」「パーツよパーツ!叢雲の脚部パーツよっ!そうよ、あれなら上手く行くわ!元々あれだけの重量の機体を支えれる脚部ですもの、これを使わない手はないわね・・・だとすると問題は関節部分よね・・・ジョイントに関しては、改型の素材を上手く流用するとして・・・それから・・・」「・・・また始まったか・・・」彼女の悪い癖が始まったのだ・・・何か良い案が浮かぶと周囲をそっちのけで自分の世界に入り込む・・・こうなってしまっては彼女は暫く戻っては来ない。彼はそう考えると『失礼しました』と言い残しその場を後にしていた・・・そして時間はそこから模擬戦の二日前へと進む・・・「さてと・・・アンタ達、もう入って来ても良いわよ」彼女がそう言うと、部屋に入って来る人影が4つ。丁度武が模擬戦の件で夕呼と話し終えた直後だった。「今の話から察すると、我々にも模擬戦に参加しろと言う事でしょうか?」「物分かりが良くて助かるわ・・・ただし、ちょっと趣向を凝らした参加をしてもらうけどね」「どう言う意味かしら?」「簡単に説明すると、アンタ達の中からまず三人を選抜して貰って、その内の二人には臨時的に伊隅達の部隊へ入って貰うわ。もちろんこれは今回の模擬戦だけの措置よ・・・残る一人なんだけど、それは南部に担当して貰う予定よ」「その理由は?」「南部には模擬戦終了後に残った方とテストをして貰いたいのよ。そして残った一人には別の仕事を頼みたいって訳」「なるほど、了解です。では、ヴァルキリーズの方にはエクセレンとラミアに、アクセルは別件に当たって貰う事にします」「了解です大尉」「あら、私とラミアちゃんのコンビなんて珍しいわね?」「ヴァルキリーズは女性ばかりの部隊と聞いている。ならばエクセレンとラミアが適任と思っただけだ・・・」「・・・なるほど」「それじゃ、そう言う風に手配しておくわね」「・・・質問がある」「何かしら?」「俺が担当する仕事と言うのは何だ?まさかとは思うが、あの欠陥機のテストを押しつける気じゃあるまいな?」「ああ、その事なら大丈夫よ。叢雲は現在、南部達の報告を基に改装作業に入っているから暫くは使えないのよ。今は詳しく話せないけど、ちょっとしたテストをお願いしたいの」「・・・内容が気になるが、まあ良いだろう」「そんなに危ない事じゃ無いと思うから安心して頂戴」「・・・了解した」「それで、模擬戦に使用する機体は?」「ヴァルキリーズの方へ行って貰う面々には、不知火の予備機を用意するつもりよ。それから南部の機体だけど、アンタにはアルトアイゼンを使って貰うわ」「ひょっとして例の改修プランが上手く行ったのですか?」「ええそうよ。若干関節のジョイント部分に問題が残っているけど、それ以外は比較的上手く行ってる筈だから安心して頂戴」「ですが宜しいのですか?」「自分達の機体を私達以外の人間に知られてしまう事かしら?」「そうです。前にも言った通り、PTを第三者に知られては何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性がある。そう言ったものは避けるべきだと考えるのですが・・・」「その辺はちゃんと考えてあるわよ。まあ、これは後で格納庫に行って貰えれば分かると思うけど・・・」「・・・何かしらの手を打ってあると?」「そう言う事よ」「解りました」「話は以上よ。南部は90番格納庫へ行って貰えるかしら?それからブロウニングとラヴレスは伊隅の所へ行って頂戴。アルマーは残って貰える?」「了解です」「それじゃラミアちゃん、行きましょうか?」「はい」そう言うとそれぞれは指定された場所へと向かう。「さて、アンタに残って貰ったのは他でもないわ・・・さっき言ってた仕事に関する事よ」「それ位は想像がつく・・・それで俺に何をやれと?」「・・・現在この基地に居るある人物の行動を見張って欲しいのよ」「なるほど、スパイを監視しろと言う事か・・・だが良いのか?貴様からすれば俺達とてそのスパイと同類だろう?」「フフフ、流石と言うべきかしらね。確かにアタシはアンタ達を100%信用している訳ではないわ。でも手持ちの駒は有効に使うべきではなくて?」「なるほど、な・・・今は泳がせておくと言う事か」「別にそう取って貰っても構わないわ」「それで、その人物とは一体どんな奴なんだ?」「詳しい事はこの資料を読んで頂戴」そう言って彼女は数枚の資料をアクセルに手渡す・・・「・・・っ!こ、こいつは・・・」「どうしたの?」「い、いや、何でも無い・・・知り合いに似ていただけだ、これがな・・・」「そう、まあこの世界は並行世界みたいなもんだからアンタ達の世界の人間とそっくりな人物が居ても不思議じゃないわね」「そうだ、な・・・」『・・・しかし、他人の空似にしては似過ぎている・・・まさか、な・・・』「問題が無いようならば調査に行って欲しいんだけど・・・」「ああ、だがどうやって調査しろと言うんだ?接点も無い以上、いきなりそいつの所へ行けと言われても逆に怪しまれると思うのだが・・・」「だからテストだって言ったでしょ?詳しくは資料を読んで頂戴。そこにある程度の事は書いてあるから」「解った」そう言うと彼は執務室を後にする・・・しかし、彼は資料に書かれた人物の事が気になって仕方が無かった・・・その人物はあまりにも彼の知る者に似ていたのである。この人物との遭遇がまた新たな波紋を生む事になろうとは、この時はまだ誰も気づいていなかったのだが・・・・・・90番格納庫・・・キョウスケは改修作業の終わったアルトを見に90番格納庫へとやって来ていた。整備兵に案内され、愛機であるアルトアイゼンの前にやって来た彼はその姿に驚かされる事となる・・・「これは・・・」「驚かれましたか大尉?」「ああ、いかにも急造仕様と言った感じだな・・・」「その辺はご了承下さい・・・なにぶん自分達もこの機体に関しては解らない事だらけですので・・・」「すまん、だがこれはこれで良い機体だ・・・ありがとう曹長」「そう言って貰えると助かります。これから細かい調整を手伝って貰う事になるのですが・・・っと、それからこれが仕様書です」「・・・なるほど、解った。急いで調整作業に取り掛かるとしよう」「了解です」そう言うとコックピットへ向かうキョウスケ・・・アルトアイゼンはその姿を大きく変えていた・・・失われたバックパックと脚部をそれぞれ改型の高機動型ユニット、叢雲の脚部を流用する事で補い、更には各部に装甲の様な物が取り付けられている。「曹長、この増加装甲だが、重量に関しては問題無いのか?」「その辺は大丈夫です。こいつは元々改型用に開発されていた増加装甲でして、ビルトビルガーでしたっけ?あれのデータを基にこの機体用に合わせたものです。一応任意にパージする事は可能ですが、副司令からはなるべくならパージするなと言われています」「何故だ?」「偽装の為の処置だと言ってました。重量増加も許容範囲内に抑えられてますので、機動性と言った面で邪魔になる事は無いと思いますよ」「なるほどな、了解した」「それから火器管制に関してですが、少々弄らせてもらってます」「具体的には?」「偽装と言った面で戦術機用の兵装も使えるようにした方が何かと都合が良いだろうと言う事でして、背部の高機動ユニットに稼動兵装担架システムを追加し、それを運用する為にOSにも若干手を加えてあるとの事です」「副司令はこの短期間でそれだけの事をやってのけたのか・・・凄いな」「何せ『横浜の牝狐』とか『横浜の魔女』とか言われる位の天才ですからね・・・っと、自分がこんな事言ってたって言うのは秘密にして下さいね」「ああ」「助かります・・・それじゃ、さっさと作業を終わらせちゃいましょうか」「そうだな・・・」そう言うと作業を始める二人・・・そしてその日から模擬戦当日まで細かな調整作業が続く事となり、模擬戦がいきなりのテストとなった訳である。再び時間は元へと戻る・・・「だいぶ焦っているようだな・・・だがこのままではテストにならん・・・俺もこいつの能力を試さねばならんのでな。そろそろ本気で仕掛けさせて貰うっ!」キョウスケはそう叫ぶと武器セレクターを操作し、武の改型をロックすると同時にペダルを踏み込む・・・「行くぞ、アルトっ!!」背部のスラスターを吹かせ、改型に突撃するアルト・・・無論、彼の選んだ武装は右腕のリボルビングバンカーだ。一番慣れ親しんだ武装を選択するのは彼らしいと言えば彼らしいのだが、今回の模擬戦ではバンカーには弾薬は装填されていない。射突型兵装(パイルバンカー)と言うものはその一撃が強力である為、当たり所によっては統合仮想情報演習システムであるJIVES(ジャイブス)が上手く機能せずに下手をすればパイロットに致命傷を与えかねないからだ。その為、素手で殴りかかるような格好になっている。だが、アルトの右腕はその重量も相俟ってさながら鈍器と言ったところだろうか?この様な物で殴られては、戦術機と言えども一溜まりも無い・・・「クッ!!」相手の動きを見た武は、急いで回避行動を取る・・・彼の真横を通り過ぎたアルトは、従来の戦術機を凌ぐスピードで突っ込んで来ていた。その速度は突撃級BETAをはるかに凌駕し、あんなものを食らってしまっては一溜まりも無いと感じさせるほどだ。「速いっ!・・・それにあれだけ重量級の機体だ、機体そのものが質量弾頭みたいなもんじゃねぇかよ!堅いし速いし、あークソッ!こんなんだったらまだ突撃級の方が可愛いぐらいだぜっ!」片手で頭をかきむしりながら叫ぶ武・・・現状では打つ手が無い・・・先程から彼の頭の中はその言葉で一杯だった・・・いくらPTと戦術機が同じ人型兵器であったとしても、そのスペックは雲泥の差だ。大げさかもしれないが、それ位に考えないと彼には良い表現が浮かばない・・・異星人のオーバーテクノロジーを基にしたPTと戦術機では技術面からして違うのだ。いくら改型が現存の戦術機の中でも高性能の部類に入ると言っても、それはあくまで戦術機としての枠組みの中での話だ。全く異なった技術体系の前では、悲しい事だが高性能と言う響きも霞んでしまう程の差なのである。「うーん・・・まさかこれ程までに差があるとは思わなかったわねぇ・・・」「・・・ですが白銀さんも改型の全てを出し切っている訳ではありません。それにアルトアイゼンのスペックに翻弄されて本来の実力が出せて無いのも事実です」「確かにそうなのよね・・・一度、アルトアイゼンの動きを見せてから模擬戦を行うべきだったかしら」「・・・それでは今回の模擬戦の趣旨に反するのではありませんか?」「社、アンタも言うようになったわね・・・」アルトの性能は改型の制作に関わった彼女も驚くべき性能だった。それと同時にこの技術をすべて解析する事が出来れば、人類はBETAに対して更なる有効な手段を得る事が可能になるだろうと考える。そして彼女は次世代機にPTの能力を取り込む為に解析を急がせる事を模索する。なおも模擬戦は続く・・・『どうしたタケル、避けてばかりいては模擬戦にならんぞ。お前からも仕掛けて来い!・・・それとも何か?普段はあれだけ大口を叩いておきながら、いざ戦いとなったらお前はその程度なのか?』左腕の5連チェーンガンで改型を牽制しながらも、あえて挑発するような台詞を吐くキョウスケ・・・これは武を馬鹿にしている訳ではない。キョウスケ自身も彼の実力は認めているつもりだ。その彼に本来の実力を出させる為にあえてこの様な行動に出たのである。「好き勝手言ってくれるぜ・・・クソッ!何か、何か手を考えないと・・・『白銀さん』っ!霞か?・・・悪いけど今は呑気に話してる場合じゃ無いんだ。っと、悪いけど通信切るぜ?」『・・・落ち着いて下さい白銀さん。貴方なら大丈夫です。落ち着いて冷静に考えれば白銀さんなら勝てますよ』「・・・霞・・・」武はハッとした・・・そして霞の一言で次第に落ち着きを取り戻し始める・・・「・・・そうだよな、どうかしてたぜ・・・機体の性能差なんて関係ねぇ!気持で負けてちゃ勝てるもんも勝てないもんな」『・・・そうです。白銀さんならやれます・・・だから、頑張って下さい』「おうっ!やってやるぜっ!」完全に落ち着きを取り戻した武は、先ずは冷静に相手の動きを分析する所から始める。アルトアイゼンの特徴としてはその圧倒的な突破力だ。今まで攻撃を回避し続ける事が出来たのは、直線以外の機動が困難である事も理由の一つとして挙げれるだろう。武装に関しては、現状で解っているのは右腕のバンカーと左腕のチェーンガン、それから背部にマウントされた二丁の突撃砲だ。恐らくまだ何か武器を隠し持っているのだろうが、現状では解らない・・・予想からして肩口にハッチが見える事からミサイルでも積んでいる可能性があると武は考える事にする。「背部のユニットは改型と同じ・・・と言う事は本体に比べて比較的軟らかい筈だ。何とか背後を取る事が出来れば勝機はあるっ!」『・・・動きが変わった?どうやら効果があった様だな・・・いや、違うな・・・他の何かが原因で冷静さを取り戻したと言う所か・・・』これでようやく本当の武の実力が見れる・・・キョウスケはそう考えていた。「キョウスケ大尉、行きますよっ!」『ああ、お前の本当の力を見せてみろっ!』武は36mmを放ち、キョウスケのアルトを牽制する。キョウスケは脚部の無限軌道を用いてこれをかわす・・・かわされる事を予想していた武は、牽制を続けながらも距離を詰める。「自ら接近戦を挑むか・・・面白いっ!」キョウスケも負けじと5連チェーンガンで応戦する。突進力ではこちらが上だが、機動性と言った面ではやはり軽量な改型の方に分がある。彼は武の足を止める為にわざと改型の足元へ向けてチェーンガンを放つ・・・「クッ!!横がダメなら上だっ!」そう叫びながら跳躍を開始する武の改型。しかし、キョウスケは彼の行動を読んでいた・・・彼が跳躍を開始するとほぼ同時にジャンプするキョウスケ。だが、武も彼の行動を読んでいた。左腕で長刀を引き抜くと、相手に向けて斬りかかろうとする・・・相手は長刀を装備していない。リーチはこちらの方が上・・・右腕のバンカーが命中する前に一撃入れる事が出来ると武は確信していた・・・しかし・・・「そう来ると思っていた・・・」セレクターを操作し、頭部のプラズマホーンを始動させるキョウスケ・・・無論、模擬戦である為に出力は落としてある。アルトアイゼンの頭部に電撃が走っている事に気付いた武は、とっさに斬りかかるのを止め、防御体制に入る・・・間一髪の所でプラズマホーンを受け止めた彼は『アンテナが武器になるなんて聞いてない』と叫んでいた。対するキョウスケは『伊達や酔狂でこんな頭をしている訳では無い』と言い返す・・・そして武は、着地と同時にキョウスケの背後を取ろうとするのだが、彼は完全にそれを読んでいた・・・スラスターを吹かし機体を一気に反転させ着地すると、そのまま武に向けて突っ込んで来る。とっさに回避する武だったが、アルトの突撃力の方が上であった為にその攻撃は右肩をかすめていた・・・コックピット内部に響き渡る損傷警告。モニターには『右肩部スラスターユニット破損』の文字が浮かんでいる。「・・・こうなったらやるしか無いな」そう言うと武は一端距離を取りコンソールを操作し始める・・・使い物にならなくなった両肩のスラスターをパージする為だ。そして更に背部の高機動ユニットまでもパージしていた・・・『機動性を捨てる気か?何を考えているつもりだタケル』「・・・勝ちに行く為ですよ」使い物にならなくなった両肩のパーツをパージする事に対しては誰も驚きはしないだろう。戦場ではよくある事だ。だが、使えるはずである背中のユニットまで捨てると言う行動に対しては誰もが驚き、そして無謀だと考えるだろう・・・しかし、武には考えがあった・・・高機動ユニットを捨てる事で機動性は低下してしまうものの、これで重量は幾分か軽くなる。機体の重量が軽くなれば、その分パワーウェイトレシオが稼げる。彼は自分の武器になりそうな物は全て使うつもりなのだ。アルトアイゼンと比べて、唯一と言っても良いぐらいに勝っている物・・・それは機体重量だ。機体重量が軽ければ機体の俊敏性も上がる。彼の最も得意とする三次元機動で相手を翻弄し、疲弊した所を仕留めるつもりでいるのだ・・・「XM3と改型の能力をフルに使って大尉をかく乱する・・・でなきゃあの人には勝てない」彼はそう呟くと更にコンソールを操作し続ける・・・『Max Mode Standby』モニターに表示されるそれはリミッター解除を意味していた・・・ジェネレーターの出力が上昇し始め、次第に大きな唸りをあげる・・・先程まで緑色だった不知火の眼が真紅へと変わった時、周囲の者もその異変に気付いた・・・そして彼は両手に短刀を装備すると、そのままスピードに乗せてキョウスケに向け連続攻撃を仕掛ける。「っ!速いっ!だがっ!」負けじとキョウスケも両膝から短刀を引き抜き応戦する・・・一進一退の攻防・・・しかし、先程までの動きに目が慣れていた為、捌き切れない攻撃が徐々にアルトの機体へとヒットし始める。「クッ!これが改型と奴の本来の力かっ!」今までの動きとはまるで違う改型の機動・・・武はヒット&アウェーを繰り返しキョウスケを翻弄する。コックピット内に相殺できないGが彼を襲う・・・「グッ!・・・こんなにGがキツイなんて・・・でも、負けられない・・・負けられないんだ俺はっ!!」もはやこの戦いは模擬戦では無くなっていたのかもしれない・・・言うなれば漢(おとこ)同士の真剣勝負。モニターで観戦していたヴァルキリーズの新任達は彼らの動きに対して驚きのあまり言葉を失っていた・・・そして先任達は・・・「凄い・・・」「あの様な動きが出来る衛士が本当に存在していると言うのか・・・」「何なのアレ・・・」「ありえませんわね・・・」『不知火なんか比べ物にならない・・・あの機体は一体何なの・・・?この新型と言いあの赤い機体と言い、スペックが段違いじゃないのよ・・・』それぞれが目の前の出来事に驚愕していた・・・モニター越しに見る彼らの動きは、今まで自分達が体験した事の無い動きだ。攻撃、防御、回避と言った全ての動きを目で追っているのがやっと・・・彼女達はそれらの機動がとても人間業とは思えないのだった・・・「フフフ、随分と驚いているようね」「副司令・・・」「あの二機はね、機体もそうだけど搭載しているOS自体が従来機とは別物なのよ。あの機体に搭載されている物は、新規概念に基づいて開発されたOS・・・操縦系のOSをごっそり換装してあるから機体の即応性は現行の30%増しになってるわ」「30%・・・!」「・・・ほぼ別の機体・・・と言う訳ですか」「そうね、けど目玉はそこじゃないわ・・・現行のOSでは『転倒時に足を出して踏ん張る』といった自動制御シーケンスが存在していたわ。それを衛士が任意にキャンセルできるようにしたのがこの新OS・・・これによって今まで必然的に発生していた機体の硬直時間を短縮すると同時に連続した一連の動作をより短い時間でスムーズに繋げる事が可能になったのよ・・・加えて今までの様に機体側のデータリンクを介して姿勢制御情報を共有すれば一人の衛士の錬度向上が即部隊全体の機動向上に繋がる・・・」「と言う事は・・・このOSがあれば誰にでも今の動きが出来るようになる・・・と言う事ですか!?」「ま、そう言う事になるかしらね・・・」今の話を聞いていたヴァルキリーズの面々は全員が驚愕すると共に歓喜の声を挙げていた・・・そのOSが搭載されれば、自分達も目の前の機体と同じ機動が行えるようになる・・・それはとても喜ばしい事だ・・・この様な物を考え付くなどやはり『香月 夕呼』と言う人物は天才としか言いようが無い・・・皆はそう思っていた。『・・・にしても副司令・・・あの二機・・・特に銀色の機体の衛士、一体何者です?神宮司教官ってオチは無しですよ?』「あら・・・気になる?」『あんなバケモノ染みた動きをする衛士・・・気にならない方がおかしいと思いますけど?』水月の言う事は尤もだ・・・先程まで自分達を相手にしていた機体の衛士・・・まるで自分達の動きを予測するような動きを見せていたその機体の人物・・・その場に居た人物の殆どが自分達の癖を把握しているような人物が乗っていると考えていた・・・だが、まりもにしてはその機動は無謀すぎるものも含まれている。もしあの機体の衛士がまりもであったならば、上空への回避行動など取る筈が無いと考えていたからだ。それに現在見せているあの機動・・・こんな事を言っては彼女に失礼だが、とても人間業とは思えない・・・それが彼女達の考えであった。「あの機体・・・不知火改型の衛士は私の秘蔵っ子・・・って事にしておくわ。心配しなくても後でちゃんと紹介してあげるわよ」「その様な人物が何故今までヴァルキリーズに配属されなかったんでしょうか?」伊隅は夕呼に対し率直な疑問をぶつける。あれだけの動きが出来る衛士は国内・・・いや、世界中を探してもそうそう居ないだろう・・・斯衛軍の衛士ですらアレだけ機動が出来るかどうか解らない・・・そして、そのような人物が今まで表舞台に出てこなかったと言う事が不思議でしか無かったのである。「少し事情があってね・・・これ以上はいくらアンタでも教える事は出来ないわ」「・・・了解しました」モニターには改型とアルトが一定の距離を保った状態で制止している状況が映し出されていた・・・お互いが最後の一撃を繰り出そうとしているのだ。そして・・・「時間が無い・・・この一撃で仕留めるっ!」武は右手の短刀を長刀に持ち替えると意を決し、キョウスケのアルトアイゼンに向けて突っ込む・・・スラスターを吹かし迫って来る改型に向けて突撃するキョウスケ・・・『「うぉぉぉぉぉぉっ!!」』二人の叫びが木魂する武は左手に持った短刀をアルトに目掛け投げつける・・・それはアルトの跳躍ユニットにに命中し、ダメージ判定から右側のスラスター能力が奪われる・・・胴体左側面にヒットする長刀・・・それと同時にアルトの右腕も改型の左肩にヒットしていた・・・誰もが武の勝利だと思ったその瞬間・・・『まだだっ!!』アルトの両肩が展開され、放たれる無数のクレイモア・・・武は何とか回避しようとするものの、リミッター解除による反動で機体が上手く反応しない・・・タイムリミットだ。吸い込まれる様にクレイモアがヒットし、吹き飛ばされる改型・・・肉を切らせて骨を断つ・・・まさにこの表現が正しいであろう。そして互いのコックピット内に表示される警告・・・『動力部損傷大、戦闘続行不可能』『機体各所の損傷度大、大破』『引き分けか・・・』「そうみたいですね・・・」『二人とも御疲れ様、状況終了よ。機体をハンガーに戻したら、ブリーフィングルームに集合してくれるかしら?』『「了解」』模擬戦は引分けと言う形で終了した・・・それぞれが納得のいく結果だったかどうかは解らない・・・あくまで今回は模擬戦だ。もしこれが実戦であったならば最終的に負けていたのは武だっただろう・・・自分の攻撃がヒットした時点で彼は勝利を確信していた。しかし、その油断が命取りとなったのも事実だ。実戦での敗北・・・即ちそれは死に繋がる・・・今回の模擬戦で彼が得られた物は大きかったに違いない。様々な思いが交錯する中、物語は次のステージへと進もうとしていた・・・あとがき第13話です。キョウスケVS武の模擬戦。これは小説を書くにあたって最初から考えていたネタです。ですが、そのままのアルトと改型では圧倒的に改型が不利だろうと考え、戦術機のパーツを用いる事で若干スペックダウンしたアルトと戦わせると言う考えになりました。何故アルトをそのまま出さないのだ!と思う方もいらっしゃると思いますが、最終的に必ず本来のアルトアイゼン・リーゼを出す事はお約束させて頂きます。欠損部分のパーツの入手方法とかも色々と考えてますので、しばらくはこのアルトで我慢して頂ければと思います。さて、ここで戦術機のパーツなどを用いて改修されたアルトについて詳細を書かせて頂きます。PTX-003-SP1-TFS アルトアイゼン・リーゼ・TFS転移時の衝撃で損傷したアルトアイゼン・リーゼを試作型戦術機のパーツや同じく転移時に損傷していた他のPTのパーツを用いて修復した機体。形式番号は識別の為に付けたものであって特に理由は無い。主な破損個所であったバックパックと脚部をそれぞれ試作型戦術機である改型の高機動跳躍ユニットと叢雲の脚部を改良したものを用いて補っている。これによって機体の持ち味である突破力が本来の物よりも低下しているのだが、逆に安定性は向上している。しかし、急造仕様と言う事で関節部分に若干の不安を残している為、あまり無茶な機動を行う事は出来ない。機体各部に装着されている増加装甲は、本来改型用に開発された特殊装甲で、防御面と言うよりは戦術機に見せる為の偽装の意味合いが強い。また、物量で攻めてくるBETAに対し、内蔵火器だけでの戦闘は生存率を下げる可能性を考え、背部ユニットに74式稼動兵装担架システムが新たに装備されている。これによって戦術機の武装もある程度使用可能になり、攻撃のバリエーションの増加にも繋がった。従来の武装も問題無く使用可能で、正面からの一点突破と言うコンセプトは損なわれていない。エクセレンはこの機体を見たとき『フリッケライ・アイゼン(独語で継ぎ接ぎだらけの鉄)』と言っていた。尚、形式番号と機体名の後ろのTFSは戦術機(Tactical Surface Fighter)の頭文字をとったものである。武装5連チェーンガンプラズマホーンリボルビングバンカーアヴァランチクレイモア87式突撃砲65式近接戦闘短刀×2ついでと言っては何ですが、増加装甲の設定も書いておきます。試製94式増加装甲システム改第三世代機である不知火は、新素材による装甲の軽量化やデータリンクの高速大容量化、機動性重視の設計が特徴で、それまでの第1、第2世代機と比べて機動性だけでなく、柔軟性、即応性も大幅に向上している。だが、対BETA戦を意識した近接戦闘能力と近接機動性を重視した結果、防御性や耐久性にやや難色を示す事となった。それを改善するべく開発されたのが試製94式増加装甲システムである。新開発の耐熱対弾装甲材で成形されており、理論上は重光線級の単照射は15秒弱、光線級なら45秒弱は耐えられる仕様となっている。しかし、機体重量の増加の為に第三世代型の特徴である機動性が失われる事となった他、メンテナンス面でも問題が発覚し、試作用のパーツが数機分開発された時点で計画は中止された。試製94式増加装甲システムの問題点を改善するべく不知火改型用に調整されたのがこの改型で、こちらの特徴としてはパイロットの任意で増加装甲をパージする事が可能である事が挙げられる。劇中でも整備兵が語っている通り、ビルガーのジャケットアーマーを参考に考えています。これは皆様から感想掲示板に寄せられた案を採用させて頂きました。こうやってアドバイスやネタを提供して頂ける事は感謝の極みです><次回は訓練部隊の面々のお話を書く予定です。色々と考えている事もありますので、お楽しみに^^それでは感想の方お待ちしております。