Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第16話 純夏の想い「貴様っ!」彼はそう叫ぶと同時に彼女の胸倉に掴みかかり、そのまま締め上げようとする。しかし、目の前の女性の表情は変わる気配すら無い。「不意打ちとは随分と舐めたマネをしてくれる。いったいどう言うつもりだ?」「貴方には関係ない事だよ」「なんだと・・・『少し落ち着きなさいアルマー。白銀は死んではいないわ』・・・それ位は俺でも分かる。香月 夕呼、この女は一体何者だ?貴様も白銀もこいつの事を知っている様だが・・・それにさっき白銀が言っていた00ユニットとは何だ?この女がそうなのか?」「それに関してはアンタには関係の無い事よ」「チッ!」そう言われたアクセルは純夏を掴むのを止め解放する。彼が言ったように武は死んではいなかった。純夏によって気絶させられていただけなのである。武本人は何をされたのか気付かなかった訳だが、周りの人間は純夏がどうやって彼を気絶させたのかに気付いていた。彼女の手のひらが光り輝いたかと思うと、鈍い音と共に武がその場に倒れこんだのである。そう、彼女はバッフワイト素子をスタンガンの様に使う事で武の意識を奪ったのである。だが、傍から見ればそれはただ単に武に対してスタンガンを使用した程度にしか見えないだろう。この場に居る人間は夕呼を除き、彼女がただの人間だと思っているのだから・・・暫くの間、沈黙が空間を支配する。そんな中口を開いたのは夕呼だった。「さて、そろそろ本題に入りましょうか。正直驚いているわ、ここまでアタシを騙せ通せるモノが居るなんてね」「流石は夕呼先生ですね、いつかは気付くと思ってましたよ」「まったく、してやられたとしか言いようが無いわね。アタシだけじゃ無く社まで騙していたんですもの。我ながら自分の才能が怖くなってくるわ」「フフフ、相変わらずですね先生。そうやって自分自身が常に優位な位置に立っていると考えているから足元をすくわれる様な事になるんですよ」『カチリ・・・』室内に無機質な金属音が鳴り響く・・・それは夕呼が手に持った拳銃のハンマーを起こした音だった。「御託はいいわ・・・何故アンタがここに居るのかを教えなさいっ!そして本物の鑑はどこに居るの?」「本当の事を言われて頭に来ました?フフ、別に私に聞かなくても先生なら本当は分かってると思うんですけどね」「そう、話す気は無いって事ね・・・じゃあアンタには消えて貰うしかないわね」彼女はそう言うと銃を握った人差し指に力を込めようとする。「よせ、ここでこの女を始末した所で意味は無い」「話すつもりが無い奴とこれ以上会話する必要はないわ」「そうやって直ぐに結論を出す必要はないだろう?それに貴様の腕ではこの距離で奴に致命傷を与える事は不可能だ。どう見てもシロウト以下だから、な」「言ってくれるわね。じゃあアンタがやってくれるって言うのかしら?」「流石の俺もその命令には従えん。無抵抗の奴を殺す様な趣味は無いからな・・・さて女、確か鑑とか言ったか?話さないつもりは無いんだろう?でなければ態々危険を冒して俺達の前に現れる必要はない筈だ、これがな。そして、白銀を気絶させたのは奴に聞かれては不味いと言う事だ。違うか?」頭に血が上っている夕呼とは違い、アクセルは冷静だった。いや、初めは武がやられた事に対して怒りを露わにしていたのだが、彼女達のやり取りを見ている間に冷静さを取り戻したのである。流石は元シャドウミラーの隊長と言ったところだろうか。状況判断能力が高い事が良く解る。「流石は元シャドウミラーの隊長・・・とでも言わせて貰いましょうか。貴方の言う通り、これから私が話そうと思っていた事はまだタケルちゃんには明かせません。知れば彼がどうなるか私にも解らない・・・最悪の場合、精神が崩壊するかもしれないから」「どう言う事なの?」「今のタケルちゃんにはあの日、10月22日以前の記憶が有りません。その原因の一つは夕呼先生、貴女にもあるんですよ」「何ですって?アタシは白銀に何もしていないわよ」「・・・覚えていないんですね。それも無理ありませんけど。でも先生が、先生があんな事をあんな実験をしなければタケルちゃんはこんなに苦しむ必要は無かった!それに先生のせいでこの世界はこのままじゃ滅びの道を歩んでしまう。全ては先生のせいなんだよっ!!」そう言われた夕呼は何が何だか解らなかった。彼女自身、武に何かをした覚えなど無かったのだ。目の前の純夏は声を荒げながら自分が行ったと言う事に対して物凄い怒りを露わにしている。それ以前に白銀の記憶が無いとはどう言う事なのだ?今まで彼からはその様な話は聞いていない。彼女が言った10月22日以前の記憶・・・それは恐らくこの世界で彼が過ごしてきた日々の記憶の事だろう。「ありえないわ・・・以前の世界の記憶を引き継いだアタシには、この世界で過ごしてきた記憶もあるのよ?それが何故白銀には無いって言うの?」「・・・タケルちゃんの記憶が無いのは、私が封印したから・・・でも、そうしないと彼の精神は崩壊してしまう恐れがあった。本来ならそんな事する必要なんて無かったんですよ。先生が自分の都合であんな実験にタケルちゃんを巻き込まなければ全ては上手く行く筈だった。それに私だってこの世界に来る必要は無かったのに」そう言った彼女の表情は暗い。彼女自身、そのような手段は取りたくなかったのだろう。最愛の人の記憶を封じる。その様な事を喜んで出来るだろうか?普通に考えればそれは不可能だ。「ちょっと待て、今貴様は白銀の記憶を封印したと言ったな。そんな事がただの人間に何故できる?」「今ここに居る私は機械の体に人間の魂を宿らせた存在。鑑 純夏と言う存在の人格を移植された人であって人でない物・・・」「人造人間・・・いや、サイボーグやロボットの様なものか?」「そう考えて貰っても構いません」アクセルの問いに対して純夏は迷う事無く真実を告げる。その事に対して夕呼以外の人間は驚いていた。「か、鑑様。今の話は本当なのですか?」「本当ですよ凪沙さん」「では、殿下や冥夜様と親しげに話しておられたあの方は一体何者なのです?」「あれはこの世界の本当の私、今まで騙すような真似をしてしまって本当にごめんなさい。でも私達だけではどうする事も出来なかった。タケルちゃんとこの世界を救う為には、こう言う手段を取るしか無かったんです」「社の言った事は本当だったのね・・・やはりこの世界の鑑は死んではいなかった。そして今もどこかで生きている」「その通りですよ先生。よく気付きましたね」「やられた・・・としか言いようが無いわね。教えてくれないかしら?アンタが一体どうやってアタシや社、それに白銀をだまし続ける事が出来たのか。それに何故アンタがこの世界に居るのかを」夕呼の疑問は尤もである。霞には幾度となく隣の部屋にある脳髄にはリーディングとプロジェクションを行わせている。確かに頻繁に情報が得られた訳では無いが、得られた情報は『鑑 純夏』の物であった。そして、彼女がこの世界に存在している理由だ。今までの彼女の口振りからして、目の前に居る純夏は前の世界の彼女なのだろう。だが、彼女がこの世界に来た理由が解らないのだ。「霞ちゃんがあの脳髄にリーディングを行っていた際に感じたものは、私が別の所からプロジェクションを行っていたからです。でも、頻繁に行う事は私にとっても負担が大きい。だから先生や霞ちゃんにも私の力を使いました。プロジェクションで二人の深層心理に働きかけ、あの脳髄は私の物だと思い込ませていたんです」「なるほどね。あの脳髄が鑑の物だと私達に思い込ませる事でアンタは時間を稼いでいたって訳ね」「そうですよ。でも途中から上手くいかなくなりました。この世界のタケルちゃんが初めてあの部屋に来た時に霞ちゃんは違和感を感じてしまったから」「その違和感と例の機体のデータ解析時に量子電導脳を用いたおかげでアタシ達はあの脳が鑑の物では無いと言う事に気付けたのよ・・・巧妙に起動時のログを改竄してあった様だけどね」この世界の武が初めてあのシリンダーの部屋にやって来たとき、霞は違和感を感じたと言っていた。それは00ユニットである純夏が武の存在に一瞬動揺してしまった事が原因である。彼女は自分自身の内なる感情を抑える事が出来なかったのだ。それには彼の記憶を封印してしまった事による後ろめたさもあった。武を騙す事になってしまった事に対して酷く罪悪感を感じていたのである。その違和感を感じた事を霞は夕呼に伝えるかどうか悩んでいた。だが、感じた違和感は些細なものであった上に、隣に武が居た事で変化が起きただけかもしれないと言う可能性も捨てきれなかった。そしてPTのデータ解析に量子電導脳を使用した際、ODLが予定値よりも大幅に劣化して居た事で事態は急変する。普通に考えるのであれば、解析に使用した程度であればこれほどまでの劣化は考えられなかった。彼女達が起動させる以前から稼働していない限り在りえなかったのである。例え巧妙に起動時のログは改竄されていたとしても、ODLの劣化までは改竄する事は不可能なのだ。純夏がODLの浄化作業を単独で行う事も可能であったかもしれないが、作業を行えばストックしてあるODLは減ってしまう。そして浄化作業を行うと言う事は、BETAに対して情報が漏れてしまうと言う事に繋がるのだ。そう言った点から彼女は作業を行う事が出来ず、結果として00ユニットは随分前から起動していた可能性があるかもしれないと言う結論に至ったのである。またこれらの結論から、ハッキング犯に関しても00ユニットであるならば可能だと言う考えが浮かぶ。量子電導脳は世界最高のコンピューターとも言われている。これを用いれば世界中のコンピューターにハッキングし支配下に置く事すら可能であるのだから、00ユニットが起動していたとするなら犯人は彼女以外に考えられなかったのだ。だが夕呼は、彼女が単独でこの様な事を行うとは考えられなかった。そして様々な情報を基に指示を出している、もしくは協力している者が居ると考えたのだ。アクセルに月詠やオウカを探らせたのはその為である。もっとも彼女達を捕まえた時点で、純夏がこの場に現れるのは一種の賭けであった訳なのだが・・・「次の質問に答えて貰おうかしら?何故アンタはこの世界に存在しているの?」「それは先生の行った実験が原因だよ」「だからその実験って何なのよ!?アタシはそんな事やった覚えは無いって言ってるでしょ!」「覚えていないのは仕方ないですよ。先生の記憶の一部も私の力で書き換えているんだから」「な、なんですって!いったいどう言う事なの!?説明しなさい!!」「ちょっと待ってて下さい」そう言うと彼女は眼を閉じる・・・「今、私がプロジェクションで書き換えた記憶を元に戻したから思い出せた筈ですけど?」「何を言っているの・・・クッ!どう言う事よこれは、アタシがあんな実験を行っていたって言うの?」夕呼の表情が次第に変わり始める。純夏は再度プロジェクションを用いる事で彼女の封印された記憶を呼び起したのだ。「そう、それは全部事実、本当の事だよ」「ちょっと待ちなさいよ。おかしいじゃない。あの実験は全て失敗に終わった筈よ?それが証拠に白銀は10月22日になってから向こうの世界の記憶を得ている。それにこの記憶が本当ならアタシと白銀は明星作戦前に出会っている事になるじゃないのよ」「そうですよ。先生とこの世界のタケルちゃんの本当の出会いはこの辺一帯がBETAに侵攻された直後の帝都。そして、その後回復したタケルちゃんに先生が行った実験のおかげで私はこの世界に来ることが出来たんですから」「と言う事は、アンタは因果空間に漂っていた以前の世界の00ユニットや別世界の『鑑 純夏』の記憶の集合体と言う事ね」「そう言う事になるのかな。それでね、先生や殿下、御剣さん達に前の世界の記憶を引き継がせたのも私」「全てはアンタの掌で踊らされていたって訳ね・・・流石は世界最高のコンピューターと言ったところかしら?でも、その実験と白銀の記憶がどう関係してるって言うの?今までの話だけじゃアタシが悪いとは思えないんだけど」彼女の言う通りである。これだけでは夕呼が原因とは言い難いのは事実だ。彼女は以前、武に面会した直後に彼の記憶が以前の世界の記憶を引き継いでいるかどうかを調べている。だが、その際彼は記憶を引き継いではいなかった。その為彼女は、前の世界で武に例の数式を回収させに行かせる際に用いた装置を応用し、因果空間に漂っている可能性のある彼の記憶を引き寄せようとしたのだ。しかしその実験は失敗に終わり、武にそれらの記憶が宿る事は無かったのである。いや、実は宿っていたのだ。彼が以前の世界で体験した記憶は2001年10月22日を起点にしている。要するにその日が訪れると言うファクターを得られない限り彼の記憶は呼び起こされなかったのである。そんな単純な事に気付かなかったのはある意味焦っていたのだろう。自分には以前の世界での記憶がある。しかし武には無い。00ユニットが完成したとしても調律の為には『白銀 武』と言う存在は必要不可欠だ。いや、00ユニットの被検体を『鑑 純夏』にしなければ別に武は必要では無い。しかし、前の世界で00ユニットが真の完成を見たのは『白銀 武』と言う存在があったからだ。もしも他の人間を被検体にする事で00ユニットが完成しなければ、第四計画の全ては水泡に帰す事になるのである。彼女はそれだけは絶対に阻止せねばならなかった。その為に少々焦りを感じていたのであろう。「そうですね・・・先生、因果空間に漂っている記憶ってどれ位あると思います?」「様々な世界から流出した記憶が有るんですもの、世界の数だけあるって事ぐらいしか分かる訳無いでしょ」「先生の言う通りです。じゃあ、人が意識して覚えていられる記憶ってどれ位あると思いますか?」そう言われた時、彼女は気付いた。記憶とは言い換えれば脳に蓄積される情報である。一言で記憶と言っても様々な物があり、感覚記憶と呼ばれる物や、短期記憶、作動記憶や中期記憶、長期記憶などと色々な物があるのだが、ここではその種類やプロセス等はあえて省略させて貰う事にしよう。ここでは長期記憶と呼ばれる物について解説させて頂こうと思う。長期記憶と呼ばれる物は、その名の通り長期間保持される記憶である。この記憶は忘却しない限りは死ぬまで保持される物なのだが、その忘却の原因として減衰説と干渉説と言う物がある。減衰説とは、時間の経過と共に記憶が失われて行くものであり、干渉説はある記憶が他の記憶と干渉を起こす事によって記憶が失われて行くと言う説である。そう、武の記憶が失われたのは因果空間に漂う数多の世界の『白銀 武』と言う存在が持っていた無数の記憶が彼の記憶に干渉した事が原因であった。そして、人が脳に蓄積できる記憶には限界がある。その為に人の脳は記銘、保持、想起、忘却と言うサイクルを繰り返す事でその許容量をオーバーする事を防いでいるのだ。これは人によって個人差があるのだが、一連の動作に至ってはほぼ同じと言っても良いだろう。偶然とは言え、夕呼が行った実験により武の脳内には無数の情報が流れ込む事となり、それら全てを保持すると言う事は彼の精神に異常をきたす可能性があった。そう言った理由から純夏は、因果空間から流れ込んだ彼の記憶の一部をプロジェクションを用いる事で元々無かったものと思い込ませる事で封じたのである。だが、彼女が封じたのは因果空間から流れ込んで来た記憶の大半であり、元々彼が持っていた記憶を封じた訳では無い。元の記憶が無くなってしまったのは因果空間から流れ込んで来た記憶が原因なのだが、処置を行うのが遅すぎた為に彼は記憶が欠落してしまったのである。そして、記憶の忘却と言うものには検索失敗説なる物が存在する。これは記憶された情報自体が消失しているのでは無く、適切な検索手がかりが見つからない為に記憶内の情報にアクセスできない事から記憶を喪失してしまった様に感じてしまうと言う事なのだ。柏木との会話の後に彼が過去の記憶の一部を取り戻せたのは、彼女の一言がキーワードとなり記憶内の情報にアクセスできたからである。「気付いて貰えたみたいですね」「ええ、でもそれと世界が滅びの道を歩んでしまうと言う事の何が関係しているのよ?」「普通に考えればそうですね。でもその実験が基で自分の思っていたもの以外の物まで呼び寄せていたとしたらどんな事になると思います?」「なっ、どう言う事!?」「それは・・・」純夏は事の真相を全て話し始める・・・それを聞いた夕呼の表情は真っ青になっていた。「なんて言う事なの・・・」「やっと事の重大さを理解して貰えましたか?先生が不用意にあんな事をしなければこんな事にならずに済んだんだよ」「確かにそうね。偶然とはいえ自分がやった事を否定するつもりはないわ」「じゃあ、その実験が切っ掛けでこの世界の時空の壁に頻繁に歪みが起こる様になってしまっていると言ったらどうですか?」「何ですって?じゃあアルマー達がこの世界に飛ばされてきた理由もそのせいだって言うの?」「それは違うよ。その人達は私が呼び寄せる切っ掛けを作ったから」「何だと?」その一言がその場に居た者全てを戦慄させた・・・キョウスケやアクセル達がこちらの世界に飛ばされた原因は夕呼にもあるのだが、彼らがこの世界に飛ばされた理由は純夏の力だと言うのだ。いや、正確には彼女の力だけでは無かった。以前の世界で夕呼が言っていた事を思い出して欲しい。『世界は常に安定を求めている』そう、夕呼が行った実験による事故で呼び寄せたモノ。それを何とかする為に世界が動いたのだ。その力を利用し、彼女は自らの力を使い彼らを呼び寄せたのである。「アクセルさん達には本当に申し訳ない事をしたと思ってます。本来ならこんな事をしなくても全て上手く行く筈でした。でもあんなモノが現れてしまった以上、それに対抗しうる力を得る他に手段が無かった。全ては私が独断で行った事です。貴方達の世界は何故か所々に空間の歪みが起こってます。それを利用させて貰い、貴方達をこちらの世界に招かせて貰ったんです」「随分と勝手な言い分ね。それはアンタの為では無く、それも白銀の為と言う事?」「そうです。前の世界のタケルちゃんは全てが終わる前に元の世界に戻らなきゃならない事を悔やんでた。そして、自分の尊い者達を犠牲にしてしまった事、殿下や御剣さんの関係についても・・・全てが終わってタケルちゃんが元の世界に戻った際、あの世界での経験や記憶は因果空間に漂う事になった。本当なら私は彼に戦いの無い世界に戻って欲しかった。でも、タケルちゃんの願いや想いを無視する事は出来ない。そんな時、この世界のタケルちゃんもこの世界の私を失ったと思った事で自分自身を追い込んで無茶をしてる事を知ったんです。無視する事も出来た・・・でも私にはそれが出来なかった。だから以前の世界に比較的良く似たこの世界のタケルちゃんにその想いを引き継いで貰う事でその願いを叶えて貰おうと思ったんです。自分勝手な我儘だって事は十分解ってるんだよ。でも私はあのタケルちゃんが私に言ってくれたように、どの世界のタケルちゃんにも幸せになって欲しかった。だから決意したんです。何としてでもこの世界に干渉し、タケルちゃんを救おうって・・・」純夏の想い・・・それは彼女なりに色々と考えた上での結論だったのだろう。まったく関係の無い者を巻き込んでしまった事はあまり褒められたモノでは無い。しかし、この場に居た全ての人間は彼女の武を思う気持ちを否定する事は出来ないでいた。一つ間違えば世界全てを敵に回すと言っても過言では無い事を彼女は行っているのだ。だが彼女の眼にはそれでもたった一人の愛する者の為に全てを敵に回してでも事を成し遂げようとする決意が見て取れる。再び沈黙が制する中、最初に口を開いたのはアクセルだった。「なるほど、な。こう言うのを愛とでも言うのか・・・俺には良く解らんが、お前の気持ちや意思は良く解った。乗りかかった船とでも言うべきか・・・俺は協力させて貰おうとしよう」「アクセルさん。ありがとう」「フッ、礼を言うのはまだ早いと思うが、な」アクセルの発言に対してオウカは驚いていた。自分の知る以前の彼からは考えられないような台詞なのだからそれも当然である。だが、彼女はそれほど長い時間彼と接した訳では無いので彼の本質を知らないのは仕方の無い事だ。彼は本来、相手を気遣ったり、諭したりするなど、分別の付いた人間である。そして受けた恩を返す義理堅い一面も持っているのだ。だが、彼の素っ気ない言動のおかげで他人に誤解を招いていると言う事も事実であり、オウカはアクセルと言う人間を誤解して捉える事となっていたのである。「鑑様、正直驚かされることばかりですが、我々も協力させて頂くつもりです」「月詠中尉、ありがとう御座います」話を聞いた月詠は正直どうするか迷っていた。目の前の彼女は悪く言えば自分達を騙していたことになる。だが、悠陽や冥夜とこの世界純夏との関係を考えれば、恐らく二人は彼女の意思を理解し協力するつもりでいるのであろう。そして以前、訓練校のグランドで冥夜と武を見ていた彼女は、冥夜の想い人が武である事に気付いていた。悠陽と冥夜の関係が以前の物と違うものに変わった事も『とある者のおかげだ』と聞かされていた。そして純夏に『白銀 武』がどの様な人物かを聞いていた彼女は、今までの話を聞いた上で、それは武と純夏の事なのだろうと判断したのである。本来ならば自分がこの様な事を思うのはおこがましい事なのだが、自分の主達が真に姉と妹と言う関係になれた事に対して感謝していたのだ。受けた恩を仇で返すような真似は月詠には出来ない。そして、隣に居たオウカも同じ思いであった。自分の名前以外の殆どの記憶を失い帝都を彷徨っていた彼女は悠陽に拾われ、その際、純夏や月詠のおかげで今の居場所を用意して貰う事が出来たのである。彼女もまた受けた恩を返す為に、純夏に協力しようと考えていたのであった。「ハァ・・・不本意だけどアタシも協力せざるを得ないわね。話を聞いてる限りじゃアタシにも責任がある訳だし」「やけに素直だな?貴様の事だからどうせまた難癖つけてゴネると思っていたんだが」「勘違いして貰っては困るわ。アタシは世界を救う事に協力はすると言っただけよ。ここまでアタシをコケにしてくれたその子を許した覚えはないわ。逆に今まで自由にさせていた事を感謝して欲しいぐらいよ」「やだなぁ先生、少しは感謝はしてますよ。その事に関してだけはこの世界の先生にあの時系列の記憶を受け継がせた事が正解だったと思ってますから」「フンッ!」夕呼はそっぽを向いているが別に怒っている様子では無かった。以前の世界の彼女は武が元の世界に戻った後、最悪の事態を想定して00ユニットの再起動ならびに、稼働時間の延長や情報漏洩に関する防護策を練っていたのだ。本来ならばそのような事はしたくは無かったのだが、武が救おうとしたこの世界を再び滅亡させる訳にはいかないと考えたのである。そして約2年の歳月を経て改良は成功する。しかし再起動実験の際に事故が起こり、それが原因で彼女は大けがを負ってしまったのだ。そして次に目覚めた時、彼女はこちら側の世界に飛ばされていた事に気付いたのである。そう言った経緯から、彼女の記憶には改良型の00ユニットのプランが存在し、明星作戦終了後に横浜ハイヴ内で発見された純夏の脳髄と思われる物を確認した後に改良型00ユニットの製作に取り掛かったのである。その後、完成していた00ユニットに以前の世界の純夏が憑依する事が可能となったのだ。そして彼女はその力を駆使し、夕呼に気付かれないようプロジェクションを用いてこの世界の自分にコンタクトを取ったのである。最初は戸惑っていたこの世界の純夏ではあったが、彼女の気持ちを理解し、彼女の指示通り『御剣 冥夜』や『煌武院 悠陽』にコンタクトを取る事で協力を取り付けたのである。これは前もって彼女達に以前の世界の記憶を引き継がせておいた事が功を奏したと言っても良いだろう。「ところでこの二人はどうするんだ?この様な状況になっては拘束しておく意味など無いと思うんだが」「そうね・・・二人にはアタシと殿下を繋ぐパイプ役になって貰うわ。いえ、恐らく殿下は最初からそのつもりで二人をこっちに寄越したんでしょうしね。御剣の護衛は兎も角として、この時期に新型機開発の協力を打診してくるなんておかしいと思ってたのよ。最初から件の話を知っていた上でアタシの協力を取り付けれるようにした・・・まったくあの歳でとんでもない策士だわ・・・流石は殿下と言ったところかしらねぇ」彼女がそう言った直後に斯衛の二人が鋭い眼光で睨んでいたのは言うまでも無い。「で、今後アタシ達は如何すればいいの?・・・ちょっと、聞こえてるんでしょ?返事位しなさいよ」「・・・すみ・ま・せん」その問いに対して純夏の反応が鈍い。様子がおかしい事に気付いた面々が次々と話しかける。「鑑様?」「如何されたのですか鑑様?」「・・・そうか、時間が来たのね」「時間・・・ですか?」「彼女は元々長時間動ける体では無いのよ。詳しくは話せないけど00ユニットには活動限界時間があってね。恐らくタイムリミットが近いんだわ」「と言う事はそろそろ活動停止すると言う事か?」「大丈夫よ。メンテナンスハンガーに戻せばまた元通り活動できるから」「それは・・・無理・・・」「なんですって?どう言う事なの、説明しなさい」「元々私は・・・この世界には居ない・・存在・・・だから、この世界に・・留まる事にも限界があるの」「同じ世界に同じ存在は二人も居られないと言う事か・・・皮肉なものだな」「大丈夫。後の事は・・・全てこの世界の私に・・・お願いしてあるから・・・」彼女の顔は苦痛を浮かべている。本当に最後の力を振り絞っているのであろう。そして・・・「私達の・・・やって来た事を許して欲しいとは・・・言わない。だからこの世界の私を・・・責めないであげて欲しいんです」「解ったわ。アンタの想いは決して無駄にしない」「ありがとう・・・フフフ、これでもう思い残す事は無いかな・・・最後にタケルちゃんに会う事も出来たし・・・でも、もう少しだけ一緒に居たかったな。先生、タケルちゃんの事、よろしくお願いしますね。タケルちゃん、誰かが止めないと・・・直ぐに暴走しちゃうから・・・」「ええ、白銀の事は大丈夫だから・・・」「それじゃあ、皆さん・・・後の事はよろしく・・・お願いします・・・さよう・・・なら」そう言った直後、彼女の体はまるで糸の切れた操り人形の様にその場に倒れこんだ。「アルマー、手を貸して頂戴。この子を運ぶわ。月詠中尉達は白銀を医務室へ運んでくれるかしら?気絶していただけとは言え、何らかの後遺症が残る可能性もあるわ。念の為にドクターに精密検査をしてもらって頂戴」「了解した」「了解しました」彼女達の心境は複雑なものであった。00ユニット・・・もう一人の『鑑 純夏』から語られた事実は想像を絶するものだった。そして、BETAと同等、もしくはそれ以上の脅威が地球に迫っている・・・だがそれはこの世界にまだ姿を現していない事が幸いだったと言えるだろう。今ならばまだ間に合うと皆考えていたのである。・・・帝国内某所・・・一人の少女が空を見上げていた。その表情はどこか悲しげであり、何かを考えているようにも見える。「如何されました?」不意に彼女の後ろから声が聞こえた。「もう一人の私が逝ったようです・・・」「そうですか・・・我等も事を起こさねばならぬ時が来たようですね」「はい、私も彼女の意思を継ぐつもりです。ですから殿下、私に力を貸して下さい」「それは私の台詞です。そなたの力私に、いえ、この星を護る為に貸して貰えるか?」「はい・・・その為に私はここに居るんですから」あとがき第16話です。何だか自分で書いてて色んな意味で泣きたくなっちゃいましたTT相変わらずマブラヴキャラ中心の話になってしまいましたが、ここで下手にOG勢を絡ませるとややこしくなると思いこの様にさせて頂きました事をご容赦ください。さて、前回登場した純夏の正体が明らかになりました。彼女は前の世界の記憶を引き継いだ00ユニット純夏です。純夏のセリフを書いていて、所々この子ってこんな話し方だったかな?何て考えながら書いていたんですが、もしもおかしい所があったら指摘して貰えると助かると思ってます。そして、タケルちゃんの記憶欠落の原因も色々と書かせて頂きましたが、結構無理な設定だったかもしれません・・・(苦笑)記憶と言う概念について自分でも色々と調べてみた結果、この様な設定とさせて頂きましたがいかがでしょう?オウカ姉様ですが、部分的な記憶が欠落しております。彼女に関してはタケルちゃんとは違い、転移前の衝撃で重傷を負い記憶障害が起こっていると言う設定とさせてもらってます。それじゃあ何でアクセルやシャドウミラーの事を覚えていたんだ?とツッコミが来そうな気がしますが、部分的な記憶が欠落していると言う事でご容赦ください^^;そして、此方に転移してきた際に偶然悠陽に助けられ、保護されたと言う事になってます。そんな経緯から恩返しの為に斯衛軍に所属する事となった訳なんですが、何で月詠さんと苗字が同じなの?と言う疑問を持たれる方も多いと思います。その辺も追々明らかにできればと思っていますのでお楽しみに^^今回のお話はちょっと説明クサイ内容になってしまった様な気がしたのと、色々なネタを明らかにし過ぎたかなぁ~って気がしない訳でもないんですが、そろそろある程度のネタを出さないと面白みにも欠けるであろうと考えたので書いてみました。今後どの様に話が展開していくのか・・・楽しみにお待ちくださいませ。それでは感想の方お待ちしておりますね^^