Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第20話 BETA侵攻あれから数日が経過し、ヴァルキリーズのナンバー2である速瀬 水月は更に練度を高める為に日々奮闘していた。模擬戦終了後は少々落ち込んでいる様に見られたのだが、今の彼女からはその様な感じは見て取れない。ヴァルキリーズの面々は、自分達が模擬戦でアクセルに罵られた事を見返してやろうと言う一心で尚も訓練に励んでいる。彼女達は水月もその為に頑張っているのだろうと思っていたのだ。そんな中、最近の水月に対し違和感を覚えている物が居た。彼女の親友の涼宮 遙である。そして彼女は、訓練終了後に水月を休憩室に呼び出していた・・・「どうしたのよ遙、急に話があるって呼び出したりなんかして?」「うん、ちょっと気になる事があったんだ」「気になる事?一体何よ?」「あの模擬戦の時、何で自分から負けを認めたの?」「何でって・・・別にいいじゃない」「良くなんかないよ。水月あの後からずっと様子が変だよ?無理に笑顔なんか作ったりしてる」「そ、それは・・・」「本当の事を教えて欲しいの。私達親友でしょ?水月の事が心配なんだよ」「・・・あの模擬戦ね、アルマー中尉は最初から本気を出して無かった」「え?」「それどころかね、あの人は私達をあえて挑発する事で私の本当の力を見ようとしたのよ。そして、あの人は私が白銀の動きを真似ようとして躍起になっている事にも気付いてた・・・中尉が私の改型の装備を指定して来たのは何故だと思う?」「・・・」「あれは改型の純粋な性能を私に解らせる為だったのよ。私はね、白銀と同じ動きが出来るようになればその分余計な犠牲を出さずに済むと思ってた。でもそれは間違いだったって事に気付かされたのよ」「どう言う事?」「白銀は白銀、私は私って事よ・・・正直私は焦りと苛立ちで自分を見失ってたんだわ。あの模擬戦の前まではそれが理由でOSや機体の特性なんて考えてる余裕も無かったんだと思う。その事を中尉は模擬戦を通じて教えてくれた・・・それに気付かされたのは模擬戦終了間際、アルマー中尉の改型がタイムリミットで動けなくなった直後よ。それにね、中尉の改型が動作不良を起こして無かったとしたら負けていたのは私だと思う。だからね、私は決めたんだ・・・早く改型とXM3を自分のモノにしてアルマー中尉を見返してやろうって・・・」「そうだったんだ・・・」「ごめんね遙、遙にだけはもっと早く話すべきだったかもしれないわね」「私の方こそごめんね・・・でも、そう言う事なら私も協力させて貰うよ。今度こそアルマー中尉に勝ってあの人を見返してあげようよ」「そうね。アルマー中尉だけじゃないわ、今度こそ白銀にもギャフンと言わせてやるんだから」「ほう・・・ではその時を楽しみにさせて貰うとしよう」不意に休憩室に男の声が響き渡る・・・彼女達が振り向くと、そこに居たのはアクセルだった。「あ、アルマー中尉!?」「立ち聞きなんて随分と趣味が悪いわね」「俺には盗み聞きなどと言う趣味は無い、あれだけ大きな声で話していては聞かないでくれと言うのは無理と言うものだ、これがな」「うっ・・・」「フッ、今度から聞かれて困る話は自分達の部屋でするんだな」そう言うと彼は自販機で飲み物を購入し、その場を立ち去る。「相変わらず嫌味なヤツね・・・ホントムカつくわっ!」「また負けちゃったね」「五月蠅いわよ遙!」「フフフ、でもさっきの水月の顔はそうは言ってないみたいだったよ?」「えっ、嘘・・・私そんな顔してた?」「どうだろうね」「勘弁してよね遙・・・私はあんな奴全然タイプじゃないんだから」「そう言う事にしておいてあげるよ。それじゃお昼に行こうっか?」「ちょっと待ちなさいよ!アンタ絶対勘違いしてるって、待ちなさいってば遙ぁ~!」「待たないよ~」どうやら水月は本当の意味で元気を取り戻してくれたようだと彼女は感じていた。アクセルに聞かれていたと言う事は予想外であったが、この際だからそれは別に構わないだろう。彼としても自分の意図が伝わった事に安堵している筈だと遙は考えていた。そしてこの日を境にヴァルキリーズは更なる進歩を遂げる事となるのだが、それらが証明されるのはもう少々先の話となる。・・・訓練校・・・「それでは午前の訓練はこれまでとする。解散」「敬礼っ!」ここ数日の間、訓練部隊の面々は複雑な心境だった。あの時、最後にエクセレンが言った言葉の意味をそれぞれが考えていたのである。将軍の双子の妹、内閣総理大臣の娘、元陸軍中将の娘、国連事務次官の娘、帝国情報省外務二課課長の娘、そして異世界からの転移者達・・・彼女達はそれぞれが様々な事情を抱えているのだ。そしてそれらは簡単に解決できるものでは無い。彼女が何故あの様な事を言ったのかは容易に想像が付く。総戦技演習が近づく今、隊は本当の意味での纏まりを見せていない。その事を気付かせる為の行動だったのだろうと誰もが考えていたのだが、今まであえて互いの事に対して不干渉を貫いてきたのだ。皆の考えが一致している。こう言った点では纏まっていると言っても過言では無いのかもしれないが・・・「あ~、それにしても疲れたぁ・・・」沈黙を破ったのはアラドだった。「そんなに今日の訓練って疲れるような内容だったかしら?」「・・・鍛え方が足りない証拠」アラドは別に疲れてなどいない。多少は疲れているのだが、あまりにも場の空気が重い為に何とかしようと思ってこの様な事を言ったのだ。「そんな事言ったってよ~、俺たち昼間の訓練が終わった後も訓練やってるんだぜ?疲れない方がおかしいって」こう言った直後に彼はハッとした。話の流れ的に何とか合わせないといけないと思ったのが原因だった訳なのだが、つい口が滑ったとでも言うのだろうか?こう言う所でポロリと言ってしまうのは彼らしいと言えば彼らしいのだが・・・「どう言う事だ?そなた達はなにか他にも訓練を行うように言われているのか?」「い、いやそう言う訳じゃ無いけどさ『ヤッベェ・・・どうしよう、散々釘を刺されたって言うのにこれじゃ皆の言う通りじゃないかよ。うわっ、C小隊の皆やっぱり睨んでる・・・どうするよ俺』」「じゃあどう言う訳なの?」「え~っと・・・」そんな彼を見兼ねたブリットが助け船を出す。「だから言っただろうアラド、気をつけろって・・・俺達はここ数日前から自主的に訓練をやってるんだ。総戦技演習も近いからな。御剣だって毎日自己鍛錬やってるんだろ?それを見習わなきゃならないって思ってさ」「でも~それだったら隠す必要は無いんじゃないですか?」「壬姫さんの言う通りなんだけどさ・・・なんて言うか、コソコソやってたのは皆に見つかると恥ずかしかったって言うかなんて言うか・・・」「それに俺達は訓練以外でも頑張ってます。って大っぴらに言うのもなんか変だろ?だから黙ってたんだよ」「・・・意外と照れ屋?」「うるせぇよ・・・お前みたいな反応をされると嫌だったから黙ってたんだよ」「へぇ~、ちょっと意外ね」「うむ、だが我々も負けてはいられんな。今後とも日々精進をせねばなるまい」B小隊の面々は冥夜の発言に対し、無言で頷いていた。とっさに誤魔化してみたがどうやら上手く行ったようだと安堵の溜息を洩らすブリットとアラド。しかしこの後、アラドは昼食のおかずを一品減らされると言う罰を受けていたのはここだけの話。そして昼食も終わり、午後の訓練に向けての話が始められた直後の事だった。「すまぬ皆」「どうしたの御剣さん?」「実はこれから少々外出せねばならんのだ。皆には申し訳ないが2,3日留守にさせて貰う」「午後からも訓練はあるよ?」「この件に関しては神宮司教官には既に話してある。総戦技演習も近いと言うのにすまんな」「そっか、それじゃあ仕方ないよな。俺達の事は気にしなくて大丈夫だから頑張って来い」「ブリット君、何をしに行くか分からないのに頑張って来いはおかしいと思うよ?」「そ、そう言えばそうだな」「違いない。っと、そろそろ時間だ。私はこの辺で失礼させて貰うとしよう」「行ってらっしゃい冥夜さん。お土産の方よろしく頼むッス」「うむ、何か考えておこう」「もうアラドったら・・・御剣さん遊びに行くと決まってるんじゃないのよ?」「いいじゃん別に、こんな時の定番台詞だろ?」「なんだか白銀みたいね・・・」「フフフ、そうだな。では行ってくる」「御剣さん、気をつけてね」「ああ」そう言うと彼女は一端部屋に戻り、荷物を片手に基地正面ゲート入口へと向かう。・・・基地正面ゲート・・・「お待ちしておりました冥夜様」「すまぬ、少々遅くなってしまったな」「いえ、冥夜様も何かと忙しい御身分だと言う事は十分承知しておりますゆえ」「ありがとう月詠。それで此度の姉上からの召集・・・帝都で何かあったのか?」「申し訳ありません。私も詳しい事は聞いておりませんので」「そうか・・・ところで凪沙殿はどうしたのだ?」「彼女は先日から一足先に帝都に戻っております」「彼女も色々と忙しい様だな。ん、どうやら迎えが来たようだ」「そのようですね」「では行くとしよう」「ハッ!」そう言うと彼女達は迎えの車に乗り込み、一路帝都を目指す。帝都へ向かう間、冥夜は様々な事を考えていた。この時期に姉である悠陽直々に呼び出しを受けるとは思っていなかった事もそうなのだが、それよりもどう言った用件で自分を呼び寄せたのかが解らなかったのである。考えられる理由は色々とあるのだが、どれもこれも現状ではそれほど重要な事では無い。単に会いたくなったからなどと言う理由で呼び寄せる事などは考えられないし、不測の事態が起こった可能性が高いと考えるべきなのだろうと思っていた。しかし、これが本当の事になろうとはこの時彼女は気付いていなかった。悠陽達から知らされる真実が彼女の想いをより複雑な物にする事になろうとは思っていなかったのである・・・・・・シミュレータールーム・・・「アラド、前に出過ぎだ!もう少しブリットと足並みを揃えろ。ゼオラはもう少し敵を引きつけてから攻撃するんだ。お前ならそれでも間に合う筈だ」『『了解』』その日の夕刻、シミュレータールームでは新潟での作戦に向けての連携訓練に入っていた。現在行われているのは作戦に向けての最終調整である。「ラミア、ラトゥーニ、今の戦闘の観測記録を回してくれ」『『了解』』「・・・ふむ、まずまずと言ったところか」『キョウスケ』「何だアクセル?」『何故ラミアとラトゥーニの機体は電子戦装備なんだ?こちらは数が少ない上にこの様な仕様では正直戦力低下は否めんと思うが』「当日二人には戦域管制も行って貰う予定だ。装備のテストと言う事も含まれているが、今回の作戦では戦闘区域がかなり広範囲になるらしい。そう言った点から安定したデータリンクの為に必要になってくるという話だ」『なるほど、な』『それ以外にも理由が有るらしいわよ。帝国軍や他の国連軍機に対して、私達の機体を隠す意味合いがあるみたい』『ジャミングを掛けて機体の存在を隠蔽すると言う事か・・・』「そう言う事だ。次はポジションを変更して訓練を行う。ピアティフ中尉、プログラムをパターンA3からD5で頼む」『了解しました。それでは状況開始』訓練が再開される。今回のミッションでは新たに開発された改型用の電子戦装備が導入される事になっている。先程言った通りの事が主な理由なのだが、彼らはあくまで新型機や装備のテスト部隊と言う位置付けだ。その為にこの様な仕事が回って来るのも仕方が無いと言える訳である。その後、数回に亘って様々なポジションを試したり、装備の変更を行うなどして訓練が行われ、特に問題は無いと言う結果になった。後は当日になって微調整を行う程度である。そして様々なデータを検証した結果、当日担当するポジションが発表される。突撃前衛(ストーム・バンガード)をアクセル・アルマーとアラド・バランガ。強襲前衛(ストライク・バンガード)のポジションにキョウスケ・ナンブとブルックリン・ラックフィールド。砲撃支援(インパクト・ガード)はエクセレン・ブロウニングとゼオラ・シュバイツァー。迎撃後衛(ガン・インターセプター)ラミア・ラヴレスとラトゥーニ・スゥボータ、アルフィミィ・ブロウニング。制圧支援(ブラスト・ガード)担当はクスハ・ミズハ。最終的にこの様な感じの配置と言う事が決定された。「なお、先程も言ったようにラミアとラトゥーニ、アルフィミィには戦域管制も行って貰う予定だ。そして、状況に応じてお前達にはクスハのバックアップにも入って貰いたい。本来ならばもう少し煮詰めるべきなのだろうが、現状で一番良い成果を弾き出しているのはこのポジションだ。後は戦況に応じて臨機応変に対応するとしよう」『『「了解」』』「これまでの所で何か質問はあるか?」「機体性能を考えると俺よりもキョウスケ大尉の方が突撃前衛に向いてると思うんですけど、これには何か意味があるんですか?」「本来なら俺は伊隅大尉の様に迎撃後衛のポジションに付くべきなんだが、機体の特性上そう言う訳にもいかん。そして、あまり前に出過ぎると隊全体の様子も把握できんからな。それとお前はどうしても前に出過ぎる傾向がある。下手に下げるよりも前に出した方が得策だと判断したからだ」「なるほど・・・」「ブリットとアラドの機体にはシミュレーターでは無理だったが、実機にそれぞれシシオウブレードとスタッグビートルクラッシャーが装備される予定だ。上手く使ってくれ」「自分のシシオウは解りますが、ビルガーのクラッシャーがよく戦術機に装備で来ましたね?」「班長が頑張ってくれたそうだ。アジャストさせるのに相当骨が折れたそうだがな」「俺、後で班長のおっちゃんに礼を言っておくッス」「ああ。だがなるべく他の人間との接触は避ける様にしてくれ。前にも言ったと思うが、今回の任務ではお前達の存在は秘匿扱いだからな」「大丈夫ッスよ。そんなに俺って信用無いッスかね?」「今日の昼休み前に危うくバレそうになったのを忘れたのか?」「ゲッ・・・ブリットさんそれはもう勘弁して下さいよ。あの時上手く誤魔化してくれた事は本当に感謝してるんですから」「まったく、お前と言う奴は・・・。それでは各自これより機体の最終チェックを行ってくれ。俺はこれから作戦前の最終ミーティングに参加してくる」『『「了解」』』各々が自分の持ち場へと散って行く。集合時間まではまだ余裕があったのだが、他にする事も無いのでキョウスケもミーティングルームへ向かう事にした。「少し良いかキョウスケ」廊下に出た所で不意にアクセルに呼び止められる。この様な場所でと言う事は、あの場では話せない内容だと言う事だろう。「どうした?」「今回の任務、貴様はどう思う?」「どう言う意味だ?」「BETAの行動を予測する事は不可能だと聞いている。まあ香月 夕呼には以前の世界の記憶が在る訳だから今回の件は解らんでも無いが、どうもキナ臭い・・・」「何か裏があると?」「先程格納庫で偶然見かけたんだが、装備の中に妙な物が混じっていた。恐らくあれは麻酔弾などと言った類のものだろう。それ以外にも基地の方に必要ないと思われる大型車両が搬入されている。多数のコンテナもだ・・・貴様はどう思う?」「・・・恐らく今回の任務でBETAを捕獲するつもりだろうな。だが個体の研究はあらかた終了していると聞いている。ただ捕獲するだけならば必要ないと思うんだが」「俺も同じ結論に至った。そして俺達に捕獲任務が回ってこないと言う事は、ヴァルキリーズが担当すると言う事だろう、な」「なるほどな、俺達は彼女達が作業を円滑に進められるようにする為の露払いと言う訳か」「それだけでは無いだろう。帝国や他の国連軍の目をこちらに集めると言った意味合いも込められていると俺は考えている。あの女、なかなかの食わせ者だぞ」「彼女がそう言った人間だと言う事は見ていれば解る。俺達の機体の開発経緯はオルタネイティヴⅣの副産物と言う事になっているからな。恐らく彼女はその能力を意図的に第三者に見せる事で更に足場を固めるつもりなんだろう」「だがその様な事をすれば余計な敵を増やす事になる。帝国とは将軍との繋がりが出来た事によって何とかなるかもしれんが、他の国連軍や米国は下手をすれば情報の提示を求めてくる可能性がある。そんな事になってからでは本末転倒と言うものだ」「確かにな・・・だがどうする?今更俺達が作戦参加を拒否する事は出来んぞ?」「それは百も承知だ。しかしあの女の思惑が分からん以上、どうする事もできまい」「何故この様な話を今になってする?」「ただの気まぐれ・・・と言う訳ではないが、俺達は現在の境遇を考えるとあまり宜しくない立場だ。今後何かあった時の為に、俺達も香月 夕呼に対するカードを持っておいた方が良いと思ってな」「・・・お前の言いたい事は大体理解した。俺の方でも何か考えておくとしよう」「ああ、そうしてくれ」「それだけか?」「今の所はそれだけだな・・・っと、そう言えばキョウスケ、部隊名は決まったのか?」「まだ考え中だ・・・なかなか良い案が浮かばなくてな」「エクセレン・ブロウニング辺りに相談してみたらどうだ?」「既にした・・・『キョウスケと愉快な仲間達』などと言った部隊名、お前も納得いかんだろう?」「確かに、な。しかしあの女、いつもその調子なのか?」「毎回そうだと言う訳では無いがそう言う奴だ。また何か良い案があったら教えてくれ。スマンがそろそろ時間だ」「ああ」そう言うとキョウスケは、やや足早にミーティングルームへと向かう。彼と別れたアクセルは、先程の会話を思い出していた。「部隊名か・・・」そう呟いた彼の表情はどことなく暗い。そして・・・「そろそろ俺も本当の意味で過去にケリを付ける頃なのかもしれんな」そう呟くと彼はソウルゲインの最終調整の為に90番格納庫へと向かうのであった。・・・ミーティングルーム・・・「遅れて申し訳ありません」ミーティングルームに到着すると、参加メンバーは既に集まっていた。時間的な余裕はあった筈なのだが、アクセルとの会話が思いのほか時間を食ってしまったらしい。「構わないわよ。それでどう?上手くいきそうかしら?」「概ね順調です。当日トラブルでも起こらない限りは問題ないでしょう」「流石ね・・・さて、ミーティングを始めさせて貰うわね。事前に伊隅から連絡が行ってると思うけど、アンタ達にはそれぞれ異なった地点の警戒任務について貰うわ。A地点には伊隅、B地点は速瀬、最後のC地点を南部の隊に担当して貰う。中越と下越新潟地域の帝国軍にはその他の地点を担当して貰うよう手配するつもりよ」「副司令、他の国連軍部隊は今回の作戦に参加しないんですか?」「今回の作戦はあくまで警戒任務と言う事になっている。BETAの動きを完全に予測出来ている訳じゃないしね。もしもの時に備えて厚木基地の部隊に待機命令を出すつもりではいるけど、現状で割ける人員はこれが限界よ」「了解しました」「なにか他に質問は?」「南部大尉達の部隊が我々の隊と距離が離れている事には何か意味があるのでしょうか?」「彼らの部隊は今回の任務で色々とテストを行って貰う事になっているの。その為にあえて帝国軍の部隊から離れた位置に待機して貰う事になるって訳」「以前言ってた新型機ですか?」「ええ、詳細は資料の方に書いてある通りよ」「・・・全高41.2mってこれって戦術機なんですか?それに見た所武器も装備されてないようですし」「その機体はね、南部達の機体と同じ計画で開発された試作機の一つで『特殊戦術歩行戦闘機』、略して『特機』と呼ばれるものよ。武装に関しては近接格闘戦に主眼が置いて開発されている為、一切の携行武器は無いわ」「と言う事は徒手空拳で戦うって事ですか?」「基本的にはそうなるけど、何か問題でもあるのかしら?」「い、いえ・・・ただこんな機体に乗せられる衛士はちょっと可哀想だなぁ~って思っただけですよ」「なるほどね。まあ性能の方は問題無いと思うから大丈夫よ」「これも例の計画絡みなのでしょうか?」「そうね。今の所それ以上は明かす事は出来ないけど、そうだと思って置いて頂戴」「了解です」「それじゃあ今晩22時、っとこの場合22:00(ふたふた:まるまる)って言うんだっけ?まあ良いわ、その時間になったら各自ハンガーへ集合、その後問題が無いようなら新潟に向けて出発して頂戴」『『「了解しました」』』「んじゃ、悪いけど伊隅と速瀬は残ってくれるかしら?南部は解散して貰って構わないわよ」「ハッ!それでは失礼します」そう言ってキョウスケは部屋を出ると、先程のアクセルとの会話を思い出していた。自分だけを退出させたと言う事は、アクセルの予想通りと言う事なのだろう。少々面白くない話ではあるのだが、これも致し方ないと考える事にした。現状では有効な手札が無い事も事実だ。そして、下手に自分達で動こうにも良い手が無い。こんな時武が居たならば何かしらのアドバイスが貰えたかもしれないが、彼は未だに眠り続けていると聞いている。自分は現場に居た訳では無く話を聞いただけだったのだが、未だに目を覚まさないと言う事はそれだけ精神的にショックが大きかったと言う事だろう。「顔だけでも見て行くか・・・」そう言うと彼は、武が眠っている医務室へと足を向ける事にした。・・・横浜基地医務室・・・あれから数日が経過したと言うのに武は一向に目を覚まさないでいた。いくら話しかけても、体をゆすっても何の反応も返ってこない。彼は本当にこのままずっと眠り続けたまま目を覚まさないのではないかと言う不安が頭を過ぎる・・・「白銀さん・・・」社 霞は毎日この場所を訪れていた。以前の世界で自分がしていた様に、ここに来て彼を起こそうとする事で目が覚めるかもしれないと言う考えもあったのだが、それ以外にも彼女は様々な思いを胸に秘めていたのである。「いつになったら起きてくれるんですか白銀さん。いい加減に起きて下さい。皆待ってます・・・貴方が返って来てくれる事を」だが武からは何の反応も返って来ない・・・「・・・やっぱり待っているだけなのは辛いです。お願いです。早く目を覚まして下さい」ここ数日、彼女は同じ事ばかり繰り返していた。自分の力を使わず、ただ耳元で彼に話しかけているだけなのだ。意識を回復しない患者に何度も呼び掛ける事で、目を覚ます事があると聞いた事がある。恐らく彼女はそれを実践しているのだろう。しかし武はピクリとも反応しない・・・でも彼女は諦めたく無かった。彼は自分を救ってくれた。そして色々な思い出をくれた。そんな彼に対しての恩返しと言うだけでは無い。武もまた彼女にとって大事な人なのだ。そんな彼を救いたい・・・彼女はただひたすらそれだけを願っていたのである。だが、そんな彼女もそろそろ限界に来ていた。次第に武はこのまま戻って来ないかもしれないと言う感情が大きくなってくる・・・「こんな時、純夏さんが居てくれたら・・・『コンコン』・・・どうぞ?」不意に病室のドアがノックされる。そこに現れたのはキョウスケだった。「社・・・だったか?タケルの様子はどうだ?」「まだ目を覚ましません」「・・・そうか」「お見舞いですか?」「ああ」「・・・」「どうした?」「・・・最近不安に思うんです。白銀さんはこのまま目を覚まさないんじゃないかって」「そうか・・・だが君の想いは彼に伝わる筈だと俺は思う」「え?」「人の想いと言う物は時としてとんでもない力を発揮するものだ。君が目覚めて欲しいと願っていれば、それはいつかタケルの元にも届くはずだ」「そうでしょうか?」「ああ、だから信じて待ってあげるんだ。それでこいつが起きたら愚痴の一つでも言ってやれば良い」「・・・ちょっと意外です」「何がだ?」「貴方は私が思っていたイメージとは随分違う印象の方だと思って」「そうか、少しばかり心外だが仕方ないな。普段の態度を思い返してみれば、そう言った風に取られても仕方が無いと思っている」「すみません。そんなつもりで言ったんじゃないんです」「大丈夫だ。心得ているよ・・・それじゃあ俺はそろそろ行くとしよう。社もあまり無理はするなよ?」「はい、ありがとう御座います」キョウスケもまた普段の態度から誤解されやすい人間である。彼は普段は無愛想で寡黙な男だが、表面に出ないだけで実は静かに燃える熱血漢である。そして普段は相棒であるエクセレンの事を素っ気なく扱っているものの、内心では彼女の事を何より大切に思っている。過去にエクセレンが激しく傷付き落ち込んでいても周囲の人間はその態度に誤魔化され気付いていなかったのだが、彼だけは彼女のそんな一面に気付いていた。そしてその時彼女に『他の人間の前では笑っていろ、自分の前だけではこうしていて構わない』と言い励ました事もある。普段はその様な態度を取っていても、本来の彼は他人を思いやる事の出来る優しい男なのだ。彼もまた不器用な人間の一人だと言う事である。・・・2001.11.11 AM03:00・・・昨夜の内に横浜基地を出発したA-01部隊の面々は、当初の予定通り新潟に到着していた。そしてそれぞれが自分の機体に搭乗すると、最終チェックを行い始める。これと言った問題も特になく、輸送車両から機体が降ろされると、指定された集結ポイントへと向かう事になった。これからブリーフィングが行われるのである。「これよりブリーフィングを開始する。今一度確認しておくが、今回の任務はあくまで不穏な動きを見せているBETAに対しての警戒だ。よって、奴らが攻めてこない限りは無駄足になる可能性もある。だが、BETAの動きが予測できない以上、我々も油断はできない。そこで・・・」作戦内容が全体の指揮官である伊隅より伝えられる。本来ならこう言ったブリーフィングは前もって基地や仮設テントなどで行われる事が多い。だが、キョウスケ達の隊には訓練部隊に所属しているブリット達が臨時的に配備されている為、彼らは表だってブリーフィングに参加する事は出来ない。そう言った点から、今回は強化装備に内蔵されている通信機を用いてのブリーフィングが行われていると言う訳だ。そして、彼等が機体に搭乗したままこの様な事を行っているのには他にも訳がある。予定ではBETAが侵攻してくるのは明け方と言う事になっているのだが、あくまでそれは予定だ。動きが予想できない以上は、唐突に攻めてくる可能性も否定できないのである。「それでは各自、指定されたポイントへ移動してくれ。なお、今回の作戦では長距離データリンクを行う為、若干のタイムラグが発生する可能性がある。その事に留意して作戦行動に当たるように・・・以上だ」『『「了解」』』・・・AM06:18・・・辺り一面は静かだった・・・聞こえてくるのは波と風の音だけ・・・これから戦いが始まるかもしれないとは思えないほどの静けさだった。『大尉・・・本当に奴らは来るんでしょうか』『さあな、だが副司令の御言葉だ我々は信じる他あるまい?』『そうそう、私達は与えられた任務をこなすだけ・・・っと!』通信機越しに会話をしている彼女達の耳に遠くから聞こえる爆発音。程無くして全部隊に対して通信が開かれる。『ヴァルキリーマムより各隊へ、先程佐渡島より旅団規模のBETA群が日本海海底を南下するのを確認。現在、帝国軍日本海艦隊がこれに対し迎撃を行ってますが、有効な打撃を与えられていないようです。予想では06:25に第一次海防ラインに到達する恐れがあります。各機警戒して下さい』CP将校である涼宮 遙から現在の状況が報告される。予想通りの時間にBETAが動いた。『・・・どうやら手ぶらで帰らずに済みそうだ。全機出撃っ!』『『「了解!!」』』戦いの火蓋が切って落とされた。それと同時に横浜基地にもBETA出現の報が伝えられ、司令部は一気に忙しくなり始める。「状況を報告したまえ」「ハッ!06:20旅団規模のBETA群が日本海海底を南下。帝国軍日本海艦隊がこれを迎撃に当たるも、06:27BETA群は第一次海防ラインを突破し新潟に上陸。同時刻、第56機動艦隊が全滅したとの事です」「香月博士、君の予測が当たったと言う事かね?」「これほど的確に当たるとは思ってはいませんでしたが、概ね予想通りと言う事ですわね」夕呼はあえて驚いたような表情を浮かべながらその質問に答える。「フム・・・その後状況は?」「現在、旧国道沿いに展開している帝国軍第12師団が迎撃に向かっています。もう間もなく接敵するようですが・・・」「そうか・・・そのまま随時戦況を報告してくれたまえ」「ハッ!」「・・・此度の一件、どう見るかね?」「何らかの目的があるようですが、相手の動きが予測できない以上、今は何とも言えませんわね」「今回BETAが侵攻してくると予想した君でもかね?」「正直今回BETAが仕掛けてくる可能性は正直60%にも満たっていませんでした。念の為にA-01を警戒任務にあたらせたのですが、まさか本当に現れるとは思ってませんでしたので」「フム、現状では情報不足と言う所か・・・」「そう言う事です」もちろん夕呼が言っている事は真っ赤な嘘である。彼女は以前の世界での記憶を基に今回の作戦を立てている。武から聞いた話では、この後一部に戦線を突破され一時的にBETAをロストしてしまう結果になったと言う。だが前回の世界では、この後帝国軍第14師団が12師団と合流した事により戦況は優位に傾き、BETAは殲滅される事となった。そして・・・「06:48帝国軍第12師団がBETA群と接敵、その後第14師団が合流した事により現在順調に迎撃が行われているようです」「BETAの進軍予測はどうなっている」「ハッ!少々お待ち下さい・・・モニターに出ます」「なっ・・・奴らの戦略目標はこの横浜基地だと!?」「不味いですわね・・・」彼女の思惑を知っている者ならば、よくもまあこの様にしれっとした顔で言えたものだと思うだろう。彼女は顔に出してはいないものの、心では予定通りと思っていた。「現時刻を持って国連軍太平洋第11方面軍横浜基地は防衛基準体制2へ移行する。関係各所への通達を急げっ!」「了解っ!」『さて、ここまでは順調ね・・・後は伊隅達や南部達がどれだけ頑張ってくれるかだけど・・・』この時彼女は予定通りに事が運んでいる事に安心しきっていた。それも当然であろう。彼女は以前の世界での記憶を持っているのだ。そして、今回もBETAは概ね同じ動きを見せている。油断するのも無理は無いと言うのは仕方ないのであろう。しかし、こう言う時にこそ予想外の事は起こるものである・・・突如として基地に鳴り響く警戒音。そして、オペレーターから事態を震撼させる報告が伝えられる。「緊急連絡です!第二次防衛線を警戒中の帝国軍第13師団が全滅したとの報告が来ています!」「なんですってっ!?」「どう言う事だね?状況を詳しく説明したまえ」「申し訳ありません。報告によると、突如として地下から大量のBETA群が出没し迎撃する間もなく全滅させられたとの事です」「地下からだと?それは本当なのかね?」「はい、信じられない事ですが、そのように報告を受けています」「博士、どう思う?」「・・・恐らく、地下を掘り進んで来たのでは無いでしょうか?」「そんな事が可能だと思うのかね?」「現状ではそれ以外に考え付きません」「そうか・・・その後状況はどうなっている」「少々お待ち下さい・・・大変です!先程地下から出現したBETAが二手に分かれ、一方は第二次防衛線を北上、もう一方は帝都方面へと侵攻を開始した模様。このままでは日本海方面で迎撃に当たっている部隊が挟み撃ちにあう恐れがあります」「何と言う事だ・・・現状を即座に前線の部隊へ通達。各国連軍基地、並びに帝国軍に支援要請を行いたまえ」「りょ、了解!」想定外の事件が起こった。これには流石の夕呼も驚きを隠せない・・・恐らく以前の世界で横浜基地を襲撃した時と同じ方法を用いてBETAを防衛線の内側へ送り込んで来たのだろうと予測は付くのだが、こんな事は以前の世界では無かった。BETAがこちらの動きを読んでいたと言う事になる。そして、先程のBETAの行動はまさに戦術と呼べるものだ。新潟へ侵攻して来ているBETA群を陽動に使い、本命を地下から輸送して来ている事からそれは容易に想像が付く。『ありえない・・・』これが彼女が率直に思った事だ。現状で情報が漏れる可能性は少ない。可能性があるとするならば00ユニットなのだが、ODLの浄化も行っていない現状ではそれは考えられないのだ。これもまたキョウスケ達が転移して来た事によるイレギュラーの一つなのだろうか?こんな事が起こってしまっては、派遣した部隊が全滅してしまう恐れがある。この時夕呼は初めて自分が今回の事を楽観視していたことを後悔していたのであった・・・あとがき第20話でーす。序盤はなんだか前回と前々回の補足みたいになってしまいましたね。別に今回の話で書かなくても良かったかもしれないと、書きあげてから少々後悔しております・・・orz何だか場面展開とかも詰め込み過ぎたような気がしないでも無いですが、本当に自分の文才の無さに凹んでおります。もう少し上手く纏める様になれれば良いのですが・・・さて、今回登場する事になった改型の電子装備型について書かせて頂きます。Type94KE 不知火改型・電子兵装仕様不知火改型に偵察、電子戦用の装備を施した機体。頭部側面、胸部、肩部、脚部のそれぞれに複合センサーを搭載しており、背部には巨大なレドームが装備されている。基本的な運用は戦場でのデータ収集並びに索敵、また強力なジャミング能力も搭載している。その為、装備可能な武装は限られており、戦闘力は従来機に比べて低下している。よって、部隊の最後方に配備される事が基本となっている他、広域データリンクを行う為の機能も搭載している為臨時の指揮車代わりに使用される事が多い。ちなみにこの装備は接続部のアタッチメントを交換する事で吹雪や不知火などの帝国製戦術機に装備する事も可能だが、その場合は背部に装備された74式稼動兵装担架システムが使用不可能となる。こんな感じの仕様となってます。ついでに書かせて頂きますが、改修された叢雲に関してですが、改修時に改型と同じ様に機体背面にコネクターが増設されております。詳細は次回以降で書かせて頂きますのでもう少々お待ち下さいませ。後、皆様の予想通りブリットとアラドの機体に装備される武装はシシオウとクラッシャーでした。彼等が戦術機である程度本領を発揮する為には必要かと思ったので装備させてみたのですが如何なものでしょうか?そして物語は急展開。佐渡島から侵攻して来たBETAですが、当初は原作通りに話を進める予定でした。でも折角キョウスケ達も参加しているんだからそれじゃあ面白くないだろうと思い、今回この様な描写とさせて頂いております。そしてお待たせしました。次回はいよいよキョウスケ達が大暴れです。更にはとんでもない?サプライズも用意しておりますので楽しみにお待ちください。それでは感想の方お待ちしております^^