Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第23話 新たなる力「はぁぁぁぁぁっ!!」彼女は眼前に広がるBETAに向け尚も直進しながら、自身が最も得意とする近接戦闘を用いて次々と両断していく。『御剣さん、前に出過ぎ!そのままじゃ孤立しちゃうよっ!』「大丈夫だ。そなたの援護を期待している」『冥夜、鑑少尉の言う通りです。一度下がりなさい』「あ、姉上・・・了解しました」悠陽にそう言われた冥夜は素直にそれに従うと、機体を下げ彼女達と合流する。「姉上、例の特機は無事なのですか?」『機体そのもののダメージはさほど心配ないそうです』「そうですか・・・それにしても凄いものですね。あの者が我等の味方をしてくれている事が本当に心強く思えます」『でも油断はできないよ。さっきからBETAの数が少しずつ増えてきてるし』「うむ・・・凪沙少尉、何か情報は来ていないか?」『どうやら新潟に向けて北上中だったBETA群の一部がこちらに反転している様です。恐らくあの特機に反応しているのではないかと』『厳しい戦いになりそうですね・・・ですが我々はここで引き下がる訳にはいかないのです。辛い戦いになるとは思いますが、ここは皆の力を一つにあわせ、何としても食い止めるとしましょう』『『「ハッ!」』』彼女達はそれぞれエレメントを組みながら、尚も眼前に広がるBETA群に対し攻撃を続ける。「くらえ!オーバー・ビームッ!!」額に収束されたエネルギーが次々とBETAを打ち抜いてゆく。「くそっ!キリがねえ・・・」『ぼやくなコウタ。ここを突破されてしまえば帝都と呼ばれる街が危ないんだぞ』「そんな事は解ってるっ!・・・それよりもロア、敵が何だかこっちに集中していると思わないか?」『あくまで俺の予測だが、BETA共はカイザーに引き寄せられているのかもしれん。いや、カイザーと言うよりはオーバーゲートエンジンに引き寄せられていると言った方が正しいか・・・』「なんだって!?それじゃあショウコのGサンダ―ゲートもヤバいじゃねえか!」『既に彼女は安全圏に離脱している。最後尾の部隊が突破されない限り、彼女に被害が及ぶ心配は無い筈だ』「それでも万が一って事もある。こっちに向かって来るってんなら、纏めて相手をしてやるぜ!」『その意気だ・・・と言いたいところだが、あまり無茶をするなよ?』「解ってるよ。さっきの二の舞は御免だからな」『なら良い。来るぞっ、コウタ!』「おうっ!・・・くらえ!必殺!!」カイザーの胸部装甲が展開されエネルギーが収束される。「カイザー・バァァァストッ!!」再び放たれた高エネルギーの波に次々と飲み込まれて行くBETA達。こう言った物量戦において、これらの武器を用いる事は戦闘を優位に運ぶ上での常套手段と言えよう。相手にもよるが、広範囲への攻撃が可能な武器は群がる敵に対してかなり効果的な装備となる。破壊力を一点に集中させる事で目標に対して甚大なダメージを与える他、拡散もしくは薙ぎ払うように放つ事で短時間で敵を殲滅する事が可能となる事が主な理由と言えよう。戦術機にはこう言った兵器は装備されていない。機体サイズや動力源と言った物も一つの理由なのだが、この様な武器は一種のオーバーテクノロジーと言える。現在の所、この様な兵装が装備されている機体は米国が開発したXG-70と呼ばれる戦略航空機動要塞に搭載された荷電粒子砲だけである。荷電粒子砲とは機体に搭載されたML(ムアコック・レヒテ)型抗重力機関とそこから発生する重力場(ラザフォード場)で機動制御及びBETAのレーザー兵器を無力化し、重力制御の際に生じる莫大な余剰電力を利用した兵器である。しかしこの機体は実戦配備が行われていない。その主な理由はこの機体に搭載されたML型抗重力機関と重力場が完全に制御できていない為である。当時の技術力ではラザフォード場の多重干渉問題などが解消されず1987年に開発を一時凍結、現在はモスボール処置が行われ米国によって厳重に保管されている。結果としてこれらの事から米国は、G弾使用を前提としたハイヴ攻略作戦に切り替える戦術を用いる事となったのだが、もしもこの機体が実戦投入されていたならばG弾の台頭などと言う事にもならなかっただろう。だが、これらのオーバーテクノロジーは扱いは難しいものの、一度制御化に置く事が出来ればこれほど心強い物は無い。現にこの機体が完成していたならば、従来の百分の一以下の戦力でハイヴ攻略が行えるようになっていたという事からこの様な兵器が持っているポテンシャルは相当なものだという事が解る。『司令所より全軍に次ぐ、12時方向より旅団規模のBETA群の増援を確認。数はおよそ1万から1万5千。このままの進軍速度でBETAが南下した場合、約10分後に接敵すると思われます。各自、敵の増援に備えて下さい』「クッ、ここに来て旅団規模の増援か・・・ただでさえ手一杯だってのに勘弁して貰いたいぜまったく」『剛田中尉、ぼやいている場合ではないぞ!気を引き締めんか!』「ハッ!申し訳ありませんでした紅蓮閣下。この剛田、この程度の事で負けはしません!友との約束を果たす為にもここを何としてでも食い止める所存であります!」『うむ、その意気だ剛田よ。もう少々堪えてくれ、何とかしてそちらに支援部隊を回すよう手配する』「ハッ!ありがとう御座います。皆、聞いているな?増援が来るまでの間、何としてでもここを死守するぞ!」『『「了解っ!」』』「行くぞBETA共!この俺が居る限り、絶対に帝都には行かせん!」剛田は部下に檄を飛ばすと共に自分自身も鼓舞する。彼の名前は『剛田 城二』、帝国斯衛軍第1大隊所属の中尉である。その性格は一言で言うならば猪突猛進型、そして時々もっともらしい事を言う為侮れない男である。かつての彼は現在よりも更に人の話を全く聞かない猪突猛進型で、あまりのワンマンプレーぶりから周囲の人間に鬱陶しく思われていた。しかしBETAの本土侵攻の際、自身の無力さを思い知らされた彼は打倒BETAと言う信念と友に託された願いから、斯衛軍大将紅蓮 醍三郎を師と仰ぎ日々精進を重ねた結果、幾分かその性格もまともになり現在は斯衛軍第1大隊の小隊長を任される程に成長していた。「友よ・・・お前も今何処かで戦っているんだろう。帝都の事は俺に任せろ、そしてお前が帰って来るまでの間何としてでも俺が帝都を守ってやる。それがお前との約束だからな・・・くぅぅぅぅっ!やっぱ俺ってカッコイイ~。何か俄然やる気が出て来たぜっ!」『剛田中尉、さっきから何をブツブツ言ってるんですか?』「い、いや何でも無い。それよりも行くぞお前ら!」『『「了解」』』彼の部下達は『また中尉の悪い妄想癖が始まった』と考えていた。だが、戦場でこの様な妄想にふける事が出来るという事はそれだけ余裕があるという事の裏返しである。少々間の抜けた感じのある上官ではあるが、彼の部下達はそんな剛田の事を信頼していた。こんな彼であっても実力は本物なのだ。幾度となく窮地を救われた事もある。普段は変な奴と思われている彼であっても、ひとたび戦場に立てば頼れる上官だという事を部下達は十分に承知している。そんな彼らは、剛田の妄想癖も自分達をリラックスさせる為の芝居なのではないかと考える事で納得していた。尤も当の本人はそんなつもりなど全く無いのだが・・・『司令所より各機、第18中隊が敵増援部隊の第一陣である突撃級と接敵しました。敵後方に戦車級並びに要撃級多数。更に後方に要塞級が10体確認されています。各機警戒して下さい』「皆の者、ここが踏ん張りどころだ。何としてでもここで食い止めるぞ!」『『「ハッ!」』』斯衛軍大将、紅蓮 醍三郎が皆に檄を飛ばす。『司令所より各機、増援の最後尾に光線級を多数確認。レーザー照射に・・・』CP将校がそう言いかけた直後、次々とレーダーから消滅していく光線級。「どうした。何があったのだ!?」『ハッ!申し訳ありません。先程確認した光線級が何者かによって次々と倒されています』「何だと?現在そちらに展開している部隊は居ない筈ではないのか?」『現在確認中です・・・紅蓮閣下、国連軍からの増援部隊です。通信をそちらに回します』「おお、それはありがたい」『こちらは国連軍横浜基地所属A-01部隊南部 響介大尉です。これよりそちらを援護します』「帝国斯衛軍大将紅蓮 醍三郎である。我が主に代わって礼を言わせて貰おう。南部大尉、協力に感謝する」『ハッ!こちらに展開している部隊は少数の為、少々心許無いと思われるかもしれませんが現在展開中の光線級は我々にお任せ下さい』「うむ、貴公らの働きに期待させて頂くとしよう」『了解です閣下・・・行くぞ、第一優先目標は光線級だ。手当たり次第叩き潰せ!』『『「了解っ!」』』「皆の者!南部大尉達に後れを取らぬよう、こちらも戦線を押し上げる!我に続けぃっ!!」『『「ハッ!」』』この状況下でのキョウスケ達の増援に紅蓮は心底感謝していた。こちらは確かに精鋭部隊で構成されている。そして謎の特機と呼ばれる機体が自分達を助けてくれてはいるものの油断は出来ないのだ。紅蓮は彼が連れて来た援軍は、少数で心許無いかもしれないと言っていた事に対し心の中で否定していた。それには理由がある。BETAの増援部隊は二手に分かれたとはいえかなりの規模の部隊だった筈だ。彼らはそこを突破して来た。そして彼らの後にBETAが続いてこないという事は、その大多数を彼等が撃破して来ている証拠だと考える。こう言った事から紅蓮が導き出した答えは、キョウスケ達の部隊は少数精鋭で構成された特殊部隊だという結論に達したという訳だ。「おいロア、今紅蓮っておっさんが言ってた南部大尉ってもしかして・・・」『ああ、こちらでも確認した。機体の見た目は変わっているが、機体の識別コードはこちらに記録されているアルトアイゼンの物に間違いない』「本当か!?やっぱりキョウスケさん達もこっちへ飛ばされてたんだな。他の奴らの事も気になる。通信を開いてくれ」『了解した』キョウスケ達に対して通信を試みるロア。『キョウスケさん、無事だったんだな』「っ!コウタか?先程ラトゥーニが言っていた反応はカイザーの物だったのか」『ラトゥーニもそっちに居るのか?』『ラトちゃんだけじゃないわよコウタ君』『エクセ姉さんも!なあ、他の奴らは居ないのか?』『俺達も居るぜコウタ!』次々とモニターに映し出される懐かしい顔・・・『アラド、ゼオラ、ラトゥーニ、ブリットにクスハも・・・良かった、みんな無事だったんだな!心配させやがってコンチクショウ!』「コウタ、詳しい話は後だ。今は協力してBETAを殲滅するぞ!」『ああ!そうと決まれば一気に行くぜ!』仲間の無事を確認した彼らは展開中のBETAを殲滅すべく行動を開始する。「はいはい、押さないで~。一列に並んでね?」「あんた達なんかに負けてたまるもんですか!」それぞれが支援突撃砲を片手に光線級に対し狙撃を行う。背後を取られる形となっている光線級は、直ぐに反撃を行う事は出来ず次々と沈黙していく・・・「俺達も行くぞアラド!」『了解ッス!』ブリットとアラドはシシオウと長刀を引き抜くとBETAに向けて突撃を開始する。「受けろ!獅子王の刃を!たあああっ!!・・・シシオウ・ブレードッ!!」『スピードに乗せて・・・斬るっ!!』戦場を駆け抜けながら次々とBETAを両断していく二機の不知火。その姿はまるで疾風の如く駆ける野生の獣と言ったところだろうか?「凄い・・・機体の動きもそうだが、あの剣捌き・・・何と見事なものだろうか」『見とれてる場合じゃないよ御剣さん。私達も頑張らないと』「ああ、だがあの太刀筋・・・以前どこかで見た事がある様な・・・」『知ってる人なの?』「いや、多分気のせいであろう。あの者がこの様な場所に居る筈無いからな」冥夜の推測は間違ってはいない。彼女は以前の訓練で見たブリットの太刀筋と目の前の戦術機のものが似ている事に気付いたのだが、一介の訓練生である彼が戦場に居る訳が無いと考えていたのだ。後にこの事が原因となり一悶着あるのだが、詳しくは時が来た時に明らかにさせて頂く事としよう。『キョウスケ大尉、前方の要塞級の様子が変です』「どうしたラトゥーニ」『いきなりその場にしゃがみ始めて・・・ハッ、もしかすると私達が転移してくる前の戦闘と同じく、体内から小型種を出そうとしているのかもしれません』「クッ!各機、要塞級から敵の増援が出てくるぞ。注意するんだっ!」キョウスケは各自に警戒を促すと、自身も増援に備え迎撃の準備を整える。『敵増援の識別完了しました。光線級を多数確認』「このタイミングで光線級か・・・エクセレン、ハウリング・ランチャーEモードの使用を許可する。奴等が発射態勢に入る前に倒すんだ!」『いいのキョウスケ、後で夕呼センセに何か言われるわよ?』「斯衛軍の連中に見られてしまうのは確かに問題だが、この状況では形振り構っていられん。放っておけば被害が増える事になる」『りょ~かい。んじゃ、ハウリング・ランチャー・・・Eモードっと。いざ!』封印を解かれたハウリング・ランチャーが咆哮を上げる。次々と打ち抜かれて行く光線級・・・だが、数体撃ち落としたところでこちらの攻撃が届かなくなる。「もう!邪魔しないでほしいわね。そんなに慌てなくてもあなた達の相手は後でゆっくりしてあげるのに・・・」『そんな冗談を言っている場合か。ブリット、アラド、こちらの攻撃を防いでいる突撃級を叩く。俺に続け!』『『了解っ!』』エクセレンの攻撃が届かなくなった理由。それは数匹の突撃級が光線級の前にでてそれらの攻撃を防いでいるからであった。突撃級は前面に頑強(モース硬度15以上)な装甲殻を持ち、確認されている8種の内で最大の防御力を誇る。無敵と言う訳では無く、36mmの一点集中攻撃や、120mmの連続攻撃で全面装甲を貫通する事は可能であるが、強固な盾と言う事には変わりない。例えビーム兵器であるハウリング・ランチャーEモードであっても、突撃級ごと光線級を打ち抜く事は難しいのだ。これにはヴァイスリッターがフルスペックを発揮できない事も一つの理由なのだが、現状ではそのような事も言ってはいられない。光線級は高度1万mの標的に対し有効射程距離は30km。決して味方誤射はしないと言われ、戦場で確認した場合は優先的に排除する事が基本となっている。斯衛軍の被害を最小限に留めたいキョウスケ達は、邪魔な突撃級を排除すべく攻撃を開始する。「伊達に大きくなったわけではないぞ・・・!」前方に展開する突撃級の一つに目標を定めると一気に距離を詰めるキョウスケ・・・「どんな装甲だろうと、ただ撃ち貫くのみ・・・!!」その攻撃は真正面からこちらに向かって来る突撃級の装甲殻を撃ち抜く。そして彼は続け様に肩部のハッチを展開させトリガーを引く・・・「一発一発がチタン製の特注品だ。受け取れ・・・!!」至近距離で発射されるアヴァランチ・クレイモア。機動制御能力や旋回能力の低い突撃級は成す術無くそれらをすべて受ける事となり一瞬にして肉塊に変えられていた。そして後に続くブリットやアラドも側面から攻撃を行う事で次々と突撃級を排除していく。「何と言う事だ・・・突撃級に真正面から挑んだだけでなく、一瞬にしてあのような姿にしてしまうとは」流石の紅蓮もこの光景には驚いていた。その姿はまさに一騎当千。それと同時に彼は『この戦は勝てる』と確信していた。「ワシも負けてはおれん。この紅蓮 醍三郎、まだまだ若い者に後れを取るつもりは無い!」気持ちを切り替えた彼は、キョウスケ達の後に続くかの様にBETAに向けて突撃する。しかし、その直後に彼は光線級がこちらに向けて攻撃を仕掛けてこない事に気付く・・・いくら光線級が味方を誤射しないとは言えこれはおかしいと考えていた。その直後、HQより全部隊に向けて通信が開かれる。『司令所より各機、上空より接近する物体を確認・・・これは再突入殻です!』「再突入殻だと?援軍か・・・数は」『確認できるのは1機だけです』「なに?所属はどこだ」『少々お待ち下さい・・・敵味方識別コード確認できました。国連軍横浜基地の物です』この状況でたった一機のみの増援に対し、紅蓮はそれが不思議に思えて仕方が無かった。確かに援軍は嬉しい事なのだが、その数がたった一機だけという事に妙な違和感を覚えたのだ。『レーザー照射警告が出ました。各自回避行動を取って下さい』警告が出た直後、光線級が既にレーザー照射態勢に入っていた。しかし、光線級は此方に照準を向けている訳ではない・・・何処を狙っているのかと光線級の目線を追って見た紅蓮は、奴等が上空の再突入殻に狙いを定めている事に気付く。「いかん!再突入殻に向けて警告を出すのだ。こちらも全力で光線級の排除を試みる!」『先程から通信を開いているのですが、一向に反応がありません』「なんだと!中には何も乗っていないとでも言うのか?」そう言いながらも彼は危険を承知で光線級の排除に取り掛かる。だが、全てを排除する事は間に合わず、何体かの光線級にレーザー照射を許してしまう。次々と再突入殻に直撃するレーザー・・・このままでは後数秒と持たずに再突入殻は破壊される。誰もがそう考えている中、突如として再突入殻の上部が吹き飛ぶ。最初は誰もが光線級の攻撃によるものだと考えていたのだが・・・『再突入殻の内部から何かが出ました・・・これは、戦術機です!!』「なに!?」CP将校がそう叫んだ直後、上空の戦術機から放たれる無数の光弾。それは次々と地上の光線級を撃ち抜いて行く・・・「今のは粒子兵器か!?」『ええ、フォトン・ライフルの粒子ビームによく似ていますけど・・・』『戦術機にフォトン・ライフルが装備できるわけ無いじゃない。確かに見た目はフォトン・ライフルそっくりみたいだけど』彼等が驚くのも無理は無い。フォトン・ライフルとはPT用に開発された非実体弾ライフルである。本来これらの兵器はジェネレーターから発せられる余剰電力を転換し使用される物で、戦術機に搭載されているジェネレーターでは発射させる事は不可能と考えられている。それ以前にPTと戦術機では規格が違い過ぎる為、実体弾ライフルや実剣がメインの戦術機の装備をPTが使用する事は可能であってもその逆は不可能だと誰もが思っていたのだ。「どうやら俺達は香月副司令を甘く過ぎていた様だ」『どう言う事です?』「彼女には交換条件として俺達の機体のデータを提供した。それらのデータを基に戦術機を改良したんだろう」『じゃあアレはPTと戦術機のハイブリッド機って事ですか?』「恐らくはな。そしてあの戦術機は不知火改型だろう」『まさか!』彼等がそのような会話をしている最中も、上空の改型は攻撃の手を緩めない。地上の光線級をあらかた片付けた彼は、次の目標に狙いを定めると機体を一気に下降させる。「兵装を近接戦闘(クロスレンジ)モードに」コックピット内の彼はそう呟くと、改型の手に持たせていた兵器を両手に持ち替える。ライフルのストック部分から光りが発せられ、徐々にそれは刀身を模って行く・・・「うおぉぉぉぉっ!!」彼は目標に定めた要塞級に向けてさらに加速するとすれ違いざまに一閃・・・そのまま機体を上空へ飛翔させる。要塞級はそのままその場に崩れ落ち絶命していた。『今度はビームソードかよ』『そんな、この短期間でライフルだけじゃなくソードまで再現したって言うの?』『しかも複合兵装なんて・・・どう考えても無理ですよ』「案外、Mk-Ⅱのフォトン・ライフルにビームソードをそのまま使ってたりして・・・夕呼センセもやってくれるわね~。こう言うのもリサイクルって言うのかしら?」『彼女が何を考えているのかは解らんが、今のあの機動・・・テスラドライブも装備しているなあの機体』『マジっすかキョウスケ大尉!?』『戦術機があの様な機動をとれるとは思えん。現に今もあの改型は上空で停止しているからな』『そんな、まさかこんな短時間で解析を終えたどころかコピーまで用意するなんて・・・』『でも完全なコピーは出来て無いと思う。それが証拠にあの機体からはT・ドットアレイを用いたフィールドが形成されてないもの』驚いていたのは彼らだけでは無かった。現存の戦術機を知る者であれば、目の前に突如として現れた機体が従来機とは一線を画すものだという事に気付くだろう。帝国斯衛軍の衛士達は次々と起こる出来事に対して驚きを隠せない。そんな中、謎の戦術機からその場に居た全ての者に対して通信が開かれる。「こちらは国連軍横浜基地特務部隊所属、白銀 武大尉です。これよりそちらを援護します」『た、タケルだと・・・本当にその機体に乗っているのはタケルなのか?』「ああ、ってその武御雷に乗ってるの冥夜なのか?」『私も居ますよ白銀』「で、殿下!?」『何をそんなに驚いているのです?私が戦場に出ている事がそんなに不思議でしょうか?』「い、いえ・・・殿下も決意なされたという事ですね」『はい、ですが今はその様な事を話している場合ではありません。そなたの力、私達に貸して頂けますね?』「もちろんです殿下。俺はその為にここに来たんですから・・・」『やっと起きたか』「キョウスケ大尉・・・心配をおかけしてすみませんでした」『気にする事は無い。色々と聞きたい事もあるが、今は目の前のBETAを倒す方が先決だ』「はい」この時純夏は武の方を見る事が出来なかった・・・自分が直接やった事では無いとは言え、今の彼女は面と向って武と顔を合す事は出来ないと考えていたのだ。そんな彼女の元に悠陽から秘匿回線が繋がれる。『鑑少尉、いえ純夏さん。彼と話さなくて良いのですか?』「殿下・・・私はまだタケルちゃんと話す事はできません。それにどんな顔して会えば良いのか分からないから・・・」『そうですか・・・ですが白銀はそなたが考えている様な男では無いと私は思います。あの者は私達に力を貸す為にここに来たと言いましたが、恐らくそなたに会いに来たのでしょう。それ程までに一人の殿方に想われているそなたが羨ましいですね』「でも・・・」『先程そなたはどのような顔をして会えば良いのか分からないと申しましたね』「・・・はい」『そう言う時は自分が白銀に一番見せたいと思う顔をすれば良いのです。あの者ならば笑ってそなたを迎え入れてくれると思いますよ?』「ですけど」『これは政威大将軍である煌武院 悠陽としてではなく、そなたの友人の一人として申しているのです。そなたはあんなに白銀に会いたがっていたではありませんか』「・・・ありがとう御座います殿下。でも今はまだ決心がつきません・・・自分の考えがまとまり次第、近いうちに私の方からタケルちゃんに会いに行く事にします」『そうですか、では私ももうこれ以上は何も言いません。ですが、その為にも先ずは目の前のBETAを何とかしましょう。ここで我等がやられてしまってはそなたの決意も無駄になってしまいますからね』「はい」悠陽に対してそうは言ったものの、彼女は悩んでいた。恐らく武は自分に会う為にここへ来たのだろうと言う事は彼女にも解る。だが純夏は彼が自分に会いに来た事には他に理由があるのではないかと考えていた。もしかしたら武に罵られたりするかもしれない。その様な不安もあって彼女はなかなか彼に会う決心がつかないのである。そんな彼女の不安を他所に物語は二人の再会に向けて歩みを進めて行く・・・様々な人間模様を描きながら・・・あとがき23話です。新潟編の佳境です。今回で終わらせる予定だったのですが、もう少しだけ引っ張ってみる事にしようと思います。特に理由は無いのですが、強いて言うならば私の力量不足と言った所でしょうかTT何だか上手く纏める事が出来なかったので、戦闘シーンの終了は次回以降に持ち越させて頂こうと思います。さて本編についてですが、キョウスケ達と斯衛軍が合流しました。キョウスケとコウタも再会しました。後、ちょっとだけ剛田君にも出て貰いました。彼は斯衛軍所属とさせて貰ってます。性格に関しての描写は現状で自分が解ってる範囲内の物などから書かせて頂いてますが、違和感などを感じられた場合は教えて頂ければと思ってます。相変わらずカイザーは圧倒的な破壊力でBETAをなぎ倒してますwそして今回のアルトに関する描写ですが、キョウスケ自身がどんな装甲でも打ち貫くと言っているので突撃級を撃ち抜いて貰った次第であります(笑)正直無理があるかとも思いましたが、最近あまり活躍させる事が出来て無かったのでこう言うのもアリと思って頂ければと思います。遂に復活したタケルちゃんとその力の片鱗を見せた改型。もっと色々と書ければと思ったのですが、この辺も次回以降に書かせて頂くと言う事でご了承ください。さて、前回告知したとおり改修された改型のデータを書かせて頂きます。Type94K 不知火改型・壱号機改ヴァルキリーズとの模擬戦終了後に改修された改型。改修の際に通信機能やアビオニクスなども改良が施され機体の総合性能はさらに向上している。今後、残りの機体も同じような改修を施される予定となっている事から形式番号や名称は変わらず同じ物が用いられている。PT解析によって得られたデータを基に開発されたプラズマジェネレーターとテスラドライブのデッドコピー品が搭載される事となり、ジェネレーターの換装によって得られた余剰電力により、叢雲改型で不採用に終わった電磁粉砕爪(プラズマクロー)が新たに固定兵装として追加されている。テスラドライブは、現状では完全に再現する事は不可能と判断され、能力はオリジナルの物と比べ劣るものの、高機動型跳躍ユニットとして考えれば従来機を凌ぐ性能を持っており、短時間であれば飛行も可能。なお、解析によって開発された装備類はこちら側の世界に現存する技術を用いて作成されたものであり、設計者である香月 夕呼自身がコピーしようとした物と発言している他、出力などの性能もオリジナルの物と比べ約70%程度しか出せず完全なデッドコピー品とは言えない物となっている。その他にも正式採用には至らなかった試製92式小型突撃砲が新たに装備されている。これは87式突撃砲を小型化したもので、近距離での取り回しと連射性を重視し開発された物なのだが、弾倉が小型化された事による装弾数の低下、120mm滑空砲ユニットの装着が不可能と言った点から正式採用が見送られた兵器である。しかし、近接戦闘時での取り回しの良さと武のポジションを考えた結果、彼の機体にのみ試験的に採用される事となった。通常時はサイドアーマーに増設されたラッチにマウントされている。そして武の搭乗する壱号機には更なる武装として遠近両用の複合兵装が装備されている。これはヒュッケバインMk-Ⅱの解析時に得られたデータを基に武の戦闘スタイルに合わせて開発された武器で、現在は武機に装備されている物のみとなっている他、弐号機以降の改型に装備される予定は今の所無い。尚、武用の壱号機の頭部には通信機能強化の為と識別の為のブレードアンテナが新たに装備されている他、牽制や対小型種用の近接防御機関砲が新たに増設されている。それ以外の機体外観の差異はほとんど他の改型と同様の物となっている。武装試製01式頭部近接防御機関砲×265式近接戦闘短刀×2試製92式小型突撃砲×2 74式近接戦闘長刀×2折り畳み式電磁粉砕爪(プラズマクロー)×2試製01式可変型複合兵装・Sraipnar-V.C.W.S(Variable Composite Weapon System)×1こんな感じの機体となってます。イメージとしては戦術機版のストライクノワールガンダムと言った所でしょうか?以前感想掲示板に書き込んで頂いた案を基にさせて頂きました。続けて複合兵装の解説です。試製01式可変型複合兵装・Sraipnar-V.C.W.S(Variable Composite Weapon System)Mk-Ⅱのフォトン・ライフルとビームソードを合体させた複合兵装。武用に改良された不知火改型は新型ジェネレーターが搭載された事により、従来機に比べ大幅な出力向上を得る事が出来た。その為、発生する余剰電力を武装に転換出来ないものかと考えられ新型武器の開発が行われようとしていたのだが、現状ではそれらの物を開発できるだけの時間や労力も無く、あえなく廃案となってしまう。そこで香月 夕呼は、90番格納庫に放置されていたMk-Ⅱのフォトンライフルとビームソードに着目し、それらを半ば無理やり合体させる事で壱号機の新型武装として採用する事にしたのである。二種類の兵装を合体させると言う案は米軍が開発した試作型戦術機YF-23用に開発された突撃砲でも採用されており、これらの案を基にこの兵装ではライフルのストック部分にビームソードを二本束ねる様に配置する方法が取られた。また、二本の刃を収束させる事で威力の向上が図られている他、取り回しの良さなども考慮されライフル本体の各部形状なども改良が加えられている。ロングレンジモードでは通常のライフルとして、クロスレンジモードではバレル部分を柄の様に持つ事で運用されるのだが、サーベルと言うよりは槍に近い装備になっている。しかし、戦術機とPTでは規格が違う為にそのまま装備する事は不可能であり、苦肉の策としてコネクター類や制御系を含めてごっそりMk-Ⅱから移植すると言う強引な手段が採用された。しかし、搭載されているジェネレーターがあくまでコピーしようとしたものである以上、オリジナルと同等の出力を得る事は不可能であることから威力などは70%程度に低下している。この様な物に仕上がった理由は、開発者である『香月 夕呼』の『面白そうだから』と言う一言だったらしいのだが、本当かどうかは定かでは無い。ちなみにこの件に関してはキョウスケ達に内緒で行われていたらしい。なお、名称のSraipnarはEX世界で武がプレイしていたゲーム内に登場する機体の武器から、V.C.W.Sは可変型複合兵装の英訳の頭文字を取ったもので、命名者は白銀 武本人となっている。クロスレンジモードは参式斬艦刀をイメージして頂ければ分かりやすいかもしれません。それからこの武器の名前なんですが、全くと言っていいほどいい案が浮かびません・・・TT改良された改型も良い名前が浮かばなかった事からとりあえずそのままの名前を使ってますが、こう言った名前はどうだろうと言うのがあれば何かアドバイスを頂けませんでしょうか?もちろん機体や武器に関するアドバイスだけでは無く、小説を書く上での表現方法などのアドバイスも頂けると嬉しいと思ってます。今回皆様から様々なご指摘やアドバイスを頂き、自分としても色々と考えさせられました。一度アップした内容を再度検討し、後半部分と設定に関しての部分を修正して再度アップさせて頂いております。修正内容に納得のいかれない方もいらっしゃるかも知れませんが、自分の現在の力量ではこれが限界です。以上の事を踏まえた上で今後とも私の駄作を読んで頂ければと思います。