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No.4008の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION (Muv-Luv オルタ&SRWOGクロスオーバー作品)[アルト](2013/01/21 20:25)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第0話 プロローグ[アルト](2008/08/28 21:08)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第1話 異世界からの来訪者[アルト](2008/08/29 21:41)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第2話 新たなる出会い・・・そして・・・[アルト](2008/08/31 20:44)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第3話 イレギュラー[アルト](2008/08/31 20:40)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第4話 再会[アルト](2008/09/16 23:44)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第5話 姉妹の絆[アルト](2008/09/04 01:33)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第6話 不協和音[アルト](2008/09/05 08:43)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第7話 過去、そして現在(いま)・・・[アルト](2008/09/07 08:55)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第8話 侵入者の影[アルト](2008/10/16 22:13)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第9話 抹消された戦術機(前編)[アルト](2008/09/12 22:09)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第10話 抹消された戦術機(後編)[アルト](2008/10/16 22:17)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第11話 戦乙女再び[アルト](2008/09/21 23:33)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第12話 白銀の力[アルト](2008/09/23 21:34)
[14] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第13話 激突!孤狼と白銀[アルト](2008/10/16 22:30)
[15] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第14話 失われし記憶[アルト](2008/10/16 22:41)
[16] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第15話 真実が明かされるとき[アルト](2008/10/18 23:16)
[17] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第16話 純夏の想い[アルト](2008/10/22 01:41)
[18] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第17話 拒絶[アルト](2008/10/24 01:19)
[19] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第18話 得られたモノ[アルト](2008/10/24 01:19)
[20] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第19話 とある日常の訓練風景[アルト](2010/10/05 18:39)
[21] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第20話 BETA侵攻[アルト](2008/10/28 21:51)
[22] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第21話 紅き機神来たりて・・・[アルト](2008/10/30 17:56)
[23] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第22話 覚醒[アルト](2008/11/01 01:04)
[24] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第23話 新たなる力[アルト](2008/11/06 00:09)
[25] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第24話 邂逅[アルト](2008/11/06 00:07)
[26] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第25話 忘れられぬ日々[アルト](2008/11/16 21:36)
[27] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第26話 立脚点[アルト](2008/11/16 21:35)
[28] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第27話 運命のあの日[アルト](2008/11/22 00:26)
[29] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第28話 蠢く陰謀[アルト](2008/12/06 21:15)
[30] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第29話 総戦技演習へ向けて[アルト](2008/12/07 00:13)
[31] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第30話 島を行く[アルト](2008/12/20 00:23)
[32] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第31話 動き出す影[アルト](2009/01/12 15:06)
[33] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第32話 南国の激闘[アルト](2009/01/12 23:27)
[34] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第33話 脱出[アルト](2009/02/02 21:19)
[35] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第34話 吹き荒れる熱風、疾風の如く[アルト](2009/03/13 00:46)
[36] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第35話 暴れまわる幽霊達[アルト](2009/03/13 00:45)
[37] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第36話 Dancing dolls[アルト](2009/03/19 22:21)
[38] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第37話 疑念[アルト](2009/04/06 23:14)
[39] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第38話 一時の休息、そして新たなる始まり[アルト](2009/04/09 22:43)
[40] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第39話 悠陽からの招待状[アルト](2009/04/29 20:43)
[41] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第40話 新たなる仲間[アルト](2009/05/04 17:07)
[42] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)[アルト](2009/05/18 22:58)
[43] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第42話 武神の産声[アルト](2009/06/10 23:09)
[44] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第43話 彼方への扉[アルト](2009/05/29 18:53)
[45] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第44話 白銀 武の受難[アルト](2009/06/10 23:29)
[46] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第45話 天元山での出会い(前編)[アルト](2009/08/03 18:37)
[47] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第46話 天元山での出会い(中編)[アルト](2009/08/04 00:13)
[48] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第47話 天元山での出会い(後編)[アルト](2009/08/31 01:05)
[49] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第48話 御守岩をぶった切れ!![アルト](2010/01/05 14:14)
[50] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第49話 迫り来る悪夢[アルト](2010/01/07 20:32)
[51] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第50話 数多の可能性[アルト](2010/01/10 23:19)
[52] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第51話 成すべきこと[アルト](2010/01/16 20:49)
[53] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第52話 護りたい背中[アルト](2010/01/31 21:06)
[54] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第53話 歪められた12.5事件[アルト](2010/01/27 22:43)
[55] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第54話 夕呼の企み[アルト](2010/01/31 21:03)
[56] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第55話 共に歩む尊き者よ[アルト](2010/02/04 00:28)
[57] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第56話 月が闇を照らすとき[アルト](2010/02/08 20:21)
[58] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第57話 シャドウミラー包囲網を突破せよ[アルト](2010/03/19 01:22)
[59] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第58話 合流(前編)[アルト](2010/05/02 22:47)
[60] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第59話 合流(後編)[アルト](2010/07/02 00:40)
[61] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第60話 偽りの仮面[アルト](2010/07/03 21:44)
[62] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第61話 DCの遺産[アルト](2010/08/01 22:10)
[63] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第62話 奪還作戦[アルト](2010/09/03 23:00)
[64] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第63話 究極の名を冠したモノ[アルト](2010/09/12 18:29)
[65] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第64話 ゲイム・システム[アルト](2010/10/02 23:51)
[66] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第65話 潰えし野望[アルト](2010/11/01 18:55)
[67] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第66話 開かれた次元の扉[アルト](2010/11/12 20:46)
[68] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第67話 新西暦と呼ばれる世界[アルト](2010/11/15 23:18)
[69] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第68話 導かれた悪意(前編)[アルト](2011/01/08 19:35)
[70] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第69話 導かれた悪意(後編)[アルト](2011/01/20 23:44)
[71] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第70話 因果律の番人[アルト](2011/02/02 21:30)
[75] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第71話 帰郷[アルト](2012/07/15 19:01)
[76] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第72話 A-01新生[アルト](2012/07/15 19:08)
[77] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第73話 明かされた出生の秘密[アルト](2012/11/05 11:54)
[78] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第74話 解隊式[アルト](2013/01/21 20:24)
[79] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第75話 ベーオウルブズ(前編)[アルト](2013/01/28 17:37)
[80] 本編登場機体設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2011/01/20 23:46)
[81] 本編登場キャラクター設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2010/01/27 22:49)
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[4008] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第25話 忘れられぬ日々
Name: アルト◆ceb42498 ID:f0f37b8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/16 21:36
Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION

第25話 忘れられぬ日々




空がどんよりとした雲に覆われる中、少年は一人その場にうずくまる事しか出来ないでいた。

「ごめんなさい・・・私は本当にあなたの事を知らないのよ」

彼女がそんなことを言っていた様な気がする。
一体それからどれだけの時間が過ぎたのだろう・・・
彼が気付いた時には彼女の姿は既になく、そして自分の心境を表すかの如く空は更に暗くなっていた。
自分達を護るため、その身を呈し閃光の中へと消えて行った掛け替えのない存在。
死んだと思っていた。
もう二度と会えないと思っていた。
そんなにも大切な人と再びこうして会えたと言うのにもかかわらず、彼女は自分達の事を覚えていなかった。
彼はそんな事実を認める事が出来ず現実を否定しようとする。

「なんでだよ・・・何でこんな事になるんだよ。本当に姉さんじゃないって言うのかよ・・・」

先程から降り出した雨が彼の頬を伝う・・・
せめてもの救いはこの場にゼオラやラトゥーニが居なかった事だろうか?
もしも彼女達が居たならば、二人は自分以上に悲しむ筈だ。
生きていてくれた事は教えたいところだが、こんな事実を彼女達が知ってしまえば今の自分より落ち込んでしまうのは間違いない。
伝えられはしない・・・
やっとの事で立ち直った彼女達に今の現実を突きつけると言う事は自分には出来ない。
事実を隠し続ける事は可能かもしれない。
だがそれは彼女が言った事を受け入れると同時に取り戻す事が出来た絆を否定する事になる。
一向に答えが見つからない・・・
姉は何故自分達の事を覚えていないのか?
以前と同じく、何者かによって記憶を操作されているのか?
本当に自分達が慕っていた姉では無いのか?
だとすれば彼女は一体何者なのか?
そう言った考えが先程から何度も頭の中をループし続ける中、彼は姉達と過ごした日々を思い返していた・・・


「こんな所で何をしているのだ?」

不意に聞こえてくる女性の声・・・

「どうしたのだ。具合でも悪いのか少年」
「い、いえ・・・大丈夫ッス」
「・・・そのような顔ではとても大丈夫には見えんな。先程の戦闘で何かあったのか?」
「いえ、本当に大丈夫ですから。御心配をおかけしてすみません」
「そうか、ではこんな場所で国連軍所属の貴様は一体何をしていたのだ?」
「さっきの戦闘で機体に不具合が出てしまって斯衛軍の方に機体を診て貰ってるんですよ。それで時間潰しにその辺をウロウロしてただけッス」
「フム・・・ならば私について来るといい。この先に暖をとれる場所がある。機体のチェックが終わるまでの間そこで待っているといい」
「お気持ちだけ受け取っておきますよ。御迷惑おかけする訳にもいかないですし」
「遠慮するな。貴様も先程の戦闘で疲れているだろう?その様な者に対してなにも礼をせず帰したとあっては斯衛の名が廃ると言うものだ。何も言わずに受け取ってくれぬか?」
「解りました。お言葉に甘えさせて頂くッス」

彼は折角の好意を無下にできないと考え、素直について行く事にする。

「礼と言ってもこの様な物しか出せんが、これを飲んでくつろぐと良い」
「ありがとう御座います」

そう言って差し出された合成宇治茶を口にするアラド。

「暖まりますね」
「そうか、そう言えばまだ名を聞いていなかったな」
「すみません。アラドッス、アラド・バランガ。アラドって呼んで下さい。えっと・・・」
「失礼した。私は帝国斯衛軍中尉、月詠 真那だ」
「よろしくお願いします月詠中尉」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」

名を聞いていないなどと言っていたが、彼女は彼の事を知っていた。
彼は確か横浜基地所属の訓練兵だった筈。
その様な者が何故先程の戦闘に参加していたのかと言う事が少々疑問に思う所ではあるが、だからといって問い質す訳にもいかない。
理由は簡単だ。
先程援軍に来た国連軍の部隊はA-01所属と言っていた。
と言う事は、横浜基地副司令直轄部隊所属の者と言う事になる。
下手をすれば香月 夕呼を敵に回してしまう可能性があるのだ。
正規兵が何故身分を偽って訓練部隊に所属しているのかは解らないが、今の所自分の主に対して害をなす存在と言う訳では無い。
これがもし主に害をなす存在だったとしたら、この場で何とかしていただろう。
怪しい事には変わりないのだが、彼がどのような人物か分からない以上、深く立ち入る事は出来ないのである。
その様な事を考えている最中、彼女は目の前の少年が何やら思い詰めた表情をしている事に気付く。

「・・・」
「どうしたのだ?」

もしも万が一、何か企んでいるのだとしたら先程の考えを改めねばならない。
そう考えた彼女は彼に対して問い質してみたのだが、相手は一向に答える気配が無い。
辺りを沈黙が支配する。
この時アラドは考えていた。
彼女ならオウカの事を知っているかもしれない。
しかし彼女に何をどう聞けば良いのか考えがまとまらないでいた。
自分の素性を明かす事は出来ない。
国連軍の訓練兵である前に自分はこの世界の人間では無い。
姉の事を聞こうにも彼女の素性を明かすわけにもいかない。
下手な事を聞いてしまえば自分以外にも仲間達にも危害が及ぶかもしれない。
それでも自分は真実を確かめたい。
この時の彼はそんな事よりも、再会できた姉の事しか考えられなくなっていたのである。
そんな中、先に口を開いたのは月詠の方だった。

「何か悩み事か?」
「えっ?」
「いや、何やら思い詰めた顔をしていたのでな。何か悩んでいる事があるのなら話してみると良い。力になれるかはどうか分からんが、何か解決の糸口になりそうなアドバイス位はしてやれるかもしれん」

この時月詠は自分自身でも意外な事を言っていると思っていた。
目の前の少年は国連軍の兵士である。
いくら日本にある横浜基地所属の衛士であったとしても、国連軍の母体となっている組織は米軍だ。
過去の一件以来、日本人は米国にあまり良い感情を持って居ない。
それは国連軍とて同様である。
過去に米軍は日米安保条約を一方的に破棄してこの国から撤退している。
その様な事実から彼女も国連軍に対してはどちらかと言えばあまり良い感情を抱いては居ないのだ。
そんな彼女が何故アラドの悩み事に対して相談に乗ると言ったのだろうか?
深い意味は無かったのかもしれない。
雨に打たれ、一人うずくまっていた少年を何故か放っておく事が出来なかったのである。
彼女は義に厚く、理に厳しい実直な軍人であり、非常に真面目で自他共に厳しい性格で通っている。
しかし本来の彼女は、根はとても優しい人物であるという事はあまり知られていない。。
これは彼女自身の母性本能的な一面から来ているのかもしれない・・・

「良いんですか?」
「構わん。だが、無理に話せと言うつもりは無い」

こう言われた彼は、彼女に話す事で幾分か気が楽になるかもしれないと考えた。
そして、何か解決の糸口になる物が掴めるかもしれないと思い自身の胸の内を明かす事にする。

「ありがとう御座います。実は機体を斯衛の人に預けた直後、死んだと思ってた姉さんに会ったんです・・・」

そして彼はこれまでの出来事を思い返す様に話しだしていた。
無論、自分達がこの世界の人間でないという事を話すつもりは無い。
あくまでこの世界の人間であるように見せる為に自分の思い出だけをかいつまんで話していたのだ。。
自分とオウカが同じ施設の出身である事、本当の姉弟では無い事、そこで他の兄弟や姉妹達との生活の日々・・・
そして姉が自分達を護るためにその身を犠牲に散って行った事。
楽しかった事や辛かった事、今思い返してみても本当に忘れられない日々だった。
そんな中突きつけられた現実・・・
うっすらと目に涙を浮かべながらも彼は話を続ける。

「・・・でも姉さんは俺の事覚えてなくて・・・人違いじゃないかって言われたんです。でも俺にはそうは思えないんですよ」
「すまない・・・辛い思いをした直後にまた思い出させるような事をしてしまって」
「いえ、話そうと思ったのは俺なんですし、月詠中尉が謝る必要は無いッスよ」
「そうか、それでその者は斯衛の衛士なのか?」
「多分そうだと思います。強化装備を着てましたし」
「それで貴様の姉上の名は何と言うのだ?」
「オウカ・ナギサです。まあ、さっきも言った通り俺達は本当の姉弟じゃないんですけどね」
「オウカ・ナギサだと?」

オウカの名を出した途端、急に彼女の表情が変わった事にアラドは気付いた。

「知ってるんですか?」
「あ、ああ、彼女は私の部下の一人だ。そうか・・・アラド、一つ聞きたい事がある」
「何ですか?」
「私が質問しようとしている内容などに関する事は決して他の者には話さないと誓う。だから素直に答えて欲しい・・・」

その真剣な眼差しから彼女の言った事は本心なのだろうと察する。
そして、彼女はオウカが自分の部下の一人だと言った。
という事は上手く立ち回ればオウカの情報を得る事ができるかもしれない。
そう考えたアラドは一刻も早く情報を得たいがため質問に答える事にする。

「・・・はい。でも答えられる範囲内という事にさせて貰えませんか?」
「それは構わん。では質問させて貰う・・・貴様はこの世界の人間では無いな?」
「なっ!何を言ってるんですか中尉。言ってる意味が良く分んないッスよ」

あくまで平静を装うとするものの、彼は彼女の発言に対して驚いてしまっている為に効果が無い。
自分はこの世界の人間であるように話したつもりだった。
どこかで言葉を選び間違えたのだろうか?
そんな事が頭の中を駆け巡る。

「すまない。実はこのような事を言ったのには理由があるのだ」
「どう言う事ですか?」
「貴様が姉だと言ったオウカ・ナギサの事だ。私は、いや、正確には私を含む何人かは彼女がこの世界の人間でない事を知っているのだ」
「な、なんだって!」
「これから話す事はすべて事実だ。そのうえで聞いて欲しい」
「・・・はい」
「彼女との出会いは今から約2年前、ちょうど明星作戦が終わった直後の事だ。その時の彼女は酷い重症だった。当時の我々はBETAとの戦闘に巻き込まれてしまった民間人の一人なのだろうと思っていたのだ」
「それで?」
「彼女を発見したのは殿下だ。偶然帝都内を視察されていた時でな、当時の彼女は自分の名前以外の記憶を全て失っていた。そして時が経つにつれ、彼女は次第に自身の記憶を取り戻し我等に恩返しがしたいと言い出したのだ。そして私は殿下の命により、彼女を一時的に月詠家の養子として迎え入れれるよう手配し、斯衛への入隊の手筈も整えたという訳だ」
「やっぱりあの人は俺達の姉さんなんだ・・・」
「そしてある時、彼女は自分がこの世界の人間でないという事を我等に話してくれた。初めは信憑性に欠ける話だと誰もが思っていたのだがな・・・とある出来事が切っ掛けで、彼女の話を信じるに至ったという訳だ。だが私も彼女の口から弟が居るなどという事を聞いた事が無い。貴様の話から察するに、彼女は未だ部分的に記憶を失っているのかもしれないな」
「そ、そんな・・・でも、何で俺達の記憶だけ覚えてないんだよ。中尉は俺達の世界の事も姉さんから聞いたんですよね?」
「ああ」
「他に、他に何か聞いた事は無いですか?何でも良いんです。何かあったら教えて下さい!」

藁にも縋る思いとはこの事を言うのだろうか・・・
今の彼はオウカが失ってしまった自分達との思い出を取り戻す為に少しでも良いから何かの切っ掛けを得たかったのである。

「横浜基地にアクセル・アルマーという男が居るな?確か以前横浜で彼の者に会った時、奴は彼女の事を元部下と言っていた。そして彼女もまたあの男の事を知っているようだったが・・・」
「アクセル中尉の事は覚えてるのか・・・という事はノイエDCに居た頃の記憶はあるって事じゃないかよ。クソッ!!なんで一番辛い思いをした時の記憶だけが残ってるんだ!そっちの記憶の方を忘れてくれてた方が良いのにっ!!」

アラドは苛立ちを隠せなかった。
アクセルがオウカの事を黙っていた事もそうだが、それ以上にノイエDC時代の記憶が残っているという事実の方に怒りを露わにしていたのだ。
それと同時にノイエDC時代に彼女が受けた仕打ちを思い出し、更に怒りが込み上げてくる。
当時の彼女もまた今と同じ様に自分達と過ごした日々の記憶を忘れ、敵として自分の前に現れた事を思い出していたのだ。
あの時、最終的にオウカは記憶を取り戻したものの、救う事は出来なかった。
自分の無力さを呪った事もあった。
もう少し上手く立ち回れていれば姉を救う事が出来たかも知れないと嘆いた事もあった。
だが今は違う・・・
記憶を消された訳では無い。
月詠は彼女の記憶が部分的に失われていると言った。
と言う事は、彼女の中には自分達と共に過ごした日々の記憶もある筈だ。
恐らく転移時の衝撃か何かで記憶喪失になってしまっているのだろうと彼は考える事にする。

「すまないアラド、その様な思いをさせる為に話した訳では無かったのだが・・・」
「いえ、俺は大丈夫ッス。今の月詠中尉の話を聞いて確信しました。あの人は間違いなくオウカ姉さんです。記憶を失ってしまっているって言うんなら思い出させればいいんですから」
「そうか・・・彼女に想いが伝わると良いな」
「ありがとう御座います中尉。俺頑張りますよ!何としてでも姉さんに俺達の事を思い出して貰う為にも・・・」
「ああ、そうだな。私にも協力できる事があれば言ってくれ。力になる事を約束しよう」

彼女はアラドに対し笑顔で答える。
恐らくこの少年は、我が主に害をなす存在では無い。
その理由は彼女が信頼している凪沙の弟であるという事もあるのだが、彼女は彼の真剣な眼差しを見て敵では無いと決定付けたのである。
彼女はこれまでに何人もの人間を見て来ている。
悪意のある人間と言う者は必ずと言って良いほど濁った眼をしている事が多い。
彼の眼からはその様な邪念は感じられない。
それどころか突き付けられた現実に対し、真摯な態度で立ち向かおうとしている。
何らかの目標を持った人間の眼だったのである。

「ん、どうしたアラド?」

先程からアラドが何かを見ている事に気付いた。
どう考えても、彼の目線の先にある物は自分の顔だ。
彼女はそれが気になって仕方が無かったのである。

「い、いえ別に何でも無いッス」
「人の顔をジロジロとみておいて何も無いという事は無いだろう。私の顔に何かついているのか?」

彼女はそう言うとペタペタと自分の手で顔を触り始める。

「いやぁ・・・中尉の笑顔が可愛いな~って思って」
「なっ!何を言っているのだ貴様はっ!」
「す、スンマセン!・・・でも本当ですよ中尉。中尉って美人だし、スタイルも良いみたいだし、俺の上官達と比べても遜色ないぐらいッスよ」
「ば、馬鹿者っ!何処を見ているのだ!人をからかうのもいい加減にしろ!」

先程まで落ち込んでいたのはどこの誰だったのだろう・・・
やはりアラドはこう言った冗談や軽口を叩いている方が彼らしい。
彼女は彼の性格を知る訳ではないが、この様な事を言われて嬉しくない女性はいないだろう。
顔は怒っているように見えても、心では喜んでいた。

「別にからかってる訳じゃないんですけどね・・・月詠中尉、本当にありがとう御座いました。おかげで何か気分がスッキリしましたよ」
「う、うむ・・・大分引きとめてしまったな。私はこれから行かねばならん所があるので失礼させて貰うとしよう。機体のチェックが終わり次第、整備兵にはこちらへ連絡を入れる様に手配をしておく。それまではここでゆっくりして行ってくれ」
「ありがとう御座います。あ、うちの隊長に連絡を取りたいんですけどどうしたら良いですかね?何か殿下に呼ばれたって言ってタケルさ・・・っと、白銀大尉と一緒にどこかに行っちゃったんですけど」
「ならば殿下との謁見が終わり次第、此方に来てもらうよう連絡を入れておこう。それではな、アラド」
「はい、またお会いできるのを楽しみにしてるッス」
「フフ、私もだ」

そう言うと彼女はその場を後にし、アラドは言われたとおり寛がせて貰う事にした。
疲れていたのだろうか・・・
気付けば彼は、椅子にもたれ掛りながらいつの間にか寝息をたてていた。


アラドと月詠のやり取りが行われている裏では、悠陽に対しての謁見が行われていた。
呼び出されているのはキョウスケと武の二名で、この場には他に斯衛軍大将である紅蓮と数名の部下も列席している。
恐らく彼らは彼女の護衛も兼ねているのだろう。
いずれも屈強な衛士ばかりが揃えられており、その容姿からは間違いなく紅蓮の部下であるという事が見て取れる。

「先ずはこの様な格好でそなた達の前に出る事を許して頂きたい・・・此度はBETA殲滅に協力して頂いた事、本当に感謝すると共に皆を代表して私から礼を言わせて頂きます」
「勿体無いお言葉です殿下。我らとてこの世界を救いたいと願う者です。今後とも何かあれば協力を惜しまない所存であります」
「ありがとう南部大尉。そなたに感謝を」
「ハッ!」
「久しぶりですね白銀」
「ハッ!ご無沙汰しております殿下」
「そう畏まらなくても良い。そなたの話しやすい様に話して構わぬと以前も申した筈ですよ?」
「いえ、そう言う訳にも参りません。いくら殿下に個人的に目をかけて頂いているとは言え、今の自分は一介の衛士ですので」
「そうですか・・・」

そう言った悠陽の表情はどこか悲しげな様子であった。
そして、武の隣に居たキョウスケは先程の彼の発言から悠陽と武が政威大将軍とただの衛士と言う関係では無いという事を察する。

「ハッハッハ、相変わらずだな白銀よ。今からでも遅くは無い、斯衛に来る気は無いか?」
「いえ、以前も申し上げた通り、自分には荷が勝ち過ぎています。自分には殿下をお守りするなどと言う大役が勤まると思えませんので」
「ますます貴公のことが欲しくなる物言いよのう。やはりあの時無理やりにでも斯衛に引き入れておくべきだったわ」

この様なやり取りが行われている中、キョウスケはふと疑問に思う所があった。
先程の会話を聞いている限りでは、武と紅蓮は面識があるという事だ。
それどころか斯衛に引き抜こうとしていた過去があるというのである。
よくよく考えてみれば、キョウスケは武の過去を詳しく知らない。
彼が知っているのは、異世界の記憶を引き継いだ存在と言う事、記憶を引きついた事によって元々持っていた記憶が無くなってしまった事などである。
別に深く立ち入るつもりは無いのだが、少々興味が湧いたというところだろうか?

「ムッ、どうしたのだ南部大尉?」
「いえ、何でもありません。どうやら殿下に初めてお会いした事で少々緊張してしまっていたようです」

もちろん嘘だ。
キョウスケ・ナンブと言う男はこの様な事を言うような男では無い。
この場にエクセレンが居たならば、間違いなく彼に対しツッコミを入れていただろう。
それが証拠に、先程から武は必死に笑いをこらえようとしている。

「フフフ、その様に緊張する必要などありませんよ。もっと楽にして頂いて構いません」
「ありがとう御座います」
「それよりも殿下、自分とキョウスケ大尉を呼んだ事には何か理由があるのではありませんか?」
「どう言う事だタケル?」
「何となくですよ。特に深い意味はありません」

武がそう言った直後、悠陽は紅蓮に人払いを命じる。
これから話す事は他の者には聞かれたくないという事だろう。
命を受けた護衛の者達は、即座に部屋を後にしていた。

「流石ですね白銀。実はそなた達を呼んだのは礼を言いたかっただけではありません。そなた達に折り入ってお願いがあるのです」
「自分達にですか?」
「ええ、特に南部大尉には聞いて頂きたいのです」
「要件次第とだけお答えさせて頂きます。自分はここに居る白銀と同じく一介の衛士でしかありませんので」
「それは十分に承知しています・・・私はそなた達に力を貸して頂きたいのです。この星を護るために・・・」
「それは自分達がこの世界の住人では無いという事を知った上での事でしょうか?」
「っ!!キョウスケ大尉!」

唐突に自分達の素性を明かしたと思った武は、思わず声を荒げてしまう。

「大丈夫だタケル。殿下は俺達がこの世界の人間でない事を既に知っている。お前が眠っている間に色々とあってな、彼女達が俺達の素性について知っている事は香月副司令も承知済みだ」
「・・・そうですか」

一体何があったのかは知らないが、夕呼が承知しているという事であるのならば左程問題は無いのだろう。
少々納得がいかない面も多々あるものの、彼女の名前が出た以上、武はそれに従う他無かった。

「それで南部大尉。先程の答えは?」
「協力させて頂くつもりです。これは元居た世界に戻る手段が今の所存在しないからと言う訳ではありません。無論、乗りかかった船だからと言う意味でも無い。住む世界が違ったとしても、我々にはこの星を見捨てる事はできませんので」
「ありがとう南部大尉。そなたに多大なる感謝を」
「キョウスケ大尉。俺からも礼を言わせて下さい」
「タケル、礼を言うのはまだ早いぞ。それはこの世界に本当の平和が訪れた時で構わんさ」

そして尚も話は続く・・・

「それで殿下、具体的に我々は何をすれば良いのでしょう?」
「今回そなた達を呼んだのは協力を取り付ける為と言うだけではありません。先日『戦略研究会』なる物が発足されました・・・これがどう言う意味か解りますね白銀?」
「・・・はい、ですが少々時期が早すぎませんか?」
「そなたの言う通りです」
「少々よろしいでしょうか?その戦略研究会とは一体?」

キョウスケの疑問は尤もだろう。
彼はその名称、そして組織については何も知らない。
武や悠陽が忘れもしない出来事・・・12.5事件を起こした帝国軍将校が結成した組織。
首謀者の名は『沙霧 尚哉』帝国本土防衛軍帝都守備第1戦術機甲連隊所属の大尉である。
国を憂い信念に散って逝った誠実で実直な、実直過ぎた武人・・・
彼らはその事を忘れようにも忘れる事は出来ないでいた。

「・・・なるほどな。彼らの考えや想い・・・俺になら少し位は理解できるかもしれん」
「どう言う事だ南部大尉」

そう言ったのは紅蓮だ。
口調は穏やかであるものの、彼の表情からはそうは感じ取れない。
この件に関しての事は今初めて聞かされたところだ。
ならば事を起こす前に捕えれば良いと悠陽に進言もした。
しかし彼女は首を縦に振らなかった・・・
確かに紅蓮も彼らの想いは解らないでも無い。
わが国の現状を鑑みれば、祖国の為を思ってこその行動と言う事は理解できる。
だからと言って全てを許す訳にはいかない。
彼等が行動を起こした結果、流されずに済む血が流れる事になると言う事を知ってしまったのだから・・・

「自分にも似たような経験があります。沙霧大尉と同じ様に国を、世界を、そして地球の未来を想って行動を起こした者と戦った事があるのです」

彼が言っている人物・・・
それはDC総帥ビアン・ゾルダークの事である。
異星人の存在とその襲来を早くから察知し、国際連合にいずれ異星人が襲来してくる事を説いたが、EOT特別審議議会が自分たちの保身のため、秘密裡に異星人に全面降伏しようとした為、独自にDCを結成し南極事件を機に宣戦布告、連邦に対して反旗を翻したのである。
しかし、それは地球連邦や人類に地球の危機を分からせる為であり、最後は自らの開発した巨大兵器ヴァルシオンでハガネ隊に戦いを挑み、志半ばで地球の未来を彼らの託し散って逝った。
まさにこの世界で沙霧がやろうとしている事は、ビアンの行った事に似ている。
キョウスケが理解できると言った部分は方法では無い。
彼らの信念なのである。
だが、彼らの行おうとしている事を全て容認する事は出来ない。
彼も紅蓮と同じく、無駄な血が流れる事を望んではいないのである。

「・・・なるほど。しかし、このまま手を拱いて見ている訳にも行くまい」
「もちろんです閣下。何としてでも彼等が事を起こす前に阻止せねばならないと自分も考えています」
「協力してくれると言うのだな?」
「ハッ!」
「しかし、どうやって沙霧大尉達を説得するんです?」
「それは殿下に説得して頂く他無いであろう。ワシでは意味が無い」
「ですが紅蓮閣下、彼らが事を起こしてない以上、下手な説得は逆効果になりかねません。状況次第では決起を早める可能性も考えられます」
「南部大尉の言う通りですね。私も彼らを説得する方法を考えていたのですが、良い案が浮かびませんでした。我等がこの事を知っているのは以前の世界で起こった出来事の記憶から・・・この様な事を彼等に伝えたとて信じては貰えぬでしょう」
「自分も殿下の仰っている事と同じ考えです。どこからか情報を仕入れたと言ったとしても一筋縄ではいかないでしょうね」
「・・・う~む」
「私が今回出撃した理由の一つは彼らの想いに応える為でもあったのです。無論その為だけではありませんが、彼らはこの国の上に立つ者達が私の存在を蔑にしていると考えて事を起こしました。それを防ぐには私自身が行動を起こす事で彼等に道を示せればと思ったのですが・・・」

この話を聞いた武には悠陽の考えが理解できた。
彼女は本当にこの国や地球の未来の事を想っている。
以前彼女は武にこう言った事がある・・・『自らの手を汚す事を厭うてはならない』と・・・
彼女がこうして自ら表舞台に起とうとする事は、彼女なりの決意と覚悟の証なのであろう。
こんな事を言っては何だが、以前の彼女は聞いた事を鵜呑みにしていた部分があった。
以前の世界では政を取り仕切っている筈の現内閣が効率と手間を重視し、国民を蔑ろにしていたという事実を聞かされるまで知らないでいた。
その様な事はただの言い訳でしか無い。
ならばどうすべきか?
結果は自ずとして明らかである。
悠陽自身が矢面に立ち、行動すれば良いのである。
そうする事によって沙霧達戦略研究会に属する将校達が考えを改めてくれると彼女は信じていたのだ。

「今暫くは彼らの様子を見る為にもあえて泳がせるべきかもしれません」
「南部大尉の言う通りかもしれませんね」
「ですが、彼等が決起する様な事があれば、その時は殿下も覚悟を決めて頂かなければならないと思います」
「解っております。そうならない為にも私は自ら矢面に立つ覚悟でいるのですから・・・」
「殿下、その時は自分も協力させて頂きます」
「自分もです」
「ありがとう・・・そなた達に多大なる感謝を」


後日、武とキョウスケには改めて礼がしたいという話になり、こうして謁見は終了する事となった。
それぞれが部屋を後にし、武とキョウスケはコウタやアラドと合流するべく移動を始める。

「タケル、少し良いか?」

移動中、不意にキョウスケが口を開く。

「何ですかキョウスケ大尉」
「一度お前に聞いてみたい事があった。お前に起こっていた事は知っている。記憶に関する事も全てだ」
「俺が眠ってる間に聞いたんですね。それで聞きたい事って言うのは何です?」
「ああ、俺はお前の事を元民間人だと思っていた。だが、先程の紅蓮閣下とのやり取りを聞いていて以前から感じていた違和感が確信に変わった・・・お前は元々軍人だったな?」
「ええ、大尉の言う通り、俺は元帝国軍の衛士です。まあ、俺自身記憶を取り戻すまで忘れてたんですけどね」
「やはりそうか・・・」
「いつからです?」
「ヴァルキリーズや俺との模擬戦の時だ。あの動き・・・記憶や経験を頼りに一朝一夕でできるものでは無い。そしてその肉体もだ」

以前から気になっていた事・・・
彼の技術的な面や鍛え上げられた肉体に関して。
知識等は記憶を受け継いだことによって何とかなるかもしれないが、技術と言う物はそれだけでは何とかなる様なものでは無い。
頭で解っていたとしても、体が反応しないというケースが多いのだ。
そして、それらの技術に対処できる肉体。
そう言った点からキョウスケは、この世界の白銀 武は元々軍属だったのではないかと言う事に気付いたのだ。
そして紅蓮とのやり取りから国連軍ではなく帝国軍に所属していたのだろうと・・・

「流石ですね大尉。多分横浜基地に居るメンバーでそれに気付いたのは大尉だけですよ」
「手に入れた情報を分析した結果だ。それにしても意外だな、香月副司令までもがその事に気付いていなかったとは」
「解りませんよ。あの人の場合、気付いてないフリをしていただけかもしれませんしね」
「確かにそうだな」
「・・・ちょうど良い機会かもしれません。大尉には話しておきますよ。この世界の俺の過去を」


ゆっくりとした口調で語り出す武・・・
彼自身の口から紐解かれる彼自身の過去・・・
それがいったいどう言った内容なのか。
そして、それを聞かされたキョウスケは今後どう出るのか。
物語の新たなるページが今開かれようとしていた・・・



あとがき

第25話です。

落ち込んだ時の人の心情を表現する事は難しいですね。
前回のあとがきでも書かせて頂いたとおり、オウカ姉様は部分的な記憶を失っている訳なのですが、元々は名前以外の記憶を失っていたという事にさせて頂きました。
そして徐々に記憶を取り戻して行く過程で、自分がこの世界の人間でない事を悠陽達に明かしたという設定とさせて頂いております。
今回、アラド君と誰を絡ませるか非常に悩んだのですが、最終的にこう言った事は大人に相談すべきかと考え、月詠さんにしてみました。
別に月詠さんがEXの方でショタ疑惑があるからとかそう言う訳ではありませんのであしからず(笑)

さて、前回のお話に寄せられた感想の中に、オウカ姉様搭乗の武御雷の詳細が知りたいという物がありましたので書かせて頂こうと思います。

Type00C 武御雷改

帝国斯衛軍所属の月詠 凪沙少尉専用にカスタマイズされた武御雷。
基本的な性能は一般的なC型と同じであるが、彼女の機体はセンサー類が強化されている他、両肩部分をType94・不知火の物と交換されている。
これは彼女の戦闘スタイルも理由の一つなのだが、元々近接戦闘に特化しているこの機体に汎用性を持たせる事でどのような結果が出るかを検証する為でもあり、武御雷をベースにした次期主力機開発の為のデータ収集も兼ねている。
武御雷は搭乗する衛士の出自を表しており、地位の高い順から紫・青・赤・黄・白・黒と色分けされている他、機体ごとに細かな調整が行われているのだが、彼女の搭乗する機体は武家以外の衛士に与えられる機体であり、本来ならば専用にカスタマイズされる事は無い。
しかし彼女は、有力武家の一つである月詠家に養子として迎え入れられている為、こう言った事が許されておりいるのだが、月詠の人間とは言え養子である為、高性能機を与える訳にもいかないという声もあり、先程挙げた理由などから標準機であるC型をベースにしたこの機体が開発される事となったのである。

武装

74式近接戦闘長刀×1
65式近接戦闘短刀×2
87式突撃砲×1
87式支援突撃砲×1
92式多目的自立誘導弾システム×2

こんな感じの設定です。
即興で考えたので、少々無理があるかも知れませんがご了承ください。
イメージ的には武御雷(黒)の両肩が不知火の物と換装されているだけとお考えください。

今回の中盤とラストで武の過去についての一部分を書いてみました。
以前はこの事を伏せる為に記憶を引き継いだ存在である事だけを書かせて頂きましたが、この世界のタケルちゃんは元帝国軍衛士と言う設定とさせて頂きました。
その理由や謎に関しては次回のお話で書かせて頂こうと思いますので楽しみにお待ち下さい。
それでは感想の方お待ちしております。


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