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No.4008の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION (Muv-Luv オルタ&SRWOGクロスオーバー作品)[アルト](2013/01/21 20:25)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第0話 プロローグ[アルト](2008/08/28 21:08)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第1話 異世界からの来訪者[アルト](2008/08/29 21:41)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第2話 新たなる出会い・・・そして・・・[アルト](2008/08/31 20:44)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第3話 イレギュラー[アルト](2008/08/31 20:40)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第4話 再会[アルト](2008/09/16 23:44)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第5話 姉妹の絆[アルト](2008/09/04 01:33)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第6話 不協和音[アルト](2008/09/05 08:43)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第7話 過去、そして現在(いま)・・・[アルト](2008/09/07 08:55)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第8話 侵入者の影[アルト](2008/10/16 22:13)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第9話 抹消された戦術機(前編)[アルト](2008/09/12 22:09)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第10話 抹消された戦術機(後編)[アルト](2008/10/16 22:17)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第11話 戦乙女再び[アルト](2008/09/21 23:33)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第12話 白銀の力[アルト](2008/09/23 21:34)
[14] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第13話 激突!孤狼と白銀[アルト](2008/10/16 22:30)
[15] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第14話 失われし記憶[アルト](2008/10/16 22:41)
[16] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第15話 真実が明かされるとき[アルト](2008/10/18 23:16)
[17] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第16話 純夏の想い[アルト](2008/10/22 01:41)
[18] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第17話 拒絶[アルト](2008/10/24 01:19)
[19] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第18話 得られたモノ[アルト](2008/10/24 01:19)
[20] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第19話 とある日常の訓練風景[アルト](2010/10/05 18:39)
[21] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第20話 BETA侵攻[アルト](2008/10/28 21:51)
[22] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第21話 紅き機神来たりて・・・[アルト](2008/10/30 17:56)
[23] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第22話 覚醒[アルト](2008/11/01 01:04)
[24] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第23話 新たなる力[アルト](2008/11/06 00:09)
[25] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第24話 邂逅[アルト](2008/11/06 00:07)
[26] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第25話 忘れられぬ日々[アルト](2008/11/16 21:36)
[27] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第26話 立脚点[アルト](2008/11/16 21:35)
[28] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第27話 運命のあの日[アルト](2008/11/22 00:26)
[29] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第28話 蠢く陰謀[アルト](2008/12/06 21:15)
[30] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第29話 総戦技演習へ向けて[アルト](2008/12/07 00:13)
[31] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第30話 島を行く[アルト](2008/12/20 00:23)
[32] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第31話 動き出す影[アルト](2009/01/12 15:06)
[33] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第32話 南国の激闘[アルト](2009/01/12 23:27)
[34] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第33話 脱出[アルト](2009/02/02 21:19)
[35] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第34話 吹き荒れる熱風、疾風の如く[アルト](2009/03/13 00:46)
[36] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第35話 暴れまわる幽霊達[アルト](2009/03/13 00:45)
[37] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第36話 Dancing dolls[アルト](2009/03/19 22:21)
[38] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第37話 疑念[アルト](2009/04/06 23:14)
[39] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第38話 一時の休息、そして新たなる始まり[アルト](2009/04/09 22:43)
[40] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第39話 悠陽からの招待状[アルト](2009/04/29 20:43)
[41] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第40話 新たなる仲間[アルト](2009/05/04 17:07)
[42] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)[アルト](2009/05/18 22:58)
[43] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第42話 武神の産声[アルト](2009/06/10 23:09)
[44] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第43話 彼方への扉[アルト](2009/05/29 18:53)
[45] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第44話 白銀 武の受難[アルト](2009/06/10 23:29)
[46] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第45話 天元山での出会い(前編)[アルト](2009/08/03 18:37)
[47] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第46話 天元山での出会い(中編)[アルト](2009/08/04 00:13)
[48] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第47話 天元山での出会い(後編)[アルト](2009/08/31 01:05)
[49] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第48話 御守岩をぶった切れ!![アルト](2010/01/05 14:14)
[50] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第49話 迫り来る悪夢[アルト](2010/01/07 20:32)
[51] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第50話 数多の可能性[アルト](2010/01/10 23:19)
[52] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第51話 成すべきこと[アルト](2010/01/16 20:49)
[53] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第52話 護りたい背中[アルト](2010/01/31 21:06)
[54] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第53話 歪められた12.5事件[アルト](2010/01/27 22:43)
[55] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第54話 夕呼の企み[アルト](2010/01/31 21:03)
[56] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第55話 共に歩む尊き者よ[アルト](2010/02/04 00:28)
[57] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第56話 月が闇を照らすとき[アルト](2010/02/08 20:21)
[58] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第57話 シャドウミラー包囲網を突破せよ[アルト](2010/03/19 01:22)
[59] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第58話 合流(前編)[アルト](2010/05/02 22:47)
[60] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第59話 合流(後編)[アルト](2010/07/02 00:40)
[61] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第60話 偽りの仮面[アルト](2010/07/03 21:44)
[62] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第61話 DCの遺産[アルト](2010/08/01 22:10)
[63] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第62話 奪還作戦[アルト](2010/09/03 23:00)
[64] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第63話 究極の名を冠したモノ[アルト](2010/09/12 18:29)
[65] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第64話 ゲイム・システム[アルト](2010/10/02 23:51)
[66] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第65話 潰えし野望[アルト](2010/11/01 18:55)
[67] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第66話 開かれた次元の扉[アルト](2010/11/12 20:46)
[68] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第67話 新西暦と呼ばれる世界[アルト](2010/11/15 23:18)
[69] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第68話 導かれた悪意(前編)[アルト](2011/01/08 19:35)
[70] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第69話 導かれた悪意(後編)[アルト](2011/01/20 23:44)
[71] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第70話 因果律の番人[アルト](2011/02/02 21:30)
[75] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第71話 帰郷[アルト](2012/07/15 19:01)
[76] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第72話 A-01新生[アルト](2012/07/15 19:08)
[77] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第73話 明かされた出生の秘密[アルト](2012/11/05 11:54)
[78] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第74話 解隊式[アルト](2013/01/21 20:24)
[79] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第75話 ベーオウルブズ(前編)[アルト](2013/01/28 17:37)
[80] 本編登場機体設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2011/01/20 23:46)
[81] 本編登場キャラクター設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2010/01/27 22:49)
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[4008] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第26話 立脚点
Name: アルト◆ceb42498 ID:f0f37b8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/16 21:35
Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION

第26話 立脚点




「俺が軍に入ったのは、西関東一帯がBETAによって占領された直後、今から約3年ぐらい前ですね―――」

その頃の日本は、重慶ハイヴから東進したBETA群が日本に上陸し、九州・中国・四国地方へと侵攻し、犠牲者約3600万人、日本人口の約30%が犠牲となった年である。
そして、一ヶ月に及ぶ熾烈な防衛線の末に京都が陥落。
首都が京都から東京に移されるとほぼ同時期に、佐渡島にハイヴが建設され、それに伴い米国は日米安保条約を一方的に破棄し在日米国軍を撤退、この頃から帝国と米国の関係は徐々に悪化し始め、現在に至るまで殆ど関係の修復は図られていないと言っても良かった。

「丁度その頃、俺は徴兵を控えてる時でした。今思い返しても最悪でしたよ。米国が撤退した事が原因でミリタリーバランスが一気に低下、おかげで帝国軍白陵基地は壊滅し、現在の横浜基地一帯はBETAに占領されちまったんですから」
「その時にお前も巻き込まれて怪我を負ったと聞いていたが?」
「ええ、大尉の言う通り、俺はその時BETAに襲われて重症を負ってたそうです。約2週間位だったかな、意識不明の重体で、気付いたら全身包帯だらけで帝都の病院で寝てたんですからね。あれだけの重症だったのに、良くここまで回復できたと自分でも驚いてますよ」
「その後、帝国軍の訓練学校へ入隊したのか?」
「半年ぐらい経過してからですね。入院中にも色々ありましたよ・・・丁度その頃です。悠陽殿下に初めてお会いしたのは」

意外な事に、この世界の武と悠陽の出会いは以前の世界とは全く違うものだった。
並行世界、並列世界と言った世界であるからには、この様な歴史であってもおかしくは無いのだろう。
そして武は、その時の事を徐に話し始める―――

「あれは動き回れる程度に傷が回復した頃、外出許可を貰って死んだ親父やお袋の墓参りに行った時でした―――」

この頃、BETA侵攻に巻き込まれた人々は、その殆どが共同墓地に埋葬されていた。
身元の確認など取れるケースが珍しく、中には死んでもいないのに死亡扱いされていた者も沢山居たという。
帝都の一画に設けられた共同墓地には、慰霊碑が建てられ、犠牲になった人々の殆どはそこに埋葬されているという形が取られていたのだ。
無論、遺体や遺骨などは埋葬されていない。
弔おうにもそのようなものは殆ど存在していなかったのである。


「―――親父、お袋、本当に死んじまったんだな。信じたくは無いけどさ・・・」

彼の目からは涙が零れ落ちていた。
家を空ける事が多かった両親だが、常に自分の事を考えてくれていた。
たまに突拍子もない事を言ったりして困らされる事もあったが、最終的には自分の為になっていたと思う。

「すまない親父、お袋・・・墓参りに来るのが遅くなって・・・親不孝な息子だって思ってるよな。本当にゴメン―――」

そして彼は手をあわせ、両親に黙祷をささげる。
この時武の中には様々な感情が蠢いていた。
BETAに対して無力だった自分に対しての怒り。
両親の死に直面した悲しみ。
そして次第に彼は叫びたい衝動に駆られ始めるのだが、あえてこの場ではそれを我慢し涙を拭う。

「―――そろそろ行くよ。近々俺も衛士としての訓練を受ける事になるんだ。訓練校は仙台だから頻繁には来れないかもしれないけど・・・」

そう言って彼は両親の名前が刻まれた慰霊碑を後にする。
言葉が見つからなかった。
言いたい事は山ほどあった筈なのに、いざ両親の死に直面すると何も言葉が出て来なかったのである。
これは両親の死を未だ受け入れる事が出来ないからなのだろうか。
話しかけても何も返事が返って来ない事が、これほど辛い事だと彼は思ってもいなかった。

「風が出てきたな―――」

一人呟きながら墓地を後にした武はそのまま病院へは向かわず、直ぐ傍に在った高台へと来ていた。

「帝都の直ぐ傍までBETAが押し寄せてきてるって言うのに静かだよな。まるで今までの事が全部ウソみたいに思えるぜ」

彼は自分の住んでいた横浜の方を見ていた。
無論この場所から横浜が見える訳では無い。
気付けば自分は帝都の病院で目を覚まし、両親の死と共に住んでいた所を追われたという事実を突き付けられた。
そして、その時一緒に逃げていた彼女はどうなったのだろうと考える。

「純夏は無事なんだろうか・・・先生に確認して貰ってはいるけど、今は色々な事で情報が錯綜してるから直ぐには難しいって言われたんだよな」

意識が回復した直後、担当医に現状の確認と両親やBETAに襲われた時に一緒に逃げていた幼馴染の事を尋ねていた。
両親に関しては直ぐに分かったのだが、純夏に関する情報は殆んど皆無と言っても良いぐらいに手に入らなかったのである。
死んだという情報が入って来ないという事は、彼女は生存している可能性が高い。
だが楽観視はできないでいる。
両親の死が告げられた時、彼は相当ショックを受けた。
気を失うような事は無かったにせよ、話を聞いた直後は涙が止まらなかったという事実は記憶に新しい。
その様な事を考えながら彼は、冷え込んで来た事もあってその場を後にしようとしていたのだが―――

「グッ・・・何だ、急に頭が―――ヤバ・・・」

急激な頭痛と共に意識が遠くなる―――
PTSD・・・心理的外傷後ストレス障害と呼ばれるものだ。
武は意識を取り戻してから度々この様な事が起こっている。
彼の場合はBETAによる無差別攻撃によって、一度に色々な物を失った事が原因であり、急性トラウマだろうと医者は言っていた。

「大丈夫ですか?」

不意に背後から聞こえる女性の声。

「・・・」

しかし彼は、大丈夫だと答えようにも声が出ない。
その様子を察した彼女は、慌てて彼の元へと駆け寄り、彼を抱きかかえようとする。
武は何とかして体に力を入れようとするのだが、彼の意思に反するかのように体からは力が抜けて行く。

「誰かっ!誰かいませんか!?」

耳元で女性の叫び声が聞こえたような気がした―――
体中の感覚が深い闇へと沈んでいく事にすら気付けないまま、彼の意識はそこで一度途絶えた。


「―――ここは?」

気付けば武は見知らぬ所で寝ていた。
病院のベッドとは違う。
周囲を見渡してみるものの、まったく見覚えの無い部屋。
だが、どこかの寝室なのであろうと言う事は解った。

「そうだ、確か俺は親父たちの墓参りに行って・・・」

思い出す様に一人呟いていると、急に部屋のドアが開く。

「お目覚めになられましたか?」
「は、はい(誰だ?何かどこかで見たことある様な顔だけど・・・)」
「気分はどうです?」
「まだ少し頭がボーっとしますけど大丈夫です」
「そうですか、それは良かった。急に私の目の前で倒れられた時は驚いてしまいましたが、大事無さそうで何よりです」
「御迷惑をお掛けしてしまったみたいですみません」
「その様な事はありませんよ」
「ありがとう御座います・・・えーっと」
「あら、私とした事がまだ名前を名乗っていませんでしたね。悠陽と申します」
「俺の方こそすみません。えっと、白銀 武です。本当にありがとう御座いました悠陽さん」
「先程も申しましたが、気にする必要はありませんよ武殿。今はゆっくりとお休みなさい」
「はい(何だろうな、スゲェ気品にあふれてるって言うか、俺とは住む世界が違うって感じの人だな)」
「どうかなされましたか?」
「い、いえ・・・何でも無いです」
「そうですか、では私は失礼させて頂きますね」
「はい」
「もしも何かありましたらそこの電話で用件を伝えて下さい。それではお休みなさい武殿」
「お休み悠陽さん」

彼女が部屋を後にすると、武は言われたとおり休む事にする。
この時の事を思い返すと今でも自分が恥ずかしい。
彼を助けてくれた人物こそ、この国の政威大将軍である『煌武院 悠陽』だったのである―――


「大物と言うか何と言うか・・・この場にエクセレンが居なくて良かったな」
「言わないで下さいよ・・・今思い返してもスゲェ恥ずかしいんですから」
「ああ、それにしてもお前はその時の相手が殿下だとは気付かなかったのか?」
「その時は全く気付かなかったんですよ。情けない話なんですが、軍に入隊して初めて気付いたんです」
「お前らしいと言えばお前らしいな。そしてお前は帝国軍訓練校に入り、衛士を目指したという訳か・・・」
「ええ、仙台の衛士訓練学校に入隊しました」
「確か仙台第二帝都に首都機能移設準備が始まった頃、白陵基地に在った訓練学校も移されたんだったな」
「よく知ってますね」
「一応この世界についてのレクチャーは受けているからな。一般人が知っていそうな事は理解しているつもりだ」
「なるほど。俺はそれから約1年の訓練期間を経て、帝都防衛第1師団第5戦術機甲連隊に配属されたんですよ」
「帝都防衛師団配属か、だとすると沙霧大尉と面識があるんじゃないのか?」
「確かに同じ師団所属ですからね。でも違う連隊でしたから沙霧大尉とは少しばかり面識がある程度でしたよ。その後、俺は衛士として明星作戦にも参加しました―――」


1999年8月、国連軍と大東亜連合によるアジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦が開始されようとしていた。
日本国領土内に新たに建設された二つ目のハイヴである『横浜ハイヴ』の殲滅と本州島奪還が優先戦略目的であり、これらの作戦は全て香月 夕呼の提案によって行われている。
無論、彼女がこの様な作戦を提案したのはオルタネイティヴⅣを成功させるためであり、ハイヴ殲滅や本州奪還などと言ったものは建前でしか無かったのは言うまでも無い。

『いよいよだなタケル』
「ああ、まさか初陣から間が無い俺達がこんな大規模作戦に参加するなんて思ってなかったよ」
『お前らしくねえな、ひょっとしてビビってんのか?』
「解んねえよ・・・お前はどうなんだ?」
『俺か?そんなもん聞くまでもねえだろう。何時だって俺は物事に対して全力投球だからな』
「聞いた俺がバカだったよ」

相変わらず剛田は暑苦しい奴だと武は考えていた。
彼とは中学時代からの付き合いで、訓練学校時代も同じ隊に所属する事となった。
腐れ縁とはこの様な事を言うのだろう。
相変わらずの猪突猛進ぶりに、訓練兵時代の武は終始振り回されっ放しであったのだが、何だかんだで彼の事は認めていた。
そして剛田は剛田で、勝手に武の事を『強敵と書いて友と呼ぶ存在』などと言い、一方的にライバル扱いしていたのは言うまでも無い。

『―――タケル』
「何だよ、急に改まった顔したりして」
『死ぬなよ』
「―――こんな所で死ねるわけ無いだろ?お前こそ死ぬんじゃねえぞ剛田」
『フッ、俺様がこんな所で死ぬ筈が無いだろう!BETAなんぞにくれてやる程、俺様の命は安くは無いぜ!ハァッハッハッハ―――』

声高らかに笑う剛田を他所に、武はこれまでの事を思い出していた。
別に緊張している事を紛らわす為では無い。
任官して間もない頃、偶然とはいえ彼は悠陽と話す事があった。
その時彼女に言われた事を思い出していたのだ―――


「殿下、その節は助けて頂き、本当にありがとう御座いました」
「気にする必要は無いと申した筈ですよ白銀」
「いえ、気付かなかったとはいえ殿下に対して働いた無礼の数々、許されるものではありません」
「私は怪我人を助けたまでです。それにあの時そなたと出会えた事は、私にとっても有意義な時間を過ごせる事となりました」
「どう言う意味でしょうか?」
「そなたにこの様な事を申すのはおかしいかもしれませぬが、私はそれまで同じ年頃の者達とあのように接する機会が無かったのです。例え数日とは言え、そなたの様な友人ができた事が本当に嬉しかったのですよ」
「自分の様な者をそのように言って頂けて本当に嬉しく思います・・・ですが―――」

次の言葉が出てこなかった。
今自分が彼女に伝えようとしている言葉を口にしてしまう事は出来ない。
何故ならば目の前の彼女は、当時の出来事を本当に嬉しそうに語っているのだ。
思った事をそのまま伝えてしまえば、彼女の気持ちを無下に扱ってしまう事になる。
本音を言えば嬉しかったのは当たり前だ。
彼女が将軍であるという事を抜きにしても、彼女の様な人物と知り合えた事は自分にとっても本当に良かったと思っている。
両親を失い、最愛の幼馴染も行方不明。
失意のどん底に叩き込まれていた自分を救ってくれたのは、言うまでもなく彼女なのだから―――

「―――武殿」

ふいに悠陽が口を開く。
その表情からは、恐らく武の心情を察したのであろう事が見て取れる。

「はい」
「確かに今はお互いの立場と言う物があります。ですが、こうして私と二人で居る時はその様な事を気にする必要はありません」
「しかし・・・自分は帝国軍衛士、殿下はそれらを統べる者です。自分には殿下を自分と同等に扱う事はできません」
「どうしてなのです?」
「先程申し上げた通りです」
「その様に自分を偽って無理をするのは辛くは無いのですか?」
「っ!!」

全てを見透かされている様な気がした―――
本音を言えば嬉しいに決まっている。
あの時彼女と過ごした数日が在ったからこそ自分は立ち直る事が出来たと言っても過言では無いのだ。

「私にはそなたが無理をしている様にしか見えません。言葉遣いもそうですが、そなたが時折見せる悲しげな表情・・・あえて詮索するつもりはありませんが、もう少し楽にしても良いと私は思いますよ?」
「御心遣い感謝します。ですが、今の自分にはこういう生き方しかできませんので」

肯定出来なかった―――
自分は彼女に助けられたと同時に、一つの誓いを起てた。
BETAからこの世界を救うまでは一人の戦士として生きるのだと・・・

「―――そうですか」
「お忙しい所、わざわざ自分の様な者の為に時間を割いて頂きありがとう御座いました。今後の作戦についてのミーティングがありますので、これにて失礼させて頂きます」
「解りました。今後のそなたの活躍に期待させて頂きます」

そう言って部屋を後にしようとする武。
しかし、彼は何かを思い立ったかのように出口の前で立ち止まっていた。
どうかしたのかと悠陽が声をかけようとした瞬間、唐突に武が口を開く―――

「これから言う事は俺の独り言です・・・俺もあの時悠陽さんと話せて良かった。俺を立ち直らせてくれたのは悠陽さんのおかげだと言っても良いと思う。本当にありがとう」

こう応える事しか今の自分には出来ない。
これが今できる精一杯の感謝の気持ちだと武は考えていたのである―――


『アストレア1から各機、そろそろ時間だ・・・各自、気を引き締めてかかれよ!!』
「アストレア7了解!」
『アストレア8了解っ!!』

程無くしてCPより作戦開始の合図が出され、太平洋側と日本海側からの艦砲交差射撃による後続の寸断が始まる―――

『アストレア1から各機、我々は斯衛軍第3大隊の援護が目的だ。彼等が撃ち漏らした敵を残らず頂くぞっ!』
『『「了解!!」』』

第3大隊がその殆どを駆逐しているにも拘らず、やはりここはハイヴ周辺。
敵が圧倒的な物量である以上、何体かの要撃級や突撃級は隙間を縫うようにして進軍を続けて来る。

『アストレア1からアストレア7、8へ。お前達はアストレア10から15を引き連れて右翼部隊の援護に回れ!』
『「了解っ!」』

中隊長からの命令により、斯衛軍の援護に向かう武と剛田。
彼らの所属する第5戦術機甲連隊は、発足後幾度となくBETAと戦い続けて来た事で軍内部でも有名な部隊だ。
しかし、その分損耗率も高く、彼らの所属する第4中隊は最近再編されたばかりであり、隊長を除いた殆どのメンバーは新任少尉で構成されている。
そんな中武は、新任であるにも拘らず何故か小隊長を任されていた。

「アストレア7より各機、エレメントを組んで敵を掃討する!14、15は後方より支援砲撃を、12、13は二人の直衛に付け、8、10、11は敵陣に切り込むぞ!」
『『「了解」』』

一進一退の攻防が続いて行く―――
彼らは死の8分を潜り抜けたとはいえ、それほど場数を踏んでいる訳では無い。
だが、彼らは同じ訓練校の同期生と言う事もあって互いの癖を知り尽くしていた。
互いの欠点を補いながらも次々とBETAを駆逐していく。

『俺様が居る限りここは一歩も通さんぞBETA共っ!!』

突撃前衛を務める剛田が吠える。
彼の性格が猪突猛進である事が、彼等にとっては心強かった。
一見無謀にも見える彼の突撃戦法は、意外な事に戦場では驚くほどの成果を挙げているのだ。
両手に長刀を構え、次々と要撃級を斬り伏せて行く剛田。
そしてその彼の一歩後方を意識して動いているのは武だ。
彼の牽制や援護が在るからこそ剛田はこの様な戦法が取れると言っても過言では無かったのである。
しかし―――

「剛田、前に出過ぎだ!一端下がれ!」
『大丈夫だ。この程度俺にとっちゃ問題無い!』

武からの命令に従おうとしない剛田。
それは武ならばこのぐらい自分が無茶をしたところでキッチリと援護をしてくれるという信頼の裏返しでもあった。

「馬鹿野郎!他の奴らとの距離が開き過ぎてるって言ってんだ!素直に従えっ!」

彼は目の前の敵に集中するあまり、自分と仲間との距離が開き過ぎている事に気付いていなかったのである。
そしてレーダーには新たな敵影が映し出されていた―――

「クッ!このままじゃ不味い・・・10、11、お前達だけでも先に下がれ!」
『しかし、お前達を残しては・・・』
「レーダーを良く見ろっ!右翼の一部分が決壊してBETAがこっちに来てるんだ。このままじゃ後方の4人がヤバいんだよ!」
『わ、解った!』

後退を始めるアストレア10と11の二人。
このままの位置に展開していては、後方に位置する打撃支援と砲撃支援の4名との距離が離れ過ぎてしまうどころか、こちら側に向かって来ているBETAに側面から襲われる事になる。
後方のメンバーも後退したいところなのだが、ここで彼らまで下がってしまえば武と剛田の二人が敵に包囲されてしまう為にそれが出来なかったのだ。

『スマン武』
「ああ、俺達も急ぐぞ!」

彼等がそう言った直後、モニターに表示されるレーザー照射警告。

「各機回避行動を取れ!!」

急いでレーザーの照射予測地点を確認する武。
一番最悪の位置に陣取っているのは最後方に位置している支援ポジションのメンバー達だった。
支援を行うという以上、周囲に邪魔な遮蔽物があっては満足な援護は行えない。
それを考慮した上での位置取りだったのだが、ここに来て光線級属種の攻撃が来るなどと武は考えていなかったのである。
本来、光線級は最優先ターゲットとして真っ先に排除される相手だ。
戦闘開始と共に放たれたAL弾から発生する重金属粒子雲のおかげで、そこを透過する敵レーザーを著しく減衰させることにより無力化している間に確認された光線級を一気に補足殲滅する。
これらは総攻撃前の準備攻撃によく行なわれる手段であり、戦闘開始からかなりの時間が経過している現状で、光線級の生き残りが存在しているなどとは考えられなかったのだ。
これは偏に、実戦に対する経験不足から来る読みの甘さと言っても良いだろう。

『タケルっ!俺達も下がるぞ!』
「下手に動くな剛田!俺達の周囲にはBETA共が居る以上、奴らはこっちを狙わない筈だ!」

その様な事を言ったとしても危険である事には違いは無かった。
後退すれば側面からのレーザー照射に晒される。
かと言って前に出れば無数の要撃級に囲まれる事になる。
そんな中、無数に放たれる光―――

「クッ!・・・皆は!?」
『だ、大丈夫だ白銀。何とか間一髪で遮蔽物に隠れる事が出来た』
「良かった・・・俺達も直ぐにそっちに向かう。そのまま遮蔽物越しに援護を頼む」
『了解だ』

しかし、そう簡単には行かなかった。
そして先程のレーザー照射によって何が起こっていたかと言う事も―――


光線級のレーザーを回避している間に、武と剛田の二人は完全に孤立してしまっていた。
周囲に群がる要撃級と戦車級の群れ。
今は何とか防ぎきってはいるものの、このままでは二人揃って餌食になるのは時間の問題だ。
一心不乱に突撃砲を乱射し、近寄る戦車級を肉塊に変えるものの、徐々に機体にはダメージが蓄積されてゆく。

「クソッ!機体が重い!」

彼らに与えられた戦術機は撃震。
旧式化が進んでいるが、新型複合装甲による軽量化や対レーザー蒸散塗膜加工の導入などの近代化改修を重ねながら、第一世代機ながらも帝国軍戦力の中核を成している。
しかし、第二世代機や第三世代機と比べると、どうしても見劣りしてしまうのは確かだ。
現に老朽化が進み、機体各部には完全に修復できないダメージが蓄積されている。
これらを修理するには、機体を一から作り直す方が速いとさえ言われていた。
しかし、現状ではそのような事も不可能であり、彼らは機体を騙し騙し運用する他無かったのである。

『この野郎っ!!』

剛田が自機に飛びかかって来た戦車級に向け92式多目的追加装甲で殴りかかる―――
グシャリと音をたてながら潰れる戦車級。

『ヘッ、脆いもんだぜ』
「馬鹿野郎、この状況下で格闘戦なんかするんじゃねえよ!」
『馬鹿とは何だ馬鹿とは!』
「いくら帝国軍機が近接戦闘用に腕部を強化されてるって言ってもな、お前みたいな戦い方してたら機体がもたねえって言ってんだよ!」
『甘いなタケル、俺のこの手が真っ赤に燃えるってな。俺の機体はお前のと違ってヤワじゃないんだよっ!』
「何が真っ赤に燃えるだ。まあ、確かに返り血で気色の悪い色はしてるがな」

そんなやり取りを続けながらも、なんとか相手の攻撃を防ぎつつ突破口を開こうと試みる二人。
互いを信頼しているからこそ、この様な軽口が叩けると言うものなのだ。
しかし状況は悪くなる一方である。
彼らの眼前には無数の戦車級が集まって来ている。
一匹一匹は大した事は無いのだが、数が集まればこれほど脅威になる存在はいない。
奴らに取り付かれてしまったが最後、戦術機の装甲などあっという間に食い破られてしまうのだから―――

「剛田、キャニスターの残弾は?」
『あと3発だ。何か考えがあるのか?』
「―――正面の敵に対してありったけのキャニスターをぶっ放す」
『それだけじゃ突破口は開けないぜ?』
「ここからが肝心だ・・・着弾と同時に短距離噴射跳躍(ブーストジャンプ)、奴らの頭上を飛び越える」
『なっ!・・・解ってんのかお前、光線級の殲滅は確認されてないんだぞ?』
「そんな事は解ってる。だけどこのままじゃ、こいつらにやられるのも時間の問題だ」
『ったく、いつからお前はそんな博打好きになったんだ?』
「どっかの誰かさんの猪突猛進ぶりが俺にもうつったのかも知れないな」
『ケッ!仕方ねえな、タイミングはお前に任せるぜ相棒!』
「誰が相棒だ・・・行くぞっ!」

カウントが開始される―――

「5秒前、3、2、1、今だっ!ありったけのキャニスターをぶち込んでやれ!」
『おうっ!!ついでに36mmも食らわせてやるぜ!』

轟音を立てて突撃砲より放たれる120mm砲弾。

「行くぞ剛田っ!!」
『了解だっ!』

一か八かの賭け―――
成功すれば相手の背後に着地が可能だが、失敗すれば光線級の餌食になる。
しかし彼らは、この一か八かの方法に賭けるしか無かったのだ。

「着地と同時に水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)、奴らと距離を取って一気にNOE(匍匐飛行)で皆と合流するぞ!」
『おう』

味方機の援護も在ったおかげで彼らは無事小隊メンバーと合流する事が出来た。
跳躍中にレーザー照射を受ける事も無く、運が良かったと言う他無いだろう。

「一度本隊と合流するぞ、15、本体の位置は?」
『それが・・・』
「どうした?」
『反応が無いんだよ。さっきのレーザー照射の直後位からだ』
「なっ!・・・こちらアストレア7、CP応答してくれ!本隊は、隊長達は無事なのか!?」

CP将兵から返ってきた言葉は、彼らを落胆させた―――
彼らの所属する大隊は先程のレーザー照射でその殆どが蒸発し、生き残っていた面々も態勢を立て直すべく奮闘していたのだが、指揮系統の乱れから武達の部隊を除く殆どが壊滅状態に陥ったという悲惨なものであった。

「クッソォォォォォッ!!」

コンソールに拳を叩きつける武。
慕っていた隊長や部隊の先輩衛士達、その殆どが先程の攻撃で死んでしまったというのだ。
彼は自分の無力さを呪っていた。
今回の様な事は戦場ではよくある事かも知れない。
しかし、今の彼にはそんな事を考える余裕は無かったのである。

『タケル・・・悲しむのは後だ。今は奴らを一体でも多く倒す事を考えよう』
「―――ああ、俺は奴らを許さねえ・・・一匹残らずぶっ殺す!!」

彼の心の中を殺意や憎悪と言った負の感情が支配する。
自暴自棄と言っても良いかもしれない。
彼の小隊は怒りに任せ、次々と眼前のBETA群を駆逐していく―――

「いかんな、あの様な精細さを欠いた動きで戦っていては、いずれその身を滅ぼす事になる」

真紅に塗られた武御雷のコックピットの中で、一人の男が彼らの戦いぶりを眺めていた。
動きから察するに、新兵であろうという事は容易に察しが付く。
恐らく此度の戦闘において何かあったのだろうと彼は考えていた。
そんな中、不意に開かれる通信―――

『閣下、国連軍より緊急連絡が入っています』
「何事だ?」
『ハッ・・・これより米軍が新型爆弾を用いて敵ハイヴに向けて攻撃を仕掛ける為、前線の部隊は即座に最終防衛ラインまで後退せよとの事です』
「何だとっ!事前通告も無しにか?」
『はい、尚この件に関しては既に政府の了承を得ているとの事です』
「クッ、米国め・・・一方的に安保条約を破棄したかと思えば、いきなり事前通告も無しにこの様な暴挙に出るか―――全軍に通達せよ。ただちに最終防衛ラインへ向けて後退を開始せよとな」
『了解しました!』

HQより全軍にG弾の使用が告げられる。
G弾・・・正式名称 Fifth-dimensional effect bomb (五次元効果爆弾)
ムアコック・レヒテ機関の開発からスピンオフした技術の産物でグレイ・イレブンの反応を制御せずに暴走させる構造の爆弾。
いわば安全装置のない簡易ML機関である。
ML機関よりも安価で、省資源、しかも運用も容易ということで開発元である米国がオルタネイティヴⅤ計画を推進する理由ともなっているものだ。
しかし放射能物質こそださないものの、被爆跡地では半永久的に重力異常を引き起こし、植生も回復しないという深刻な欠点もあり、各国ではその性能においての脅威や危険性が指摘されている。

『タケル、後退命令だ』
「解ってる! 各機、指定されたポイントまで後退だ」

それから暫くして、米軍が放った二発のG弾が横浜ハイヴ周辺を瓦礫だらけの土地に変えた―――
その圧倒的な破壊力を目にした帝国の人々の心には様々な感情が生まれていたのは言うまでも無い。
無通告のG弾使用が、日本国民の心に更に深い反米感情を刻み込んだのは確実だったのである。
その後、残存していたBETA群は一斉に大陸に向け撤退を開始。
戦術機甲部隊による追撃戦、艦砲射撃などによって敗走するBETA群に大損害を与え、歴史的な大勝利となった。
そして―――

「―――柊町が」
『ああ、俺達の生まれ故郷がこんな事になるなんてな』

武と剛田の眼前に広がる光景は悲惨としか言いようが無かった。
BETAによって住む所を追われ、今度は米軍によってそれが荒野に変えられた。
確かに自分達は勝利したのかも知れない。
だが、彼らはそれを素直に喜ぶ事は出来なかったのである。

『俺は今日ほど自分の無力さを呪った事は無い』
「俺も同じだよ・・・」


この日を境に二人の青年は決意を改める。
彼らは更なる高みを目指し、互いが互いを鍛え上げるべく奮闘する。
しかし、傍から見ればそれは無茶としか言いようが無かった。
特に武は周囲が止めるのも聞かず、寝る間も惜しむように訓練に明け暮れていた。
それは偏に自分と同じ様な思いをする人達をこれ以上増やしたくは無いという意思の表れであったのは言うまでも無い―――



あとがき

第26話です。
帝国軍に入隊するまでと入隊後のタケルちゃんについて書かせて頂きました。
いやはや、何と言いますか・・・自分でもかなり無茶苦茶書いてしまった様な気がします。
タケルちゃんが殿下に気付かなかったのは、彼が鈍いという事で勘弁して下さい^^;
今回は剛田君とも絡ませてみました。
しかし、彼についてあまり詳しく知らないのでこんな感じだろうと考えながら書いてみたのですが如何でしたでしょうか?
彼らの機体についても撃震にするか陽炎にするかでだいぶ悩んだのですが、最終的に激震にさせて頂きました。
新任少尉に陽炎とかが与えられるとは思えませんでしたし、A-01の新任達に不知火が与えられているのは特例だろうと解釈した結果です。
戦闘シーンに関しても、もう少し上手く纏めれればと思っていますが、やはり難しいものですねTT
後、今回は以前よりご指摘頂いていた三点リーダーをなるべく排除しようと心掛けてみました。
小説などを読んで色々と勉強しているのですが、やはり難しいですね。
改めて自分の文才の無さに落ち込んでいますTT
それでは次回のお話も楽しみにお待ち下さい。
感想の方お待ちしております^^


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