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No.4008の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION (Muv-Luv オルタ&SRWOGクロスオーバー作品)[アルト](2013/01/21 20:25)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第0話 プロローグ[アルト](2008/08/28 21:08)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第1話 異世界からの来訪者[アルト](2008/08/29 21:41)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第2話 新たなる出会い・・・そして・・・[アルト](2008/08/31 20:44)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第3話 イレギュラー[アルト](2008/08/31 20:40)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第4話 再会[アルト](2008/09/16 23:44)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第5話 姉妹の絆[アルト](2008/09/04 01:33)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第6話 不協和音[アルト](2008/09/05 08:43)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第7話 過去、そして現在(いま)・・・[アルト](2008/09/07 08:55)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第8話 侵入者の影[アルト](2008/10/16 22:13)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第9話 抹消された戦術機(前編)[アルト](2008/09/12 22:09)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第10話 抹消された戦術機(後編)[アルト](2008/10/16 22:17)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第11話 戦乙女再び[アルト](2008/09/21 23:33)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第12話 白銀の力[アルト](2008/09/23 21:34)
[14] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第13話 激突!孤狼と白銀[アルト](2008/10/16 22:30)
[15] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第14話 失われし記憶[アルト](2008/10/16 22:41)
[16] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第15話 真実が明かされるとき[アルト](2008/10/18 23:16)
[17] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第16話 純夏の想い[アルト](2008/10/22 01:41)
[18] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第17話 拒絶[アルト](2008/10/24 01:19)
[19] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第18話 得られたモノ[アルト](2008/10/24 01:19)
[20] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第19話 とある日常の訓練風景[アルト](2010/10/05 18:39)
[21] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第20話 BETA侵攻[アルト](2008/10/28 21:51)
[22] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第21話 紅き機神来たりて・・・[アルト](2008/10/30 17:56)
[23] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第22話 覚醒[アルト](2008/11/01 01:04)
[24] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第23話 新たなる力[アルト](2008/11/06 00:09)
[25] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第24話 邂逅[アルト](2008/11/06 00:07)
[26] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第25話 忘れられぬ日々[アルト](2008/11/16 21:36)
[27] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第26話 立脚点[アルト](2008/11/16 21:35)
[28] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第27話 運命のあの日[アルト](2008/11/22 00:26)
[29] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第28話 蠢く陰謀[アルト](2008/12/06 21:15)
[30] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第29話 総戦技演習へ向けて[アルト](2008/12/07 00:13)
[31] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第30話 島を行く[アルト](2008/12/20 00:23)
[32] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第31話 動き出す影[アルト](2009/01/12 15:06)
[33] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第32話 南国の激闘[アルト](2009/01/12 23:27)
[34] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第33話 脱出[アルト](2009/02/02 21:19)
[35] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第34話 吹き荒れる熱風、疾風の如く[アルト](2009/03/13 00:46)
[36] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第35話 暴れまわる幽霊達[アルト](2009/03/13 00:45)
[37] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第36話 Dancing dolls[アルト](2009/03/19 22:21)
[38] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第37話 疑念[アルト](2009/04/06 23:14)
[39] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第38話 一時の休息、そして新たなる始まり[アルト](2009/04/09 22:43)
[40] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第39話 悠陽からの招待状[アルト](2009/04/29 20:43)
[41] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第40話 新たなる仲間[アルト](2009/05/04 17:07)
[42] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)[アルト](2009/05/18 22:58)
[43] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第42話 武神の産声[アルト](2009/06/10 23:09)
[44] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第43話 彼方への扉[アルト](2009/05/29 18:53)
[45] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第44話 白銀 武の受難[アルト](2009/06/10 23:29)
[46] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第45話 天元山での出会い(前編)[アルト](2009/08/03 18:37)
[47] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第46話 天元山での出会い(中編)[アルト](2009/08/04 00:13)
[48] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第47話 天元山での出会い(後編)[アルト](2009/08/31 01:05)
[49] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第48話 御守岩をぶった切れ!![アルト](2010/01/05 14:14)
[50] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第49話 迫り来る悪夢[アルト](2010/01/07 20:32)
[51] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第50話 数多の可能性[アルト](2010/01/10 23:19)
[52] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第51話 成すべきこと[アルト](2010/01/16 20:49)
[53] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第52話 護りたい背中[アルト](2010/01/31 21:06)
[54] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第53話 歪められた12.5事件[アルト](2010/01/27 22:43)
[55] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第54話 夕呼の企み[アルト](2010/01/31 21:03)
[56] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第55話 共に歩む尊き者よ[アルト](2010/02/04 00:28)
[57] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第56話 月が闇を照らすとき[アルト](2010/02/08 20:21)
[58] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第57話 シャドウミラー包囲網を突破せよ[アルト](2010/03/19 01:22)
[59] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第58話 合流(前編)[アルト](2010/05/02 22:47)
[60] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第59話 合流(後編)[アルト](2010/07/02 00:40)
[61] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第60話 偽りの仮面[アルト](2010/07/03 21:44)
[62] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第61話 DCの遺産[アルト](2010/08/01 22:10)
[63] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第62話 奪還作戦[アルト](2010/09/03 23:00)
[64] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第63話 究極の名を冠したモノ[アルト](2010/09/12 18:29)
[65] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第64話 ゲイム・システム[アルト](2010/10/02 23:51)
[66] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第65話 潰えし野望[アルト](2010/11/01 18:55)
[67] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第66話 開かれた次元の扉[アルト](2010/11/12 20:46)
[68] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第67話 新西暦と呼ばれる世界[アルト](2010/11/15 23:18)
[69] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第68話 導かれた悪意(前編)[アルト](2011/01/08 19:35)
[70] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第69話 導かれた悪意(後編)[アルト](2011/01/20 23:44)
[71] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第70話 因果律の番人[アルト](2011/02/02 21:30)
[75] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第71話 帰郷[アルト](2012/07/15 19:01)
[76] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第72話 A-01新生[アルト](2012/07/15 19:08)
[77] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第73話 明かされた出生の秘密[アルト](2012/11/05 11:54)
[78] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第74話 解隊式[アルト](2013/01/21 20:24)
[79] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第75話 ベーオウルブズ(前編)[アルト](2013/01/28 17:37)
[80] 本編登場機体設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2011/01/20 23:46)
[81] 本編登場キャラクター設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2010/01/27 22:49)
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[4008] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第27話 運命のあの日
Name: アルト◆ceb42498 ID:f0f37b8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/11/22 00:26
Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION

第27話 運命のあの日




・・・某所・・・

薄暗い部屋の中で一人の男がモニター越しに通信している。

『それは本当なのか?』
「ええ、先程アズマ博士から連絡を頂いたところです」
『クッ、キョウスケ達に続いてコウタ達まで行方不明になるとは―――』
「少佐、その後キョウスケ中尉達については?」
『伊豆基地司令部は彼らの捜索を打ち切ったよ。彼らに関してはMIAと認定された』
「そうですか・・・自分はこれから例の場所で今後の事について話し合う予定です。何か情報が入り次第、此方から連絡させて頂きます」
『頼む。こちらも何かしらの手段を講じてみるつもりだ』
「了解です少佐。それでは―――」

男は一つ溜息を付くと、これまでに起こった事件に関しての事をもう一度考え直していた。

「情報が少なすぎる以上何とも言えんが、今回の一件は何者かによって引き起こされている可能性が高いな―――」

事件当時の資料を眺めながら彼は、現在起こっている案件に対して一つの推論に達していた。

「事故現場を改めて調査してみる必要があるかもしれん」

そして彼は、これまで幾度となく共に死線を潜り抜けて来た盟友に対し連絡を取るべく行動に移る。
拭いきれない不安を他所に、彼はただ行方不明となったキョウスケ達の無事を祈るほか無かった―――



「お前も辛い思いをしたんだな」
「俺なんかまだマシな方かもしれませんよ。世の中にはもっと酷い目に遭ってる人たちだって居ると思いますし」
「そうか―――」

本人は否定しているものの、彼の表情は重いままだ。
キョウスケには目の前の青年が、未だ過去を拭いきれずにいる事に気付いていたのである。

「そして明星作戦終了後、お前達はどうなったんだ?」
「隊長や先輩衛士達は皆死んでしまって、俺達の部隊は壊滅状態でしたからね。その後も色々あって、最終的に俺と剛田を除く他の隊員達は別の師団に転属、剛田は斯衛に配属され、俺は兼ねてから計画されていた試験小隊に組み込まれる事になったんです。」
「任官間もない新任衛士を試験部隊に配属とは意外だな」
「普通に考えればそうですよね。その頃は新型戦術機開発の為に様々なデータ収集が行われていたんです。それで今後の衛士達の為の実証実験や戦術機運用を考える為に任官間もない俺達が選ばれただけなんです。単純に遊ばせておく衛士が居なかったって言う事と、下手に癖の付いていない新人の方が都合が良かったってだけですよ」

その頃の日本は、純国産第三世代主力戦術機である不知火や吹雪を基に斯衛軍専用の新型戦術機の開発が行われていた。
無論、これらは斯衛軍によって開発が行われている為、通常の帝国軍は殆ど関与していない。
彼が配属されたのは帝国軍第8試験小隊、帝国陸軍直轄の試験小隊の一つである。
現存戦術機強化計画の一環で開発された改造機の試験運用を主な任務としており、ここで開発された機体の一つに不知火・壱型丙が存在している他、撃震や陽炎、吹雪などの強化計画も進められていたのである。


明星作戦から約半年余りが経過しようとしていた―――
あの大規模反攻作戦の後、武の居た部隊は解散され、それぞれ他の部隊へと配属する事になった。
そして武はその操縦技術を買われ、一人試験小隊へ配属されたのである。


「クッ!速いっ!」

模擬戦の最中、コックピットの中で一人の衛士が呟く。
演習場では二機の戦術機による模擬戦が行われている。
一つは斯衛軍中尉『篁 唯依』が駆る不知火・一型丙。
もう一つはこれまで見た事の無い新型機であった。

「この私がこうも翻弄され続けるとは・・・まったく無様な―――」

開始から約10分―――
相手の予想以上の動きに、彼女は攻めあぐねていた。
一定の距離を取りつつこちらを牽制し続け、こちらが隙を見せると一気に距離を詰め、機体の特性を生かした攻撃を仕掛けてくる。

『「ハァァァッ!」』

互いに気合の籠った叫び声をあげながら交差する二機―――

「チッ!流石は不知火の強化型、一筋縄ではいかないか」

武はコックピット内で一人ぼやいていた。
機体性能の差もあるだろうが、彼女の技量も相俟って、不知火・一型丙は並の戦術機以上の機動を描いている。
そして相手は、自分から決して近付いてこようとせず、こちらが接近した時のみ反撃を繰り出してくるのだ。
恐らくカウンター狙いなのだろうと武は考えていたのだが、彼女はその様な事は考えていなかった。

『問題児と聞かされていたが、奴のどこが問題児だというのだ。クッ、またしてもあの変則的な動きか!』

彼女が先程から彼の機体に近付こうとしない理由―――
それは武の用いている変則的な機動が原因である。
彼の戦術機は匍匐飛行を用いながら、まるでダンスを踊るかの様に前後左右にフェイントをかけて来る。
そして、一定のリズムで此方に向けて一気に距離を詰め、攻撃を行ってくるのだ。
武は決して三次元機動を用いて翻弄している訳ではない。
彼女は今まで経験した事の無い武の動きに対して、どう対処すべきかを考えていたのである。

「こっちは接近戦に特化した機体だって言うのに、こうも距離を取られ続けてちゃ埒があかないぜ―――」

そう言いながらも武は、右腕に装備された突撃砲から36mmを放ち、相手を牽制し続ける。
彼女は自分からは近づいてこないが、こちらのレンジ外からの攻撃はしてくるのだ。
本来、相手に自分の間合いに入って貰いたいのであれば、この様に相手を牽制し続けるのは得策では無い。
しかし、自分から相手の間合いに踏み込む事は、決して容易いとは言えない。
機体の性能で言えば、彼女の一型丙はかなり高性能な部類に入り、そして彼女の実力も侮れないからである。
いくらこちらの機体が接近戦に特化しているとは言え、機体の総合性能で考えるのであれば向こうの方が一枚上手だ。
そして彼女は斯衛軍の衛士、帝国軍内部でもトップクラスの実力の持ち主なのである。
今までこちら側に見せていた隙は、油断させる為の行動なのかもしれない。
それをブラフかどうか見極めるだけの実力や経験は、武にはまだ無かったのである。

「推進剤も残り少ないし、制限時間も迫ってる。こうなったら一気に仕掛けるしか無いな―――」

このまま時間切れになってしまってはテストの意味が無い。
そう判断した武は、意を決して彼女に向けて機体を突進させる。
だが、ただ闇雲に仕掛けた所で状況は変わりはしない。
機体の特性をフルに生かした攻撃を叩きこもうと言うのである。

『流石に痺れを切らしたか・・・ならば、こちらもやらせて貰う―――」

彼女は機体の背部にマウントされた長刀を正眼に構え、相手の機体を見据える。
この時唯依は、真正面から来るのであれば簡単に対処できると考えていた。
しかし武の機体は、彼女の目の前で突如として上空へと跳躍したのである。

『な、何だと!?』

流石の彼女も、彼の突拍子もない行動には驚かされたようだ。
そして武は、そのまま空中で跳躍ユニットを吹かし、機体の向きを強引に変える。
横方向からの強烈なGに耐えながらも彼は、相手の背後を突く事に成功したと感じていた。

「止められるもんなら止めてみやがれっ!!」
『甘いっ!』

当初彼女は驚いてはいたものの、冷静にそれに対処し、直ぐさま武のいる方に向き直っていた。
だが武もそのような事では驚きはしない。
飛び蹴りを放つ要領で、彼女の方へと急降下し、そのまま体重を乗せて右腕の旋棍(トンファー)を振りかざす。
寸での所で彼女はそれを回避するのだが、着地の硬直を終えた武が、再び両腕に装備された旋棍を構え一気に唯依へと距離を詰めてくる。
怒涛のラッシュ―――
この距離であればこのまま押し切れると武は考えていた。
しかし、両腕から右、左と交互に繰り出される攻撃は全て長刀でいとも容易く薙ぎ払われてしまう。
そして彼女は、最後の一撃を長刀で自身の右側にそらし、続け様にカウンターとなる一撃を武に向けて放つ。
その一連の流れは驚くほどスムーズに決まり、相手は沈黙したかに見えたのだが―――

「まだまだぁぁぁっ!!」

倒れこみながらも彼は、最後の一撃を加えるべく右腕を振りかぶる―――
自分の機体は沈黙してしまうものの、相手の不知火は左腕を持って行かれていた。
互いのモニターに表示されるダメージ判定。
武の機体は動力炉損傷の為、戦闘続行不可能。
唯の機体は左腕部大破・・・結果として勝利の女神は彼女に微笑んだのである。

『そこまでだ、2人ともご苦労だったな』

オペレータールームから模擬戦の終了が告げられる。

「クッソォォォッ!完璧に決まってたと思ったんだけどなあ」
『惜しかったな白銀少尉』
「やっぱり篁中尉には敵いませんね」
『謙遜するな。最終的に左腕がやられてしまったが、殆ど紙一重の差だ。貴様が臆せずに後一歩、いや後半歩踏み込んでいたら、負けていたのは私の方かもしれん』
「いえ、純粋に技術の差ですよ」
『・・・』
「どうしたんですか中尉?」
『いや、何でも無い。さて、午前中のテストはこれまでだ。午後からのテストに向けて貴様は今の内にしっかりと休め』
「了解です」

武にそう伝えると唯依は、コックピット内でこれまでの模擬戦内容を改めて思い返していた―――
彼女は、斯衛軍の実戦部隊である白き牙中隊(ホワイトファングス)の中隊長を務めている事でも有名であり、衛士としての実力もかなり優秀な部類に入る。
今回の模擬戦相手の機体は試作機とは言え、自身の駆る一型丙に比べれば随分劣る機体だと考えていた。
運良く勝てたものの、このまま回数を重ねて行けばいずれ自分が負ける事もあり得るだろう。
そして彼女は、序盤で明らかに油断していた自分を責めていたのである。

「斯衛に所属する身でありながら何たる失態だ・・・機体の性能差で勝てるなどと考えていた自分が情けない」

彼女は譜代武家である篁家の当主であり実直で生真面目、他人に厳しく己にも厳しいという正に堅物と言っても良い人物である。
その様な性格である為に、今回の様なミスを犯した自分が許せないのであった。

『どうした篁中尉?午前のテストは終わりだぞ』

不意に通信が開かれ、彼女は我に返る。

「巌谷中佐・・・申し訳ありません。少々考え事をしていたもので―――」
『相変わらずだな、唯依ちゃんよ。もう少し気楽にやってくれて構わんぞ』
「お、お止め下さい中佐・・・現在は任務中です!」
『またいつもの反省癖か?それにこの通信はどうせ誰も聞いちゃいない。普段通り巌谷の叔父様と呼んでくれたって良いんだぞ?』

その男の名は巌谷 榮二。
元帝国斯衛軍が誇る歴戦の勇士にして、F-4J改・瑞鶴を開発した伝説のテストパイロットだった人物。
そして幼い頃より唯依を知り、実父亡き後は父親に代わり彼女を鍛え、育て上げてきた恩人なのである。
彼女は現在、彼の頼みでこの試験小隊へと出向している。
彼が言うには、斯衛に是非とも推薦したい人物が居る為、彼女にそれを見極める手助けをして欲しいとの事だった。

「申し訳ありません。己の未熟さに恥じ入るばかりです」
『気にするな、お前さんは良くやってくれてるよ。それよりもどうだ、白銀少尉は?』
「問題児だと聞かされていましたが、とてもその様には感じませんでした。戦術機の操縦技能や戦法、その殆どが実戦でも十分に通用するレベルだと思います」
『そうか・・・本当の事を言うとな、奴は問題児なんかじゃないんだよ。問題児どころか衛士としての心構えや能力は優秀すぎるぐらいなんだ』
「では、そのような者が何故問題児扱いされているのです?」
『―――白銀は明星作戦で自身の無力さを痛感した事で己を鍛え上げて来た。そして徐々にではあるが実力が付いて来ている。それこそ寝る間を惜しんで訓練に明け暮れていたそうだ。そんな彼を疎ましく思う輩も居るって事さ」
「そうですか・・・」

唯依は複雑な心境だった。
自身の無力さを痛感しているのは自分も同じだ。
何がそれほどまでに彼を追い込んでいるのだろう。
そして、そんな彼を何故疎ましく思う必要があるのだろうか?
この時彼女は、巌谷がどう言った理由で自分に彼を見極める手助けを求めて来たのかが解らなかった。
話を聞いている限りでは、このまま彼を推薦したとしても、何も問題無く斯衛に入隊する事ができるだろう。
彼はここに来て日が浅い為、彼女は武とじっくり話した事は無い。
しかし、自身が尊敬する巌谷が優秀とまで言い切る人物なのだ。
概ねその通りで間違いないだろうと彼女は考える。
では一体何が問題なのだろうか?
武には自分の知らない何か『致命的な欠点』とでも言える物が存在しているのだろうか―――
心構えや実力に問題が無いとすると、協調性に欠けるのだろうかなどという事が頭をよぎる。
だが、模擬戦終了後の彼との会話からは、そのような感じは見て取れなかった。
協調性に欠ける様な人物であれば、あのような素振りは見せないからだ。
考えてはみるものの、答えは一向に見つかりそうにない。

『唯依ちゃんよ、どうした?そんなに奴の事が気になるのか?』

唐突に巌谷に話しかけられ、彼女はハッとした。
モニター越しに見える彼の顔は、どことなくニヤけている様子だ。

「べ、別にそんなんじゃありません!」
『そうか、てっきり俺は唯依ちゃんが白銀に興味を持ったのかと思ったんだがなあ』
「お、叔父様!」
『ハッハッハ、そう怒るなよ。親代わりとしてはそう言った事も心配になるってもんさ。それじゃあ俺は午後からの打ち合わせがあるから失礼させて貰うとしよう。唯依ちゃんも今の内にしっかりと休んでおけよ?』
「解りました・・・ハァ」

通信を終えた唯依は、コックピット内で溜息をついていた。
再び彼女の反省癖が首をもたげる。
そして彼女が気付いた時には、それから小一時間ほどが経過していたのであった―――


時計が午後二時を回ろうとしていた頃、オペレータールームでは巌谷が午後の模擬戦についての一人の衛士と話し合っていた。
目の前の男は老齢であるにもかかわらず、鍛え上げられた肉体を斯衛軍の赤服に身を包み、その風貌からは只者では無いと言った威圧感が感じられる。
男の名は、紅蓮 醍三郎。
帝国斯衛軍大将であり、将軍である悠陽を除けば斯衛軍のトップに立つ漢である。

「彼はどうだ巌谷中佐」
「はい、ここに配属されてから良くやってくれています」
「そうか・・・しかし、見極めるのはまだ早いな」
「と申しますと?」
「午後の模擬戦の結果しだいと言ったところか―――ワシ自身、あの者があの戦いの後どれほど成長したのかを見極める良い機会だと考えておる。その為に篁中尉を当て馬の様にしてしまったのは、少々心苦しい所ではあるがな」
「彼女もその辺は理解してくれると思います。ですが、態々閣下自らがお相手をする必要など無いのでは?」
「なに、たまにはこうやって戦の空気を味わわねば勘が鈍ると言うものだ。貴様とて解っているだろう?」
「どうやら失言だったようですな」
「フッ、構わんさ。さて、そろそろ準備を始めるとしよう」
「ハッ!既に閣下の機体の準備は完了しています」
「うむ、それでは行って来るとしよう」

そう言って部屋を後にする紅蓮。
彼と入れ替わるように唯依が入室して来ると、巌谷は一人呟いていた。

「さて、どうなるか見物だな―――」

この時巌谷は、自身の若かりし日の事を思い出していたという。


「巌谷中佐、午後の模擬戦の詳しい内容を聞いていませんが、相手の機体はどの様なものなのでしょうか?」
『そいつは見てのお楽しみだ少尉。一つだけ言える事は、機体も衛士もとんでもないもの・・・とだけ教えておいてやる』
「は、はぁ・・・」

恐らく午前の模擬戦相手である篁中尉とは違う相手が宛がわれるのだろう。
これは先程の巌谷中佐とのやり取りから容易に想像が付く。
ただ引っかかる点は、機体も衛士もとんでもないものと言う一点のみだ。
開発中の新型機という線も捨てきれないが、ここに来てそれは無いだろう。
開発中の新型は、現在自分が乗っている烈火だけの筈なのだ。
それ以外の機体となると、現存の機体か他国の機体という事になる。
だが、開発中の試作機を部外者に見せる訳にはいかないので、恐らくは現存の機体が模擬戦相手なのだろうと武は予想する。
しかし、彼の予想は的中する事は無かった。
彼らの目の前に現れた機体は予想だにしないものであり、本来ならば自分達が関わる事はありえない機体だったのである―――


「おいおい、斯衛軍の最新型が模擬戦相手なんて聞いてないぜ」
『準備は良いか白銀少尉?』
「やはりあの機体の衛士は篁中尉じゃないんですね」
『そう言う事だ。今回私はオペレーターを務めさせて貰う』
「まさか、巌谷中佐が相手だとか言うんじゃ無いでしょうね?」
『安心しろ白銀少尉、俺も篁中尉と一緒にここで見させて貰うつもりだ』

これから模擬戦を行う衛士は誰なのだろう?
先程からこの様な考えばかりが頭をよぎる。
目の前の機体から感じられる威圧感は只者では無い―――
これが武の素直な感想だった。
それが証拠に、目の前の武御雷は先程から微動だにせず両腕を組みながらこちらを見続けている。
まさか武御雷と模擬戦をする羽目になるとは考えてもみなかった。
近々、斯衛軍に正式配備される予定の最新型戦術機、通称零式。
帝国軍のうち、将軍家直属である斯衛軍がF-4J改・瑞鶴の後継機として開発させた純国産の第三世代戦術機であり、94式戦術歩行戦闘機不知火の開発によって培われた技術を応用し、富嶽重工と遠田技術によって共同開発された不知火よりもさらに進んだ第三世代戦術機である。
生産性や整備性よりも性能を優先している為か、ずば抜けた機動性と運動性能を持ち、世界最高クラスの戦術機になるであろうと言われている。
そして何よりも目を引くのはその色だ。
鮮やかな赤一色で彩られたその機体は、五摂家に近い有力武家出身者が乗っているのだろうというのが一目で分かる。

『どうした白銀小尉。今更怖気づいたのか?』
「そんな事はありません!相手が武御雷だろうがなんだろうがやってやりますよ!」
『フッフッフ、このワシも随分と舐められたものよのう』

不意に開かれる通信―――
彼らはモニターに映ったその通信相手を見て驚愕していた。

「ぐ、紅蓮閣下!?」
『いかにも、帝国斯衛軍大将紅蓮 醍三郎である』
「まさか、その機体の衛士は・・・」
『そのまさかだ白銀よ』
「どう言う事ですか巌谷中佐!?午後の模擬戦相手が紅蓮閣下だなんて自分は聞いていません!」
『さっきも言っただろう?機体も衛士もとんでもないものだとな』
「グッ、ですけど・・・」
『それにな白銀少尉、今回の模擬戦は閣下直々の申し出だ。それだけ閣下はお前に期待しているという事だよ』
「・・・解りました。閣下の胸を借りるつもりで―――いや、倒すつもりで挑ませて貰います」
『その意気や良しっ!だがワシとて容易く貴様に勝ちを譲るつもりはないぞ?』
「望むところです!」
『良く言った!!さあ戦を始めるとしよう―――』

模擬戦の火蓋が切って落とされる―――
武は相手の出方を見る為、右腕に装備された突撃砲を発射し相手を威嚇する。
対する紅蓮は、尚も腕を組み続けたままの状態でそれらの攻撃を最小限の動作で回避している。
牽制は無意味だと判断した武は、両腕に装備された旋棍を展開し、紅蓮に向けて一気に距離を詰め攻撃を仕掛ける。

『ほう、この武御雷に接近戦を挑むか』

そう呟きながらも彼は、全くと言って良いほど微動だにせず武の攻撃を回避し続けていた。

「クソッ、この距離で攻撃が当たらないなんて・・・」
『どうした白銀、ワシはここだぞ?』

相手の挑発ともとれる発言に対し、武は徐々にではあるが冷静さを失いつつあった。
その理由は発言だけでは無い。
紅蓮の武御雷は、先程から腕組みをし続けたままの状態で全ての攻撃を回避し続けているのだ。
完全に遊ばれている―――
確かに技量と言った面では、彼に到底及ばないであろう事は自分にも解っている。
だからと言って、全ての攻撃を腕組み状態のまま回避し続けられる事は、武にとっては屈辱以外の何物でもない。
ついに武は痺れを切らし、無謀とも言える攻撃に出る。
更に距離を詰めながら小刻みにフェイントを織り交ぜた攻撃を加え、相手のバランスを崩そうと考えているのだ。
だが、相手はバランスを崩すどころか、当たる筈の距離の攻撃を全て回避して行く。

「当たれっ、当たれっ、当たれぇぇぇっ!!」

次第に苛立ちが声となって現れ、大振りになる武の攻撃―――

『フン、とんだ期待外れだな・・・』

紅蓮がそう言った直後、武の烈火は前のめりになる様にそのまま彼の足下に転倒してしまう。

「なっ!・・・」

武は自分が何をされたのか理解できなかった。
モニターに目をやると、右脚部損傷軽微の表示が映し出されている事に気付いた。
そう、紅蓮は彼が攻撃を仕掛けた直後、軸足となっていた右足に向けて足払いをしていたのである。
体重が乗っている方の足に向けて軽く攻撃を行うだけで、相手はいとも簡単にバランスを崩す。
武は目の前の武御雷にばかり気を取られ、自身の足下を全くと言って良いほど警戒していなかったのだ。

『貴様の実力とやらはこの程度か白銀よ?だとすれば少々興醒めだな。もう少し腕の立つ奴だと思っていたのだがな―――』

モニター越しに映し出されている紅蓮の表情は、明らかに落胆している。
この時武は何も言い返す事が出来なかった。
まったくもって紅蓮の言う通りだったからだ。
焦りや苛立ちと言った感情は、戦場では大きな弱点となる。
冷静に物事に対処できなければ、待っているのは死だけだ。
無論、彼は死ぬ事など望んではいない。
何が何でも生き延び、両親や死んでいった仲間達の仇を取る―――
その為に彼は、これまで日々精進を重ねて来たのだ。
相手が誰であろうと負ける訳にはいかない―――
こんな所で躓いていては、先に逝った者達に会わせる顔が無いのだ。
そして彼は、無言のまま機体を置きあがらせ目を閉じる。

「スゥゥゥ―――ハァァァ―――っ!!」

目を瞑ったまま軽く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる―――
それと同時にこれまでの事を思い出し、自身を鼓舞する。

『ほう・・・』

モニター越しに移る武の表情の変化に気付いた紅蓮は、やっと目が覚めたかと考えていた。

「閣下、無様な所をお見せして申し訳ありませんでした―――ここからは本気で行かせて貰います」
『面白い、貴様は今まで本気を出していなかったと申すのか?だとすればワシは、とことん貴様に舐められていたという事になるな』
「そんなつもりは在りません。ですが、自分が更なる高みを目指すのであれば、閣下はいずれ越えねばならぬ御方。何度地に這い蹲る事になろうとも、負ける訳にはいきません!」
『フンッ!先程篁中尉に負けた奴が、よくもまあその様な戯言を吐けるというものだ―――面白い、面白いぞ白銀 武!!』
「・・・挑発にはもう乗るつもりはありませんよ。行かせて頂きます!!」
『ならば、ワシも少しだけ本気を出すとしよう・・・来るが良い白銀よ!!』
「うおぉぉぉっ!!」

先程までとは違い、紅蓮も長刀を携え、こちらに向けて斬撃を放って来る。
その一撃は鋭く、そして重い―――
だが武は、先程までとはうって変わってそれらを冷静に対処していた。

『なかなかやりおるではないか』
「・・・」

今の武には彼の声に耳を傾ける余裕などなかった。
いくら冷静に対処しているとは言え、一瞬たりとも油断はできないのだ。
絶えず状況が変化するなか、重く鋭い一撃一撃を回避し続けるという事は、想像以上に体力と精神力を消耗する。
こんな事を言っては紅蓮に失礼だろうが、今の彼は極力無駄な事に労力を割きたくはなかったのだ。

「想像以上の動きですね。先程の模擬戦で彼が今と同じ動きをしていたらと思うと正直ゾッとします」
「確かにな、集中した数分は数年分に勝るとも言う。だがな、流石にこれは無理をし過ぎだ」
「どう言う事でしょうか?」
「モニターを良く見てみろ。脳波、血圧、心拍数、どれもこれも数値がかなり上がって来ている。それだけ消耗しているって事さ」
「模擬戦を中断させるべきです。このままではデータ収集どころか白銀少尉の命に係るかもしれません」
「悪いがそれはできん。紅蓮閣下からの厳命でな、本当に危なくなった時にのみ止めろとの事なんだよ」
「しかしっ!!」
「大丈夫だ。白銀のバイタルデータが危険域に達したら必ず止めさせる」
「・・・了解、しました―――」
「すまないな」
「いえ、引き続きデータ収集を行います」
「頼む」

オペレータールームでその様なやり取りが行われているなど知る由もない武は、どうすれば紅蓮に一矢報いる事ができるかを考えていた。
通常、対戦術機戦闘において、最大の弱点である腹部を狙う事は常識である。
稼働を確保する為に柔軟な積層耐弾樹脂で覆われている関節部分は、戦術機の致命的な弱点だ。
特に腹部は下半身の制御を司る配線などが集中している為、全周投影面積を最小限にする努力がなされている。
武の駆る烈火も、紅蓮の駆る武御雷も弱点はほぼ同じ箇所なのだ。
先程から武は、何とかしてその一点を狙えないかと頑張っているのだが、流石の紅蓮も容易く狙わせてくれるような真似はしない。
逆に紅蓮は、何故かその場所を狙って来なかった。
一度だけわざと隙を作ってみたものの、あえてその場を狙わずに攻撃して来たのである。
この時武は、また遊ばれているのかとも考えてみたが、そう言う訳では無い様子だ。
これはその様な場所を狙わずとも勝てる、と言った無言のプレッシャーなのか?
その様な事が先程から頭をよぎってばかりいる。

「クッ、駄目だ。弱気になるな・・・さっき篁中尉にも言われたじゃないか、何としても紅蓮閣下の隙を見つけて臆せず相手の懐に潜り込むんだ。それしか俺に勝ち目は無いっ!」

そして武は、相手の態勢を崩す為の方法を模索する。
こちら側の兵装は両腕に装備された旋棍、背中の長刀と突撃砲、後は防御用に装備されているリアクティブアーマーぐらいだ。

「正直この兵装で相手の態勢を崩すのは難しいよな―――リアクティブアーマーは防御用と対戦車級用の装備だ、パージしたところで身軽になるだけだし・・・っ!!そうか、この手があった!!」

どうやら彼は何かを閃いたようだ。
そして、意を決して紅蓮の武御雷に向けて距離を詰める―――

『勢いに任せて攻撃を仕掛けてくるか・・・』

そう呟いた紅蓮も武に向けて水平跳躍噴射(ホライゾナルブースト)を行う。
長刀を構え、一機に振り抜こうとしたその刹那、突如として目の前の機体が火を吹いたかに見えた。

『何っ!』

紅蓮は一瞬何が起こったのかと考えたが、直ぐさまそれはアーマーをパージしただけだという事に気付く。
そして、こちらへ向けて飛んでくるアーマーの破片を冷静に回避し、武の烈火へと距離詰めるべくペダルを踏み込もうとするのだが、先程まで目の前に居た烈火は忽然と姿を消していた―――

『ム、奴はどこだ!?・・・上かっ!!』

自身の足下に広がる黒い影から、武が上空へと跳躍した事に気付いた紅蓮は、直ぐさま長刀を構えなおしそれに対処する。
武は先程唯依との模擬戦で行った様に、紅蓮の武御雷に向けて噴射降下(ブーストダイブ)を行い、右腕の旋棍を振りかざす。

『その様な攻撃など、ワシには通用せんわっ!!』

武の攻撃は長刀で受け止められ、いとも容易くはじき返される―――
着地後の硬直時間を狙い、紅蓮は長刀を振りかざしながら距離を詰めて来る。
間違いなくこれで決まりだと、誰もが考えていた―――

「ここだぁぁぁっ!!」

武はそう叫びながらいつの間にか引き抜いていた長刀を地面に突き刺し、跳躍ユニットを全力で噴射させ、それを軸に反転。
予期せぬ武の行動に対し、一歩反応が遅れた紅蓮は、彼が放った回し蹴りを左肩にまともに受けてしまう―――
左肩部中破の警告が表示され、そのまま距離を取るべく後退する紅蓮。
当然武の方も脚部が損傷してしまい、モニターには右脚部中破の表示が出ていた。
しかし、この機を逃す訳にはいかないと、武はそのまま紅蓮に向けて短距離跳躍(ショートブースト)を行いながら距離を詰めようとする。
誰もが武の方に勝機が傾いたと思っていた。
だが武は、突如として跳躍を中止し、その場に立ち尽くしてしまう。
モニターしていた唯依は、機体のトラブルかとデータをチェックしてみるものの、戦闘続行不可能と言うレベルでは無い。
だとすると、武が意図的に距離を詰める事を止めたのだ。
そんな中、武に向けて開かれる通信。

『フッフッフ・・・やるではないか白銀よ。模擬戦とはいえ、このワシによくぞ一撃入れた!!』
「まだ一撃だけです」
『そうか・・・何年ぶりかのう、このワシをここまで楽しませてくれた者はここ数年誰もいなかった。そして、このワシに模擬戦で本気を出させた者もな―――』

紅蓮がそう言った直後、武は目の前の武御雷から発せられるプレッシャーによって今にも押しつぶされそうな気になってしまう。
先程、追い打ちをかけるのを止めたのもこれが原因だった。
無意識のうちに彼が放つ覇気に気押されてしまい、迂闊に飛び込めなかったのだ。

「閣下が本気になるか・・・」

オペレータールームで巌谷が一人呟く―――
そんな彼を他所に、武は完全に紅蓮の放つ覇気に飲み込まれていた。
かつて、ここまでの経験をした事があっただろうか?
先程から額には汗が滲み、体は言う事を効いてくれない。
これが現時点での武と紅蓮の圧倒的な力量の差だったのである。
技術面だけでは無い。
精神的な部分でも武は紅蓮に遠く及ばない。
悲しいがこれが現実なのだから仕方ないだろう。
そして武は、そのまま成す術無く一瞬のうちに撃破されていたのであった―――


「少々やり過ぎてしまったかもしれんな」
「いえ、改めて自分の力量を認識させられました。先程の無礼の数々、お許し下さい」
「なに、気にしてなどおらん。むしろ貴様の事を逆に気に入ったぐらいだ」
「恐れ入ります」
「さて、白銀よ。此度の模擬戦がワシからの申し出だという事は聞いておるな?」
「はい」
「ではその理由は?」
「いえ、そこまでは聞いておりません」
「そうか・・・実を言うとな、貴様を斯衛に迎え入れたいと思っているのだ」
「自分をでありますか?」
「うむ、此度の模擬戦で貴様の力は十分見せて貰った。貴様の実力は十分斯衛でも通用するだろう。だが、無理強いするつもりは毛頭ない。貴様の意思を最大限に尊重するつもりだ」
「・・・自分をそれほどまでに評価して頂けるのは本当に嬉しいと思います。ですが、しばらく考えさせて頂けませんでしょうか?」
「そうか、では良い返事を期待しておるぞ白銀よ」
「ハッ!」

結局武は、斯衛行きの話を断った。
色々と悩んだ上での結論だったのだが、やはり今の自分には斯衛軍と言う肩書は重いと感じたのだろう。
その後も彼は試験部隊で腕を磨き続け半年後に中尉に昇進。
それから約一年と数か月後、2001年の10月に上層部からの命令で国連軍横浜基地へと出向する事になったのである。


そして2001年10月22日―――
この日を境に自分を取り巻く全てが一変してしまう事を知らずに彼は、運命のあの日を迎える事となる―――




あとがき

タケルちゃん達の過去編その2です。
もうなんて言いますか、どんだけリテイクかましたのか分かりません・・・orz
今回は多数のゲストキャラを登場させてみました。
冒頭に登場している方々は、あえて誰とは言いませんが今後も登場するかもしれません。
そして、トータルイクリプスファンの皆様、お待たせしました(え?待って無い?
唯依姫こと『篁 唯依』中尉をゲストとして出させて頂きました。
彼女は完全にゲスト扱いですので、恐らく今後は登場しないと思います。
本音を言うと、完結していない作品のキャラを出すのは難しいからだったりするのですが(笑)

さて、今回タケルちゃんが模擬戦で使用している戦術機は試作型の第三世代機です。
その名は『烈火』、近接戦闘に特化した機体です。
簡単に機体データを書かせて頂こうと思います。


第三世代型戦術機・Type98・烈火

帝国軍によって開発された試作型第三世代機。
耐用年数が迫った撃震に代わる量産機としてType97・吹雪をベースに開発された試作機である。
吹雪と約70%程度の部品共有度を実現し、ある意味兄弟機とも言える位置づけとなっている。
特出すべき点は脚部に装備された新型ショックアブソーバーで、これは元々武御雷用に開発されていた物が流用されている他、搭載されている主機も高出力の物に換装されている。
また、武装面では両腕に試作型兵装としてスーパーカーボン製の旋棍(トンファー)が装備されている。
これらは通常の旋棍とは違い、形状はソリッドなブレードとなっている為、斬撃兵装としても使用が可能。
そして、肩部にはソビエト製戦術機に採用されているスパイク・ベーンが試験的に導入されている。
結果として烈火は、武御雷に匹敵する瞬発力を得ると同時に従来機以上に近接戦闘に特化した機体として開発されたという事が見て取れるだろう。
近接戦闘を重視した結果、胸部ブロックと腰部装甲ブロックなどのバイタルパート周辺の弱点部位が狙われやすくなるという欠点が指摘され、それらを保護する形でリアクティブアーマーが採用されている。
ちなみにこれらの増加装甲はパイロットが任意でパージする事が可能なほか、機体に取り付いた戦車級を爆砕・排除する事も可能となっている。
また、オプション兵装として57mm試製87式散弾砲の導入が検討されている。
しかし、コスト面は比較的抑えられたものの、極端に近接戦闘に特化させてしまった事と扱いの難しい兵装を採用してしまった為、最終的に練習機である吹雪の主機を換装したものを実戦配備する計画が採用され、試作機が3機製造された時点で量産計画は中止。
その後は次世代機開発の為のデータ収集用のテストベッドとして運用される事となった。
ちなみに武が搭乗していた機体は壱号機で、壱、弐号機の仕様は同じなのだが参号機のみ複座型仕様となっている。

設定としてはこんな感じです。
旋棍はそのまんまブレードトンファーです^^;
現状では過去編のみの登場予定ですが、今後リクエストなどがあれば登場させるかもしれません。
誰ですか?ラトを乗っけて『リュウセイみたいにやってみる』ってシーンを想像している方は?(笑)

さて、タケルちゃんと紅蓮閣下の模擬戦を経て、運命の日である2001年10月22日へと続くお話でした。
正直なところ、紅蓮閣下強すぎ・・・と自分でも思ってしまいます。
ですけど、斯衛軍大将であり、老齢でありながら斯衛を率いる猛者ですからこれ位が丁度いいかもなどと考えていたりもします。
現状ではタケルちゃんはオルタ世界の彼ほどの実力は持っていません。
どちらかと言うとEX世界からUL世界へ来た直後の彼を思い出して頂ければと思います。
まあ、あそこまでヘタレではありませんが・・・(苦笑)

とりあえず今回のお話で、タケルちゃんの過去編は終了です。
次回からは総戦技演習に向けてのお話を書いていければと考えておりますので楽しみにお待ち下さい。
それでは感想の方お待ちしております^^


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