Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第28話 蠢く陰謀「なるほどな、2001年10月22日が全ての発端となったという事か―――」武の話を聞いたキョウスケは様々な物事を整理した結果、概ね彼の歩んできた道を理解する事が出来た。そして、それまで歩んで来た彼の苦難の道のりを知ったことで、今後とも彼に協力を惜しまないという確固たる決意を固めるまでに至っていたのである。「丁度大尉達がこちらの世界へ転移して来たのもその日です。恐らく2001年10月22日は、この世界を構築する為の重要なファクターの一つなんだと俺は考えています」「フム・・・確かにお前の言う事も一理あるだろうな。だが、俺達までもが来てしまったが為に、お前の記憶にある物とは違った道を歩んでいる事は確かだ。下手をすれば今後も想定外の事が起こるやもしれん」「その事に関しては、追々対処していくしか無いと考えてます。以前の世界でもその前の世界とは違った事象が起こる事もありましたしね。その為にも俺は、横浜基地と帝国の関係をもっと密接な物にすべきだと考えているんですよ」「それに関しては俺も同感だ。恐らく新型機開発の打診も、それがあっての事だろうと俺は読んでいる。問題は、香月副司令がどう出るか―――という一手につきるがな」「確かにそうですね・・・あの人の性格を考えると、利用するのは良いけど利用されるのは嫌だってタイプですしね」「だが、彼女としても帝国との関係が密になるのは好ましい筈だ。第四計画が日本主導で行われている以上、殿下との太いパイプができる事は計画遂行の上でもメリットが大きいと俺は考えている」「大尉の言う通りですね。そして、殿下と先生の関係が密になってくれれば、もし万が一何かあった時には大尉達も殿下を頼る事が出来る―――」「っ!!そこまで見抜いていたか・・・確かにお前の言う通りだ。現状で俺達は、香月副司令に対しての有効なカードを持って居ない。彼女の敵に回るつもりは毛頭無いが、万が一の備えはあるに越した事は無いんでな。別にお前がこの事を彼女に伝えようと構わん。それなりのリスクはあると考えた上での行為だ。だからと言ってお前を恨むつもりもないという事だけは覚えておいてくれ」「伝えるつもりはありませんよ。大尉の仰る事も尤もですからね。ただ、そう言う考えに至った本当の理由は聞かせて頂きたいところですけど・・・」「やれやれ、本当にお前が白銀 武かと疑いたくなるな―――理由は簡単だ」そしてキョウスケは本当の理由を明かす。それは武の乗っている改型の改修に使われている技術は、間違いなく自分達の機体を解析したデータを基にしているという点だ。そして彼女はそれを隠すつもりが無い様な素振りを見せている為、このまま行くと最悪の場合、第三者からの要らぬ詮索を受ける羽目になってしまう。だが幸いな事に、帝国の一部は自分達の素性を知った上で協力を求めてきた。上手く行けば、もしも最悪の事態が起こる手前で圧力をかけてくれるかもしれない。そう言った考えから彼は、悠陽と夕呼の関係が密になってくれればと考えたのである。「ありがとう御座います大尉」「いや、お前を信頼しているからこそ言わせて貰った。試す様な真似をしてすまない」「それは俺の方もですよ。俺自身も大尉達に助けられてばっかりです。俺の方でもそうならない様に頑張ってみますよ」「ありがとうタケル―――さて、だいぶ時間を食ってしまったな。俺は少々寄り道をして行く。お前だけでも先に横浜へ戻ってくれ」「了解です」『あ、居た居た。やっと見つかったぜ』不意に背後から聞こえる声―――「ったくよう、探すのに苦労したぜキョウスケさん」「コウタか、ちょうどお前を探しに行こうと思ってたところだったんだ。そう言えばショウコは大丈夫なのか?」「ああ、命に別状は無いよ。ただ、頭を打ってるから精密検査が必要らしくてさ、これから帝都って所にある病院へ搬送される事になったんだ」「そうか、となると少々厄介だな―――」「キョウスケ大尉、彼は?」「ああ、すまないタケル。彼の名はコウタ・アズマ、先程の戦闘で紅い特機を操縦していたパイロットだ」「よろしくな・・・えーっと―――」「白銀 武だ。階級は大尉だけど気にせず白銀でも武でも好きな方で呼んでくれ」「んじゃ、タケルって呼ばせて貰うぜ。ところでキョウスケさん、この世界は一体何なんだ?ここは日本みたいだけど、俺達の住んでいたところとは違う。やっぱり異世界なのか?」「ああ、正確には並行世界と言ったところか・・・ただし、俺達の住んでいた世界とはかなり異なった並行世界だがな」「やっぱりロアの言った通りだったんだな。それにしてもキョウスケさん達が無事で良かったよ。行方不明になったって聞いた時は本当に心配したんだぜ?」「心配を掛けてすまなかったな。それでお前達はどうやってここへ来たんだ?」「えーっと、カイザーの調整作業を行ってる最中に声が聞こえたんだ」「声?」「ああ、女の声だったな。弱々しい感じの声だったんだけど、『助けて』って聞こえたんだ。そしたらカイザーのオーバーゲートエンジンが急に制御不能になってさ、気付いたらこっちの世界に飛ばされてたって訳なんだよ」「・・・なるほどな。コウタ、ロアと話をする事は可能か?」「ちょっと待ってくれ・・・確かここに・・・っと、あったあった。ロア、このDコンを媒介にしてくれ」『了解だ。それでキョウスケ、私に話とはなんだ?』「確かカイザーは単体での次元跳躍が可能だったな?」『ああ』「今回お前達が転移して来たのはシステムの暴走が原因の様だが、自分達の意思で元の世界へ戻る事は可能なのか?」『恐らくは可能だ。ただし、カイザー単体での跳躍しか出来ない』「なるほどな―――コウタ、ロア、お前達に頼みがある」「何だよキョウスケさん」「ショウコが回復次第、お前達は俺達が元居た世界へ戻って貰いたいんだ」『どう言う事だキョウスケ?』キョウスケは、彼らに自分達の置かれている現状を説明する事にした。自分達の居た世界での事故の後、彼らはこちら側の世界へと飛ばされ、その際に国連軍横浜基地副司令によって保護されたという事。その際に殆どの機体は中破ないし大破状態に追い込まれてしまい、やむなくこちら側の技術を用いて修復を行った事。そして、元居た世界へ戻る為の方法を探しながら、この世界を救うべく協力しているという事。最後に、この世界はこのままでは滅亡の一途をたどってしまう可能性が高いという事を付け加える事にした。『―――フム、話の大筋は理解した。俺達に一度戻って貰い、機体修復用の資材調達とBETAと呼ばれる敵と戦う為の戦力を持って来て欲しいという事だな?』「理解が早くて助かる。このままでは俺達は本来の力を発揮する事が出来ない。そして、現状ではそちらへ帰る手段も見つからない状況だ。こちらの世界よりも技術力が進んでいる分、向こうから何らかのアプローチをかける事で俺達が元居た世界へ帰る手立てが見つかるかもしれんと考えた」「要するにだ、向こうに戻ってキョウスケさん達は無事って事を軍に伝えて、救出手段を講じて貰えば良いって事だろ?」「いや、恐らく向こうでは俺達は既にMIAに認定されている頃だろう。できればギリアム少佐かクロガネのレーツェルさんに連絡を取ってくれないか?」「何でだよ?」「上層部は俺達が『異世界に飛ばされていました』などと言ったところで信じるとは思えん。それにケネス司令は以前から俺達の事を厄介者扱いしていたからな。これ幸いと思っているだろうさ」「なるほど、あのタコオヤジの考えそうな事だな。解ったよキョウスケさん。ギリアム少佐は兎も角としてレーツェルさん達なら軍とは関係なく独自に動く事も可能だし、その二人になら爺ちゃんから連絡を取って貰う事も簡単だと思う」「そうしてくれると助かる。近いうちに俺達はまた帝都へと来る予定になっている。それまでに必要なデータを纏めておく事にさせて貰う」「解った。ところでさ、悠陽さんって人の事知らないか?」「殿下がどうかしたのか?」「実はさ、ショウコの事で礼が言いたいんだ。人に聞こうにもなんか聞けそうな雰囲気じゃなくてさ・・・キョウスケさんやタケルなら何とかならないかと思ったんだけど」「んー、ちょっと難しいな」「なんでだよ?」「コウタ、相手はこの国を治めている人物だ。すまないが流石に彼女に会うとなると俺達ではどうする事も出来ん」「・・・あの人ってそんなに偉い人だったのかよ。将軍とか言ってるぐらいだから精々軍隊の偉いさん程度だと思ってたぜ」『だから言っただろう。自分の分を弁えろと・・・』「うるせえよロア!そっか、流石にそんな偉い人となると会うのも無理か」その様なやり取りが行われている中、彼らの元へ一人の少女がやって来る―――「御話し中失礼いたします」不意に声をかけられた方を見ると、そこに居たのは月詠 真那の部下の一人で斯衛軍少尉である神代 巽だった。「神代少尉?どうしたんですか?」「邪魔をしてしまい申し訳ありません。南部大尉に託を受けてまいりました」「俺に?」「はい、部下の方がこの先の詰め所でお待ちになっております。謁見が終わり次第、そちらの方へ行って欲しいとの事でした」「了解した。御苦労だったな少尉」「ハッ!では私はこれにて失礼いたします」「あ、神代少尉、少し構いませんか?」この時武は、ふと思い立ったかのように彼女に声を掛けていた。先程のコウタとのやり取りを思い出し、彼女ならば真那を通じて悠陽に面会できるかもしれないと考えたのである。「―――なんでしょうか白銀大尉」「実は彼が殿下に妹を助けて頂いた事に対してお礼を言いたいと言っているんです。できればとり継いで頂きたいのですが」「畏まりました。ですが、殿下も色々とお忙しい身ですので少々お時間を頂けませんか?」「解りました。それではよろしくお願いします」「了解です。それでは暫くお待ち下さい」そう言うと彼女は、彼らに背を向け足早にその場を後にする。「ありがてぇ、悪いなタケル、何から何まで世話になっちまって」「気にしないでくれよ。困った時はお互い様だろ?」「ハハハ、違いねえや。お前とは今後も上手くやっていけそうな気がするよ」「でも、あんまり期待はしないでくれよ?会えるとは限らないんだからさ」「とりあえず会えなかったとしても礼だけは言えるだろ?俺はそう言う機会を作ってくれた事に感謝してるんだよ」「そうか、それじゃ俺とコウタはここで神代少尉を待ってますから、キョウスケ大尉は先に詰所へ行って下さい」「ああ、そうさせて貰うとするよ」そう言うとキョウスケは、支持された場所へと向かう―――程無くして武とコウタは悠陽と謁見する事が出来、逆に彼女から『礼を言うのはこちらの方だ』と言われてしまったそうだ。そして、コウタとショウコは暫くの間帝都に留まる事となり、キョウスケ達とは暫しの別れとなった。「アラド、機体の方はどうだ?」『今の所問題は無いッス』『ところで原因は何だったんだ?』『ビルガーのクラッシャーを装備した事で、電装系にかなりの負担がかかってたみたいなんですよ。特に右腕部に関する回路の一部が焼き付いてたりしてたらしくて、それが原因で動作不良を起こしてたみたいですね』「なるほどな・・・今後機体を運用する際には、その辺も視野に入れながら考えねばならんか―――」『まあ、元々がPTの固定武装ですからね。それに暫くは俺も訓練部隊での生活ですし、次にこの機体に乗るのはまだまだ先の事ですよ』『楽観視はできないかもしれないぜ?今後、今回の様な事が起こらないとも限らないしな』『タケルさん、縁起でも無い事言わないで下さいよ。ただでさえ総戦技演習まで残りが少ないって言うのに、これ以上仕事を増やされちゃたまりませんって』『悪い悪い―――(総戦技演習か・・・確かに問題だな。現状で207Bの皆は纏まってるとは言い難い。このままの状態が続いてしまうと、下手をすればまた失格って事になりかねないよな―――さて、どうしたもんか)』基地への帰路に就きながら武は今後の事を考えていた。以前の世界では、自分も207Bに所属していた事もあってか、総戦技演習前に彼女達は何とか多少の纏まりを見せていた。しかし、今回は教官と言う立場でしか接する事は出来ていない。当初の目論見通りならば、ブリット達207Cの面々との交流で自分達に足りないものは何かと言う事に気付いてくれるかもしれないと考えていた彼だったが、それ程上手くいっているとは言い難かったのである。技術的な面で言えば、彼らの存在によって、かなりの上達が見込まれている。だが、隊の纏まりと言った点に関しては、相変わらずと言って良い程にギクシャクしっぱなしなのだ。207C小隊のチームワークの良さに触発される事を期待していたのだが、逆にそれが裏目に出てしまっているのである。こんな事になるならば、最初に無理を言ってでも自分が207Bに所属すべきだったかもしれない―――武はこの様な事を考えていたのである。『タケルさん、どうかしたんですか?』そんな彼の表情を察してか、アラドが心配そうな面持ちで話しかけてくる。「いや、少し考え事をしていただけだ。お前の言う通り、総戦技演習も近い。頑張ってくれよアラド」『任せておいて下さいッス!大船に乗ったつもりでいてくれて構わないッスよ』『お前の場合、大船が実は泥でできた大船だったというケースが多い。張りきるのは構わんが、空回りしすぎん程度にな』『うう・・・酷いッスよキョウスケ大尉』「ハハハ、キョウスケ大尉は口でああ言っててもお前の事を信頼してるって。もちろん俺もな」『タケルさん、俺頑張るッス・・・絶対一発で合格してキョウスケ大尉の鼻をあかしてやりますよ』『フッ』「おう、お前ならできる!だから頑張れよ」『了解!!』『上手いなタケル』そう言ったキョウスケの表情は、どことなくニヤけている感じだ。これに対して何かを悟った武は、ただ一言『何の事ですか?』などと自分も少々ニヤけながら返したのだが、キョウスケには伝わったらしい。『どうしたんですか二人とも?』『いや、何でも無い・・・それより急ぐとしよう。あまり遅くなってしまっては副司令に何を言われるか分からんからな』「ヴァルキリーズの事も気になりますしね。了解です大尉」様子が変な事に気付いたアラドが問いかけてみるものの、上手い具合にはぐらかされてしまい、話題の中心になっている当の本人はそれで納得してしまったのは言うまでも無い。・・・国連軍横浜基地・香月 夕呼執務室・・・「二名が病院送りの重症ですか・・・原因は我々が戦線を離れた事ですか?」横浜基地に到着した彼らを待っていたのは想定外の事実だった。新潟での戦闘においてヴァルキリーズの隊員二名が負傷したとの報告を受けたのだ。XM3を搭載した事によって、ヴァルキリーズ達の戦力は総合的に見て考えても従来の彼女らを凌ぐ実力を発揮していた筈だった。恐らく負傷した二名と言うのは、以前の世界の新潟で戦死した者達だろう。考えようによっては、これは幸運な事だ。早期にXM3を搭載していた事で最悪の事態だけは回避する事が出来たのだ。しかし油断は出来ない。彼女達が負傷するに至った経緯を聞かない事には、今後も同じような事が起こってしまう可能性が高いのである。「それも原因の一つかもしれないけど、今回の件に関しては明らかに油断していた麻倉と高原が悪いわね」「先生、二人の容態はどうなんですか?」「命に別状はないわ。ただ、暫くの間は戦線復帰不可能でしょうね」「・・・そうですか」夕呼の話では新潟での捕獲任務の際、少しの油断から麻倉と高原の二名は生き残りの要撃級に背後から襲われてしまったそうだ。幸いにも副隊長である水月が彼女らのピンチに気付き、事無きを得たそうだが、一歩間違えば彼女達は死んでいたかもしれない。この時武は、記憶にあるXM3のトライアル中に起こった事件を思い出していた―――XM3は確かに戦術機運用において従来機を凌ぐ力を持っている。だが、それと同時に機体性能が大幅に上がった分、それを自分の実力と勘違いしてしまう者が多くなる可能性がある事に武は気付いていた。何せ以前の世界の自分もその一人だったのだ。彼自身、トライアル中に上官の命令を無視し、模擬弾を装備した機体でBETAをかく乱し続けた。確かにあの時は精神安定剤や後催眠暗示キーなどを用いられた事により状況判断能力が低下していたとは言え、明らかに彼は自分ならできると実力を過信し、結果として機体は大破―――そして、もう少しで死んでしまう所だったのである。恐らく今回の件も、あの時の自分と同じ様に過信や油断から起こった事故だと言っても過言ではないだろう。彼女達は任官して日が浅い。機体性能が飛躍的に上昇した結果、自分達の実力が上がったのだと勘違いしてしまうのも仕方のない事なのかもしれない。だが、戦場ではそのような事は通じないのだ。過信や油断、その他諸々の感情は、時としてBETA以上の脅威となるのだから―――「今回の件で、あの子達も身に沁みたでしょうね。特に新任達は、自分達の同期があんな事になったんだから」夕呼は武を見ながら平然とした表情と相変わらずの口調で話しかけている。だが、口ではそう言っているものの、その眼だけは明らかに違っていた。それに気付いた武は、喉元まで出掛かった言葉をとっさに飲み込む。「―――何か言いたそうね白銀?」「いえ、とりあえずヴァルキリーズの事に関しては解りました。今後の事も含めて、俺の方でも色々と考えてみます」「そう・・・それで具体的には?」「OSの慣熟もそうですが、場合によってはポジションの変更や、別部隊からの追加要員の補充などですかね」「それに関しては207Bの子達が任官すれば問題無いでしょ?」「任官できればですがね・・・」「確かに今のままじゃB小隊は総戦技演習をパスする事も難しいでしょうね。アンタが訓練部隊に配属されていない事が予想以上に裏目に出てるわ」「それを何とかするのが俺の役目だって言いたいんでしょ?」「あら、良く解ってるじゃない」「俺なりに色々と考えてるんですよ・・・それじゃあ俺はこの辺で失礼します。機体のチェックもあるし、今後の事も色々と考えなくてはならないので」「解ったわ。それじゃあそっちの方は頼んだわよ」「了解です」そう言って部屋を後にする武―――「さて、アンタも何か言いたい事があるんでしょ?」「タケルの機体についてお聞きしたい事があります」「そう来ると思ってたわ。彼の改型はアンタ達の技術を基に強化したものよ」「そんな事は見ればわかります。自分が副司令にお聞きしたい事は、何故あの機体を増援に送ったのかと言う事です」「白銀が行きたいと言ったから・・・なんて理由で済ませるつもりはないわ。あの機体を送った理由は、第三者に対しての牽制よ」「・・・クーデターを画策してる連中に対してですか?」「あら、12.5事件の事知ってるのね。半分は正解よ」キョウスケは考える―――彼女は第三者に対しての牽制だと言った。自分の答えに対して彼女は半分正解だと答えた。12.5事件を計画している者以外に対しての牽制と言うのであれば、思い付くのは一つしか無い。そう、第五計画だ。何故彼がこの様な結論に至ったかと言うとこうである。不知火改型は帝国と共に開発が進められる予定の次世代試作機であると共に、第四計画の概念実証機と言う意味合いも込められている。そして自分が聞いている話では、第四計画の要と言える兵器は、現存する兵器群を凌駕する機能を有しているそうだ。となれば、意図的にオーバーテクノロジーを用いた武の改型を白昼に晒すという事は、彼女の研究は着々と予定通りに進行しているという事になる。第五計画推進派は主に米国だ。彼の国はクーデター軍の一部と接触し、日本での権力回復を試みようとした事は聞いている。恐らくそれは第五計画を円滑に進める為の方法の一つなのだろう。権力回復が成功するにしろしないにしろ、事を上手く運べば第四計画の遂行を遅らせる事が可能になる。恐らく彼女は、そう言った妨害工作を取られる前に、こちら側はここまで計画を進めているといった意味合いも含めて今回の様な事を実行に移したのだろうと彼は察していた。だが、それはあくまで彼女の考えだ。もしも万が一、その技術の出所は何処なのだと疑われれば、まっさきに危ないのは自分達という事になる。異邦人である自分達の存在は、夕呼にとってイレギュラーであると同時に切り札でもあるのだ。何らかの形で米国に自分達の素性がばれてしまった場合を想定するならば、今回の事は明らかに分が悪い。いくら彼女が様々な手を講じたとしても、彼女もまた国連軍の一員である以上、上からの圧力には逆らえない可能性が高いのだ。まあ、彼女の性格を考えるならば圧力に屈するという事は考えられないが、相手は国連軍の母体となっている米国軍だ。上層部を通じて第四計画の取り止めを盾に情報公開を迫って来るかも知れない。そんな事になってしまえば、いくら夕呼であっても情報を提示しない訳にはいかないだろう。今後もこの様な事を彼女が続けるのであれば、独自に悠陽との関係を密にする必要性があるかも知れないとキョウスケは考えていたのである。「何を考えているのか知らないけれど、あの機体に関する事なら問題は無いわ」まるで自分が今何を考えているのかが解っている様な発言だった―――「どう言う事です?」「どうせアンタの事だから、上層部があの機体に使われている技術を提示しろ、とか言われた時にどうするつもりだとか考えてたんでしょ?改型に使われている技術は、アンタ達の機体を解析して得られたデータを基に、こちらの世界で再現できるレベルの技術を用いているわ。余程の頭脳の持ち主でもない限り、異世界の技術を基にしているなんて気付かないでしょうね」「ではあの粒子兵器は何なんです?こんな短時間であれだけの出力を持ちながら携帯できる兵装・・・普通に考えれば不可能ではありませんか?」「・・・流石ね、確かにあれを現在ある技術で再現するのは不可能ね」「やはりあの兵装は我々の機体の物をそのまま流用したんですね」「黙ってやった事は素直に謝らせて貰うわ。でもね、白銀に力を与える為にはこれしか方法が無かったのよ。無論、ただの言い訳でしか無い事は重々承知の上よ」正直キョウスケは、彼女の発言に対して怒りを覚えていた。しかし彼女の表情から彼は、本当に申し訳ない気持ちでいるのだという事を察する。そして、彼女が言った武に力を与える為の方法という言葉がどうしても引っ掛かっていたのだ。「・・・何故貴女はそうまでしてタケルに力を与えようとするんです?」「以前の世界の彼に対する私なりの贖罪・・・とでも言うのかしらね。この世界の白銀と以前の世界の白銀は別人だという事は解っているつもりよ。以前の世界の私は、彼に最愛の人を奪う手助けをさせてしまった・・・それどころか幾度となく彼を追い詰めてしまったわ。そんな彼とこの世界の白銀を重ねるのは見当違いも良い所かもしれない。でもね、アタシにはあの子を放っておく事は出来ないのよ。今度こそ、あの子の想い描く最良の未来を手に入れる為の手助けをしようと心に決めたのよ」「その行為によって多くの者を敵に回す事になったとしてもですか?」「アンタの言う通り、数え切れないほどの敵を作る事になるだろうし、それによって被害を被る人間も出るでしょうね。だからと言ってやめるつもりはないわ」「・・・貴方のやろうとしている事はただの自己満足に過ぎない。そして、自分のエゴを押し通そうとしているだけだ」「否定はしないわ。そこに白銀の名前を出して正当化しようとしているという事も否定はしない」「そうですか・・・では、今後の展開次第では俺達は貴女の敵になるかもしれないという事を覚えておいて下さい」「覚えておきましょう。確かにアタシはアンタ達を敵に回すような事をしている。これは否定できない事実だわ。でもね、これだけは言わせて頂戴・・・こちらの都合に巻き込んでしまったとはいえ今まで助けて貰った事、これに関しては心の底から貴方達に感謝しているわ。言葉では足りない位にね・・・」これは彼女の本心なのだろう。声からは察する事は出来ないが、その表情からは何かを必死に伝えようとする様が見て取れる。キョウスケは、あくまで最悪の事態を阻止する為に彼女に釘を刺しておくだけのつもりだった。そして彼女の出方次第では、本当に敵に回るつもりでいたのだ。だが、最後に彼女が言った言葉でもう少しだけ様子を見る事にしたのである。「解りました。今後暫くは様子を見させて貰う事にします。部下から任務に関する報告をまだ受けていませんので、自分はこれで失礼させて貰います」「・・・ええ」キョウスケが部屋を出た後、彼女は一人呟いていた―――それは誰に対しての言葉だったのか・・・それを知る者は彼女の他には居ない・・・執務室を後にしたキョウスケは、気持ちを切り替え、今回の任務についての報告を受ける為にブリーフィングルームへと来ていた。「他の面々はどうした?」「アクセルは知らないけど、ブリット君達は部屋に帰したわ。あんまり長々と私達と一緒に居させる訳にもいかないでしょ?」「そうか・・・それで、話とはなんだ?」「それがね、アルフィミィちゃんと合流する前に変な部隊を見かけたのよ」「どう言う事だ?」「ペルゼインが見られたら不味いって事で、比較的戦域から離れていて部隊展開が行われていない筈の場所を合流地点にしたんだけどね。合流前にラトちゃんの叢雲のセンサーが二小隊規模の反応をキャッチしたってワケ」「それで?」「でね、データリンクで部隊の配備状況や展開状況を確認して見たんだけど、該当する部隊は全くなし。一方の機体は帝国軍みたいだったけど、もう一方は分からないわ。一応相手に気取られない位置からモニターしていたんだけど、どうやら何かを話し合ってたみたいよ?」「・・・何か臭うな」「どう言う事でございますか?」「詳しい事は解らんが、今回の様な状況下にあってそんな場所で密会しているなど普通に考えればおかしい。エクセレン、映像や写真はあるか?」「班長さんに言えばログを出してくれると思うけど?」「解った。すまないが二人共、この事は皆には黙っていてくれないか?ブリット達にもそう伝えてくれ」「どうしてでしょうか?」「この件は一度副司令の耳に入れた方が良いと思ったからだ。どうもキナ臭い・・・」「何か良くない事を企んでる輩が居るって事ね」「ああ、どこから情報が漏れるか分からん以上、迂闊には動けん。俺はこれから班長に頼んでログを見せて貰って来る。悪いがお前は報告書を纏めておいてくれ。ただし、コウタ達とカイザーの事は伏せておくんだ」「何でよ?戦力アップに繋がるんだし、別に構わないんじゃないの?」「現状であいつ等の存在を明かす事は得策じゃないからだ。言うなればあいつ等の存在はトランプで言うジョーカー的なポジションだからな」「・・・なるほど、こちらの手の内を全て明かし過ぎるのは得策では無いという事でございますわね」「そう言う事だ。それじゃあ後を頼む」そう言うとキョウスケはハンガーの方へと向かう―――「私はOKを出した覚えは無いのに・・・面倒事を全部こっちに押し付ける気ね。まったく、してやられたわ」「エクセ姉様、私も手伝いますのでちゃっちゃと終わらせちゃいましょう」「そうね、手早く終わらせてさっさとシャワーでも浴びに行きましょ」そう言いながら彼女達は報告書を纏め始める。だが、彼女達はキョウスケが言ったキナ臭いという言葉が引っ掛かって仕方が無かった。彼女達が合流前に発見した部隊―――その存在こそが、後に引き起こされる事件の前触れだったなどとはこの時はまだ誰も知る由は無かったのである―――あとがき第28話です。前回から間が空いてしまい申し訳ありませんでした。最近、年末と言う事で色々と忙しいものでして、落ち着くまでの間は少々間が開く事が多くなる可能性があるという事をご理解頂ければと思います。さてさて、今回のお話は今後の展開に向けての色々な伏線を書いてます。前々からコウタ達の存在が、キョウスケ達の機体復活のキーになると書いておりましたが、こう言った流れに持って行く為でした。ちょっと無理があるんじゃないかと言われてしまいそうな気がしないでも無いですが、その辺はご了承ください^^;今回はあまり長々とあとがきは書かないようにしようと思います。それでは次回も楽しみにお待ち下さいませ。感想の方、お待ちしておりますね~^^