Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第29話 総戦技演習へ向けて「昨日受けた報告についてだけど、恐らく帝国軍が接触している部隊は米軍で間違いないでしょうね」夕呼の発言に対しキョウスケは内心、やはりそうかと頷いていた。同席している武は、初めは驚いていたものの戦略研究会が先日発足されたという悠陽の言葉を思い出した事で直ぐに冷静さを取り戻す。「でも先生、片一方の機体は不知火だから帝国軍だろうという事は直ぐに分かりますけど、もう一方の機体は見た事無い機体ですよ?どうして米軍だって気付いたんですか?」彼の言い分も尤もだろう。データログから抽出した写真に写っている機体は、一般に公開されている資料には掲載されていない機体だったのである。「この機体はね、YF-23・ブラックウィドウⅡ―――米軍が正式採用したF-22A・ラプターと次期主力を争った試作機よ」「その機体なら知っています。でも、不採用になった結果、米国各地の航空博物館の展示機になった筈ですよ?それに以前読んだ事のある資料と細部がかなり違ってます。それに正式採用されたって話は聞いた事が無いし、そんな情報も出回っていません」「確かにアンタの言う通りね。ただし、それはあくまで一般的な話・・・とある筋からの情報からなんだけど、米軍の一部隊がこの機体を態々量産させて配備させる計画があったそうなのよ。恐らくこの機体はF-23Aとしてその部隊に採用された機体なんでしょうね。一般に秘匿されている機体ならば、クーデター軍と接触している事が公になったとしても強引に隠し通せるとでも思ったんじゃないかしら?」とある筋からの情報・・・恐らくそれは帝国情報省外務二課課長である『鎧衣 左近』から得たものだろう。彼は米国からXG-70を手に入れる為に動いてくれていると聞く。その時に得られた情報を夕呼に流したに違いないと武は考えていたのである。「しかし副司令、いくら秘匿されている機体とは言え、日本国内でレーダーに引っ掛からずに運用が可能なのでしょうか?現に叢雲の強化型レーダーには引っ掛かっています。いくらなんでも国内各地の基地が密入国する機体に気付かないとも思えないのですが・・・」「この機体はね、ラプター同様に他国の第三世代機を遙かに上回る高ステルス性と超高速巡航性能を持っているわ。恐らくクーデター軍の一部が協力する事によって、警戒の薄いルートを指示したんでしょうね。それから叢雲のレーダーに引っ掛かった事だけど、あのレーダーは特別製なのよ。正直なところ対BETA用というよりは、対ラプター用と言った方が良いかもしれないわね」「対戦術機戦を考慮した上で開発したという事でしょうか?」「それもあるんだけど、一番の理由はハイヴ内戦闘時においての通信網確保と各種データの処理を最優先に行う為よ。その為にあの装備にはかなり強力な電子機器を搭載しているわ。無論、詳細は明かせないけどね」「なるほど、その恩恵が対ラプター用になったという訳ですね」「そう言う事よ・・・さて、問題はこの事をどうすべきかね」「俺としては悠陽殿下に報告すべきだと思います」「自分もタケルと同じ意見ですね。不用意に連絡を取るのは危険ですが、今回の件は早めに殿下の耳に入れておくべきだと考えます」「確かにアンタ達の言う通りね。確か近いうちに帝都へ行く事になっているのよね?その時までに資料を作成しておくから持って行ってくれるかしら?」「了解です。あ、それから先生」「何?」「改型の事なんですけど、残りの機体も俺のと同様の改修作業に入るって聞いたんですが、全く同じ仕様にする予定なんですか?」「現状ではジェネレーターの交換とドライブユニットの追加の予定よ。それがどうかしたの?」「いえ、俺の機体に装備されてるスライプナーも量産されるのかと思ったんで聞いてみただけですよ」「スライプナー?・・・ひょっとして試製01式可変型複合兵装の事?」「ええ、何か味気ないと思って名付けてみたんですけど駄目ですかね?」「別に構わないわよ。アレに関しては量産は無理、というよりも南部達の機体から部品を調達してるからあれ一台しか存在しないのよ」「そうなんですか!?でもそれだと破損したり消耗した部品の交換が出来ないですよね?」「そうね。だから余程の状況じゃない限り使用しない方が無難という事よ」「・・・解りました。使い所に注意するようにします。でも、良くキョウスケ大尉達が自分達の機体から部品を調達する事を許可しましたね?」「事後承諾だ・・・作戦終了後に問い詰めたら勝手に使わせて貰ったと白状されたよ」「済んだ事は別にいいじゃないのよ。こっちだってアンタ達の機体を修理する為に資材と人材を提供してあげてるんだから」「提供して頂く代わりに我々も機体データの一部を渡した筈ですが?」部屋の中に重苦しい空気が充満する―――どうやら昨日自分が部屋を去った後、この二人の間で何かやり取りが行われていた様だと武は察していた。それは二人のやり取りや発する雰囲気から簡単に気付く事が出来る。「と、兎に角!今はクーデターの件を何とかする方が先でしょ?」「そうね・・・」「了解した」この時武は、自分の発言を後悔していた。理由は分からないが、自分の知らない所でいつの間にやらキョウスケと夕呼の関係が極端に悪化している様に感じていたのだ。いや、薄々ではあるが彼は感づいていた―――事の発端は間違いなく、キョウスケ達の機体から勝手に部品を調達した事、そして最近の夕呼が明らかに彼らの存在を隠そうとしないような素振りを見せ始めている事だろう。確かに度が過ぎてしまえばキョウスケが怒ってしまうのも無理は無い。しかし、今現在の武には彼女の行いを阻止する術が無いのである。何かしらの方法を見つけて食らい付いたところで、いとも容易く彼女にあしらわれてしまうだろう。以前の世界の彼女であれば、その前の世界の記憶を用いる事で何とかイニシアティブを取る事も可能だった。だが、この世界の『香月 夕呼』は以前の世界の記憶を持っている。普通にやり合っても勝てない事の方が多かったのに、記憶という更なる武器を手に入れた彼女に対抗する事は自殺行為にさえ等しいのだ。少々オーバーかもしれないが、彼女の事を通常の物差しで測る事は不可能に近い。本気で彼女に勝てる人物はこの世に存在するのだろうか、とさえ思わされるほどなのである。「とりあえず俺はこの辺で失礼しますね。午後から訓練部隊の方にも顔を出さないといけないんで・・・あ、そうだ、キョウスケ大尉に相談に乗って貰いたい事があるんですが」「・・・別に構わんが、相談なら副司令でも構わないんじゃないのか?」「出来れば大尉の方が良いんですよ。先生じゃちょっと―――」「何よ、アタシじゃ頼りにならないって言いたい訳?」「そうじゃありませんよ。機体運用に関する事なんで、大尉の方が適任かと思っただけなんです」「・・・そう言う事なら仕方が無いわね」「すみません。それじゃ大尉、行きましょう」「ああ、解った」そう言って部屋を後にした二人は、基地内の休憩室へと足を運んでいた―――「さて、話とはなんだ?機体運用に関する事なんて言うのは嘘なんだろう?」「やっぱりばれてましたか」「当たり前だ。戦術機に関する事ならば俺よりもお前の方が詳しいからな。大方、場の空気が辛くなって逃げ出す口実に俺を利用したんだろう?」「うっ、本当にすみません・・・それもあるんですけど、あのままだと本当に言い争いになりそうな雰囲気だったもんで―――」「そうか・・・要らぬ心配を掛けてしまっている様だが大丈夫だ」「そうですか、解りました」「そう言えばタケル、総戦技演習が近いんだったな。訓練部隊の方はどうなんだ?」「色々と考えてはみたんですけどね。正直なところ俺が参加して無いからという訳では無いかもしれませんが、隊の纏まりと言った点ではかなりヤバいんですよ。C小隊は何の問題も無くクリアするでしょうね。個人の力量もそうですが、纏まりと言った点では本当に優れてますから」「あいつ等はこれまでも互いに協力して幾多の死線を乗り越えてきたからな。チームワークなどという物は、自然と生まれてきたという事だろう」「確かにそうでしょうね。でもB小隊にはそれが圧倒的に不足してます。互いの事になるべく干渉しないでおこうとする姿勢がそれに拍車を掛けているのは十分解ってる事なんですけど」「そうか・・・何か良い案があれば良いのだがな―――」『フッフッフ~それならお姉さん達に任せなさ~い!!』彼等が振り返るとそこにはエクセレンとラミアが居た。「・・・立ち聞きとは趣味が悪いな」「そうですよエクセレン中尉にラミア中尉。いったいどこから湧いてきたんですか?」「ちょっとぉ~、人をゴキブリみたいに言わないでくれる?」「私達は偶然通りかかったまでだ。それに白銀、聞かれては困る話ならばこんな所でしている方が悪いと思うぞ?」「別に聞かれて困る話って訳じゃないですよ。それでエクセレン中尉、何か良い案があるんですか?」「モチのロンよ。大船に乗ったつもりでいてくれて構わないわよ」そう言った彼女の表情は大層自信あり気な様子だ。しかしこの時武は、キョウスケが小声で『ヤレヤレ』と言っていたのを聞き逃していなかった。「一応話だけでも聞かせて貰って良いですか?」「ダ~メ」「何でですか?方法次第じゃ俺も協力できるかもしれないじゃないですか?」「もちろんタケル君にも協力して貰うつもりよ。という訳だから、午後の訓練、楽しみにしててね~ん」「ちょ、ちょっとエクセレン中尉!?」「それでは私も失礼します」軽く敬礼をし、その場を後にするラミア。この時武は、午後の訓練がまたとんでもない事になりそうな予感がしてならなかった。間違いなくエクセレンは何かを企んでいるのだろう。それが吉と出れば良いのだが、逆の事になってしまえばますます最悪の事態を招いてしまう。一抹の不安を覚えながらも武は、午後の訓練に向けての準備を進めるほか無かったのである―――「まあなんだ・・・頑張れよタケル」そう言ったキョウスケの声など、今の彼の耳には全く届いてなかったのは言うまでも無い。「さ~て皆、午後からの訓練も張り切って行きましょうか~!!」『『「はいっ!!」』』「ところでエクセレン中尉、何で基地の裏山に来てるんですか?」「それは今から説明させて貰うわ。午後の訓練の舞台はココ、そして訓練内容はズバリ『鬼ごっこ』よっ!」「なっ、なんですってぇ!!ちょ、ちょっとエクセレン中尉、一体何考えてるんですか!?」「もう、焦らないの。今から順を追って説明するから・・・という訳でラミアちゃん、後ヨロシク~」「了解です」説明は丸投げかよっ!!とツッコミたい気持ちを抑えながらも武は、ラミアの説明を聞いてみる事にした。「私はラミア・ラヴレス、階級は中尉だ。本日の訓練の補佐を務めさせて貰う事になっている。さて、貴様らにはこれからこちらが決めた者とペアを組んで貰い訓練を行って貰う予定だ。これは戦術機運用の最小単位がエレメントである事を考えており、そして貴様らはお互いに連携をとりつつ、逃げ回る目標を捕まえる。これが今回の訓練の大まかな流れだ」「(なるほどな、確かに鬼ごっこと聞いただけじゃ何を考えてるんだって事になるけど、これだったらキッチリとした訓練になるな)」「中尉殿、質問があります」「何だ御剣訓練生?」「訓練内容は把握できました。しかし、逃げる目標というのは一体誰が行うのでしょうか?」「それは私とエクセレン中尉、そして白銀大尉だ。そして貴様らは全部で11人、どうしても一人あふれてしまう為、アラド訓練生にもこちらに加わって貰う」「俺もそっち側なんですか?」「そうだ、ちなみに反論は許さん。それではペアを発表する―――」ラミアが発表した組み合わせはこうだ。『冥夜・ブリット組』『千鶴・彩峰組』『たま・ラトゥーニ組』『美琴・アルフィミィ組』『クスハ・ゼオラ組』「なお、これらは各々の身体能力並びに技術力を考慮した組み合わせだ。何か質問は?・・・無いようだな。それでは15分後に訓練を開始する。それまで準備をしておけ」『『「了解っ!」』』組み合わせを聞いた直後、武はこの分け方を考えた人物に対し、何を考えているんだと言いたくて仕方が無かった。確かに個々の能力や技術力と言った面で考えるならばこれが妥当なのは間違いないだろう。しかし問題は千鶴と彩峰のコンビである。彼女達二人は言われるまでもなく犬猿の仲なのだ。それが証拠に、今現在も言い争いが始まろうとしている。「・・・何で私が榊と―――」「それはこっちのセリフよ。私だって不本意だけど、貴女と組めと言われたのだから仕方ないじゃない」「ヤダヤダ、これだから優等生は」「な、何ですって!!」案の定言い争いが始まってしまっている。しかし、エクセレンやラミアには彼女らのやり取りを止める気は全く無い様子だ。別に無視している訳では無いだろうが、彼女達のやり取りを見て何とも言わないのであれば教官としては大問題である。「お前らなぁ、今は訓練中だぞ!遊びでやってんじゃないんだ。そう言う事は後でやってくれよ」「・・・アラドは黙ってて、これは私と榊の問題だから」「そうよ、貴方は少し黙ってて」「・・・はい―――」二人の迫力に押され、成す術無く引きさがってしまうアラド。流石にそれを見兼ねた冥夜とブリットの二人が、彼女達の仲裁に入る。「榊、彩峰、アラドの言う通りだ。教官達も見ておられる、そのくらいにしておくが良い」「そうだぞ二人とも、言い争うなら訓練の後でもできるだろ?」「・・・そうね、兎に角今は訓練に集中しましょ」「・・・仕方が無いから今は二人の顔に免じてそうしてあげる」冥夜とブリットのおかげでその場は収まったものの、問題は依然として解決しそうになかった。やはり現状で最大の問題点は、この二人がいかに協力して事に当たれるかという事なのだろう。恐らくエクセレンは、彼女達にそう言った事を解らせる為にわざとこう言った組み合わせにしたという事だ。そして、止めに入らなかった理由としても、互いに不干渉を貫かせない為だという事に武は改めて気付かされる事になる。「さ~て、そろそろ始めるわよ~」『『「はいっ!」』』「っと、言い忘れるところだったわ。今回の訓練だけど、普通にやっても面白くないじゃない?だから罰ゲームを考えてあるの。私達逃げる方が捕まった場合は、捕まった者が捕まえたペアに今日から総戦技演習前日までの間夕食をごちそうするわ。それから各ペアは一人捕まえた時点でここに戻って頂戴。ちなみに制限時間内に誰も捕まえられなかった場合は、そのペアの負けって事だから訓練終了後にそのペアは筋トレよ」「ちょ、ちょっと待って下さいッスエクセレン中尉!!俺も捕まってしまったら捕まえたペアに夕食をおごるんですか?」「流石に訓練生の貴方にそんな事はさせられないわよ」「ホッ、良かったぁ~『総戦技演習までの間、夕食のおかず2品抜き位で勘弁してあげるから』っ!!マジですか!!やべぇ・・・絶対に捕まえられてたまるもんかよ!!」「それじゃ私達は今から逃げるから、今から5分後に貴方達はスタートして頂戴。制限時間は午後三時までにさせて貰うわね」「それでは訓練を開始する」ラミアより訓練開始の合図が告げられ、逃げる側に回っている者達はそれぞれ林の中へと向かう。今回の訓練は逃げる側が4名、追いかける側が5名となっている為、どうしても一組だけ罰ゲームを受ける羽目になってしまう訳だ。いかに互いが上手く連携を取りながら相手を追い詰められるかが勝利のカギとなって来るだろう。「さて、誰を狙う?」「現状で一番能力が解っているのはアラドだ。次にタケル、エクセレン教諭とラヴレス中尉殿に関しては情報が不足している以上何とも言えんな」「エクセレン中尉に関しては俺も良く解らないけど、恐らくこのメンバーの中ではラミア中尉が群を抜いてると思う」「その根拠は?」「アラド以外は全員特殊部隊の衛士だ。その中でもラミア中尉は元々潜入工作のエキスパートだからな。身体能力の面ではとんでもないって事さ」「なるほどな、だがそなた、そんな情報をどこで仕入れたのだ?」「中尉達は前に俺達が居た所からこっちに配属されたんだよ。その時から色々と面倒を見て貰ってるんだ」もちろん真っ赤な嘘だ。「ふむ、という事は中尉達はそなた達C小隊の癖を知り尽くしておられるという事になるな」しかし、冥夜は根が素直な為に疑う事無くすんなりとこの嘘を受け入れていた。この時ブリットは、この様な嘘が通用するとは思いもよらなかったのは言うまでも無い。「そうなるかな。だから俺としてはアラドかタケルを狙うべきだと思う」「私としてはタケルだな。彼の者とは比較的付き合いが長い故、上手く立ち回れると考えている」「じゃあ俺達はタケルを優先的に狙おう。頼りにしてるぜ御剣」「ああ、私もそなたを頼りにさせて貰う。では参るとしよう」「了解だ」冥夜・ブリット組は武に狙いを絞った様だ。他の面々も色々と協議した結果、たま・ラトゥーニ組はアラドを、美琴・アルフィミィ組はエクセレン、クスハ・ゼオラ組はラミアを優先する方向で話が纏まった。そして、千鶴・彩峰組はというと―――「だから、どうしてそうなるのよ?」「どこで誰と遭遇するか分からないのに、誰を狙うかなんて決めても意味が無い」「それはそうかも知れないけど、優先順位を決めておくにこした事は無いでしょ?」「見つけた相手を捕まえればそれで問題無い。榊の言い分は、誰かに的を絞らないと何もできないって言ってる様なもの」「何ですって!!誰もそんな事言ってないでしょう!」「本当の事を言われたから直ぐそうやってムキになる・・・ふぅ~ヤダヤダ」先程から互いの意見が常にぶつかり合い、平行線のままなのだ。これには周りの者達も一部を除いて呆れ返っている。「また始まってしまいましたの」「うん・・・でも、あの二人の場合はいつもああだから仕方ないよ」「それはそうかも知れないけれど、今は訓練中ですのよ?」「そうなんだけどねぇ~」「・・・止める人間が居ないから、いつも以上にヒートアップしてる」「ど、どうしましょう」「壬姫さん、放っておけば良いわよ。あの二人の言い争いは年中行事みたいなもんなんだし」「で、でも~」「流石にそれは不味いんじゃないかな?一応訓練中だし・・・」「いや、私もゼオラの意見に賛成だ」「み、御剣さん?」「クスハ、俺も二人の意見に賛成だ。放っておけば良い」「・・・ブリット君まで」「私がゼオラの意見に賛成だと言った事には理由がある。今回は指定されたペア同士での連携を見る為の訓練だ。戦場に出ればどのような者と組まされるか分からん、その都度不平不満を言っていれば作戦行動に支障が生じる。それをあの者達に理解させる為に、教諭はあえてこの組み合わせを選んだのであろう」「俺も御剣と同意見だよ。あいつ等にもそれを解らせる良い機会だって事さ」「でも本音は『二人があのまま言い争って、お互いに足を引っ張り続けてくれれば罰ゲームから逃れれる』・・・とか考えていたりしませんの?」「おいおいアルフィミィ、俺がそんな事考えてると思ってるのか?」「冗談ですの」「ヤレヤレ・・・ホント、そんな所はエクセレン中尉にそっくりだよな」「姉妹だから当然ですの」「へぇ~、アルフィミィとエクセレン中尉って姉妹だったんだぁ。僕気付かなかったよ~」「いや、そこは気付く所だろ!?」「・・・そろそろ時間。行こう、壬姫」「う、うん」「それじゃあ僕達も行こうか」「ハイですの」「クスハさん、私達も行きましょ」「ええ・・・ホントに大丈夫なのかなあの二人―――」皆の心配を他所に千鶴と彩峰の二人は、尚も言い争いを続けている。この場にまりもが居たならば、間違いなく二人の言い争いはここまでヒートアップしてはいないだろう。彼女が居ない事を良い事にとは言わないが、止める者が居ない事によって二人の言い争いはこれまでに無い程になっていたのである。「さて、我らも参るとしよう」「ああ、榊、彩峰、そろそろ時間だぞ?」「・・・解った」「ちょっと、話はまだ終わってないわよ!?」「これ以上アンタに付き合ってたら、何もできないまま終わる。罰を受けるのは嫌」「解ったわよっ!勝手にすればいいじゃない!!」「言われるまでも無いよ」そう言うと彩峰は、千鶴を置いて一人林の中へと入って行く―――「待ちなさいよ!一人で先に行っても仕方ないでしょ!?」彩峰の後を追うようにして千鶴も林の中へと入って行き、その場に残された冥夜とブリットの二人は、何故か疲れた顔をしながら自分達も林の中へと向かって行く。そんな彼女達のやり取りを陰で見ている者が居た。今回の訓練の発案者である『エクセレン・ブロウニング』その人である。「さてと、時間までなにしようかしらねぇ」彼女はスタート地点から森の奥へと入るフリをし、訓練部隊の面々の死角を通る様にして迂回しながら元の位置へと戻って来ていたのである。「まさか私がスタート地点に戻ってるとは思ってないでしょうねぇ~。ま、見つかったら見つかったで別に構わないけど」まったくもってやる気が在るのか無いのか解らない発言である。そんな彼女を他所に訓練部隊の面々や逃げる側に回っている武達は、必死になりながら訓練に勤しんでいたのは言うまでも無い。「それにしても想像以上ねあの二人は・・・一体何が原因であそこまで言い争えるのかしら?」「まったくですの。あからさまに互いを否定し続けていても何の解決にもなりませんのにね」「そうよねぇ・・・えっ!?」一人呟いていた筈なのに答えが返って来た事に驚いた彼女は、慌てて後ろを振り返ってみる。そこに居たのは、予想通りの人物だった―――「ホント、アルフィミィの言った通りだね」「ア、アルフィミィちゃん!?それに美琴ちゃんも・・・な、何で私がここに居るって分かったの?」「エクセレンの考えそうな事は直ぐに分かりますもの」「アルフィミィが『エクセレンの事だから逃げるフリをしてどこかで休んでるに決まってると思うですの』って言ったんですよ。僕は教官に限ってそんな事は無いと思うって言ったんですけどねぇ~」「流石は我が妹・・・そこまではこのエクセレンの目を持ってしても見抜けなかったわ」「という訳で今日から暫くの間、夕食を御馳走して下さいね」「う~ん、約束だし仕方ないわねぇ」「エクセレン、私達はこの後何をすれば宜しいんですの?」「そうねぇ・・・時間はまだまだ在るし、暫く休んでいて構わないわよ―――と言いたいところだけど、流石にそれは無理よね。その変で軽く自主トレでもやっておいてくれるかしら?」「解りました。じゃあアルフィミィ、その辺を軽く走ってこようか?」「了解ですの。ではエクセレン、ごきげんよう」ランニングに向かう彼女達を眼で追いながら、エクセレンは一人『今晩の夕食だけおごる』と最初に言っておくべきだったと後悔していた。それ以上に、こうもあっさりと捕まってしまった事に対して、後で何か言われるかもしれない事をどう切り返すか考える事に必死になっていたという。そしてほかの面々はというと―――「クッ、よりにもよって冥夜とブリットのコンビかよ」「逃がしはせんぞタケルッ!!」「御剣、俺は迂回して武の前に出る。お前はこのまま後ろからプレッシャーを掛け続けてくれ」「承知した。ぬかるなよブリット」「ああ、了解だ!」武に聞こえないように打ち合わせを行い、ブリットは武に気付かれぬように迂回を始める。武が逃げている場所は、一直線に伸びている道だ。両脇には林が茂っており、そちら側に逃げ込めば生い茂る木々が上手くカモフラージュしてくれる可能性がある。しかし、逆を言えばその木々が邪魔になり、迂回する為に速度を落とさねばならない。だが武は、二人の身体能力が訓練部隊内でもトップに入る以上、このまま走りやすい場所を行く方が何が起こっても対応しやすいと考えこのまま道なりに逃げる方法を選択する事にした。「・・・足音が一人分しか聞こえない―――」走りながら器用に背後を確認すると、先程まで追って来ていた筈のブリットの姿が見えない事に武は気付いた。「いつの間にか二手に分かれてたのか。左右は林、前はこのままずっと一直線・・・恐らくブリットは林の中だろうな」「後ろを見る余裕があるとは、随分と余裕だな」「そうでも無いぜ?お前ら二人が相手じゃちょっと油断しただけで捕まっちまうからな」「なるほど、流石はタケルだ。だが・・・」「たぁぁぁっ!!」冥夜がそう言った直後、雄叫びをあげながら飛び出してくる影が一つ―――「っと、そうは行くかよ!」「クッ、御剣に気を取られてると思ったのに」「あんまり俺を舐めるなよブリット。気配ですぐ分かるって」「だが、スピードが落ちた事には変わらん!!」そう言って一気に距離を詰める冥夜。しかし武は、あまり慌ててはいない。「捕った!!」「残念、まだ捕まらねぇよ!」こちら側に飛び込んで来た冥夜の腕を掴み、そのまま武はその反動を利用して彼女を自分の背後に投げる。バランスを崩す形となってしまった冥夜は、勢いを殺す事が出来ずにその場に倒れこんでしまった。「クッ!」何とか受け身は取れたものの、転んでしまった分だけ対応が遅れてしまう。その間に武は距離を稼ごうとするのだが、彼の目の前には既にブリットが回り込んでいた。「御剣、挟み撃ちだ!」「ああ・・・タケル、形勢逆転だな?」「ゲッ・・・ヤバいな」「俺達の勝ちだなタケル」そう言いながらジリジリと距離を詰める二人。「ん~、流石の俺も年貢の納め時かな・・・あぁぁぁっ!!ブリットあっちを見ろっ!クスハが水着姿で手を振ってるぞ!」一瞬顔がニヤけたと思った途端、唐突に大声を出しながらブリットの背後を指差す武―――「その様な戯言にブリットが引っ掛かる『えっ!?』・・・馬鹿者っ!!」「じゃ~な~」驚くほど単純な嘘にブリットは引っ掛かってしまい、その隙を突いて武は一気に彼の横を素通りして行く。「あぁぁぁっ!!」「この大馬鹿者っ!!あのような単純な嘘に引っ掛かりおって!!」「ス、スマン・・・」「大体良く考えてみるのだ。この様な寒空の中、クスハが水着でいる事などあり得んだろう!?」「・・・本当に面目ない」「まったく、これだから男というものは・・・大体そなたはだな―――」それから暫くの間ブリットに対する冥夜の説教が続く事になり、武は余裕で逃げ切れる事となった。その頃アラドはというと―――「まるでお猿さんみたいですねぇ・・・」「・・・うん」林の中でラトゥーニとたまに見つかったアラドは、とっさに木の上によじ登り、木を伝いながら彼女達から逃げていた。「絶対に捕まるもんかよ!おかず2品抜きなんて俺は絶対ヤダかんなぁ~!!」大声で叫びながら逃げ続けるアラド。「アラドさんの食べ物に対する執着心って凄いね」「食べ物が絡むと、アラドはとんでもない力を発揮するから」「アハハハ、でもアラドさんの運動神経が羨ましいよ。私じゃ絶対あんな逃げ方出来ないもん」「アラドが普通じゃないだけ・・・兎に角このまま追い続ければ、いつか林も切れる。そうなったら降りるしか手が無いから、それまで頑張ろう」「そうだね」そう言いながら必死になってアラドを追いかける二人。しかし―――『バキッ』アラドが次の枝に飛び乗った瞬間、鈍い音を立てて折れる足下―――「ちょ、ありえねぇぇぇっ!!」「あ、落ちた」「・・・チャンス。行くよ壬姫」「う、うん」そしてアラドは遭えなく御用となったのである。「だぁぁぁっ!!俺の晩飯がぁぁぁ!!」「それよりもアラド大丈夫?」「これ位何ともねぇよ・・・うう、それよりも俺の晩飯・・・おかず2品ぁぁぁ」「残念だけどこれは仕方ないよ」「俺にとっちゃ死活問題なんだよ」「あんな危ない逃げ方してたアラドの自業自得だと思う。兎に角元の場所に戻らないと。他の皆もそろそろ誰かを捕まえてる頃だと思うし」「そうだね。ほらアラドさん、次頑張れば良いじゃない・・・ね?」「アラド、いつまでもそうしてても無駄」後でこの話を聞いたエクセレンは『実にアラド君らしい捕まり方だったわね』と言ったそうだ。しかし、捕まった事には変わりなく、この日から総戦技演習までの間、彼の夕食はおかず2品マイナスとなり、食事の度にアラドは涙を流していたという。「もうっ、何で貴女はいつもそうなのよ!?」「榊みたいに頭カタくないから」「何ですってぇぇぇっ!!」「ふぅ・・・ヤレヤレ、お前達はいつまでそうやってるつもりだ?」千鶴と彩峰は、相変わらず足並みを揃える気配を見せないまま訓練に臨んでいた。そして偶然ラミアを発見し、彼女を追いかけていたのだが上手く連携が取れない事から再び言い争いが始まってしまい、目標を目の前にしながらケンカを始めてしまったのである。「お前達、今は訓練中だという事を忘れていないか?」『「すみません中尉」』「榊のせいで怒られた」小声で彩峰が呟いた事に千鶴は気付いたのだが、ここはラミアの手前我慢する事にする。「貴様らの仲が悪い事は聞いてはいるが、一体何がそうさせるんだ?私には理解できん」『「・・・」』「どうした、何か理由があるのだろう?」「では言わせて頂きます。彼女が私の意見をまるで聞き入れようとしないからです」「榊の言い分はいつも基本に忠実すぎる。それじゃ臨機応変に対応できない」「だからと言って勝手なワンマンプレーは許されるものじゃないわ」「効率が悪いから私が動かざるを得ない。そんなんじゃ何かあった時に対応できないもの」「・・・解った。もう良い」再び言い争いが始まりそうになった為に、ラミアは彼女達の会話を止めさせる。「お前達それぞれの言い分は解らんでも無い。だが、お前達は自分の意見を相手に押し付けようとするだけで相手の事を何も考えていない。それでは今後も同じことの繰り返しだ」『「・・・」』「二人は自分の意見を相手に認めて貰う為に何かしたのか?恐らく普段のお前達を見る限りではそのような事はしてないだろうな」「そ、それは・・・」「最初から相手は自分の意見を聞き入れない。だから言うだけ無駄だ。などと言った考えでいる限り、お前達はそこから前へ進む事は出来んだろう。互いが歩み寄ろうとしない限り、相手の事など分からんものだ。もう一度よく考えてみると良い」二人は相変わらず黙ったままだ。ラミアの言った事があまりにも的を射ていた為に、彼女達にも思う所があったのだろう。この時ラミアは、これが切っ掛けになってくれればと切に願っていた―――「さて、訓練を再開するぞ・・・ムッ!?」「えーっと・・・御話し中だったんでどうしようかと思ったんですけど―――」唐突に袖口を掴まれたラミアは、ゆっくりと後ろを振り返る。そこに居たのはクスハとゼオラのコンビで、二人は揃って申し訳なさそうな顔をしていた。「してやられたな。私とした事が、お前達二人の接近に気付けなかったとは」「すみません中尉。ズルイかと思ったんですけど、中尉を捕まえる為の隙を探すにはこれしか無かったので」「いや、油断していた私のミスだ。それに榊と彩峰にもチャンスはあったからな」クスハとゼオラの二名は千鶴と彩峰に対しても申し訳なさそうな顔を向けるが、彼女達はまるで反応しなかったのである。どうやら先程ラミアに言われた事が相当こたえている様子だ。「さて、そろそろ時間だな。4人とも、元の場所へと戻るぞ」『『「了解」』』元の場所へと帰る際、千鶴と彩峰は顔を合わせようともしなかった。そして、クスハとゼオラはこの重い雰囲気の中、どうする事も出来ずにラミア達の後について行くしか無かったのである。結果として訓練は武以外のメンバーが捕まってしまい、捕まえられなかった冥夜・ブリット、千鶴・彩峰ペアは罰を受ける事となり、エクセレンとラミアは総戦技演習までの間、捕まえた者達に食事をおごる事となった。最後の最後までアラドが抗議をしていたが、全く聞いてもらえずにいたのは言うまでも無い。「ラミア中尉、委員長と彩峰の二人、何かあったんですか?」「さあな、恐らく誰も捕まえられなかったからでは無いのか?」「そうですか、解りました・・・じゃあ、午後の訓練はここまでとする。解散っ!!」「敬礼っ!」訓練兵達が敬礼を終え、各々が順次基地へと戻って行く―――「どうやら上手く行ったみたいね」「ええ、後は本人次第だと思います」「やっぱり何かあったんですか?」「さてどうかしらね。まあ、そのうち分かると思うけど」「女同士の秘密・・・という奴だ。そうでございますわねエクセ姉様」「そう言う事よタケル君。でも貴方にとっても悪い事じゃないと思うわよ」「はぁ・・・」武の知らぬところでラミアが彼女らにあのような話をしているとは誰も気づいてはいないだろう。結果としてこの件が理由で千鶴と彩峰は、今一度互いの事を考え直す事となる。しかし、それらの結果が出るのはまだまだ先の話であり、今はまだ互いを完全に認める事は出来ないまま彼女達は総戦技演習を迎える事となるのであった―――あとがき第29話です。今回は総戦技演習に向けてのお話です。ちょっとした遊び心なんかも入れながら書いてみました。序盤に登場しているF-23Aですが、YF-23を一部隊が正式採用した物として登場させてみました。細部の形状が違う以外、殆どの仕様は試作機と大差無いという事にさせて頂いてます。そして、久々に訓練風景を描いてみました。千鶴と彩峰は、これを機会にどの様に互いを認め合うようになって行くのか?オルタ本編の様に上手く書ければと思っています。今回、彼女達に色々と言う役目をラミアにしてみました。当初はエクセレンにやって貰う予定だったんですけどね^^;ぶっちゃけてしまうと、この様な方向に持って行ってしまうと、タケルちゃんが必要ないかもしれません・・・orzしかし、OG勢とオルタ勢を少しでも絡ませようと考える為の処置として受け入れられればと考えております。さて、次回からは総戦技演習本編の予定です。一体どの様な話になるのか・・・楽しみにお待ち下さいませ。それでは感想の方お待ちしております^^