Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第35話 暴れまわる幽霊達無事に敵基地からの脱出に成功した武は、皆が無事だった事に安堵していた―――一旦上空に飛翔していたマサキも彼らの脱出を確認し、索敵を続けつつ合流を開始する。『今のところ追撃は無いみたいだな・・・それでタケル、この後どうするんだ?』「一度キョウスケ大尉達と合流したい所なんだけど、このまま向かう訳にはいかないんだ。一先ず北上して迂回するしかないな」『どうしてだよ?敵の追撃部隊が出てくる可能性が高い。って事は、あいつらと早めに合流した方が良いんじゃないのか?』「大尉達の居るポイントには演習中の訓練生や非戦闘員が居るんだ。下手に彼女達を巻き込むわけにはいかないんだよ」『・・・なるほどな、そういうことならしょうがねぇか。そうと決まればこんな所に長居は無用、さっさと行こうぜ!』『・・・そうしたいのは山々なんだが、な。お喋りの時間が長すぎたようだ』アクセルがそう言った直後、次々とレーダーに映る機影。現在の所、そう数は多くは無いが、徐々に増え始めている。『チッ、もたもたし過ぎちまったか・・・こうなったらサイフラッシュで一気に片付けてやるぜ!!』『ダメよマサキ!!』MAP兵器であるサイフラッシュを使おうとした矢先、彼の行動を遮る様にファミリアのクロが制止を呼びかける。『そうだニャマサキ、こんな所で下手にプラーナを消費してこの前みたいにぶっ倒れたらどうするんだニャ!』『うっ、そうだった・・・だったらアカシックバスターで―――『「いい加減学習するニャ!!」』―――わりぃ・・・』マサキの耳元で二匹のファミリアが口を揃えて叫ぶ。プラーナとは生命が持っている生体エネルギーで、俗に言う『気』や『オーラ』のようなものと言われ、魔術や結界等を発動させたりするための魔力とは別物であり、魔装機の操縦にはこれが必要不可欠なものとされている。そのため、プラーナが高ければ高いほど魔装機の性能を引き出すことができるが、プラーナが低いとまともに動かすこともできない。また、プラーナは人間の生気ともいえる物で、多量に消費すると命を落としかねない事から、戦闘などを行う際は細心の注意を払わなければならないのだ。この世界に来た直後、シャドウミラーとの偶発的な遭遇戦に巻き込まれてしまった彼は、大技を連発しプラーナを大量に消耗し過ぎてしまい、結果として遭遇した部隊を退ける事は出来たものの、後から来た増援部隊に捕縛されてしまったと言う訳である。『・・・という事はサイバスターと貴様は当てに出来んということか・・・使えん奴だ』『何だとテメェ!!』「ふ、二人とも落ち着いて!それよりも今は敵の追撃部隊をなんとかしないと・・・」『そうだニャ!タケルの言うとおり、まずは敵をニャんとかしニャいと』三人がこのようなやり取りを続けている間にも敵の数は更に増え始めている。確認できただけでもざっと20機近くは居るだろうか―――その多くは戦術機であるF-23A・ブラックウィドウだが、敵がこれだけとは限らない。『・・・ここで言い争っていても仕方あるまい。今回は白銀の顔に免じてやるとしよう』『一々感に障る言い方をする野郎だな・・・まあ今回ばかりは俺もタケルの顔に免じてやるぜ』何だかんだで意見が纏まり、三人は敵部隊に備えて身構える―――『敵部隊は戦術機で構成されているが、恐らくこれで終わる筈は無いだろう。増援の可能性が高いと肝に銘じておけよ』『ああ「了解です」』指揮官としての能力は、やはり武よりもアクセルの方に分が有る。元シャドウミラーの隊長という事も理由の一つでは有るが、彼はこれまでに幾多の戦いを経験している。そのため部隊運用や戦術構築など、様々な面で武を上回っているのは当然と言えよう。また、彼が増援を懸念している事には他にも理由がある。それは自分達の乗機に関することも含まれていた。彼自身が搭乗しているアシュセイヴァーは、シャドウミラーが指揮官機として採用しているF.I社製の機体だ。後に量産された量産型は、ゲシュペンストMk-Ⅱに変わる主力機としてアースクレイドル内で行われた物だが、プラン上は存在していた事から確認できていないだけの可能性が高かった。次にゲシュペンストMk-ⅡとMk-Ⅳだが、Mk-Ⅱに関しては自分達が元居た世界、(ここでは『あちら側の世界』とさせて頂く)から持ち込まれた物だろう。Mk-Ⅳはプランのみ存在していた機体だが、設計図を元にMk-Ⅱを用いて再現した機体だと予測が付く。では、参式はどうだろう?流石にこれだけの機体をこの世界のものだけで再現する事は不可能に近い。それができるのであればキョウスケ達の機体の修復も可能になってしまうからだ。という事は、この参式はあちら側の世界でテスラ研から強奪した三機の内の一機でほぼ間違いない。三機の内の一機はアースクレイドルでの戦いで破壊されており、もう一機は現在目の前に有る物、残る一機は所在不明という事になる。ここまで来ればもうお分かりだろう。少なくとも後何機かのMk-Ⅱと参式が一機は存在している可能性が高いという事だ。足止めの為に戦術機を前面に展開し、後続としてPTや特機が出てくる可能性が高いと彼は予想したのである。『白銀、俺達で奴らを牽制しつつ引き付ける。貴様は俺達が討ち漏らした奴を叩け』「大丈夫です。俺もやれますよ」『満足に機体も動かせねぇ奴が前に出たっていい的になるだけだろ?お前は自分の事だけ考えてればいいって事さ』『そういうことだ、これがな。念の為に貴様らの直衛としてMk-Ⅱ達を使う。手数は減ってしまうが問題は無いなマサキ・アンドー』『ああ、その分俺が敵を落とせばいいって事だろ?』『フッ、意外と物分りが良いな。問題は無いな白銀?』「クッ・・・了解」このとき武は、マサキやアクセルの発言に対して怒りを覚えることは無かった。彼の言い分は尤もであり、自分自身の力量の無さに対して苛立っていたのである。現に先程もロクに動かすことも出来ない機体で隔壁破壊を言い出し失敗に終わったばかりだ。下手に自分が前に出て的になってしまえば、それをカバーする為にマサキやアクセルがこちらの方に気を取られてしまう。そして彼一人がこの機体に搭乗しているのであれば問題は無いが、サブコックピットには鎧衣が乗っているのだ。当たり所が悪ければ彼を巻き込んでしまう可能性が高い。そうなってしまえば美琴に対して顔を向けることも出来なくなってしまうだろう。そのような事を踏まえた上で、彼は大人しく彼らの意見に従ったのである。『行くぜ、サイバスター!お前達に風の魔装機神の力を見せてやる!』マサキはディスカッターを構え前方に展開する敵機に向けて突撃する―――『ディスカッター、霞斬り!』風の魔装機神のスピードを生かした動きで敵を翻弄しつつ、すれ違い様に次々と敵機を斬り付けて行くマサキ。霞斬りの由来は、斬った軌跡が青白い霞のようになっていることから付けられたと言われている。元々威力を重視した攻撃ではなく、相手に対しての牽制を目的とした技であるため致命傷を与えることは出来ていないが、現在の最優先事項はいかにこの場から脱出するかという点だ。敵を仕留めるまでは行かないにしても、後を追って来れなくすれば逃げ切ることは可能なのである。彼がこのような戦法を取った理由は、先程の武との会話が挙げられる。敵を引き連れたままキョウスケ達と合流することは、非戦闘員を危険に晒してしまう可能性が高いのだ。敵を撃墜してしまえば問題ないのだが、先程クロ達にプラーナを抑えて戦闘を行うよう言われたばかりであるため、あえてこの様な戦い方を選択しているのであった。『フッ、奴らしくも無い戦い方だ、な・・・っ!!』彼の乗るアシュセイヴァーの直ぐ横を36mm弾が通過する。マサキの戦闘に目を奪われていた訳ではないが、油断していた事には違いない。とっさに回避した彼は、攻撃してきた機体に向けて自機を突撃させる―――『やり返さねば気が済まない性質でな・・・受け取れ!!』高速で敵機に向けて跳躍しながら彼は、装備された兵装より右腕に構えたガン・レイピアを選択し更に加速する。『物事はスマートに、な』一度に数機の相手を見据え、彼は躊躇無くトリガーを引く。ガン・レイピアから青白く細長いビームが次々と発射され、F-23Aの装甲を撃ち抜いて行く―――いくら最新の対レーザー蒸散塗膜加工を施された機体とはいえ、至近距離でこれだけのビームを撃ち込まれれば一溜まりも無いのだろう。出力は光線級に比べ劣るかもしれないが、元々戦術機の装甲は対ベータ用の物であり、技術的な面で考えてもビームを易々と防げるものではないのだ。『どうした、それで終わりか?所詮は人形、この程度では俺達を止める事など出来んぞ!』無人機のMk-ⅡとMk-Ⅳに遠距離から敵を牽制させ、出来た隙を突く形で次々と敵機を撃墜していくアクセルとマサキ。近距離をマサキ、中距離をアクセル、遠距離を無人機に担当させることによって彼らは見事に三位一体の戦術を繰り広げていた―――「クソッ、ただ見ているだけしか出来ないなんて・・・『ちょっといいかい白銀君?』・・・何ですか鎧衣課長?」『先程からレーダーと思われるものを見ていたのだが、敵の布陣が少々変だと思ってねぇ』そう言われた武は慌ててレーダーを確認する。「確かに妙ですね・・・わざと俺達が脱出を考えていた方向に移動しているような・・・まさかっ!!」彼が何かに気付いた矢先の出来事だった。自分達を中心に次々とレーダーに新たな機影が表示され始めたのだ。『クソッ、伏兵かよ・・・』「そんな、レーダーには何も映っていなかった筈だ!」『OCA、簡単に言えば光学迷彩だ。俺としたことが迂闊だった・・・奴らの使用している戦術機には特殊装備として光学迷彩が搭載されているのさ、これがな』『何でそんな大事な事を言わねぇんだ!』『騒いでいても仕方が無いだろう・・・今はどうやってここを突破するかを考えろ・・・っ!!どこからの攻撃だ!?』武達は相手の罠にはまってしまい、伏兵が展開しているポイントへと誘い込まれたのだった。そして、予期せぬ位置からの攻撃を受けるアクセル。その発射元を特定した彼は驚かざるを得なかった―――『な、なんだと?』彼のアシュセイヴァーに攻撃を仕掛けたのは味方機―――そう、武の直衛に回していたMk-Ⅳだったのである。「そ、そんな・・・なんで味方の機体が中尉を攻撃するんだよ?」次の瞬間、ゆっくりとこちらに振り返るMk-Ⅳ達―――そして、その銃口は武達の機体に狙いを定めていたのである。『何の冗談だアクセル・・・まさかテメェ、俺達を裏切るつもりか!?』『残念だが違う・・・どうやら俺達は尽く罠にハメられてしまったようだ、これがな』「一体どういう意味です?―――『流石はアクセル隊長、私が仕掛けたトラップに気付くとは』―――誰だ!?」通信に割り込んでくる女性の声―――『お久しぶりですねアクセル隊長』『・・・W12か、確か貴様は電子工学のエキスパートとして調整された個体だったな。これだけの短時間でマリオネット・システムのコントロールを奪い返すのは造作も無いということか』W12、その名が示す通りラミアと同じWナンバーの兵士だ。アクセル達がF23-Aとの戦闘を行っている間に彼女は、システムのコントロールを奪い返し主導権を得たのである。『覚えて頂いていたようで光栄ですわ・・・さて、貴方のお仲間は私の手の中・・・どうすれば良いのか御理解頂けますわね?』『人形風情が俺に命令か?貴様も随分と偉くなったものだ』『状況が見えていらっしゃらない様子ですね。私がそのMk-Ⅳに彼を撃てと命令すれば、彼の命は無いのですよ?』彼女の言うとおり、いくら堅牢な装甲を持つ参式と言えども、この距離でビームの直撃を受ければただでは済まないだろう。そうしている間にも周囲に展開中のF-23A達は、徐々に包囲網を狭めていく。「(クッ、敵はこの機体に鎧衣課長も乗っている事や俺自身が機体の扱いに不慣れだって事を知っているんだ。だからあんな事を言って中尉の動揺を誘っている・・・どうすればいい?ロクに動けない俺じゃ攻撃をかわす事も出来ない可能性が高いし、かといってこの距離で直撃を受けたら間違いなくやられる―――『・・・そんな事で俺が動揺するとでも思ったのか?』―――え?)」武がどうすれば良いかを悩んでいたその矢先、アクセルは意外な言葉を口にした。『別に白銀達がどうなろうと俺には関係が無い、これがな。人質を取ったつもりだろうが、こいつらは俺の弱点にはなりえん。ここで奴らが死ぬと言うのなら所詮はそれまでの運命だったと言う事だ』『なんだとっ!テメェは俺達を犠牲にして自分は逃げ切ろうってのかよ!?見損なったぜアクセル!!』『別に貴様にどう思われようと俺の知ったことではない』「(そ、そんな・・・中尉にとって俺達はその程度だったっていうのか?)」これまでのやり取りを聞いていた武は言葉が出てこなかった。確かに武は彼とそれほど親しい間柄と言う訳ではない。だが彼は、アクセルの事を仲間だと信じていた。ここに来て彼の口から発せられた言葉により、武は絶望に近い感覚に陥りそうになるのが自分でもよく分かる。こんな所では終われない―――そして、徐々に何かが込み上げて来るのが分かる。何も出来ないと諦めたらそこで終わりだ。これまで何度絶望に近い感覚を味わった?自分は死ねない。死ぬ訳には行かないのだ。そして武は―――『・・・そうですか、非常に残念です。交渉決裂、と言うことで宜しいのですね?』「悪いけど最初っから交渉なんてもんは行われてねえんだよっ!!」『なにっ!?』一瞬の隙を突いた攻撃―――武は無我夢中で参式を動かし、目の前にいたMk-Ⅳを蹴り飛ばした。そして―――「アイソリッド・レーザー!!」続け様に参式の目から二本の光の矢が放たれた事でMk-Ⅳはそれを回避するための行動を余儀なくされ、参式との距離が開ける。『今だっ!!』参式と敵機の距離が開けた事により、アクセルは二機のMk-Ⅱを引き離すため、ガン・レイピアを発射し牽制する。しかし、無人機で有るが故の無理やりな機動によりそれは回避されてしまうが、完全に武と敵機の距離は開いた。『やれば出来るじゃないか白銀』「アクセル中尉・・・まさか今のは全部芝居だったんですか?」『さあ、な』「酷いですよ。俺、本気で中尉がそう言ってると思ったじゃないですか!!」『まあまあ、白銀君。昔から言うじゃないか、『敵を騙すには先ず味方から』そうだろうアルマー君』『別にそんなつもりで言ったわけじゃあない、これがな』『マサキ~、これがツンデレって奴かニャ?』『知るか!ったく、性質の悪すぎる冗談だぜ』『フッ・・・さて、これで仕切りなおしだ、な。どうするW12、いい加減隠れてないで姿を見せたらどうだ?』『私とした事が迂闊でした。貴方の弱点となるであろう彼が、弱点で無くなってしまうとは計算ミスですね』『策士、策に溺れるってな。くだらねぇ小細工で俺達をどうにかしようってのが間違ってるって事が分かっただろ』『やれやれ・・・弱い犬ほどよく吼えるとはよく言ったものです。いいでしょう、私も切り札を使わせて頂く事にします』彼女がそう言った次の瞬間、敵PTが近くの崖の上に飛翔し、続けてその横に赤い機体が現れる―――『ラーズアングリフか、そんな物が貴様の切り札と言う訳ではあるまい?』『仰るとおり、この機体を切り札と呼ぶには相応しくはありません。さて、もうそろそろなのですが―――』彼女がそう言い終るとほぼ同じタイミングで武達のレーダーに映る光点が一つ、しかも従来の戦術機やPTを上回る速度でこちらを目指しているのが見て取れる。位置的には彼らの背後から迫るその機体は、なおも加速を続けながら跳躍し武達の頭上をフライパスするとW12のラーズアングリフに並び立つようにこちらに振り返った。『な、んだと・・・』それはその機体を知るものであれば誰もが驚愕する機体だったのである―――「まさか・・・あれはアルトアイゼン!?」彼らの目の前に現れた謎の機体。それはキョウスケの駆るアルトに良く似ているが細部が異なっている。特に一目で分かるのがその色だ。暗めの青を基調としたカラーリング、そしてこちらを見据えるその機体の目は禍々とした赤い色をしており、明らかにこちらに向けて敵意を剥き出しにしていた。「いや、違う!あれはよく似てるけどアルトアイゼンじゃない・・・一体あれは?」『Mk-Ⅲだ』「Mk-Ⅲ?やっぱりあれはアルトアイゼンじゃないんですか?」『ああ、チッ・・・正式採用された機体とはいえ、あんな物まで用意しているとは、な』「アクセル中尉?」モニター越しのアクセルの表情は、Mk-Ⅲと呼ばれた機体を見た途端、苛立ちや怒りといったものを感じさせる物に変わっていた。明らかに普段の彼ではない―――武は直感的にそう感じていたのである。『W12・・・そんな物を持ち出すという事は、俺を殺す気で来たと受け取っても構わんという事だ、な?』『いえ、私が受けた命令は、貴方を捕まえろという一点だけです。流石に量産型のゲシュペンストや戦術機では貴方を抑える事は不可能と判断し、この機体を使う事にしました。設計図を元に量産型のMk-Ⅱをベースに製造した分、オリジナルに比べスペックは劣りますが、貴方に対してこれほど有効な機体は無いでしょう?』『人形風情が、随分とこの俺を舐めてくれているじゃないか?』『お気に触ったのであれば謝罪しましょう。別に貴方を舐めているという訳ではありません』『パイロットは誰だ。あの男ではない事は分かっている。そして他のナンバーズでもないという事もな』『残念ながらこの子達は私の可愛い操り人形です。どうですか隊長、宿敵と会い見えた感想は?』『忌々しい奴だ・・・貴様らは下がっていろ。こいつは俺が仕留める』「で、でも・・・」『いいから下がれッ!!』『何を熱くなってやがるんだ。お前もアルトとヴァイスの手強さはイヤってほど分かってんだろ?』Mk-Ⅲとアクセル、二人の因縁は別世界においても切れぬ間柄なのかもしれない。かつて、自分が元居た世界において、彼は苦難の末に宿敵と呼ばれたこの機体とパイロットを倒す事に成功した事など武は知る由も無い。いつの間にか心の奥底に眠っていた筈の感情が、なんとも言いがたいものとなって込み上げて来ているのだ。そんな彼の感情が、無意識の内に表情や態度に出てしまっていたのであろう。その事に気付いたアクセルは、気持ちを切り替え、冷静さを取り戻す事に成功する。『別に冷静さを欠いている訳ではない・・・あの二機とW12、そしてゲシュペンストに戦術機をまとめて相手にするのは危険だと判断した結果だ。恐らくW12は、無人機の制御に手一杯で自分からこちらに仕掛けてくることは無い。そして、あの中で群を抜いて強力な機体はあの二機だ。プラーナとやらを温存せねばならん貴様や、特機に関しては素人同然の白銀が相手をするには分が悪すぎる・・・俺が奴ら二機を引き付けている間に、貴様らは周囲のザコと指揮官機を破壊してくれ・・・頼む』意外だった―――あのアクセルが自分たちに対して頼みごとをしているのだ。これには武やマサキも驚きを隠せないでいたのは言うまでも無い。それもそうだろう、普段の彼を知っているものならばこの様な態度に出る彼を見たことがある者などそうそういないのだ。非常に珍しい光景であると共に、これは彼自身の本音なのだと気付かされる。『お前が俺達に頼みごとをするなんてな・・・こりゃ明日は槍でも降るんじゃねぇか?』「茶化すなよマサキ・・・そういう事なら了解しました中尉。中尉はMk-ⅢとⅣを、俺とマサキは他をやります」『スマンな・・・恩に着る』『んじゃ、行くぜタケル!俺が仕掛けるからお前は援護を頼むぜ』「了解っ!」ディスカッターを片手に群がるF-23Aの部隊へと跳躍を開始するマサキ。その後方を覚束無い足取りではありながらも武が続く―――「敵機補足、距離算出、データロード・・・いっけぇ!ドリル・ブーストナックル!!」参式の両腕に装備されたドリル・ブーストナックルが轟音と共に発射される。まるで大きな渦の様なうねりを上げながら敵に向けて飛んでいくそれは、例え当たらずとも十分な威圧効果があるだろう。武は初めから自分の攻撃が当たるとは考えていない。あくまで自分は牽制に徹しようとしているのだ。相手の陣形を崩し、そこをマサキに仕留めてもらう。満足に機体を扱えない彼自身が現状でできる事を考えた上での戦法だった。『相手の陣形が崩れた・・・たのんだぜ、クロ、シロ!』『おいら達に任せときニャって!』『行くニャ、シロ!』魔装機神共通の武装であるハイファミリア。使い魔であるクロとシロが融合し、標的の近くまで飛翔した後、不規則に動きつつ光弾を発射する兵器だ。鳥の様な形状をしているが、縦横無尽に駆け回るそれはまるで自由気ままに動く猫のようにも思える。そして、その不規則な動きはそう簡単に捕らえられるものではなく、武の牽制によって孤立した敵機を次々と撃ち落していった。『へへん、ざっとこんなもんだぜ』『やったのはあたし達ニャんだけど・・・』敵は孤立していては各個撃破されると判断したためか、何機かで小隊を組んで行動を開始する。だが、それこそがマサキの狙いであった。『行け、タケルっ!!』「了解!チャージ完了・・・オメガ・ブラスター、発射!!」参式の胸部装甲から放たれた光の渦に次々と巻き込まれていく敵機。何とか回避した機体も存在していたが、熱線の余波に巻き込まれ無傷というわけにはいかなかった様だ。『やるじゃねえか』「まぐれだよ、まぐれ」『へぇ~ちょっと意外だニャ』『何がだよ?』『マサキと一緒でおだてれば調子に乗るタイプだと思ってたニャ』「マサキはおだてると調子に乗るタイプなのか・・・やっぱり見た目どおりのキャラなんだな」『グッ・・・後で覚えてろよ』「悪い悪い、この調子で一気に片付けよう。俺も少しずつだけど感覚が掴めてきたしな」『よし、行くぜ!!』「おうっ!」武とマサキの二人は順調に敵機を破壊していく。一方、アクセルはというと―――『奴らを追い詰めろ、ソードブレイカー!』W12が後方にいるおかげで二対一とはいえ、アクセルの相手をしているのはあちら側のアルトとヴァイス。普通に戦っていては埒が明かないと判断した彼は、自動誘導兵器であるソードブレイカーを射出する。『さあ、行けいっ!』ソードブレイカーは、レーザーによるオールレンジ攻撃だけでなく、敵機に直接ぶつけて攻撃する事も考慮された設計である。両肩に合わせて6機装備されたそれは、この機体を象徴する装備だと言っても過言ではないだろう。不規則な動きをするハイファミリアと比べれば分が悪いかもしれないが、一対多の戦闘や相手の死角から攻撃する事が可能というこの兵器は、かなり有効な武装といえる。『残念ですが、この子達にそれは通用しませんよ』不敵な笑みを浮かべながらコンソールを操作するW12。彼女の言ったとおり、アクセルの放ったソードブレイカーは次々と回避され、それどころか相手に反撃を与える隙を作ってしまう。『っ!!だが、当たってはやれん!』Mk-Ⅳによる遠距離からの砲撃を回避しつつ、接近してくるMk-Ⅲに対してガン・レイピアを放つアクセル。だが、それらの攻撃も紙一重で回避され、有巧打を与えられない。『残念ですが隊長、貴方には万に一つも勝ち目はありません』『そんな事はやってみなければわからん』『やれやれ・・・人という存在は、やはり理解しかねますね。この子達にはアシュセイヴァーのスペック、そして貴方の戦闘時におけるモーションパターンの全てをインプットしてあります。手の内がばれていると言うのに何故貴方はこの期に及んで勝てると言い切れるのでしょうね』『言いたい事はそれだけか・・・さっきも言った筈だ、人形風情が俺をなめるなよ、と』『負け惜しみですか?まったく、貴方も地に落ちたもので・・・っ!!何!?』『チッ、やはり距離とタイムラグの関係で直撃は無理か』『な、何をやったのです?』『たいした事じゃあない。ハルバート・ランチャーを前もって貴様らの死角に配置し、時間差で発射しただけだ・・・もっとも失敗に終わったがな』『なるほど・・・どうやら考えを改めねばならないようですね』再び不敵な笑みを浮かべつつコンソールを操作する彼女。その間にも敵の攻撃は止む事を知らず、Mk-Ⅳが牽制しMk-Ⅲが近接戦闘を挑んでくる。次々とMk-Ⅳのパルチザン・ランチャーから銃弾とビームが発射され、その間隙を縫うようにMk-Ⅲの5連チェーンガンとレイヤード・クレイモアが放たれる―――『さあ、御行きなさい。私の可愛い人形達!』それらを何とか回避したアクセルは、続け様に上空からのダレイズ・ホーンをレーザーブレードで受け止める。『押しが足りん!』ダレイズ・ホーンを防がれたMk-Ⅲは、そのまま右腕に装備されたリボルビング・ブレイカーでアクセルを攻撃しようとするが、それを読んだ彼は寸でのところで後方へ跳躍し、それを回避する。だが、それは囮だった―――着地の瞬間、アシュセイバーの右足にパルチザン・ランチャーのストック部分に装備されたコードを巻きつけられ体勢を崩してしまうアクセル。『クッ、しまった!!』『これで終わりです。アクセル隊長・・・っ!!』Mk-Ⅲ達の放ったランページ・スペクターを辛うじて回避することに成功したアクセルであったが、完全に体勢を崩されてしまい直ぐには立て直す事が出来ない。W12は好機と判断し、他の二機を下がらせ、自分自身が止めを刺すべく一気に距離を詰める―――シザースナイフを右手に構えながらこちらに向けて突進してくるラーズアングリフ。『やられる!?』W12がアクセルのアシュセイヴァーに止めを刺そうとしたその時、二人の間に割って入る一筋の光―――敵機からの援護だと考えた彼女は、一先ず後方へと距離を取る。『逃がさんっ!!』『何っ!?』通信機越しに男の低い声が聞こえたかと思うと、彼女の機体に鈍い衝撃が走る。幸いな事に装甲を掠めた程度で済んだ事を確認した彼女の目の前に先程の赤い機体が再び飛び込んできた。寸でのところで相手の攻撃を回避した彼女は、スラスターを吹かし、更に後方へと距離を取り相手を見据える―――『Mk-Ⅲのカスタムタイプ・・・ベーオウルフか!?』『生憎だが俺はそんな名前じゃない・・・大丈夫かアシュセイヴァーのパイロット』『余計な事をしてくれるな・・・キョウスケ・ナンブ』『アクセルか?どうして貴様がここに居る?』『そんな事はどうでもいい・・・邪魔をするな、こいつは俺がやる!』『さっきまでピンチだったのはどこの誰かしらん?多勢に無勢ってのはフェアじゃ無い、ここはひとつ協力すべきだと思うわよ?』そう言いながらキョウスケの横に並び立つエクセレンとヴァイスリッター。『貴様もいたか、エクセレン・ブロウニング』『あら、助けてあげたってのに何よその言い草は』『助けてくれなどと頼んだ覚えは無い、これがな』『素直じゃないわねぇ・・・それにしても、アレってヴァイスちゃんよねぇ?何でこんな所にあの子が居る訳?』『エクセ姉さま、アレは恐らくプラン上存在していたゲシュペンストMk-Ⅳだと思われます。言うなれば我々が元居た世界のヴァイスリッターと言ったところで御座いますでしょうか』二人に遅れる事少し、後続のラミアが敵機を牽制しつつ彼らに合流する。『説明役ご苦労様ラミアちゃん。という事は、あの子は私のヴァイスちゃんの従姉妹みたいなもんね』『どういうことで御座いましょうか?』『だって、異世界のゲシュちゃんをベースに生み出された子なんでしょ?どの世界のゲシュちゃんも兄弟姉妹みたいなもんなんだし、その子の子供達同士=従姉妹ってワケ。解ってくれたかしら?』『お前の言っている事を当てはめると俺のアルトも従兄弟という事になるな』『そこ、野暮なツッコミを入れない・・・さて、どうするのキョウスケ?』『敵である以上、破壊するほかあるまい・・・多少気が引けるがな』『そうよねぇ・・・できればヴァイスちゃんを傷つけたくは無いんだけど、これも運命・・・恨まないでね異世界のヴァイスちゃん』『勝手に話を進めるな。あのMk-Ⅲは俺がやると言った筈だ』『譲ってやりたいのは山々だが、俺も異世界のアルトには興味があってな。お前には悪いがここは譲れん』『隊長、隊長はまだあの男とあの機体に拘ってらっしゃるのですか?』このときアクセルは、彼女の問いに対してハッとした。先程冷静さを欠いたつもりは無いと武達に言ったばかりだというのに、いつの間にやら熱くなっていたようだ。Mk-Ⅲとベーオウルフ、自分でも無意識のうちにこの二つが絡むと冷静さを欠いてしまうのだろう。人はそう簡単に過去を忘れる事は出来ない。だが、それに拘ってばかりいてもいけないのだ。それを気付かせてくれたラミアに感謝すると共に、彼は再び冷静さを取り戻していた。『・・・いいだろう、キョウスケ、今回だけは貴様に譲ってやる。後で泣き言を言うなよ?』『ぬかせ・・・アクセル、お前はラミアと共に指揮官機を頼む』『了解した。いくぞラミア!!』『了解』二人にMk-Ⅲ達を任せ、アクセルとラミアは後方へ下がったW12目指して行動を開始する。そしてキョウスケとエクセレンは、改めて眼前にて臨戦態勢を整えている二機に対し、自分達も戦闘準備に取り掛かる。『異世界のアルトとやる事になるとはな・・・だが、相手にとって不足は無い!』『わおっ、キョウスケってば意外と熱くなっちゃって・・・さ~て、私も行こうかしらね!』アルトVSアルト、ヴァイスVSヴァイスの戦いがここに幕を開ける。陰謀蠢く南の島での戦いは、更に激しさを増そうとしていた―――あとがき第35話です。南の島での脱出劇中編です。今回は戦闘をメインに考えた結果、このような話とさせていただいてます。Mk-Ⅳが登場した時点で気付いた方もいらっしゃったかも知れませんが、Mk-Ⅲことあちら側の世界のアルトを出してみました。ですが、そのまま出すと言うことには無理があると判断したので、設計図を元にMk-Ⅳ共々量産型のMk-Ⅱをベースに開発されたレプリカという設定にさせて頂いています。と言う訳で、無限のフロンティアのナハトとアーベントっぽくしてみたかったのでランページ・スペクターもどきの様な描写も入れています。さて、次回はアルトVSアルト、ヴァイスVSヴァイスの戦い&脱出劇後編を書きたいと思います。207訓練部隊のお話はもう少々お待ちくださいませ。この話が纏まり次第、同時間軸上で起こっていた話的な感じで書かせていただく予定です。それでは感想のほうお待ちしていますね^^