Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第39話 悠陽からの招待状キョウスケからの連絡を受けた夕呼は、一先ず彼らに帰還を命じ、今後の対策を講じようとしていた。先ず彼らが脱出してきた島についてのデータの収集をピアティフに命じ、調査部隊を再編成すると共に関係各所からの抗議などが来ていないかを確認する。その理由は、相手が米国軍の特殊部隊の可能性が高かったからである。いくら一方的にこちらが損害を受けたからとはいえ、相手の詳細が分からぬまま行動を起こした事による問題は、下手をすれば国際問題に発展しかねないのだ。最悪の場合、これが原因でオルタネイティヴⅣに影響が出る可能性もある。現在の所、ある一定の成果は出しているものの、相手は常にこちらの隙を虎視眈々と狙っている物達なのだ。例え多少の綻びであっても、付け入る隙としては十分な物になってしまう。無論、キョウスケ達を攻める事は出来ないし、かといって楽観視できる問題でもない。とりあえずは相手の出方を見てから判断せざるを得ないという状況がもどかしくて仕方が無かったが、できる限りの対策は講じておくべきだろうと彼女は考えていた。そして、それから約三日の時が流れる事となる―――「殿下からの招待状、ですか?」夕呼の執務室に呼び出された武は、状況がいまいち理解できていなかった。総戦技演習も無事終了し、訓練部隊の面々は次のカリキュラムへと駒を進めた事で、暫くは教官としての任務に突く予定だったのである。だが、今回の一件の事後処理を任されていたため訓練部隊への合流は暫く延期となってしまったのだ。そして鹵獲した参式やアシュセイヴァーは、現在90番格納庫で調査を行うと共に解析が行われており、昨日も夜遅くまでその手伝いをさせられていた。勿論キョウスケやエクセレンもそれに参加していたのだが、そこに何故自分が必要だったのかは分かっていない。何かしらの意味があっての事だとは思うが、如何せん夕呼の考える事だ。簡単に理解するのは難しいという物である。ようやくそれから開放され、本来ならば今日からまりもと共に彼女達の教官を務める事となっていたのだが、唐突に今朝になって夕呼に呼び出されたのだった。「そう・・・以前、BETAの襲撃があった際、改めて礼をしたいって言われてたでしょ?覚えてないの?」「ああ、そういえばそんな事言われてましたね・・・最近、バタバタしてたんですっかり忘れてましたよ」「まあ良いわ。今回アンタ達が呼ばれた理由は他にもあるのよ。今回の事件、何故か解らないけど帝国側にも情報が洩れていたみたいなのよねぇ・・・その事も含めた上で今後について話し合いをしたいって事なんだけど・・・白銀、アンタ何か隠してない?」彼女からは何やら殺気に似た物が感じられる。口調やしぐさはやんわりとした物だが、彼女の目はそうは言っていない。今回の一件を何故帝国側が知っているのか・・・その理由は『鎧衣 左近』の存在である。実を言うと武は、今回の一件であの場所に鎧衣が居た事を夕呼に伝えてない。その理由は、彼自身に口止めされたこともそうなのだが、余計な情報を彼女に与える事でまた何か悪巧みをされては困ると言ったキョウスケの意見を採用したのだ。余計な情報の中にはマサキ・アンドーとサイバスターの情報も含まれている。彼の存在もそうだが、サイバスターという機体は、明らかなオーバーテクノロジーで開発された物であり、そしてそれが持つシステムや情報などは下手をすればこの世界に更なる混乱を招いてしまう可能性が高かった。そこでキョウスケは、コウタ達やコンパチカイザーの時と同じく、悠陽を頼る事を思いついたのである。彼女の元で匿って貰えれば、たとえ夕呼といえどもそう易々とは手が出せない。いくらオルタネイティヴⅣの最高責任者とはいえ、実質、計画を推奨しある程度の権限を与えている悠陽の方が彼女よりも立場は上なのだ。下手に噛み付いてしまえば、いくら夕呼といえども手痛いしっぺ返しを食らう事となるのは明白。これには以前から危惧している、もしもの時の切り札的意味合いも含まれていた。「別に隠し事をしているつもりはありませんよ?提示すべき情報は報告書に記載したとおりですから」自分でも極めてポーカーフェイスを貫いたつもりだった。だが、内心はヒヤヒヤ物である。あちらを立てればこちらが立たずとはよく言ったものだろう。キョウスケ達と夕呼の間に入る形となっている武にしてみれば、なるべくならば自分もこのようなことはしたくは無い。しかし、下手に情報を与えすぎてしまうという事は、相手に対し様々な面でメリットやデメリットを発生させてしまうという事を記憶にある以前の世界での出来事から嫌と言うほどに思い知らされているのだ。恐らく彼女には簡単に見破られてしまう事だろうが、その時はその時として考える事にする。だが、そんな夕呼から返って来たのは意外な台詞だった―――「・・・そう・・・まあ良いわ」「ところで先生は呼び出されていないんですか?」「お呼びが掛かっているのはアンタと南部の二人だけよ。A-01の存在はあまり公にできる物じゃないもの・・・一応向こうもこちら側の事に関して理解があるみたいね」「・・・解りました。それで、いつからなんです?」「明日よ」「随分と急な話ですね」「向こうの都合に合わせなきゃならないんだから仕方ないじゃない。文句があるなら殿下に直接言うのね。アタシからは以上よ。何か質問はあるかしら?」唐突に決まった今回の召集に関する話もそうだが、武には他にも気になることが一つあった。それは総戦技演習中、自分が一時的に拘束され、脱出した島の事である。その後、米国や他の国々、軍隊などから何らかの抗議があった訳ではないのだが、今後どうなるかは分からない。それ以上に気になっていることは、シャドウミラーと米軍の繋がりである。この一件で米国の特殊部隊の正体が、シャドウミラーの残党である事が明らかになった。アクセルの話では、自分が元居た世界から当初の予定にはないこの世界へと転移してしまった部隊だろうという話だったのだが、彼もそれ以上自分の口からは多くを語ろうとはしない。一応、報告書として夕呼に色々な情報を提出している筈だが、彼女が自分から話さないという事は、彼女自身もまだ自分の考えが纏まっていないという事だろう。そのような状態では、何かを聞いたところで納得の行く答えが返ってくるとは到底思えない。そこで武は、とりあえず現在調査が行われている島の事を聞いてみる事にした。「ラヴレスからの報告ではこれといった情報はあがって来てないわね。今のところ分かっているのは、何かの実験場だったという事ぐらいかしら?」「実験場ですか?」現在ラミアは、夕呼の指示で調査隊と共に現地に残っている。当初はアクセルと共に調査を命じられたのだが、彼の負傷は予想よりも酷く、暫くは安静にするようドクターから指示を受けたため、彼女が調査隊と共に任務に当たることとなったのである。元シャドウミラー所属だった事もあり、様々な面で安心して任せられると判断されたから事が主な理由だが、一番の理由は彼女ならば最悪の事態が起こったとしてもデータを持ち帰ってくれるだろうとアクセルが夕呼に進言したからであった。「ええ、データなどは完全に消去されててサルベージすることは不可能だったらしいわ。ご丁寧にある特定のコードを入力しないままデータベースにアクセスすると、それごと爆発するってトラップまで仕掛けてね・・・ちなみに今回起こった地震だけど、施設で行われていた実験が原因の可能性が出てきたわ」「それで、ラミア中尉達は無事だったんですか?」「安心なさい、何名かは負傷したみたいだけど、命に別状はないそうよ。それから無事だった区画からF-23AとPTやそれらの予備部品なんかも見つかったらしいわ」「使えるんですかそれ?」「ざっと見ただけで今はなんとも言えないけど、恐らく大丈夫じゃないかって言ってたわね。それとアンタ達が無力化した機体も含めて、それらを運び出させるために輸送機や車両なんかを手配しているわ。詳しい調査はあそこじゃ出来ないからね」「という事は、キョウスケ大尉達の機体修復の目処が立ったって事じゃないですか!」まるで自分の事のように喜ぶ武。それもそうだろう、今まで本来の力が出せなかったキョウスケ達の機体が、完全な力を取り戻す事が出来るのだ。そうなれば戦力アップに繋がるほか、任務の達成率や安全性なども飛躍的に上昇する可能性が高い。しかし、夕呼の口から告げられたのは厳しい現実だった。「残念だけど、そう簡単には行かないわね」「何でです・・・?」「補修部品が見つかっても、うちのスタッフはPTの専門家じゃないもの・・・完全に修復させるにはまだ時間が掛かるでしょうね。それまでは今の状態のまま機体を使ってもらうか、鹵獲したPTを使ってもらうしかないわね」「そういえば、大尉達の機体にそっくりなPTがありましたね」「強化前の機体とほぼ同じ物だと言ってたわ。若干損傷しているけど、それほど酷くはないみたいだし、問題なく使えるんじゃないかしら」前回の戦闘で、キョウスケのアルトアイゼンは予想以上のダメージを受けていた。左前腕が大破、関節部分の過負荷などが主な損傷箇所なのだが、これに関してはこれまでの無理がたたった結果だろう。特に関節部分の負荷による金属疲労は致命的とも言える。主兵装であるリボルビング・バンカーなどといった近接用の武器は、その用途や重量も相俟って腕の関節部分に掛かる負担は相当なものになるというのは誰にでも予想がつくというものだ。幸いな事に今回の一件で補修のための資材は手に入ったものの、修理するにはある程度の時間を要してしまう。そのため、急遽出撃などといった事になった場合には問題が生じてしまうほか、武が使っていた不知火の予備機とラミアの改型も大破してしまっているため、戦力低下は否めないのが現状なのである。「それにアンタとラヴレスが壊した機体の事もあるし・・・まったく、これ以上余計な仕事は増やさないで貰いたいものね・・・」「すみません・・・」「とりあえず、殿下からの書状を渡しておくから後でしっかりと目を通しておきなさい。ああ、それからもう一つあったわ」「・・・まだ何かあるんですか?」「たいした事じゃないわ。帝都に行くついでに軍工廠に行って訓練部隊用の機体を受け取ってきて欲しいのよ」「俺がですか?」「ええそうよ。今回、練習機を借り受けるにあたって帝国側には結構無理をお願いしたのよ。まあ、アタシの権限を使えばどうって事はないんだけど、流石にそうも行かないでしょ?だから、機体に関しては用意してもらえればこちらから受け取りに行くって言ったってワケ。丁度アンタが帝都に行くわけだし、仕事が一つ増える位問題はないでしょ?」「・・・分かりました。丁度いい機会なんで、元上司にでも会って来ますよ」「じゃ、そっちの方は頼んだわね・・・他に何か質問はある?」「いえ、特にありません・・・それじゃ失礼します」そう言って部屋を後にする武。彼は自室に戻る途中、改めて今回のことを考えていた。今後の事についての話し合いという事は、恐らく何かの対しての策を講じようとしているからなのだろう。何度も異世界からの転移者が現れている事で予想外の出来事が立て続けに起こっている。今現在の所、一番の問題になりうる転移者達はシャドウミラーだ。米軍と何らかの繋がりを持ち、陰で暗躍している彼らの行動は不気味以外の何ものでもない。アクセルやラミアの話では、彼らは永遠の闘争こそが文明を発展させるという考えの元に反乱を起こすも失敗し、空間跳躍装置で次元転移を行ったという事だ。そして、様々な勢力にスパイを送り込み、手を結んでは様々な戦争の引き金を引く切っ掛けを与えていたという。だが、彼らが言うには人類が滅ぼされようとしているのにも関わらず、その事を優先しようとするのはおかしいとの事だった。確かに言われてみればそうだろう。永遠の闘争を行う世界を作ろうとしても、世界そのものが無くなってしまっていては話にならないのだ。彼らの言い分はそれに巻き込まれてしまう一般人の事など考えていないという身勝手な思想ではあるが、理に適っていると言える部分もあるかも知れない。何故ならば、この世界はBETAと呼ばれる存在により、滅亡に瀕した事で軍事的な技術や医療技術などが急速に発展していった。結果として考えるならば、闘争によって文明が発展したと言っても差し支えは無いだろう。だが、それによって失われたものも数多く存在しているという事も事実。そして今もなお、世界中の至る所でBETAによる被害は増え続けているのだ。こういった現状ならば、まずBETAを駆逐する事を優先し、平和になった世界で事を起こす筈だとアクセル達は考えていたのである。「う~ん・・・考えていても全くわかんねえ・・・」一向にシャドウミラーの行動の意味を見出せない。元々考えるよりも先に体が動くタイプである彼にしてみれば、このような頭脳労働は管轄外なのだ。「止めよう・・・考えていても埒が明かないしな。とりあえず、部屋に戻るか―――」一人そう呟いて部屋に帰ろうとした矢先、突如として視界が真っ暗になる。『だ~れだ?』不意に聞こえてくる女性の声―――「え!?・・・だ、誰だ?」「酷いわねえ白銀・・・アンタがそんな薄情なヤツだったとは思わなかったわ~」「・・・その声は、速瀬中尉ですね?」「ピンポ~ン、正解!」「何か用ですか中尉?」そう言いながら振り返ると、そこには水月以外に遙も居た。基本的にこの二人は一緒に行動していることが多いため、それほど驚くべき事ではないのだが、その表情・・・特に水月の顔はなにやら不機嫌そうな様子だ。「久々に会ったって言うのに随分な物言いねえ白銀・・・」「い、いや、そんなつもりはありませんよ」「いーや、今の顔、それに口調・・・まるで私に会いたくないって感じがしたわ!」「勘弁してくださいよ中尉・・・あ、そういえば速瀬中尉、その後改型の調子はどうですか?」「話題をすり替えようったってそうは行かないわよ!!」「クッ、バレたか・・・」「ほほう・・・良い度胸ねえ。ちょっと今から私に付き合いなさい!」そう言って武の右腕を掴む水月。強引に引っ張られた彼の腕には何やら柔らかい感触が伝わってくる。「な、何でですか!?(ちょ、ちょっと待ってくれ中尉!確かにこの状況は嬉しいけど・・・)」そんな事などお構い無しにグイグイと彼の腕を引っ張る水月。勿論、武の右腕はそのままの態勢だ。「五月蠅い!四の五の言わずにアンタは私の言うとおりにすればいいの!言う事聞かないとブッ飛ばすわよ!?」「(ヤバイ・・・目が据わり始めてる・・・そ、それよりもこの腕を何とかしないと・・・こんな所エクセレン中尉にでも見つかったらまた何か言われるぞ)」「ちょ、ちょっと水月。白銀君も忙しいんだから、無理言っちゃ駄目だよ~」「遙は黙ってなさい!これは私と白銀の問題なの!!」「どういう問題なんですかぁ!」声を張り上げて反論する武。傍から見れば恋人同士の口論に見えなくもないが、生憎彼女とはそんな関係ではない。武から見た水月は、尊敬できる先輩の一人なのだ。今のところ、それ以上の関係になる予定もないしなる事も無いと彼は考えている。確かに武は、ここ数日彼女達と会っていなかった。同じ基地内に居ても、今の彼はヴァルキリーズに所属しているわけではないため、任務以外で顔を会わせる事は少ないのである。先程の自分の態度に非があった事は認めるしかないが、必要以上に絡まれる理由も無い。水月は助け舟を出してくれた遙を一蹴し、尚も食い下がらずに自分を連れて行こうとしている。彼女に付き合う以外に解放してもらえる手段は無いと悟った武は、仕方なくそうする事にしようとしたのだが―――「取り込み中のところ悪いが、ちょっと良いだろうか?」『「な、南部大尉!?」』突如として現れたキョウスケに対し、即座に敬礼をする水月と遙。釣られて武も彼に敬礼を行うと、この場に現れたのがエクセレンではなく彼だった事に安堵していた。間違いなく彼女だったらまたからかわれていたに違いないだろう。そんな彼らを他所に、徐に口を開いたキョウスケは、水月と遙の二人に自分が先約だと伝えるとその場を後にしようとする。「どうした?行くぞタケル」「あ、ハイッ!!・・・という訳なんで、すみません速瀬中尉に涼宮中尉。お話は今度またゆっくり聞かせてもらいますよ。それじゃ!」そういってその場を後にする武。一方的に武を連れて行かれてしまった水月は、遙に対し何やら不満をぶつけていた様だが、上官からの命令という事で仕方なくそれに従う事にしたのだろう。そんな中武は、意外な人物によって救いの手を差し伸べられた事に感謝しつつも、必死になって彼と何か約束事を取り付けていたかを思い出していた―――「助かりましたよキョウスケ大尉。ところで何か約束してましたっけ?」「いや、何やら困っているようだったんでな・・・それよりもタケル、副指令から話は聞いたか?」「ええ、明日の事・・・ですよね?」「ああ・・・丁度良い機会だ、明日帝都に赴いた際にコウタ達に向こうへ行ってもらおうと考えている」「その事なんですけど、ラミア中尉からの報告の件は聞きましたか?」「一応な・・・だが、完全に修復可能とは限らん。予備部品の事もそうだが、何よりも専門のスタッフが必要になると俺は考えている。俺達で何とかする方法も無い訳ではないが、細かな調整は難しいからな」「なるほど、コウタ達に頼んで技術者も連れてきてもらうんですね」「幸いな事に協力を頼もうと考えている人物は、様々なコネクションを有しているからな。恐らくその辺も問題なく確保してもらえると思うんだが・・・」「問題は、こっちに来てもらってからどうするか・・・ですね?」「そうだな・・・流石に横浜基地にこれ以上の厄介ごとを持ち込むわけにもいかん。だから俺はこの件を殿下に頼んでみようと考えている」「殿下にですか?」キョウスケの意外な提案に武は驚いていた。そんな彼の驚きを他所に、キョウスケはその理由を説明し始める。横浜基地は日本に在るとはいえ国連軍の基地だ。極端な話になってしまうが、夕呼がいくら第四計画の総責任者とはいえ、軍という立場上、どうしても上層部からの命令には逆らえない可能性がある。国連軍の母体が米国軍である以上、あまりに強大な力を彼女が保持していれば、情報の開示を迫られる可能性が高いのだ。下手をすれば第五計画への移行を盾に脅迫されるかもしれない可能性が出てきてしまう。彼女の性格を考えれば多少強引にでも拒否し通すかもしれないが、そうは行かない可能性も否定できないのである。事が起こってからでは、取れる対応策はかなり限られてしまう故にキョウスケは、この件を悠陽に頼むことを思いついたのである。「その点、殿下・・・いや、斯衛軍ならば一国家の、しかも将軍直属の軍隊。それなら諸外国から必要以上に詮索される心配も少ない・・・という事ですね?」「そういう事だ・・・俺達の存在をあまり公にするわけにもいかんからな。殿下ならば信用の置ける人物という点でも問題はないし、俺達の事も理解してくれている。副指令には申し訳ないが、彼女にこれ以上手札を見せるのは危険だというのが俺達の考えだ。無理にとは言わんが、お前も理解して欲しい・・・」正直な所、武は悩んでいた。確かにキョウスケが危惧している事も解る。彼らの駆るPTや特機と呼ばれる機体は、この世界の誰がどう見ても明らかに異質な存在だ。機体スペックや兵装、20m弱のサイズの機体ですら粒子兵器や重力を応用した防御システムなどを有しているこれらの物は、下手をすれば数十年、いや数百年先を行った技術だと言っても良いかもしれない。これらの技術が世界中に広まれば地球上から、如いては太陽系からBETAを一掃する事も不可能ではないだろう。だが、その後の事を考えてみてもらいたい。この太陽系からBETAを一掃できたとして、次はどうなるのか・・・戦後の事を考える者は多く存在するだろう。現に今も米国などは、その事を考えた上で様々な所で暗躍している。復興の兆しが見え始めた人類は、間違いなく領土や覇権争いといった物を始めてしまう可能性が高い。特にユーラシア大陸などは、極めてその確立が高いと考えられる。オリジナルハイヴの存在する喀什(カシュガル)を中心に、大陸の殆どはBETAによって焦土と化し、草木も育たない不毛な土地へとその姿を変えている。そして国境などといった物は、殆どその意味をなさないものとなっているだろう。その時に彼らがこの世界に持ち込んでしまった技術があればどうなってしまうか―――過ぎた力は新たな戦乱を呼ぶ・・・すなわち、今度は人と人の争いに繋がってしまうのである。ここ最近の夕呼の行動は、少々度が過ぎている部分がある事も否定できないが、彼女もまた不用意に情報を洩らすような人物で無い事は十分に理解しているつもりだ。では何故、彼女は情報が洩れても構わないような行動を取るのだろうか?考えられる理由は、彼女自身の計画遂行のための障害を排除する・・・事位しか思いつかないが、もしそうだとしてもキョウスケ達の情報を洩らす必要はないとしか考えられない。障害になりうる何かを釣り上げるための餌としては、彼らの情報は大きすぎるのだ。それこそ下手をすれば最悪の事態が訪れてしまう。全てに納得が行った訳ではないが、全てを否定するだけの理由も無い。そういった事から武は、一先ず彼の提案を呑む事にした。「・・・解りました。一応俺からも殿下に頼んでみますよ」「頼む。一国の主にこのような事を頼むのは、無礼だという事は重々承知しているが、俺達もなりふり構ってはいられん。流石にこの一件は、彼女の賛同が得られん限り実現は不可能だからな・・・」「ですけど、あまり期待しないで下さいね?」「それは解っているつもりだ。駄目な時はまた別の方法を考えれば良いだけの事だからな―――」その後昼食までの間、キョウスケと明日の打ち合わせを行った武は、予定よりも早く翌日の準備が終わったため、訓練部隊の方へと顔を出してみる事にした。「確か今日は、適性検査の日だったよな・・・」別に疚しい気持ちがあった訳ではない。今後、自分も彼女らの指導に当たる以上、空いた時間にはなるべく訓練部隊の方に顔を出すべきだと考えたのだ。それと彼には二つほど気になる事があった―――一つは207Bの戦術機適性だ。恐らく問題はないだろうが、もしも・・・という場合もある。訓練時のデータや総戦技演習に関するデータは、一応閲覧しているが、あくまでそれは数値上の物。実際にこの目で見ない事には信用できないのである。もう一つは霞の存在だ。先程夕呼の執務室へ赴いた際、彼女は居ない様子だった。隣の部屋かとも思ったのだが、例のシリンダーに入っていた脳髄は純夏のものでない以上、そこに居座る理由も考え難い。となれば考えられるのは、以前目撃した不可解な彼女の行動だ。その時の彼女の服装は、普段の黒を基調としたものではなく、訓練生と同じ格好だった。ここ数日、彼女には会ってなかったが、何故彼女がそのような格好でグラウンドをうろついていたのかも気になるし、その理由も依然として不明なままなのだから疑問に思うのも無理はないだろう。「とりあえず、冥夜達の様子を見に行ってみるか・・・」一人そう呟いた彼は、一先ず彼女らの元へと向かう事にした。そこで予想だにしない人物と遭遇する事になるとも知らずに―――あとがき第39話です。今回は総戦技演習終了後から訓練部隊戦術機編に繋がる間のお話です。更衣室イベントを期待していた皆様、その話は次回へと持ち越させていただきます。楽しみにされていた方々、本当に申し訳ありませんTT前回から言われておりましたマサキの処遇ですが、一時的にコウタ達と同じく悠陽預かりとさせて頂きました。当初は横浜に連れて帰ると言う考えだったのですが、流石にサイバスターを見た夕呼先生が何もしないわけないだろうという考えに至りこのような処置を取らせてもらってます。補修資材や機体に関してですが、これは色々と悩みました。当初はコウタたちに資材を運んでもらい、その後修復完了と言う流れにする予定だったのですが、それだと完全復活した彼らの機体を待ち望んでいる方々に申し訳ないと考えたのが主な理由です。暫くキョウスケとエクセレンには鹵獲したナハトとアーベントに乗ってもらう予定ですが、当初の予定よりも早い段階でアルトやヴァイスが一応の形として復活するとお考え下さい。無論、劇中でもキョウスケが語っているように、完全復活は細かな最終調整が行われた後と言う事になってしまいますが・・・そして鹵獲したF-23Aですが、横浜で解析終了後に自軍戦力に組み込む予定です。ただし、そのままという訳には行かないので、多少の仕様変更を行うつもりです。その辺の機体設定も考えていますので楽しみにお待ち下さい。次回は訓練部隊のお話(更衣室イベントとかw)と悠陽殿下との謁見その2をお送りする予定ですので楽しみにお待ち下さい。それでは感想の方お待ちしております^^追伸最近ふと思ったのですが、他の方のSSを読ませていただいていると、キャラ設定や機体設定などを見かける事があります。自分の小説も無駄に長くなりつつあるので、そういったものがあった方が良いのかと考えたりするのですが、いかがな物でしょうか?こちらの方でもご意見を求めたいと思いますのでよろしくお願いします。