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No.4008の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION (Muv-Luv オルタ&SRWOGクロスオーバー作品)[アルト](2013/01/21 20:25)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第0話 プロローグ[アルト](2008/08/28 21:08)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第1話 異世界からの来訪者[アルト](2008/08/29 21:41)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第2話 新たなる出会い・・・そして・・・[アルト](2008/08/31 20:44)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第3話 イレギュラー[アルト](2008/08/31 20:40)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第4話 再会[アルト](2008/09/16 23:44)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第5話 姉妹の絆[アルト](2008/09/04 01:33)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第6話 不協和音[アルト](2008/09/05 08:43)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第7話 過去、そして現在(いま)・・・[アルト](2008/09/07 08:55)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第8話 侵入者の影[アルト](2008/10/16 22:13)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第9話 抹消された戦術機(前編)[アルト](2008/09/12 22:09)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第10話 抹消された戦術機(後編)[アルト](2008/10/16 22:17)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第11話 戦乙女再び[アルト](2008/09/21 23:33)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第12話 白銀の力[アルト](2008/09/23 21:34)
[14] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第13話 激突!孤狼と白銀[アルト](2008/10/16 22:30)
[15] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第14話 失われし記憶[アルト](2008/10/16 22:41)
[16] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第15話 真実が明かされるとき[アルト](2008/10/18 23:16)
[17] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第16話 純夏の想い[アルト](2008/10/22 01:41)
[18] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第17話 拒絶[アルト](2008/10/24 01:19)
[19] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第18話 得られたモノ[アルト](2008/10/24 01:19)
[20] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第19話 とある日常の訓練風景[アルト](2010/10/05 18:39)
[21] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第20話 BETA侵攻[アルト](2008/10/28 21:51)
[22] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第21話 紅き機神来たりて・・・[アルト](2008/10/30 17:56)
[23] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第22話 覚醒[アルト](2008/11/01 01:04)
[24] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第23話 新たなる力[アルト](2008/11/06 00:09)
[25] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第24話 邂逅[アルト](2008/11/06 00:07)
[26] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第25話 忘れられぬ日々[アルト](2008/11/16 21:36)
[27] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第26話 立脚点[アルト](2008/11/16 21:35)
[28] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第27話 運命のあの日[アルト](2008/11/22 00:26)
[29] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第28話 蠢く陰謀[アルト](2008/12/06 21:15)
[30] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第29話 総戦技演習へ向けて[アルト](2008/12/07 00:13)
[31] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第30話 島を行く[アルト](2008/12/20 00:23)
[32] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第31話 動き出す影[アルト](2009/01/12 15:06)
[33] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第32話 南国の激闘[アルト](2009/01/12 23:27)
[34] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第33話 脱出[アルト](2009/02/02 21:19)
[35] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第34話 吹き荒れる熱風、疾風の如く[アルト](2009/03/13 00:46)
[36] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第35話 暴れまわる幽霊達[アルト](2009/03/13 00:45)
[37] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第36話 Dancing dolls[アルト](2009/03/19 22:21)
[38] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第37話 疑念[アルト](2009/04/06 23:14)
[39] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第38話 一時の休息、そして新たなる始まり[アルト](2009/04/09 22:43)
[40] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第39話 悠陽からの招待状[アルト](2009/04/29 20:43)
[41] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第40話 新たなる仲間[アルト](2009/05/04 17:07)
[42] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)[アルト](2009/05/18 22:58)
[43] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第42話 武神の産声[アルト](2009/06/10 23:09)
[44] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第43話 彼方への扉[アルト](2009/05/29 18:53)
[45] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第44話 白銀 武の受難[アルト](2009/06/10 23:29)
[46] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第45話 天元山での出会い(前編)[アルト](2009/08/03 18:37)
[47] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第46話 天元山での出会い(中編)[アルト](2009/08/04 00:13)
[48] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第47話 天元山での出会い(後編)[アルト](2009/08/31 01:05)
[49] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第48話 御守岩をぶった切れ!![アルト](2010/01/05 14:14)
[50] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第49話 迫り来る悪夢[アルト](2010/01/07 20:32)
[51] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第50話 数多の可能性[アルト](2010/01/10 23:19)
[52] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第51話 成すべきこと[アルト](2010/01/16 20:49)
[53] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第52話 護りたい背中[アルト](2010/01/31 21:06)
[54] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第53話 歪められた12.5事件[アルト](2010/01/27 22:43)
[55] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第54話 夕呼の企み[アルト](2010/01/31 21:03)
[56] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第55話 共に歩む尊き者よ[アルト](2010/02/04 00:28)
[57] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第56話 月が闇を照らすとき[アルト](2010/02/08 20:21)
[58] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第57話 シャドウミラー包囲網を突破せよ[アルト](2010/03/19 01:22)
[59] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第58話 合流(前編)[アルト](2010/05/02 22:47)
[60] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第59話 合流(後編)[アルト](2010/07/02 00:40)
[61] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第60話 偽りの仮面[アルト](2010/07/03 21:44)
[62] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第61話 DCの遺産[アルト](2010/08/01 22:10)
[63] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第62話 奪還作戦[アルト](2010/09/03 23:00)
[64] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第63話 究極の名を冠したモノ[アルト](2010/09/12 18:29)
[65] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第64話 ゲイム・システム[アルト](2010/10/02 23:51)
[66] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第65話 潰えし野望[アルト](2010/11/01 18:55)
[67] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第66話 開かれた次元の扉[アルト](2010/11/12 20:46)
[68] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第67話 新西暦と呼ばれる世界[アルト](2010/11/15 23:18)
[69] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第68話 導かれた悪意(前編)[アルト](2011/01/08 19:35)
[70] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第69話 導かれた悪意(後編)[アルト](2011/01/20 23:44)
[71] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第70話 因果律の番人[アルト](2011/02/02 21:30)
[75] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第71話 帰郷[アルト](2012/07/15 19:01)
[76] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第72話 A-01新生[アルト](2012/07/15 19:08)
[77] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第73話 明かされた出生の秘密[アルト](2012/11/05 11:54)
[78] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第74話 解隊式[アルト](2013/01/21 20:24)
[79] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第75話 ベーオウルブズ(前編)[アルト](2013/01/28 17:37)
[80] 本編登場機体設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2011/01/20 23:46)
[81] 本編登場キャラクター設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2010/01/27 22:49)
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[4008] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)
Name: アルト◆ceb42498 ID:f0f37b8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/18 22:58
Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION

第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)




前日の一件以来、武は未だ悩み続けていた―――
霞が何故自分達と共に戦う道を選んだのか?
そもそも彼女は、オルタネイティヴ計画の重要人物として夕呼の傍に居たのである。
本来ならば夕呼が彼女の言い分を素直に聞き入れるわけも無いだろう。
この世界の夕呼は、以前の世界とは違い、計画に必要な物は殆ど揃えている事で様々な分野に手を出している。
その良い例が悠陽から頼まれた新型機開発計画だ。
元々戦術機等といった物に大して関心を見せなかった彼女だったが、今回は色々と絡んでいる。
だからと言って霞の補佐が必要にならないとは限らないだろう。
基本的に彼女は、自分に利益が無いと判断すれば容赦なくそれを否定する人物だ。
という事は、今回の一件も何かしら彼女に対してメリットが存在するという事なのだろうか―――

「どうしたのですか白銀?先程から何やら難しい顔ばかりしているようですが・・・」

現在彼は、キョウスケと共に帝都へと赴いている。
そして今は、悠陽が開いてくれた御茶会の真っ最中。
彼女に話しかけられた事で彼は、次第に申し訳無さで頭が一杯になってきたのだった―――

「す、すみません殿下・・・少し考え事をしていたもので・・・」
「―――そうでしたか・・・てっきり私の点てた御茶が口に合わないのかと思っていたのですが・・・」
「い、いえ!そんな事はありません!!」

彼らに振舞われている茶は、無論合成品等ではなく、今の日本では滅多に手に入らない天然物だ。
余程の事が無い限り普通に煎れたとしても不味い訳は無い。
ちなみに出されている和菓子も合成品ではなく、この日のために悠陽が用意させた物である。

「白銀よ・・・そんな顔をしていては、折角殿下が用意してくださった御厚意の数々を無碍にする行為だととられても否定は出来んぞ?一体何を悩んでいるのか解らんが、今はこの場を楽しむべきだろう・・・違うか?」
「申し訳ありません紅蓮閣下・・・」
「うむ、解れば良いのだ・・・して、どういった悩み事なのだ?良ければこの紅蓮 醍三郎、貴公の相談に乗ろうではないか」
「・・・お心遣い感謝します。ですが、これは自分自身で解決せねばならぬ悩みですので・・・」
「そうか・・・」

一瞬、重苦しい空気が流れかけるが、その後は冗談などを交えながら茶会は進んでいく―――

「ところで殿下、コウタ達は今どちらに?」

丁度会話が途切れた頃合を見計らい、キョウスケが自分の目的を果たすべく口を開いた。
自分が今日この場に来た理由は、悠陽からの招待とコウタ達に今後の事を伝えるためである。
てっきりこの場に彼らも同席するのだろうと考えていたのだが、一向に現れる気配の無いまま今に至っているという訳だった。

「かの者達にはこの帝都城より少し離れた場所に滞在していただいています。勿論、皆無事ですので大丈夫ですよ」
「そうですか・・・彼らに今後の事を伝えたいのですが、出来ればその場所を教えていただけませんか?」
「その事ならば問題は無いぞ南部大尉。丁度この後、視察を兼ねてそなた達にもついて来て貰うつもりだったからな」
「解りました・・・」
「そろそろ準備も整っている頃合でしょう・・・真耶さん?」
『ハッ・・・こちらに』

茶室の外から聞こえてくる女性の声―――
『月詠 真耶』
日本帝国斯衛軍に所属する忠義に篤い冷徹な武人で、悠陽に仕える人物の一人だ。

「準備の方は出来ていますか?」
『はい、問題は有りません』
「分かりました・・・それでは参るとしましょう」


その場に居た者達は部屋を後にすると、帝都城の奥深くへと案内されていた―――

「―――ここは?」
「知らぬのも無理はあるまい・・・ここは緊急事態を想定して建造された脱出用地下鉄道のホームだ」
「(・・・確か12.5事件の際に殿下が塔ヶ島城への脱出に使ったヤツだな)・・・という事は、コウタ達は国内の離城のどこかに居るという事ですか?」
「確かにここは日本各地に点在する離城へと繋がっています。ですが、これから向かう先はそれとはまた別の場所なのです」
「別の場所ですか?」
「ええ・・・白銀、高天原(たかまがはら)の事は知っていますね?」
「確か、東京湾上に建設中の人工島区画ですよね?難民収容施設だと聞いていますが・・・」

高天原・・・数年前から東京湾上に建設されていた人工島区画の名称で、BETA関東侵攻の際に危険と判断された事で開発は一時中断され、明星作戦終了後に開発が再開された施設だ。
メガフロート構造を採用しているのが特徴で、その規模は東京湾の約五分の一程度を占めている。

「そこでは斯衛軍と横浜基地が主体となった極秘計画が進められているのです」
「極秘計画・・・ですか?」
「そなたが知らぬのも無理はありません。これは極一部の者のみが知る日本独自の計画なのですから」
「・・・その様な事、タケルは兎も角として自分にも聞かせてしまって良かったのでしょうか?」
「そなたならば信用に値する人物だと思ってのことですよ南部大尉」
「吾妻や安藤達も高天原に居るのだ。そなたに秘密にする必要もあるまいて」
「なるほど、そういう事でしたか。お心遣い感謝します」

それから約半時間後、武達は悠陽に案内され高天原へとやってきていた―――
メガフロートの名称自体は聞いていた事があった武であったが、到着してみて改めて思い知らされる。
施設内部は想像以上に巨大で、桁違いの規模を誇っていたのだ。
海上に浮かぶ人工島と呼ばれているが、本当に人工物なのかと思わされるほどに自然も多く、そして海上に設置されているというのに揺れも少ない。
メガフロートの構造は、直方体形状の浮体ブロックを大量に生産し、つなぎ合わせて大型化したのち、固定した杭などに係留したものとなっている。
各ブロックは主に造船所で建設されて建造現場へ曳航され、海洋上にて接合される事から、彼は一種の船の様なものだと考えていたのだ。
その考え方はあながち間違いではないが、メガフロートは最終的には固定されるため、移動することが出来ない点で厳密には船舶とは異なる。

「凄いですね・・・本当に人工施設なんですか?」
「驚くのも無理は無いでしょう。ここはBETAによって住む所を奪われた者達の避難施設も兼ねて開発が再開されたのです。なるべく民に辛い思いをさせぬよう努めてはいるのですが・・・」
「そんな事はありませんぞ殿下。ここに居る者達は、皆殿下の御心を理解している者ばかりです・・・それが証拠に皆が自分に出来る事はないかと率先して強力を申し出てくれているからこそここまで短期間にこの場所が復興できたのですから」
「―――ですが衣食住の全てをまかなえている訳ではありません。民に辛い思いをさせてしまっている事は事実なのですから・・・」

確かに彼女の言うとおり、今の日本は衣食住の全てをまかなえている訳ではない。
いや、一部を除いた世界中の殆どの国がそうだと言っても良いだろう。
特にBETAによって焦土と変えられた地域は、住む所もままならない状態だ。
そこで高天原再開発の際、この土地の一部を避難民の居住区画とする計画が持ち上がったのである。
そしてそれとは別にこの人工島区画では元々進められていた極秘計画が存在していた―――

通称、天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)。

オルタネイティヴ第四計画と並行して進められている日本独自の計画で、オリジナルハイヴ攻略ならびにBETA殲滅のほかに、地球の環境再生を目的としている。
メガフロートの地下に食料などの生産用プラント、ならびに汚染された土壌などの再生を行うための施設が建造されており、プラントで生産されているものは合成品が殆どだが、再生施設での実験が成功すれば、再び合成品でない食料の自給自足が行えるようになるだろうと考えられている。
だが解決できない問題はまだまだ山積みであり、それが原因となって避難民に辛い思いをさせていることも事実―――
武はそんな状況とは知らずに先程自分達に振舞われた合成品ではない茶や菓子を喜んで堪能していた自分を責めていた。
難民達の殆どは、食事もままならない状況が続いているというのにもかかわらず、自分達軍に属する者達は衣食住の全てをまかなえているのだ。
その幾分かをまわす事が出来れば、苦しむ難民の多くを救えるかもしれない。
きっと悠陽も同じ様な気持ちなのだろう。
だがそれと同時にこの様な計画ならば、賛同してくれる国々も多く存在のではないかという考えが浮かんでくる。
やはり一番の問題はやはり資金面だ。
それに人的資源なども必要になってくる。
そういった面を考慮して考えるならば諸外国に助けを求めても良いのではないのだろうか?
何故そこまで極秘にする必要があるのかという疑問が浮かんでくる。
それを悠陽に問い質そうとしたのだが、即座にその考えは吹き飛ぶ事となる―――
それはここが単なる避難施設や実験施設ではないからだ。
当初建造されていた高天原は、対BETA用の軍事施設だった。
実験施設や難民収容施設は、悪く言えば元々の計画自体に組み込まれる形となったものに過ぎない。
そして、それらに並行する形でこの施設内では、対BETA用の兵器なども建造されているのである。
極秘に進めている計画である以上、情報の漏洩は極力避けねばならないのだ。
特に米国などにこの施設の本来の姿が見つかってしまえば、それこそこの施設を自国の戦力として取り込むために躍起になる可能性が高い。
元々避難施設や実験施設の建造を提案したのは悠陽で、指定した場所はここではない別の場所だった。
彼女が政府に提案を持ちかけたのは、明星作戦終了後間もない頃。
しかし。当時の日本には新たにその様な施設を用意する余裕も無く、また提供できる土地も直ぐに用意することは不可能に近かったのである。
協議の末、計画が廃案になろうとしていたその時、五摂家に属する崇司(たかつかさ)家の当主が、開発の再開されたこの場所を提示した事で政府もこれを承諾する形となったのだった。

「ですがあの時、崇司殿がこの場を利用する事を提案して下さらなければ全ては水泡に帰していたのです。確かに皆には不自由を掛けていますが、生きてさえいればなんとでもなります・・・」

そう言った紅蓮の表情は重く、そして暗いものだった。
彼とて辛い思いをしているのだろう。

「―――殿下、それに紅蓮閣下、その様な顔をしないで下さい・・・お二人がその様な顔をなさっていては民にも不安を与えてしまいます」
「南部大尉・・・そうですね、そなたの言う通りかもしれません」
「自分に出来る事は少ないかもしれませんが、何か力になれる事は無いでしょうか?」
「自分もです殿下・・・今は国連軍に籍を置いていますが、元は帝国の軍人です。生まれ育ったこの国の惨状をこのままにしておく事は出来ないと考えています」
「・・・ありがとう二人とも、そなた達に多大なる感謝を」

二人に対して頭を下げる悠陽。
その様子から、彼女は本当に二人に感謝しているのだということが見て取れる。

「あ、頭を上げてください殿下!俺達は当たり前の事を言ったまでです。そんなお礼を言われるような事は何も・・・」
「ワシからも礼を言わせてくれ・・・悲しい話、今の帝国内にはそなた達の様に民の事を重んじてくれる者は、ほんの一握りしか居らんのだ・・・何とかせねばならんと考えてはいるのだがな・・・」

確かに彼の言うとおり、今の帝国内・・・特に政府高官達の殆どが行っている政策は、率先して民の事を考えているものだとは言い切れないだろう。
やはりどの国もそういった点では様々な問題を抱えているのだ。
中には民のためと言いながらも自分達の事を優先している者が居るというのも事実。
その様な輩が存在しているからこそ、真摯に民の事を考えている者達が怒りを露にし、行動を起こそうとしてしまうのも仕方のない事なのかも知れない。
しかしその結果、巻き込まれずに済んだ者が命を落としてしまう事になる事は明白。
それを阻止せんがために悠陽達は、難民達を助けようと日々考えを巡らせているのだが、中々想う様に事が進まないのである。

「申し訳ありませんが殿下、そろそろ会議のお時間です。お二人は私めがご案内しますゆえお急ぎ下さい」
「もうそんな時間でしたか・・・二人とも、申し訳ありませんが、私はこれで失礼させていただきます。それでは真耶さん、後は頼みましたよ」
「お任せ下さい」
「では、また後ほど・・・そうそう、白銀に伝えておく事がありました」
「何でしょうか?」
「会議が終わった後、そなたに話しがあります。後で私の部屋まで来て頂けますか?」
「はい」
「終わり次第使いの者を出しますので、それまではゆっくりすると良いでしょう。では・・・」

悠陽と紅蓮の両名は、会議に出席するためにその場を後にする。
それを見送った後、二人は真耶に連れられてコウタ達の下へと向かう事となった。

「申し送れました。帝国斯衛軍大尉・月詠 真耶と申します」
「そう言えば自己紹介がまだでしたね・・・国連軍横浜基地所属・白銀 武大尉です。こちらは南部 響介大尉です。よろしくお願いします月詠大尉」
「よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ところで月詠大尉、個人的な質問なんですが、月詠中尉とはご家族か何かですか?」
「真那の事でしょうか?でしたら彼女は私の従姉妹に当たります・・・それが何か?」
「いえ、日頃から月詠中尉にはお世話になっているものですから、ご家族の方ならばお礼をと思いまして」
「そうでしたか・・・」

在り来たりな世辞だが、こういう場合にはこう答えるしかないだろう。
真那の時も思った事だが、この一族はこうも硬い人物ばかりなのかと改めて思い知らされる。
先程の挨拶や真那との関係を答えるにしても彼女は、大して表情も変えず、淡々とした口調で返してくるだけだ。
帝国軍人、なかでも斯衛に所属している者達は、皆この様な人物ばかりなのだろうかと考えると、正直紅蓮からの誘いを断って正解だったかもしれないという気持ちになってくる。

「(剛田のヤツ苦労してるんだろうなぁ・・・)」
「それではご案内しますのでついて来て頂けますか?」
「あ、はい・・・(う~ん・・・月詠中尉とはまた違ったタイプみたいだな。かなり厳しそうな人物っぽいし、黙ってついて行く事にするか・・・)」

それから数分後、彼らは厳重に警備された扉を何度も潜り、目的地である部屋へと案内される事となった。
部屋の中に入ると、コウタやショウコ、それにマサキ達が彼らの到着を待ちわびていた様子が見て取れる。
ちなみに真耶は、武達を部屋に案内し終えると、仕事があるという理由でその場を後にしていた。
簡単な挨拶が行われ、武とキョウスケは、全員の無事を確認すると用意されていた椅子へと腰を下ろし談笑を始める。

「ところでコウタ、それにマサキも・・・なんで斯衛の軍服なんか着てるんだ?」
「悠陽さんや紅蓮のオッサンの計らいでな。俺達の存在は何かと面倒ごとが多いからって、事情を知らない奴等に怪しまれねぇようにするための処置なんだとさ」
「もうお兄ちゃん!!悠陽殿下と紅蓮閣下でしょ!?」
「別に良いじゃねぇかよ。俺達はこの世界の人間じゃねえんだし・・・」
「コウタの言うとおりだな。別に本人達もそれで構わないって言ってるんだし良いじゃねえか」
「でも・・・」
『まったく・・・お前達は目上の人間を敬うという事を知らないのか?』
「うるせえよロア」
「ところでコウタ、そっちの女の子が前に言ってた妹さんか?」
「あ、ハイ。ショウコ・アズマです・・・え~っと・・・白銀 武さんでしたよね?」
「あれ?俺達って初対面だよな?」
「お兄ちゃんやマサキさん達に聞いてたんですよ」
「そうか・・・ところで怪我の方はもう大丈夫なのかい?」
「おかげさまでもう大丈夫です」

それから暫くして、今後のための話し合いが行われ、意見が纏まった時点でコウタ達アズマ兄妹は準備のためにと部屋を後にする。
キョウスケとマサキは何やら話があると言う事だったので、武はその間に自分の用件を済ます事にし、その旨を伝えた上で彼もまた部屋を後にしていた―――


・・・高天原工廠ブロック・・・

武は一人高天原工廠ブロックへと足を運んでいた。
その理由は、元上官である帝国陸軍中佐・巌谷 榮二に会うためである。

「ご無沙汰してます巌谷中佐」
「おお、白銀じゃないか・・・何時帝都に戻ってきたんだ?」
「殿下に謁見するために今朝到着した所です。工廠の方に問い合わせたら、中佐はこちらだと窺ったのでご挨拶をと思ったんですよ」
「そうか、元気そうで何よりだ」
「中佐の方こそ御変わり無さそうで・・・そういえばアラスカの篁中尉は元気ですか?」
「ああ、色々と問題も多いようだがな」
「でも篁中尉なら大丈夫でしょう。あの人なら問題は無いと踏んだから中佐も彼女を推薦したんでしょう?」
「まあな・・・ところで白銀、時間の方は大丈夫か?」
「ええ、この後、殿下に呼ばれているんですが、会議が長引いているようなんで問題はありませんよ」
「そうか・・・丁度いい機会だ。貴様に面白い物を見せてやろう」
「面白いもの・・・ですか?」
「ああ、現在開発中の新型機でな。詳しい事は向こうで話すとしよう」
「解りました」

武は巌谷に案内され、工廠ブロックの奥深くにある第七ハンガーへと足を運ぶ事になった。
薄気味悪いほどの静寂に包まれた第七ハンガーでは、一機の戦術機が調整を受けていたのだが―――

「こ、この機体は!?」
「お前も聞いた事ぐらいはあるだろう?試作型第三世代型戦術機・武御那神斬(たけみなかた)だよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!?確かあの機体は、武御雷の姉妹機として建造されてたけど実験中の事故が原因で施設もろとも吹き飛んだって聞いてますよ?」
『ああ、そうだよ・・・あの横浜の牝狐のせいでな!!』

声のした方へと振り返ると、そこには見慣れぬ一人の衛士が強化装備をまとった状態でこちらを見ていた。
いや、見ているなどというほど生易しいものではない―――
睨む・・・とまではいかないものの、その目は鋭い眼光を発し、なにやら殺気に近いものを感じさせる。

「白波中尉・・・客人の前だぞ!?」
「申し訳ありません中佐・・・ですが、本当の事を言ったまでです」

初対面の人間を前にしての物言いだとは思えない彼の発言に少々戸惑う武。

「巌谷中佐、彼は?」
「白波 耕平中尉だ。今俺が受け持っているプロジェクトの開発衛士を担当してもらっている。いわばお前の後任だな」
「なるほど・・・始めまして、極東方面軍国連横浜基地所属・白銀 武特務大尉です」
「・・・」
「どうした白波!?挨拶をせんか!!」
「・・・帝国斯衛軍中尉・白波 耕平です。すみませんが、自分は仕事が残っていますのでこれで失礼させていただきます」

そう言うと彼は、敬礼も程々にその場を後にしていた。

「・・・なんか俺不味い事言いましたかね?」
「いや、お前さんは悪くはないよ・・・値は良い奴なんだが、時折帝国内の施設に国連軍の人間が居るとああいう態度を取っちまうんだよ」
「国連軍嫌いってヤツですか?」
「嫌いと言うよりは、むしろ憎んでいると言った方が良いかも知れんな・・・奴の両親は元帝国軍人でな、今の貴様のように国連へ出向した際に起こった事故で死んじまったんだよ・・・お前も知ってる武御那神斬の機動実験でな」
「―――そうだったんですか・・・でも、さっきの口調からすると、国連を憎んでいるって言うより、夕呼せ・・・香月副司令をって感じがしたんですが」
「ああ・・・あまり公になってはいないが、武御那神斬開発計画には彼女も参加していてな。その際の生存者は彼女一人だと聞いている」
「まさか、彼は副司令令が事故を仕組んだと考えているんですか?」
「それは解らん・・・ただ、事故の一報を聞いた二人が、事故現場でなにやら一悶着あったらしいという事位しか解らんのだよ」
「なるほど・・・(どうせ先生の事だ、彼をいたずらに刺激するような事でも言っちまったんだろうな・・・)・・・中佐」
「どうした?」
「ちょっと彼と話してきますよ。なんか俺まで誤解されたままってのは居心地が悪いですしね」
「そうか・・・だが、気をつけろよ?」
「解ってますって」
「多分、この先のB-32区画に居る筈だ。基本的にうちのスタッフ以外は立ち入り禁止だが、お前なら構わんだろう。話を通しておいてやるから見学がてら行って来い」
「ありがとうございます」


・・・B-32区画・・・

ここは現在巌谷が引き受けているプロジェクト専用に用意された場所だ。
通称、天岩戸と呼ばれるこの区画は、他のどの場所よりも厳重に警備が施されており、すれ違う兵士や整備班の人間は、その殆どが武の事を警戒している様子が見て取れる。
そんな中彼は、あまり長居は出来ないと判断したのか、急いで耕平を探す事にした。
幸いな事に強化装備姿の衛士は殆ど見られず、彼を発見するのに然程時間は要さなかったのは運が良かったからだろう。
早速彼の元へと向かい、話しかける武―――

「白波中尉」
「・・・何ですか白銀大尉?自分は今仕事中なんですが・・・」

明らかに不機嫌そうな表情を浮かべながら答える耕平。
だが、武も引くつもりは毛頭無い。

「仕事を続けながらで構わないよ。ちょっと機体の見学をさせてもらおうと思ってね」
「部外者は立ち入りを禁じられている筈ですが?」
「巌谷中佐から許可は貰ってるよ。それに俺は元々この開発部隊の衛士なんだぜ?」
「なるほど・・・でも、今は国連軍の衛士なんでしょう?」
「ああ、副司令の下で新型機開発の手伝いをしているよ」
「確か不知火改型・・・でしたね」
「良く知ってるな」
「データを見せて貰いましたから・・・ですが、俺の刃皇には到底及ばない機体ですね」

その物言いに多少の怒りを覚えた武だったが、なんとかそれをこらえる事に成功し、会話を続けることにする。

「刃皇って言うのかこの機体・・・武御雷と同じ近接戦闘を主眼に置いた機体に見えるけど、やっぱり接近戦用の機体なのか?」
「詳しくは話せませんが、武御雷をベースに新規概念で開発されたパーツを組み込んだ機体ですよ」
「へぇ~・・・開発コンセプトは改型とよく似てるんだな」
「あんな紛い物と一緒にしないで貰いたいですね・・・」

事ある毎に何かと突っ掛かる様な物言いで切り替えす耕平。
流石の武もそろそろ限界が近いようだ。

「どういう事だ?」
「・・・開発衛士を努めている割には何も知らされていないんですね・・・あの機体は試作型武御雷の余剰パーツを組み込む事で性能の底上げを図ると同時に、今後の機体開発のためのテストベッドなんですよ。いわば武御雷の劣化品といった所ですね」
「劣化品とは言ってくれるな中尉・・・」
「本当の事でしょう?性能にバラつきが出ているのが何よりの証拠じゃないですか・・・いくらリミッターを掛けて安定化を図ったところで武御雷の性能を超えることは不可能ですよ。所詮は横浜の牝狐の浅知恵・・・いや、悪あがきかな?」
「・・・」

何故初対面の人間にここまで言われなければならないのだろうか?
確かにこの男は夕呼に対してかなりの恨みを持っている様だというのはこの会話からも解る。
そして、彼女と関わりのある人間に対してもという事も―――

「もう宜しいですか?」
「ああ、すまない。時間を取らせちまったな」
「別に構いませんよ・・・」
「中尉・・・一つだけ言っておく。君と副司令の間に何があったのかは知らないが、言いたい事があるなら自分で彼女に伝えるんだな。言いたい事も言わずに陰でコソコソとそんな事ばかりやっていては事態は何も好転しないぞ?・・・それじゃあな」

これ以上ここに居ても事態は好転しないと踏んだ武は、誤解を解くどころかますます険悪なムードになってしまった事に後悔しつつその場を後にする。
その後、巌谷の下へと戻った彼は、機体の受領のための打ち合わせを行っていたのだが、そこで思わぬ問題に直面する事になった。
本来ならば6機の吹雪を受領する予定だったのだが、ブリット達C小隊の面々の機体と教導用の機体、合計で13機の機体が必要となっていたのだ。
しかし、現状で用意できる吹雪は10機が限界だったのである。
いくら練習用の機体とはいえ、他の訓練校が併設されている基地でも必要となっているほか、一部の部隊では実戦用に主機を換装した機体も配備されているため、訓練兵用に回せる機体には限りがあるのだ。
更に言うならば、夕呼が指定してきたのはなるべく新造機を回して欲しいとの打診であったため、既に配備されている機体を回すわけにも行かず、この様な状況となっていたのだった。
そこで急遽、テスト用の機体として保管されていた試作型の第三世代戦術機・烈火に白羽の矢が立ったのである。
元々この機体は吹雪の兄弟機として設計されており、部品共有度も高いため吹雪と同じ主機に換装する事でほぼ同性能の機体として扱えるのではないかと言う意見が上がった事からこの機体を横浜に提供する事になったのだった。

「流石にこちら側も無理を言い過ぎましたからね・・・」
「貴様が使っていた壱号機と予備機として保管されていた参号機のコックピットブロックの換装を行わせた。これで壱号機を教導用の機体に回せば問題はないだろうと考えているんだが」

過去に武がテストを行っていた壱号機と違い、弐号機、参号機は予備機として扱われていたため、殆ど新品同様の機体だった。
そういった経緯から、コックピットブロックの換装を行う事で一応の処置を取ったのである。

「そうですね。訓練兵用の機体として新造機を回せという副司令からの話には一応の筋は通せてると思います。不足分の機体の埋め合わせの件や教導用の機体に関する事は俺の方で何とかしてみますよ。色々とご無理を行って申し訳ありませんでした中佐」
「すまんな・・・本来なら俺の方から香月副司令に直接言うべき事なんだが、幾分かやりやすくなるよ」
「ですが、あまり期待はしないで下さいね・・・どちらかというと難癖付けられる可能性の方が高いですから」

自分で何とかすると言ったものの、相手はあの夕呼である。
一応期待はするなと釘をさす武の表情が苦笑い交じりだった事もあり、巌谷はもし不都合があるのならば交換条件として機体の方を好きに使ってもらって構わないと言う条件を提示してくれと付け加えてくれたのだった。
これだけ下手に出れば夕呼も納得するだろうと考えていた巌谷であったが、相手はあの横浜の牝狐とまで言われる人物だ。
念の為に何とかして不足分の機体を調達する手筈を裏で整えていたというのは言うまでもない。


色々と話し込んでいるうちに会議も終了したようで、武は急ぎ悠陽の下へと向かう事にした。
暫くして部屋へと通される事となったのだが、悠陽の表情は先程までとはうって変わって疲れているといった様子が見て取れる。

「大分御疲れのようですが大丈夫ですか殿下?」
「ええ・・・少し疲れているだけなので大丈夫ですよ」
「それで、お話と言うのは?」
「そなたに折り入って頼みがあります―――」

悠陽の頼みとあらば断る理由も見つからない・・・これが武の率直な気持ちである。
彼女から頼まれたのは、今後起こりうる事態をなんとしても阻止したいという事だった。
それは12.5事件に関する事である。
本日行われていた議題は、近頃天元山付近での火山性地震が活発となっており、現地住民の救助活動をどうするかといった内容だった。
前回の世界では、被害を最小限に食い止めるために住民を強制退去させた事が引き金となり、クーデターが発生してしまった。
これを阻止するためには、強制退去という形を取らずに住民達を避難させねばならない。
しかし、現在の帝国軍には彼らの救助に回せるだけの余力も無く、また何時BETAが攻めてくるかも分からぬ状況で防衛線を空ける事も難しいといった結論に達してしまう。
そこで彼女は、自らが赴いて彼らの説得に当たると言い出したのだが、将軍自らがその様なことをしては下々の者に対して示しが付かないなどと言った理由から、話は平行線のまま先へ進むことなく現在に至っているというわけである。
流石の彼女も自分の権限を最大限に利用して強攻策を進めるわけにも行かず、何か良い案はないかと考えた結果、横浜基地に助けを求める事は出来ないかと考えたのだった。

「なるほど・・・殿下のお気持ちは十分に理解させて頂きました。自分の方からも香月副司令に頼んでみます」
「ですが、上手く行くでしょうか・・・確か前回の世界でも彼女に打診したものの断られたと記憶していますが・・・」
「自分に良い考えがあります。現在、横浜基地所属の訓練部隊がようやく戦術機教程へと駒を進めました。訓練の一環と言う事で対応させてみようかと思います」
「可能なのですか?」
「自分は彼女達の教官も勤めている事から訓練カリキュラムに関しての変更も可能です。それに第四計画遂行のためには、彼女達の練度が高くなるに越した事はありません。確かに危険も伴いますが、自分も救助活動に参加するつもりですし問題はないでしょう・・・いざとなったら自分だけでも住民達の説得に行きますよ」
「解りました・・・一応私の方でも今一度良い策は無いかと協議してみるつもりです。頼みましたよ白銀」
「はい」

暫くの間、部屋の中を沈黙が支配していた―――
これで話は終わりなのだろうかと考えた武であったが、悠陽はまだ何か言いたそうな素振りを見せている。
しかし、こちらから何かあるのかと尋ねる事は無礼に値すると考えた彼は、彼女が口開くのを待つ事にした。
そして―――

「白銀・・・実はそなたをここに呼んだのにはもう一つ理由があるのです」
「・・・なんでしょうか?」

そう口にした彼女の表情は、何処と無く重い雰囲気を醸し出している。
まるで、自分がこの様な事を口にして良いものなのかと言わんばかりの表情だ。

「鑑 純夏の事です・・・そなたは彼女のした事を今でも怒っていますか?」
「な、何故そんな事を聞くんです?」
「質問しているのは私です・・・正直にお答えなさい」
「―――怒ってはいません。むしろ感謝していますよ・・・純夏のおかげで俺は何の為に衛士としての道を選んだのかを再確認させられました。そして再びアイツに会いたいという想いも・・・」
「そうですか・・・」
「純夏を失ったと気付いて始めて解った事があります・・・しょうがないぐらいあわて者で、うるさくて乱暴なヤツでした。ずーっと隣に居て・・・それが当たり前だったヤツが居ないのはやっぱり寂しい。ガキの頃からずっと一緒で・・・最初の遊び相手で・・・最初のケンカ相手で・・・色々と思い出しますよ。一度思い出してしまうと改めて思い知らされますね・・・まるで自分の心が半分になったみたいに感じさせられてます・・・」
「それが・・・そなたの本心なのですね?」
「・・・はい」
「そなたの気持ちはよく解りました・・・この様な不仕付けな質問をして、本当に申し訳ないと思います」
「いえ・・・そんな事はありませんよ殿下」
「謝らねばならぬのは私の方です。そなたを試す様な事をしてしまった事・・・本当に御免なさい」
『殿下は悪くありません・・・悪いのは全部私なんです』
「・・・純夏!?い、いつから聞いていたんだ!?」

この部屋に居るのは自分と悠陽の二人だけだと思っていた武は、動揺を隠せないでいる。

「ゴメンねタケルちゃん・・・」
「白銀、彼女を責めないであげて下さい・・・彼女をここに呼んだのは私なのです」
「・・・どういう事ですか殿下!?」
「私が悪いの・・・私はあの一件以来、ずっとタケルちゃんに会わす顔が無いって思ってた・・・殿下はそれを心配してくれてたんだよ」
「会わす顔が無いってなんだよ・・・まだそんな事気にしてたのか!?」
「だって・・・」
「だってじゃねえよバカヤロウ!!」
「ッ!?・・・タ、タケルちゃん!?」
「お前は悪くねえよ・・・むしろ悪いのは俺の方だ・・・ゴメンな純夏・・・本当にゴメン・・・」

武はそれ以上何もいわず純夏を強く抱きしめていた。

「・・・止めてよタケルちゃん!!私にはそんな事を言って貰える資格なんて無いの・・・だから、お願い・・・」
「・・・」
「お願いだからこれ以上私に優しくしないでよっ!!もうこれ以上イヤなんだよぉ・・・」

勢いよく武を突き飛ばす純夏。
あまりの勢いにその場に倒れそうになる武だったが、何とかバランスを取り再び彼女に向き合う。

「いいから黙って俺の話を聞け!!」
「イヤだ、聞きたくない!」
「だったらその涙は何なんだよ?本当にイヤだから泣いてるのか?」
「うっ、うぅ・・・ち、違うよ。でもダメなの・・・」
「俺は怒ってないし、お前の事を嫌ってもいない・・・お前がこうやって無事でいてくれて、そして再び俺に会ってくれた事が嬉しいんだよ・・・だから、そんな事言わないでくれ・・・頼むから」
「タ、タケルちゃん・・・私だってタケルちゃんの傍に居たい・・・でも駄目なんだよ・・・私は自分自身が許せないの・・・いくらああするしか他に方法が無かったからって、タケルちゃんにあんなに苦しい想いをさせて・・・」
「あれはお前が直接やった事じゃないじゃないか・・・」
「確かにあの事は私が直接やった事じゃない・・・でも、私がやった事に変わりはないもの・・・」
「・・・でも、お前達二人が俺の事を想ってやってくれたんだろ?」
「そうだけど・・・でもダメなんだよ!!・・・あの子は私に全てを託して逝った。それなのに私だけが幸せになるなんて許されない!!」

純夏は自責の念に囚われている・・・それが武の率直な意見だった。
だが、武もここで引き下がるわけには行かない―――
ここで引き下がってしまえば、今度こそ本当に彼女は自分の前から姿を消してしまうに違いないだろう。
昔から彼女は頑固な一面を持っていた。
幼馴染であり、永く共に過ごしてきた自分の半身ともいえる存在である彼女を失いたくはない―――
これが彼の本心なのだから―――

「誰がそんな事決めたんだよ!?お前が何と言おうと俺はそんな事認めねぇ!!お願いだ純夏・・・もう何処へも行かないでくれ。俺にはお前が必要なんだよ」
「タケルちゃん・・・?」
「お前が生きてるって分かった時、本当に俺は嬉しかった・・・その時解ったんだよ。俺にはお前が必要なんだって・・・さっきの話聞いてたんだろ?あれが嘘偽り無い俺の本心なんだ・・・それにもうこれ以上自分を責めないでくれ。そんなことアイツだって望んじゃいない筈だ」
「で、でも・・・」
「アイツは後の事を全部お前に託して逝ったんだろ?それは自分の分もお前に幸せになって欲しかったからじゃ無いのか!?」
「・・・」
「アイツは違う世界の存在とはいえ、お前自身だ・・・だからアイツの考えていることは俺にだってよく解る」
「タケルちゃんには解らないよ」
「・・・解るさ・・・白銀 武と鑑 純夏は、何処の世界でも幼馴染でずっと一緒だったんだからな・・・そして、これからもずっと一緒だ・・・そうだろ、純夏?」
「タケル・・・ちゃん・・・ぅうわあああああん・・・」

武の胸に飛び込む純夏―――

「私も・・・私もずっとタケルちゃんと一緒に居たい!!私だってタケルちゃんと同じ気持ちだもん。私はタケルちゃんと居て、タケルちゃんとの思い出がって、はじめて私なんだから・・・」
「・・・俺もだよ純夏」
「・・・うわあああああん・・・」

純夏の目からは大粒の涙が止め処なく流れ続けている。
彼女は武が自分を必要としてくれた事が本当に嬉しいのだ。
最後の最後までこれだけは望んではいけないと考えていた彼女だったが、武の『これからもずっと一緒だ』と言う一言が引き金となり、ずっと胸に秘めていた想いが爆発するような形で表に出てきたのだろう。

「泣くなよ純夏・・・な?」
「だって・・・嬉しいんだよぉ・・・」
「そうですわ純夏さん。ほら、これで顔をお拭きになって下さい」
「あ、ありがとうございます・・・」
「雨降って地固まる・・・ですわね」
「で、殿下!?」

この場に悠陽が居た事などすっかり忘れて自分達の世界に入っていた二人―――

「何を驚いているのです?初めから私が居ると分かっていながらそうしていたのでしょう?」
「うっ・・・そ、それは・・・」
「何はともあれ、これで万事解決ですね・・・本当に良かった」
「・・・あ、ありがとうございます殿下」
「礼には及びませんよ純夏さん。貴女は私の大事な友人なのですから」
「・・・その割には何だか残念そうな顔してませんか?」
「オホホホ・・・それは気のせいですわ」

悠陽が何を考えていたのかは御想像にお任せするとして、武と純夏の事は全て上手く行ったようだ。
全てが丸く収まり、ずっと悩み続けていた純夏の事が片付いたことで、武は改めて自分の決意を再確認していた。
自分にしか出来ない事を実現するために―――


「殿下、本当にありがとうございました」
「たいした事ではありません・・・そなたも、そして純夏さんも私の大切な友人なのですから」
「ありがとう・・・悠陽さん」
「・・・久しぶりに名前で呼んでくれましたね武殿。出来れば今後もそうして頂きたいのですが・・・っ!?」
「な、何だ!?」

先程まで静寂に包まれていた空間を切り裂くようにして突如として警報が鳴り響く―――

「解りません・・・ですが、これは・・・」
「わ、私が司令室に問い合わせてみます・・・」

純夏がインカムを手にした次の瞬間、施設全域に向けて通信が開かれる。

『現在、当施設に向け所属不明の部隊が接近中。防衛部隊は即時に所定の位置にて待機せよ。繰り返す・・・』
「敵襲なのか?・・・まさかBETAが!?」
「そんな筈は無いよ!だってBETAだったら部隊だなんて言う筈がないよ!!」
「落ち着きなさい二人とも・・・急ぎ司令室へと赴き、状況を確認する事が先決です」
「は、はいっ!!」

急いで部屋を後にし、司令室へと向かう武達―――

未だ鳴り止まぬ警報。
そして慌しくなり始める高天原。
果たして、接近する所属不明の部隊とは何者なのか?
予想だにしない出来事に対し、高天原は緊張に包まれる事となるのだった―――




あとがき

第41話です。

今回から暫く帝都編です。
三部構成ぐらいで完結させようと考えていますが、どうなるかは私の文才次第と言ったところでしょうか・・・^^;

今回登場した白波耕平と刃皇ですが、これは私の作品の外伝小説を執筆されている絶対零度(レイオス)氏の作品に登場予定のキャラクターと戦術機です。
彼の詳細な設定は伏せさせていただきますが、武御那神斬建造の際に起こった事故で両親を亡くし、その原因が夕呼にあると考えているために彼女や彼女に係わりのある人物を恨んでいるという設定だそうです。
ですから、この様な感じで登場させて見ました。
ちなみに、登場に関しては許可を頂いています。

さて、序盤に登場した高天原は私オリジナルの設定で、東京湾上に建造されている人工島区画です。
ここでは作中でも書かれている通り、対BETA用の兵器などが建造されている他、難民収容施設や地球環境再生プロジェクトなども行われているという設定です。
ちなみに、この高天原にはまだ隠された設定が存在していますが、それは今後のお楽しみと言う事でご了承下さい。

天照計画の詳細も後々明らかにさせていただく予定ですが、まず最初の引き出しとして、同計画で開発中の機体としてオリジナルの戦術機・武御那神斬を登場させました。
ロボ図鑑の方に詳細をアップさせて頂きますので、そちらの方を参考にして頂ければと思います。

後半部分ですが、ぶっちゃけると書いてて何だか凄く恥ずかしくなってきました。
何書いてんだろ俺・・・と言う気分になったのもそうですし、もう少し上手く書ければなぁ・・・と思ったりもしました(苦笑)
こういう男女間のネタって本当に難しいですよねTT
と言うか、これで実質的に武ちゃん純夏ルート確定?ってな事になってしまってるような気がしないでも無いですが、今後どうなる事やら・・・という事にさせて頂くとしましょう(笑)

次回は帝都編の中編?の予定ですので楽しみにお待ち下さい。
それでは感想の方お待ちしております^^


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