Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第42話 武神の産声「現状は一体どうなっているのです!?」司令室へと赴いた悠陽は、現状を確認すべく声を張り上げていた。普段の冷静な彼女からは到底想像の付かない様子に驚く者も居たが、時は一刻を争う事態である以上、そのような事を一々考えていられるはずも無い。「先程から当施設へと接近中の部隊に向けて、オープンチャンネルで呼びかけていますが反応がありません」「呼びかけを続けるのです。それから避難民のシェルター収容状況はどうか?」「現在、およそ6割といった所です」「急がせなさい!何があろうと民の安全を最優先にするのです!!」「ハッ!」悠陽からの問いに答えた紅蓮は、即座に指示を出し、それを受けたオペレーターが次々と関係各所へと連絡を行っていた。「これだけの規模の敵部隊、何故ここまで接近を許したのです?」「海面スレスレを匍匐飛行で接近してきたようなのだ・・・それ以外にも強力なジャミングを仕掛けることでこちらの探知を遅らせるといった方法まで用いておる」「部隊の展開状況はどうなっているんですか?」「先程、我が斯衛軍第一大隊の戦術機中隊、および支援砲撃用の戦車部隊が沿岸部への展開を終了した所だ」「(なるほど・・・相手が洋上から攻めて来ている以上、遠距離からの砲撃で数を減らした後に戦術機で確固撃破するつもりか・・・だが、相手は小回りの効く戦術機だ、支援砲撃は当てにならんと考えた方が無難だろうな)」現状確認を行うため、マサキと別れたキョウスケは、武や悠陽達よりも先に司令室へと到着していた。本来ならば部外者である彼が、この場に入室出来るはずも無い。しかし、状況が状況なだけに違った視点から物事を捉えることの出来る人物が必要だと判断した紅蓮によって入室を許可されたのであった。レーダーに確認されている機影は、今もなお増え続けている。その数およそ30機前後―――該当機首の照合を急がせてはいるが、難航しているのが現状だ。「この状況、貴公ならどう見る南部大尉?」「・・・敵の目的がハッキリしていない以上、迂闊な事は言えませんが・・・状況から察するに当施設の占拠が目的ではないかと考えます」「やはりそう考えるか・・・」「表向きはここが難民施設となっている以上、敵がここを占拠するメリットがありません・・・食糧生産プラントや研究施設の占領を目的としているにしても、明らかに迂闊すぎる行動です。仮に占拠が成功し、篭城を行う事が可能となったとしても奪還されるのは時間の問題でしょう・・・ですが、敵の目的が別のものだとすれば辻褄が合うかもしれません」「それは天照計画の研究成果という事か?」「それもありますが、この場にはそれ以上に興味を引く物が存在しています・・・ただし、情報が洩れていたという事を仮定してですが・・・」「なるほど、吾妻や安藤の機体・・・敵はそれを狙っている可能性が高いということか・・・」「おそらくは・・・(だが、このタイミングで仕掛けてくるのはおかしい・・・仕掛けるならばもっと警備の薄い時を狙う事も出来た筈だ・・・まさかとは思うが、な・・・)」幸いな事と言っては不謹慎に当たるかも知れないが、この日高天原には通常よりも多くの部隊が駐留していた。それは日本帝国を統べる者、すなわち煌武院 悠陽の視察が行われるためである。キョウスケが言った様に、敵の目的がカイザーやサイバスターであるとすれば、この様な時を狙ってくるはずは無いだろう。厳重な警戒網が敷かれている中、襲撃を行うなど自殺行為もいいところと言っても過言では無いのだ。それにそういった物が狙いだと言うのなら、同じ様な機体が存在する横浜基地の方が狙われる確立が高い。特機やPTの奪取が目的なのならば、この世界に存在するそれら全てがターゲットになり得る筈なのだ。にも拘らず、敵が襲撃を仕掛けてきているのはこの高天原のみ―――そうまでしてこの場に狙いを定めるという事は、それ以外に目的があるのではないかと考えたのだった。そんな矢先、ついに敵が警告を無視してこちらを攻撃し始める。「クッ、不本意だが止むを得ん・・・前線部隊に敵の迎撃を行うよう指示を出せ!何としても敵を水際で食い止めるのだ!!」「了解!!」戦闘の火蓋が切って落とされる―――だが、こちらはあくまで防衛行動に徹さねばならない。何故ならこの場には多くの避難民が生活しているのだ。彼らの避難が完了する前に下手に打って出てしまえば、その隙を突いて一気に敵が懐に侵入してしまう可能性が高い。もしその様な事態になってしまった場合、敵は間違いなく難民達を人質に取り、こちらの武装解除を勧告してくるだろう。そうなってしまえば完全に後の祭り・・・瞬く間に施設は占領され、全てが水泡に帰してしまうに違いない。「所属不明部隊の機種、特定できました・・・モニターに出します!!」「F-15E(ストライク・イーグル)、F-16C(ファイティング・ファルコン)、それに露軍のSu-27SM(ジュラーブリク)だと!?」「(国連軍でも使用されている機体か・・・在り来たりなカモフラージュで誤魔化してはいるが、恐らく敵はシャドウミラーの残党だろうな・・・)閣下、ステルス機能搭載の伏兵が存在する可能性があると考えます・・・警戒が手薄な地点をっ!?」突如として爆発音が響いたと同時に、暗闇に閉ざされる司令室。「停電だと!?直ぐに予備電源に切り替えるのだ!!」「は、はいっ!・・・B-12ブロックに敵影1、単機での特攻と思われます!!」「遅かったか・・・」「どういう事だ南部大尉!?」「先日、調査任務に訪れた施設における戦闘で、光学迷彩機能を搭載した機体と遭遇しました。現存のレーダーといった類の物では探知する事は困難であったため、伏兵の可能性を考えたのですが・・・どうやら遅かったようです」「鎧衣の報告にあった機体か・・・被害状況はどうなっておる?」「施設への送電システムが敵の攻撃によって損傷、なお敵機はその後、友軍機の攻撃によって撃破されたようです」何故敵が自分の所在を明らかにしてまで攻撃を行ったのかは解らないが、こちらにしてみれば運が良かったと言える。姿が見えれば接近する事でこちら側のレーダーでも目標を捉えることは可能なのだ。もしも敵が隠れたまま攻撃を続けていれば、こちらの損害は更に酷いものになっていただろう。「援軍はどうなっている?」「少々お待ち下さい・・・閣下、緊急事態です!!」「何事だ!?」「現在、援軍を要請していた帝都周辺の駐留部隊が、謎の戦術機群に襲撃を受けているとのことです」「クッ、こんな時に・・・」敵の襲撃をキャッチした直後、紅蓮は近隣に展開中の部隊に向けて援軍を要請するよう指示を出していた。しかし、それらもまた襲撃を受けているということは、帝都防衛を優先させるだろう。完全に高天原は孤立無援の状況に追い込まれてしまったという事になる。「(クソッ!こんな事になるんなら自分の機体を持ってくるべきだったぜ・・・)」この様な状況で、自分一人が出て行ったからといって事態が変わるわけではない。いくら武の改型が優れた機体だとはいえ、単機で戦況を覆す事ができるほどの物ではないのだ。先程から武は、皆が危険に晒されているこの状況下において、何も出来ない事に歯痒さを感じていた。そんな彼の心情に気付いたのだろうか、傍に居た純夏がそっと彼に視線を投げかける―――「タケルちゃん、ここは皆を信じて待つしか無いよ・・・」「解ってる・・・そんな事は解ってるんだ・・・でも・・・」「白銀、鑑少尉の言うとおりです。私も出来る事ならば戦場に赴き、皆と一緒に戦いたい・・・ですが、それが出来ない以上、ここは皆を信じて待つしかありません」「・・・はい」悠陽も自分と同じ気持ちなのだろう。恐らくこの場で一番苦しい思いをしているのは彼女だ。そんな中、突如として通信が開かれる―――『おい、紅蓮のオッサン!俺達にも出撃許可をくれ・・・俺達とマサキが出て一気に敵をやっつけてやるよ!!』「良いのか?」『良いも悪いもあるかよ!色々と世話になったんだ、こういう時に恩を返さねえでいつ返すんだよ!!』それぞれの機体から通信を送っている二人は、既に準備を整えている。普段の彼らなら態々許可を得ずに飛び出しているところだろう。だが、自分達は悠陽や紅蓮に世話になっている以上、勝手な事をすれば二人に迷惑が掛かる。基本的に恩を仇で返すような事を嫌う二人は、先ず許可を得てから出撃しようと考えたのだった。「スマンな二人とも・・・オペレーター、彼らの出撃準備に掛かれ!」「了解しました・・・駄目です!先程の停電が原因で中央部大型ゲートの開放ができません!!」「なんだと!?」『だったらこっちで無理やり破壊してでも出る!』「落ち着け吾妻、この施設はメガフロート構造だ。下手に衝撃を与えては、損傷した区画から崩壊する恐れがある」『っ!!何か他に方法はねえのかよ!?』「・・・」『オッサン、俺のサイバスターやショウコのGサンダーゲートは戦術機ってヤツと大して変わらねえ大きさだ。そっちのゲートは使えねえのかよ!?』「オペレーター、一番近い戦術機用のゲートは何処だ?」「第3ゲートです」「よし、二人の機体を急いで第3ゲートへと誘導しろ!吾妻はもう暫く耐えてくれ・・・」『・・・解った。でも急いでくれよ?江戸っ子は気が短いんだからなっ!!』即座にゲートへの誘導が開始される。しかし、出撃にはもう少々時間が掛かるだろう。こうしている間にも敵の攻撃は止む事は無い。むしろ先程から激しさを増しているようにも感じられる。恐らく敵側の方に増援が現れているのだろう。このままこちら側の増援が見込めないのであれば、時間と共にこちら側は不利になる一方だ。何か他に打つ手はないかと考える紅蓮であったが、そう簡単に良い手が見つかるわけも無い。だが彼は、不安や恐れ等といったものを微塵も感じさせる事無く部下達に激を飛ばす。「良いか皆の者!今しばらくの辛抱だ。敵がどれだけ多くとも、先に心が折れてしまっては戦えん!!必ず援軍が来ると信じて守りに徹せよ!!殿下も見ておられるのだ・・・期待に沿えるだけの働きを見せよっ!!」皆が彼の激励により、折れかけていた闘争心を取り戻す。そんな時だった―――『失礼致します』突如として司令室の扉が開かれたかと思うと、一人の男が入室してくる。その風貌は老齢であり、後ろに二人の直衛を連れていることから、いかにも軍の上級将校といった感じだろうか?そのまま何も言わずに部屋へと入ってくると言うことは、余程の権限を持った人物なのだろうという事が窺える。「崇宰大将・・・何用かね?」「そう邪険にあしらわなくても良いではありませんか紅蓮大将・・・貴殿に秘策を授けに来たのですよ」「秘策だと?」先程からこちらに向けて笑顔を振りまいているものの、彼の目は笑ってはいない―――「援軍も期待できず、敵の目的も不明・・・現在この場にある手札のみで状況を打開せねばならぬというのなら、出せる機体は全て出すべきだという事ですよ」「その様な事、貴公に言われんでもやっておる。待機中の機体は全て出撃の準備をさせているところだ」皮肉めいた物言いをする崇宰に対し、紅蓮はあえてそれを無視するようにして言い返す。「なるほど・・・それにしては武御那神斬の発進準備が行われていないようですが?」「っ!?・・・あの機体は天照計画の試作機だ。現状でおいそれと戦場に出すわけには行かん」「何を悠長な事を言っているのです。この様な状況において機体を遊ばせて置けるような場合では無いでしょう?」「しかし、肝心の衛士がいないのだ・・・」「貴殿の目は節穴かね紅蓮大将・・・ここにいるではありませんか」そう言って武の方に目をやる崇宰。「気は確かかね!?彼は国連軍の衛士、しかも今は客人としてこの場に居るのだぞ!?」「彼は元々帝国軍の衛士の筈・・・しかも、貴殿が斯衛の衛士として欲したほどの人物ではないか」「しかし・・・」「白銀大尉は、先の新潟での戦においても一騎当千の活躍を見せたほどの衛士・・・武御那神斬の衛士としては十分すぎる逸材だと思うのだがね」確かに彼の言うとおり、武の資質は自分も認めている。だが、彼は悠陽の客としてこの場に居る以上、彼女を差し置いて彼にそのような事を命令できる筈も無い。それを解っていて崇宰はこのような事を言っているのだ。いくら五摂家の一つ、崇宰家を纏め上げる存在とはいえ、彼は技術開発局の人間だ。軍務に対して口を挟むことはおろか、彼女のいる前でこの様な脅迫じみた台詞をよく吐けたものだと考えるものもいるだろう。「・・・崇宰閣下、部外者である自分が口を挟むべきでは無い事は重々承知しているのですが、一つ宜しいでしょうか?」「何だね南部大尉?」彼もまたそう考えていた一人だ。キョウスケは先程から彼の物言いが引っかかって仕方が無かったため、このような事を言い出したのである。「敵の狙いが分からぬ以上、下手に新型を出すべきでは無いと愚考します」「その理由は?」「仮に敵の狙いが、その武御那神斬と呼ばれる新型だった場合、満足に動けない状況下で戦闘に出すのは危険です。敵が機体の奪取、もしくは破壊を狙いとしているのならば、相手は間違いなく新型を狙ってくるでしょう」「・・・フム、流石は横浜基地・A-01所属の衛士だ。中々良いところを突いてくる・・・しかし、敵の目的がそうだとは限らないであろう?もし貴公の言うように武御那神斬に狙いが集中するのであれば、それはそれで好都合だろう。なにせその分民間人の退避する時間が稼げるのだからねえ」「・・・閣下は白銀に囮をやれと仰るのでしょうか?」「貴公がそのように解釈したのならばそれで構わんよ・・・私は民の事を考えて言っているだけに過ぎないのだが、そう取られてしまったのならば仕方が無い。不愉快な思いをさせてしまったのならば謝罪しよう」「いえ、自分の方こそ閣下に対して言葉を選ぶべきでした・・・申し訳ありません(この男・・・一体何を企んでいる?先程からの物言いといい、何としてもタケルと新型を戦場に出そうとしているとしか思えん・・・)」「いやいや、気にする必要は無いぞ南部大尉」「ありがとうございます・・・(目が笑っていないぞ・・・さて、どうしたものか・・・)」室内が静寂に包まれる―――先程から悠陽は、彼らのやり取りを黙ったまま聞いているため、それが余計に他の者の発言を遮る事となっていた。「閣下、自分にやらせて下さい・・・」時間にしてほんの数分・・・その沈黙を破ったのはやはり武であった。「し、白銀!?」「確かに紅蓮閣下やキョウスケ大尉の仰る事も一理あります。ですが、自分はここでただ見ている事など出来ません・・・機体をお貸し頂けるならどんな機体でも構いません。ですから、自分にやらせてください!!」『残念だがそいつは無理な相談だ白銀大尉』「巌谷中佐!?何故ここに?」「崇宰閣下に呼ばれてな・・・スマンが話は聞かせてもらった。技術開発局側から言わせてもらえば、武御那神斬の出撃は不可能に近い」「どういう事だね巌谷中佐?武御那神斬は動かせるのだろう?」「閣下の仰るとおり、動かす事は可能です。ですが、OS部分の最終調整が終了しておりません。現状では動く事は出来ても良い的になるだけです」「調整作業はどれくらいかかるんですか?」「まともに動けるようになるまで最短で1時間・・・だが、調整中に多くのバグが発見されればその分時間は掛かるだろうな」「何とかならないんですか?」折角出撃できると思った矢先、調整作業に最短で1時間も掛かってしまっては被害は増える一方だ。しかし巌谷の言うとおり、満足に動けない機体で戦場に出れば足手まとい以外の何者でもない。そんな中、半ば呆れ顔に近い表情で崇宰が口を開く―――「方法が無い訳では無いだろう中佐・・・現在コックピットブロックは、テスト用のために複座型の管制ユニットに換装してあったはずだ。リアルタイムで副衛士にOSの書き換え処理を行わせれば良いではないか」「いくら閣下のご命令とはいえ、そんな事は許可できません!!戦闘中にOSの書き換えなど危険すぎます!!」「それで動けるようになるんですね?だったらそれで行きます!いや、行かせて下さい!!」「馬鹿な事を言うもんじゃない!それに副衛士は一体どうするんだ!?」「わ、私がやります!」「か、鑑少尉!?」「なるほど・・・確か彼女は、武御那神斬の開発スタッフの一人でしたな。それならば問題は無いでしょう」「ですが・・・」「お願いです。私にやらせて下さい。私だってタケルちゃんと同じ気持ちです・・・一人でも多くの人々を助けるためにそれしか方法が無いのなら尚更です!!」「確かに貴様ならば書き換え作業も行えるかもしれん・・・だが、テスト前の機体では何が起こるか分からん以上、俺は出撃を許可できん」「この期に及んで君は何を言っているのだね?彼女の言うとおり、今は一人でも多くの民を救うのが先決だろう?」「・・・そうやって貴方は、また同じ悲劇を繰り返そうというのですか!?」彼が頑なに武御那神斬の出撃を拒む理由・・・それは過去の暴走事故が原因だった。あまり公になっていない事実の一つとして、暴走事故を起こした壱号機の稼働実験の際、実験を強行させた人物が存在する。そう・・・その時に実験を強行させた人物こそがこの崇宰なのだ。「上官に向かって無礼であろう!!貴様はまだあの時の事を引き合いに出すのか!?」「無礼は百も承知です!あの時、貴方が実験を強行させなければあのような事故は起こらなかったかもしれないのですよ!?」「今回は状況も違うだろう・・・それに弐号機には例の動力炉は搭載されてはおらん。暴走事故など起こるわけも無い・・・違うかね?」「・・・」「二人とも、もう良いでしょう?今は言い争っている場合ではありません」先程まで沈黙を守り、事の成り行きを見守っていた悠陽がついに口を開いた―――「・・・白銀、それに鑑・・・そなた達に武御那神斬での出撃を命じます」「で、殿下!?」「巌谷中佐、全ての責任は私が取りましょう・・・なんとしてもかの者達を撃退し、民の安全を守らねばなりません・・・こうして論議を重ねている間にも民は危険に晒されているのですから」「・・・解りました」「皆の者、聞いての通りだ。急いで準備に取り掛かれ!!」『「了解っ!!」』いくら悠陽の言葉とはいえ、全ての事に巌谷は納得したわけではなかった。だが許可してしまった以上、もう後戻りは出来ない。今の自分に出来る事は、少しでも武と純夏の生存率を上げる事―――準備のためと言い残し、彼はその場を後にすると武達と共に急いで武御那神斬の専用ハンガーへと向かう。一方、崇宰はと言うと・・・彼らが部屋を後にした事を確認した後、誰にも気付かれぬよう一人廊下へと退室していた。「フッフッフ・・・これで全てのお膳立ては整った。後は奴等次第と言ったところか・・・」誰もいない廊下でそう呟いた彼は、一人ほくそ笑むのだった―――『いいか白銀、それに鑑少尉。武御那神斬の出力は、従来の戦術機とは比べ物にならんほどのじゃじゃ馬だ。主機の出力調整に気をつけてくれ』「了解です中佐・・・純夏、準備は良いか?」「いつでも行けるよタケルちゃん!」サブシートに備え付けられたキーボードを操作しながら答える純夏。予想外の出来事に驚かされていた武であったが、今はそんな事を気にしている場合ではないと考え操縦に専念する。『よし、機体をカタパルトデッキへ移動させろ・・・二人とも、無事に帰って来るんだぞ!!』『「了解!!」』まともに動かせないと聞かされていた機体は、今のところは問題なく稼働している。とりあえず歩行に関しては然程問題は無いようだ。『リニアカタパルト展開、射出タイミングを武御那神斬に譲渡します。大尉、御武運を』オペレーターの指示に従い、タイミングを計る武―――「了解・・・フェンリル1、武御那神斬発進する!!」跳躍ユニットに火が入り、轟音を立てながら燃焼される推進剤。想像以上のGが体全体へと伝わってくるのが分かる。カタパルトによって射出された事で一気に距離を稼いだ武御那神斬は、上空から一機の武御雷を発見すると、その周囲にいた敵機に向けて突撃砲を発射―――相手が沈黙したのを確認すると、その黒い武御雷に並ぶ様に着地し、接触回線での通信を行っていた。「こちらは国連軍大尉・白銀 武。故あってそちらの援護を頼まれ、この機体を借り受けている。指揮官はどちらに?」『タ、タケル!?本当にお前なのか?』「剛田か?丁度いい、お前の隊の指揮官に繋いでくれ」『オイオイ何でお前が新型に乗ってるんだ?』「そんな事はどうでもいいだろう?早く指揮官に『タケルちゃん』・・・何だよ純夏?」「指揮官は目の前にいる剛田君だよ・・・」「な、何だって!?こいつが指揮官?」「そんな事言ったら剛田君に失礼だよぅ・・・」口ではそう言っている純夏であったが、苦笑いを浮かべている表情からはそうは受け取れない。『俺様が指揮官で悪かったなタケル・・・』「い、いや、スマン・・・それよりもお前が指揮官なら頼みがある」『急に改まってどうした?』「俺と純夏をお前の指揮下に加えて欲しい」『・・・理由は?』説明を求められた武は、簡潔に機体の状態について答える。『なるほどな・・・要するに動ける砲台程度の役割しか果たせないって事か・・・』「悔しいがお前の言うとおりだ。お前の隊に負担を強いる事になるかもしれないが・・・」『っと、それ以上は言うな友よ。俺とお前の仲だろ?任せておけって』「スマン・・・もうじき援軍も来てくれる筈だ。それまで頑張ってくれ」『良いって事よ・・・聞いていたなお前等!こんな状況下で試作機の実戦テスト紛いの事をやろうとしてる上の考えなんて知ったこっちゃねぇ。だが、ここに居る白銀 武は、あの明星作戦や新潟でのBETA襲撃において一騎当千の活躍を見せた衛士・・・心強い事には変わりねぇ!!一気に敵を蹴散らすぞっ!!』『『「了解っ!!」』』散開して近づいてくる敵機を迎撃し始めるフレイム小隊の面々。武は彼らが討ち漏らした敵機を中心に距離を取って攻撃を加えていく。その頃一足先に出撃したマサキとショウコの二人は、武達とは違う場所で敵の掃討に当たっていた―――「これで決めてみせるんだから!行っけぇっ!Gサンダーゲート!!」ショウコの叫び声に呼応するような形で加速を開始するGサンダーゲート。機体から発せられる粒子の様なものが徐々にフィールドを形成し、前方に向けて集束される。「必殺!ゲートブレイカー!!」次々と衝撃波に巻き込まれながら爆散する敵機。この場所がメガフロートであるため、地上部分で火力のある兵器を使用することは危険と判断した彼女は、上空に展開している敵を中心に攻めている。逆にマサキはハイファミリアで牽制し、ディスカッターで接近戦を仕掛けるという戦法を取っていた。「地上戦はあんまりサイバスターの得意とするところじゃねえんだけどな・・・」「愚痴っていてもしょうがないニャ」「そうだニャマサキ~」サイフラッシュが使えれば敵を一箇所に誘い込む事で一気に殲滅する事も可能だろう。しかし、先程言ったようにここはメガフロート・・・戦闘が行われているのは主要区画では無い端の方とはいえ、下手に衝撃を与えないほうが良いに越した事は無い。いくら操者の意識により敵味方の識別が可能とはいえ、最大半径数十キロに及ぶ射程を持っている兵器である以上、使用すれば避難中の難民を巻き込みかねないのである。そういった理由から彼らは、なるべく敵に接近する事で敵を無力化しているのだった。再び場所は武達の下へと戻る―――「クッ・・・純夏、もう少し反応速度を上げる事は出来ないのか?」「直ぐには無理だよ・・・」武は先程からこちらに向かってくる敵機の数が増えている様な気がしていた。最初は突撃砲のみで敵機の掃討に当たっていた彼だが、今は左手に長刀を構え近接戦闘まで行っている。こうなって来るともはや錯覚ではない・・・明らかに前衛を任されている味方の討ち漏らしが増えてきているのだ。だが、剛田の部隊は誰一人として撃墜されていない。と言うことは、敵は前方に展開している彼らを無視し、武の駆る武御那神斬を優先的に狙っているという事になる。ここに来て武は、先程のキョウスケと崇宰の会話を思い出していた―――「(やっぱりキョウスケ大尉の考えたとおり、敵の狙いはこの機体なのか?)」「タケルちゃん、これでどう?」「ああ、幾分かマシになったけど敵を振り切れない・・・次は主機の出力を上げてくれ!!」「これ以上は駄目!そんな事したらタケルちゃんが耐えられない!!っ!!タケルちゃん、二時方向!」「何っ!?ぐぁぁぁぁっ!!」「きゃぁぁぁぁ!!」敵のSu-27SMのショルダーチャージにより、勢いよく吹き飛ばされる武御那神斬。会話に集中するあまりレーダーの監視を怠ったため、死角から接近する敵機への反応が送れたことが原因だった。体勢を立て直そうとする武だったが、先程の衝撃により脚部が損傷してしまい、直ぐには立ち上がれそうに無い。接近させる訳には行かないと踏んだ武は、右手の突撃砲を乱射し弾幕を張るものの、相手はそれらに臆することなくこちらへと突っ込んで来る―――『タケル!純夏さん!!待ってろ、今援護に・・・』二人のカバーに入ろうとする剛田。しかし、その行く手は敵によって阻まれてしまう―――『邪魔をするなっ!!フレイム2、3、二人の援護に回れ!!』自分が動けないため、部下に指示をだす剛田であったが、彼らもそう簡単に敵機を振り切る事が出来ない。『逃げろ二人とも!!』戦場に悲痛なまでの剛田の叫びが木霊する・・・その時―――『!?何処からの攻撃だ?』『何とか間に合ったみたいね』次々と放たれる光の矢―――先程まで武御那神斬に群がっていた敵機は、瞬時に距離を取り、体勢を整えるべく後退していた。『ぱんぱかぱ~ん♪騎兵隊、ただ今と~ちゃく♪♪』『な、何だあの機体は!?』彼の目に映る機体は、戦術機とは似て非なる物・・・そしてその手に装備された武器からは、今もなお輝く粒子が止め処なく発射されている。「エクセレン中尉!?」『もう、タケル君たら・・・こんな所で盛大なパーティーやってるだなんて、お姉さん達を除け者にするなんて酷いじゃない』「冗談言ってる場合じゃないですよ中尉・・・でも、助かりました。ありがとうございます」「タ、タケルちゃん!?あの人は?」「横浜からの味方だ」一方、司令室では予想外の援軍に、多数の者が驚いていた。まさか帝都守備隊よりも早く、横浜から援軍が来るとは思っていなかったのである。『エクセレン、そのヴァイスは例の機体か?』そんな彼らを他所にオペレーターから通信機を借りたキョウスケは、急いで援軍に来た味方を確認すべく連絡を試みていた。『そうよ、人呼んでヴァイスリッター・アーベント!!・・・ってトコかしらん?』『なるほどな・・・使えるのか?』『特に問題は無さそうよ・・・ちょっとばかし昔のヴァイスちゃんよりはお転婆な気がしないでもないけどね』『そうか・・・なら、タケル達を援護してやってくれ』『チョイ待ち!私一人だけ重労働させる気?』『使える機体が無いんだ、仕方あるまい?』『心配には及びませんでございます大尉』『ラミアか?』『Mk-Ⅲをお持ちしました。これを使いやがれ・・・使ってください』『行けるのか?』『破損した装甲部分は、既に交換済みでございます。弾薬、推進剤共に問題は有りません・・・今からそちらに向けて誘導します』『了解した』アシュセイヴァーに搭乗したラミアが、敵機を牽制しつつMk-Ⅲをキョウスケの元へと誘導する。インカムを手に指定されたポイントへと急ぐキョウスケ。「キョウスケ大尉、大丈夫なんですか?」『今のお前よりは、な・・・それに調整が不十分な機体に乗るのはこれまで何度もあった・・・それに個人的にもこのアルトには興味がある』「解りました・・・でも、無理はしないで下さいよ?」『ああ・・・』インカム越しのキョウスケの声は、何処と無くそっけないものを感じさせるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。『ここだラミア!』両手を振りながら自分の位置をアピールするキョウスケ。彼の位置を確認したラミアはMk-Ⅲを先行させると、一定の距離を保ちながら敵機を近づけさせないように牽制を続ける。戦場で機体に搭乗する場合、どうしても機体は一定時間その場に留まる事になってしまう。そのための時間稼ぎを行っているのだ。『急いでくださいませ大尉』キョウスケの元へと辿り着いたMk-Ⅲは、その場に立膝をつくと自分の主を迎え入れるべくその右手を差し出す。マニピュレーター部分のコンソールを操作し、腕をコックピットハッチへと近づけたキョウスケは、即座に機体へと乗り込むと機体のデータチェックを開始し、臨戦態勢を整えながらこう一言呟いていた―――『何の因果かは知らんが、この俺が向こう側のアルトに乗る事になるとはな・・・だが、そんな事は問題じゃない・・・お前の力、試させてもらうぞ、アルトアイゼン・ナハト!!』彼の叫びに同調するかのごとく、蒼き孤狼の咆哮が戦場に轟く―――未だ暗雲立ち込める高天原を舞台に、戦いは佳境を迎えようとしていたのだった―――あとがき第42話です。今回は謎の部隊により帝都周辺、ならびに高天原が襲撃されたというお話です。本来ならばすんなりとコウタ達に向こうへ飛んでもらって・・・という流れに持っていく予定だったのですが、スパロボシリーズの定番イベント、こういった時に限って敵の襲撃が・・・と言うのを再現してみたくなり、この様なお話とさせていただきました。あと、この帝都編は、前回も書かせていただいた絶対零度(レイオス)氏のお話とのクロスを前提とした流れであるため、ところどころに伏線を散りばめています。といった感じで、今後アップされるであろう氏の作品と共に楽しんでいただければと思います。ナハトとアーベントの登場は、もう少し先送りする予定でしたが、私自身それほど我慢強い方ではないため、前倒しで登場という事にさせて頂きました。今後の活躍にご期待下さい。それでは今回はこの辺で失礼致します。感想のほうもお待ちしてますのでよろしくお願いします^^