Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第43話 彼方への扉「なるほど、反応は悪くない・・・だが、やはり機体が重いな・・・」ナハトに乗り込んだキョウスケは、新たな自分の愛機である『アルトアイゼン・ナハト』と自分との相性を確認していた。これまでに何度もいきなりの実戦テスト紛いの事をやった彼であったが、流石に今回ばかりは話が違う。いくら同じG系フレームの機体とはいえ、この機体はあちら側の世界で設計されたものである以上、異なった技術が使われている可能性が高い。操作性や反応速度、機体全体のバランスなども乗ってみない事には解らないことも多いのである。「っ!!・・・かすったか・・・だが、装甲に関しては問題無さそうだな。それに俺が乗っていたアルトより幾分か扱い易い・・・」元々アルトアイゼンは、『絶対的な火力をもって正面突破を可能とする機体』をコンセプトに開発されている。正面突破を行うには、ある程度の耐弾性や機動性が必要になってくるため、このナハトには重装甲なのは勿論の事、バランサーとして当初からテスラ・ドライブが搭載されている事が安定性の向上へと繋がり、正式採用に至ったのだろう。しかし、キョウスケがこの機体を扱いやすいと感じたのは、また別の理由からだった。彼がこの世界に来る直前まで搭乗していたアルトアイゼン・リーゼは、元々ベースとなったアルトアイゼンを強化、改修した機体であり、スラスター推進力がベース機よりも高く、機体バランスに関しても著しく損なわれていた機体である。それを自分の手足のように扱えていた彼ならば、安定性の向上しているこの機体を扱いやすいと感じても仕方の無い事だろう。ただし、この機体はオリジナルのMk-Ⅲとは違い、量産型のゲシュペンストMk-Ⅱをベースにしたレプリカであるため、オリジナル機であったならばこの様に感じる事はなかったかもしれないのだが―――「武装は・・・左腕5連チェーンガンとシールド・クレイモア、右腕の杭打ち機・・・リボルビング・ブレイカーか、それと両肩の近接炸裂弾レイヤード・クレイモア・・・やはりこの機体も近づかなければ話にならん、か・・・」敵機を牽制しつつ、武装の確認を行っていたキョウスケは、前方に群がるF-15Eのうち、一番距離の近いものに照準を固定する。「さて、そろそろこちらからも行かせて貰うぞっ!!」フットペダルを踏み込むと同時に両肩のスラスターが展開し、一気に距離を詰めるナハト。しかし、敵も黙って接近を許す筈は無い・・・接近する機体に向け、突撃砲を乱射する敵部隊。だが、一度加速し始めたナハトを突撃砲ごときの弾幕で止められる筈も無かった―――「撃ち抜く・・・!止められるなら・・・止めてみろっ!!」大きく振りかぶられた右腕が鋭い音を響かせながらF-15Eの胸部に向けて突き刺さる―――「どんな装甲だろうと・・・ただ撃ち貫くのみっ!!」そしてキョウスケは串刺しにした敵機を上へと持ち上げると、躊躇なくトリガーを引き敵機を沈黙させたのを確認せず次の行動に移っていた。爆発で生じた噴煙に紛れ、今度は周囲に展開していた機体に向けて左腕の5連チェーンガンを乱射する。同士討ちを警戒していた敵は、反撃する間も無く無数の銃弾の雨に晒される事となり、次々と行動不能に追い込まれ、一瞬のうちに7機の敵が鉄屑へと変えられる―――「わお、やるじゃないキョウスケ・・・さて、私もそろそろ本気を出そうかしらん」モニター越しに映る光景を見ながら一人呟いたエクセレンは、一気に機体を上昇させると右手に装備されたパルチザン・ランチャーを器用に回転させた後、両手でそれを保持し次々と狙いを定めて発射する。「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるって言うけど、私の場合はほぼ十割当たっちゃうのよね~・・・ホント自分の才能が怖いわ~」さながらその光景は、蝶の様に舞い、蜂の様に刺す・・・と言ったところだろうか?大空を制する者と言わんばかりの動きを見せながら、次々と敵機を撃墜していくエクセレンのアーベント。「ほ~ら、私はここよん。捕まえてごらんなさ~い」『・・・あまり調子に乗りすぎるなよエクセレン』「あら、私の事を心配してくれるの?」『別に心配などしていない・・・ただ、お前が墜とされると指揮に係わると考えただけだ』「もう、キョウスケったら照れちゃって」『・・・勝手に言っていろ。俺は左翼に展開中の部隊の迎撃に向かう。お前は引き続き、この場で味方の援護を頼む』「りょ~かい」冗談交じりの通信を終えた二人は、それぞれ苦戦している味方の援護のための行動を開始する。その頃、武と剛田達の部隊は必要以上に敵の猛攻に晒されていた―――『クッ、次から次へと・・・第二世代機風情が、調子に乗るなよっ!!』両手に長刀を構え、近寄る敵機を次々と両断していく剛田。元々、武御雷は接近戦に特化した第三世代機であり、近接戦闘は最も得意とする分野だ。更に付け加えるならば、彼は必要以上に接近戦を好む傾向があるため、その能力にも秀でている。「あの馬鹿・・・隊長が先頭切って前に出てどうすんだよ・・・」「剛田君だもん、しょうがないよ・・・」その光景を見ていた武と純夏の二人は、半ば呆れながら苦笑いを浮かべている。「純夏、機体のダメージは?」「右脚部に若干の損傷があるけど問題は無いと思う。負荷を掛けすぎなければ行けるよタケルちゃん」「解った。ダメージと残弾のチェックを重点的にやってくれ。OSの方は現状維持で構わない」「了解!」機体の状況を確認した武は、剛田を援護すべくその場を後にしようとしたのだが―――「っ!?タケルちゃん、後方から敵機!」「解ってる!!」機体を反転させ、迎撃行動に移る武御那神斬。武は突撃砲を乱射し、弾幕を形成すると同時に後方へ跳躍を開始しようとした直後、3機のF-16Cがほぼ同時に120mmを発射。余裕で回避できると踏んだ武は、あえてその120mmを無視し、兵装を長刀に変更。着弾時の爆風に紛れて一気に距離を詰め、敵を落とす作戦を組み立てる。「純夏、120mmの着弾と同時に前に出る!」「了解っ!!」敵にカウンターを放つため、着弾ギリギリまで粘る武。相手の狙いは着弾時の爆発による噴煙でこちらの視界を封じ、その隙に一気に距離を詰める事で接近戦を仕掛けてくるのだろうと彼は考えていた。そのために兵装を長刀に変更したのだが、ここに来てそれが仇となる事態が発生してしまう。「え、煙幕!?」弧を描く様に飛翔する120mm弾は、突如として煙を噴出し、爆発することなく地面へと落下したのだ。流石にこれは予想できなかったと言わざるを得ないだろう。何故ならば、対BETA用に開発された戦術機の兵装において、煙幕などといった物はあまり使われはしない。その理由は、BETAと呼ばれる種は一概には言えないが、目に該当する器官を用いて索敵を行うタイプが少ない事が挙げられ、相手の目を眩ませるための煙幕や閃光弾などと言った物があまり有効ではないからだと考えられている。対人探知能力の高いタイプは、どちらかと言えば感覚器の様な物を用いて目標を補足しているケースが多いのだ。これらはBETAが戦場で飛翔体であるミサイル類や、高度な能力を持つコンピューターを搭載した有人兵器・・・すなわち、戦術機を優先的に狙おうとしている事からも見て取れるだろう。「純夏!センサーを熱探知モードに変更だ!!」「り、了解っ!!」武に言われるがまま、索敵モードを熱探知へと変更する純夏。しかし、この一瞬の隙を見逃すほど敵も甘くはない。噴煙に紛れる形で散開した敵機は、気付けば武達を囲むような位置に陣取っており、完全に退路を断たれる形となってしまっていたのだった。だが、武も焦ってはいない。敵が一瞬の隙を突いてこの布陣を選んだ事は素直に認めざるを得ないが、敵がばら撒いた煙幕はまだ晴れてはいないという状況。という事は、敵側からもこちらの位置を確実に特定する事は難しく、相手がどの様な方法を用いてくるかの予想が立てにくいのだ。「包囲したつもりだろうが甘いんだよっ!!」そう叫んだ武は、先ず後方の敵に向けて長刀を投げつける。煙の中から突如として現れた長刀に対し、敵が回避行動を取らざるを得ない状況を作り上げると、今度は前方に向けて無造作に突撃砲を乱射。敵が怯んだ一瞬の隙に、上空へ向けて一気に跳躍を開始するが、敵もそれ位の事は予測済みと言わんばかりに彼を追いかける。「今だっ!!」機体を強引に捻らせ、跳躍ユニットを逆方向に向けた武は、自身にかかる負担など気にせずスラスターを全力で吹かし急降下―――当然の事ながら、敵機はとっさの彼の行動について行けず、上空で衝突してしまう。3機のF-16Cはバランスを失い、そのまま絡み合う様にして落下したところを36mmや120mmによって掃討されていた。「何とか上手く行ったみたいだな・・・」「・・・タ~ケ~ル~ちゃ~ん」「ん?どうした純夏?」「何考えてんのよ!この機体にはタケルちゃんだけじゃなく、私も乗ってるんだよ!?少しはその事も考えてよっ!!」「わ、悪い・・・XM3が積んである機体だったらあんな無茶しなくても済んだんだけどさ・・・」「もう、タケルちゃんのバカ!!今の衝撃でさっき受けてたダメージが更に酷くなっちゃったじゃない!!」「・・・でもさ、敵を倒せたんだし結果オーライって事で・・・ダメ?」「ダメに決まってるでしょ!!」「スミマセン・・・」彼女に対し素直に武が謝る事は珍しいが、今回ばかりは完全に自分が悪いと踏んでいるのだろう。しかし純夏もこれで終わるようなタイプではない。逆に怒り返してくると考えた武が、珍しく素直に自分の言っている事に耳を傾けているのだ。これ幸いと言わんばかりに次々に武に向けて説教を投げかけていた。確かに彼女の言うとおり、事前の打ち合わせも無しにこの様な無茶な機動を行えば、同乗している衛士ならば誰もが彼女の様に怒るのは当たり前だ。先程武が言ったように、XM3搭載機・・・すなわち横浜で開発された不知火改型であったならばこの様な無茶をする必要はないと言える。その理由は至極簡単なことだ。XM3搭載機ならば先行入力、コンボ、キャンセルといった特殊機動が行えるが、帝国で開発された武御那神斬に関してはそういう訳には行かない。そもそもOSの調整が完全ではないこの機体では、武の最も得意とする三次元機動を行うことすら難しいと言えるだろう。『相変わらず無茶な機動をやる奴だなお前は』言い争っていた武と純夏の間に入る様に通信を繋げて来たのは剛田だった。「お前にだけは言われたくねえぞ剛田!大体だな、部隊長であるお前が突出しすぎてどうすんだよ!?そもそも隊長ってのは部隊全体を見渡せる位置でだなぁ・・・」流石の武も我慢の限界が来たのだろうか?本来なら純夏に向けられる筈の怒りは、気付けば剛田の方へと向いている。『やかましい!貴様の方が階級は上かもしれんが、現在この隊を預かっているのは俺様だ!!俺様の指揮下に入っている以上、貴様にとやかく言われる筋合いはない!!』「何だと!?せっかく人が親切に教えてやってんのになんだその態度は!!」『何が親切にだ!貴様に教えて貰う事など何も無いわ!!』「あ~もうっ!二人とも五月蠅いっ!!」「耳元で怒鳴るなっ!!」コックピット内で立ち上がった武は、そのまま後ろに振り返るといつもの調子で純夏の頭を叩く。『パシッ!!』っと甲高い音が響いた直後に怒鳴り返す純夏。「いった~い・・・何すんのさタケルちゃん!!」「うるせえ!」再び純夏の頭を叩く武―――「に、二度も打った・・・うぅ~、お父さんにも叩かれた事無いのにぃ~」「人間親に叩かれずに成長するなんて事は稀だ・・・良い機会じゃないか純夏」『タケル!女性に・・・いや、純夏さんに手を挙げるなどという暴挙・・・例え世界が許しても、この俺様は許さんぞ!!』「言ってろバ~カ!・・・だいたいだな純夏よ、俺が剛田に対して隊長とはどう言ったものかを説いている最中に割り込んで来るお前が悪い」「タケルちゃんこそ、隊長ってものがどんなものなのか解って言ってるの?」「当たり前だ・・・俺をお前や剛田と一緒にしないでもらいたいね」「ちょっと、私と剛田君を同レベルに扱わないでよ!私の方が剛田君より頭良いモン!!」『がーん・・・そ、そんな、純夏さん酷い・・・』「お前、そりゃちょっと言い過ぎだぞ・・・」「う、うるさいなぁ・・・それよりもタケルちゃん・・・」「・・・な、何だよ?」「私ね、貰った物はきっちり返さないと気がすまない性質なんだ・・・だからね」唐突に声のトーンを落とした純夏。その背後からは、何やら妙なオーラの様な物が感じられる。「ま、待て純夏!とりあえず落ち着け」「大丈夫、私は冷静だよ?」「だったらその右拳は何だ!?」「こう言う時、剛田君がよく言ってたよね・・・俺のこの手が光って唸る・・・お前を倒せと輝き叫ぶ!!って・・・」まるで何かに取りつかれたかのように叫び始める純夏―――「す、純夏!俺が悪かった・・・暴力では何も解決しないぞ?」「もう遅いよタケルちゃん・・・必殺!・・・っ!?」「な、何だ!?」突如としてコックピット内部に鳴り響く警告音。思い出して頂きたい・・・現在この場所がどこであるのかを・・・そう、ここは戦場の真っ只中・・・そして今現在もなお戦闘は続行中であるという事を・・・「しまった!」気付いた時にはすでに遅い。敵の接近を許したばかりか、武達の乗る武御那神斬は敵から放たれたワイヤーの様な物によって両腕を拘束されていた。「クソッ!こっちの動きを封じて仕留めるつもりか!?」同様に剛田の機体もワイヤーの様な物で拘束されており、彼に助けを求める事は出来ないと悟った武は、力任せにワイヤーを引きちぎるべく機体を操作する。その行動を起こそうとした次の瞬間だった―――「ぐぁぁぁぁぁっ!!」「きゃぁぁぁぁっ!!」ワイヤーを伝って放たれる電撃・・・ここに来て武達は、敵の目的が武御那神斬の破壊ではなく、捕獲だという事に気付かされる。『タケル、純夏さん!そこをどけ貴様らっ!!』その光景を見た剛田は絡まるワイヤーを無視し、何とかして助けに入ろうとするものの、敵に行く手を阻まれ動きが取れない。このままでは彼らの身が持たない・・・その時だった―――『切り裂け!カイザー・ブーメラン!!』轟音と共に空を切り、飛来する巨大な物体。それらは武御那神斬を拘束しているワイヤーを両断すると、そのまま主の元へと返って行く。『もう一撃だ・・・!ロック解除、ソードブレイカー、発射!!』続け様に放たれた小型誘導兵器が、武達の周囲に展開している機体目掛けて発射され、次々とそれらを串刺しにして行く―――『これで終わりだ・・・!』彼女がそう言い終えると同時に発射される無数の光。敵は回避する間も与えられないまま、一瞬にして文字通り鉄屑へと変えられていた―――『大丈夫かタケル?』「あ、ああ・・・助かったよコウタ、それにラミア中尉」「お、お二人とも、ありがとうございました・・・」『まったく貴様らは、戦場で呑気に立ち話をするなどと・・・随分と余裕だな?』「すみません中尉・・・」『まあ良い・・・この場は我々が引き受ける。お前達は一度後方に下がれ。そこの斯衛兵、貴様も聞こえているな?』『・・・』ラミアの問いかけに対し、何故か剛田からは返事が返って来ない。最初は機体にダメージを負ったのだろうかと考えたラミアだったが、どうやらそういった訳ではなさそうだ。モニターに映る彼の表情は、別に疲労などから言葉が耳に入らないといった様子でもない。『どうした?聞こえているなら返事をしろ!!』『は、はい!聞こえています!!(う、美しい人だ・・・こんな綺麗な女性がこの世界に存在していたなんて・・・)』返事が遅れた理由・・・それは彼がラミアに見とれていた事が原因だった。何を隠そう、剛田 城二という人物は、女性に対しての免疫が少なく、それでいて惚れっぽい性格なのだ。唐突に現れ、自分達の窮地を救ってくれた彼女に対し、何か感じる物があったのだろう。それが原因で彼女の言葉が耳に入っていなかったのだが―――『ならば言われたとおり指示に従え』『お言葉ですが中尉、自分はまだやれます!』『・・・その心意気は買ってやるが、現状を把握しろ。白銀の機体はどこか損傷しているかもしれん・・・単機で下がらせてまた敵に囲まれるような状況に陥った場合、対処できん可能性が高い』『要するにアンタはタケル達の護衛に付けって事さ。アンタも軍人ならそれぐらい理解しろよ』『グッ、了解・・・行くぞタケル!!』「ああ・・・では二人とも、ここは頼みます」武と純夏はラミアからの指示に素直に従いその場を後にする。剛田は正直納得いかない部分があったようだが、彼女の言うとおり再び武達が敵に囲まれてしまえば対応が遅れてしまう可能性がある。それ以前に、考えなしで暴れ回っていた為に武器弾薬の補充も行わなければならないと判断した彼は、最終的にラミアの指示に従う事にしたのだった。『・・・コウタ、先程ショウコにこちらへ回って貰う様手配した。それまで我々だけでここを食い止めるぞ』「了解だラミアさん。出遅れた分、思いっきり暴れさせて貰うぜ!!」そう言うと彼は、こちらに向かって来る敵目掛けて機体を突撃させる―――「ケンカの極意は先手必勝!こっちから行かせて貰うぜ!!」『コウタ、くれぐれも慎重に行けよ?暴れ過ぎて施設を壊しては元も子もないからな』「ああ!・・・行け!ダブル・スパイラルナッコォォッ!!」カイザーの巨大な両腕が光り輝き、轟音と共に射出される。この機体の必殺技の一つであるスパイラルナックル。戦術機と比較しても、あまりにサイズの違い過ぎるカイザーの拳。それだけの質量をもった物体が、そのまま飛んでくるだけでもかなりの威力だというのに、この攻撃は拳を回転させることで更なる破壊力を生んでいるのだ。せいぜい20m前後の大きさしか無い戦術機では、回避する事は出来ても防ぎきる事は不可能だろう。「カイザー・バースト!!」今度は胸部装甲板が展開し、中央部分から凄まじい熱量を持った粒子が発射される―――「とどめだぁっ!!」カイザー・バーストによりあらかたの敵を薙ぎ払ったコウタは、残った敵機の一つに狙いを定め、更に機体を加速させる。逃げ遅れた敵機に向け、膝蹴りを浴びせた後に上空へと吹き飛ばした彼は、それを追いかける様に自身も跳躍を開始。右腕を前に突き出し、相手の胸部装甲へとそれをめり込ませると同時に、とどめの一撃を繰り出す―――「カイザー・トルネードッ!!ぶち抜けぇぇぇっ!!」コンパチカイザー単体で放つ最強の必殺技であるカイザー・トルネード。文字通り必殺の一撃とも言えるこの攻撃を、戦術機が耐え切れる筈もなく、食らってしまった敵機は跡形もなく吹き飛んでいた―――「余裕余裕・・・次の相手はどいつだ!?片っ端からブッ潰してやるぜ!!」『流石だな・・・と言いたいところだが、もう少し周囲の被害を考えろコウタ』『ラミアの言う通りだ・・・そんな大技ばかり繰り出していては高天原が持たんぞ?』「こっちはこれでも手加減してんだよ!カイザーは基本的にでっけえし、大技主体なんだから仕方ねえだろう?」確かにコウタの言うとおり、カイザーは特機に分類されるため、その攻撃は一撃一撃が強力なものだ。出力を落として攻撃するという手段が無いわけではないが、パイロットのコウタが大雑把な性格である以上、その様な手段を用いる可能性は低いだろう。『だったら地上の敵はラミアさんに任せて、空を飛んでる敵を中心に狙えば良いじゃない』「シ、ショウコ!?」『まったくお兄ちゃんは何をするにしても大雑把過ぎるのよ。いつも考えなしに行動して、後で痛い目にあったりする事が多いんだから、もう少し自重しなさい!』「う・・・わ、分かったよ!」大雑把な兄と良い意味でしっかり者の妹・・・本当に彼女がコウタの妹かと驚かされる事も多いが、これはまぎれもない事実なのである。だが、それがかえって良い関係を築いているという事もまた事実。何かと兄の世話を焼きたがる妹に、心配症の兄・・・何だかんだで互いの事を心配し、思いやる兄妹の姿を見た悠陽が、自分と冥夜の関係も彼らの様になれればと羨ましがるのも無理はないかもしれない。それだけこの二人は固い絆で結ばれているという証拠なのだ。「なら俺とショウコは、上空の敵を中心に攻める。ラミアさんは地上の敵を頼む」『任せておけ、アンジュルグと同じ様にとは行かないが、戦術機よりはこちらの方が私には合っているからな・・・』互いのポジションを確認した彼らは、それぞれの利点を生かした攻撃を行うべく散開する―――『コウタ、敵の数はまだまだ多い・・・合体して一気に敵を殲滅するんだ』「おう!行くぞショウコ!!」『了解っ!!』『唱えよコウタ・・・バーナゥ・レッジ・バトー』「バーナゥ・レッジ・バトー・・・」『Gコンビネーション!』「G!コンビネェェェェェションッ!!」コウタの叫びに呼応するように上昇する二機。カイザーの背中に覆いかぶさるようにGサンダ―ゲートが合体し、機体の各部を変形させていく。Gサンダ―ゲートのサンダースマッシャーが両肩に展開、続けて左右の翼が延長されると最後に機首部分がカイザーの頭部へと合体、徐々に紅き機神本来の姿を形どっていく―――頭部側面から口元を覆う様にしてマスクが展開し、まるで闘志を燃やすかの如く輝きを放つカイザーの両眼。そして―――『「誕生!Gコンパチカイザァァァァァッ!!」』戦場に紅き機神が咆哮が轟き、その雄姿が再び我々の目の前に姿を現す―――「ショウコ!ロア!一気にあいつらをブッ倒す!!行くぞっ!!」『うん!』『了解だコウタ!』「先手必勝、大技ブチかましだ!!・・・仕掛けるぞ、ショウコ!」『分かったよお兄ちゃん!』「カイザースキャナー・・・ロックオン!」カイザーの両眼が閃光を放ち、正面に存在している敵を捕らえる。『開け、次元の門よ・・・!そして我らに力を!』ロアの叫びに呼応するような形で背部から射出される物体―――それをカイザーが掴み、天に向けて掲げると同時に青い光を放ちながら刀身が形成される。「行くぞ、Gコンパチカイザー!!」『Gサンダーゲート、出力全開!!』「うおおおおおっ!!」背部に装着されたGサンダ―ゲートの出力が全開となり、とても特機とは思えない速度で敵の群れへと突っ込むカイザー。「バーナゥ!オーバーカイザーソード!!」OG(オーバー・ゲート)エンジンから供給されたエネルギーで形成された刀身は、眩い光を放ちながら更にその輝きを増してゆく―――「カイザークラァァァッシュ!!」コウタの叫びと共に振り下ろされるカイザー・ソード。刀身から放たれる凄まじいエネルギーと共に発生した衝撃波により、次々と爆散して行く敵部隊―――「まだまだぁぁぁっ!!」そのままコウタは胸部装甲を展開し、残る敵部隊に目掛けてとどめの一撃を放つ。「カイザー・バァァァストッ!!」光の渦に巻き込まれた戦術機の軍勢は、反撃する機会を与えられぬまま次々と爆発していく。「残りも一気に片付ける!行くぞ二人とも!!」「了解!!」『了解だ』その後、敵の増援が現れる事はなくなり、時間は掛かったものの敵の掃討は終了を迎える事となる。幸いな事に高天原の難民達や施設に大きな被害が出る事もなく、陽が傾き始める頃には全ての戦闘は終了していた―――『それじゃあ行ってくる』安全が確認された後、キョウスケ達は高天原の最南端にある区画へと集合し、一時的に自分達が元居た世界へと帰還するコウタ達の見送りに来ていたのだった。「ああ、向こうに着いたらさっき渡したデータをレーツェルさんに渡してくれ」「分かってる。俺達もなるべく早いうちにこっちに戻って来れるようにするよ」「頼む・・・気を付けてな」『では行くぞ、コウタ』「ああ・・・それじゃキョウスケさん、他の皆にもよろしく伝えてくれ。俺達が戻って来るまで無事でいてくれよな」「了解だ」簡単な別れの挨拶を済ませ、カイザーの元へと急ぐコウタ。そんな彼を見送りながら、キョウスケは一人今回の出来事について考えていたのである。全ての戦闘が終結した後、多少の混乱からいざこざはあったものの、無事に敵を撃退する事に成功できた。敵の狙いは未だ判明していないが、執拗に武御那神斬を狙っていた事から恐らくはこの機体の奪取が目的だったのだろう。だが、確証が持てている訳ではない・・・なぜならば、高天原を襲ってきた敵部隊を構成していた戦力は戦術機のみ。しかも、第二世代機を中心とした部隊であり、第三世代機は今のところ確認できていなかったのである。もし、これらの襲撃がシャドウミラー残党によるものだったとしたならば、戦術機以外にもPTなどの部隊を投入して来る可能性が極めて高い上に、指揮官に相当する者が存在している筈だ。それらも確認できなかった事以外にも、多くの謎は存在している。やはり一番の謎は、敵の不明瞭な目的だろう・・・この時キョウスケは、敵の狙いが武御那神斬以外にあったのではないかと考えていた。それはカイザーやサイバスターなどといった未知の技術を用いた機体という訳でもない。「(敵の部隊、そしてその狙い・・・そしてわざわざ今日この日を狙って来た理由・・・更に言うならば、あの崇宰と呼ばれる男・・・明らかに行動と発言が矛盾している。明らかにあの物言いは、紅蓮閣下に対してのものではなく悠陽殿下に対してのものだった・・・まさかとは思うがな―――)」司令室において、突如自分達の前に現れ、気付けば姿が見えなくなっていた人物である崇宰。キョウスケは過去にこの男の様な人物に幾度となく遭遇しているためか、どうしても彼の行動を怪しまずにはいられなかったのである。「ねえキョウスケ、コウタ君達、行っちゃうわよ」「・・・ああ(今は情報が不足しすぎている・・・考えていても埒が明かんか―――)」不意にエクセレンに話しかけられ、これ以上は考えていても意味はないと悟ったキョウスケは、コウタ達の見送りに集中する事にした。そしてカイザーの前方、距離にして数十メートルの位置に光り輝くゲートが展開し始めたかと思うと、それは更に輝きを増しカイザーを飲み込んで行く―――光が治まるとほぼ同時にゲートも消え去り、先程まで彼らの目の前に居た紅き機神は完全にその姿を消していた。「行っちゃったわね・・・」「そうだな・・・」「ねえキョウスケ、これからどうなるのかしらね私達」「さあな・・・だが、殿下との約束を取り付ける事も出来た。後は不測の事態が起こらない様祈りつつ、コウタ達の帰りを待つしかないだろう、な」「私達の世界がどうなっているのかも分からないし・・・ちょっと不安よね」確かにエクセレンの言うとおり、向こうの情勢は何一つ分かっていない。自分達が転移した後、向こうで起こっている出来事を確認する方法が無いのだから仕方ないだろう。ここに来て彼女は、何とも言い知れぬ不安に駆られてしまうのが自分でも解っていた。その原因は、以前夕呼から聞いた話が主な理由の一つである。世界は常に安定を求めている為、失われたものを補おうとする力が働く・・・つまり彼女は、自分達の世界から転移して来た存在を補うべく、その力が発動し何か別の物が自分達の世界へと転移していたりするのではないかという不安を感じていたのだ。「・・・それは確かに心配かもしれんが、向こうにはゼンガー少佐やリュウセイ達も居るんだ。戦力的な面で考えても問題はないだろう」「そうね・・・」夕暮れに染まる空・・・二人はそれ以上何も語らず、ただ無言のまま紅く染まる海を眺めていた。先程までとはうって変わって静けさを取り戻している高天原。聞こえてくる波の音は、まるでこれから始まる戦いへ向けての序曲のようにも感じられるのだった―――あとがき第43話です。今回で帝都編は終了です。前半はナハトとアーベントに乗り換えたキョウスケ達のお話、中盤はタケルちゃん達のやり取り、後半はしばらくお預けを食らっていたカイザーとコウタが大暴れのお話となりました。本来ならばもっとナハト達を活躍させるべきだったのかもしれませんが、カイザーは暫く退場せざるを得ない話の流れから今までの鬱憤を晴らすべくこの様な展開とさせて頂きました。書いていて思いましたが、ちょっと暴れさせ過ぎたかとも反省しています・・・^^;今回の話をもちまして、コウタ達はOG世界へと一時的に帰還し、レーツェル達と合流する予定です。はい、という訳で今後こっちの世界に出てきます・・・謎の食通さん。そしてこれ以上言う必要もありませんね・・・この人とセットのあの人も出します。具体的な登場時期は明らかにできませんが、ファンの方々、それまで楽しみにお待ち頂ければと思います。さて、次回からは訓練部隊のその後のお話です。クーデター阻止のために奮闘するタケルちゃんや訓練部隊の面々の活躍をお楽しみに。それでは感想の方お待ちしていますm(__)m