Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第45話 天元山での出会い(前編)総戦技演習を終えた207訓練部隊の面々は、その後適性検査を終え戦術機教程へと駒を進めていた。現在は先日搬入された練習機である吹雪や烈火の搭乗員が決定したことで、それらを踏まえた上で動作教習応用過程を行っている。『動作教習応用教程F―――終了。各自、機体から降りてコントロールルームに集合だ』各シミュレーターに教官であるまりもの通信が響き渡り、これにて午前の訓練は終了を告げる。「午前の訓練はこれで終了だ。午後からはいよいよ実機訓練だが、これまでと同じ様に行くと思うなよ?実機とシミュレーターは同じ様に思えて全く違う物だと考えて事に当たれ……以上だ」「敬礼っ!」ブリットの号令にあわせ、まりもに向けて敬礼を行う訓練生たち。彼女が退室したのを確認すると、ようやく緊張感が解けたのだろう。「ふぅ……午前中の訓練もこれでやっと終わりか」「午後からはいよいよ実機訓練だね」「そうだな」ブリットと美琴に釣られる様にして他の面々も雑談を始める。そんな中、一人だけ重い表情を浮かべたままの人物がいた。「―――なあ御剣、まだあの時の事を気にしてるのか?前にも言っただろ、別にお前が気にする事じゃないって」「しかし……」「悪いのは向こうなんだし、それにあの場は丸く収まったんだからそれで良いじゃないッスか」「そうですよ、私もアラドさんの言うとおりだと思います」冥夜が気にしている事。それは彼女らの戦術機が搬入されてきた次の日に起こった出来事が原因だった。例によって一部の正規兵が難癖をつけ、武御雷や207小隊に関する事を聞き出そうとしたあの事件である。「……」「黙ってちゃわかんねえだろう?訓練兵」今回はこの場に武が居なかった事により、事態に気付いた冥夜が対応しようと試みたのだが、事前に策を考えておかなかったために幾分か分の悪い状況へと発展していた。隊の仲間を巻き込んでは不味いと判断した彼女は、皆に一言だけつげた後、廊下へと出た。そんな彼女を見つけた正規兵たちは、これ幸いと彼女に近づき、事の次第を聞きだそうとしているのであった。「恐れながら少尉殿―――宜しいでしょうか?」「(っ!?ブ、ブリット?)」食事中に冥夜が席を立つ事自体珍しい光景なのに中々戻ってこない。その事を不思議に思ったブリットが、何かを感じて廊下へと向かったのだ。廊下へと出る直前、偶然にもそこで冥夜と正規兵が言い争いが聞こえた事で、彼女を助けようと行動を起こしたのである。「何だ訓練兵」「無礼を承知で少尉殿にお聞きしたい事があります」「よ、止せブリット!!」「先程少尉殿が御剣訓練兵に仰っていた内容は、少尉殿の個人的な興味からの質問でしょうか?」「……あ?」男の表情が険しい物へと変わり始める。「あれのためにハンガー一つ占拠されてるんだ。整備兵もあの特別機の点検を行ってる。その事情を知る権利があたしたちにないとでも言うのか?」「聞けばお前ら、随分とワケありの特別待遇らしいじゃねえか……そこんとこもキッチリ説明してもらいたいもんだな」「……それは武御雷やその搭乗衛士のことを調べろ……という任務を受けているということですか?」「お前がそれを気にする必要があるのか?いいから訓練兵は言われた事に答えてりゃいいんだよ」正規兵が睨みを聞かせるなか、全く動じる事もなく受け答えをするブリット。明らかに理不尽な問いに対して、彼はどう答えるべきか悩んでいた。「……少尉殿、あの機体や我々に関する事をお答えする事は出来ません」そんななか口を開いたのは冥夜だった。「何故だ?こう聞かれたらそうやって答えるよう命令でもされているのか?お前らは」「そうではありません……」「だったら答えろ」「ですから答えられないのです」「……いい加減にしろよこのガキがっ!」男が冥夜へと詰め寄り、胸倉を掴み締め上げる。「お前らは自分達の立場ってもんが解ってねえみたいだな。訓練生風情が調子に乗ってんじゃねえぞ?」「……」「そうやってダンマリを決め込んじまえば済むと思ってんのか!?」なおも口調を荒げて冥夜に詰め寄る男。「止めて下さい少尉!」「黙ってろ米国人!俺は今、こいつに聞いてるんだ。それとも何か?こいつの変わりにお前が答えるとでも言うのか?」「そ、それは……」「答えられないんならアンタは黙ってなボウヤ」「自分はボウヤじゃありません。ブルックリン・ラックフィールドと言う名前があります!」「……男らしいねぇブリット君。さしずめお姫様を守るナイトと言ったところか……だったらそういう風に扱ってやるよっ!!」男は乱暴に冥夜を突き飛ばしたかと思うと、そのまま勢いよくブリットに殴りかかってきた。この程度の踏み込み具合ならば彼にとってかわす事は造作も無い事だろう―――しかし、そんな予想に反して廊下に響き渡る鈍い音。そう、彼はあえて避けなかったのだ。ここで避けてしまえば後々になって更に難しい問題へと発展してしまう可能性が高いと踏んだため、あえて彼はわざと男に殴られるという選択肢を取ったのである。「ブ、ブリット!?」「―――大丈夫だ御剣。この程度のパンチ、たいした事じゃない」「カッコいいねぇ……少しは骨があるじゃないか」殴られた頬は薄っすらと赤みを帯びてはいるが、微妙に打撃のポイントをずらした事で殆どダメージは受けていない。「俺のパンチがたいした事ないか……言ってくれるじゃねえか……よっ!!」ブリットの言動に男は余計に腹を立てたのだろう。続け様に2発、3発と拳を彼に向けて見舞ってくる。だが、ブリットは抵抗もしなければ止めろとも言わない。ずっと相手を睨みつけたままそれらに耐えていた。「……何だその目は?言いたい事があるなら言ってみろよ」「―――もう宜しいでしょう?階級を盾に個人的な憂さ晴らし……少尉に与えられた権限や力は、守るべき人達を守るためにあるんじゃないんですか!?」「……言ってくれるじゃねえか訓練兵。階級は関係ねえ、かかって来いよ」ファイティングポーズをとりながら右手でクイクイと手招きをする男。しかし、ブリットは相手と殴り合いをするつもりは毛頭無い。自分の立場もある、そして何よりここで目の前の男を殴ってしまえばそれこそ相手の思う壺だ。自分が殴られ続けていれば、少なくとも冥夜には被害は及ばない。そして飽きるまで殴られ続ければ、それで上手く行くと彼は考えていたからだ。世の中はそう甘いものではないが、幸いな事に男の打撃はたいしたものではない。十分に見切ることが可能だし、よほど不意を突かれない限りは大丈夫だと判断した結果だった。『そうか……ならばやらせてもらうとしよう』「えっ?」不意にブリットの背後から聞こえた声―――それを確認しようとした矢先、彼の目の前に居た正規兵は何者かによって殴り飛ばされていた。「何だ、この程度のヤツに良いようにやられていたのか?ブルックリン・ラックフィールド」「あ、アクセル中尉!?」意外な人物の介入に驚くブリット。そして、隣に居た冥夜は一体何が起こったのか理解できないでいる。「丁度良いリハビリになるかと思っていたんだが、な……さて、そこのお前……経緯は知らんが、ここで何をやっていた?」「い、いえ……別にたいした事では……」「ほう、大した意味もなく、ただ単に訓練兵を甚振っていた……ということか」冷たい目つきで足元にしゃがみ込んでいる正規兵を見るアクセル。鋭く、そして殺気に満ちたようなイメージを与えるその眼光は、相手を威嚇するには十分な威力だろう。正規兵たちは先程までとは打って変って大人しくなっている。「ちゅ、中尉殿。我々が悪いのです……少尉殿たちは……『貴様は黙っていろ。今俺はこの男と話をしている、これがな』……申し訳ありません」冥夜もまた、彼の放つ怒気に気おされていた。「何か言いたい事はあるか少尉?」「い、いえ」「そうか……なら今回の件に関しては、見なかった事にしてやろう……だが、今度またこのような事を起こせばどうなるか……解るな?」「グッ、しかしっ!」「なるほど、これだけ言ってまだ解らんというのなら……『そのくらいにしておいたらどうだアクセル中尉』……伊隅大尉か……邪魔をしないで貰いたいものだな」「ここで私が止めなければ更に事態が悪化しかねんからな……スマンな少尉、部下に代わって詫びさせてもらう」部下と言う表現はあまり正しくは無い。確かにアクセルは彼女と同じA-01所属だが、彼はヴァルキリーズのメンバーではないからである。「俺はあんたの部下になった覚えはないんだが、な……まあいい、ここは大尉殿の顔に免じてやるとしよう」それだけ言うとまるで何事も無かったかのようにその場を後にするアクセル。大尉の階級章を着けた人物が現れた事で、流石にこれ以上拘わるのは不味いと判断したのだろうか。正規兵の二人もまた逃げるようにしてその場を後にしていた。「大丈夫か訓練生?」「問題ありません。一応打撃点を微妙にずらしてたんでダメージ事態はたいした事無いです」「そうか……だが、正規兵と問題を起こした事に関しては、あまり褒められる事ではないな」「すみません大尉殿」軍隊と言う所は階級によって支配されていると言っても過言ではない。今回の一件は、明らかに向こう側に非があるとはいえ相手は正規兵だ。正規兵と訓練兵、立場で言うならばブリットたちの方が下だという事は言うまでもない。その訓練兵が正規兵と言い争い、何かしらのトラブルを起こしたとすれば、彼らの監督不行き届きとして上官であるまりもにも被害が及んでしまうのである。そんな事、ブリットにしてみれば十分承知している事なのだろうが、あえて彼はそれを無視して仲間である冥夜を守ろうとした。そういった彼の仲間を想う気持ちは賞賛に値する物だが、それが通じるほど軍隊は甘いものではないのである。「みちるお姉様ったら、素直じゃないわねぇ……もう少しブリット君を褒めてあげても良いのに」「……中尉、その呼び方は止めてくれと言ったばかりだろう?それに今回の一件はそういう訳にも行かん」非常に聞き覚えのある声、意外な事に伊隅と共に現れたのは彼も良く知る女性、エクセレン・ブロウニングその人だった。「ホント、お堅いわねぇ……でもブリット君、カッコ良かったわよ。お姫様役が冥夜ちゃんじゃなくてクスハちゃんだったら良かったのにね」ニヤニヤと笑みを浮かべながらブリットをからかうエクセレン。「な、何でそこにクスハの名前が出てくるんですか!?……それよりもエクセレン中尉、今日はキョウスケ大尉と一緒じゃないんですね」「さっきまでは一緒だったわよ。模擬戦の一環で、こちらの伊隅大尉達の部隊と合同訓練をやってたんだけど、何だかお姉様と意気投合しちゃってね。これから一緒にお昼に行く所よ」「なるほど」伊隅とエクセレン、一体どんな事で意気投合したんだろうか―――これが水月とエクセレンなら何と無く解らない事も無いのだが、非常に真面目な性格で通っている伊隅とエクセレンの接点がまるで見えないのだ。後にエクセレンが語った事実により、ブリットの中での伊隅のイメージがガラリと変わってしまう事になるのだが、それはまた別の機会に述べさせていただくとしよう。「それよりも、そんな顔のまま皆の所へ戻るわけにもいかないでしょ?悪いんだけど冥夜ちゃん、ブリット君を医務室へ連れて行ってくれるかしら?」「は、はい」不意に呼びかけられたことでハッとした冥夜は、エクセレンに言われたとおりブリットに手を貸しながらその場を後にする。医務室へと向かう道中、先程の事を謝るために冥夜が口を開く。「……本当にすまないブリット」「別に謝る必要なんて無いさ。俺達は仲間だろ?」「仲間だからと言って済む問題ではない……そなたがそこまで酷くやられる必要は無かったのだ」「大丈夫だって、本当にたいしたダメージは受けてないんだ」それが証拠にと、わざと大げさな動きをつけながら怪我を負っていないという事をアピールするブリット。しかし、冥夜の表情は一向に明るくなる気配は無い。本来ならばあそこで殴られているのは自分だった筈。それを自分の不甲斐無さが原因で仲間を傷つけてしまった事を彼女は悔いているのだ。「……実際の所、あの武御雷やお前達の待遇に関する事なんて俺もよく解ってないんだ。だから答えようが無かった」沈黙が続いているなか、徐にブリットが口を開いた。「それにあの正規兵のやり口が気に入らなかったっていうのは俺自身の意思だからな。君が気に病む必要は無いよ」「しかし……」「もう止めにしよう……これ以上俺達が言い争っても話は平行線のままだ」「……」冥夜はそれ以上何も言い返すことが出来なかった。これ以上彼に詰め寄ってしまえば、彼の行為が無駄になってしまいかねないと判断したからである。そしてその後、ブリットと冥夜の二人はまりもに呼び出され注意を受ける事となる。幸いな事、と言っては不謹慎かもしれないが、今回の事は伊隅達がまりもや相手側の上官に執り成してくれたことで大きな問題に発展する事は無かった。一応の処置として、二人には一日だけ自室での謹慎処分が言い渡されたのみ。正規兵側はどうなったかまでは彼らの知る由も無いが、これだけの処分で済んだのは間違いなく伊隅達のお陰だろう。後日、謹慎処分を受けた事に対して他の訓練舞台の面々は驚いてはいたが、詳細を聞いた事によりほとんどの者が納得する事となったのだった―――「それよりもブリット君、傷の方はもう大丈夫なの?」「ああ、元々たいした怪我じゃなかったしな」「でも、こんな事は今回限りにしてちょうだいよ?今回の一件で私達が一部の正規兵に……いえ、周囲の人達にどう思われてるかがよく解ったと思うけど、あまり目立った事は起こさないに越した事は無いんだから」千鶴の言い分も一理ある。確かに207訓練部隊の面々は、その出自や待遇など、訓練兵にしてはおかしな点も多い。その事を快く思っていない者も存在しているという事だ。「でもさ千鶴さん、逆に俺達はスゲェんだぜってのを見せ付けて納得させるってのもアリなんじゃないッスか?」「確かに貴方の言う事も一理ある。でもね、私達は今は訓練兵……階級も持たない私達がそんなことをしてしまえば余計にそんな人が増える可能性があるわ」「……榊らしい考え方だね」「あら?私の考えに同調するなんて、貴女にしては珍しいわね?」「別に同調しているわけじゃない。優等生らしい榊らしい考え方だと思っただけ」「何ですって!?」「私も慧の意見に賛成」「ラトゥーニまで……そう、貴女も私の事をそんな風に思ってたのね」意外な人物からの意見に表情を曇らせる千鶴。「そうじゃない。今の千鶴の言い方だと、自分達は優れていると言っている様なもの」「そうですわね。多分慧もそれを言いたかったんだと思いますの」「……確かにそうかもしれないわね。ごめんなさい、もう少し言葉を選ぶべきだったわ」確かにアラドの問いに対して、今の答え方ではそう取られても仕方ないだろう。今までの彼女ならば、ここでこうしてワンクッション置いた意見のやり取りは出来なかったに違いない。少しずつではあるが、隊全体にこうした兆候が見られていることは非常に良い点だ。皆から出た意見を素直に受け止め、そしてそれを踏まえた上で意見をまとめる。この場に武が居たならば、間違いなく喜んでいたに違いないだろう。「さて、休憩時間をこれ以上浪費するのは勿体無い。さっさと飯にして午後からの訓練に備えよう」「そうッスね。あ~腹減ったぁ」「もう、アラドったら……」そして彼女らはシミュレータールームを後にし、午後からの訓練に備える事となる。午後からの実機訓練は比較的簡単なもので、シミュレーターと実機の違いを体験し、その上での微調整を行う程度の物だった。流石にシミュレーターとは違い、体感するGや高速時の旋回などによる慣性などにてこずる部分も見られたが、殆どの者は訓練が終了する頃にはそこそこの動きを行えるようになっていたという。そして数日後、彼女らはついに実機を用いての訓練の一環として天元山を訪れる事となる―――「わからない子だね、まったく!!いいかい!あたしゃここを離れるのはお断りだと言ったんだ!!」「わかんないのは婆さんの方だろ!そこの天元山はもう噴火寸前なんだよ!危険なんだから俺達の言う事を聞いてくれよ!!」「ふん!」先程から老婆とやり取りを行ってるのはアラドだ。207訓練部隊初の戦術機を用いた任務として与えられたのは、天元山近辺に不法滞在している住民の救助活動。旧天元町周辺を中心に再三の退去通告を無視している住民達を安全に避難させる事を目的としている。だが、あくまでこれは表向きの事であり、本来は12.5事件を未然に防ぐための処置だった。無論、この事を知っているのは極一部の人間のみなのだが―――「目上の者に対する口のきき方も知らないのかい!」「……そこの天元山が噴火寸前で危険なんです。お願いですから自分の言う事を聞いて避難してください」「やればできるじゃないか。でもね、あたしゃ絶対にここを離れないよ!!」何度も説得を試みるが、一向に首を縦に振ろうとしない老婆。今回の任務はまりもがCP要員を務め、武は各現場を移動しながら指示に当たっている。作戦範囲も広く、避難させなければならない住民も多い事を考慮してエレメントを組んでいるのだが、今回は珍しい組み合わせとなっていた。B、C小隊の面々を意図的に振り分けているのである。「物分りの悪い婆さんだな……」「何だって!?誰が物分りが悪いってんだい!!」「婆さんだよ!婆さん達を退避させるために一体どれだけの兵士が命張ってると思ってんだよ!!」「誰も頼んじゃいないよ!放っといとくれ!!」問題は山積―――これがアラドが率直に感じたものだ。「よさぬかアラド!」「うっ……だってさぁ冥夜さん(ったく、何で俺が睨まれなきゃならないんだよ……)」今回最大の問題は冥夜だった。元々彼女は、この作戦には余り乗り気ではなく、納得も行っていない様子だ。「ご老人、どうかお許し下さい。この者に代わり、非礼をお詫びいたします」「な、何で謝るんだよ冥夜さん!?」「そなたは少し黙っていろ」何故彼女を問題だと彼が感じているか―――それはこの場に来るまでに数人の住民を相手にした際、異常と言っても良いほどに彼らの肩を持つのだ。確かに無理やりに避難させる事は、アラド自身も心地よいものではない。かといって彼らの言い分を全て聞いていては、その分だけ無駄に時間を浪費してしまう事にも繋がる。これまでは何とかこちら側の説得に応じてくれる人ばかりだったが、それらは全て彼女が説得したと言っても良い。そして、その度に疑問に感じていた事がもう一つ―――「何だい?礼儀知らずの兵隊さんの次はばかに改まった……!?」老婆がそう言い掛けた直後、またしてもこれまでと同じ現象が起こった。冥夜の顔を見た人達の殆どは、何故か同じ様に何かに驚くような表情を浮かべ、態度を一変させるのだ「あ、あんた……いや、貴女様はもしや!?」「(またかよ……)冥夜さん、知り合いなんですか?」「いや……だが、この方も大切なお方だ」「(この婆さんも大切な人か……一体何だってんだ?冥夜さんの顔を見た途端皆これだ……)」アラドがこのような疑問を浮かべるのも無理は無いだろう。そして、何故冥夜の顔を見た人達がこの様な行動を取るのか―――それは彼女をある人物と間違えているからである。『煌武院 悠陽』日本を統べる政威大将軍にして『御剣 冥夜』の双子の姉。実際に会った事も無ければ顔も見たことが無いアラドにしてみれば何故と考えるのが普通だろう。「も、勿体無いお言葉!!」そんな事を考えているアラドを他所に、その場にしゃがみ込み頭を下げる老婆。「お、おい婆さん!?」「も、もし!」唐突な事に驚く彼らの事など関係ないといった様子で老婆は頭を下げながら口を開く。「生きている内にこの様な日が来ようとは……ありがたや……」「か、顔をお上げ下さい!」「畏れながら!畏れながら、何卒この老いぼれの願いをお聞き届け下さい!!直訴が大罪である事はもとより承知の上でございます!!」「(オイオイ、何だよこれ……それより直訴って……)」もはやアラドは驚きを通り越して現状が理解できなかった。これまで冥夜の顔を見て驚く者は居たが、今回の様に頭を下げこのような行動に出た人物はこの老婆が初めてだったのだ。「この家はあたしと亡くなった主人が苦労して建てた家でございます!ここで育った二人の愚息達は今でも御国の為に前線で戦っております!!」老婆の悲痛な叫びが木魂する。「あたしは愚息達にここでずっと待つと言いました!いつまでもここで待っていると……愚息達はきっと……きっとここに帰ってくるんです!」「……っ!!」「どうか!!どうか愚息達の帰る場所だけは奪わないで下さい!お願いでございます!お願いで……」「け、けど!!火山が噴火したら息子さん達を待つも何も無いじゃないかよ!」「……あたしらは大丈夫でございます。御守岩が必ず守って下さいから……」「御守……岩?」「あそこに聳える大岩がそうでございます……山の神様が御宿りになられる岩でございます」「なっ!?そんなの迷信に決まって……『よせアラド!!』……でも!!やっぱり駄目だ!例えそれが婆さんの願いだったとしても……」「……」冥夜は何も言わなかった―――彼女もアラドの言い分は理解しているのだろう。「やっぱり俺は納得できねぇよ!なあ婆さん……『もしそれで駄目なら……』……っ!?」「それは仕方の無い事でございます。ここで生まれたあたしらは……ここで土に還るのが相応しいんです」「(な、何でそんな事が言えるんだよ……一体何がこの婆さんにそこまで言わせるんだ?確かにここで息子さん達を待っていたいって言う婆さんの気持ちは解る。でも、死んじまったらそれまでじゃないか……例えここじゃなくても婆さんが居る所が息子さん達の帰る場所じゃないのかよ……)」言葉に出してしまうのは簡単かもしれない。だが彼は、そうする事ができなかった。老婆の意思は固い。そして、その意思を自分達の都合で無理やり捻じ曲げる事は出来ないと察したからだ。「……婆さん、あんたの言い分は解った。でも、俺は婆さんを死なせたくない……これだけは覚えておいてくれ」「アラド……」「一度機体に戻って本部に報告してきます」「ああ」冷たい冬の風が吹き荒れるなか、これまでに無い経験、そして選択肢を迫られる事となったアラド。「クソッ!一体どうすりゃいいんだよ!!」コックピット内に彼の悲痛な叫びが木魂していた―――あとがき第45話です。かなり間が空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。今回から天元山での救助活動編です。一応原作に沿った流れで行く予定ですが、折角なのでちょっとアレンジを加えようかと考えてます。そのためのアレンジその1として武ちゃんに代わり、冥夜とコンビを組むのはアラド君です。ちなみに他チームはと言うと、千鶴とラトゥーニ、彩峰とゼオラ、たまとアルフィミィ、美琴とクスハ、霞とブリットといった組み合わせです。まりもちゃんはCPにて指揮、武ちゃんは問題の起こった地点への対処のためフリーとさせて頂いてます。ちなみに月詠さんたちも陰ながら救助活動に参加してると言う設定です(笑)次回は救助活動編中編をお送りいたしますので楽しみにお待ち下さい。それでは感想の方、お待ちしてますm(__)m