Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第4話 再会「タケルッ・・・タケルっ・・・」目に涙を浮かべながらその少女は武の名を何度も繰り返し叫ぶ・・・・・・御剣 冥夜・・・元の世界で突然自分の家に押しかけて来た少女・・・前の世界、その前の世界では共に戦った少女・・・再びこの世界に戻って来たと言う事は、彼女との再会も当然である・・・武にとってはそれは心待ちにしていた事ではあったが、以前とは状況が違う・・・初めてこの世界に来た時、武は自分が知っていると言う事で彼女に抱きついてしまった事がある。しかし、此方側の世界では彼女は自分の事を知っている訳が無かった・・・そして二度目のループ・・・その時はそれを踏まえた上で行動していた訳だったのだが・・・「ちょ、ちょっと落ち付けって冥夜・・・」「っ!・・・そ、そなた、私の事が分かるのか?」「ああ、だからとりあえず落ち着けって」「・・・あ、ああ、すまない・・・嬉しさの余りつい・・・」そう言うと冥夜は、恥ずかしそうにしながら後ろへ下がる。事態が飲み込めない周囲は、ただ茫然としているしか無かった・・・それに気づいたまりもが咳払いをしつつ話し始める。「大尉は御剣訓練生とお知り合いなのですか?」「・・・ええ、まあ・・・」「そうでしたか・・・ですが、御剣訓練生っ!!」そう言うと、まりもは冥夜の方を向く。「いくら知り合いと言っても相手は上官だ・・・分を弁えんかっ!!」「・・・失礼しました」「い、いや、構わん・・・軍曹、話を続けてくれ・・・」「ハッ」そう言いながらも武は考えていた・・・『何故俺の事を冥夜が知っているんだ・・・それ以前に前の世界とは全然違う事が起こっている・・・これもイレギュラーの一つと言う事なんだろうか・・・』その間にもまりもは淡々と説明を続けていた。「本日付で我が207訓練部隊の特別教官に就任された白銀 武大尉だ。皆、粗相のないようにな・・・では、大尉どうぞ・・・大尉?」武は呼びかけられハッとした。慌てて自己紹介を始める。「白銀だ、先程の紹介にもあったように本日付で207訓練部隊の特別教官として就任する事となった。いきなりの事で皆驚いているかもしれないが、今後ともよろしく頼む」「敬礼っ!」まりもが指示を出す。続けて、207訓練部隊の面々が自己紹介を始める。「榊 千鶴訓練兵です。207訓練部隊の分隊長を務めております」「・・・彩峰 慧訓練兵です」「珠瀬 壬姫訓練兵です」「・・・御剣 冥夜訓練生です・・・白銀大尉、先程は失礼いたしました・・・」「現在負傷して入院中の訓練生が1名、207訓練部隊員は以上です」簡単な自己紹介が終わる。今日はあくまで顔合わせだ。武は冥夜の事が気になったが、これ以上ここに留まる理由が無い。どうしたものかと考えてはいたものの、なかなか良い案が浮かんでこない・・・この件に関しては後で考えようと思った彼は、夕呼の所へ戻る事にした。「時間を取らせて済まなかったな、各自訓練に戻ってくれ」「ハッ!・・・敬礼っ!」敬礼を終えると、皆は訓練に戻って行く。しかし、冥夜は武に対して何か伝えたい事がある為か、直ぐにその場を離れようとはしなかった。武も彼女に対して聞きたい事があったのだが、ふと横に目をやると、まりもが今にも怒鳴りそうな雰囲気で居る事に気づく。このままでは不味いと判断した武は、とっさに口を開いていた。「御剣訓練生。俺に対して何か質問があるのなら後で時間を作ってやる。今は訓練中だと言う事を忘れるな」武はこの場ではあくまでも上官であると言う立場ゆえにこう言うしか無かった。しかし、彼女はその言い方から何かを察したようだ。一言、『失礼しました』と言うと、急いで訓練に戻って行く。武はまりもに夕呼の所へ向かう事を伝えると、その場を後に執務室へ向かった。その道中、慣れない言葉を使った為か軽く頭痛がしているような気がしたのは言うまでもない。・・・第90番格納庫・・・夕呼に連れられたキョウスケ達は、自分達の機体が運び込まれた90番格納庫へ来ていた。90番格納庫は彼らが思っていたよりも広く、この大きさならば特機であるソウルゲインなども易々と格納可能であろう。格納庫の一区画には囲いの様な物が組まれており、夕呼が言うには彼らの機体はそこにあるそうだ。「とりあえず整備兵達は一度下がらせたわ。機体に関しては、計画絡みの試作機と伝えてあるから安心して頂戴。それからこの格納庫内のスタッフは極秘計画専用に集められた者達ばかりだから、情報が外部に漏れる心配は無いわ」ここのスタッフは守秘義務と言う物が徹底されていると言う事だろう。それは彼女の口振りからも想像できる。先程彼女が話していたオルタネイティヴ計画絡みだと伝えれば、易々と情報漏洩などは起きないであろうとキョウスケ達は考えていた。「後はアンタ達に任せるわ。適当な所で切り上げて、さっきの場所へ戻ってきてくれるかしら?」「了解しました」そう言うと彼女は格納庫を後にする。「とりあえず、各自分担して自分の機体からチェックしましょうか?皆も自分の機体が気になってしょうがないでしょうしね?」「そうだな・・・香月副司令の性格から考えてあまりのんびりはしていられんだろう。一時間したら一度ここに集合し、各機の状態を報告してくれ」『『「了解っ!」』』そう言うと彼らは各自の機体へと散って行く。キョウスケは自分の愛機であるアルトアイゼンリーゼの前に来ると、改めてその損傷度を確認すると共に今後どうすべきかを考えていた。「やはり酷いものだな・・・」彼の機体は、現在戦術機用のハンガーに固定されている。外見から解るそのダメージは散々なものだ・・・脚部は殆ど原形を留めていない。更に、バックパックやスラスターと言った物は殆ど大破していた。幸いな事に、上半身は数か所の装甲破損程度で済んでいる。まさに奇跡と言っても過言では無かった。下半身の損傷と比べ、上半身の損傷は不自然なぐらいだ。まるで何者かの意思が働いているかの様に・・・「・・・外部の損傷は戦術機とやらのパーツで何とかなるかもしれん・・・問題は中身だな・・・」そう呟くと、彼はリフトを用いてコックピットへと向かう。コンソールを操作し、ロックを解除した彼は自己診断プログラムを走らせる。暫くして、モニターに様々な情報が提示される。一つ一つその内容を確認し終えた彼は、一端外へ出るとエクセレンの所へ向かう事にした。「エクセレン」「な~に?」「ヴァイスの様子はどうだ?」「んー・・・難しいわねぇ・・・」「どうした?そんなに酷いのか?」「ちょっと待っててくれる?もう直ぐ終わると思うから~」彼女はそう言うと作業を続ける。彼女を待つ間、キョウスケはヴァイスを眺めていた。外観からも分かるように、彼女の機体は比較的ダメージが少ないようだ。『ヴァイスに関しては特に問題は無さそうだな・・・しかし、エクセレンは難しいと言っていた。何かしらのトラブルを抱えていると考えるべきだろうな・・・』暫くして、作業を終えたエクセレンがキョウスケの元にやって来る。「どうだ?」「んー・・・一応、この子には自己修復機能があるから大丈夫だと思うんだけど。自己診断プログラムの結果は微妙なモノだったわ」「どう言う事だ?」「私のヴァイスちゃんはアインストによって『超絶マ改造』が施されてる訳なんだけど、部分的にPTのパーツが残ってるのよねぇ・・・多分、爆発の衝撃が原因でそこがダメージを受けてるみたいなのよ」「では使えないと言う事か?」「動くのは動くと思うんだけど、現状じゃ100%の力は出せないでしょうねぇ・・・こればっかりは実際に動かしてみないと私でも分からないわ」「・・・そうか」やはりネックとなるのはPT用のパーツであった。恐らく、他の機体も一番のネックとなるのはそこであろう。現状では戦術機のパーツを用いて修復が可能かどうかも分からない。彼等には戦術機に関する知識が無いのだから当然ではあるのだが・・・「・・・そろそろ時間じゃ無い?」「そうだな・・・一度さっきの所へ戻るとしよう」そう言うと彼らは、先ほどの場所へと戻る。集合場所には既に何名か集まっている様だ。「どうだった?」「私のペルゼインは特に問題ありませんの。時間が経てば元通りになると思いますのよ」「そうか、アクセル、そっちはどうだ?」「ソウルゲインには自己修復能力がある・・・だが、その力にも限界と言う物がある・・・これがな」「そんなに酷いのか?」「使えない訳では無い。100%の能力を発揮するにはちゃんとした場所での整備が必要だと言う事だ」「・・・私のヴァイスちゃんと同じなのね。ラミアちゃんの方はどうだったの?」「私のアンジュルグに関しては、機体そのものは問題ありません。ですが、兵装システムの損傷が酷すぎますです・・・酷すぎます。武器の殆どが使用不可能と言ったところでございますですわ・・・」「そう・・・後はブリット君達だけど・・・そう言えばアルトちゃんはどうだったの?」「・・・無事だったのは上半身だけだな。脚部やバックパックの損傷は思ったよりも酷い・・・幸いにもバンカーやクレイモアユニットは無事だった・・・不自然なぐらいにな。恐らく脚部とバックパックを補う事が出来れば何とかなるだろう」「何とかなれば良いけどねぇ・・・あ、ブリット君達が戻って来たみたいよ?」機体の状況について話し合っていた彼らの元に遅れてブリット達がやって来た。しかし、彼らの表情は重い・・・特にブリットとクスハの二人からは最悪の状況だったのだろうと言う事が見て取れる。「遅くなって申し訳ありません中尉」「構わん。それでどうだったんだ?」そう言われた彼らは、順番に自機の損傷具合について話し始める。しかし、彼らの表情から察する通り、残る機体の損傷度は最悪のモノだった・・・特にMk-Ⅱと弐式は、キョウスケの予想通り完全に使用不可能な程大破していた。彼ら二人の機体は仲間を守る為の盾となったのだから当然である。特にダメージを受けていたのはジェネレーターで、恐らくフィールド展開時の過負荷が原因であろう。残るビルトシリーズ3機は、Mk-Ⅱや弐式に比べれば比較的損傷は軽微ではあるのだが、それでも直ぐに使用可能であるかと問われればNoと言わざるを得ない状態だった。「・・・状況は最悪だな・・・」そう呟いたキョウスケは、改めて自分達の置かれた状況を確認していた。比較的損傷の低かったラインヴァイスリッター、ソウルゲイン、ペルゼイン・リヒカイトは簡単な整備で使えるようになるだろう。しかし、その性能をフルに発揮させようとするならば、今の状態では無理だ。そして、殆ど大破に近い状態のPT達。戦術機のパーツを回して貰う事で修復が可能かもしれないが、完全に元通りと言う訳にはいかないだろう。何か方法は無いものかと考えているが、流石の彼も手詰まりだ・・・「とりあえず俺は香月副司令の所へ報告に行ってくる。お前達は自分達の機体の無事な汎用パーツを探しておいてくれ」「そんな物探してどうするのよ?」「現状では修理もままならん。他の機体から部品を調達してでも修復するしか無いだろう?」「なるほど、そう言う事ね。でも、私達だけじゃ手が足りないんじゃ無い?」「その辺は副司令に整備兵を回して貰う様手配するつもりだ」「・・・あの人の性格からすると何かしら要求されるんじゃ無い?」確かにそうだ、彼女の性格を考えるとタダで整備兵を回してくれるとは考えにくい。どうしたものかと考えていると徐にアクセルが口を開いた。「俺達の機体のデータを取らせてやると言えば問題無いだろう・・・あの女にしてみれば俺達の機体データはかなりの価値がある。科学者と言うモノは昔っからそう言うものだ・・・これがな」「形振り構ってはいられんか・・・」「でも良いの?一応機密よコレ・・・」「状況が状況ですもの、私は仕方ないと思うですの。それに、皆が黙っていれば問題無いですの」「あ、アルフィミィちゃん!?・・・もう、仕方ないわねぇ・・・」「そう言う事だ。後は頼んだぞエクセレン」そう言うとキョウスケは執務室へと向かう事にした。30分程前・・・武は執務室へと戻ってきていた。彼は先程の冥夜とのやり取りを夕呼に話すかどうかを悩んでいたのだが、肝心の彼女は彼が部屋に戻った時には居なかった。彼女以外のメンバーも姿を消していたので恐らく夕呼と一緒に何処かへ行ったのだろうと考えた彼は、霞にもちゃんとした挨拶をしていない事を思い出す。「先生は居ないみたいだし、霞の所に行ってみるか・・・そう言えばドタバタしてて純夏の様子も見に行って無いしな」そうやって一人呟いた彼は、一端執務室を出て霞と純夏の居る部屋へと向かう。同じフロアに在る彼女らが居る部屋へ向かう廊下は薄暗い。そしてその無機質な廊下は、歩く度にコツコツと高い音をその空間に響き渡らせる。まるで侵入者を拒むような空間だ・・・ひょっとしたら何か出てくるんじゃないだろうか?気の小さい者や怖がりな者であったならば逃げ出すかもしれない・・・そんな事を考えながら彼は歩いていた。そうしている間に彼女達の居る部屋のドアへと到着する。必要は無いかもしれないが、一応の礼儀としてドアをノックすると、武は部屋へと入る。「・・・霞・・・」「・・・お帰りなさい白銀さん・・・」「ああ、ただいま・・・さっきは悪かったな。ドタバタしてたもんでロクに挨拶も出来なくてさ」「・・・構いません」「霞、元気してたか?・・・と言っても、俺にとっちゃつい昨日別れたばっかりなんだけどな・・・」武は笑みを浮かべながら言う。「・・・私は約2年ぶりです・・・白銀さんにまた会えて嬉しいです・・・」霞が見せた笑顔・・・それは自分にしてみればつい先日の事なのに、随分長い間見て無かったように思える・・・初めて会った時の霞に比べれば、随分と明るくなったものだ・・・そう思いながらも武は会話を続ける。「・・・純夏は、相変わらずか?」「・・・はい・・・話しかけてみても、返ってくるのは暗いイメージばかりです・・・」「・・・そうか」霞のその言葉に武は落胆した・・・ひょっとしたら純夏にも自分と同じ様な事が起こっているのでは・・・?そう心のどこかで思っていたのだ・・・その表情を察してか、霞が口を開く。「・・・大丈夫です白銀さん、純夏さんはきっと元気になります。そして、あの笑顔を私達に見せてくれる筈です・・・」「そうだな・・・霞が付いて居てくれるんだもんな」「・・・それは違います。白銀さんが居るからです・・・純夏さんも白銀さんに会いたがっている筈です。純夏さんを信じて待っていてあげて下さい・・・だからそんな顔をしないで・・・」「ありがとう霞・・・そうだよな、こんな顔してたら純夏に何言われるか分んないよな・・・」「・・・はい」「そう言えば、先生達が何処に行ったか知らないか?部屋に行ってみたら誰も居なかったんだよ」「・・・多分あの人達の機体を見に行ったんだと思います」「と言う事は90番格納庫か・・・まだID貰ってないし、今の俺じゃ行く事が出来ないんだよなぁ・・・」「・・・」「ん、どうしたんだ霞?」「・・・いえ、何でもありません」「そっか・・・」「・・・どうやら博士が戻ってきたようです・・・」「じゃあ、純夏に挨拶してから先生の所に行くよ」「・・・はい」彼女にそう告げた武は純夏の脳髄が収められているシリンダーへと目をやる。それは相変わらず青白い輝きを放ったままだ・・・自分が目の前に現れれば何かしらの変化が有るのではないかと期待していただけに少々落胆していた彼であったが、直ぐに気を取り直すと彼女に話しかけてみる事にする。「ただいま純夏・・・何故だか解らないんだけど、また戻って来ちまったんだよ俺・・・ごめんな・・・あの時俺がもっと頑張っていたらお前をこんな風にしなくて済んだのに・・・」「・・・白銀さん・・・」「っと、悪い・・・こんな顔してちゃいけないよな。ハァ~俺ってば成長しないよなぁ・・・毎度毎度自分が情けなくなってくるぜ」そう言った彼は即座に気持ちを切り替える。「純夏、もう少しだけ待っててくれ。近いうちに必ずお前を自由にしてやるからな・・・その時はまたあの笑顔を俺達に見せてくれよ?霞だってお前にまた会いたいって思ってるんだからな」「・・・そうです純夏さん。私も早く元気な純夏さんに会いたいです・・・っ!?」「どうした霞?」「・・・い、いえ・・・今何か反応があった様な気がしたんですが・・・」「ほ、本当か?」「・・・解りません。微かに何かを感じたような気がしたんですが、今は何も感じ取れません」「分かった・・・しばらくの間純夏の事頼むな。俺もなるべく時間を作ってここに来るようにするからさ」「・・・はい」「じゃあ、俺はそろそろ行くよ・・・またな霞」「・・・はい・・・バイバイ・・・」「ああ、バイバイ」そう言うと武は二人の居る部屋を後にし、夕呼の居る執務室へ向かった。「先生失礼します」そう言うと武は部屋の中へと入る。「あら白銀、意外と早かったわね」「少し前に戻ってきてたんですが、先生が居なかったんで霞達の所へ行ってました。キョウスケさん達は90番格納庫ですか?」「ええ、彼らは自分達の機体を見に行ってるわ」「どんな感じなんでしょうね?」「そのまま使うのは多分無理でしょうね。使える機体があればそのまま使って貰うとして、無理な場合は彼らにも戦術機に乗って貰うつもりよ」「でも直ぐに用意できる機体なんてあるんですか?」「不知火の予備機を回す事になるでしょうね・・・もしくは試作機を使って貰う事になると思うわ」「試作機ですか?」「第四計画と並行で進めている計画があってね。近々その機体の試作1号機が組みあがる予定よ」「それをキョウスケさん達に使って貰うんですか?」「残念ながらそれとは別の機体よ。試作1号機はアンタにテストして貰う予定」「お、俺がですか?」「そう、この機体は第四計画の概念実証も絡んでいるわ。それから、この計画は国連軍のみで行われている計画では無く、正確には横浜基地と帝国斯衛軍との共同開発なのよ」「前回の世界じゃこんな話ありませんでしたよね?」「そうね・・・この計画は斯衛軍から打診されてきたの・・・煌武院 悠陽殿下直々の親書と一緒にね」「で、殿下から直々にですか?」「そう、だからアタシも驚いているのよ。斯衛軍のシンボルである武御雷が去年配備されたばかりだって言うのに、いきなり新型の開発よ?まあ、アタシにしてみればお偉いさんは何を考えているのか解らない・・・って言うのが本音ね」先生もそのお偉いさんの一人じゃ無いのかと武は心の中で苦笑する。しかし、今になって新型機開発計画と言うのはいささかおかしいものがある・・・ハイヴ攻略の為の新型なのだろうか?そう考えた彼は率直な疑問をぶつけてみる。「・・・佐渡島ハイヴ攻略の為の軍備増強でも考えてるんでしょうか?」「それだったらわざわざ手間のかかる新型の開発なんて行わずに従来機の量産を進めるでしょうね」「それもそうですよね・・・ところでさっきの話に戻りますけど、試作機ってどんな奴なんですか?」「どっちの方?」「ああ、すみません。キョウスケさん達に乗って貰う予定の試作機の方です」「帝国製の第3世代戦術機開発に当たって、米国のイーグルを使ってそのノウハウを取得しようとしたのは知ってるわね?」「はい。そのノウハウをベースにして吹雪や不知火、それから武御雷が作られたんですよね?」「実はね、それらが制作される前に何機か製造された機体があるのよ」「じゃあなんで正式採用されなかったんですか?」「当時の設計思想とコスト面、それから運用が困難であった事などが主な理由ね」「そんな機体じゃ使えないんじゃ無いんですか?」「そのままじゃ無理ね。でも当時の技術では無理だった事も今の技術を用いれば問題は無いわ。それにね、当時の資料を見ていて気付いたんだけどなかなか面白い機体なのよ。斯衛軍と進めている計画にも応用できそうな物が有ったし、第四計画にも使えそうだったから接収したってワケ」「なるほど。流石先生と言ったところですね」「褒めても別に何も出ないわよ?」そんなやり取りをしている彼らの耳にドアをノックする音が響き渡る。「失礼します」そう言って入って来たのはキョウスケだった。「機体の方はどうだったの?」「何機かは暫くすれば運用可能になると思います。ですが100%の力を発揮する事は不可能でしょう。残りの機体は補修用の資材が揃わない限り修理は無理ですね」「修理無しに使える機体があったの?」「我々の機体の一部には自己修復機能を持った機体があります。それらは時間の経過と共に使用可能になる筈です」それを聞いた武が目を輝かせながら『凄い』とか『ナノマシンが使われているのか?』などと聞いて来る。「いや、詳しい事は俺にも解らん・・・副司令、ひとつお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」「何かしら?」「自分達の機体を修復する為に資材とスタッフをお借りしたい。現状では我々は協力しようにも機体があの様な状態ですので・・・」「なるほどね・・・でも、此方にも条件があるわ」やはりそう来たかと彼は思っていた。エクセレンが言った通りタダでは動かないと思ってはいたが、この手の人間は自分にとって理に叶わないと判断した場合は簡単に動かないのが基本だ。キョウスケは交換条件として自分達の機体のデータを提供する事を伝えると、彼女はあっさりと了承した。やはり自分達の技術とは違う異世界の技術・・・彼女が推し進める計画にとって必要となるかもしれない物が目の前にあるのだ。こう言った条件を呑まない者はそうは居ないだろう。そう言った彼女は早々にスタッフを手配すると、90番格納庫へと向かわせる。それを聞いたキョウスケは、自分も戻る事を伝えると部屋を後にする。彼が立ち去った後、ちょうど良いタイミングだと悟ったのか、先程の冥夜とのやり取りについて夕呼に聞いてみる事にしたのだが・・・『先生にも冥夜の事を聞いてみるかな・・・いや、でも待てよ・・・』だが武は一瞬躊躇した。冥夜からは何も聞いてはいない。ここで下手な事を言ってしまうより、様子を見てから話す方が良い・・・一人難しい顔をしていた彼に気付いたのか、何を考えているのかと武に問いただしていた。「い、いや何でもありませんよ先生」「その割には難しい顔をしてたじゃ無い?何か言いたい事があったんじゃないの?」なかなかカンの鋭い人だと武は思っていた。「何よ、言いたい事があるなら早く言いなさい?」『別に何でもない』と答えようと思ったが、次第に彼女の表情は険しくなって行く。「えーっと・・・そ、そうだっ、OSですよOS」このままでは不味いと思った武はOSについての話題に変える事にした。「OS?ああ、XM3の事?」「そうですよ、今回はなるべく早く作って貰えると嬉しいんですけど・・・」「それならもうプロトタイプが出来てるわよ?」「へっ・・・?」「アンタが来るだろうと思ってたから、一応ベースになる物は既に作っておいたわ。ただし、初期のデータ取りとかはやってないから、この辺はアンタにお願いする事になると思うけど・・・って言うより、基本的にアンタの戦術機動概念をトレースする為のOSだからね、アンタが居ない事にはβ版すら完成させられないわよ」「そう言う事なら明日にでもデータ取り作業を手伝いますよ」「頼むわ・・・今回も社に無理させちゃったんだから、後でお礼、言っておきなさいよ?」「はい」「じゃ、私は他にやる事があるから、アンタは自分の部屋に戻りなさい」「解りました」そう言うと、武は部屋を後にする・・・自分の部屋に戻って来た時には夜9時を回っていた。これからどうするかを考えていると、不意に部屋の外に気配がする事に気づいた・・・暫くして外の誰かがドアをノックする。『こんな時間に誰だ・・・?』そう思いながらも武は返事をする。「はい」『・・・タケル、私だ。その・・・少し話したい事があるのだが・・・』「ああ、冥夜か・・・ちょうど良かった。俺もお前に話したい事が有ったんだ、入ってきてくれ」『うん、解った』そう言うと彼女は武の部屋に入る。だが、その表情は何故か少し暗い・・・「どうした?」「い、いやすまぬ・・・昼間はいきなりあの様な事をしてしまって・・・」「気にするな・・・まあ、いきなりで俺も驚いたけどな・・・」そう言いながら、武は笑みを浮かべる。「で、話ってのは何だ?」「・・・実は、この様な事そなたに話しても信じて貰えるかどうか解らないのだが・・・」「何だ言ってみろよ?」「う、うむ・・・実は、私は一度死んだ筈なのだ・・・あの時、桜花作戦に参加しあ号標的と対峙した際に・・・そして、気が付いたら私はそれまでの記憶を持ったまま自分の部屋で目が覚めたのだ・・・」同じだ・・・武はそう思う他無かった・・・話を聞く限りでは彼女も自分と同じ事を体験している・・・「ば、馬鹿げた話をしていると思うかもしれない・・・でも、確かに私は時間を遡り過去の世界へ来てしまったのだ・・・信じて貰えぬかタケル・・・?」「・・・ああ、信じるよ。お前がそんな冗談みたいな嘘を言う訳が無い・・・実を言うとな、俺にもその時の記憶があるんだ・・・」そう言った武の表情は暗く口調も重い・・・それはあの時、仕方が無かったとはいえ彼女に手を掛けてしまった事が原因だった・・・それを察した冥夜が口を開く。「まさかそなた、あの時の事を気にしているのか?」「・・・ああ、仕方が無かったのは解ってる・・・でも、俺は作戦遂行の為、あ号標的を倒す為にお前を・・・いや、お前達を犠牲にしちまったんだ・・・これは許される事じゃ無い・・・」「・・・タケル・・・」タケルの表情は尚も暗い・・・「タケル・・・お願いだからその様な顔をしないでくれ・・・私は今こうやって生きている・・・あそこで私の命は潰えてしまったかもしれない・・・でも、今の私はこうやって生きてそなたの目の前にいるのだ・・・その様な顔をされると・・・」武に釣られるように冥夜の表情も暗くなる・・・その眼にはうっすらと涙が滲んでいた・・・それに気づいた武はハッとした・・・自分は二度とあのような事が起こらない様にする為に再び動き出したのだと・・・それなのに、冥夜にまで心配をかけてしまっている・・・『何やってんだ俺は・・・』武は自分にそう言い聞かせると彼女に話しかけた。「スマン冥夜、お前もそんな顔しないでくれ・・・今はそんな話をしてる場合じゃ無かった」「・・・タケル、そうだったな・・・それよりも、そなたもあの時の記憶が有ると言ったな?」「ああ、俺にもその時の記憶がある・・・俺はこの記憶や経験の事を前の世界の記憶と便宜上名付けているけどな。冥夜、この事は他の誰かに話したりは?」「いや、自分からこの様な事を話したのはそなたが初めてだ・・・」「・・・そうか・・・『ん?』」武はふと疑問に思った。冥夜は今『自分から』と言った・・・と言う事は、以前に誰からかそういう話をされたと言う事になる。初めは夕呼かとも思ったが、あの人が冥夜も記憶を持っている事を言わないだろうか?性格から考えると言わない可能性もあるが、この手の話はかなり重要な話だ・・・隠し立てする必要性は無い。そう考えると武は、恐る恐るその相手が誰なのかを聞いてみる事にした・・・「冥夜・・・」「どうしたタケル?」「さっきお前は『自分から』って言ったよな?それって他の誰かに尋ねられた事があるって事か?」「・・・ああ、そうだ」「それって誰なんだ?もし良かったら教えてくれないか?」武はあえて夕呼の名前は出さずに問う。彼女はどうすべきかと言う様な表情を浮かべた・・・直ぐに答えられないと言う事は、よほどの人物なのか?そう思っていると、ゆっくりと冥夜の口が開く・・・その名前を聞いた時、武は驚かざるを得なかった・・・そして、冥夜の口からその人物の名前が出てくると言う事すらも予想できなかった・・・以前の記憶を有した人物が複数存在している・・・異世界からの転移者・・・そうした事象が起こっているにも拘らず、世界はその歩みを止める事は無いまま、ゆっくりと時は流れて行くのであった・・・あとがき第4話です。前回のあとがきで書いた様にキョウスケ達のPTに関して書かせて頂きました。現状のままでは運用不可能な状態に追い込まれている機体ばかりになっています。活躍を期待していたのに・・・と言う方も多いと思います。この辺は考えがあっての事ですのでご了承ください。最終的には必ずOG組の機体は復活させます。時期などはいつになるかはまだ明かせませんが、その時をお待ち下さい。それでは感想お待ちしております。