Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第52話 護りたい背中宗像、風間の両名と別れた武は、彩峰が部屋に居る可能性を信じて訪れていた。まず行わなければならないのは、先程拾った手紙を彼女に返す事。そして、彼女からこの手紙の詳細を聞き出す事の二つ―――一つ目に関しては、特に問題は無い。問題なのは二つ目……手紙の詳細に関する事だ。流石にこの手紙の内容について洗いざらい話せ……などと言って彼女が素直にそれに応じるとも思えない。それ以前に何故この手紙の内容を知っているのかを聞かれた場合、答える術が存在しない。「とりあえず、余計な詮索は無しだな……まずはこの手紙を彩峰に返さないと」ひとまず手紙を返す、そして上手く彼女を誘導し手紙の詳細を聞き出す。これが彼の考えた方法だった。意を決してドアをノックしようとした武だったが、ふと以前の事を思い出す―――「(いや、待てよ……手紙の詳細を聞いたところで意味は無いじゃないか……下手に詮索しても意味がない。前の世界であいつに色々問い詰めても、結局事が起こるまで何も話してくれなかった。これは違ったアプローチで攻めた方が良いかもしれないな―――)」引いて駄目なら押してみろという言葉がある。以前は推測で動いていただけに、殆ど何も考えず最初の段階で彼女を問い詰めていた。だが今回は、確実な証拠と呼べる前回の記憶がある。時間が無い事は重々承知しているが、下手に騒ぎ立てた所で事態は好転しない。とりあえず現段階では彼女に手紙を返し、時間をおいて別方向からアプローチを掛けた方が良い反応が返ってくる可能性も高い。そう考えた武は先程の案を破棄し、新たに思いついた方法を試してみる事にした。「彩峰、居るか?」人の部屋を尋ねる際、ドアをノックする事は最低限のマナーだ。例え気心知れた中であっても、礼儀を忘れてはならない。コンコンコンと三回ドアをノックし、彼女が居るかを確認する武。ちなみにノックの回数は、状況に応じて使い分ける必要がある。彼が今行った回数は、友人知人恋人など、親愛ある間柄の人物に対しての場合だ。戦友とも呼べる彼女に対してならば、あながち間違ったものではないだろう―――「―――誰?」「白銀だ彩峰。ちょっと話があるんだが、入っても良いか?」「良いよ。鍵は開いてるから―――」ひとまず入室の許可が得られた事を確認した彼は、周囲に誰もいな事を確認して中に入る。先程あのような一件があったばかりだ。周りに誰かいて先程の様な誤解を招いても困るし、なによりもしも手紙の内容に関する話になった場合、それを第三者に聞かれてしまうのは不味い。事は慎重に運ばねばならないが、だからと言って落ち着き過ぎても駄目なのである。彼女を上手く誘導し、ひとまずは手紙の内容に関する事から遠ざけねばならない。そしてタイミングを見計らって手紙に関する事を問う。一つ間違えば危険な綱渡り的プランだが、今の彼にはこれ位しか思いつかなかった―――「―――さっきは悪かったな」「別に……話ってそれだけ?」「あ、それだけじゃないんだ。さっきぶつかった時にさ、お前手紙落としただろ?それを届けに来たんだ」手紙と言う単語を聞いた途端、彼女の表情が一変する。「っ!?返して!!」叫ぶような調子で声を張り上げ、彼が右手に持っていた手紙を奪い取る彩峰。「……見たの……?」鬼気漲る表情、とでもいうのだろうか?普段の彼女とは、到底似つかない形相で彼女は武に迫る―――「いや、見てない……やっぱり大事なものだったんだな。その表情からすると相手は男……ラブレターか?」武はあえてニヤニヤとした顔を浮かべながら、からかいの言葉を投げかける。「白銀には関係ない……」「隠すなよ、肌身離さず持ってたって事は、相当大事な人なんだろ?テレるなよ……グッ!」そんな彼に激怒したのだろうか?彼女は唐突に距離を詰め、彼をドアに押し付け口を塞ぐ。「……知らない方がいい。白銀を……殺したくないから」「ムグッ……(チッ、逆効果だったか……こうなったら仕方がない)」どうやらふざけ過ぎたようだ……そう悟った武は、彼女の腕を振り払い体重を移動。そのままの勢いで彼女の足を払い、流れる様な動作で相手を押し倒す―――「……物騒だな。俺を殺したくないなんて……」「……見たんでしょ?」「中身は見てない……つーか、これでも人様の物を黙って拝見する様な性格じゃないと思ってるんだがな」「……そう」あえて前回と同じ方向へは持って行かない。そう決めた武は、彼女を問い詰める様な真似はしなかった。それが上手く行ったのだろう……多少ではあるが、彼女の表情が和らぎ始めているのが解る。「なあ、彩峰……」「なに?」「いや、なんでもねえ……悪かったな、押し倒したりして」「……」立ち上がりながら、何かを言いかけて思いとどまる武。何か言葉を掛けるべきかと考えたのだが、この場では下手な詮索をしないと決めたばかりだ。ここはあえて引き、相手の出方を見ようとするが、彼女からは何の返答も訪れない。「―――殺したくないか……余程大事な人からの手紙だったんだな。初めはからかう気満々だったってのに、やらなくて良かったよ」あくまで詮索はしない……だが、彼女が何かを言いだす切っ掛けは作りたい。矛盾とも取れる行動だが、何らかのアクションを起こしておかなければそれこそ意味が無い。彩峰に対しては、直球で攻めるだけでは駄目なのだ。時折こういった変化球を用いる事で彼女を打ち取る事が出来る事もある。「―――そんなんじゃない」「えっ……?」かすれる様な小さい声―――こちらを見てはいないが、ポツリと呟いた彼女の一言を武は見逃さなかった。「……何か悩み事か?」「違う……」「だったら何でそんな辛そうな顔してんだ?」「私はいつもこんな顔してる」「……そうか。だったら俺も詮索しない」「……聞かないの?」「聞いたら答えてくれるのか?」「……」返ってきた答えは沈黙……それはすなわち、言いたくないという事だろう。これ以上問い詰めても逆効果になる。そう考えた武は、彼女の部屋を後にする事を決める―――「それじゃ、そろそろ行くわ―――」ドアのある方へと振り返り、そのままそちらへ向けて歩みを進める。そして、ドアノブに手を掛けながら彼は一言だけ呟いた―――「―――お前は、俺に……いや、俺達にとって大事な仲間だ。仲間としては放っておけない……俺が言いたい事はそれだけだ」それだけ言って部屋を後にする武。今回取った行動が、吉と出るか凶とでるかは解らない。上手く行けば良いが、最悪の場合は彼女との仲が拗れる。そして不協和音を響かせたままクーデターを迎えてしまう事になるのは間違いない。そのまま暫く歩き、ある程度彼女の部屋から距離を取ってから彼は、一人呟いていた。「……俺は、お前を信じてるぞ……」冷たい廊下には、彼の切なる願いだけが響いていた―――武が彩峰と会話をしている間、キョウスケ達は90番格納庫で機体の修理を開始していた。話し合いの結果ビルガーとファルケンを優先する事を決めた彼らだったが、ここで一つ問題点が発生する。それはビルガーのもう一つの特徴とも言える装備、転移時に殆どが大破してしまったジャケット・アーマーだ。欠損した部分はゲシュペンストのフレームを移植する事で補う事となったが、肝心の外部装甲に関しては手元に存在していない。これはビルガー専用装備と言っても過言は無い物で、シャドウミラー側に存在していないのは仕方のない事だろう。外部装甲を装着しない方向で修復しても構わないのだが、それは直ちに却下された。パイロットがアラドである以上、彼は必要以上に前に出てしまう。結果として被弾率も上がり、その分撃墜される可能性も高い。既に本体の修復は開始されているが、高機動モードのみでしか運用できないのは非常に厳しい。常に危険が付きまとう形となるために、この部分を何とかしない限り戦場に出せない状況が発生してしまったのだった。「迂闊だったな……」「パイロットがアラド君じゃなければ、何の問題も無かったんだけどねぇ……」代用品と呼べるものでもあれば話は変わってくるが、そう都合よく見つかる筈もないだろう。戦術機用の物ならいざ知らず、PT用の物はそう簡単には手に入らない。PT修復用のパーツにしても、偶然手に入った産物でしかないのだ。ここに来て彼らの計画は、暗礁に乗り上げようとしている。だが、天は彼らを見放してはいなかった―――「それにしてもスゲェな戦術機って」「……気楽なものだなお前は」「だって気になるじゃねえか……見てみろよライ、あっちの機体なんて他とは全然違うんだぜ?」そう言って、とある方向を指さすリュウセイ。90番格納庫には、彼らの機体の他に現状で公にできない戦術機も存在している。そのうちの一つが先程から彼の言っているF-23A・ブラックウィドウⅡだ。シャドウミラーの前線基地で鹵獲された機体であり、研究用のためにとここに運び込まれている。だが、彼が指さしているのはそれでは無い。その隣に並び立つもう一機の機体……外見は不知火によく似ているが、細部は大きく異なっている。F-23Aが漆黒とも呼べる色をしているが、その機体は黒真珠とも言えるような輝きを放っており、所々に入った白いラインがそれを一層際立たせていた。「新型か?」「いえ、鹵獲したF-23Aの外装を変更しているそうです」「副司令さんったら、拾った物を使う気なのね……」キョウスケの問いに答えるラトゥーニ、それを聞いてあきれるエクセレン。なんでも夕呼は、『使える物は使った方が良い。それが優秀な物ならなおの事だ』と言っていたそうで、自軍の戦力として組み込む事を決めたらしい。しかし、そのまま運用する事は国際問題に発展しかねないという事で、外装を変更して使う事になったそうだ。その為、この機体の特殊装備とも呼べる光学迷彩は撤去される事となったのだが、独自開発した装甲と電波吸収塗料を用いる事でステルス性を向上させる手法を取る事にしたらしい。外見が変わった程度で誤魔化せるとも思えないが、そこは彼女なりの言い回しで無理を押し通すのだろう。「副司令と言えば副司令らしいな……リュウセイ、気になるのは仕方がないが、向こうの邪魔だけはするなよ?」「解ってるって大尉。それよりもさ、戦術機って機動性を重視してる機体なんだろ?」「ああ、俺達が訓練で使ってる吹雪も、第三世代機の基準に則ってそういう仕様になってるな」「じゃあ、さっき見かけた機体はコンセプトが違うって事か?」「どう言うこと、リュウセイ君?」「部分的にはあのF-23Aって機体によく似てたんだけど、その奥にジャケット・アーマーみたいな外装着込んだ機体を見つけたんだ。戦術機ってのも量産機だけあってバリエーションも多いんだろうと思ったんだけど……」そう、彼のこの一言……ロボットマニアで知られる『リュウセイ・ダテ』の好奇心とも呼べるこの性格が、彼らの抱えていた問題を一気に吹き飛ばす事となった。それを聞いたキョウスケは、ラトゥーニを引き連れその機体の下へと急ぐ。流石に現状ではデータを見せて貰う事は出来なかったが、話を聞く事は出来た。形状こそ違うが、これはアルトアイゼンなどの修復時に用いられた試製01式増加装甲ユニットであり、この新型用に調整されたものだという。現在はテストのために装着されており、結果が良ければこの機体の装備として運用する手筈になっているそうだ。「灯台もと暗し、とはよく言ったものだ……ラトゥーニ、これをビルガーに合わせる事は出来ないだろうか?」「もう少し見てみない事には何とも言えません……ですが、案外うまく行くかも知れませんね」「よし、俺は香月副司令に許可を取ってくる。皆はそのまま作業を続けていてくれ」「解りました」意外な事に夕呼は、簡単にその件を了承してくれた。交換条件としてデータ収集を言い渡される事となったが、それぐらいは了承しても構わないだろう。そういった結論から彼は、それを二つ返事で返し、そのまま格納庫へと戻る。直ぐに整備兵にその旨を伝え、とりあえず予備としてストックしてあった物を回して貰える事となった。「後はこれを合わせるだけだが……」「驚きました……この装備は、Type94式系列の機体に合わせる事を前提としている為、装甲の内側……つまり装着面に特殊柔軟素材を用いているそうです。外装本体の形状は簡単に変更することは出来ませんが、ユニット化されている分汎用性は高いと思います」「へぇ~、だから私達の機体にもすんなり装着できちゃったのね」エクセレンの考えは、残念ながら外れている。この増加装甲は、あくまで不知火系列の機体用に開発された物でありPT用では無い。アルトやヴァイスといったゲシュペンスト系列の機体と不知火では、見た目からして形状も違う。彼らの機体修復時に用いられた増加装甲は、これらと同じ素材を用いた物を部分的に流用しているに過ぎないのだ。そして、それらへの流用を可能としたのが、先程も言われていた特殊柔軟素材だったという訳である。元々これは衛士強化装備用に開発されていた柔軟素材を戦術機用に仕様変更したものだった。既にご存じの通り高度な伸縮性を持ちながら、衝撃に対して瞬時に硬化する性質をもっている非常に便利なものだ。柔軟性の高いこれらを表面装甲と外部装甲の間に挟む事でクッションとし、耐弾性の向上や系列機同士であれば使用可能という汎用性を持たせる事に成功している。『強化装備って、結構高性能なのよね……だったらこれを戦術機に装着できたら面白い事になるんじゃないかしら?』ちなみにこれが、当時夕呼が一人の整備兵に漏らしたセリフである。凡人では思いつかない考え……やはり彼女は天才と言わざるを得ないだろう。そして、それをやってのける整備兵もある意味天才と呼べるかもしれない。「思ったんだけど、これってビルファルちゃんにも装備してみたらどうかしら?」「どうしてですか、エクセレン中尉?」「機体重量が嵩んでしまう分、機動性の低下に繋がると思うんですが……」システムの汎用性は、自分達の機体で既に証明されている。形状の違う機体であっても、部分的な装甲を流用する事が可能とされていたのは、この特殊柔軟素材のおかげだ。だが、高機動を重視している機体にとっては、重量増加による機動性の低下という弱点を生み出してしまう。ファルケンは耐弾性の向上を考えるよりも、機動性の向上を視野に入れた方がどちらかと言えば得策だろう。では、何故彼女がこの様な事を言い出したのか?その答えは至ってシンプル……戦術機としての偽装を施す為だ。「一応私達の機体も、偽装って事でこれが取り付けられてるでしょ?確かに機動性は下がっちゃうけど、今後ビルトビちゃんやビルファルちゃん達を使うんならそうした方が良いんじゃないかって思ったのよ」「なるほど……それは一理ありますね」「それにね、テスラ・ドライブを搭載してるけど、光線級が戦場に居ると下手に空を飛ぶ事は出来ないじゃない?まあ、避けちゃえば問題は無いんだけど、もしもって事もある訳だから多少防御力を上げといた方が良いと思ったってワケ」この二機は高速・高機動戦を主眼に置いて開発されており、陸戦と言うよりは空戦を中心に行っている。エクセレンの言うとおり光線級が存在している場合、下手に上空へ上がってしまえばレーザーの餌食になってしまう可能性も無いとは言い切れない。彼女自身光線級の存在を知って以降、出来るだけ得意とする空戦を行っていないのがそれを証明していると言っても良いだろう。戦術機は、ただでさえ光線級属種に狙われやすい機体だ。無論それは、PTにも言える。戦場において絶対に大丈夫、などと言いきれる可能性は限りなく低い。なるべく後顧の憂いを断っておく方が、生存率は上がるという訳である。「確かにエクセレンの言う通りかもしれんな……それに機体は組み上がっても、細かな最終調整を行わない限り俺達の機体は本来の力を発揮できん。気休め程度になるかもしれんが、ここは両方の機体に装備しておくとしよう」「了解です大尉。とりあえず私は、外装ユニットの調整を手伝ってきます。ゼオラはファルケンのOS周りの調整をお願い」「解ったわ」「なら私は、ビルトビちゃんの調整を手伝うわ」「お願いします」「クスハ、アルフィミィ、お前達二人はエクセレンのフォローを頼む。残ったメンバーは、両機の組み上げ作業だ。何としても今日中に本体だけは仕上げるぞ」『『「了解」』』任務終了後という事で、本日は待機を言い渡されている。訓練部隊が待機命令を受けていたのは運が良い。彼らがこちらの方に時間を割けると言うことは、その分だけ人手が増えるという事に繋がるからだ。そういった理由から男性陣は機体の組み上げを、女性陣はOS周りの調整を担当する事になった。浮上した問題は一先ず解決し、後は時間との勝負という事になる。キョウスケがこの二機の修復を優先した理由は、主にクーデターが防げないといった事が大きい。なるべくならば機体を晒す様な真似をしたくないところだが、シャドウミラーが絡んでいる可能性が高い以上、現状のままでは戦力不足は否めないだろう。もし彼らに介入された場合、数多くの敵を相手にせねばならない状況が生まれてくる。相手の目論見が未だ判明しない中、こちら側の手札を増やしておけるならばそれに越した事は無い。恐らく夕呼は、自分達をジョーカーに例え事に及ぶ筈だ。無論、自分達とはキョウスケ達の事ではなく、A-01全体を含めての意味である。「(あの新型は、間違いなく今回のクーデターに間に合わせるつもりだろう。でなければ、ステルス性の高い機体を用意する意味が無い……対戦術機戦を意識して設計された機体を投入するという事は、恐らく戦闘を考慮しているに違いない。問題は、何処に投入するかと言う点だが……)」夕呼は自分達がクーデターに介入し、自分達が優位に事を進めれるようにすると言い切った。今の所、どういった手順で介入を開始する、といった明確な指示は受けていない。恐らく彼女が彼らに指示を出すのは、決起軍が動き出してからだろう。夕呼が独自に動かせる部隊といえば、直轄部隊であるA-01のみ。一応横浜基地の部隊を動かすことも可能だが、大部隊を動かすためにはそれなりの申請も必要となってくる。その点A-01部隊は、国連軍が表立って関与できない作戦であっても、超法規的措置により派遣が可能なのだ。内政干渉が懸念される中、この部隊に所属しているメンバーならば先程挙げた理由もあって無理を通すことも出来る。言い方は悪くなってしまうが、非常に理不尽な部隊とも言えるだろう。彼女にとってA-01を投入できることは、今後の事を踏まえた上で色々と好都合以外の何物でもない。一部例外を除き、第四計画遂行のために行動したと言えば殆どの不条理も罷り通ってしまうからである。尤も今回の件は、これらに当てはめることが出来るか?……と問われれば、限り無くNoに近い。だから彼女もそのタイミングを考えているのだろう―――「(問題は俺達が配置されるポイントだな……恐らくブリット達は他の訓練兵と共に行動する事になるだろう。だが、その護衛に俺達を配置するとも思えんが……)」『キョウスケ、何をボーっとしている?』「……アクセル?戻っていたのか?」「先程帰ってきたばかりだ。これから俺は香月の所へ行くんだが、貴様も連れて来いと言われた。悪いが一緒に来てくれ」「そうか、解った……(考えていても始まらんか……)……皆は作業を続行してくれ、すまないが副司令の所へ行って来る」「了解です大尉」「では、私が代わりを務めるとしちゃいましょう……します」「ああ、頼む」作業をしながら今後のことを考えていたためだろう。彼はアクセル達が帰還した事に全く気付かなかった。という事は夕呼が頼んでいた別件が、一先ず片付いたということだろうか?その報告のために彼は執務室へ赴くのだと思うが、自分が呼ばれる理由が解らない。考えられることとすれば、クーデター介入に関しての指示だと思うが、だとすると予想以上に事態は動いているという事になる。「アクセル、副司令は何か言っていたか?」「いや、帰還前に報告をした際、貴様を連れて来るように言っていただけだ……何かあったのか?」「ここでは詳しく話せんが、近々……いや、今日明日中にでも出撃せねばならん可能性がある」「……以前言っていたあれか?」「残念な事だがな……予想以上に事は進んでいたようだ」「なるほど、白銀の働きは無駄に終わったということか……」「ああ……恐らく俺を呼んだという事は、新たに何か情報が入ってきているのかもしれん。お前も直ぐに動けるよう準備をしておいてくれ」「断る……と言っても無駄だろう?改まって言うようなことじゃない、これがな」「そうだな……」執務室への道を進みながら会話する二人。前もってアクセルに可能性を提示していたため、彼は驚くほど簡単に物事を理解してくれていた。そして、意外なほどに彼が自分に歩み寄ってくれていることも―――アクセルの過去に、何があったか詳しくは聞いていない。だが、かつて敵対していた際、彼は必要以上に自分を敵視していた。そのような経緯からか、共に行動するようになってからも何処と無く距離を置いているように思えたのだが、この世界に来てからはそれは然程感じられないでいる。自分の思い込みかもしれないが、今は間違いなく信頼できる仲間の一人だと言い切れる。そう彼は確信していたのだった―――「―――そういえばキョウスケ、部隊名は決めたのか?」「その事なんだが、中々纏まらなくてな……いい加減決めねばならないんだが……」以前も同じ様な雰囲気の中、このような会話をしたことを憶えている。その時の受け答えも今と殆ど同じ内容だった。「何だ、まだ決めてなかったのか?いい加減早くしろと、香月も五月蠅いだろうに……」呆れ顔、とまでは行かないが、それに近い表情を浮かべるアクセル。「……何か良い案は無いか?参考までに聞かせてくれると助かる」「無い事もないが……俺に任せていいのか?」「あくまで参考にするだけだ。それにするとは限らん」「……丁度いい機会だ。部隊名は……『南部大尉、アルマー中尉、二人も呼ばれていたのか?』……やれやれ、とんだ邪魔が入ったな」「すまん、ミーティング中とは思わなかったのでな」「いえ、雑談の様なものでしたので問題ありません伊隅大尉……大尉も副司令に呼ばれたのですか?」「ああ、至急執務室へ来い……とな」部隊名を伝えようとした矢先、思わぬ人物によってそれは遮られた。伊隅も呼ばれているということは、間違いなく何らかの動きがあったに違いない。「これは愈々の時が迫った……と考えるべきだろうな」「どういう事だ中尉?」「さあて、な……悪いが俺に答えることは出来ん、これがな」「アクセル、そのくらいにしておけ……申し訳ありません大尉。恐らく機密に係わる内容ですので、自分達からはお話できません。恐らく、副司令自らがお話になられると思います」「そうか、そういう事ならば仕方ないな……(彼らには伝わっていて、私には伝わっていない案件か……一体なんだ?彼らも直轄部隊とはいえ、試作機のテスト部隊の筈。それに関係することなのか?)」どうやらクーデターに関することは、彼女の耳に入っていない様子だ。何故夕呼が伊隅に詳細を伝えなかったのかは彼らの知るところではないが、何らかの理由が存在しているのだろう。尤も、あれこれ詮索したところで彼女が全てを曝け出すとも思えない。そしてこれは伊隅だけではなく、キョウスケ達にも言えることだ。必要な時にだけ必要な情報を与え、自分の思惑通り事を運ぶ……聞こえは悪いが、これが夕呼の取る方法である以上、彼らは従う他ないだろう。「(伊隅大尉の耳にこの件が入っていないとは以外だな……)」伊隅が彼らのことを考えている間、キョウスケもまた彼女のことを考えていた。そして、それ以上会話も行われること無く歩みを進める。気付けば彼らは、何時の間にか夕呼の部屋の前へと到着していたのだった―――「―――失礼します」伊隅が先頭に立ち、それに続けてキョウスケ達も部屋の中へと入る。「―――ええ、そうですわね。確かに仰るとおりだと思いますわ……」入室した彼らの耳に入ってきたのは、夕呼が何者かと会話している声だった。タイミングが悪かったと悟った彼らは一度外へ出ようと考えたのだが、夕呼はそれを手で制止する。聞いては不味い内容だったのかと考えていたのだが、彼女がこの場に残れと指示を出した以上は然程問題ないという事だろう。「問題ありません。計画も順調に進んでおりますし大丈夫です。ええ、それではまた……待たせて悪かったわね」「いえ、こちらの方こそ申し訳ありません。まさかお話中とは思いませんでしたので……」「構わないわ。ただの世間話みたいなものだから……さて、アンタ達をここに呼んだのは、これからとある任務に就いて貰いたいからよ。南部達は既に知ってると思うけど、伊隅にはまだ伝えてなかったわね?」「はい……それでどの様な任務なのでしょうか?」「詳細は後で説明するわ。それよりも伊隅、訓練の方は順調かしら?」「概ね順調です。とりあえず……と言ってはなんですが、副司令の指示通り全員シミュレーターで白銀の撃破に成功しています」「確率はどのくらい?」「全体的に見て約6割、と言ったところでしょうか?やはり一対一では相性の関係もあって確実とは言い切れません。ですが、エレメントを組んでの場合、ほぼ8割の確率で成功しています」「上等ね……それなら問題ないわ」どうやら伊隅達は、シミュレーターを用いて武との模擬戦を行っていたようだ。あの武相手にエレメントを組んだ状態でほぼ8割といえば、とんでもない撃墜率を誇っていると言えるだろう。「何か聞きたそうね南部?」「たいした事ではないのですが、伊隅大尉達が行っていた模擬戦は例の件に関係している……と受け取っても宜しいのでしょうか?」「そうよ……出撃の際、ほぼ間違いなく対戦術機戦になるわ。そのための底上げと考えて頂戴」「凡そは想像が付きましたが、やはりそうでしたか……副司令、我々は何処の部隊と戦うことになるのでしょう?」「今の所は何処、と確定は出来ないわね」そして夕呼は、今現在帝都で不穏な動きを見せている輩がいることを彼女に話し、それを阻止するためにA-01を派遣する事を伝える。伊隅は然程驚いた様子を見せていないが、彼女の言う事に一々驚いていられないのだろう。過去に幾度となく誰もが驚愕するような任務を与えられてきた彼女にしてみれば、いつもの事だと耐性が付いているのかも知れない。「なるほど……『新型に乗せてやるから白銀を倒してみせろ』……などと言われた時は、何かあるとは思ってましたが……どうやら今回の任務はかなり厳しいようですね?」「理解が早くて助かるわ……アンタ達ヴァルキリーズには、主に足止めを行って貰う予定よ。相手はさっきも言ったとおり、何になるか今は判らない状態。そして南部、アンタ達の役割もほぼ同じよ。ただし、アルマーとラヴレスの二人には、また別件で動いてもらう事になるけどね」「やれやれ……相変わらず人使いの荒いことだな。それで、俺とラミアは、何をすればいい?」アクセルの物言いに対し伊隅が睨みを利かせるが、当の本人は全く無関心といった様子だ。既にキョウスケは、相変わらずということで間に入ろうともしていない。そして夕呼もまた、別にその程度は何でもないと言わんばかりに話を進めていく―――「二人に行って貰うのは帝都、アンタ達の元特殊部隊出身と言う経歴を使わせて貰うわ」「なるほど……話から察するに、俺達に与えられるのは潜入任務、もしくは内部かく乱……と言ったところか?」「どちらかと言えば、後者と足止めね……ただし、アンタ達は生身で任務についてもらうからそのつもりでね」「任務の内容次第だが、まあ、何とかなるだろう。ところで副司令、白銀はこの話に参加しなくて良いのか?」「白銀には後で伝えておくから良いわ。さて、アタシの予想が正しければ、恐らく明朝には何らかの動きがある筈。伊隅と南部は基地で待機、アルマーは直ぐにラヴレスと一緒に帝都へ向かって頂戴。既に手筈は整っている筈だから、向こうの協力者と一緒に行動してくれれば良いわ」「了解しました。それではA-01部隊、これより任務に就きます。敬礼!」「伊隅……敬礼はいいって言ってるでしょ?」いつもの事ながら、夕呼はこういった堅苦しい挨拶を好まない。それは理解しているが、流石にけじめはつけなければならないだろう。そしていつも通りのやり取りが行われる訳だ。「―――あ、そうそう南部、部隊名は決まったかしら?」彼らが部屋を退室しようとした矢先、夕呼は何かを思い出したかのように彼に尋ねる。当のキョウスケは、なんともばつの悪そうな表情を浮かべ、まだ決まっていない事を伝えようとしたのだが―――「ベーオウルブズだ」「……アクセル!?」「やっと決まったのね。それじゃ、今度から南部達の隊を『ベーオウルブズ』と呼ぶことにするわ。部隊名とコールサインは、そのまま登録しておくから、後は上手くやんなさい……話しは以上よ」「ハッ!それでは失礼します―――」退室後、伊隅と別れた二人は、そのまま90番格納庫へと向かっていた―――ベーオウルブズ……アクセル達が元居た世界において存在した連邦軍特殊鎮圧部隊だと聞かされている。彼らと幾度となく敵対し、様々な因縁を持つその名前を言われた時は正直驚いた。それがキョウスケの率直な感想である。「一体どういうつもりだアクセル?」「大した意味はない……俺自身、いつまでも過去に囚われている訳にも行かんと思っただけだ、これがな」何かを思い詰めるような……言葉では形容できない表情を浮かべながら答えるアクセル。その台詞からは、過去を清算しようとする様な素振りも見て取れる。「そんな顔をするなキョウスケ……貴様に心配されるほどの事じゃない。これは、俺自身のけじめ……といったところだ」「どういう意味だ?」「俺は貴様と出会ってから、常に敵対心を懐いていた。貴様とあの男は別人だと解っていても、どこかで同じだと考えていたんだろうな……そういった意味で、ベーオウルフと言うモノを受け入れることが出来なかった。だが、貴様は奴とは違う……それを証明するためには、先ず俺が考え方を変える必要があると考えた。そういった意味でのけじめ、と言うわけだ」初めて目の前に居るキョウスケと相対した時、どうしても彼個人の存在を認めることが出来なかった。向こう側のキョウスケは常識を逸した能力と思考を持ち、常に危険性を感じさせる存在と認識していた。そんな彼と全く同じ容姿をした存在を簡単には受け入れられない……そういった事から彼は敵対心を露にしていたのだろう。だが、このキョウスケはベーオウルフとは違う。それを言葉で言い表すのは簡単だが、彼自身が認めなければならない。そういった意味を含めアクセルは、彼と共に戦うために、そしてそれらを証明するためにあえて忌み嫌っていた『ベーオウルフ』と言う呼称を用いたのだった。「……解った。お前の考えを尊重させてもらう」「すまんな……」ここに来て彼らは、本当の意味で和解したと言えるだろう。背中を預けあえる戦友と呼ぶに等しい存在として互いを理解したのである。こうして人と人は解り合える……先ず争う前に手を取り合って話し合うべきなのかもしれない。無言のまま格納庫へと向かう彼らの間には、間違いなく絆と呼べるものが存在していた。そう、戦友と言う名の絆が―――そして明朝、事態はついに動くこととなる―――あとがき第52話です。本当ならクーデターの話を書く予定でした……が、しかし……すんなり事が進まないのが私の力量TT上手く纏めれるだけの力が欲しい今日この頃です。さて、いよいよ次回からはクーデター本編が開始となります。流れは大まかにオルタ本編と同様な形になりますが、結構アレンジを加える予定ですので楽しみにお待ち下さい。それでは次回もよろしくお願いします。