Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第60話 偽りの仮面烈火のコックピット内に乾いた銃声が鳴り響く最中、その異常を感じ取った者が別の場所に居た。「……これは?」「どうかされましたか社少尉?」「先程から2番機のバイタルデータがおかしいんです……あ、すみません。正常値に戻りました」「正常値にですか?」「はい……ほんの一瞬でしたから、私の見間違いかもしれません」この時まりもは、モニター越しに移る2番機に対して妙な違和感を感じていた。突如として初めての実戦に遭遇し、不本意ながら死の八分を経験させる事になってしまった事実。自分としても、彼女達をこの様な事態に巻き込んでしまったのは居た堪れない気持ちだ。そんな中、この状況において冥夜達のバイタルは正常値を示している。今までの経験上、新兵というものは緊張から興奮状態に陥るか挙動不審な状態に陥るケースが多い。悠陽は兎も角として、新兵である冥夜が何の緊張も感じていないなどと言うのは明らかにおかしいと感じたのだろう。「00より02、どうした?何かトラブルか?」冥夜の機体には悠陽も搭乗している。もしも万が一、何らかのトラブルを抱えてしまっているのであれば、それ相応の対策を講じなければならない。無論、機体側だけではなく、搭乗している衛士も含めてだ。それを踏まえた上で彼女は、あえてデータの事を問い質さずに本人の口から報告させようと考えたのだった―――『こちら02、問題ありません。全て許容範囲内です』「そうか……では、何故音声通信のみで受け答えをしている?」『申し訳ありません教官。どうやら先程の戦闘時に通信システムが損傷していたようです。先程から復旧を試みているのですが大丈夫です。このままでも作戦行動に支障は無いと考えます』「解った。もうじき亀石峠の仮説補給基地だ。時間的余裕があるならば現地の補給スタッフに視て貰え、くれぐれも無理はするなよ?」『了解』「……どうやら通信機意外に異常は見られないようですね」「だと良いのですが……」後に彼女達は、この判断が誤りであった事を認めさせられる事となる。今現在、2番機を操縦している人物が誰なのかに気付く事が出来なかったのだ―――「―――どうやらそろそろ潮時のようだな。目標は確保した……隙を見て本隊と合流させて貰うとしよう」2番機コックピット内の後部座席で一人そう呟く人物。口調や仕草からして冥夜とも悠陽とも違うのは明らかだ。そしてその人物の目の前には、意識を失い目尻に涙を浮かべる少女がシートにもたれ掛かっていたのだった―――一方、搭ヶ島城にてシャドウミラーの部隊と戦っているキョウスケ達は、予想外の苦戦を強いられていた。「これだけの部隊をこの場所に投入して来るとは……少々分が悪いな」『あら、キョウスケにしては珍しいわね』『全くだ……と言いたいところだが、確かにこの物量で攻められては分が悪い、これがな』敵の第一陣はゲシュペンストを主体としたPTメインの部隊だったのだが、第二陣、第三陣と増援が増えるにつれ、その構成に変化が表れ始めていた。第二陣は航空戦力を中心とした部隊、第三陣は戦術機を中心とした物に切り替えてきたのである。『今現在の敵主力部隊が第一、第二世代機のみとはいえ、こちらの残弾やエネルギーにも限りがありますしね』『それにこんな所で足止めを食っていたら、白銀君や207小隊の皆に合流するのがますます遅れてしまいます』『ねえ、ラミアちゃん達の機体に搭載されてる《これでアナタも私の虜、身も心も私に捧げちゃって頂戴システム》で何とかならないのかしら?』『マリオネット・システムだ。変な名前を付けるなエクセレン・ブロウニング』『残念ですがエクセ姉様、それは既に何度か試みていらっしゃったりするのです』「と言う事は、奴らはAI制御の無人機では無いという事か?」『恐らくは、な……だが、量産型ナンバーズにしては統率が取れ過ぎている。恐らく直ぐ近くに奴らを操っている者が居ると思うんだが……』キョウスケ達は、第二陣までの掃討にはそれほど時間は掛からなかった。序盤は敵の数がそれほど多くなかった事も理由の一つだが、兎に角相手は物量を以って一直線にこちらに仕掛けて来るだけだったのである。勿論彼らもそれを踏まえた上で迎撃を行っていたのは言うまでも無い。ここで無駄弾を消費するという事は、敵の後続が現れた際にそれらに対する手段が失われてしまうからだ。なるべく弾薬の消費を抑える為に彼らは近接戦闘を中心に行い、相手がこちらの構築している防衛ラインを通過してしまいそうになった場合のみ砲撃を行うよう努めていた。だが、そう言った戦法を行う場合、どうしても補給と言う概念が必要になって来る。敵部隊の第二陣を迎撃した直後には、殆どの兵装の弾が底を尽きかけていたのだった。「今はこうして敵が落とした突撃砲を使って凌いではいるが、この後も敵の増援が続くようでは負担が大きいか……」肉体的、精神的疲労と言うものもあるが、一番の問題は機体に掛かる負担だろう。長時間戦闘を行う場合、何よりも気遣わねばならないのは機体側のコンディションだ。推進剤の残量、残弾、各種駆動系やフレームへのダメージなど、何一つとして疎かにしては戦場では生き残れない。そして、一番気掛かりなのは武達のその後だった。『キョウスケ、こっちに全然情報が回って来ないけど、タケル君達は大丈夫かしらね?』「解らん。マサキ達の援護があれば大丈夫だと思いたいが、楽観視は出来んだろうな……」『確かに、埒が明かんな……ラミア、周辺をサーチし、量産型共に指令を送っている機体を割り出せ!そいつを仕留めれば、多少はマシになる筈だ』『了解……駄目です。該当する敵機、見当たりません……』『何ッ!?そんな筈は無いだろう。もっと良く探してみろ!』『無駄ですよ隊長、W17如きに自分をサーチする事は不可能です』『この声は……そうか、貴様か』彼らの通信に割り込んで来る人物。声からして男だという事は判別できるが、恐らくこの人物が敵部隊の指揮官なのだろう。そして、声を聞いただけでアクセルがこの男の正体に気付いたという事は、シャドウミラー内において彼の部下だった者だという事が当てはまる。「W13(ダブリュー・ワン・スリー)だな?」『今はピーター・バニングと名乗っています。以後、お見知りおきを……』『どういうつもりだW13!隠れていないで我々の前に姿を現わせッ!』『黙れW17ッ!自分は今、アクセル隊長と話をしている……さて、想像以上に苦戦しているようですね隊長』「俺を嘲笑いに来たのか?だったらそれは無駄足以外の何者でもない、これがな」『いえ、あの御方から隊長へのメッセージを預かってきました』「メッセージだと?」W13の言うあの御方とは、恐らく以前アクセルを拉致した人物だろう。どうせ自分達を小馬鹿にする類の物だと彼は考えていたが、その内容に驚かされる事となる―――『ええ……我々を表舞台に引きずり出す為の小芝居、残念だが貴様達の思い通りにはならん。そして、貴様らが確保した筈のクイーンは、貴様らが接触する前から既に我らの手中にある。更に今し方、もう一人の確保にも成功した―――』「それはどういう意味だW13ッ!」『―――確かに伝えましたよ隊長。では、自分はこれにて失礼させて頂きます』「待て、W13ッ!!」『……駄目です隊長。通信、途絶しました』「……発信源は特定できたか?」『現在前方に展開中の敵機を中継してのものだと思われます。正確な発信源は特定できませんでございました』相手からの通信が途絶えた直後、彼らの前方に展開していた敵部隊は次々と自爆を開始した。先程の話から仮定して、彼らの足止めをする必要がもうないと判断したのだろう。コードATAを用いての自爆は、痕跡を一切残さないため相手を追って敵の本拠地を突き止める事も出来ない。「どうやら俺達は、香月を含めてまんまと奴らに踊らされていたようだ」『どういう意味だアクセル?』「恐らく奴の言ったクイーンとは、煌武院 悠陽の事で間違いないだろう。俺とラミアが帝都城から釣れ出した奴は、既に偽物だったという事だ、これがな」『じゃあ、もう一人のって言うのは?』『この件は本来ならおいそれと話せる物ではないが、殿下には双子の妹がいらっしゃるそうだ。恐らくその人物の事だろう……』「完全にしてやられた、な……さて、これで俺達は手詰まりになったという訳だが……どうするキョウスケ?」本作戦における当初の目的は、シャドウミラーの兵士に変装したアクセル達が悠陽を連れ出し、その後キョウスケ達と合流。その後、クーデターを阻止する為に沙霧達と人目のつかぬ所で会談を設けさせるのが第一段階。そして説得が失敗、もしくは妨害された場合は、当初の予定通り武を含めた207小隊達によって彼女を安全圏に離脱させるのが第二段階だった。第三段階は、会談がシャドウミラーによって妨害されたならば、彼らを表舞台に引きずり出し、その存在を公にして行動を阻害させる為の策へ移行する手筈だったのである。勿論その為には、クリアせねばならない問題が多数存在する。その一つが、第一段階における悠陽を連れ出す方法だ。これを提案したのは意外な事に悠陽であり、兼ねてから計画されていた横浜基地と帝国軍の合同演習の一環としてこじつければ問題ないという事だった。F-23Aを使用した理由は、ここ数日、国内で目撃されている所属不明の部隊を想定したものであり、それらを再現する為に鹵獲機を使用してほしいと付け加えてきたのである。だが、相手側にこれらを打診せずに行うというのは危険以外の何物でも無く、下手をすれば彼女に怪我を負わせる可能性も高いというリスクが存在する。彼女を連れ出すだけならば、他にいくらでも方法はあった筈だ。夕呼はこの案を認めようとしなかったが、この案を強行させたのも悠陽だった。何としても彼らを救いたいという彼女の願いに夕呼は賛同した訳ではないが、その勢いに押され渋々承諾する他無かったのである。思えばこの時点で妙だと感づくべきだったのかもしれない。この時点で既に、彼女は何者かと入れ替わっていたのだろう。「これは俺の憶測にすぎないが、恐らく副司令がこの作戦を殿下に打診した時点で既に彼女は何者かと入れ替わっていた可能性が高い。殿下達の暗殺が敵の狙いなら、帝都を離脱する際に攻撃を受け、彼女に何かあったとしても責任は我々に追及されるに違いないからな」『なるほど、そして敵は自分達の待機していた搭ヶ島城に居る煌武院殿下の妹を暗殺する為に別働隊を派遣した……その場合でも、そこに自分達を配備していた横浜基地側に責任を負わせることが出来るという訳か……』『でも、それだと既に殿下は……』『いや、そう結論付けるのは早い。先程の通信でW13は、煌武院 悠陽は既に我らの手中にあると言っていた。と言う事は、まだ何処かで生かされていると考えるべきだろう』『ちょっと待って!という事は、今訓練部隊の子達と一緒に居る殿下は偽物って事なのよね?それって危ないじゃないのッ!!』『大丈夫でございますですエクセ姉様。既にこの件は香月副司令に連絡済みですから、スグに対処して下さります事でしょう』『でも、心配だわ……』「この場で俺達が慌ててもどうにもならん。今はタケル達を信じるほかあるまい……」『そうね……』「一先ずこの場から移動する。何をするにしても、先ずは補給を受けねば話にならんからな」『『「了解」』』こちらの作戦が筒抜けになっていた事実を聞かされた夕呼は、即座に207小隊に向け連絡を取っていた。丁度彼女等は亀石峠の仮設補給基地に到着しており、通信がスムーズに行えたのは運が良かったと言えるだろう。だが、敵はこちらが行動を起こす前に動き出していた。『止まれッ!これ以上貴様を行かせる訳にはいかんッ!!』「フッ、ようやく気付いたか……だが遅いッ!」補給基地に到着した際、まりもは訓練兵達の機体から優先的に補給を行わせていた。中でも2番機には悠陽が乗っていると思い込んでいた為、有事の際は彼女の機体だけでも先に離脱させる必要があると考えていたからだ。そして、その考えが間違いだったという事実に気付かされたのである―――「私を撃墜したければ、好きにするがいい。だが、この機体には、私以外にも人が乗っているという事を忘れるなよ?」『クッ、貴様は一体何者だ!?殿下のフリをして我らを騙し、そして御剣をどうするつもりだ!!』「貴様らに答える義理は無い」冥夜が人質に取られている以上、こちら側は一切手を出す事が出来ない。そんな彼女達を嘲笑うかのように、烈火の衛士は更にその場から北上を続ける。このまま行けば先程米軍の部隊と遭遇した地点へ戻る事になってしまう。もしそんな事になってしまえば、冥夜を取り戻す術は無くなってしまうに違いない。何とかして敵に奪われた烈火の足を止めたいところだが、下手に砲撃を仕掛けては機体その物にダメージを与えてしまう可能性も高いだろう。まりも達207小隊の面々は、敵を見失わないように後を追う事ぐらいしか出来ないのだった―――『―――W11(ダブリュー・ダブル・ワン)、状況はどうだ?』「W13か、既に目標は確保している。現在、追手を撒く為に米軍部隊を仕向けるつもりだ……そちらは?」『手筈通り、アクセル隊長達に情報をリークした。後は奴らが罠に掛かるのを待つだけだ』「了解した。では私は当初の目的通り、この娘を連れ本隊と合流する」『解っていると思うが、くれぐれもその少女を殺すなよ?』「無論だ。この小娘とあの女将軍は、今後の為に利用価値があるからだろう?」『そうだ。我らに接触を図って来たあの老人は、即座に二人を殺せと打診してきたが、マスターからは従う必要はないとの御命令だからな』「例の帝国軍大将の男か……あの男、先程搭ヶ島城でマスターになり済ましていたぞ。これ以上調子づく前に処分すべきではないのか?」『奴に関しては、既に用済みだとマスターが仰られていた。将軍とその少女が揃い次第、我らに抹殺するよう命令が下されている』「そうか……そういえばW12の方はどうしている?」『例の機体の最終調整を行っている最中だ。一応再生手術は成功してはいるが、性能の低下は否めん。時間は掛かっているが、想定の範囲内だ』「やはりレモン様が居られない分、完全修復は無理と言う事か……」『ああ、自分や貴様も奴のようになってしまえば初期型ナンバーズと大して変わらんからな』「フッ、私はあの出来損ないとは違う。貴様もそうだろう?」『そう願いたいものだ……では、こちらも準備を進めておく。合流地点に変更は無しだ。任務成功に期待している』「了解……指揮官気取りの出来そこないがよく言う……まあ良い。これも命令だからな」悠陽と入れ替わっていた人物の正体、それはシャドウミラー所属のナンバーズW11だった。ラミア達と同型の後期型ナンバーズである彼女は、敵対組織への潜入などを行う為に製造された固体である。元来、シャドウミラーという組織は、戦争継続の為に様々な組織にスパイを送り込むことで自分達に有利な状況を作り出すべく行動するケースが多い。中でも彼女は、敵対組織における要人と入れ替わり内部を混乱させる事が主な任務だ。その為、彼女はナノマシンを利用した特殊な変装技術を付加されている。今回の任務における彼女の役割は、悠陽と入れ替わり、彼女の身代わりを演じる事で誰にも気づかれず帝国軍内部を掌握する事にあったのだった。そして、それを可能としているのがシャドウミラー独自の調査能力と情報網だろう。彼らはそれらを行う為、盗聴などは勿論の事、情報を得られるであろう人物を一時的に拉致したりもする。その際、薬物投与や記憶操作などを用いて情報を収集するのだ。無論、一時的な拉致なのであるから後遺症などを残す事は出来ない。あくまでこれらの行為は、全て秘密裏に行わなければならないからだ。そう言った事を踏まえ、恐らく先程までの冥夜とのやり取りは、悠陽自身から引き出した情報なのだろう。尤も彼女が冥夜と行った会話の一部に関しては、あくまで憶測でしかないのだが―――ここで再び舞台はヴァルキリーズと米軍部隊との戦場へと移る。突如として現れた増援部隊。初めはたった7機の部隊などに手を焼く筈はないとタカを括っていた米軍だったが、予想以上の苦戦を強いられていた。『畜生!このF-22Aをここまで翻弄するとは……こいつら化け物か!?』『泣きごとを言うな!数ではこちらが勝っているんだ。一機ずつ分断して各個撃破しろ!!』『Roger that!』米軍最新鋭機であるF-22Aがここまで苦戦している以上、同部隊に随伴しているF-15Eは殆ど手も足も出ていない。F-22Aとほぼ同等の機動性、そして米軍衛士が苦手とする接近戦を主体に攻めて来る相手に対して距離を取る暇も与えて貰えないのだから仕方が無いだろう。「ほらほら、どうしたの!?米軍の精鋭部隊と言っても、大した事ないわねッ!!」ブリュンヒルデの圧倒的な突撃力にモノを言わせ、相手に肉薄する水月。前方に展開する3機のF-15Eを同時にロックし、ほぼすれ違いざまに彼らの機体を行動不能にする。「流石は新型、改型以上の性能だわ」『あまり調子に乗るなよ速瀬?貴様は突撃前衛長としての任務を果たしてくれれば良い。無茶だけはするな』「解ってますよ大尉。それよりも、ベーオウルブズの二人組の方を心配してやって下さい」『彼らに関しては問題ない。流石は南部大尉の部下達、と言ったところだな……』米軍を圧倒しているのはヴァルキリーズだけではない。マサキとリュウセイの二人は、それぞれ単独で戦列の両翼に展開し戦闘を継続している。戦術機などとは比べ物にならない近接戦闘能力を有するR-1は、初めて相対するF-22A相手にも余裕で事を運んでいた。そしてサイバスターは、もはや反則と言えるほどの速度で敵機を行動不能にしている。如何に米軍が誇る精鋭部隊とはいえ、この二機を相手にするのは分が悪すぎるだろう。そして自分達が精鋭部隊だと思い込んでいる彼らにしてみれば、この圧倒的な性能にプライドをズタズタにされていたに違いない。そんな状況下の中、ついに彼らは積極的に攻めるのを止め、守りを主体とした戦術に切り替えてきた。想像以上に損耗率が高いと踏んだ指揮官が、少しでもそれを抑える為に変更を余儀なくされる状況へと動いたのだろう。だが、これには理由も存在している。彼らは前もってこの場を死守するよう命令を受けており、何としても全滅する事を避けねばならなかったのだ。その結果、この戦場に居た多くの米軍衛士は徐々に不安に駆られ、心が折れそうになって行く。しかし、そんな状況下において、ただ一人心の折れていない人物が彼だった―――『―――我らがこうも苦戦するとは……』「ウォーケン少佐、既に勝敗は決しております……これ以上の戦闘継続は無意味でしょう?」『かもしれん……だが、我々とてここで引き下がるわけには行かんのだッ!』弾幕を形成し、真那の武御雷との距離を取るウォーケン。同じ第三世代機だが、両極に位置するこの二機の戦いは膠着状態が続いていた。機動性と射撃能力ではF-22Aに分があり、パワーと近接能力は武御雷が上回る。性能差は勿論だが、この状況においての二人の技量は均衡していた。無論、近接戦闘に持ち込む事が出来れば真那の優位性は格段に上昇するのだが、ウォーケンの随伴機がそれを許さないでいる。特に彼の副官的立場と思わしき人物の動きが厄介だった。こちら側の部下を抑えつつ彼の援護も行い、隙あらば真那の機体にも仕掛けて来る。ハイヴ内の戦闘よりも、地上に於けるBETA制圧を最優先の任務として開発されたF-22Aは、こう言った状況に対し優位なのかもしれない。互いに決定打に欠け、どちらかが上手く均衡を崩さない限りこのまま膠着状態が続くと誰もが思っていたのだが―――『こちらはアメリカ陸軍特務部隊シャドウミラー所属、ライア・マスカレイド大尉です。アルフレッド・ウォーケン少佐ですね?』「特務部隊の人間か?この状況で一体何の用だ?」『事前に連絡が行っていると思いますが、協力をお願いします』「確かに連絡は受けている。だが、この状況下で貴官に協力する事は難しい……悪いが理解してもらえないだろうか?」『承知しています。少佐殿にお願いしたいのは、私がこの場を離れるまでの間、敵の足止めをお願いしたいという一点のみです。幸いな事に追手は訓練兵を中心とした者達ばかり……敵の頭数にも入らないと思いますが?』「……良いだろう。だが、我々は国連軍機の相手で手一杯だ。足止めは行うよう部隊を配置するが、そう長くは持たんと考えてくれたまえ」『了解です。間もなくそちらの作戦空域に到達します。では、後の事は宜しく頼みましたよ少佐』このタイミングでこの戦域に到着するW11。彼女が現れた事で、状況は一変しようとしていた。「20702?何故冥夜様がこの場に……?」『こちら207リーダー!月詠中尉、聞こえますか!?』「こちら月詠。どうした軍曹、何故引き返して来たのだ!?」『申し訳ありません。敵と思しき者に2番機を奪われました……2番機に乗っておられた殿下は偽者だったのです……』「な、なんだとッ!?」流石の真那もこの知らせには驚きを隠せない。そして、その一瞬の隙を見逃すほどウォーケンも甘くはない。『戦闘中に動きを止めるなど……』彼はあえて突撃砲を使用せず、短刀を構え彼女の機体へ向けて突貫する。相手が先程まで接近戦など仕掛けてこなかった事もあり、真那は完全に虚を突かれてしまっている。受け止める事は不可能と判断した彼女は、回避を選択するが相手はそれすらも予測していた。ウォーケンは構えていた短刀を破棄し、武御雷に向けて36mmを発射。回避を始めていた為に直撃こそ免れたものの、右腕に被弾してしまいそちら側の腕は使い物にならなくなってしまった。「クッ……」『ま、真那様ッ!』『貴様ッ!よくも真那様をッ!!』まりもの報告により動揺していたとはいえ、真那が被弾してしまった。この事実に怒りを覚えた彼女の部下達は、一斉に弾幕を形成しウォーケンに仕掛けるがそれらは掠りもしない。それどころか逆に更なる反撃を許してしまい、彼女らの機体も被弾してしまう。「落ち着け神代、巴、戎ッ!そのまま弾幕を張りつつ後退するんだッ!!」『『「了解ッ!」』』しかし、彼らもそれをみすみす見逃すつもりなど毛頭ない。F-22Aの機動性をフルに生かし、弾幕を回避しながら距離を詰めて来る―――『機動性ならばこのF-22A、貴様等のType00に負けはせんッ!仕留めさせて貰うぞッ!!』4機の武御雷から放たれる36mmの雨を、ウォーケン達は巧みな操縦技術で回避して行く。これだけの攻撃を続けているにも拘らず、相手の足を止める事が出来ない。それは焦りとなって彼女等を襲い、更に自分達を追い込む要因となってしまう。相対距離はおよそ数百メートル、このままではもう駄目だと誰もが思いかけたその時だった。上空から無数のミサイルが降り注ぎ、F-22A達の足を止める。爆煙で視界が塞がれる中、彼女達の間に割って入る影。それは彼女等の良く知る機体、武の駆る不知火改型だった―――あとがき第60話です。今回のあとがきは敢えて謝罪文のみとさせて頂きます。前回のお話のラストに関して、大変不愉快な思いをさせてしまった事に改めて謝罪させて頂きます。本編内で書かせて頂いた通り、207小隊と行動を共にしていた悠陽は偽者だったという設定です。これは当初から予定していた流れであり、唐突にこの様な流れになった事で驚かれた方も多数いらっしゃると思います。本来ならばもう少し悠陽ではないんじゃないか?と言う描写を入れるべきだったのかもしれないと反省しています。ですが、あまり安易に違和感を得られる様な描写にしてしまうと面白みに欠けると判断し、今回の様な形とさせていただきました。原作ファンの方々に対し、不快な思いをさせてしまった事、本当に申し訳ありませんでした。それでは次回もより一層頑張らせて頂きますのでよろしくお願いします。