Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第63話 究極の名を冠したモノ激しい轟音と共に閃光に包まれる戦場。ほんの少しでもその爆心地とも呼べる場所から遠ざかっていなければ、間違いなく彼はそれに巻き込まれていたであろう。救出した冥夜を医療班に診せるべく一時的にその場を離れていた紅蓮は、その光景に肝を冷やしていた。「敵に捕まるぐらいならば死を選ぶか……」ポツリと呟き、燃え盛る烈火を見つめる紅蓮。味方の為に死を選ぶという行動に対し、武人としての心が何かを感じているような様子さえ感じられている。「いえ、恐らく奴は強制的に自爆させられたのでしょう」「どういう事だ、ブランシュタイン少尉?」「シャドウミラーの兵士、特に精鋭であるWナンバーズと呼ばれる者達は、機密保持のために特殊な自爆コードを備えているのです」「そうか……戦士としての死に場所も与えられんとはな……そういえば少尉、礼を言うのを忘れていたな。おぬし達が例の兵器を届けてくれなければ、先程の作戦は成功しなかったかもしれん……改めて礼を言わせて貰うぞ」「有難う御座います。ですが、我々は香月副司令の任務に従ったに過ぎません」紅蓮の言葉に対し、敬礼しながら返答するライ。その眼はしっかりと紅蓮を見据えており、あくまで自分達は任務に忠実に動いただけにすぎないのだという事を物語っている。「そう謙遜するな少尉。こうして相手から礼を述べられた時は、素直に受け取っておくものだ」「ハッ!」「フフフ、白銀達とそう変わらぬ歳だというのに、お主も面白い男じゃのう。あ奴らにも少しぐらい見習わせてやりたいもんじゃ」まるでライディース・F・ブランシュタインという男を値踏みするかのようにやり取りを続ける紅蓮。時折この様に初めて会った若者をそう言った目で見てしまうという行為は、斯衛の大将という立場だけでなく、歩んできた道や重ねてきた年齢などといったものも理由の一つなのだろう―――「―――有難う御座います閣下……ところで、拉致されていた訓練兵の容態は如何なものなのでしょう?」「うむ、少々火傷を負った部分が有るようだが、命に別状はないとのことだ。恐らく、先程の敵がワシに使用したスタンガンを用いて気絶させられていたのだろう。直に目を覚ます筈であろうな」「そうですか……ならば我々は、本隊と合流させて頂きます」「本来ならばワシらも共に行動したいところなのだが、恐らく足手まといになるであろう。ワシらは独自に殿下の行方を追う事にさせてもらう。スマンな少尉」「いえ、我々も煌武院殿下の捜索に加われず申し訳ありません」「気にするな。ワシらにはワシらの、貴様らには貴様らの仕事がある。今は自分に与えられた任務を遂行せい」「ハッ! お心遣い、感謝します閣下!」改めて背筋を伸ばし、紅蓮に向け敬礼を行うライ。そして彼は、その場を後にし、武やリュウセイ達の待つ戦場へ向かうのだった―――『鈍重そうな外見のくせに、何て機動性なのよッ!』『ぼやくな速瀬! 数ではこちらが優位だ。奴を包囲しつつ一気に切り崩すぞッ!』『了解!』ヴァルシオンとの戦闘は、彼の機体が発射したクロスマッシャーを合図に始まっていた。発射される直前、リュウセイやマサキ達の助言が有ったため、ヴァルキリーズのメンバーにこれといった被害は出ていない。だが、ヴァルシオン達が戦闘に介入する前に損傷を受けていた一部の米軍機は、その攻撃に巻き込まれる形となっていたのである。運よく死亡者が出なかったものの、巻き込まれた機体の殆どは大破状態に陥っており、ベイルアウトを行う事で戦域からの離脱を始めていた。そして無事だった者達も味方からの攻撃に戸惑いを受けたという事実に直面し、その動きは明らかに精彩を欠いている状況だ。各小隊長が指示を出し、皆を落ち着かせようと試みるが、浮き足立ってしまっている彼らはそれに耳を傾けている余裕すらも持ち合わせていない。結果としてそれが原因となり、更なる被害を増やす状況へと発展していたのである。「ウォーケン少佐、直ちに部隊を下がらせてください! このままでは徒に損害を増やすだけです!」『既に大破した者達には機体を破棄するよう通達している! 悪いがこの状況では、こちらも下手に動く事は出来んのだ!!』「だったら俺達が時間を稼ぎます。その隙に少佐達は離脱して下さい!」そう言って武は、再びヴァルシオンとの戦闘へと突入する。確かに機動性は並みの特機と比べて高い方だが、戦術機と同じ速度で動ける訳ではない。どちらかといえば、こちら側の攻撃に対しての反応速度が速いといったところだろう。ならばこちらは機動性にモノを言わせ、相手を撹乱しつつ隙を作れば良いだけだ。そういった結論に至った武は、操縦桿に力を込め相手に向け更に加速して行った―――「まずはコイツだッ!」初手は両腰にマウントされていた突撃砲を構え、相手の注意を自分に引きつける所から始める。その後、短距離跳躍(ショートブースト)を加えながら前後左右へ相手を翻弄。今のところ攻撃は全て回避されているが、それも計算のうちだと更に攻撃を手を緩める事を止めない。。本来ならば次々と相殺しきれないGが彼の体を襲っているだろうが、テスラ・ドライブの恩恵によりそれらは殆ど軽減されているのがせめてもの救いだろう。だが、これだけの動きを見せているにも拘らず、敵も武の機動について来ている。恐らく、相手も同じようなシステムを用いることで慣性や質量などといった物を軽減しているのだろう。「だったら、これはどうだ!」そう叫ぶと同時に相手の頭上目掛けて跳躍し、スライプナーを発射。初撃から二、三発が相手の直撃コースへと吸い込まれていくが、ヴァルシオンはそれを回避する素振りさえ見せない。このまま押し切ると言わんばかりに武は攻撃を続け、それらは全て敵機へと命中していくかのように見えていた。しかし、着弾時に敵機周辺へと弾かれた弾道が土煙を上げ、気付けばヴァルシオンを目視出来ない状態になってしまう。「(攻撃が通っていないのか? なら、奴が防ぎきれない速度と数で攻めてやるッ!)」『よせ武ッ!』リュウセイの放ったその一言により、背中に嫌な汗が纏わり付くのを感じた武は、気付けば噴射降下(ブーストダイブ)で地上へと回避を行っていた。その直後、先程まで自分が居た場所に目掛けて放たれる二色の閃光。相手はこちらの攻撃をわざと地面へ弾く事で姿を晦まし、武の油断を誘っていたのだ。「ふぅ……間一髪だった。すまないリュウセイ、助かったよ」『気にすんな。だが、奴を相手に油断はするなよ?』「ああ、了解だ!」武は改めて、相手の力量が並みの衛士ではないという事実を認識し、闇雲に攻めても駄目だという事実を悟ったのだった。そして煙が晴れた後、彼は再び驚愕する事となる―――「こ、攻撃が利いていない?」『なんだと!? あれだけの攻撃を喰らって、奴は無傷だというのか?』先程の攻撃着弾時、武は機体本体への致命傷を与える事が出来ずとも、せめて多少のダメージぐらいは何とか出来るだろうと考えていた。だが、彼らの眼前に現れたヴァルシオンには、全くと言っていいほどに損傷は見られていない。相変わらず機体は禍々しいまでに赤い色を放っており、それどころか装甲が焦げ付いているといった様子さえ見受けられないでいる。つまりそれは、こちらの攻撃は一切相手に届いていなかった事を証明していた。『チッ、やっぱりオリジナルと同じ防御フィールドを装備してやがったか!』『どういう事だ安藤少尉!?』『あの機体、ヴァルシオンには生半可な攻撃は通用しねえんだよ。確か、歪曲フィールドって奴を装備してて、殆どの兵装を受け流しちまうんだ』「要するに、ラザフォード場みたいなもんなのか?」『その何とか場ってのがよく解んねえけど、一種の防御フィールドって奴に変わりはねえ』『突破する事は可能なのか、少尉?』『ああ、確かに突破する事は可能だ。だが、ここに居る俺達の装備だけじゃ威力が足りねえ……せめてキョウスケ達が居てくれりゃ何とかなったかも知れねえがな……』ビアン博士が開発したヴァルシオン。そのオリジナル機には、EOT(Extra Over Technorgy)を基に開発された防御用兵装である“歪曲フィールド”が搭載されている。文字通り実体、非実体のある物質を歪曲させ、機体へのダメージを無効化するシステムだ。かつてリュウセイ達は、攻撃を集中させることでフィールドに負荷を掛け、一時的に崩壊点を生み出すことでこれを結晶化させて破ることに成功している。だが、それが実行に移せたのは、最大効果干渉時間と相殺エネルギー量を即座に計算できる人物が居たからだった。また、闇雲に攻撃を仕掛けた所で意味も無く、崩壊点を形成させることが出来るポイントに負荷を与え続けなければならないといった問題もあるのだ。過去にヴァルシオンを撃破出来た理由の一つとして、開発者であるビアンの予測を上回ったであろう事実も存在するが、もう一つの可能性として本気を出していなかったのではないかという点も挙げられる。元々彼は、リュウセイ達が地球を守るに値する者達かどうかを見極めるために単独で戦いを仕掛けた。もしも本気で彼らを叩き潰すつもりならば、戦力の出し惜しみなどせずに持てる力の全てを掛けて戦いを挑んでいただろう。つまりは全力を発揮せずにいたという可能性が存在するかも知れないのだ。尤も後々の異星人との戦いのために戦力を温存したとも考えられる。リュウセイ達が唯一解っている点は、自らが捨石になる事も辞さない覚悟を以って行動を起こしたという彼の信念だけだ。しかし、現在戦っている相手はビアンでは無い。策も無しに力で押し切るという手段を取る事も不可能ではないかもしれないが、それを行うには相応のリスクも伴うだろう。本来の性能が未知数であるこの機体を相手に、おいそれと分の悪い掛けを行う事は出来ない……というのがリュウセイとマサキの意見だった。『無い物強請りをしていても埒が開かん。今手元にある戦力だけで奴を突破せん限り、道は開けんのだ……』『そうよ、どんだけ凄いフィールドだか何だか知らないけど、あんまり私達を舐めんじゃないわよ?』『そうは言うけどなぁ速瀬中尉、あれを突破するのはホントに骨が折れるんだぜ?』『上等よッ! それぐらいやれなきゃね、ヴァルキリーズの名が泣くってもんだわ!!』『諦めろ伊達少尉。速瀬中尉がああなったら、一部例外を除いて止める事は出来ん。この人は、より困難な任務であればある程、自分が前に出て突破口を開こうとする人だ』『へぇ~、宗像にしちゃよく解ってるじゃない』『中尉は基本的にマゾですからね……追い込まれれば追い込まれるほどに満足を得る方ですから……』『前言撤回ッ! あの特機の前に、あんたを今すぐぶっ飛ばすッ!!』『……といった事を以前、白銀が皆に話してました』「ちょ、いきなり俺に話を振らないで下さいッ!」『どっちでもいいわ。二人纏めてあの世へ送ってやるから観念しなさいよッ!!』「誤解です中尉! 俺はそんな事言ってませんって!!」『ほう、五回も皆に言い触らしていたのか……意外と君も無謀な男だな』「宗像中尉、いい加減にして下さい!」『いい加減にしろ貴様ら! 今は作戦行動中だ。隊員同士のレクリエーションはそのくらいにしておけ……来るぞッ!!』『『「了解ッ!」』』毎度のやり取りを踏まえつつ、眼前の敵機に集中する武達。各々が担当するポジションに付き攻撃を仕掛けて行くが、やはり歪曲フィールドによってそれは全て弾かれて行く。実弾、粒子兵器を問わず繰り出される攻撃が全く通用しないという事実は、彼らに焦りを生みだす要因となり、このままでは冷静な判断力を鈍らせてしまう結果へと繋がって行ってしまう。『茜、同時に仕掛けるわよ!』『了解です速瀬中尉!』遠巻きに削ることが無理ならばと、接近戦を仕掛ける水月と茜。長刀を用いた攻撃は、的確に相手の死角を捉えていたが、それすらもフィールドによって阻まれてしまう。『こんのォッ!』『いっけぇッ!!』そのまま押し切ってやると言わんばかりに力を込める両名。だが、そのまま押し切られてやるほどヴァルシオンのパイロットも甘くは無い。ディバイン・アームを振りかざし、彼女達を薙ぎ払おうとする。咄嗟に回避行動を行う二人だが、それをむざむざと見逃すほど敵も愚かでは無いだろう。一方に狙いを定め、追撃を仕掛けるべく跳躍を開始する。『そっちに行ったわよ!』『解ってます!』茜は自分の下へと迫るヴァルシオンをセンターに捉え、レティクルがターゲットをロックしたと同時に突撃砲を発射する。先程の攻防の際、僅かな動きの差異で彼女の練度が水月に劣ると確信したのだろうか?ヴァルシオンは、戸惑う事無く彼女のブリュンヒルデに向けて、尚もその歩みを止めようとはしない。36mm、120mmと二種類の手を織り交ぜつつ弾幕を張り続ける茜だが、やはりその攻撃は歪曲フィールドによって阻まれてしまう。「だったらこれでッ!」突撃砲で有効打が与えられないと悟った彼女は、あえて武装を戻し、カウンター気味に敵機へと肉薄する。相手も常に防御フィールドを張り続ける事は不可能だと考えたのだろう。ならば相手がこちらに仕掛ける一瞬の隙を突き、彼女の機体が装備する最も強い武器をぶつける事にしたのだ。その兵装とは、夕呼がPT解析と、シャドウミラー達から鹵獲した兵装を基に開発した新兵器だ。ナイフシースから彼女が手にした一見短刀に見える代物が光を放ち、備え付けられた刀身部分に沿うような形で光が形成される。“試製01式近接戦闘短刀”と名付けられたそれは、見た目通り粒子でできた刃を持った剣。鮮やかな蒼穹の空を想わせる色を放ち、弧を描く様にそれは敵機へと吸い込まれていく―――「―――やった!」ついにその一撃がヴァルシオンへの初太刀となった。正確にはディバイン・アームを使って受け止めさせたに過ぎないが、フィールドを使わせずに防御行動を取らせた事実には変わりない。『駄目よ、涼宮少尉! 下がりなさいッ!!』鍔迫り合いの最中、突如通信に割り込んでくる風間の声。その直後、ヴァルシオンから二つの何かが射出され、彼女の上方へと飛翔する。ある一定の高度に達したそれは、その場で爆発すると同時に無数の何かが地面へと向けて降り注いだ。風間の助言もあり、咄嗟にその場から離脱した茜だったが、回避しきれないそれが機体各所へと命中してしまう。「きゃぁぁぁッ!」数え切れないほどの衝撃が彼女を襲い、機体が必要以上に揺さぶられる。着弾したそれは、無数の破片のようにも見えるが、爆発しない所からミサイルでは無い様子だ。だが、彼女の機体は装甲の至る所が削り取られており、跳躍ユニットも損傷してしまっている。その攻撃の正体、それはアーマー・ブレイカーと呼ばれるクラスターAP弾。文字通り敵の装甲を削り、堅牢な相手を仕留めるために用いられる物だ。幸いな事に茜の機体は、回避行動を取っていた事と増加装甲を纏っていた為に大破は免れたが、通常の戦術機がこれをまともに受けてしまえば一瞬にして鉄屑へとその姿を変えられていただろう。『大丈夫か、涼宮ッ!』「だ、大丈夫です大尉……何とか機体は動きます」『すぐにその場から離脱しろ!』「了か……ッ!?」『茜ちゃん……ッ!!』増加装甲をパージし、その場からの離脱を試みる茜。だが、彼女の眼前にはディバイン・アームを振りかざしたヴァルシオンが、今まさにその命を刈り取るべく最後の一撃を繰り出そうとしていた―――『―――させるかよッ!』両者の間に割って入る銀色の機体。その行動に気付いたマサキがディスカッターでそれを受け止めたものの、その剛腕によって繰り出された一撃を受け止めていられる時間はそう長くは無いだろう。だが、目の前の行動に対し、茜は何故か身動きが取れずにいる。死に直面した恐怖から、未だに何が起こっているのかを理解できていないのだ。『タケルッ! 俺がマサキの援護に入る。お前はあの子を頼んだぜ!!』「了解ッ!」マサキ達の救援に駆け付ける二人。武がスライプナーで援護しつつ、リュウセイはそれに合わせる形でヴァルシオンに目掛け突貫する。『くらえ! T-LINKナッコォ!!』R-1の右腕に念動フィールドが集束され、その拳が唸りを上げる。だが、ヴァルシオンもそれに負けじと行動を起こし、武とリュウセイが繰り出した攻撃は再びフィールドによって弾かれてしまう。更にヴァルシオンは、少々無理な体勢で有るにも拘らず、サイバスターを抑えていた右腕に力を込める事によって彼を薙ぎ払った。咄嗟に態勢を立て直すマサキだが、敵がこの隙を見逃す筈も無い。そう悟った彼は、カロリックミサイルで弾幕を張り、リュウセイ達と共に一先ず後退する手段を採る。「グッ、大丈夫か?」『こっちは大丈夫です。ありがとうございました少尉』「気にすんな。今度から気をつけろよ……」幸いな事に茜の機体は、跳躍ユニットを除いてではあるものの、それほど酷いダメージは見受けられないでいた。だが、先程の攻撃により、マサキのサイバスターは損傷を受けてしまっていたのである。「あの子は大丈夫だったみたいだけど、こっちはちょっとヤバいわよマサキ」「無茶な態勢であんニャの受けちゃったから、プラーニャ伝達用回路が一部焼き付きそうになってるニャ……」瞬間的にとはいえ、自分よりも巨躯と言える相手の攻撃を受け止めるにはそれ相応の力が必要となってくる。先程の攻防の際、彼は己のプラーナを高める事で無意識のうちに機体性能を引き上げていた。しかし、咄嗟の事でその放出量を機体側が許容できる物を上回ってしまったのだろう。それに加え、体勢的にもかなり無理やりなものだった点も理由の一つとして考えられる。また、先の大戦以後、サイバスターはオーバーホールを行うべくラ・ギアスへ戻る予定だった。能力を完全に発揮できない状況などもあり、それらの要因が折り重なるように彼にとっての不都合な物として降りかかって来たのかもしれない。「って事は、大技を使うのは無理ってことか?」「バイパスを繋げばニャんとかニャるかも知れないけど、いつも以上にプラーニャを消耗しちゃうかも知れないニャ」」「って事は、後先考えずに大技を使うのは無理ってことか……やべえな、これじゃますますあのフィールドを破る手立てが無くなっちまったって事になるじゃねえか……」基本的にサイバスターが使用する兵装、とりわけ大技と彼らが考えている物は、操者のプラーナを基に放たれる物が多い。サイフラッシュ、アカシックバスター、そしてコスモノヴァの三種は、その中でも特に消費量が大きいと考えられるものばかりだ。敵に対し、確実にそれらを当てる事が可能であるならば問題は無いかもしれないが、現状でそれは得策とは言えない。仮にヴァルシオンを撃墜する事が出来たとしても、今は静観しているとはいえ後方に控えているXG-70がどのような機体なのかも解らないのだ。機体サイズを考えれば、鈍重な物なのだろうという事は考え付くが、そういった物ほど大抵の場合はそれを補う防御兵装が備えられていると言っても過言ではない。もしもXG-70が歪曲フィールドに匹敵する、もしくはそれ以上の物を持ち合わせていた場合、動けない自分はただの足手まといにしかならないだろう。そういった点を踏まえ、現状でヴァルシオンを何とかするには、それら三種の兵装を用いずに事を運ばなければならないという状況へ追い込まれてしまったという事になる。「クロ、シロ、とりあえず機体制御に支障が無いようにバイパスを繋げてくれ! 兵装関連の奴は後回しでいい……」「でもマサキ、それだとカロリックミサイル、ハイファミリア、ディスカッターぐらいしか武器が使え無くなっちゃうニャ」「んな事は解ってる! だがな、ここでサイバスターが動けなくなっちまったら良い的だ。もしも万が一、そこで必要以上にダメージを受けちまったら、それこそサイバスターは戦えなくなっちまう……俺の言ってる事、お前たちなら解るだろ?」「確かに、自分達で治せニャいぐらいまでダメージを受けちゃったら、おいら達はニャんにも出来なくニャっちゃうもんニャ……」「解ったニャ、マサキ。出来る限り事はやってみる!」「頼んだぜ二人とも!」『「解ったニャ!」』マサキにとってこんな状況に追い込まれてしまった事は、正直言って歯痒いところだろう。だが、ここで選択を誤り、更に不利な状況へと追い込まれてしまえば、それはもっと大きなものへと変貌してしまうに違いない。以前の彼ならば、その様な事を考えずに行動を起こしていたかもしれないが、こういった手段を選択できるようになったという事はそれだけ成長したのだという証拠と言える。「タケル、リュウセイ、ちょっとばかりヤバい事になった。戦闘に支障はねえが、暫く大技が出せねえ……悪いが援護してくれ!」『なんだって!? さっきの奴で何処かにダメージを負ったのか?』『そんなに酷い損傷なのか、マサキ?』「いや、プラーナ・コンバーターの回路が過負荷で焼き付きかけちまっただけだ。バイパスを繋げば何とかなる」『そうか、解った。無理はするなよ?』「ああ、すまねえがアテにさせて貰うぜ……」彼らが後退する間、伊隅達ヴァルキリーズの面々が弾幕を張り続けてくれていた。そのお陰で、それ以上の追撃を受ける事は無かったのは幸いだったと言える。話を纏める事も出来たが、左程事態は好転してないない。唯一変わった状況といえば、展開していた米軍機の殆どがその場から離脱していた事ぐらいだろう。『―――アメリカ陸軍第66戦術機甲大隊長より現戦域に居る国連軍部隊へ! 我が軍の部隊はもう間もなく離脱を終える。この期に及んで敵対していた筈の君達に対し、この様な事を言うのはなんだが、貴官らのお陰で助かった……改めて礼を言わせてほしい』「ヴァルキリーリーダーより米軍戦術機甲大隊長へ! 互いに任務を全うしようとしたまでに過ぎません。ここは我らに任せ、そのまま撤退して下さい少佐」『ハンターリーダー、了解。貴官らの武運を祈るッ!!』その通信を最後に、戦域から離脱する第66戦術機甲大隊。先程テスレフ少尉が操られてしまった事もあり、彼女らは場合によっては再び敵対せざるを得ない状況になってしまうのではないかと懸念していた。しかし、そういった素振りを見せる者は一人もおらず、戦域に居た殆どの将兵が離脱出来たのは幸いだったと言える。だが、現状は予断を許さない事に変わりは無い。米軍部隊が撤退したとはいえ、戦場にはRPGなどで言うボスキャラに該当するものが未だ存在しているのだ。これらを何とかしない限り道は開けず、そして攫われてしまった悠陽の所在を得る事も出来ないだろう。「―――全員聞け、我々は人類を守護する剣の切っ先……如何なる任務であれそれを遂行する。たとえその妨げとなるのなら、BETAであれ人であれ排除するのみだ……何としても我等はこの状況を打開し、突破口を切り開かねばならない。行くぞ、ヴァルキリーズ! 全機続けッ!!」『『「了解ッ!!」』』仕切り直しと言わんばかりに声を上げ、部下達を鼓舞する伊隅。結成当初は連隊規模を誇った特殊部隊A-01において、絶対の成功を求められる彼女達。“伊隅戦乙女中隊”はこの様な場を制してこそ、その存在意義を証明できるのかも知れないとさえ感じられる。そんな彼女達を見て、後方に控えていた敵指揮官は、一先ず彼女達の奮闘ぶりを称えていた。「この状況においてまだ諦めぬか……流石は特務部隊A-01と言ったところだな」そう言葉に露わしているが、その表情は彼女達の行為が無駄だと物語っている。そして彼は、ヴァルシオンの圧倒的な性能に酔いしれていた。絶大な破壊力、そして通常兵器では貫けない防御力、そのどちらも現行兵器が持ち合わせていない物だ。ここで彼女等を殲滅する事が出来れば、それは機体の更なる有用性を示す結果へと繋がると言っていい。行く行くはこれが自らの下へと手に入ると言う事実は、彼にとって如何なるものよりも甘美なものだと感じられていた―――『―――遊びはそれくらいにして頂けないでしょうか? 大佐は貴方にそんな事をさせるためにそれらを任せたのではありません』「……フン、貴様にその様な事を言われる筋合いは無い。私のやり方に口を挟まないで貰おうかピーター大尉」『貴方に与えられた任務は、そんな雑魚の相手ではない筈です。もしもこちらの言う事に従えないのであれば、それ相応の覚悟をして頂かなければなりませんが?』「これは機体の性能テストを兼ねているのだろう? ならば問題は無い筈ではないか……早く奴らを片付けたいのであれば、君も協力したらどうかね?」『なるほど、貴方の仰る事も一理あります。ならば自分も御手伝いさせて頂く事にしましょう』ニヤリと何かを含んだかのような笑みを浮かべ、協力を進言するW13。そして、戦域を取り囲むような形でそれは姿を露わす―――『―――ヴァルキリーマムより各機、敵の増援です! 三個中隊規模の部隊が、戦域を取り囲むようにして展開しています!!』「なんだとッ!? どういう事だ涼宮! 何故今まで接敵に気付かなかった!?」『わ、分かりません! 突如としてこの場に現れたとしか言い様が無いんです!』ここに来ての伏兵、恐らくは米軍撤退時のドサクサに紛れ、光学迷彩を展開した状態で接近していたのだろう。何度も経験している事とはいえ、この状況においての敵増援は負担以外の何ものでもない。しかもこちらを取り囲むようにして展開しているとなれば、状況は圧倒的に不利でしかないのだ。「クロ、サイフラッシュで一気に奴らを蹴散らす!」「いつもより時間がかかるわ。それに現状の出力じゃ最大有効射程が狭まってるから、もっと引きつけてからじゃニャいと……」『ならば、その役目は俺達が引き受ける!』「誰だッ!?」戦場に現れる4つの機影、それは彼らのよく知るものであり、そして頼れる仲間達の物だった―――「―――行けるな、ゼオラ?」『問題ありません! スプリットミサイル、シュートッ!!』「こちらも行かせて貰うッ! バーストモード……ターゲット・ロック! ハイゾルランチャー、発射!」戦場に降り頻る無数のミサイルと金属粒子の雨。月夜に弧を描くように映るそれは、なんとも幻想的であり、見る者全てを魅了するかの様だ。「俺達も行くぜ、冥夜さん!」『ああ……存分にやらせて貰うッ!!』ライとゼオラの攻撃に追従する形で、敵機へと接近する二人。何故この場に冥夜までもが現れたのか?そして激化する戦場……後に12.5事件と称される一連の出来事は、ついに最終章へと向かうのであった―――あとがき第63話、VSヴァルシオン編序章です。今回はあえてヴァルキリーズメイン?で書いてみました。新型機の装備なども徐々に明らかにさせて頂きますので、今後とも楽しみにお待ち下さい。さて、冒頭で気を失っていた筈の冥夜ですが、何故ラストに登場したのか?これについては、次回の冒頭辺りで明らかにさせて頂きます。彼女の性格を考えれば大体の予想は付くかと思いますが、出来れば『復活早すぎるんじゃないか?』というツッコミだけは御容赦願いたいと思います。次回はVSヴァルシオン編の続きをお送りしますので楽しみにお待ち下さい。