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No.4008の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION (Muv-Luv オルタ&SRWOGクロスオーバー作品)[アルト](2013/01/21 20:25)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第0話 プロローグ[アルト](2008/08/28 21:08)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第1話 異世界からの来訪者[アルト](2008/08/29 21:41)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第2話 新たなる出会い・・・そして・・・[アルト](2008/08/31 20:44)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第3話 イレギュラー[アルト](2008/08/31 20:40)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第4話 再会[アルト](2008/09/16 23:44)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第5話 姉妹の絆[アルト](2008/09/04 01:33)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第6話 不協和音[アルト](2008/09/05 08:43)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第7話 過去、そして現在(いま)・・・[アルト](2008/09/07 08:55)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第8話 侵入者の影[アルト](2008/10/16 22:13)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第9話 抹消された戦術機(前編)[アルト](2008/09/12 22:09)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第10話 抹消された戦術機(後編)[アルト](2008/10/16 22:17)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第11話 戦乙女再び[アルト](2008/09/21 23:33)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第12話 白銀の力[アルト](2008/09/23 21:34)
[14] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第13話 激突!孤狼と白銀[アルト](2008/10/16 22:30)
[15] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第14話 失われし記憶[アルト](2008/10/16 22:41)
[16] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第15話 真実が明かされるとき[アルト](2008/10/18 23:16)
[17] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第16話 純夏の想い[アルト](2008/10/22 01:41)
[18] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第17話 拒絶[アルト](2008/10/24 01:19)
[19] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第18話 得られたモノ[アルト](2008/10/24 01:19)
[20] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第19話 とある日常の訓練風景[アルト](2010/10/05 18:39)
[21] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第20話 BETA侵攻[アルト](2008/10/28 21:51)
[22] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第21話 紅き機神来たりて・・・[アルト](2008/10/30 17:56)
[23] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第22話 覚醒[アルト](2008/11/01 01:04)
[24] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第23話 新たなる力[アルト](2008/11/06 00:09)
[25] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第24話 邂逅[アルト](2008/11/06 00:07)
[26] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第25話 忘れられぬ日々[アルト](2008/11/16 21:36)
[27] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第26話 立脚点[アルト](2008/11/16 21:35)
[28] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第27話 運命のあの日[アルト](2008/11/22 00:26)
[29] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第28話 蠢く陰謀[アルト](2008/12/06 21:15)
[30] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第29話 総戦技演習へ向けて[アルト](2008/12/07 00:13)
[31] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第30話 島を行く[アルト](2008/12/20 00:23)
[32] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第31話 動き出す影[アルト](2009/01/12 15:06)
[33] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第32話 南国の激闘[アルト](2009/01/12 23:27)
[34] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第33話 脱出[アルト](2009/02/02 21:19)
[35] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第34話 吹き荒れる熱風、疾風の如く[アルト](2009/03/13 00:46)
[36] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第35話 暴れまわる幽霊達[アルト](2009/03/13 00:45)
[37] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第36話 Dancing dolls[アルト](2009/03/19 22:21)
[38] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第37話 疑念[アルト](2009/04/06 23:14)
[39] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第38話 一時の休息、そして新たなる始まり[アルト](2009/04/09 22:43)
[40] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第39話 悠陽からの招待状[アルト](2009/04/29 20:43)
[41] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第40話 新たなる仲間[アルト](2009/05/04 17:07)
[42] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第41話 天照計画(Project Amaterasu・プロジェクトアマテラス)[アルト](2009/05/18 22:58)
[43] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第42話 武神の産声[アルト](2009/06/10 23:09)
[44] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第43話 彼方への扉[アルト](2009/05/29 18:53)
[45] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第44話 白銀 武の受難[アルト](2009/06/10 23:29)
[46] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第45話 天元山での出会い(前編)[アルト](2009/08/03 18:37)
[47] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第46話 天元山での出会い(中編)[アルト](2009/08/04 00:13)
[48] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第47話 天元山での出会い(後編)[アルト](2009/08/31 01:05)
[49] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第48話 御守岩をぶった切れ!![アルト](2010/01/05 14:14)
[50] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第49話 迫り来る悪夢[アルト](2010/01/07 20:32)
[51] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第50話 数多の可能性[アルト](2010/01/10 23:19)
[52] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第51話 成すべきこと[アルト](2010/01/16 20:49)
[53] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第52話 護りたい背中[アルト](2010/01/31 21:06)
[54] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第53話 歪められた12.5事件[アルト](2010/01/27 22:43)
[55] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第54話 夕呼の企み[アルト](2010/01/31 21:03)
[56] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第55話 共に歩む尊き者よ[アルト](2010/02/04 00:28)
[57] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第56話 月が闇を照らすとき[アルト](2010/02/08 20:21)
[58] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第57話 シャドウミラー包囲網を突破せよ[アルト](2010/03/19 01:22)
[59] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第58話 合流(前編)[アルト](2010/05/02 22:47)
[60] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第59話 合流(後編)[アルト](2010/07/02 00:40)
[61] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第60話 偽りの仮面[アルト](2010/07/03 21:44)
[62] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第61話 DCの遺産[アルト](2010/08/01 22:10)
[63] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第62話 奪還作戦[アルト](2010/09/03 23:00)
[64] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第63話 究極の名を冠したモノ[アルト](2010/09/12 18:29)
[65] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第64話 ゲイム・システム[アルト](2010/10/02 23:51)
[66] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第65話 潰えし野望[アルト](2010/11/01 18:55)
[67] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第66話 開かれた次元の扉[アルト](2010/11/12 20:46)
[68] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第67話 新西暦と呼ばれる世界[アルト](2010/11/15 23:18)
[69] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第68話 導かれた悪意(前編)[アルト](2011/01/08 19:35)
[70] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第69話 導かれた悪意(後編)[アルト](2011/01/20 23:44)
[71] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第70話 因果律の番人[アルト](2011/02/02 21:30)
[75] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第71話 帰郷[アルト](2012/07/15 19:01)
[76] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第72話 A-01新生[アルト](2012/07/15 19:08)
[77] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第73話 明かされた出生の秘密[アルト](2012/11/05 11:54)
[78] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第74話 解隊式[アルト](2013/01/21 20:24)
[79] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第75話 ベーオウルブズ(前編)[アルト](2013/01/28 17:37)
[80] 本編登場機体設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2011/01/20 23:46)
[81] 本編登場キャラクター設定資料(ネタバレ含む)[アルト](2010/01/27 22:49)
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[4008] Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION 第66話 開かれた次元の扉
Name: アルト◆ceb42498 ID:f0f37b8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/12 20:46
Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION

第66話 開かれた次元の扉





《Yu-ko side》



12月4日深夜、私はアルマーとラブレスの両名を帝国軍内部で勃発するであろうクーデターを阻止するための任務に就かせた。
正直言って、こういった任務はあまり気が進まないというのが本音だわ。
いくら殿下の頼みとはいえ、一歩間違えば事態はとんでもない方向へと傾いてしまうんですもの―――


「クィーンよりナイトとビショップへ、聞こえるかしら?」
『ああ、聞こえている』
「そっちの状況はどう?」
『もう間もなく帝都城上空へと差し掛かる。既にビショップは潜入済みだ、これがな』
「上出来ね。それじゃ後は、手筈通りにお願いするわ。くれぐれも丁重にお連れするのよ?」
『了解だ。では、エスコート完了後、またこちらから連絡する』


念のためにとはいえ、アルマー達との連絡に使用している通信も、そう簡単に傍受できるような物は使っていない。
コールサインも従来のものではなく、別の物にしているほど念を入れているのはやり過ぎたかと思えるほどだわ。
しかし、この時私は、ある種の疑念を抱いていた。
確かに殿下の性格を考えるならば、今回の様な策を思いつくかもしれない。
でも、こちらの意見をまるで聞き入れず、一方的に自分の考えを彼女が押しつけたりなどするだろうか? と……



結果としてこれは、後になって確信へと変わる事になった。
この時点で既に、殿下がシャドウミラーの用意した偽者とすり替わっているなんて、多分誰も考え付かなかったに違いない。
彼らを良く知るであろうアルマーやラブレスですら、一緒に行動していても気付かなかったんですもの。
奴らがそんな隠し玉を持っている事すら知らなかった私が、この時点で気付ける筈も無いわね。
予めそういった能力を持った奴が居る事を教えてくれていれば余計な手間も省けたって言うのに……
だから私は、用意しておいたプランを実行に移す事にした。
誰が言ったか知らないけれど“備えあれば憂いなし”って言葉は、こういう時のために在るんでしょうね。
ホント、昔の人はよく言ったもんだと感心するわ。



『こちらビショップ、目標を確保したでありんす。これよりナイトと共に本隊に合流しちゃいますです』
「ご苦労様。悪いけど、作戦をプランBに変更させて貰うわ。指示は追って出すけど、それまでは当初の予定通り本隊と合流して頂戴。こちらからは以上よ」
『了解。では、本隊と合流します』



相変わらずふざけた口調よね……最初は単に日本語が上手く喋れないだけかと思っていたけど、言語回路の損傷で敬語を話す事が出来ないって聞かされた時は、正直呆れたものだわ。
でも、それを差し引いても、シャドウミラーの技術は凄いものだと関心もさせられた。
人格転写を行う00ユニットとは違い、一つの個としての人格を形成させるだけの技術。
創造者は既にこの世に居ないと言っていたけれど、出来れば一度会って話を聞いてみたいとさえ感じさせるほどに、ね……



「さて、こちらの準備も良いかしらピアティフ?」
「問題ありません。作戦に参加させる部隊は、207訓練部隊を除いて全て準備が完了しています」
「上出来よ。それじゃ、各部隊に通達。プランBの開始予定時刻は明朝07:00、それまでに何が起こっても即時対応できるよう心掛けるように伝えて」
「了解しました」



さて、これから忙しくなるわね。
とりあえず、こちら側の初手は打った。
後は、相手の出方を見て随時手を変えていけば良いだけなんだけど……




ここに来て予想外の出来事が発生してしまった。
本来12.5事件を起こす筈だった奴らの一人が、こちらの抑えていなかった民間の通信施設から詳細を暴露してしまったのだ。
ホント余計な真似をしてくれたわね……でも、これは使えるかもしれないわ。
世間の目が政府側を非難する方にに向いている今ならば、恐らく米国政府の介入が遅れるに違いない。
私はすぐに執務室へと戻り、必要になるであろう資料を用意する事にした。
本当ならこんな事に使うつもりではなかったのだけれど、これを珠瀬事務次官に見せれば彼をこちら側に引き込めるかも知れない。
やはり事前にノースロック社と取引をして置いて正解だったわね。
これほどこの考えが上手く行くなんて、思わなかったんですもの……



―――YF-23 ブラックウィドウⅡ―――

この機体は米国製戦術機にしては珍しく、近接機動性の重視と長刀を用いたBETAとの近接戦闘能力を設計段階から考慮されているのが特徴だった。
“世界一高価な鉄屑”なんて揶揄されているけど、それはそれほどまでに勿体ない物だと言われているのに他ならない事よね。
今の世の中、戦術機を遊ばせておけるだけの余裕すら無いっていうのに、こんなものは無駄以外の何物でもないのよ。
だから私は、これを開発したノースロック社にある取引を申し出た。
これを基にF-22Aを超える戦術機を開発してみせるから、開発に関する詳細なデータと設計図を提供して欲しいと……



でも、その要望は拒絶された。
当然といえば当然よね。
向こうは米国の一企業である以上、他国の、しかも母国が推進する計画と争っているものの中心人物にこれを提供するなんてありえない事ですもの。
だけど、相手のその考えも結局は無駄に終わった。
総戦技演習が行われていた時、白銀が襲われた謎の部隊。
その部隊が運用していた機体の件を引き合いに出し、説明を求めたら掌を返してきたのには笑うしかなかったわね。
余程知られたくない事実が隠されているのだろうと踏んだけど、どうやらそれを内密にして貰いたいがための賄賂の様な物だったんでしょう。
これ以上余計な詮索をして貰っては困るので、無償でデータをお渡ししますなんて言ってきた時点で自分達の首を絞める結果に繋がってるっていうのに……まあ、向こうがそういうのであればこちら側に拒否する理由も無いんだから良いけど。
お陰でこちらとしても良い取引材料を手に入れる事が出来たんだし、これ以上の贅沢を言う必要は無いわね―――



「―――以上が207訓練小隊へ通達される任務よ。何か質問はあるかしら?」

12月5日明朝、私はまりもを呼び出し、彼女の教え子達を当初の予定通り任務に就かせる事にした。
ちなみにこの時点で、白銀にはまだ状況を伝えてはいない。

「ちょっと待って頂戴! 日本政府側からの正式な協力要請は出ていないんでしょう!?」
「残念だけど、それは時間の問題よ。何か勘違いしてるみたいだけど、207小隊には帝国軍部隊の後方支援を行わせるつもりでしかないわ。誰もいきなり実戦に出ろなんて言わないわよ」

現状で彼女達を出撃させる事に、まりもは納得できなかったんでしょうね。
後方支援任務とはいえ、実戦になるかも知れないということに変わりないんですもの。
もしも万が一、殿下を誘拐した賊と鉢合わせになってしまえば、恐らくあの子達では太刀打ちできないと彼女は考えていたに違いないわ。
まったくこの子は、一体何のために私の下で教官職をやらせていると思っているのかしら?
長年の付き合いだけど、一々私の言動に驚いてちゃ身が持たないってことぐらい、いい加減に学習して貰いたいものだわ―――

「―――ねえ、まりも……アンタは一体、普段からあの子達に何を教えているのかしら? こういった不測の事態が起こったとしても、即応できるようにあの子達を育てているんでしょう?」
「それは……そうだけど……」
「自慢の教え子達なんでしょ? それとも何? あの子達は自慢するに値しない落ちこぼれだとでも言いたい訳?」
「そんなこと無いわ! あの子達も伊隅や速瀬達と同じように、優秀な子達よ!!」
「だったら、もっとアンタの教え子を信じてあげなさいよ。アタシもアンタの指導を信頼してる。そしてあの子達もそれに応えてくれるに違いないってね……」

その一言が切っ掛けで、まりもは私の命令を受け入れた。
今思えば、あの子に再び辛い思いをさせてしまう切っ掛けを作ってしまったのかも知れない。
だけど、後で彼女に忌み嫌われたとしても、これは実行に移さなければならなかった。
今回の作戦に207小隊を参加させる事は、それ相応の意味があったのだから―――



「―――そっちの状況はどうかしら?」
『先程アクセル達と合流しました。今のところ周囲に反応はありません』
「……そう、今のところは問題ないみたいね。それで、預けておいた物資は?」
『既に目的地へ向け、移動を開始しています』
「合流のタイミングは、追って指示を出すわ。それほど時間は掛からないと思うけど、くれぐれもこちらの動きを悟られないようにして頂戴。以上よ……」



白銀に事の次第を伝えた後、私は南部達に連絡を取っていた。
目標の確保に成功し、後は彼らと接触させれば今後の方針が確定する。
その為の確認を行った訳だけど、この時点で目標に不穏な動きは見られていない様子だった。
それから数時間後、再び私は南部達に連絡を取り、搭ヶ島離城に居る御剣と目標を接触させて見る事にした。
私の考えが憶測の域を出ていない以上、相手の出方を見る必要があったのも理由の一つだけど、それを相手に気取られる訳にもいかない。
そういった事から私は、南部達を離城へと向かわせず、御剣本人を彼らの下へ寄越すように仕向けた。
結果的にこの時点でも目標は動きを見せない……やはり私の思いすごしだったのかしら?
でも、そう考えていた矢先、事態は予想外の方向へと推移する事になった―――



「―――緊急事態よ南部!白銀達が補給を受けていた筈の本土防衛部隊から襲撃されたわ」
『……やはり彼らは、殿下を手に入れるために行動を起こしたのでしょうか?』
「どうやら違うみたいね。詳しい話を聞いた訳じゃないけれど、突然彼らが白銀達を襲いだしたそうよ」
『解りました。では、我々は先程の指示通り、搭ヶ島離城へと向かいます』
「ヴァルキリーズには別ルートで亀石峠方面へ向かうよう通達をだすわ。アンタ達もなるべく急いで頂戴」
『了解です!』


この後、ついにシャドウミラーが公の舞台に姿を現わした。
恐らく仕掛けて来るに違いないと考えていたけど、この状況で一個大隊規模の戦力を投入して来るなんて私ですら予想できなかったわ。
この世界では殆ど見られなくなった航空戦力に対して、的確な対処が行えるものが少ないというこちら側の弱点を考慮した布陣。
元々BETA側に航空戦力が存在しない事もあって、今の衛士達にとってこれ程脅威となるものは無いでしょうね。
現にあの白銀ですら敵戦闘機に撃墜されそうになってたって報告を受けている訳だし―――


『ヴァルキリー5よりHQ、もう間もなく白銀大尉との合流予定地点に到着します』
「急いで頂戴、涼宮。先程、白銀が正体不明機との戦闘を開始したわ。恐らく大丈夫だとは思うけど、もしもという事もある……絶対にあいつを助けなさい。いいわね?」
『了解です副司令!』



当初の予定では、涼宮達とブランシュタイン達の別働隊にまりも達の援護をやらせるつもりだった。
でも、白銀が殿を務める事になったのは予定外だったんですもの。
もしあの状況であいつを一人にしておいたら、何を仕出かすか判らないっていうのもあったけど、今思えばこの選択で正解だったわね。
結果的にブリュンヒルデの良いデータも取れた事だし、異なる機体を同じアプローチで仕上げた際の完成度を確かめる良い機会だったわ。
自分自身で白銀の驚く様子を見れなかったのは残念だけど、多分あいつは度肝を抜かれてるでしょうね。



『こちらアサルト12、予定通り207小隊との接触に成功しました』
「それで、戦況はどうなっているのかしら?」
『現在、敵残存勢力の掃討を行っております。既に207小隊は、補給ポイントへ向けてこの場を離脱していますので問題ありません』
「上出来よ、ブランシュタイン少尉」
『ありがとうございます。このまま敵勢力の掃討が完了次第、我々は207小隊の後を追います』
「ああ、その事なんだけどね。それは伊隅達にやらせる事にするわ。アンタ達には、これから新たな任務に就いて貰うから。詳細は今から送るけど、出撃前に言ったパスワードは覚えているわね?」
『無論です。では、掃討任務を継続します』
「頼んだわよ」



この時点でも目標は何の動きも見せなかった。
シャドウミラーが介入してきた以上、そろそろ何らかの動きがあるかと予想していたのは考え過ぎだったのかと思えるほどに……
念の為に重要な司令内容に関しては、厳重なプロテクトを掛けたデータを送ることで対応させることにしたけれど、必要無かったかしら?
今のところ、こちらの裏をかくような方法を用いて来る様子も見られないのがイヤラシイほどに不気味だわ。



「副司令、日本政府からの連絡です……」
「どうせ米軍の受け入れを正式に許可した……なんていう下らない内容でしょ? 元々想定していた事だし、別に改まって伝えて貰わなくても構わないっていうのに……ピアティフ、斯衛軍の紅蓮閣下は今どの辺りかしら?」
「現在、旧大仁中央インターチェンジ跡周辺区域にて待機されております」
「そう……なら、こちらの指示があり次第、すぐにでも動けるよう頼んでおいて。それから伊隅達に繋いでくれるかしら」
「了解しました」


相手が動いていないように見えるとはいえ、いつまでも静観を続けている訳には行かない。
例えるならばこれは、チェスの様な物だわ。
一見意味のなさそうな手だと思わせておいて、実はそれがチェックメイトを仕掛けるための布石だった……なんて事はよくある手だもの。
油断していたお陰で相手の動きを読めなかったなんて事になったりしたら、私自身のプライドが許しはしないわ。
その為に幾つもの状況を予測し、様々なプランを練ったんですもの―――



『御呼びでしょうか、副司令?』
「やはり目標と行動を共にしている207小隊が、敵の襲撃を受けたわ。先程、ベーオウルブズのお陰で彼女達は離脱する事に成功したけれど、恐らく別ルートからの追撃部隊が迫っているに違いないわね」
『我々も今しがた所属不明機との戦闘を終えたばかりです。数はそう多くありませんでしたが、恐らく207小隊を側面から牽制するための部隊だったと考えられます』
「その中に戦術機は居たの?」
『いえ、戦車と思われる機体ばかりでした』
「そう……その後、周辺に敵の反応は?」
『今のところ、そういった物は見受けられません。ですが、静かすぎて逆に不気味なぐらいです』


やはり、伊隅達を先行させたのは正解だったわね。
待ち伏せを仕掛けて来た事から、間違いなくその後詰めを行う部隊が居ると思っていたけど……でも、少し変ね。
確かにこちら側は訓練兵を中心とした構成だけど、確実に事を進めようと考えるならそんな効率の悪い事はしない筈。
南部達の方に戦力を集中し過ぎたせいで、こちら側に戦術機部隊を避けるだけの余裕が無かったのかしら?


『……副司令、どうかなされたのですか?』
「ねえ伊隅、妙だとは思わない? 自分達にとって事を優位に進めようと考えるなら、相手は他の部隊へ割く人員は足止め程度の最小限の物にする筈よね?」
『……確かにそうですね。ですが、本命をひた隠しにする、もしくは本命の準備が整うまでの時間稼ぎとなれば話は変わってきます』
「やっぱりね……ついさっき、日本政府から米軍部隊を正式に受け入れるという表明があったわ」
『なるほど、恐らくそいつらが本命でしょう。姑息な手段ではありますが、理には叶っています』
「危うく出し抜かれるところだったわ。伊隅、アンタ達はこれよりその場に待機。207小隊が近くを通過した後、その後を追いなさい。恐らく山伏峠付近で米軍の部隊が仕掛けて来るに違いないわ……207小隊への追撃を絶対に阻止しなさい! 良いわね?」
『ハッ! 了解しました!!』



米国政府の介入を遅らせていたシワ寄せが、こんなところで表面化して来るとは思わなかった。
今までの布陣は、すべてこのタイミングで米軍に207小隊を捕捉させるための準備期間。
流石の私も、そこまでは読むことが出来なかったとはいえ、本当に危なかった。
念のために伊隅達だけで間に合わない事を仮定して、足の速い伊達と安藤を彼女達の方に割り振っておいて正解だったという事ね。





程なくして、やはり米軍部隊が彼女達を補足した。
まりもと月詠中尉が説得を試みたらしいけど、案の定それも無駄に終わったわ。
私はウォーケン少佐という人物を詳しく知らないけれど、あからさまに怪しいと思える任務に対し、実直なまでに行動する様な軍人ですもの……そう簡単に説得に応じる訳が無いわよね―――



『―――こちらアサルト4、緊急事態でございます香月副司令』



そして、この一言が私の疑念を確信へと変えるものになった。
シャドウミラーと戦闘を行っていたベーオウルブズに対し、敵指揮官と思われる人物からの通信があったのだ。


「小芝居ですって? 言うに事書いて小芝居とは言ってくれるじゃないの……」
『少々お待ちやがれです。これは私が言ったのではなく……』
「解ってるわよ。とりあえず、アンタ達は急いで補給を行いなさい。その後の事はまたこちらから連絡するわ」
『了解したでございます』
「……ピアティフ、急いで207小隊のまりもに通達。今後別命あるまでその場で待機するよう伝えて頂戴」
「了解しました……ッ!? 大変です副司令、207小隊の二番機が、搭乗衛士共々強奪されたとの事です!」
「チッ、やってくれるわね……直ちに207小隊に追撃させなさい! それから急いで白銀に繋いで!」



想定していたとはいえ、やはり殿下は偽者だった。
偽者を確保した時点で拘束するという手段を用いても良かったけれど、それでは本来の目的を果たす事は出来ない。
奴らは小芝居だとぬかしてくれたけど、これがそうだったかどうかは終わってみれば分かることだわ。



「副司令、白銀大尉との通信、繋がりました」
「……色々と言いたい事もあるでしょうけど、それは全てが終わってから聞かせて貰うわ」
『解ってます。それに、聞いたところで、どうせ教えてくれないんでしょう?』
「良く解ってるじゃないの……さて、本題に移らせて貰うわね。先程、こちらが確保した悠陽殿下が偽者だったという事実が判明したわ」
『なんですって!? じゃあ、本物の殿下は今どこに居るって言うんです!?』
「残念だけど、シャドウミラーに囚われているそうよ。奴らが態々こちらにそれを知らせてきたんだから間違いないわ……それともう一つ、その偽者によって御剣が連れ去られたそうよ」
『そんな……』
「落ち込むのは後よ。アンタは今すぐ伊隅達と合流しなさい。言っておくけど、御剣の救出に行かせろなんて頼まれても許可しないからね」
『待って下さい先生! なんで俺に冥夜の救出を……』
「駄目よ! それに関しては既に手を打ってあるわ。アンタはこれから送る指示通り、任務を全うしなさい……いいわね?」



渋々だけど白銀はこちらの指示を受け入れた。
あえてあいつを御剣救出に向かわせなかったのは、それなりの理由がある。
この時私が打った手は、XM3を媒介として機体を無力化させるものだった。
厳密に言えば、強制的にシステムをダウンさせる物だったんだけど、多分あの馬鹿は御剣を取り返す事に躍起になってそれに巻き込まれるに違いない。
現に機体に負荷が掛かり過ぎるからという事で使用を禁じていた兵装を使用したんですもの、念には念を入れる必要があるわ。
と思っていた矢先、試験を終えてもいない防御システムまで使ったらしいわねあいつ……無事だったから良かったものの、やっぱり馬鹿は一度死ななきゃ治らないっていうのは本当なのかしら?
非現実的な事だけど、あいつの場合は本当にそう考えたくなるからおかしなものだわ―――







「―――ふぅ、死者1名、重軽症者合わせて78名、行方不明者1名、戦術機の損害は帝国、国連両軍合わせて25機が大破、中破が37、簡単な整備のみで戦線に復帰できるものが多数……これは喜ぶべきなのかしらね?」

後に12.5事件と呼ばれる事になった今回の一件。
その詳細を纏めたレポートを作りながら私は、執務室に来るよう命じていた南部に対しそれを問いていた。

「何とも言えないでしょう……一連の事件の首謀者である“崇宰 信政”は死亡しましたが、結果的に我々はシャドウミラーに出し抜かれた形になっています」
「まあ、それに関しては、あの男に係わっていた人間から情報を引き出すことである程度の事は判明するでしょうね。殿下も無事だった訳だし、この先日本が良い方向に進んでくれる事を願う事にするわ……でも、疑問に残る点は多いわね」
「何故シャドウミラーは、折角手に入れた筈の殿下をヴァルシオンに乗せ、タケル達と戦わせたか……という事ですね?」
「それもあるわね。奴らが殿下を手に入れた事には、それ相応の理由がある筈よ。にも関わらず、簡易的な暗示を施し、態々戦場に送りだす必要なんて無いと考えるべきでしょう?」

あの時点で殿下を戦場に出す必要が、何処に在ったのだろうかと疑いたくなるのは事実ね。
彼らの狙いが崇宰と手を組み、日本を手に入れるというものであったのならば、確かに彼女の存在は邪魔になる。
でも、苦労して手に入れた筈の彼女を再び白銀達に引き合わせてしまえば、彼らは必ずと言っていいほど彼女を奪還するべく行動に移す筈。
それ相応の理由が無い限り、敵が今回の様な行為に出るとは考え難いというのが私の本音だからだ。

「恐らく奴らの目的は、殿下を我々の手で討たせることにより、殿下暗殺の首謀者に仕立て上げるつもりだったのではないでしょうか?」
「その線ならアタシも考えたわ。でもね南部、殿下を白銀達に殺させようとするのならば、態々彼らと戦わせる必要なんて無いとは思わない? こっちが殿下を帝都城から釣れ出した事実を上手く利用すれば、その時点でこちら側が彼女に手を下したという事をでっちあげる事だって出来た筈よ。既に殿下は奴らの手の中に在ったんだから」
「確かにそうかも知れませんね……」

敢えて敵の罠にはまったフリをしていたとはいえ、目撃者が多数いる中で殿下と思われていた人物を連れたしたのは事実。
その後、彼女を用済みとなった様に見せ掛けて殺したと言われても、当の殿下本人を確保できていなければ第三者はそれを信用してしまうに違いないでしょうね。
この国の俗物達ときたら、他国の馬鹿ども以上に頭が固くてしょうがないんだもの……
どいつもこいつも己の利権と今の椅子を確保する事に躍起になってる。
そんなものを護る前にもっと大事な物があるでしょうに……なんて事は、考えるだけ無駄でしょうね。

「悔しい事だけど、結局のところは解らずじまい……といったところね」

ホント、溜め息でも吐きたくなってくるわ。
今回の一件でシャドウミラー側が殿下を手放した理由は解らずじまい。
彼女の件もそうだけど、共に確保した筈の御剣をも一時的にとはいえ手放した事に関しても疑問よね……

「……ところで殿下の容体は?」
「命に別状は無いらしいわ。意識もハッキリしてる様子だったし、懸念されていた脳に関しての後遺症も無いだろうというのが医者の見解よ」
「そうですか……」

救出された殿下は、ドクターの話じゃ特に異常も無く、すぐに退院できると聞かされている。
元々衛士としての訓練を受けていた事が功を奏したという事でしょうね。
身体的ダメージも少なかったようだし、願ったり叶ったりだわ。
彼女が意識を取り戻して半日が経過した後、彼女は医者の許可を得て今回の事件に係わった将兵達の前で礼を述べた。
そして、それらを日本全国へと中継してくれたのは、こっちにとっても都合が良かったと言える。
今回の事件の内容を国民達も知る事となったけど、公表された内容は、主に二つだった事は意外だった。
一つは現政権を快く思わない者により、今回の様なクーデターが引き起こされたという事。
そして、それらの解決のため、国連軍横浜基地の兵士達が協力に応じてくれた事の二点。
どちらかといえば、後者を公表してくれたのは有難いわね。
でも、首謀者である崇宰の名前やクーデターに協力していたシャドウミラーの名前を伏せたのは、やはり予想通りの展開だわ。
五摂家の一つである崇宰家の現当主が事を起こしたという事実は、本来ならば公表すべきなんでしょうけど、混乱を避けるために敢えて伏せられたんでしょうね。
シャドウミラーに関する事も含まれている以上、BETAという脅威に晒されている現状で、それ以外の第三者が暗躍しているという事実は、更なる混乱を招く恐れもある。
やはり軍関係者に、箝口令を敷くよう手配したのは正解だったかも知れないわね―――

「―――それで沙霧大尉達は?」
「操られていたとはいえ、殿下に刃を向けてしまった事実を否定はできない。どのような処分を下されようと、我々はそれを受け入れるつもりだ……と言ってるらしいわ。尤も、すぐに彼らに対して処分を行う事は、帝国軍側も出来ないでしょうけどね」
「それはどういう意味なのです?」
「恐らく、近いうちに帝国軍が予てより立案していた甲21号ハイヴ攻略作戦が実行に移される筈よ。現段階では、彼らが本来行おうとしていた事に対する真偽を確かめる余裕は無いという事なんでしょうね……」
「なるほど、貴重な戦力を出し惜しみする余裕は無い……という事ですね」
「恐らくは、ね……現に前の世界でも、クーデターに参加していた者達は一時的に処分を解かれていたんですもの。それは否定できないと思うわ」

前回の世界においてクーデター派の兵士達は、BETA大戦中の非常時に鑑み、その多くが恩赦を受ける事で原隊へと復帰する事を許されている。
この事件によって失われたものは人、戦術機と共に数多く、特に精鋭部隊を欠く事となった帝国軍側はかなりの痛手を被っていた。
でも結局のところ、原隊復帰が許された者達も決起側と鎮圧側に分かれてしまった事が理由で、長きに亘ってわだかまりが残ってしまったのも事実。
何とかしてこの辺もカタを付けたかったけど、恐らく沙霧大尉以下の将兵に関しては難しいでしょうね―――

「やはり我々も、そのハイヴ攻略作戦に参加せよと命令されるのでしょうか?」
「アンタ達にも出撃して貰いたいところなんだけど、今回ばかりはそちら側に任せるわ。ある程度の資材も整ってきているでしょうし、機体の整備や修復を優先させたいでしょう?」
「確かに副司令の仰る通り、我々としても纏まった時間を頂けるのは有難いところです。ですが、シャドウミラーの動きが活発になって来ている以上、ここで奴らが何か仕掛けてくる可能性も否定できません。参加するかどうかに関しての返事は、もう暫く待って頂けないでしょうか?」
「そう……なら、アンタ達に任せるわ。とりあえず、良い返事を期待しているわね」
「了解です」




《Kyousuke side》





やや重たげな表情を浮かべてはいるが、やけにあっさりとこちらの申し出を受け入れたな。
いつもの彼女ならば、有無を言わさずに参加を強制させるところだというのに、何かまた好からぬ事でも企んでいるんだろうか……
事件終息後の激務で疲れているのかとも受け取れるが、別にそういった訳でもなさそうだな―――



―――後になって解った事だが、今回の一件に関して、彼女自身に何のお咎めも無かった訳ではないらしい。
ほぼ独断とも呼べる方法を用い、将軍暗殺を阻止しようと試みた彼女の考えは、当然ながら一部の日本政府要人達から非難される形となっていた。
予てより彼女の事を快く思わないものも多かった事も災いし、この機を逃すものかと考えていたんだろう。
だが、そういった者の多くは米国派の人間で、逆にその行為が自分達の首を絞める形となったというのは、まさに自業自得だといえる。
日頃から現在の日本のことを憂いていた人物によって、彼らが行おうとしていた事実や米国との繋がりを暴露されたのは、副司令にしてみれば願ったり叶ったりだったという訳だ。
それらを率いていたのがこの事件の首謀者である崇宰であった事も禍し、彼らは一掃される事となったのも災難だったと言えるだろう。
正直、副司令自身もここまで事が上手く運ぶと思ってはいなかっただろうと思いたいが、この人の事だ……例え嘘でも全て予定通りなどと言ったりするのだろうな―――



「―――今更だけど、今回の件に関しては、改めて礼を言わせてもらうわ。予定していたモノとは違うけど、これで日本は大きく変わる事になるでしょうしね」
「その割には浮かない顔をしているようですが? 他に何か問題でも?」
「問題と呼べるほどのものじゃないわね……こちらの当面の問題は概ね解消できたとはいえ、次へ進む前にやらなければならない事があるのよ」
「ハイヴ攻略作戦への参加以外にですか?」
「前々からXM3の評価試験を行う事になっていたのはアンタも知ってると思うけど、この件に関して帝国軍側からいくつかの条件を提示されたのよ。今回の一件で殿下を救出する事が出来た事に対して、斯衛軍からは協力の礼として以前からこちらが頼んでおいた物を提供してもらえる事になったわ。でも、政府側はそれを良しとしなかったのよ……」

手前勝手に事を進めた彼女に対し、確かに悪くなっていた風当たりは回復しつつある。
だが、これ以上の恩赦を彼女に与える必要は無いと言い出した者達がいるそうだ。
それは、副司令が推し進めている計画に賛同しかねるという意思を示している派閥、オルタネイティブ計画反対派の者達だった。
彼らは同計画自体を机上の空論に近いものだと認めていない上に、その具体的な成果すら現していない彼女に協力する事に難色を示していると聞いている。
普段の彼女なら権限を行使しても構わないと考えるだろうが、それでは逆に火に油を注ぐ形にもなりかねないのだろうな。
珍しく下手に出て相手を納得させ、こちら側に抱き込んだ方が得策かも知れないと考えたのは意外だった―――



「XM3評価試験の後、それを様々な交換条件と共に帝国軍側へ提供する予定だったんだけど、今回に限ってのみ、これをこちら側からの手札として無償提供することにしたわ。無論、システムの中枢はブラックボックス化して解析できないようにするつもりだけど、第四計画の具体的な成果を示すための手段としては申し分ないでしょうね」
「そう言った事に関して、自分は反論する権限はありません。ですが、それはあくまで副司令の考案された理論のみにして頂きたいというのが本音です……」
「勿論そのつもりよ。アンタ達の機体や素性、その他様々な事に関する案件は、向こう側から提示を求められても拒否する事を約束するわ。尤もそれに関しては、殿下の方から追及しないようお達しが出ると思うけど」
「……だと良いのですが」
「前にも言ったけど、あくまでアタシとアンタ達の関係は、利害が一致している事による協力者同士。確かにそちら側に不利になりかねない行動を執った事は謝罪させて貰うけど、誰かに売り渡す様な事は絶対にしないわ。無論、信じる信じないはアンタ達の勝手だけどね」



彼女の言葉に対し、正直言って俺は、全てを信じる事は出来ないでいる。
最近になって理解できたことだが、俺達を戦力として組み込み、前線に出させていた主な理由は、クーデターを引き起こそうとしていた者達への牽制だったという事だ。
尤も彼女としても、クーデター派の裏にシャドウミラーが係わっていた事実を突き止めたのはつい最近の事だ。
これらはタケルにも聞いた事だが、想定していた事実とは異なっていた事が原因らしい。
どちらにせよ俺達にしてみれば、彼女に体よく利用された感が拭えない。
だが、相手を疑ってばかりでは、物事は何の解決にもならん。
もしも万が一、何かしら俺達にとって不利な事が起こってしまったとしても、現状ならば何とか出来ない事も無いだろう。
副司令自身も知っている事だが、俺達には悠陽殿下という後ろ盾が既に存在している。
正直言って彼女を利用するような形になるのは不本意だが、な……



「……副司令の言葉、それが本物であるかどうかは、今しばらく見極めさせて貰う事にします」
「そう……なら、疑われないようにしなくちゃならないわね……さて、ここからが本題よ南部」
「はい、先程ここへ来る前に例のデータは見させてもらいました。結論から言って、あれは兵器と呼んでいい物かどうかは判りません」
「アルマーとラブレスはなんて言ってるのかしら?」
「映像を見ただけでは判断しかねる……との事です。ただし、あれが自分の予想通りのものだったと仮定するならば、今まで以上の災厄を呼びかねない代物だと言っていました」
「やはり、ね……悪いけど南部、アルマー達に急いで報告書を提出するように伝えて頂戴。それから、この件に関しては他言無用よ。時が来るまで伊隅達やアンタの部下達にも詳細を話さないようにして頂戴。いいわね?」
「……解りました」



さて、これが吉と出るか凶と出るか……正直言って微妙なところだな。
恐らく、関係各所から彼女は説明を迫られるに違いないだろう。
俺達は現場に居た訳ではないが、起こった事象から推測するに何があったかぐらいは想像が付く。
副司令も薄々は感づいているに違いないだろう。
問題は、これをシャドウミラーが引き起こしたという事実だ。


やはりあれは―――




《Takeru side》



再びあの時と同じ光景が広がっている。
あの時、敵の放った一撃によって周囲は閃光に包まれ、激しい轟音と共に今まで経験した事の無い衝撃が俺達を襲った。
周辺区域に居た味方機の殆どは大破していたものの、死亡者が出なかったのは奇跡としか言いようが無い。
だけど、辺り一帯はG弾の爆発に巻き込まれた横浜と同様に、重力異常地帯へと変貌してしまった。
もう二度と見たくないって思っていたあの時と同じように……
あの閃光に巻き込まれる直前、俺は冥夜の乗る武御雷を文字通り体を張って庇う行動に出ていた。
でも、その直後に衝撃の影響で全てのセンサーがダウンしてしまったお陰で、機体は身動き一つ取れない状況へと陥ってしまったんだ。
通信も途絶し、漆黒の闇に包まれていく感覚、否応なしに恐怖といった感情がその場を支配していく感覚は、記憶に在るあの時と変わらない。
それは自分自身の死というよりも、共に闘っていた仲間の死が近づいている事に対しての恐ろしさだった。
暗闇の中、何度も周囲に向けて皆の無事を確認するために呼びかけを続けていたけど、一向に返事は返って来ない。
あれからどれだけの時間が流れたのかすら判らない状況で、俺はひたすら仲間の無事を祈り続けていた―――



『―――武様、捜索班からの途中報告です……やはり、残骸は発見できないとの事でした』
「……そうですか」
『武様、冥夜様はきっと生きておいでです。如何に武御雷が損傷していたとはいえ、残骸が発見出来ないとなると、やはり奴らによって再び捕らえられたとしか……』
「……」
『武様、御辛いのは解ります。ですが……』
「すみません、月詠中尉……もう少し、もう少しだけここに居させて下さい」



俺はモニター越しの月詠中尉の目を見る事が出来なかった。
中尉だって辛い筈なのに、俺だけが辛い訳じゃないのにも関わらず……



「……冥夜」



無機質なコックピット内でポツリとあいつの名前を呼んでみても、あいつから返事が返ってくる訳でもない。
クソッ、何でこんな事になっちまったんだ!
あの時、俺が直ぐ近くに居たっていうのに……



『武様……』



通信機越しに月詠中尉の心配そうな声が聞こえて来る。
だけど、その声を俺は受け止めていなかった。
それはあの時の状況を思い出し、自分自身を責めていたからだと思う―――





―――俺が全てを知ったのは、横浜に戻った後、医務室で意識を取り戻した直後だった。
意識を取り戻した俺を待っていたのは、ライ少尉から伝えられた冥夜が行方不明だという事実。
俺達を助けてくれたのは、この場所に向かっていたキョウスケ大尉達と殆ど無傷に近かったマサキ達だって聞かされている。
マサキは衝撃に襲われる直前、最後の力を振り絞りってそれを緩和させるために動いてくれたらしい。
そのお陰でサイバスターとR-1、R-2の三機は、それほどダメージを受けなかったのには驚かされた。
だけど、その時の疲労が原因で、マサキは今も目覚めていない。
クロとシロが言うには、必要以上にプラーナを消費し過ぎた事が原因だって事だけど、命に別状は無いって話だ。
だけど、俺の改型や伊隅大尉達の機体は、かなりの損傷を受けてしまっている。
ヴァルキリーズの新型は、すぐにでも都合がつくって話だったけど、俺の改型はそういう訳にはいかなかった。
米軍との戦いの際に試験すらまともにやっていなかった防御フィールドを使っちまったのが原因で、機体の方に一気にダメージが蓄積されたらしい。
改型に変わる機体が用意できない今、とりあえずの処置として俺は速瀬中尉の乗っていた改型を借りる形になっている。



「まあ、機体を壊してしまったのは仕方ないけど、アンタの場合は自業自得だしね。今度は壊さないように気をつけなさい……この改型を壊すと多分速瀬の事だから、また無理難題をふっ掛けられるわよ?」
「一応、肝に銘じておきますよ……それで先生、俺の機体の事なんですが……」
「それに関しては何とか都合をつけるわ。シフトの方も見直しておくから、暫くはアンタも休みなさい……」



先生も今の俺の心境を察してくれているんだろう。
普段とは違う先生を見れた事には正直驚かされたけど、そんな事を口にしたら罰が当たるな。



「先生、その前に一つだけ御願があります」
「……構わないわ。アンタの好きにやりなさい。ただし、期限は今日一日限りよ……良いわね?」
「ありがとうございます」



嘘だと思いたかった……でも、それを信じる事が出来なかった俺は、夕呼先生に無理を言って再びこの場所へと戻って来ている。
そして突き付けられた現実によって、あの時ライ少尉から聞いた言葉が嘘じゃ無かったんだという事が理解できた。
気持ちの整理が付いたって言えるかどうか判らないけど、これで俺が今やるべき事がなんなのかはハッキリしたって言える―――



「―――月詠中尉、無理に付き合わせてしまってすみませんでした」
『いえ、私自身も確認したかった事です……武様、冥夜様を……』
「ええ、必ずあいつを助け出して見せます。たとえ殿下のように操られていたとしても、必ず……」



皆が笑って明日を迎えるために……その為には、誰一人欠ける事なんて許されはしないんだ。
俺はシャドウミラーの奴らから、必ず冥夜を助け出して見せる!
それが戦友として、共に歩む尊き者としての役割だと信じているのだから―――





《??? side》



声が聞こえた様な気がした。
温かく、そして心地の良い響きのようにそれは感じられたと思う。
だが、何故だろう……その者の声は次第に小さくなっていき、見えていた筈の顔も霞が掛かったかのようにぼやけている。
そして、徐々にその姿も闇へと包まれて行き、明るかった周囲の景色もそれと同化しようとしている。



「ま、待て……待ってくれ!」



声を絞り出し、その者を追いかけようと駆け出すものの、足が言う事を利かない。
まるで何かに囚われたかのように体までも身動きが取れなくなり、今度は私自身も闇へと囚われて行く―――



「クッ、放せ! 放すのだ!! 頼む、行かないでくれ! お願いだ……私を一人にしないでくれッ!!」



声が届いていないのか、それとも聞こえてすらいないのか……その者は完全に闇へと飲み込まれ、そして私の視界から完全に消え失せてしまった。



「……ハッ!? い、今のは一体……?」



今のは一体何だったのだろうか?
大事な物が失われていく……そんな感覚だったと思うが、未だそれが何かという事がハッキリしない。
そして私は、それが夢だったのだという事に気付かされた。



「夢……だったのだろうか? だが、あの者は一体誰なのだ?……それにここは?」



辺りを見回してみるが、ここがどこかの部屋なのだという事しか理解できない。
綺麗に片づけられた部屋、そして見覚えのない品の数々。
恐らく眠っている間に私は、ここへ運びこまれたのであろう。
身を起こし、改めて周囲を見渡してみるが、やはり見覚えのない部屋だ。



「さて、一体どうしたものか……」
「だあー、うー」
「なんだ?……赤子? 何故このような所に赤子が?」



私の視界に飛び込んできたのは、ベビーベッドと思われる物から身を乗り出している小さな子供。
この部屋の主……という訳ではないだろうな。
しかし、可愛いものだ……まさに愛くるしいという言葉がこれ程似合う者もそうはいないだろう。



「すまぬな。どうやら寝ていたところを起こしてしまったようだ。許すが良い」
「あー、あー」
「そうか、許してくれるか。小さいというのに賢いなそなたは……そなたに心よりの感謝を」
「あら、目が覚めたのね? ずっと眠ったままだったから心配だったのよ?」



赤子とのやり取りの最中、突然現れた来訪者。
恐らくこの御夫人がこの赤子の母君なのだろう。



「サンディの相手をしてくれていたのね。この子ったら、結構人見知りなのよ? っと、自己紹介がまだだったわね。私はガーネット、そしてこの子が息子のアレクでそっちが娘のサンディよ。貴女のお名前は?」
「私は御剣 冥夜と申します」
「そう、冥夜ちゃんね。とりあえず、着替えと何か食べ物を持って来るから、悪いんだけどこの子達の相手をしてて貰えるかしら?」
「はい」



それだけ言ってガーネット殿は部屋を後にした。
正直言って今だ状況が把握できないが、どうやら悪い人ではなさそうだ。
そしてこの子達も……




だが、この時の私は知る由も無かった……自分がかつて経験した事のない、とてつもない事態に巻き込まれてしまったのだという事を―――





あとがき


第66話です。

今回、初めて一人称なるものを用いて書いてみました。
何分初めての事なので、表現のおかしいところが多々あるかも知れませんが、温かい目で見て頂ければ幸いです。


冒頭から暫くは夕呼先生の視点で見た12.5事件という流れです。
私の執筆能力の無さが主な理由ですが、やはり場面がころころ変わった事が原因で「いつ」「誰が」「何処で」戦っていたのかが分かりにくいというご指摘を頂いた事もあり、今回はこの様な構成とさせて頂いてます。

今後ともこの様なアドバイスを頂けると私自身も助かりますので、御指摘など御座いましたら宜しくお願いします。


さて、この話のラストで殆どの方がお分かりかと思いますが、何故こうなったかの主な理由はシャドウミラーが前回の話の最後にやってくれた事が原因です。
実は当初から、オルタ世界よりOGの世界へと誰かが飛ばされるという展開を考えていました。
最初は武ちゃんに行って貰おうかとも思ったのですが、それでは在り来たりすぎると思い冥夜に白羽の矢が立った次第であります。
飛ばされた原因に関しての詳細は、後々明らかにさせて頂きますのでもう少しお待ち下さい。


それでは感想の方お待ちしております。


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