Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第7話 過去、そして現在(いま)・・・データ収集を終えた武は昼間の一件について考えていた。。夕呼に口ではああ言ったものの、彼自身も気になっていたのだ。確かに彩峰が指摘した点は疑問である。自分達から見ればまだ幼い年齢であるアラド達が何故軍に身を置きパイロットをやっているのか・・・あまり立ち入って良い話で無いのは重々承知なのだが、それを知る事で何かしらの解決方法が模索できるかもしれないと思ったからだ。そんな彼の元にとある人物が近づいてくる・・・「こんな所で何をなさっちゃってるんでござい・・・なさってるんですか、白銀大尉?」「ああ、ラミア中尉。ちょっと考え事を・・・」「なるほど・・・私で宜しかったら相談にのっちゃったりしちゃったりなんか・・・ゴホン、相談にのりますが?」「ハハハ、ラミア中尉、別に俺なんかに敬語なんか使わなくても構いませんよ?普段使わない言葉だと話しにくいでしょう?俺の事は白銀でもタケルでも好きなように呼んでくれて構いませんから」「そうか、別にそう言う訳では無いんだが・・・助かる。で、悩み事と言うのは何だ?」そう言われた彼は昼間の件を彼女に話していた。「なるほどな・・・確かにその彩峰と言う訓練生の言う事も一理ある。彼女から見れば自分達よりも幼い少年少女が兵役に就こうとしているのは納得がいかないだろうな」「確かにそうでしょうけど、いきなりあんな言い方をするって言う事を俺は疑問に思ったんですよ。俺自身もアラド達の境遇は解らないですし、かと言って知る必要が無いのかもしれない・・・でも知る事によって何かしらの解決策が浮かぶかもしれないと思ったんですよ」「知りたいか?」「え?」「知りたいのかと聞いているんだ・・・だが知れば後悔する事になるかもしれん。それでもお前が知りたいのであれば私から話そう」彼女の表情は真剣だ。そしてその表情から彼らの境遇がどう言ったものなのかと言う事が想像できなくも無い・・・武は迷っていた。聞くべきか聞かないべきか・・・しかし、知る事によって何かしらの糸口が掴めるかもしれないと考えた彼は、気付けば彼女に対し無言で頷いていた・・・「そうか・・・私も人に聞いた程度の話しか知らん。彼らは元々軍のパイロット養成機関、通称スクールの出身だ。パイロット養成機関と聞けば聞こえは良いかもしれない・・・だが、その実態はとんでもない物だった・・・」「・・・どう言う事ですか?」「身寄りのない子供達を集めた上で、暗示による記憶操作や薬物等を使用した強化措置を受けさせる人体実験場だ」「な、何ですって!?」「アラド、ゼオラ、ラトゥーニの三人はそのスクールの生き残り、そしてアルフィミィだが、彼女はエクセ姉様のコピーであると言うのは本人からも語られている事だから知っていると思う・・・彼らは戦う事を強いられた存在だった」「そ、そんな・・・」「・・・そう、かつての私の様にな・・・」「ラミア中尉も?」「そうだ、私もかつては戦う為だけに作られた存在だった・・・」「作られた存在って・・・」「私はシャドウミラーと言う組織によって作られた人造人間Wシリーズの最新型。W17(ダブリュー・ワン・セブン)、それがかつての私の名だ」「・・・アルフィミィも同じだって言うんですか?」「彼女は私とは違う。彼女はアインストと言う存在によって人を知る為に作られた存在だ」「・・・」それを聞いた時武は何も言えなかった・・・そんな彼を他所に彼女は尚も淡々と話を続けて行く。「私達は最初はキョウスケ大尉達とは敵同士だった・・・だが彼らと出会った事で今の自分があると思っている。敵だった私ですら彼らは仲間として迎え入れてくれた。そして私は彼らと過ごす内に戦う為の存在としてでは無く人として生きる事を学んだのだ。無論、それはアラド達にも言える事だ。彼らは確かに兵士として教育されたかもしれない。しかし、彼らはそんな自分達が成すべき事は事は何かを知り、そしてそれを実現する為に戦っている・・・」それを聞いた武はハッとした。『人は国のために成すべきことをなすべきである。そして国は人のために成すべきことを成すべきである』彩峰の父である帝国陸軍中将彩峰 萩閣の言葉だ・・・それを思い出した彼は、何故彼らが幼い年齢でありながらも戦いに身を投じているのかが解った様な気がした。彼らは自分達に与えられた力をどう使うか、その為には何をすれば良いのか、それを考えた上で軍と言う場所に身を置いている。そう武は考えたのだ・・・しかし、彩峰にこれを伝える訳にはいかなかった・・・そう、彼女が何故彼等に対してあの様な事を言ったのかが分からなかったのだ・・・それが分からない以上は彼女に対し何を言っても無意味である。初めは聞かない方が良かったかもしれないとも思えた。しかし、得られたモノは大きい。「ありがとう御座いました中尉。何故彼らが戦いに身を投じているのかが分かった様な気がします」「そうか、正直私も話すべきか悩んだのだが・・・良い方に向かうと良いな」「はい」「それでは私はこれで失礼する。悩むのも良いが程々になタケル」「はい、ありがとう御座います」そう言うと彼女はその場を立ち去って行く・・・彼女の話を聞いたおかげで彼の悩み事の一つが解決した訳なのだが、もう一つの悩みは解決していない。彩峰が何故あのような事を言ったのか・・・それが彼には解らなかった。彼女の事をすべて理解している訳では無い。しかし、彼女がどう言う人間であるかと言う事は解っているつもりだ・・・それでもあの場での彼女の発言内容がどうも腑に落ちない。理由も無く彼女があの様な事を言う人間でない事は武も良く知っていたからだ。「ここで悩んで居ても仕方が無いか・・・」そう言うと彼は食事を取る為PXへと向かう事にした。「おばちゃ~ん、鯖味噌定食一つ」「あいよっ!おやタケルどうしたんだい?そんな暗い顔して・・・何か悩み事かい?」「ちょっとね・・・」「そうかい、あんたみたいな歳で大尉何かやってると色々とあるんだろうねぇ・・・まあ、これでも食べて元気だしなっ!」「ありがとう、おばちゃん」「気にしないで構わないさ。がんばんなさいよ!」「あまり無理しない様に頑張るよ」そう言うと武はトレーを手にテーブルへと向かう。その時PXではブリット達も食事を取っていた様だ。タケルに気付いたのかクスハがこちらに向けて手を振っている。彼らと話がしたいと思っていた武は、ちょうど良いタイミングだと思い彼らの居る席へ向かう事にした。「タケル、お前も今から飯か?」「ああ、ここ座っても良いかな?」「構わないよ白銀君」そう言われた武は彼らと同じテーブルに着く。「昼間はすまなかったなタケル・・・」「いや、お前が悪い訳じゃないよブリット」「そうッスよブリットさん。先に絡んで来たのはあいつ等じゃ無いですか」「ああ、確かにそれはそうだ・・・俺もあの時は熱くなりすぎてたから考えなかったんだが、彼女も何か思う所があってあんな事を言ったんじゃないかって思うんだ」「でもさぁ・・・」「アラド、お前の言いたい事も分かる。でもな、彩峰だっていきなりあんな事を言うような奴じゃ無い。ブリットの言う通り、あいつがあんな事を言うには何か理由があるんだと思うんだ・・・」「タケルさんまでそんな事を言うのかよ・・・」アラドはイマイチ納得が行かない様子だ。そんな彼に対して武は疑問に思う事があった。何故彼はこれほどまでにして拘るのだろう?確かに彼が年相応の少年であったならば、馬鹿にされた事に対して文句を言うかもしれない・・・だが、彼を見ていると左程そう言った事に対していつまで文句を言い続ける様には思えないのだ。「なあ、アラド一つ聞いて良いか?」「何ですかタケルさん?」「お前が怒っているのは彩峰の発言に対してだよな?」「・・・そうッスよ」「何でそこまで拘るんだ?理由があるなら教えてくれないかな?」「・・・別に俺一人がバカにされてるんだったら構わないんですよ・・・ただ、ゼオラやラト、それにアルフィミィまで子供扱いされてるみたいに思えてきて・・・皆それぞれ色々あって今の俺達が有るんです。なのに何も知らない人達に見た目だけで判断されたような気がして・・・それがだんだんムカついて来て・・・」「・・・そうか、だから彼女に謝って欲しいと言う訳なんだな?」「・・・別にそう言う訳じゃ無いです。ただ、いきなりあんな風に言われた事が悔しかっただけッス」彼の行動は自分よりも仲間の為を思っての行動だった。確かに彩峰自身は彼らの事を何も知らない。だからと言って彼女が全て悪い訳でもない。アラドの本心を聞いた武は、解決の糸口になればと思い隠れて彼らの事を聞いていた事を悔いていた。彼らの事を聞いた件を言うべきか先程まで悩んでいたのだが、意を決した彼は全てを打ち明ける事にする。「俺もお前達に謝らなきゃいけない事があるんだ・・・」「・・・何ですか白銀大尉?」「実はお前達の事を聞かせて貰ったんだ・・・その歳で何故軍に居るのかを・・・そしてどんな辛い目に遭ってきたのかって言う事も・・・」「そうですか・・・」「気軽に聞いて良い事じゃ無いって言うのは十分解ってるつもりだ。でも、お前達の事を知るにはこれしか無いと思った」「タケルはそれを聞いて後悔してるんですの?」「いや、後悔はしていない・・・むしろお前達の事が解って良かったと思ってる」「なら俺は全然問題無いッスよ。スクールなんかにいれられたくらいだからロクな過去じゃないって思ってますし・・・それにそんな昔の事よりも現在の方が大事ですから」アラドに続いて残りの3人も頷く・・・「私達は自分達の過去を否定するつもりはありません。過去の私達があるからこそ現在の自分達があると思っていますから」「・・・ゼオラの言う通り・・・現在の私達があるのは皆のおかげ。だからこそあの人達にもそれを解って欲しい」「タケルだって解ってくれたですの。だから私達の思いは彼女達にも伝わる筈だと思いますの」この子達は強い・・・それが武の本心だった・・・自分達の過去と向き合い、そしてそこから今の自分達が何を成すべきかを十分理解している。彼らにも護りたいモノがあるのだ・・・それを護るために彼らは戦いに身を投じている。だからこそ彼女達207Bの面々にもそれが解って欲しいと思った。今回の事件の発端となった彩峰の一言だが、彼女も意味も無くあの様な言い方はしない筈だ。彼女達も護りたいモノの為に戦いに身を投じている。もしかしたら今回の一件もそれに関する事が原因なのかもしれない・・・そうに違いないと武は思っていた。「そうだな・・・お前達の思いはきっと通じると思うよ。皆が同じ目的のために戦ってるんだ・・・それには年齢や性別なんて関係ないと俺は思う。だからあいつ等も本気であんな事を思ってる訳じゃ無いと思うんだ。今直ぐにそれを解ってやってくれとは言わない。あいつ等の事を知ってくれれば、恐らく理解できると思うんだ」武の言葉に対して彼らは頷いていた・・・恐らくこれで良い方向に向かってくれるだろう・・・そして、この事件が切っ掛けとなってお互いを仲間として認め合う事が出来るようになるであろうと信じていた。・・・訓練校グランド・・・アラド達と話を終えた武は食事の後、自主訓練のためにグランドへと来ていた。以前は訓練部隊に所属していたのだが、今回はそう言う訳では無い。油断していると体が衰えると考えた武は、以前も自主的に行っていた自己鍛錬を行うべく夜になって誰も使っていないグランドへと来ていたのだ。そんな中、グランドには黙々とランニングをする人影があった。冥夜だ・・・「そう言えばいつも訓練が終わってから、自主訓練をしてるって言ってたな・・・」そんな武に気付いたのか、彼女が駆け寄ってくる。「よう冥夜、相変わらず自主訓練か?」「ああ、そなたもそうなのであろう?」「ああ、少しでも鍛えておかないと体が鈍るからな・・・今回は訓練部隊への配属じゃ無いし、油断してるとヤバいんだよ」「そうか・・・しかし、いきなりで驚いたぞ」「何がだよ?」「そなたが特務大尉として我等の目の前に現れた事だ。しかも少佐相当官と言う話ではないか」「ああ、その事か・・・相変わらずの夕呼先生の気まぐれだよ」「そうなのか?だが、そなたの実力なら訓練部隊で人に教えを請うよりも、人の上に立ち人に教える立場の方が良いと私は思うのだがな」「よしてくれよ。正直教官をやって貰うなんて言われた時はかなり焦ったんだぜ?俺なんかまだまだ人に教えれるような立場じゃねぇよ」「ふふふ、謙遜するな。まあ、そう言う所がそなたらしいと言えばそなたらしいのだが・・・」「あんまり褒めるなよ。褒められると俺ってスグ調子にのっちゃうからさ」「そうであったな・・・ところでタケル、少し良いだろうか?」「何だよ急に改まって・・・」今まで談笑していた冥夜の表情が急に真面目な顔付きになる。「立ち話もなんだ、座らないか?」「ああ・・・」そう言われた武はその場に腰を落とす。彼の隣りに冥夜も腰を落とすと、落ち着いた口調で彼女は話しだした。「実は昼間の件についてそなたに謝らねばならぬと思ったのだ」「ああ、それか・・・」「うむ、確かに我々もいささか言い過ぎたと思う。だが、彩峰が言った事は我等全員が思っていた事だ・・・あの様に幼い者達が何故この様な場所に居るのか・・・そなたは何か知っているのではないか?」やはり冥夜は鋭い・・・それは前の世界でも思った事だ。彼女の洞察力のおかげで救われた事も少なくない・・・武は言うべきかを悩んでいた。だが、全てを打ち明ける訳にはいかない・・・彼らの生い立ちや経歴はむやみやたらに人に話して良いものでは無いのだ。しかし、解決の糸口がハッキリしていない以上はそれも仕方ないのかもしれない。そう思った武は差支えない程度の事を彼女に伝える事にした。「彼らが何故軍に居るのか・・・俺もあまり詳しい事は知らない。彼らは軍のとある衛士養成機関の出身なんだ・・・」「衛士養成機関?」「ああ、彼らはそこで色々な事があった。だが、その過去と向き合う事で、今の自分に何ができるか・・・それを考えた上でここに来ている」そう言った武の表情は重い・・・恐らくそれは自分の考えている以上のものなのだろう・・・そして、おいそれと人に話して良いものでは無い・・・武の表情から冥夜は彼らの過去が自分の想像のつかないものなのだろうと察する。「・・・そうか・・・何かを成そうとする信念、以前そなたが言った『目的があれば人は努力できる』だったな・・・だからあの者達はここに来たと言う訳か」「そうだと思う。あいつ等にも護りたいモノがあるんだよ」「そうだな。あの者達も私達と同じ気持ちだと言う事が解った。すまないタケル・・・そなたに感謝を」「いや、俺もお前に感謝しなくちゃならない。正直どうすべきか悩んでいたんだ・・・お前に話せた事で俺も少し気が楽になったよ」「そうか・・・」「なあ冥夜」「ん、何だ?」「彩峰はなんであんな事を言ったんだと思う?」「・・・私には今の話を聞いて少し解ったような気がする」「どう言う意味だ?」「いや、これは私の口から言うべき事では無いな。そなたも少し考えれば直ぐに分かると思うぞ?」「何だよ、ケチケチせずに教えてくれたって良いじゃねぇか」「ふふふ、駄目だ。そうやってそなたは直ぐに楽をしようとする。それではそなたの為にならんし、意味が無い」「・・・そうか、そうだよな。ありがとう冥夜。やっぱりお前に話して正解だったよ」「ああ、私も出来る限り協力させて貰う。私達とあの者達、目指すものは同じなのだ。だからお互いに解り合えると思う」「そうだな・・・お前が協力してくれればこれほど心強いものは無いよ・・・ありがとう」「そうやって改まって礼を言われると照れるではないか・・・」そう言った彼女の顔がだんだんと赤くなる。「はは、さっきのお返しだよ」「な、まったくそなたと言う奴は・・・」だが、そう言われた彼女は嬉しかった・・・「なあ、タケル・・・」「何だ?」彼女は武の肩に寄り掛かっていた。「暫くの間、このまま居させてくれないだろうか?」「・・・ああ」「ありがとう・・・」彼女は束の間の間の幸せを実感していた。それは常々願っていた事・・・そして、記憶にある前の世界では決して実現しなかった事・・・『すまぬ鑑・・・今は、今だけはこのまま居させてくれ・・・』そう彼女は心の中で呟いていた・・・そんな二人を見ている影があった・・・「あれが白銀 武か・・・なるほど、彼女の言った通りの人物の様だな」そう言うとその人物は闇の中へと姿を消して行く・・・武とこの人物との再会はまた後日となるのだが、その時彼はその人物の自分に対する接し方が今までと違う事に戸惑う事となる。そして夜は更けて行くのであった・・・あとがき第7話です。戦術機の登場を心待ちにしていた皆様、申し訳ありませんTT最初はそっちの話を書いていたんですが、どうしてもこちらの話にある程度の区切りを付けたかったのです。楽しみにしていた方々、本当にすみません。キョウスケがテストする予定の試作機の話は近日中に必ず何とかするようにします。ですのでもうしばらくお待ちくださいませ。今回のお話は感想掲示板に寄せられた感想を基に色々と自分でも考えて書きました。色々なアドバイスを頂けるのが本当にうれしいと思います。これからも頑張りますので、よろしくお願いしますね^^