Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第8話 侵入者の影「・・・思ったよりも早く完成したわね」香月 夕呼はそう言うと机の上に置いてあったコーヒーを飲んで一息つく・・・試作機の為に必要になったプログラムの作成は予想よりも早く完成した。しかし、それが終わったからと言って彼女は休んでいる場合では無かったのである。後日キョウスケ達に行って貰う機体について色々な問題が残っているのだ。「OS面に関する心配はXM3を搭載すれば問題は無くなるわね・・・後は彼らの機種転換訓練次第だけど・・・」そう言いながら彼女は別の資料に目をやる。それは彼らの機体を解析したデータの一部だ。無論、全ての解析が終了している訳では無い。現時点で自分が行っている計画に短時間で転用できそうなものを探していた彼女は、先ずPTのOSに着目したのである。『戦術的動作思考型OS』(Tactical Cybernetics Operating System)これが彼らの機体に使用されているOSの正式名称である。このOSは、最小の操作でOSがあらかじめ登録されているモーションから適切なものを選択し動作に移す事が可能となっており、操作の簡易性が増しパイロットの負担が大きく軽減されるものとなっている。これにより、機体の姿勢制御と言う煩雑な作業を最小限に抑え、パイロットは戦闘の状況判断に集中する事が可能となり、訓練生や新兵などでも簡単に機体を扱う事が可能となった画期的なシステムである。更にはモーションパターンデータの種類や実行の優先順位はパイロットが任意で設定できる為、パイロットは自身の好みや操縦の癖に合わせて機体の動きを最適化する事が可能となっている。この点はXM3の概念に通ずるものがあった。武が発案した『コンボ、キャンセル、先行入力』と言ったものは流石に彼独自の考えであったのだが、『パターン認識と集積』と言った面ではXM3とTC-OSは非常に似ている。現存の戦術機用OSはOSが蓄積情報を基に統計的に予備動作を判断していたのに対し、XM3では動作シーケンスとその予備動作の優先順位を乗り手である衛士が任意に選択、変更が可能となっているのだ。この点を考えればOSの違いから来るであろう機動制御の戸惑い等は最小限に抑えられそうだと彼女は考えていた。「OSに関しては問題無さそうね。彼らも様々な機体に乗ってる訳だから機種転換に掛かる時間は比較的最小限で済みそうだし・・・」誰も居ない執務室で一人彼女は呟く。元々彼女は考え事を始めると周囲に人が居ようが居まいが独り言を発しながら物事を考える癖があった。まさに自分の世界に入ると言う奴である。ここで彼女は面白い点に着目した。PTのモーションデータである。これを応用する事で更なる即応性が増すであろうと考えていたのだ。「彼らの機体のモーションパターンデータは戦術機にも応用できそうね・・・さっそく使わせて貰うとしましょうか」そう呟きながらも次のデータに目をやる。「テスラドライブ、グラビコンシステム・・・なるほど、彼らの世界では重力制御システムがかなり発達しているようね」次に彼女が着目したのは、重力制御を応用したこれらのシステムであった。「現状で戦術機を飛行させる事は戦術、戦略的にも危険だけど、これは後々使えそうね・・・後、このグラビコンシステム・・・ラザフォード場の様な物をこれだけ小さい機体で使用可能だなんて・・・開発した人間はホントに天才ね」珍しく彼女が他人を褒めていた。確かにこの技術は凄い・・・パーソナルトルーパーの機体サイズは戦術機とほぼ同じサイズだ。重力制御の防御フィールドをこれだけのサイズの機体に搭載可能と言う事は、それだけで凄い技術の塊である。だが、これらのシステムは彼らの世界の技術者が1から開発した訳では無い。地球に落下したメテオ3と呼ばれる隕石から発見された異星人の技術を基にしたEOT(Extra Over Technology)だと言う事を彼女は知らない。そもそもEOTに関しては何も聞かされていないのだから知らないのは当然なのだが・・・「完全に解析できてる訳じゃ無いけど、これの理論が分かればXG-70のラザフォード場の制御が更に安定するかもしれないわ・・・」彼女はそう呟くとメモを取る。データを閲覧し、重要度の高そうなものを選別しているのである。それによって時間の掛かりそうな物を優先的に整備班に調べさせようと考えているのだ。「・・・あら、もうこんな時間なのね」ある程度のデータを見終わった頃、彼女はふと時計を見上げる。時間は既に明け方の4時だ。このままでは本当に徹夜になってしまうと思った彼女は少し眠る事にする。00ユニットに関する情報等は既に自分の頭の中に入っている為、前回ほど焦る必要も無いと考えているのだ。そして彼女は、久々に落ち着いてベッドで横になれると考えながら隣の仮眠室へと向かっていくのだった・・・・・・翌日・・・キョウスケは前日に夕呼から渡された資料を見ていた。これから機種転換訓練が始まるのだが、訓練に使用される機体はこれでは無い。夕呼の話では、A-01部隊が使用している不知火を使って訓練を行うと聞かされている。その為彼は昨日の内に不知火に関するマニュアル等に目を通しておき、訓練までの空き時間に今度のテストで自分が乗る事になる機体のデータを把握しておこうと考えたのである。「第二世代型戦術機・Type90-叢雲・・・正式採用を見送られた戦術機か・・・」彼が今言ったこの戦術機は、帝国軍が第三世代型純国産戦術機開発の過程で生まれた試作機である。第二世代機の傑作と言われた米軍のF-15イーグルのライセンス生産機である陽炎をベースに開発された戦術機で、位置的には2.5世代辺りに属する機体である。「さっきから何を一人でブツブツ言ってるのキョウスケ?」そう言ったのはエクセレンだ。どうやら彼は自分でも気付かないうちに声に出していたらしい・・・「昨日副司令に試作機のテストを頼まれてな、それについて考えていた」「なるほどねぇ・・・でも、私達今から機種転換訓練なのよ?そっちよりも訓練で使う機体のマニュアルを見ておいた方が良いんじゃないの?」「それなら既に昨日の内に終わらせてある。お前の方はどうなんだエクセレン?」「一通りは読んであるわ・・・流石にあんなに分厚いマニュアル全部は読んでないけどね」「読んでないのか?」「ええ、だって面倒だし・・・そう言うキョウスケはどうなのよ?」「全て頭に入っているかは微妙な所だが、一応は全部読んだ。おかげで寝不足だ・・・」確かに彼の眼にはクマが出来ていた。こんな彼の表情を見るのは非常に珍しい光景だ・・・「意外と真面目なのねぇ・・・」「お前も少しは見習ったらどうだ?エクセレン・ブロウニング」そう言ったのはアクセルだ。それが少々嫌味に聞こえたのだろうか・・・エクセレンはお前はどうなのだと言った表情である。「そう言うお前はどうなんだアクセル」「愚問だなキョウスケ・・・短い間とは言え自分の命を預ける事になる機体だ。覚えておく事に越した事は無い、これがな」彼らしい言い分だ・・・そして、エクセレンは彼の横に居たラミアもそれに同意するように頷いている事に気付く・・・「・・・まさかラミアちゃんも全部読んだとか?」「はい、私も全部読んじゃってるんでございます」「どうやら不真面目なのはお前だけの様だ、な」そう言われたエクセレンは、かなりばつが悪そうな表情を浮かべている。何かしら言い返さねば不味いと感じたのだろうか、彼女は『自分は習うよりも慣れろだから』などと言って誤魔化していた。彼女らしいと言えば彼女らしい言い分である。「フッ、ならそう言う事にしておいてやるか。ところでキョウスケ、その試作機のテストとやら俺達もやる事になっているのか?」「いや、副司令は俺だけに頼んで来た。だが、この機体の仕様を見ているとそう言う訳にもいかん様だ・・・」「どう言う事でございましょう?」「どうやら複座型らしい・・・今の所そう言った指示は受けていないが、ひょっとすると誰かもう一人テストに参加して貰う事になるかもしれん」「なるほど、な・・・だったら貴様の相棒が一番適任だろう。そもそも俺には貴様と共に同じ機体に乗る事など考えられんしな」「そうでしょうね。普段の大尉とエクセ姉様の連携を見る限りではそれが一番だと思っちゃったりしますのよ」「と言う訳だキョウスケ。テストは貴様とエクセレンの二人でやってくれ」「・・・そんな事言って、二人とも実はテストが面倒なだけなんじゃ無いの?」「別にそう言う訳じゃ無い」「エクセ姉様、隊長はお二人に気を使ってらっしゃるんだと思いますです」そう言われたエクセレンはニヤニヤとした表情を浮かべながらアクセルの方を見る。「・・・何だ?」「別に~・・・貴方がそう言う気遣いをするなんて少し意外だっただけよ」「・・・心外だ、な・・・こう見えてもそこの朴念仁とは違う」「・・・誰が朴念仁だ」「おっと、聞こえていたか。だが、誰も貴様の事だとは言っていないぞ?」「聞こえていたかと言った時点で俺の事を指しているだろう?」このままでは一触即発・・・そう言っても過言では無い状況だ。ラミアはどうすれば良いのか考えている様だが、どちらのフォローにも入れそうにないと言った表情だ。そして、しばらく静観して居ようかと考えていたエクセレンだったが、状況を見兼ねてか止めに入る。「ハイハイ、二人ともそれ位にしなさいよ・・・副司令さんがお見えになってるわよ」エクセレンにそう言われた彼らは彼女が目をやった方向を見る。彼女は彼女で彼らのやり取りを見て楽しんでいる様だ。「仲が良いんだか悪いんだか・・・まあそんな事は別にどうでも良いわ。とりあえず、時間も勿体ないしちゃっちゃと始めましょうか」「了解です」「基本的にはオペレータールームからの指示に従ってくれれば良いわ。基本的な操縦方法は昨日渡しておいたマニュアルを読んで貰ってるから問題無いと思うけど、今の段階で何か質問はあるかしら?」そう言われた彼らではあったが、現状ではこれと言った質問のしようが無かった。マニュアルを見た限りでは操縦桿やコンソールの位置などの差異はあっても、それ以上の問題は見つからない。先ずは機体に乗ってみる事でしかPTと戦術機の違いが分からなかったのである。「じゃあ、始めるわよ?一号機から南部、ブロウニング、アルマー、ラヴレスの順に搭乗して頂戴」そう言われた彼らはシミュレーターに乗り込む。それを確認した彼女はオペレータールームへと向かい、霞に指示を出す。本来ならばピアティフに手伝わせる所なのだが、彼女はまだXM3については殆ど何も分かっていない。現状で一番精通している人物と言えば武と霞なのだが、武は訓練校の方に行っている。と言う訳で霞がサポートする事になったのだ。その他の理由としては、武では機動概念に関する指示は出せたとしても、OSの細かな部分の仕様に関しての説明は不可能だろうという夕呼の勝手な考えが在った為なのだが・・・「それじゃ社、機種転換プログラムFから始めて頂戴」「了解しました」そう言うと彼女は端末を操作し、プログラムを開始する。数時間後、機種転換訓練の第一段階が終了し、一度休憩と言う事になった。「どうだったかしら、はじめての戦術機は?」「基本的な操縦方法は俺達のPTと大差無いと感じました」「確かに良くできたインターフェイスよね。最初のうちはちょっと戸惑っちゃったけど、後半はそこそこ動けてたと思うわ」「流石ね・・・」「・・・だが、操縦方法は少し複雑かもしれん、な・・・慣れていない分は仕方ないとは思うが・・・」「確かにそうでございますわね・・・私達が乗ってた機体はOSに予め登録されたモーションをベースに動かしていましたから」それを聞いた夕呼は、なるほどと言った表情を浮かべる。彼らはシミュレーターとは言え、今日初めて戦術機に乗ったばかりである。言うなればデータが存在していないのだ。そう言った点で考えるならば、操縦方法が複雑と取れない事も無いだろう。「その辺は問題無いと思うわ。データが強化装備の方に蓄積されればその情報がフィードバックされるから」「なるほど、後は我々がどう慣熟させるか・・・と言う事ですね?」「その通りよ」「それのしてもこの衛士用強化装備って凄いわねぇ。見た目は薄い素材なのに、寒くも無いし暑くも無い。それにこの網膜投影方式ディスプレイだっけ?便利よねぇこう言うの・・・キョウスケもそう思わない?」「確かに俺達が使っているパイロットスーツよりは高性能だな」彼らが使用している強化装備は99式衛士強化装備と呼ばれる物だ。高度な伸縮性を持ちながら、衝撃に対して瞬時に硬化する性質をもった特殊柔軟素材と、各種装置を収納したハードプロテクター類で構成されており、耐Gスーツ機能、耐衝撃性能に優れ、防刃性から耐熱耐寒、抗化学物質だけでなく、バイタルモニターから体温・湿度調節機能、カウンターショック等といった生命維持機能をも備えている。内蔵バッテリー容量は連続フル稼働で約12時間、生命維持機能に限定した省電力モードで72時間であり、コクピット着座時は機体側の電力で稼働し、自動で充電モードへ移行する。 同機能ではあるが種別として男性用と女性用、カラーリング別に訓練兵用と正規兵用の4種が存在し、待機時の電力消費を防ぐ外部バッテリーユニット(Cウォーニングジャケット)が付随する。 戦術機操縦においては、ヘッドセットとスーツ全体で脳波と体電流を測定し、装着者の意思を統計的に数値化し常にデータを更新、戦術機や強化外骨格の予備動作に反映させるという、間接思考制御のインターフェイスとして機能する。 ヘッドセットは戦域情報のデータリンク端末であり、それ自体に高解像度網膜投影機能を有しているため、ディスプレイ類を必要としないだけでなく、視力の強弱も影響しない。 機体側コンピューターとの回線接続は、シート全体でコネクトする接触式と無線式の二系統であり、操縦の際、スーツの一部でも座面に接触していれば直接リンクが成立し、離れれば無線に切り替わる仕組みになっている。「さて、今までの所で何か質問はあるかしら?」「先程気付いた事があるのですが、XM3の基本動作パターンはベースはタケルのモノなのでしょうか?」「どう言う事かしら?」「例えば、目標物を打つ動作を行おうとします。そう言った面で自分の思った通りの動きが出来ない事があるのですが、これは基本動作パターンに彼の持つ癖の様な物が反映されている事が原因だと感じたのですが・・・」「なるほどね・・・現状でアンタ達の強化装備にはデータの蓄積が行われていない。だからベースとなっている白銀のデータがメインに出てきているのよ」「では、今後我々のデータが蓄積されれば解消されると?」「そうなるわね。現在データリンクの更新作業をしているわ。次にシミュレーターに乗った時に、先程のデータが更新されてる筈だから比較的アンタ達の思い通りに動くようになっている筈よ」「了解しました」「じゃあ、訓練を続けるわよ」そう言われると彼らは訓練に戻る・・・その頃訓練学校の方はと言うと・・・・・・訓練校グランド・・・昨日あの様な事があったからと言う訳ではないが、C小隊の訓練初日と言う事で武は教官として訓練校へと来ていた。現在グランドでは10キロのランニングが行われている。そこで武はC小隊の実力のほどを見せられる事となる・・・「凄いな・・・」彼は見たままにそう呟いていた・・・正直武は彼らの力量を甘く見ていたのである。中でも一番驚かされたのはアルフィミィだ。体も小さく、そして大人しいイメージのある彼女なのだが、他のメンバーに引けを取っていない。それどころか平然とした表情で付いて行っている。これにはB小隊の面々やまりもも驚かされたようだ。後れを取る訳にはいかないと思っているのか、B小隊の面々はいつもよりも少しペースが速い様な気がすると彼は思っていた。「軍曹、彼らC小隊の面々をどう思いますか?」「正直驚かされています・・・前の訓練校でもかなり優秀なメンバーだったのでしょうね」「俺もそう思いますよ・・・話には聞いていましたが、これ程とは思いませんでしたから」彼らがそう話している間にランニングは終了する。「よーし次っ!ケージの装備を担いで10キロ行軍!」「り、了解・・・」「了解」この時点で明らかに差が出ていた・・・B小隊の面々は一部を除いて息を切らしている。しかしC小隊の面々に至っては、息を切らすどころか余裕の表情を浮かべていた。ここで武は一つ思いついた事を実行に移す。「C小隊の面々は随分と余裕がありそうだな?お前達は完全装備でやれ」「えー!タケルさん、そりゃないッスよ」彼の発言に対して異を唱えたのはアラドだ。それを聞いたまりもが『上官に対して何と言う口のきき方だ!』と怒鳴っていた。そして更に・・・「そんな貴様には特別サービスだ。分隊支援火器のダミーも担いで行っていいぞ!」「ゲゲッ!」「ん?そうか・・・あんまり嬉しくなさそうだな。まだ不足・・・」「ハッ!りょ、了解しましたっ!!」そう言うと彼はこれ以上重装備にされてたまるかと言った表情で走って行く。「榊さん、お先に~」「う、嘘・・・私達より重装備なのに・・・」気付けば彼はいつの間にやら先頭を走っていた。あの体のどこにその様な体力があるのだろう・・・殆どの者がそう思っていたのだが・・・「うぅ・・・調子に乗り過ぎた・・・」「馬鹿ねぇ・・・」「うるせぇよゼオラ・・・ハァ・・・ハァ・・・」序盤で飛ばし過ぎたのが影響したのだろうか・・・残り3キロ程になった時点で彼は最下位グループの方まで順位を落としていた。「ペース配分を考えないからそう言う事になる」「ラトまで・・・ハァ・・・ハァ・・・」「次行くぞー」「うぅ・・・タケルさん鬼だ・・・」そんなアラドを他所に、尚も訓練は続いて行く。続いての訓練は射撃訓練だ。「目標、距離100mのターゲット!セレクターフルによる指切り点射!・・・撃ぇ!!」小刻みにリズムよく響く銃声音・・・ここでもC小隊の面々はその実力を発揮していた。中でもゼオラとラトゥーニは別格と言っても過言では無かった。銃口から放たれる弾丸は、その殆どが的の中心近くを射抜いている。「す、凄い・・・」「ああ、確かにあの者達・・・特にゼオラとラトゥーニの二人は凄いな・・・珠瀬と同等か、もしくはそれ以上かもしれん」「・・・確かにあの子達は別格・・・でもあの二人は違った意味で別格」彩峰がそう言った先を見ると、そこに居たのはアラドとアルフィミィだった。「確かに・・・」「ま、まあしょうがないんじゃないですか?アルフィミィさんは体も小さいですし、銃の反動に耐えられないのはしょうがないですよ」「・・・でも、アラドは耐えてるけど上手くいってない」「彼は射撃が苦手なようね・・・的には当たっているけど、集弾率が悪いわ」彼女達の言う通り、アルフィミィはその小さい体がハンデとなっている。自身の身長と左程大差無いライフルを使用しているのだが、その反動を打ち消す事が出来ない為か的に当てれない事が多い。対するアラドは、元々射撃が苦手な部分もあってか、弾は的に当たってはいるのだがバラつきが多い。「貴様らっ!何を勝手に手を休めている!」怒鳴られた彼女らは大急ぎで訓練を再開する。「まあまあ、軍曹。彼女達も気になるんでしょう」「解らない事も無いですが、今は訓練中です」「でも、ああやって他の人間の動作を見るのも良い訓練になると思いますが」「・・・それはそうですが」彼らの能力はB小隊の面々と比べてもそん色ない物だった・・・いや、総合的な能力ではC小隊の方が若干上だろう。個人レベルでの能力差もそうであるが、訓練生と呼ぶには相応しくない力量を持つ者もいる。それがまりもの本音であった。一方B小隊の面々はと言うと・・・予想以上の彼らの力量にただ驚かされるばかりだった。正直、自分達の方が優れていると言われた時は流石に腹が立った・・・しかし、彼らはそう言えるだけの実力を持っている・・・それが彼女達の率直な感想だ。確かにこのままでは、昨日武に言われたとおり『油断していたら追い抜かれる』のも時間の問題・・・と言うよりも、部分的な能力では既に追い抜かれているのは明白であった。「それにしてもC小隊の面々は凄いですね・・・本来の身体能力の高さもあるのでしょうが、それ以上に技術面で驚かされています。彼らの元教官だった方は凄い人物だったのでしょうね」「俺もあまり詳しい事は聞いていませんが、アラド、ゼオラ、ラトゥーニの3名を指導した人物は、かつては鬼教官と呼ばれた人物だったらしいですよ?」「なるほど・・・私ももっと厳しく彼女達を鍛えるべきかもしれませんね・・・」「ハハハ、程々に頼みますよ軍曹」「ハッ!・・・しかし大尉、前にも言いましたが私には敬語は不要です・・・失礼だとは思うのですが、部下に対して示しが付きませんので・・・」「すみま、いや、すまない軍曹。自分でも注意するようにしているのだが、どうも慣れなくてな・・・それに・・・」「・・・それに?」「実を言うと、軍曹が昔世話になった上官によく似ているんだ・・・どうもその人と重なってしまう部分があるせいか、つい敬語を使ってしまうんだよ」「・・・なるほど、そう言う事でしたか」「ああ、これからは気をつける様にするよ」「ハッ!度々この様な発言をしてしまい、申し訳ありません」「いや、構わないよ」「ありがとう御座います」まりもに注意された事に対して武は、心の中で苦笑いを浮かべていた。確かに今は自分の方が上官だ。しかし、自分の記憶の中にある彼女は教官だった存在であり、もっと教えを請いたいと思っていた尊敬する人物の一人だ・・・そんな彼女に対して敬語を使ってしまうのは仕方が無い事かもしれない。だが、こればかりは自分自身が気をつける他無いのだ。そして彼は訓練生の方へと目を向ける・・・『そう言えば、あいつ等の射撃について前の世界じゃアドバイスしてたんだっけ・・・』以前の世界では彼女達にそのアドバイスをした直後、千鶴に『戦術機に乗った事があるのか?』と疑われた。しかし、今回は教官と言う立場でここに居る。彼女達の能力向上の為に自分はここに来ているわけなのだから、気付いた点はどんどん注意していくべきだと彼は考えていた。「B小隊、集合!」武がそう言うと彼女達は一度手を休めこちらへ向かってくる。そして彼は、前回と同じ様に彼女達に『狙いを定めてから撃つまでのタイミングの速さ』などを指摘していた。「なるほど・・・解りました」「ああ、これからも気付いた点はどんどん指摘して行くつもりだからそのつもりでいてくれ」「ハッ!ありがとう御座います」そう言うと彼女達は散って行く。この時彼はこう考えていた・・・自分の提案は間違っていなかったと・・・確かに今の所はまだギクシャクした関係が続いている。しかし、B小隊の面々はC小隊の面々の実力を見た事で彼らの力を認めようとする傾向がみられる様に感じた。このままお互いが競い合う事で個々の能力を高めて行ってくれれば、それだけ戦場に出た時の生存率が上がる。一番良いのは自分が一緒になって訓練に参加する事なのだろうが、今回はそう言う訳にはいかない・・・初めはそれで歯痒い思いをしていたのだが、こうして教官として接する事で力になれればそれで構わないと思うようになっていた・・・・・・夕呼の執務室・・・キョウスケ達の訓練がある程度の段階へと進んだため、夕呼はスケジュール通りにこなせば問題無いと霞に伝え自身の部屋へと戻って来ていた。訓練に付き合っていても良いのだが、彼女にはやるべき事が多い。パーソナルトルーパーの解析の件もそうであるが、それと並行して第四計画の進行、新型戦術機開発などクリアしなければならない問題は山積みだ。第四計画に関しては、既にある程度の目処は立っている。当面の問題はPTと新型機の開発に関する事だ・・・そう言った訳で彼女は、空き時間の殆どをそちらに使うようにしていたのである。「それにしても挙がって来るデータには毎回驚かされるわね・・・」彼女が今言っているデータと言うのはPTの物である。PTと戦術機では基本的に全く異なる技術の塊なのだから驚くのも無理はない。PTは地球製の技術と異星人の技術のハイブリッド機だ。その事を知らない物がデータだけを見たならば彼女と同じ反応をするであろう。「・・・この技術を何とかして戦術機や凄乃皇に応用したいものね・・・」そう呟きながらも彼女は端末を操作していた・・・「・・・あら?・・・っ!!これはっ!」突如として彼女の表情が変わる・・・「クッ、どうして今まで気付かなかったのかしら・・・アタシとした事がとんだ失態だわ。でもどうやってこの端末に侵入したって言うの・・・」彼女が驚いた理由・・・それは彼女の端末がハッキングを受けていたのだ・・・「外部からの侵入では無さそうね・・・だとすると基地内の何者かが?」外部からの侵入であったならば犯人は誰かおおよそ見当はつく。第四計画反対派か第五計画推進派、もしくは彼女を陥れようとする存在だ。しかし、内部の人間であったならば彼女が気付かない訳は無い。この基地の人間で彼女の端末に侵入可能な人物は限られてくる・・・それ以前にこの端末は基地のコンピューターとは独立したものであり、そう簡単に侵入する事は不可能なのである。「一体誰が・・・まさかっ!!」そう言うと彼女は、端末を操作しあるデータを確認する・・・「・・・やってくれるわね。巧妙にデータを改竄してあるようだけど・・・だとしても何故・・・?」データを確認した事で彼女はある事を確信していた・・・しかし、この件に関しては情報が少ない・・・決定的な証拠が無いのである。「確認してみる必要がありそうね・・・」そう呟いた彼女は、引き続き作業を開始していた・・・あとがき第8話です。キョウスケ達の機種転換訓練が始まりました。それから試作型戦術機Type-90の名前と一部の設定を出しました。詳しい設定はテストのお話の際に書かせて頂きます^^;いやはや、難しいですねぇ・・・色々とTT説明クサイ部分が多い気がしますし・・・orz今回はB小隊とC小隊の訓練風景も少しだけ入れてみました。部分的なセリフや内容は本編やコミックスなどを流用させて頂きましたが、果たして上手く行ったのやら・・・wさて、夕呼の端末に侵入した人物は一体・・・と言ったところで次回に続きますwこれからも頑張りますので、感想の方よろしくお願いしますね^^