星の数ほど出会いがある
その中でただ見ていた
それしかなかったから
ずっとずっと見続けていた
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太陽系にある木星よりも土星に近い一角に白亜の戦艦が浮かんでいた。
その『ユーチャリス』と呼ばれる戦艦の艦橋に黒尽くめのの男が座っている。
彼の名前はテンカワアキト、先の蜥蜴戦争と火星の後継者が起こしたクーデータによって大切なモノを手に入れ、そして喪った男である。
その彼も復讐の為に火星の後継者を壊滅させ、ようやく気を安める事が出来ている。
今は彼が火星の後継者に拉致された際の実験により減退した視力、聴力を補正するバイザーをつけていない。
バイザーを外すとおぼろげな輪郭しか見えなくなるが、それよりも彼女達に表情を隠す方を嫌ったためである。
そしてそのアキトに二人の少女が寄り添い身を預けている。
「ルリちゃん。ラピス。準備はいい?」
そう問いかけられた二人の風貌は少々通常とは異なっている。
ルリちゃんと呼ばれた少女は『ホシノルリ』。
薄水色の髪と金色の双眸、そして抜けるように白い肌が特徴的だ。
水色の髪はピースランド王国の国王とその妻からの遺伝、その双眸、肌は今は禁止されているIFS強化体質者の証である。
そんな彼女は世間からこう呼ばれている。
曰く『最年少美少女艦長』『電子の妖精』。
望んだ訳ではないその能力により戦争の道具として利用され、容姿により民衆からの票集めの道具にされる。
そんな彼女には心休める所がほとんどといっていい程無かった。
そしてラピスと呼ばれた少女は『ラピス・ラズリ』
ルリを少々幼くしたような容姿をしているが、髪の色が薄桃色なのが違う所である。
『ホシノルリ』の量産を目指した研究により生まれた少女である。
ルリの遺伝子を元にして研究をされた為、ルリにとって妹と呼べる存在になるのかもしれない。
研究の際はまだオペレータの経験や技術、常識をIFS通じて直接叩き込まれ感情も生まれていた。
だが、火星の後継者による研究所からの拉致、それからアキトに助けて貰うまでの日々で感情を忘れてしまったかのように無表情である。
アキトがその風貌とは似つかわしくない程に優しい声色で問いかける。
「はい、いつでも」
「うん」
そう返す二人の仕草が余りに似通っているためにアキトは一瞬見惚れてしまった。
だがそれも一瞬、微笑みながらわかったと目線で伝える。
「そういえば、ルリちゃん。何書いてたの?」
アキトはふと思い出した事を聞いてみる。
「あ、はい。ユリカさんにミナトさんやユキナさん達ナデシコの皆さん、それとサブロウタさんやハーリー君達宇宙軍の皆さんにお手紙書いてました」
「へぇ、なんて書いたの?」
ここ数日の事を思い出すように答えるルリの頭を撫でつつ更に尋ねる。
「幸せになりますって...ダメでしたか?」
軽く頬を染めながら上目使いにそう問いかける。
アキトは少しだけ眉を顰めると
「間違ってはいないけど...戻ってこれるとしても戻ってこない方がいいかもな.....」
戻ってきた後にかつての仲間達、特にミナトやユキナ、ウリバタケといったルリを特に大事に想ってくれている人からの反応を考え、思わず口に出してしまった。
「アキトさん?」
「あ、なんでもない。それじゃあ、二人ともどこに行きたい?」
アキトは自身の失態に苦笑いすると余り突っ込まれたくない為に話を変えた。
「「アキト(さん)と一緒ならどこでも」」
「そっか...ね、二人とも。イネスさんが言ってたんだ。
未来へ行ったらこの身体が治せるかもしれないって...
でも、俺は未来へ行くよりも過去に行って歴史を変えたいんだ」
「アキトさん」
困ったと言いつつ困ってないような表情をしたアキトは二人に向かって一言一言反応を確認するようにゆっくり伝えていく。
それを聞いたルリはアキトの手を自身の手で優しく包み込むと大切な物を扱うように胸元に抱え込むと
「アキトさん。私もラピスもアキトさんと一緒に行きます。
アキトさんの為に出来る事があればなんでもします。
だから、アキトさんのしたいようにして下さい」
微笑みながら、だがしっかりとアキトの目を見据えて伝える。
「アキトとルリと一緒ならどこでもいい」
ラピスもアキトの袖を一生懸命握ってそう伝える。
無表情な彼女もアキトとの生活で少しずつ感情が戻ってきてるのかもしれない。
「ありがとう」
「「はい(うん)」」
心から二人に微笑むと、その笑顔を見た二人は若干驚いたような顔をして頬を染める。
その一瞬後ルリは花の咲くような笑顔を、ラピスは口元だけではあるが優しい笑顔を返した。
「さて、これから言う事は三人の約束だよ、いい?」
「「?」」
アキトは覚悟を決めたように表情を変え二人に問いかける
「ジャンプ後は何が起こるかわからないしどういう状況かもわからない。
離ればなれになる可能性もある。これはわかるね?」
「だけど、絶対に諦めないで。俺でさえあんな絶望的な中助けられ今は二人と一緒にいられる。だから諦めないでいてくれれば俺がなんとかする。
確かに火星のみんなは助けたい。でも何よりもルリちゃんとラピスを守ってみせるよ」
「「はい」」
力強く言うと、二人はアキトに負けないくらい凛々しい表情で頷く。
「よし、行こう。ルリちゃん。ラピス。ジャンプフィールド展開」
「「はい!」」
「ボース粒子増大。ジャンプフィールド展開完了。いつでもいけます」
二人からオモイカネへ『お願い』をすると、それと同時に三人の周りに沢山の【了解】【わかった】【OK】というウィンドウが開く。
そしてユーチャリスがジャンプフィールドを展開し、アキトが行うジャンプの演算を補助していく。
「二人とも、行こうか。離れないようにくっ付いてね」
「「はい」」
アキトがそういうと二人の身体を抱き寄せる。
二人もそれぞれアキトの身体に抱きつき、うっとりしたように目を閉じる。
そして、アキトが息を深く吸い込むとそれに合わせて二人も口を軽く開けた。
「「「ジャンプ」」」