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No.19794の一覧
[0] 天河くんの家庭の事情(逆行・TS・百合・ハーレム?)[裕ちゃん](2010/07/24 18:18)
[1] 天河くんの家庭の事情_00話[裕ちゃん](2010/07/23 17:46)
[2] 天河くんの家庭の事情_01話[裕ちゃん](2010/06/26 12:59)
[3] 天河くんの家庭の事情_02話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[4] 天河くんの家庭の事情_03話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[5] 天河くんの家庭の事情_04話[裕ちゃん](2010/06/24 07:54)
[6] 天河くんの家庭の事情_05話[裕ちゃん](2010/07/10 22:31)
[7] 天河くんの家庭の事情_06話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[8] 天河くんの家庭の事情_07話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[9] 天河くんの家庭の事情_08話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[10] 天河くんの家庭の事情_09話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[11] 天河くんの家庭の事情_10話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[12] 天河くんの家庭の事情_11話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[13] 天河くんの家庭の事情_12話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[14] 天河くんの家庭の事情_13話[裕ちゃん](2010/06/26 02:01)
[15] 天河くんの家庭の事情_14話[裕ちゃん](2010/06/26 11:24)
[16] 天河くんの家庭の事情_15話[裕ちゃん](2010/06/26 23:40)
[17] 天河くんの家庭の事情_16話[裕ちゃん](2010/06/27 16:35)
[18] 天河くんの家庭の事情_17話[裕ちゃん](2010/06/28 08:57)
[19] 天河くんの家庭の事情_18話[裕ちゃん](2010/06/29 14:42)
[20] 天河くんの家庭の事情_19話[裕ちゃん](2010/07/04 17:21)
[21] 天河くんの家庭の事情_20話[裕ちゃん](2010/07/04 17:14)
[22] 天河くんの家庭の事情_21話[裕ちゃん](2010/07/05 09:30)
[23] 天河くんの家庭の事情_22話[裕ちゃん](2010/07/08 08:50)
[24] 天河くんの家庭の事情_23話[裕ちゃん](2010/07/10 15:38)
[25] 天河くんの家庭の事情_24話[裕ちゃん](2010/07/11 07:03)
[26] 天河くんの家庭の事情_25話[裕ちゃん](2010/07/12 19:19)
[27] 天河くんの家庭の事情_26話[裕ちゃん](2010/07/13 18:42)
[29] 天河くんの家庭の事情_27話[裕ちゃん](2010/07/15 00:46)
[30] 天河くんの家庭の事情_28話[裕ちゃん](2010/07/15 14:17)
[31] 天河くんの家庭の事情_29話[裕ちゃん](2010/07/16 17:35)
[32] 天河くんの家庭の事情_30話[裕ちゃん](2010/07/16 22:08)
[33] 天河くんの家庭の事情_31話[裕ちゃん](2010/07/17 01:50)
[34] 天河くんの家庭の事情_32話[裕ちゃん](2010/07/21 01:43)
[35] 天河くんの家庭の事情_33話[裕ちゃん](2010/07/21 23:39)
[36] 天河くんの家庭の事情_34話[裕ちゃん](2010/07/22 04:13)
[37] 天河くんの家庭の事情_35話[裕ちゃん](2010/07/24 18:16)
[38] 天河くんの家庭の事情_小話_01話[裕ちゃん](2010/06/25 20:30)
[39] 天河くんの家庭の事情_小話_02話[裕ちゃん](2010/07/07 03:26)
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[19794] 天河くんの家庭の事情_11話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/24 07:57
「うわぁ、どうしようこれ.....」
「なんとも、相変わらずですね」
「逃げ込める隙間がない」

三人がそれを見た時発したのはそんな言葉だった。

ルリがピースランドへ連絡をしてから一週間後の事だ。
アカツキから連絡が入り、アオがそれに出ると珍しくアカツキが焦った声を出していた。

「アオ君!君はいったい何をしでかしたんだい!?」
「ごめん、ナガレ。いきなりそれじゃまったく意味がわからないよ?」
「取り乱してしまったようだね、すまない」
「それで、何があったの?」

そこでアカツキは一度咳払いをすると起こった出来事の顛末を話し始めた。

「今日の事なんだがね、突然ピースランドの使者がうちに現れてルリ君の身柄を引き渡せと言って来てね」
「うんうん」
「いくら理由を聞いても話す必要はないとか言われて取り付くしまがないし、隠しだてするなら考えがあるとか言い出すし弱ってしまってね」
「そっか、大変だったね」

アオの言葉は物凄く軽かった。
こうなる事は想定してたのもあるが、話半分にしか聞いておらず頭の中ではどういう服装にしようという事ばかり考えていた。

「それで...ってアオ君話聞いてるのかい?」
「聞いてるよ。でもこれは私の差し金じゃなくて、ルリちゃんが決めた事なんだ」
「どういう事だい?」
「あの子、ピースランドのお嬢様だからね」
「姫!?」

流石にアカツキも驚いたようだった。
それからアオはルリの出生について話をしていった。
アカツキは納得はしたが、何故ここに来てルリがピースランドと連絡を取ったかまでは考えが及ばず悩んでいた。

「ここに来て何故連絡を取ったんだい?」
「私も直接は聞いてないよ。大体分かるけどね、だからまだ言えない。
でも、ルリちゃんを信じてあげて」
「アオ君がそこまで言うならしょうがないな。
それで、使者の人にはどう対応すればいい?」
「それなら、ルリちゃんに代わった方がいいね、ちょっと待って」

そう言うとアオはルリを呼んできて話の顛末を伝える。
ルリはわかりましたと答えると通信を代わった。

「アカツキさん、こんにちは。
突然こんな事になってごめんなさい」
「あぁ、少々びっくりしただけだから気にしてないよ。
それで、対応はどうすればいい?」
「はい、こちらの通信映像を録画する事って出来ますよね?
それを使者の方へ渡して貰ってもいいですか?」

アカツキはそれを了承すると、準備をする。
すぐに準備が終わったアカツキは、いつでもいいよと伝えた。

「こんにちは、ホシノ・ルリです。
お話は伺いました。使者の方にご足労頂いているのに恐縮ですが、こちらも色々と用意する物が御座います。
明日発のピースランド行きシャトルへ搭乗して国の方へ参り、父上・母上との面会に参じようと考えております。
父上・母上にはそのようにお伝え下さい。よろしくお願いします。
以上です」
「あぁ、しっかりと渡しておくよ」
「はい、お願いします。
では、アオさんに代わります」

アオはルリにお疲れさまと言って頭を撫でると通信を代わる。

「大丈夫そう?」
「あぁ、問題があった時はまた連絡するよ」
「うん、わかったよ。まぁ、悪いようにはならないと思うから心配しないで~。
ただ、なんとなく物凄く忙しくなる気がする」
「.....勘弁してくれ」
「ルリちゃんに言ってくれ」
「しくしくしくしく」

そうして通信を切った。
それからアオとルリはラピスも呼んで旅支度を始める。
研究所から戻ってきたマナカは大荷物を用意している三人を見てびっくりしていたが、顛末を聞くと留守は任せてと気合いを入れていた。
特にアオへは頑張って仲を認めて貰わないと駄目よ!と妙に力説していた。
ちなみにマナカへは、不要なトラブルを招かないように本当の親が見つかったとだけしか伝えていない。

そして次の日、アオ達三人はしっかりと着飾り家を出る。
アオは髪と同じく黒のドレスにケープと手袋をつけている。ドレスは薄い布を巻いたような形ではあるがアオの雰囲気ににて落ち着いた印象だ。
ルリもアオと似たようなコーディネートだが、色合いを髪に合わせてあり柔らかい雰囲気になっていて、髪を下ろして大人っぽく見せている。
ラピスは一転してロリータ系のドレスを着ている。色もピンクで髪とあっており可愛らしい雰囲気だ。
空港まではプロスとゴートが送る事になった。
そして、空港へと到着した三人を待っていたのはピースランドから来た物々しいお迎えと専用機であった。
ルリは何時発の便かまではあえて伝えてなかったので、始発便から待っていたのだろう。
全ての入口に一人ずつピースランドの衛兵が立っており、全通行者をつぶさに確認している。
そしてガラス戸を通して見える中には使者が待っており、その横で空港の偉い人だと思われる男がペコペコしていた。

「...逃げたい」
「...私もです」
「...うん、私も」

遠巻きに見ながら帰ろうかと悩んでいる間に衛兵の一人がこちらに気付いてしまった。
何度も持っている写真と見比べ、顔色を変えるとどこかに連絡を入れたようだった。

「うわ、気付かれちゃった」
「そうみたいです」
「もう逃げられない」

連絡を受けた使者が衛兵を何名か引き連れて急ぎ足でアオ達の方へ向かってきた。
使者達は目前で止まると恭しく膝をつく。

「姫、お迎えに上がりました」
「えっと、私は自分達で向かうと言ったつもりだったのですが」
「いえ、姫に在られましては民間のシャトルへ乗られ事件が起きないとも限りませんからこうしてお迎えに上がりました」
「はぁ...お手数おかけします」
「勿体ないお言葉。して、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「こちらの両名はどういった方なのでしょうか?」
「背の高い方がテンカワ・アオさん、こちらはラピス・ラズリです。私にとって何よりも大切な方々です」
「畏まりました。アオ様、ラピス様、失礼な物言いお許し下さいませ。では、すぐにご案内させて頂きます」

そういって使者の人が立ちあがると三人をエスコートした。
使者と衛兵の内一人がアオ達の前へ立ち後ろにも二名立つ。
その後ろにいる三人が荷物を持って付き従っていた。
そんな仰々しい一行が歩いていて注目にならないはずもなく、外からこれまでずっと衆人環視の中である。

『え、何あれお姫様?』
『まじかよ、すっげぇ可愛くね?』
『あの子達凄い可愛くない?お姫様だって!』
『なんか、あのピースランドのお姫様らしいわよ』
『お姫様か、憧れちゃうわ』

周りで見たいた人からはそんな興味本位、好意的な視線が多かった。
そんな中シャトルへ搭乗した三人は内装にも驚いた。
どこかの応接室みたいな空間が広がっており、バーカウンターにキッチンもついていた。

「なんか、場違いに思えてきた」
「私、逆に寛げません」
「ソファーふかふかだよ?」

それからシャトルはピースランドへ向かい発進していった。
なんとも落ち着かないのか、到着までの間三人はソファーで固まっていた。
そして、機内食はやっぱり不味かったらしい。

ここで、ピースランドについて説明しておこう。
ピースランドテーマパークは元はドイツの商家だった現経営者の曽祖父が開園して今年で丁度100年目にあたる。
そして現経営者の父親が余った資金を使い銀行の経営を始めた所、その匿名性が一部の後ろ暗い方々に受ける事となる。
そして現経営者がプレミア=フリーデン、フリーデン家の跡取りである。
元々のテーマパーク自体はフランスにあるのだが、ありあまる資金を流用しフランスとドイツにまたがる広大な土地が私有地となっている。
私有地全てをテーマパークとして登録しており、そのテーマパーク内はもはやフランスとドイツとは別の政治で動いている。
その土地に住んでいる人は従業員という形になっているがもはや形骸化しているだけだ。
事実上既に王国と貸している状況で、通常このような事が認められるはずがない。
だが、フランスとドイツの政治家、軍人、企業家はピース銀行に口座があり、後ろ暗い事だらけなので文句をつける事も出来ず認めざるを得ない状況だ。
そして現在国としての独立を推し進めているが、成立はまだしていない。
だが、数ヵ月後に地球へチューリップ落下、そしてフランスとドイツも防衛戦へと駆り出される事となり、その資金と引き換えに独立が認められる事となる。

シャトルがピースランドへ到着すると、すぐにリムジンへ乗り換える事になり一路王宮へ向かった。
その街並みを懐かしそうにみるアオとルリ、ラピスは物珍しそうに目をキラキラさせていた。

「懐かしいですね。イタリアンのお店で味に文句を言って」
「うん、私が殴られてたね」
「今考えると、オモイカネの一件の時には気になっていたんです。
そして、あの頃の一件で私はアオさんが好きになったんだと思います。
私はまだ小さくて、鈍感でしたから気付く事が出来ませんでしたけど」
「私もそうだったのかもしれない。
オモイカネの時にルリちゃんの一面を見れた。
あの頃の一件でルリちゃんは私にとって守るべき人になった。
私も本当はずっと好きだったのかな」

アオとルリは外の景色を眺めつつ、郷愁に浸っていた。
ほどなくしてリムジンは王宮前の入り口へと到着し、衛兵が両脇を固める中大広間へと通されていく。
そこには記憶と全く変わらない髭を蓄えたプレミアとルリと同じ髪の色をした妻のマエリスが座っている。
そして五つ子の弟達が座っていた。
そんな中プレミアが立ちあがると広間に響き渡るように声を発した。

「おぉ!ルリと申したな!我が子よ、よく生きていてくれた!」
「父上、母上、そして弟達、お目にかかれて光栄です」

ルリはそう言うとぺこりと頭を下げる。

「おぉおぉ、ルリや。そんなにかしこまらずとも良い!」

涙ながらに言うやいなやルリの目の前までプレミアは駆け下りてくる。
ルリの目の前まで来るとルリに視線を合わせるように屈むと手を取った。

「わしらはみんな一緒じゃ。これからはずっとここにいていいんじゃよ?」

人懐っこい顔をしたプレミアを見ながら、ルリはやっぱり変わらないなと微笑んだ。
アオも相変わらずだなと苦笑いしている。
ラピスはただ不思議そうに見ているだけだった。

「父上。父上と母上にお話ししたい事が御座います。私にお時間を頂けないでしょうか?」
「そうかそうか、ルリの願いじゃ。いくらでも時間を作ろう。今からがいいかい?
弟達とも積もる話があるだろう。みんな呼んだ方がいいかい?」
「時間は今からで構いません。ただ、弟達が知るにはまだ早い話になります。
今回は父上と母上に話をしたいと存じます。
それと、映像データを流せるようにして頂けるとありがたいです」
「うむうむ、すぐ用意するから待っていなさい」

そうしてから10分も経たずに部屋へ案内された。
普段は少人数の会議で使っているのか8名程が座れるようになっており、壁際にウィンドウが表示されるようになっている。
ウィンドウ側には席がなく反対側の上座に2名、横の面に4名ずつ座れるようになっている。
上座にプレミアが、その横へマエリスが座っており、入り口側へプレミアから近い席からルリ・ラピス・アオの順で座っていた。

「ルリや、待たせてすまないな。何でも話しなさい」
「では父上と母上に見て頂きたい映像が御座います」
「そうかそうか、すぐ流しなさい」
「はい、ですがその前に父上と母上にお伝えします」

そう言うとルリは一度言葉を区切り真剣な表情でプレミアとマエリスの目を見据えた。
その目に何か感じたのか、プレミアの人懐っこい表情が一変した。
先程までは作った表情だったのだろう。

「ふむ。幼い娘と思っておったらそのような目が出来るとは、何かあるようじゃな」
「はい、この中に入っているのは私と私のとても大切な人の記憶です。
信じ難い事ばかりかもしれません。ですが、全て私達が経験した事です。
それを踏まえて見て頂くようお願いします」

プレミアもマエリスも頭を下げるルリを真剣に見詰めた。

「子を信じない親などいるはずなどないであろう。
その中に何が入っていようが、わしもこれも総て受け入れるぞ」
「ありがとうございます。では、これから流します」

そうして、アキトの記憶を編集した映像が流れ出す。
今回持って来たものは前回のに加えてユリカを助けだしてからユーチャリスでジャンプするまでも入れてある。
未来での出来事という事で最初は戸惑っていたが、ルリが少しずつ成長していく過程を見てプレミアもマエリスも頬を緩ませた。
ただ、プレミアは幾分テンカワ・アキトに嫉妬していたようではあったが。
そして事はシャトル事故へと続いていく...
それから流れる人体実験に晒されるアキトやユリカ、感情を無くしたルリ見てプレミアは悪い夢を見ているかのように顔を歪める。
マエリスは正視に堪えないのか、プレミアへ寄り添い袖を握り締め嗚咽していた。
その間も映像は流れ続け、ユリカの救出、火星の後継者の残党狩りへと入っていった。
そしてそれが流れた瞬間、プレミアは叫んだ

「なんだと!!」

ルリの暗殺計画だった。
激情に駆られ立ちあがったプレミアだが、その目に飛び込んで来たのは自分を死んだ事にして世間から消えるという選択をしたルリ。
そして、父であるプレミアがルリの暗殺から取った行動を知り、嬉しさと申し訳なさに泣いているルリを見てその激情は鎮火していった。

映像が終わってしばらくは、重苦しい空気の中マエリスの嗚咽だけが流れていた。
厳しい表情で押し黙っていたプレミアだが、ルリを見ると質問をする。

「ルリよ。ではそなたは...」
「はい、未来の私です。」
「何故わしとこれにそなたの事を見せようと思ったのだ?」
「父上と母上なら受け入れて下さると思ったからです。それと話しておくべきだと思いました。
父上と母上、弟達も家族ですから...」
「そうか...」

そうしてまたプレミアは押し黙った。
しばらくの間何事かを考えていたようだが、おもむろに口を開く。
マエリスも落ち着いたようでプレミアの様子を静かに見ていた。

「わかった。では聞こうルリよ。わしに何を求める?
ここまでしておいてまさか本当にただ見せるだけではあるまい?
何よりわしはこれを知ってこのまま手をこまねいていられる事には耐えられん」
「父上、無理やり頼むような形になってしまい申し訳ありません」
「子が親に何を遠慮するのだ。親を困らせるのが子の領分であろう。ならば精々わし等を困らせて親孝行せんか。」

そういってプレミアは豪快に笑った。
曲がりなりにもプレミアだ。その上スイス銀行に並ぶピース銀行の頭取でもある。
政治の汚さ、裏の暗さを知っている彼の懐はとても広かった。

「父上、母上。お願い事をお伝えする前にご紹介したい方がいます」
「そうかそうか、遠慮せず言ってみよ」
「まず、こちらの子がラピス・ラズリ。非合法の研究により生まれた彼女は私の単相クローンになり、私の妹にあたります。」
「似ていると思っっていたが、クローンとは...」
「あらまあ...」

ルリはクローンという事もあり、内心どういう反応をされるか冷や冷やしていた。
ラピスも自分の方をじっと見つめられ居ずらそうにしている。

「ルリや、その子をここまで連れてきてはくれんか?」

プレミアはそう促した。
ルリに連れられてプレミアとマエリスの目の前まで来たラピスはルリの陰に隠れていた。
プレミアとマエリスも目線を合わせるようにしゃがむとしきりにうんうんと頷いている。

「ラピスと申したな?」

そう問いかけられたラピスはおずおずと頷く。
それを見てプレミアは嬉しそうに笑うと、ラピスを持ち上げる。

「そうか。いきなりで驚いたが、中々に利発そうではないか。そうか、娘が増えたか!」

急に持ち上げられ驚いてラピスが暴れようとしたので、マエリスが預かると柔らかく抱きしめる。
抱き止められたラピスはその温かさにすぐおとなしくなった。

「ほら、あなた急で驚いてるわ。ラピスは髪が桃色なのですね、顔立ちがそっくりで可愛いわ。
ラピス、私をお母さんって呼んでくれないかしら?」
「...おかあさん?」
「えぇ、あなたのお母さんです。そしてこの方があなたのおとうさん」
「...おとうさん?」
「おぉ、父と呼んでくれるか!」
「おかあさん、おとうさん...」

ラピスは母親にしがみつくと泣きだした。
当初ラピスは、ルリとプレミア・マエリスを見て何で私はここにいるのだろうと考えていた。
そしてルリばかりを見る父と母に、遺伝子上は私もそうなのにと不満も感じていた。
そして、どうせ私は実験体だったからと疎外感を感じていたのだ。
だが、ルリは自分を紹介した、それも妹として。
そしてプレミアもマエリスもそんな自分を受け止めてくれた。
とても温かかった、アオやルリに感じるようなそんな温かさがとても嬉しかった。

アオとルリは年頃の女の子のように泣きじゃくるラピスを嬉しそうに眺めていた。
プレミアもそれを見てうんうんと頷くとルリへと口を開いた。

「ルリ、ラピスも妹と認めよう。だが、クローンともなると王位継承権まで与える訳にはいかんのじゃ...」
「いえいえ、十分です。家族と認めて下さるかの方が大事でしたから」
「うむ、すまんな。して、もう一人は姉だったりするのか?」

この際ならなんでも来いとばかりにプレミアは言い放つ。
流石にルリは苦笑すると答えた。

「あの、いえ、彼女は、テンカワ・アオと言います。
先ほど見て頂いた映像は彼女の未来での記憶になり、元々は男性の方でした。
ですが、過去へ跳んだ際の事故でお姉さんの身体になっています。
アオさんはアキトさんの頃からずっとずっと、私とラピスを守ってくれています。
そして、そんな彼女は私とラピスにとって大切な、かけがいのない人です」

顔を染めて言う大切な人発言にプレミアは唸りつつアオを見分していく。

(娘が生きていて、更にもう一人妹がいたというのは問題ない、むしろ嬉しい事だ。
しかし、娘よ親子の感動の対面にも関わらずこぶを連れてくるのは父として悲しいぞ。

だが、映像を見る限り修羅場を潜っているな、度胸は申し分ないだろう。
戦闘技術やパイロットとしてもトップクラス、裏の汚い世界にも忌憚はない。
何より娘二人を守り続けたというのは評価に値しよう。
ただ、以前が男だったとはいえ今は女の身じゃ、それでは世継ぎが生まれぬ。

あぁ、娘よなんじゃその目はこの女をそのような目で見るでない!
こやつがまだ男だったらよかったのじゃ!そうじゃ!そうしてしまえばいい!)

「ルリよ...」
「アオさんとおっしゃいましたね?」

そうして口を開いたプレミアの言葉をマエリスが被せて押し留めてしまった。

「貴女はルリやラピスを守り通せますか?」
「私の全てを賭けてでも守り通し、共に生きます」
「だそうですわよ?国を継ぐのは長男ですし問題ありません。
それに今の技術なら女性同士でも子供は授かれますわよ?」
「...ぐむぅ」

マエリスはプレミアの考えなどとうにお見通しだったらしい。
悩むプレミアを横目にマエリスはアオとルリへ目を向けると口だけで安心しなさいと告げた。
どの時点でアオを認めたのだろうか、ピースランドで一番怖いのはマエリスかもしれない。
そして、ルリの発想はマエリス譲りだったらしい。

その後散々悩むプレミアだったが、マエリスに少しずつ外堀を埋められ灰になりながら交際を認めてしまった。
その言葉を言わせたマエリスはプレミアに見えないようにアオとルリへピースをしている。
ちなみにラピスはその間ずっとマエリスに抱っこされて撫でられていた。

そしてプレミアが立ち直ると、ようやく相談となった。
それぞれが席へ戻ったが、ラピスはマエリスの膝に座り身体を預けている。

「はじめに、私とラピス、アオさんが自由に活動出来るようにして頂きたいのです」
「自由に?」
「はい、私達には目的があります。それを為すまでは休めません。
過去へ来た私達が為さなければなりません」
「むぅ...」
「あなた...」
「...無理にでもここへ置いておこうとしたら何とする?」
「逃げる手段はありますから」

そう言うとルリとラピスがアオへと寄り添う。
プレミアは映像で見たボソンジャンプを思い返す。

「止めるのは無理か。ならばせめて父として後押ししてやらねばな。
では、外の世界を見るという事にし成人するまで、もしくはお前達が納得して帰ってくるまでの間。
お前達に何が起こっても当家では預かり知らぬ事とする。」

そう言うとプレミアは少し寂しそうな笑みを浮かべた。
これは簡単にいえば旅に出してるから、その間は死のうが拉致されて身代金要求されようが知らないよという事である。
全て自分の責任で行動し、納得したら戻ってきなさいという事になる。
今後この成人前に旅を行わせる事が慣例となるのだが、それはまた別の話である。

「わかった。何でも申してみよ」

プレミアはそう言うと表情を変え、交渉に臨むよう心構えを固める。
まずは自分達と同じIFS強化体質実験の被害者に関してだ。

「ふむ。保護をしてくれと?」
「はい、私もラピスも実験対象者です。それを前面に押し出して頂いて構いません。
プレミアの娘と同じ被害者という事になれば受け入れて貰う受け皿が整えやすいと思うんです。
私達もれっきとした人間なのに、化け物を見るような目に晒されるのは辛いですから」
「ふむ。我が娘達が置かれた物と同じ状況ならば助けねばな。
そうなるとIFSの装置を国中に配備させた方がよいな。
経緯はどうあれ持っている能力は個性となる。
子供達の選択肢を増やすのも国としての役目だろう。
国としてIFSを奨励すればそういう目も時期に減ろう。
その際にIFS強化体質者への教育も考えねばならんがどう考える?」
「そうですね、私とアオさんでウィンドウを使い通信で指導する事は出来ます。
ラピスも経験は多いですが教えるにはもう少しかかりそうです。
一般的な教育にプラスしてIFSの教育も行う形にしたいと思います」
「ふむ、ルリとアオ殿がそうするのならば心強いな」

実際に保護をするにあたり、交渉はネルガルのみとする事になるだろう。
IFS製品もIFS強化体質が現在保護しているのも共にネルガルだからだ。

続いて火星の自治政府樹立の件を話していく。

「面白い発想であるな。だが、それに対してわしらは何をする?
そして樹立がなった後にどうするのだ?」
「はい、父上はピース銀行の頭取でもあります。
ですので、まず最初は火星への投資をお願い致します。
火星が独立を維持する為に必要なのは自衛の為の軍備です。
そこは既にネルガルと交渉をしてあるんですが、火星は避難中でお金がないのです」
「ふむ、投資か。ネルガルの坊主が動いているのだ、勝算はあるんじゃろう。
よかろう、その件も飲もう」

プレミアはルリがそこまで考えている事に内心驚いていた。
それと同時にそこまで考えざるを得なかった未来を思い哀しんでもいた。
今まで散々辛い思いをしてきたのだろう娘が更に苦労を背負い込もうというのだ。
止めるのも一つではあるが、それはしたくなかった。

「ありがとうございます。
そして政府樹立後ですが、樹立後すぐは火星も余裕がないと思います。
そこで、樹立後すぐに火星へ支店を出してみませんか?」
「支店を出すとはのう」
「はい、ボソンジャンプが主流になれば今後必ず火星を中心に動いていく事になります。
早い段階で火星へ進出し主流を握ればかなり動きやすくなるはずです」
「ふむ。ルリや、よく考えるのう。大したものだ」
「父上、アオさんやラピスと相談してみんなで決めてる事なので、私だけじゃないですよ」

プレミアは心から賛辞した。ただ頼むだけではなく、国の利益も考えた上での意見だからだ。
しきりにうむうむと頷きながら考えるが、特に断る程の穴はない。
ルリはプレミアからの言葉にふと顔を緩める。

「わかった。ルリの頼みを聞こう。
まだ何かあるかね?」
「いえ、お願いとしては以上です」
「お願いとしては?とな」
「父上、少し言い辛い話なのですがよろしいですか?」
「ふむ。構わんよ、遠慮などするでない」

そうしてルリはピースランドの国政の話に入っていった。
偽物ばかりな事、そして味の悪い料理などの事だ。
国の事を悪く言われ流石にプレミアは眉を顰める。

「してルリよ、そこまで言うなら何か考えがあるのだな?」
「はい、今から説明します。確かに色んな国からシンボルをコピーしています。
ですが、作りはしっかりしてるのでこれを逆に活用しようと思いました。
そこで、コピーの中に本物を入れてしまおうという訳です」
「コピーの中に本物とは?」
「はい、パリならパリ、香港なら香港、東京なら東京といったようにシンボル毎の区画に現地の人がよく行くお店や職人を入れるんです。
外国の人に有名な所ではなく、現地の人こそ知っているというお店なのが大事です。
現状ですとピザが元祖本家なんて言い切っちゃっている変な状況ですが、ちゃんとその土地の人にお店を営業して貰い本物を出して貰うんです」
「しかし、それをするとなるとかなり投資せねばなるまい。
それぞれ現地での情報も必要になる上交渉も必要であろう」
「情報は私達が出来ますよ。それとですね...」

そう言ってルリはデータを出して話を進めていく。
次第にプレミアものめり込んでいき、ああでもないこうでもないと話し合いは続いた。
今回あえて交渉する立場には立たなかったアオだが、親娘で話し合ってる姿を見てルリが余り見せない姿を楽しんでいた。
マエリスも二人の様子を楽しげに眺めている。その膝の上でラピスは夢の中だ。
それからしばらく話し合いが続いたが、最終的な意見がまとまったようで二人とも満足そうな顔をしていた。

「ふむふむ。ルリや、父はお前がわしの娘である事が嬉しいぞ」
「いえ、私も父上にラピスの事まで受け入れて頂き感謝しています」
「もう頼み事はないか?」
「えぇ、お時間取って頂きありがとうございます」
「気にするでない。普段の会議なんかよりよっぽど有意義じゃった」
「そう言って頂けとても嬉しいです」
「わしは早速ルリの出してくれた案を元に会議をしてくる。
ルリもラピスもアオ殿も今日は疲れだろうから、ゆるりと休め。
明日は色々と忙しくなるからのう。食事などもすぐ用意させよう」

そうしてプレミアが立ち上がるとマエリスもそれに続き、寝入っているラピスをアオへ預けるとプレミアの後をついて退室していった。
アオとルリもプレミアに続いて立ち上がり、ルリはそのままにアオはラピスを抱きながら見送った。

「豪快な人だね。どこかコウイチロウさんを思い出すよ」
「そうですね、似てるかも知れません。親馬鹿みたいですから」

そうして談笑しているとメイドが三人を案内に来た。
まずは広間に食事を用意してあるとの事だったので、おとなしく後へ着いていった。


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