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No.2484の一覧
[0] 機動戦艦ナデシコ ~蛍蔓~[散川 散](2008/01/05 23:19)
[1] 一章[散川 散](2008/01/05 23:20)
[2] 二章[散川 散](2008/01/06 00:30)
[3] 三章[散川 散](2008/01/09 22:49)
[4] 四章[散川 散](2008/01/10 02:25)
[5] 五章[散川 散](2008/08/04 22:47)
[6] 六章[散川 散](2008/08/04 22:40)
[7] 七章[散川 散](2008/08/04 22:46)
[8] 八章[散川 散](2009/01/04 16:46)
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[2484] 一章
Name: 散川 散◆bce2ca57 ID:5a9b0321 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/01/05 23:20
 痛い。苦しい。
「ごほっ、ごほっ、」
 なんだろ、咳をして口を押さえたら、赤い液体が出てきた。ああ、これは私の血だ。
 慌てて、周りの人たちが駆け寄ってくる。
 大丈夫? 医療室 ルリちゃん そんな断片的な言葉が頭の中に入ってくる。
 意識がぼやける。ふわふわしているのに、時折鋭い感覚が私を襲う。やけに心臓の音が大きく聞こえる。たぶんこの心臓が私の血を押し出してるんだ。だって次から次へと溢れだして来る。
「ぁぁ、・・」
 声がうまく出ない。周りを見渡す。艦長、メグミさん、プロスさん、ミナトさん、ゴートさん。
 ああ、どうして私は気付いてしまうんだろう? ここにはアキトさんがいない。
 生まれて始めて涙が流れた。
 声が出ないから、私の命でメッセージを残す。
 できるだけ手を伸ばして、他の血と混ざらない場所に。
 
 おいしかった

 たぶん、これだけで伝わるはずだ。
 おやすみなさい。




 宇宙空間での実機訓練の途中だった俺は、ルリちゃんが倒れたと連絡を聞いて、急いで艦に戻る。
「くそっどうなってるんだよ」
 昨日まで元気だったはずだ。俺のチキンライスを食って、それで笑って、なのに、なのに
「おいっ、テンカワ!!」
 通信が入る。リョーコちゃんからだ。
 うっとおしい。話をしている時間なんてない。何も言わずに通信回線を切る。
 エステが遅い。遅すぎる。命がかかった戦闘でもこんなふうに思ったことはない。
「テンカワ、着艦します」
 必要最低限のことをつけて、着艦し、整備員に挨拶もなしで飛び出す。
 全力疾走。息が切れても無視する。肺の痛みや、足のもつれも全部無視して、テンカワ・アキトの最大限の速さでブリッジに向かう。
「ルリちゃん」
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「なんなんだよ。これはなんだよ!!」
 悲痛な顔をした皆と、血の海に横たわるルリちゃん。抱き上げ揺らす。誰も止めない。そう、まだ生きているのなら、病人相手にこんなことをした俺を無理矢理とめようとするだろう。だが、誰もが目を反らし、涙を堪えているだけだ。もう、どれだけ乱暴に扱っても大丈夫。なぜなら、彼女は
「どうして、死んでるんだよ!!」
 誰にもわからない。そう、誰にも
 床を見ると、血の海から離れたところに『おいしかった』という文字があった。
 その意味がわかるのはたぶん、俺だけだ。
 嬉しい。だけど、誰にありがとうを言えばいいんだろう?

 
 目が覚めると、全身に痛みが走った。興奮状態で意識の外にあった痛みが帰ってきたようだ。冷静に考えると当たり前だ。何度も床に叩きつけられたのだから。
 全身をチェックする。骨や健は大丈夫。怪我は、打ち身と切り傷がたくさん。でも、動ける。
 幸いモニターとオモイカネは生きていて、周囲状況を調べることが出来た。
 おそらく、ここはナデシコ長屋だ。どうやら私は賭けに勝ったらしい。しかし、当然用に下敷きになった建物が押し潰されている。巻き込まれた人が居ないか心配だ。
 そして、場所が場所だけに当然のようにネルガルの社員達に囲まれていた。
 ナデシコCに何かの器具を設置している。おそらく外壁を振動させ、音声を伝えるタイプの通信機器だ。ナデシコCの外壁を切断するほどの設備をここまで運ぶことを諦めた結果だと予測される。
「そんなことしなくてもいいのに」
 通信周波数を私の記憶するネルガルのものに合わせる。
「宇宙軍所属ナデシコC艦長星野ルリ中佐です。本艦の回収をお願いします」
「すみません。少々お待ちいただけますか?」
「ええ」
 ネルガルと宇宙軍は協力関係にある。すぐに手配されるだろう。
 しかし、ナデシコCの周りに集まった人たちは動かないし、いつまで経っても返事はない。
 一時間ぐらいまっただろうか? いい加減意識が遠のきそうになったころになってやっと通信がかえってきた。
「君は誰だい?」
 でたのはアカツキさん。
「いくらなんでもボケるのは、早すぎます。ルリです」
「どちらのルリさん?」
「星野さんちのルリさんです」
「そんなはずはないだろう」
 いい加減疲れてきた。この人には時と場合を選ぶぐらいの頭はあると思っていたのに。
「いいかげんにしてくださいアカツキさん」
「いいかげんにするのは君のほうだ」
 怒気を孕んだその言葉に、一瞬怯えてしまった。アカツキさんが私にそういった感情を向けたのは初めてだ。
「死者の尊厳を汚すな。星野ルリは昨日死んだ。そして彼女はまだ、12才のはずだ」
 こんどこそ本当に言葉を無くす。私が死んだ? そしてこの世界はまだ
「一つお聞きします。テンカワ・アキトは生きていますか?」
「へえ、その名前を知っているんだ。生きてるよ。まぁ、元気とは言えないけど」
「よかった」
「僕の話を聞いていたかい?」
「はい。だって嬉しいじゃないですか。アキトさんが生きていて、私が死んだことで悲しんでくれているなんて」
 ああ、なんて素敵なんだろう。こんなに嬉しいのはユリカさんが退院したとき以来だ。
 そして、私はわかってしまった。本当の意味での今の状況。そして、
「もしかして、本物?」
「この船を回収してください。たぶんオモイカネのデータを見れば、私の話を聞きたくなると思います。それまで留置所なり、B2 107なり、好きなところに閉じ込めておいてくれて構いません」
「わかった。でも、君みたいな素敵な女性をそんなところで過ごさせるわけには行かない。僕のプライベートルームを貸してあげよう。
 それと、僕からも聞かせてもらおう。君が本当に星野ルリだと仮定しよう。君は何を望む?」
「幸せな世界」
「いいね。夢があって」
 ええ本当に。


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