たぶん、俺は駄目な男だと思う。だから、愛想をつかされて当然なんだ。
頭では理解できても納得できない。
「俺、振られたんだよな」
ルリちゃんが死んで、もう三日もたつのに、未だに立ち直れない俺に愛想を疲れたのか、昨日、メグミちゃんに振られてしまった。
ただでさえ、弱っていた俺は本格的に参っている。訓練にも、食堂にも出る気にならない。
「でも、もうすぐ終わりだ」
ナデシコは今、佐世保基地に向かっている。そこで、ルリちゃんの変わりの人員を補充してから、正式に軍に配属されてしまうらしい。
死んだから変わりの人間を用意するという発想は好きになれないし、俺は軍人になる……金をもらって人を殺す職業なんて真っ平ごめんだ。第一、今は何もする気になれない。そこで船を下りようと考えていた。
「うるさいな」
扉をたたく音が聞こえる。いや、そんな可愛いものじゃない。これは、扉を叩き壊す音だ。俺の部屋の扉は、マスターキーでも開けられないように設定されているため、物理的な手段でこじ開けようとして、昨日ぐらいからユリカは、何かを叩きつけている。
「うっとおしい」
単純に騒音だけじゃない。彼女の行為自体が、俺の傷を抉る。このドアがマスターキーで開かないようになっているのは、ユリカの不法侵入に嫌気がさした俺が、ルリちゃんに頼み込んだ結果だった。そして、いつもならここで、ルリちゃんが言うんだ
『いい加減にしてください艦長。それ以上すると、艦長のシフトが愉快なことになります』
そして、ユリカが渋々引き下がる。
扉が開かないことも、ユリカがいつまでも引き下がらないことも、死んだ彼女を連想させる。本当に煩わしい。
モニタをつけ、ヘッドフォンを装着し、音量を最大まで上げる。勇ましいBGMが流れ、画面の中には、劇画調の男達が浮かび上がる。
彼らは、どんな困難も、どんな悲しみも乗り越え、常に笑顔で前向き、情熱を燃やし続ける。憧れだったそんな姿が、やけに薄っぺらく見える。
ああそうか、俺はゲキガンガーにはなれないんだ。そんな当たり前のことを、理由も無く、しかし、極めて明確に確信した。