視界が黒に染まる。
「……痛い」
冷静に考えると、現段階で思考できてる時点で死んでるはずが無い。
体を隅々までチェックする。多少の打撲で済んでいるようだ。
「どうして?」
目をゆっくりと開ける。そこに居たのは、両手を広げ、ボゾンの光を纏った大型
のエステバリスだった。
「……あの大関スケコマシ手が早すぎますよ」
その形状には記憶があった。アルスロメリア等の次世代エステとは発想が異な
り、相転移エンジンを搭載し、テツジン等といった旧型機をなぞる形で無理矢理ジ
ャンプを可能にした試作機だ。
確かに、基本的には月面フレームに大容量バッテリーとチューリップクリスタル
を増設しただけの機体だが、この短期間で仕上げるには相当の無茶をしたはずだ。
「あの人はやっぱり馬鹿ですね」
そして、無茶をした人間がもう一人、あの機体のパイロットだ。それが誰だなん
て確認するまでも無い。
ぶっつけ本番のオカルトじみた機能を使って見ず知らずの人間を庇う。確かに、
あの機体の出力なら、テツジンのグラビティブラストぐらいなら耐えられるだろ
う。例え、100%の安全が確保されているとしても何人が出来るだろうか?
「……黒の王子様もいいですけど、やっぱり私はチキンライスの王子様のほうが好
きなようです」
彼の機体は、ボソンジャンプと大出力のフィールドの展開の影響で、オーバーヒ
ートしたのか、膝をついてしまっていた。しかし、その姿を情けないとは思わなか
った。
私は、逃げ惑う人々の波に逆らい、彼の元に向かう。
今度は私が無茶をする番だ。