地球―――――某国某地下研究所
ドン!ドンドン!!ドンドンドン!!!
「なぜだ!?」
「なぜ銃が効かない!?」
「奴は化け物か!?」
恐れ戦(おのの)き、後ろ退さりながら白衣を纏った研究員らしき者たちが眼前のモノに発砲していく。
が、眼前のソレは銃弾が命中しているにも拘わらず、徐(おもむろ)に前進しながら銃―――パイソン77マグナムを構える。
「き、聞いたことがある…最近我々の研究所をたった一人で強襲している男の事を…」
「銃弾さえもその身に介さない、暗殺と破壊工作のプロフェッショナル。故に―――」
「で、"死人(デッドマン)"と呼ばれる…!」
ドゴン!!ドゴン!!ドゴン!!
初速1秒2000メートル(ちなみにライフル弾の初速は秒速約800メートル)という化物じみた威力を誇るソレは獲物に違わず命中すると、彼等の頭部を爆ぜさせたかのように抉った。
「…五月蠅いよ、お前等」
そう言いながら右手に構えたパイソン77マグナムをショルダーホルスターへとおさめる。
その男の氷剣にも似た冷ややかな双眸は、無感動かつ冷酷に、数刻前まで人間だった肉塊を睨めていた。
「敵の全滅を確認、撤収する。ラピス、爆破システムを作動させろ」
全身に闇を纏う男―――テンカワ=アキトは冷たい声でそう呟いた
~死人~
ユーチャリスブリッジ
「アキト…お帰り」
桃色の長い髪をした肌の白い少女―――ラピスは無表情にそう言った。
「ああ」
返事をしながらアキトはディスプレイに映る、燃え盛る研究所を眺める。
山奥に存在する、レンガ造りの洋館に偽装されたその研究所は、周りの木々を巻き込みながら燃えてゆく。
(ここにも居ない、か……まあ、確立は低いと思っていたがな)
多くの返り血を浴びながら、自らの血に汚れながら、アキトが思ったのはそれだけだった。
呪詛の言葉も、後悔に駆られることも無く。
そう、後悔は無い……むしろやるべきことをやったという満足感に近いものを感じる。が、何処か虚しい。
(悔いたなら俺はきっと狂ってしまう。狂ってしまったら終わってしまう。俺はまだ終わってはならない―――)
そう、彼はまだ終われないのだ。彼の妻を救い出し、ヤツらに復讐を遂げるまでは―――
アキトは眼を閉じ、自らに問う。
(俺は―――人殺しだ)
(人が人を殺すのは、罪ではないのか…?罪には罰が、必要なのではないのか…?)
(俺は後、何人殺せばいい……?)
…ギュ…
無意識にラピスはアキトの外套の裾を強く掴み、俯き、その端正な顔を僅かに顰(しか)めた。
純粋で幼い彼女は、その無感動なアキトのココロに綯(な)い交ぜられた様々な感情を感じたのだろうか。
「大丈夫。俺は大丈夫だから……」
そんな彼女を安心させるためにアキトはバイザー越しにかすかに微笑んだ。
その微笑みはとても静かで、慈愛に満ちていて、まるで菩薩のようだった。
(…それでもいい)
(…今はこの広大な血の海を泳ぎ続けよう)
(在るか無きかも知れぬ岸辺を目指して…)
(いつかは俺も…)
(生者へと戻れるのだろうか)
…願わくば、彼が生者へと戻らんことを
~Fin~