人の数だけ想いがあって
想いの数だけ物語がある
だから――――
悲劇だとしても、物語は続いていく
機動戦艦ナデシコ
-Irreplaceable days-
対象の懐へ潜り込む潜入捜査と同時に行うデータの抜き取り等、潜入工作作業中に、アキトの持つレシーバーに連絡が入る。
今回アキトが潜り込んでいるのはテロリストのアジトなどでは無く、表向きは孤児院として活動している施設。
実態は、企業とテロリスト団体の橋渡しを行っている仲介屋だった。
火星政府、地球政府への示威行動と共に行われる、火星開発を推進している各大手企業支社や関連施設への襲撃。
幸いその襲撃の被害をアスカやネルガルが被った事は無かったが、大手企業第五位に挙げられる、主に火星では食品関連に強いハイライ
ト・コーポレーションの研究所、及び支社が被害に遭った。
その時の被害は人的被害で14人、死者である。
水分が少なく、痩せている火星の大地でも瑞々しい農作物が供給できるよう研究していたその施設の主任研究員、その他8名ばかりが殺さ
れた。
後は支社と施設の警備員である。
被害総額は破壊された機材・施設を含め凡そで二千万ドル。
研究が成功を迎えていれば、その額は更に跳ね上がっていただろう。
この一件以来、ハイライト・コーポレーションは火星で展開していた食品事業を一部撤退。
支社の職員や研究員の安全を考えれば、それも詮無き事ではあった。
だが、その後釜にあっさりと納まった企業がある。
年々、火星進出案を強固に進めていたクリムゾン・グループであった。
このあっさりとした交代劇に政府は安堵の声を出しはすれど、疑う事はしない。
だがネルガルやアスカの場合、ライバル企業の火星進出に警戒を抱くのは当たり前であり、クリムゾンの余りの手早さに疑いを持つなと
いう方が無茶というもの。
それまで何の疑念も抱いていなかったライバル企業と火星テロリストとの関係にこの時初めて疑念を抱いた両社は、火星支部を中心とし
てこの両者の繋がりを調査した。
そして、その細い糸は確かに発見された。
最近の火星テロリストは不思議な程活発に活動を行っていた。
その原因の一つが、火星進出に一歩も二歩も他企業から遅れを取っていたクリムゾン・グループからの資金供給だという事が発覚。
ここ二年間だけでも、凡そ二千万ドルという投資を行っていたクリムゾンは、金にモノを言わせ火星テロリストを手駒とし、その活動を
援助する代わりに各企業への襲撃を行わせ、火星から撤退させようとした。
クリムゾンの目論見はある程度成功を収め、撤退した企業の後釜に自社の支店を展開させる事に成功。
他企業に比べて明らかに少ないクリムゾンの支店は襲撃の標的にならなくとも短期間であれば何ら不思議では無く、両政府としても新た
な資金源として期待出来る企業を疑うような事をして、取り逃がしたくは無かったのだ。
テロリストとしても、クリムゾンという大手企業がスポンサーをしてくれれば活動資金の心配は無くなり、企業への襲撃を行えば時には
身代金という特別収入を得る事も出来たし、相手が政府に対し影響力のある大手企業ならば人質交換の要求に政府への要求も行う事を出来
る。
互いの利害が一致した両者は、孤児院を経営するテロリスト側の火星資産家を仲介屋とし、その影を利用して密に取引を行っていた。
だが金が流れればデータが動く。
微々たるその動きも、今世界で一番データの流れを機敏に察知できるアキトには、その不審さを察知されてしまったのだった。
動きを察知し、クリムゾンの目論見をほぼ正確に読んだネルガルは、その仲介屋にアキトを送り込んだ。
表向き孤児院を経営している資産家の前に見窄らしい格好をしたアキトが現れ、孤児を演じる。
外見は未だ少年期を抜けていないアキトはこういった潜入工作にも適任で、他の誰よりも安全に潜り込む事が出来た。
そしてタイミングを見計らい、この日アキトはロックされたデータの洗い出しや通信ログを抜き出していた。
ロックされたデータに載っていたのはクリムゾンやテロリストの事だけでは無かった。
孤児院で受け入れた孤児に支払われる遺族年金や賠償金、保険金を秘匿しているのがありありと判る裏帳簿が、その中には入っていた。
孤児院での子供達の生活ぶりは質素の一言に尽きる。
が、彼らは本来ならばそのような生活とは無縁の金額を所有しているはずだったようだ。
子供を食い物にするあくどいやり口に、アキトは言いようの無い憤りを覚える。
自らも孤児と呼ばれる、同じ立場の人間だから分かる事。
もし、アキトの傍にネルガルが無く、プロスという後見人が居なかったら自分も彼らと同じ境遇だったのだろう。
そう考えるとどうにもやるせなかった。
アキトは裏帳簿の全て記載されたデータ共々抜き取り、潜入していた孤児院の院長室を後にした。
その途中、再び通信が届いたのに気付き、アキトは用意された質素な四人部屋へと戻る道すがら、小声で答えた。
「こちらアキト。作業は完了しました」
丁度答えたのと同時に、アキトの真横にある扉が開く。
瞬間聞かれたかと警戒したアキトは腰に常備してある小型のブラスターに手を伸ばし、抜き出そうとする。
だが扉の向こうから出てきたのは、目を擦りながら寝ぼけ眼で歩く幼い少年だった。
警戒したアキトではあったが、どう見ても聞いている訳も無く、例え聞いていたとしても意味を理解できるとは思えない少年にほっと胸
を撫で下ろし、背後に回した腕を降ろした。
寝ぼけ眼の少年は、目の前にアキトの存在を朧げながら確認すると、とことこと歩みよりアキトの服の袖をぎゅっと握る。
「……おしっこ」
『プロス氏からすぐ支社に来いと連絡があった。15分以内にそこから出ろ、いいな?』
なんてタイミングの悪い。
アキトは袖を握る少年を見つめながら耳元で喋る隊長に心の中で呟くと、一つ溜息をついて少年の手を握った。
「わかった。僕が一緒にいってあげるよ」
『阿呆、出頭命令はお前だけだ』
「うん……」
話がかみ合わないのは当たり前。
ちょっとだけ頭が痛くなったアキトは、再び口を開く。
「すいません、30分待ってください」
「……だめ……漏れちゃう」
『何だ……何か問題が発生したのか?』
右と話を合わせれば左が絡んでくる。
現状を突破したいアキトは、目の前で股間を押える少年を勢い良く抱きかかえると、一気に廊下を駆け出した。
「わかりました、すぐ行きます」
『了解』
「お兄ちゃん、漏れちゃう……」
それからきっかり15分。
濡れた洋服を処分してから、アキトは孤児院を抜け出した。
「テンカワ・アキト、到着しました」
ドアホン越しに敬礼と共に内部へと呼びかける。
すると扉は内部からの返事も無く静かにロックを解除した。
内部からの返事が無い事で暫く思考を巡回させたが、アキトは開錠されたドアへと歩み寄った。
「失礼します」
敬礼と共に一歩踏み出し、室内へと声をかける。
中では数人の清掃員が床にクリーナーをかけ、清掃を行っていた。
そして、普段ならば来客用であるソファーに、プロスペクターが静かに腰を降ろしていた。
室内には、幾らかの破壊の痕跡が見られる。
「……何か、あったんですか?」
「部屋の事は気にしないで下さい。それより、こちらに座って」
一際目立つウィンドウの大穴を眺めながら訝しげに呟いたアキトに、プロスは幾分疲弊した声で答える。
普段の彼からは思い付かない素っ気無い言い回しに、アキトは幾分かの不審を覚えるが、言われた通り指定されたプロスの正面へと座っ
た。
辺りでは未だ清掃員が作業する中、二人は互いに向き合う。
「時間がありませんので。今から三時間後に貴方は私と共に地球へと向かいます。相応の準備をしておいて下さい」
前置き通りの発言にアキトは覚えた不審を膨らませる。
だが先程からのプロスの、『らしく』無い言い回し、言動に大きな何かがあった事だけは理解出来ていた。
そんな思考が顔に出ていたのだろう。
プロスはアキトの瞳を見つめながら、静かに口を開く。
「理由を知りたいですか?」
「……いえ、我々シーックレット・サービスは役員の護衛をするのが当然」
「建前はどうでもいいです。そして、今回の出向はシークレット・サービスの仕事によるものではありません」
アキトの建前を斬り捨て、プロスは今回の件に関するアキトの予想を否定。
『仕事では無い』と言われたアキトは、では何故自分が呼ばれたのか、不審を更に膨らませつつも次の予測を始めた。
そんなアキトの胸中を知らず、プロスは再び口を開く。
「君が長年探していた、ご両親の仇が自ら名乗り出てきたんですよ」
降って涌いた、恐らく最初で最後の機会。
初めアキトの胸中を占めていたものは、戸惑い。
幼い頃に奪われた両親の、仇。
今まで自身では何の手がかりも掴めずに、シークレット・サービスの仕事に携わっていればいつか機会が訪れるだろうとは思っていた。
だがここまで唐突に姿を現してくるなどとは予想していなかった。
そんなアキトの胸中を他所に、プロスは簡潔に今後のスケジュールを述べ、アキトは言われるまま地球行きの準備を行う事しか出来なか
った。
そして今、アキトとプロスは着々と地球へと近づいている。
「怖いですか?」
地球へ近づくにつれ戸惑いは消え去り、今度は不安が首を擡げる。
日々膨らんでいくそれを抑える胸中を備に察知したプロスが、ガンオイル片手に銃のメンテナンスを行うアキトに問い掛ける。
声に反応し一瞬腕を止めるも、すぐにメンテを再開しながら、アキトが吐き出した。
「怖い……。そう、かもしれません。漠然とした何かに、押し潰されてしまいそうで」
ゆっくりと話しながら分解した銃を組み上げる。
何かに集中していないと言葉通り潰れてしまいそうなアキトに、プロスはそれ以上声をかける事は出来なかった。
黙々と分解と組立を繰り返し、一つ一つ用意してきた装備に手をかける。
その様子を見守るプロスの前で、最後の一丁が組み上がった。
静かにグリップに手を這わせ、握り心地を確かめる。
一つ、握る手に力を込めアキトは呟く。
「でも、それだけじゃない。そう……それだけでは、ない」
言葉と共に吐き出される思いと、顕になる感情。
ゆっくり、ゆっくりと刃を研ぎ澄ます鋭利な精神。
瞳の奥に映る黒い炎に、プロスはやはり何も言えず。
沈黙が支配する室内に、大気圏突入の報が響き渡った。
港に着き入国手続きを済ませると、プロスに先導されロビーへと出る。
手続きの際「ようこそ地球へ」などと笑顔を向けてくる審査員の言葉に馬鹿馬鹿しさを覚える。
楽しむ為に来た訳では無い。
こんな事が無ければ来る機会などあったはずも無い。
自分が来た理由――――復讐さえ果たせれば、こんな所など。
ある種地球に対し敵対心、敵気心に似た思考を浮かべながら、先導するプロスの後を追う。
船旅中に必要な着替え等の荷物は港に預けてあり、持っているのは装備の入った鞄一つ。
荷物チェックをパスした二人は、ロビーを抜け正面出口から港外に出て行った。
空が火星よりも高い。
気温が火星よりも暑い。
空気が火星よりも汚い。
初めて味わった地球の大気。
さりとて、アキトに何か感慨を抱かせる事も無い。
生まれ育った火星との違いを肌で感じ取りはするが、心には染込まない。
彼の中には唯一つ。
「覚悟は、いいですね」
「――はい」
先導するプロスに答え、無意識に拳を握る。
問いの言葉をやり過ごし、用意された車へと乗り込む。
覚悟とは何か。何の為の覚悟か。
知りえるはずのない答えを問うたプロスの表情は、曇っていた。
車に乗って小一時間。
アキトは容易く目的地へと誘われた。
地球に住む者なら誰もが知っている大病院。
現代医療の最先端をひたすら突き進む、日本初の企業出資によって創設された総合病院。
その玄関口に、アキトはプロスと二人、立っていた。
「……プロスさん?」
隣に立つ、幼少時から知る少年の困惑を色濃く浮かべた表情を見ても、プロスはその仮面を崩さない。
「とにかく、ついてきて下さい」
一言だけ告げ、まるでアキトの困惑を無視して中へと入っていく。
今のアキトには、プロスの後を追う事しか出来ないのを理解した上での行動だった。
少々乱暴な行動ではあるが、それも致し方の無い事。
アキトと同じように、今のプロスには精神的な余裕など欠片程も無かった。
病院の受付で二、三言葉を告げたプロスは、アキトを伴い沈黙を保ち病院の奥へ向かった。
そこへ待ち構えていたのは、明らかに格闘訓練を施された大柄な男二人が囲むエレベータ。
その男二人が自分達に近づくのに気付き一歩前へ出ようとしたアキトだが、プロスに手で制され沈黙を保つ。
やがて、二人はプロスの前に立つと自身の胸元からネルガルの社員証を提示した。
「お待ちしておりました。こちらへ」
「ご苦労様です」
プロスは会釈程度に頭を下げ、二人に誘われるままエレベータ内へと歩いていく。
その背後に、困惑の度合いを深めながらアキトも続きエレベータへと入った。
これまでの行動で、二人の正体が自分と同業である事は理解したアキトだが、何故自分がこのような所に居るのかが理解出来ない。
両親の仇を討つ為地球まで来て、居場所を知るプロスをひたすら追い、今は病院のエレベータで同業者に囲まれている。
この病院に居る事が仇と関係があるのか、それすらも判らないまま、アキトはプロスを追うしか無かった。
アキトとプロス、ネルガルのSSを乗せたエレベータはやがて上に向かい、静かにその箱を動かす。
「……状態はどうなのですか?」
「我々の口からは、そういった発言は許されておりません」
「そうですか……」
アキトからすれば理解出来ない会話。
しかしこの場の大人三人は理解し、簡潔な言葉のみで情報を交換していた。
後に訪れたのは、重苦しいまでの沈黙。
その中でアキトは更に困惑を深め、プロスに対し不信感すら湧き上がらせてきていた。
自分の目的とプロスの目的。
火星出立時にプロスは細かい事は何も言わず仇の事のみを告げ、自分に同行するように告げてきた。
もし仇の事が自分を釣る餌で、プロスの目的が自分を同行させる事のみであったなら。
考え始めるとまるでそれが真実であるかのように思えてくる。
だが下手な思い込みというものが、様々な場面で状況を悪い方へ流していく事も、アキトは理解している。
結局彼は考える事を止め、不信感を募らせながらもプロスに付いていく事を選んだ。
四人を乗せたエレベータが止まったのは、病院の最上階。
開いた扉の先には、やはり明らかにアキトの同業者と思われる大柄な男達が廊下を見回っていた。
彼らは開いたエレベータの内部へ視線を数瞬向けると、まるで興味が失せたかのように廊下へと視線を戻す。
いつ、いかなる事態が起こってもおかしくない。
そんな緊張感を漂わせた男達が、この階の張り詰めた空気を生み出していた。
「こちらです」
先に下りた男の一人がプロスを先導する形で前を歩き、もう一人の男がアキトの背後を歩く。
護衛されつつも監視される立ち位置。
だがアキトは、理由は判らないが男達の雰囲気から何かを感じ取り、文句を言うことなくプロスの後を追う。
やがて辿り着いたのは、病院という場所には不釣合いの大仰な扉。
重厚なその木製の扉の両側を守るように、やはりネルガルのSSであろう男二人が静かに立っていた。
先導した男が見張り番だろう男へ話しかける。
「中へ二人を通せるか」
「ナガレ氏からの許可は出ております。……荷物は全てこちらで預からせて頂きますが」
見張りの男はそう答えながら、アキトの持つ大きな鞄を見る。
手荷物の無いプロスは黙って両手を挙げ、男二人の前へと歩み寄った。
彼の行動に渋い顔を浮かべたアキトだが、どうしようも無い状況に諦めを浮かべ鞄を背後の男に手渡し、プロスと同じく両手を挙げる。
鞄を受け取った男はその意外な程の重量に一瞬驚きを浮かべ、それを見張りの男に手渡すとアキトのボディチェックを始めた。
まず胸元を確認した所で、すぐに硬い感触を覚え、やはり驚きを浮かべる。
アキトは男の表情を見てから上着を脱ぎ、その両脇に下がっているホルスターから銃を抜き取り、二挺一緒に手渡す。
その後も腰から一挺、足から二挺の銃を渡され、最後につけていたベルトのバックルから取り出された『返し』のある両刃のナイフを受
け取ると、男達は渋い顔を浮かべながらボディチェックの終わったプロスと一緒に室内へと通す。
「……何かあったら、すぐに連絡を。チャンネルの設定を再確認しろ」
「了解」
背後から聞こえる明らかに自分を不審者として意識した発言に、アキトは渋い顔をするしかなかった。
室内は入り口の扉が表していた通りの様相をしていた。
豪華な家具、広々とした空間、高価な美術品が所狭しと並べられている。
そんな中で一箇所だけ、異彩を放つ場所があった。
病院であれば当然の事なのだが、この空間では一際目立つソレ。
部屋とマッチした豪華なベットに眠る、様々なチューブ、電極、機械に繋がれた人間。
心電図が鳴らす弱弱しい機械音と強制的に酸素を送り込まれ、排出される音だけが響く空間に、ソレが存在していた。
「……空港での言葉、覚えていますか?」
唐突に、何の脈絡も無く告げたプロスに、室内の異様な空気に気圧されていたアキトが困惑顔で沈黙を返す。
だがプロスは、自身の問い掛けを忘れたように足を動かし、ベットに眠る人間へと近づいた。
無意識に、自然とプロスの後を追うアキトは、その視線の先の人間が老い先短い老人である事に気付く。
そして、彼が男であり、もはやただ『生かされている』だけの物体であるという事にも。
「この方は、変わり果てては居ますがネルガルの会長です」
プロスの答えは、アキトの予想通りのものだった。
こんな大病院で明らかなVIP待遇を受け、ネルガルのSSが数多く張り付いて守護するような人物など限られている。
判りきっていた答えだが、アキトの中で一つの疑問が浮上する。
現在の状況やプロスの発言によって老人がネルガル会長である事は間違いないだろうが、その会長は確か、未だ60代手前のはずである。
つい最近も新聞や雑誌、ネットワークの中で顔を見る事があったが、目の前の人物のような老人では無かったはずだ。
だがプロスは、彼のそんな疑問に答えを提示する事無く話を進める。
アキトにとって、より重大な方向へ。
「そしてこの方は、君にとって最も憎むべき人間です」
「…………は」
躯が、震えた。
プロスの言葉で全ての合点がいった。
火星出立前の言葉、空港到着時の『覚悟』、何故自分がここに連れてこられたのか。
アキトの想定していなかった、アキトにとっての最悪の答え。
自分の能力を売り、自分に復讐の力を与え、自分を生かしてきたネルガル。
その頂点に君臨する男。
その人物こそが。
「――貴方から両親を奪い、私から友人を奪った事件。テロリストなどでは無く、この老人こそが、事件を企てた張本人です」
プロスの断言に、アキトの心臓は、大きく鼓動した。