<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

ナデシコSS投稿掲示板


[広告]


No.303の一覧
[0] Re:Union(仮題)[tatsu](2006/05/06 04:54)
[1] Re:Union(仮題) - Prelude/Before Catastrophe[tatsu](2006/05/06 23:08)
[2] Re:Union(仮題) - First Movement/Nergal[tatsu](2006/05/10 00:09)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[303] Re:Union(仮題) - Prelude/Before Catastrophe
Name: tatsu 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/05/06 23:08
◇◇◇◇◇

女神は、たった一つだけ願いを叶えよう、と語りかけた。

◇◇◇◇◇

少女は漂い、世界を見つめる。
それが必然。
それが義務。
何故と考えることはタブー、であるはず。
それが制約であり前提条件であるならば、何も考える必要がない、はず。
セカイとは前提条件に区切られた箱庭なのだから。
だからそのメタを考える必要はないのだ。
セカイは完結し、それ自体で成り立つのだから。
だから、尾を食む蛇というのは言い得て妙だと、益体のない思考。
統制されているはずの思考領域の中で、少女は漂いながら冷静に状況を把握していた。
例えどんな制約を与えられた世界にいたのだしても、そして、どんなに制限を加えようとはしても、結局のところ思考までは縛れないということなのだろう。
コントロールを行うことなどできはしない。
それと決めれば世界の枠組みすら超えることのできる、”それ”を何が縛ることができるというのだろう?
だがしかし、少女はそう思考することの空しさに気づいてもいた。
セカイ自体が縛られているのならば、いずれ思考もその枠組みの中のものとなってしまうだろう。
人間の適応能力とはそういうものだ。そしてパラダイムという概念はそれであるが故に意味を持つ。
それは不条理ではあったが、”大局”に影響はないものでもあるため、甘んじて状況を受け入れた。
打破する方法は、なくはない。
自分が積極的に動けないというもどかしさは抱えていたが、概ね問題はなかった。
時には、待ちも必要だ。
押してだめなら引いてみろ、とは誰の言だったか。

―――結局、やれることは全部やっておいた方がいいのよね。

そう心の中で―この空間では物理的な制約上発声できない―呟き、意味もなく上を見上げた。
メタな思考は人間を上向かせる。
其れが故に躓くこともまた事実ではあった。


◇◇◇◇◇


―――世界が砕ける。ガラスのように、壊れることが定められたジグソーパズルのように。
人が、街が、世界が、文字通り砕け散りそして後には・・・。
後には、何が?
疑問。けれど疑問は解消されることなくそのまま彼は目覚める。

その夢は彼が子供の頃から何度も観ている夢。
全て同じ筋書きの夢。自らが疑問に思うことすら定まっている、明晰夢のような妙な夢だった。
だから、驚くほど冷静に彼はそれを見続けている。
”そうなる”と分かりきっているものに驚く必要はない。
その引き換えといってはなんだったが、彼は自分の想定外の事態に非常に弱かった。
それが彼の常態の押しの弱さの所以である。

―――だって人ってみんな想定外なんだよなぁ。

とは、彼の談だ。
彼―――テンカワ・アキトは分かっていることには強く、分からないことには弱い。
端的に表現すればそんな人間だ。
ということはつまり、移ろい行く世界の全てに対しておっかなびっくり生きている、そんな人間ということだ。
それは彼の生い立ちに由来するものではあったが、その生い立ちを鑑みたときに現在の性格になったということはよかったと評するべきなのだろう。
完全な人格破綻者となってもおかしくはなかったのだから。

大して目覚めのよくない彼の目覚め。
しかし何も変わるところのなかった彼の生活ではあるわけで、だから朝起きたときに彼はほっと一息ついた。
今日も変わらない。
明日も変わらないで欲しい。
そうは思うが、しかし、世界は流転するのだ。
世界はつねに選択をせまり、可能性が積み重なり、まわっていくものなのだから。
寝癖のあるぼさぼさの頭をがしがしとかき回すと、彼は大あくびをした。
今日も平和だ。少なくとも今時点では。
だから、とりあえずはそれに乗ることにしよう。


◇◇◇◇◇


その少女にとって、世界とは何か?
単純だ。
彼女にとって”世界”とは一人の青年であり、そこから広がることはない。
その世界を越えたところにある世界など、彼女にとって大して意味を持つものではなかった。
彼女にとっての世界を超えたところにあるセカイなど、宇宙の外側にある空間を思考するようなものだ。
つまりは、それだけ意味のないもの。

「アキトぉ、そろそろ起きてよ」

そう少女は呼びかける。
若干舌足らずのその言葉に、少女自身ちょっと萌えるものを感じていたが、あまり現状では重要ではない。

「起きてる、起きてるからもうちょっと待て」

扉ごしのその言葉に、確かに目覚めていることを確認する。
少女はいくらかほっとしてキッチンへと戻った。
たまにアキトは声を返してきても実際は寝ていることがままあるので、安心はできないのだ。
其れが故に彼女は青年の声の様子から覚醒状態を図るというありがたいのかどうなのかよく分からない能力を身に着けていた。
とてつもなく局所的にしか使用できない能力であり、何事につけても汎用性を尊ぶ彼女のポリシーからは外れたものだ。
しかし青年のことをよく理解しているから備わる能力だ、という甘美な属性を持っているには持っている能力であり、そこに彼女はジレンマというかアンヴィバレンツというかそんなものを感じていた。
ちょっとるんるんな気分で少女はキッチンに向かい朝食の準備をする。
桃色の少し長めの髪が翻った。
少女の名はラピス・ラズリ。
”瑠璃”という宝石の名を何故名前としたかといえば、その金色の瞳が理由なのだろう。
何を隠そう、名付け親はアキトだった。
しかし年のころは14、5の少女に19、20ぐらいの青年が名付け親となるとはどういうことか。
ありえなくはないが妙な構図ではある。
同居しているとなればなおさらだ。
しかしそういう状況も”ありえなくはない”といえばありえなくはないわけで、一概に非常識とはいえないのだった。
そもそも非常識という概念を論じるには、常識という概念を論じる必要がある。
「未だ生を知らず。焉んぞ死を知らんや。」の議論と同様だ。
常識を知らないものが非常識を語ってはならない。
あるゆる可能性がありえるのならば、そのような状況もあるのだろうと、納得はできるものである。
ただし、それを認識する各個人の価値観に依存はするのだろうが。


◇◇◇◇◇


しがらみとは、鎖である。

データを整理しながら、彼女はそんなことを考えた。
やることなすこと全てに制限がつく。
勿論それを見越しての就職だったはずではあるのだが。

ふと、知り合いの一人の青年の顔が浮かぶ。
時折プロスペクター経由で仕事を頼む彼は、ありとあらゆるしがらみを超越してそこに在るように見えた。
恐らくそんな深いことを考えてはいないのだろうが、しかしそれでもうらやましいとは思えるものだ。
無意識にそう自分の存在を確立させているのだとしたら、意識してしがらみを排除することよりもよりハイレベルなことではないだろうか。
結局のところ社会的生物であるところの人は、あらゆるしがらみから逃れられないのだから。
そんな思考は今を生きるには意味のないことだったが、考えずにはおれなかった。
そこまで考えて、彼女―――エリナ・キンジョウ・ウォンは、意味もなくため息を吐いた。


◇◇◇◇◇


彼が望んでいたことが何かといえば、別段大それたものではなかったのだ。
勿論スケールの問題はあるが、所詮人が何かを望む場合のそのルーチンは変わらない。
インプットが大きくなればアウトプットが大きくなるだけで、そこに至るプロセスは誰にとっても同じものだ。
だから、世界のほぼ全てをバックドア経由でとはいえ牛耳れるまでになった彼が望んだものは、それを越えたところにあるものだった。
それは決して不自然なことではない。
彼が望んだものは至極単純で分かりやすいもの。
世界の支配。
世界の文字通り全てを手に入れる。
それが彼―――アカツキ・ナガレが望んだことだった。

シンプルで分かりやすい。
それゆえに、真実味があった。
いまどきそんなことをはっきりと口にできる人間はいなかったからだ。

―――とはいえ、どこまでできるかということについては、自分でも興味深いところではあるのだけどね?

そう心の中で嘯く。
しかしながら。
世界を支配するとはどういうことなのか?
安易に考えたところでその安易な発想は実現できない。
実行するためにはその対象の具体的な定義が必要だ。
その定義のプロセスはビジネスのやり方とそう変わるものではない。
彼はその世界を支配するという行為を完全に定義していた。
行動の対象が定義されていれば、後はそれを実現するためのプランを構築するだけである。
事実プランは構築され、課題はあるものの問題の大半は片付いていた。

後は。
最後の駒を動かすだけである。


◇◇◇◇◇


彼女は一人闇の中微笑んでいた。
大体の駒と、状況は整った。
確かにあとは、駒を動かすのみである。
ただしそれは最後というよりは、最後の最初だ。
さて、最初に動かす駒は?


-続く-


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.023972034454346