7月15日 1330時(日本標準時)
ネルガル本社 ブリーフィングルーム
この日、バチストは苦悩していた。
「敵機との相対距離が50、相手が単分子カッターを装備している場合こちらがとるべき行動は?」
「加速して突っ込んで、相手より先に攻撃する」
「Dフィールドを展開、単分子カッターを受け止めて攻撃かな」
「………」
二人の、特に前者の回答にバチストは頭を抱える。
それを見たグレイは助け舟を出した。
「貴方はどう思う?」
「攻撃を回避して一旦距離を取ります」
その回答にバチストは頷きながら答えた。
「イオリが正解だ」
「え?」
「お前ら攻撃範囲の差を忘れてるぞ。単分子カッターだと最悪の場合相討ちになる」
「そ、そこはイチバチってことで」
「お前な…」
「Dフィールドがあるじゃないか」
「タクマ、Dフィールドは無敵じゃない。あまりフィールドの装甲を過信するな」
ここはネルガル本社のブリーフィングルームである。
バチストとグレイは新しいAS隊員相手に講義を行っていた。
新しいAS隊員は久我山タクマ、久我山セイナ、千葉ユウジ、浅野イオリの4人。
いずれもこの前の事件で保護した<A21>の人間である。
ユウジとイオリは、天河邸に忍び込みバッタに捕縛された二人だ。
あの後、NSSの尋問に口を閉ざしていた二人だったが、ベヘモスが破れ、<A21>が崩壊し、タクマとセイナも捕縛されたことを知り観念した。
聞くと二人はヘベモスのパイロット候補だったらしい。
しかしユウジはラムダドライバを操る適正はあったが操縦技術に問題があり、イオリは操縦技術はあったがラムダドライバを完璧に使いこなせなかったそうだ。
タクマとセイナは今更説明するまでもないだろう。
当初、敵側にいた人間をネルガル陣営に入れる。しかもAS乗りにすることに異論が唱えられた。
しかし、AS隊員が人材不足であったことと明人の『働かざるもの食うべからず』の一言により彼らは迎え入れられた。
―――のだが、
「ユウジ。接近戦で心がけなければならないことはなんなのかわかるか?」
「肉を切らせて骨を切らせる」
「それじゃやられっぱなし…」
「間合いを見極めることだと思います」
「セイナが正解」
「ありゃ?」
再びバチストは頭を抱える。
「ユウジ、貴方ね…」
「何だよ。ちょっと言い間違えただけだろ」
「そうじゃなくてその接近バカをどうにかしなさい」
「いいだろ!そっちの方が戦いやすいんだよ!!」
「いいわけないでしょ!!!」
「やれやれ…」
「貴方たちやめなさい!」
いつもユウジとイオリが喧嘩を始め、タクマは二人を見て呆れ、セイナが二人を止める展開になる。
「………」
セイナとイオリは優秀だ。タクマもヘベモスに乗っていた頃の癖が残っているが合格点を与えられる。
問題はユウジだ。接近戦に関しては頭一つ出ているが、射撃が大の苦手だったため、彼自身が接近戦でしか戦わなくなっていたのである。
ちなみにそのことを明人に報告すると『まるでガイだな』と笑っていた。バチストには何のことかわからなかったが、
「グレイ。班を代えないか?」
現在AS部隊は2班に分かれていた。
バチスト班とグレース班、簡単に言えば男と女に分けているのである。
「却下」
「ヒデェ…」
バチストの苦労をまだまだ続く。
同時刻
ネルガル本社 会長室
明人はある報告書を読んでいた。
「………」
武知征爾。
<A21>を創った人物である。
明人はこの人物についてダッシュに調べさせていたのだが、そんな人物の戸籍はどこにもなかった。
「偽名か」
セイナ曰く、世界中の紛争地帯を渡り歩いた日本人の傭兵………らしい。
明人はセイナとのやり取りを思い出していた。
事件後 病院の一室
「武知征爾ね…」
「貴方も彼を愚かだと思うの?」
「君の話だけじゃなんとも言えないな」
「………」
「ベヘモスも彼が?」
「ええ」
「嘘はやめろ」
「嘘じゃないわ!」
「…本当か?」
「ええ。彼はすばらしい人間よ」
「……。君の目的は復讐か?」
「そうね。でも、もう終わったわ」
「…君の話には疑問点がある」
「何?」
「ベヘモスは武知征爾が持っていたと言うが、どうやって調達した?」
「そんなことは私も知らないわ」
「一介の傭兵はあんなものを調達できない」
「……嘘」
「これがサベージなら問題ない。だがあんなAS世界中探したって存在しない。どんな傭兵だろうと一個人で手に入れられる物じゃないんだ」
「そんなはずないわ!現に彼は持っていたのよ!!」
「そう、持っていたんだ。だからこそ君の『傭兵』という言葉では説明がつかない」
「………」
「君は気づいてたんじゃないのか?武知征爾に何かの組織が付いていたことを」
「………」
「俺は君の目を昔見たことがある」
「え?」
「恋する少女の目だ」
「なっ!!」
「都合の悪い所を見たくなかったんだろう」
「ちがっ!」
「だから仲間に言えなかった。そして自分自身の記憶からも消そうとした」
「わ、私はっ!!」
「真実は時に残酷なものでもある」
「………」
「俺は武知征爾は生きていると思う」
「!!」
「彼には何らかの組織が付いている。自殺したとは思えない」
「………」
「この件はネルガルも独自に調べるつもりだ」
「………」
「強制はしない。武知征爾に会い、真実を知りたいならネルガルに入れ」
「…少し考えさせて」
後日彼女はネルガルに協力することとなる。
明人は天井を見上げながら自問する。
武知征爾の背後にいる組織とはなんなのか?
ミスリルのような組織が他にもあると考えるべきだろう。
そして回収したベヘモス。
機体に搭載されている装置はラムダドライバと言うらしい。
順安で戦った機体にも搭載されていた物だ。
そう考えるとかなめを拉致した組織と武知征爾の背後にいる組織は同じかもしれない。
いずれにしてもこの組織はラムダドライバの理論を理解し、ベヘモスのような機体を他にも所持しているだろう。
前回は相良が、前々回は自分が撃退したが次はどうなるかわからない。
「ラムダドライバか…」
明人は今後に不安を抱いていた。
あとがき(いいわけ)
どうですかね?
セイナ達が仲間になりました。
彼らの活躍は今のところ未定。
ちなみにこの話は某作品にインスパイアされたものです。
作中の彼らの会話を読めば(わかる人には)わかると思います。