その日、自分の不用意な行動の所為で艦内に侵入者を許し、ブリッジの人間全員が人質になった。
――艦の進路を変えてもらおうか。
答えは決まっている。常識からテロリストの要求を呑むなどありえない。
――お断りです。
それを聞いたテロリストは持っていた銃口を部下に向けると再び要求する。
――これでも?
脅されようが何をされようがその要求を受ける訳にはいかない。しかし……
――……取り舵。
彼女にとって部下の死はそれ以上に考えられなかった。
――よし。じゃあこいつは用済みだな。
ダンッ!!
銃声と共に放たれた弾丸は、そのままリャン一等兵の頭を貫いた。
――何故!?要求には従ったわ!!
――助けるとは一言も言ってない。
ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!
今度は三発。
全ての銃弾がマッカラン大尉の胸に飛び込み、鮮血が飛び散る。
そのまま糸の切れた操り人形のようにくずれおちた彼は、悲鳴も、罵りも、悪態さえもつかなかった。
9月11日 1030時(グリニッジ標準時)
メリダ島 テッサの部屋
「――――」
悲鳴にならない悲鳴を上げ、テレサ・テスタロッサは目を覚ました。
部下が無残に殺される夢。
前々から自分のミスで部下が死ぬ悪夢を見てきたが、今度は現実に起こった出来事が夢に出てきた。たとえ、自分の所為ではないにしても部下が死んだことに変わりはない。
リャン一等兵にマッカラン大尉。
普通の人間なら数十人も居る部下の事を一人ひとり覚えているはずがないのだが、天才的な頭脳を持つテッサは二人のことをよく覚えていた。
マデューカスはガウルンに占拠された後の死者が皆無だった功績を上げて自分を励ましていたが、それでも彼女はひどく気落ちした。
あの日の点呼で二人の名が呼ばれると『パトロール中』と言う言葉がかけられ、後は彼らの家族に見舞金が送られるだけ。テッサには遺族に手紙一つ送る権利すらなかった。
以来、彼女にとって頻繁に見る夢が増えることになる。
「酷い顔……」
充血した目、そしてクマ。
鏡に写る自分の顔は酷いものだ。
あの事件で<トゥアハー・デ・ダナン>は深刻な損傷を受けた。完全自立モードの無茶な使用、実用限界深度への強引な潜航、至近距離での魚雷の炸裂、格納庫内でのAS戦闘。そんな出来事の後の長時間の無音高速航走……。
その所為で昨日は夜遅くまで<デ・ダナン>の修理工事に付きっ切りだったのだ。
「でも落ち込んでなんかいられないわ」
ウィスパードとして、そして西太平洋戦隊の指揮官として彼女にはまだまだやるべきことがある。
彼女は今までのことを振り払うように自分に言い聞かせた。
「今日も頑張らな……」
グウウウゥゥゥゥッッ……
腹の音である。けしてイビキではない。
「……その前に朝食ね」
9月11日 1115時(グリニッジ標準時)
メリダ島 食堂
「やっほーテッサ。随分早い昼食ね」
テッサが腹ごしらえに食堂に着くと、其処には部下であり良い友人であるメリッサ・マオ曹長がいた。
「朝食です。メリッサこそこんな時間にどうしたんですか?」
「そんなの決まってんじゃない!」
マオは笑みを浮かべながら言った。
「男が入ったからよ!!」
「何ですかそれ!?」
とんでもない理由に思わず突っ込む。
「新しいコックが入ったの知らないの?」
「……そういえば今日でしたっけ?」
テッサは少し考えると、本日付で新しいコックが入ることを思い出した。
「自衛隊出身でしょう?」
飯がうまい――マオの自衛隊に対するイメージは、実戦経験が無い所為かこんなものだ。
ちなみに自衛隊はPKOの際、参加国の中で行われた戦闘糧食コンテストでも見事1位を取っている。
「たしかカスヤ上等兵です」
「うふふ。どれほどの腕か楽しみだわ」
二人はイスに座るとメニューを開く。
「あたしはこの特製ラーメンね!」
「ねえメリッサ……」
テッサはメニューを指差しながらマオに聞いた。
「火星丼とはどの様なものなのでしょう?」
あとがき(いいわけ)
日本も優勝したので続きを投下します。
そういや一ヶ月ぶりでしたね(^^;
さて明人君は何所に居るのかな?