急いで部屋を出ようとする二人だがドアノブに触る事ができない。
何故なら自分達が立っている所と扉の間になにやら壁のようなものが張られていたからだ。
「これは……黒いASが張っていた障壁か……」
ディストーション・ブロック。かつてウリバタケが開発したディストーション・フィールド(DF)の応用である。
その正体に真っ先に気付いたのは宗介であった。順安において宗介は明人が乗っていた99式がDFを展開しているのを目撃しているためだ。
「マオ、退け!」
宗介はグロック19を引き抜くと扉に向かって発砲するが、弾丸は全て弾かれてしまう。
「ダメか……」
「もう一つの扉から出ましょう!」
反対側にある扉に駆け寄り、ゆっくりとドアノブに手を近づける。先程と同じようにDFの事が一瞬頭を過ったが何事もなく触れる事ができた。
宗介は扉を開けると、赤外線ゴーグルで周囲を警戒し慎重に部屋を出る。
「よし。行くぞ」
二人が部屋から飛び出した瞬間、またもや地響きのような音が辺りに鳴り響く。
「何!?また吊り天井?」
「……同じような音だが……違う!!」
マオの言葉に宗介が否定する。
その音は次第に大きくなっていき、よく聞くと吊り天井の音とは微妙に違っていた。
地響きと言うよりは“何かが転がるような音”である。
「まさかね……」
嫌な予感がしつつ、マオはふと後ろを振り向いてみるとその予感通りに、“巨大な岩の塊”が転がってきた。
「走って!!!」
通常、六本木ヒルズのようなビルの中に仕掛ける罠といえば、赤外線センサー、監視カメラ等である。数々の戦場を渡り歩いた二人にとってもその考えは変わらない。そのビルの中を大岩が転がるなどとは微塵も思わなかった。
“岩”は、問答無用で二人に迫る。まるで大学教授で考古学者の人物を追っかけるような勢いである。
「コレ絶対に映画を見て感化されたでしょ!!!」
「何の話だ!!!」
分かる人にしか分からないネタを叫びつつ二人は走ったが、今度はなんと目の前の通路の床がパカッと開いた。
「なっ!!」
「落とし穴あぁぁぁっっ!!!?」
明人の斜め上をいった思考に困惑しつつ、二人は穴の中に落ちていった。“岩”も一緒に――
同時刻
天河邸近辺
そのビルの屋上で一人の男が双眼鏡を片手に天河邸を眺めていた。クルツである。
クルツは一人で天河邸を見張るように言われていた。
「だいたいテッサが一人で家にいるわけねーだろうが」
明人は会社、ラピスは学校に行っているのは確認済みだった。第三者がいる可能性もあるが現在の天河邸には明かりは点いておらず、誰かいるような気配はない。高い確率で無人なのである。だからと言って持ち場を離れるわけにもいかないのだが……。
「……帰っていいかな……オレ……」
言いながら何度も見た天河邸をまたもや双眼鏡で覗き見ながらヒマを持余していたのだった。
「いや、帰るのはまずいな。姐さんにどやされる……」
『ナンパして来れば~』
「またここに戻らなきゃならん。二人が戻ってくる事を考えると2、3時間ってとこか?お茶ぐらいしか楽しめねえよ」
その提案にクルツは双眼鏡を覗きながら返答する。
『それだけでも十分じゃん』
「ダメダメ!最低でもカラオケぐらいは行かないと」
お茶するだけでは物足りないらしい。
『じゃあ漫画喫茶!』
「この年になってコミックはなぁ……」
『メイド喫茶!メイド喫茶!』
「オレは秋葉系じゃない!!……ってオレはさっきから誰と話を?」
先程から聞こえる妙な提案に(やっと)気付き、辺りを見回すが人影らしきものはない。
あるのは周囲にある陽炎のようなものだけだ。
「……?」
その不自然な陽炎を見ていると、その中から4つ(×3)の赤く光る目が現れた。
『ヤッホー!!』
「うおっ!!」
ソレは最新の光学迷彩を装備したネルガル自慢の無人機動兵器であった。
ネルガル社
「吊り天井に落とし穴に……ここってジャパニーズ忍者屋敷?」
「マオ。さっきから一体何を?」
落とし穴から落ちた二人は無事であった。落ちた先にクッションが置いてあったため致命傷どころか怪我一つ負わなかった。
後から落ちてきた“岩”は仰向けになった宗介に直撃したが、触ってみるとその“岩”は発砲スチロールで作ったまがい物であった。岩が転がる音は効果音を使った演出(byダッシュ)なのだろう。
「ったく。天河会長はあたし達をコケにしたいらしいわ」
真面目な交渉を考えていたマオだが、ここまでされると馬鹿馬鹿しくなってくる。
「これからどうする」
「どうするって言ってもね」
頭上を見上げると落ちた穴が見える。3、4階の高さはあるだろう。
「あたし達は2階に居たから、ここは地下か」
二人は先程よりいくぶん広い部屋にいる。あるのはクッションと岩、そして扉である。落ちてきた穴は上れないので、扉から先に進むしかないのだが……。
「まるであたし達は天河会長が引いたレールの上を走らされてるみたいね」
マオはポツリとつぶやく。一方の宗介は扉を調べながら口を開いた。
「仕方があるまい。現状で俺達は後手に回っているが、大佐殿を助け出すには……」
「分かってるわよ」
テッサがこのビルにいるかどうかは分からないが、まず天河明人に接触しなければ先に進まない。
「開けるわよ」
意を決して扉を開ける。
そして二人は猫の群れが待っている闇の中へ入って行くのだった。
あとがき(いいわけ)
・・・微妙だorz