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No.319の一覧
[0] それから先の話[koma](2007/04/21 14:27)
[1] Re:それから先の話 第2話[koma](2007/04/15 10:35)
[2] Re[2]:それから先の話 第3話[koma](2007/04/15 10:41)
[3] Re[3]:それから先の話 第4話[koma](2007/04/21 07:30)
[4] Re[4]:それから先の話 第5話[koma](2007/04/28 05:47)
[5] Re[5]:それから先の話 第6話[koma](2007/05/19 09:18)
[6] Re[6]:それから先の話 第7話[koma](2007/06/02 06:10)
[7] Re[7]:それから先の話 第8話[koma](2007/06/23 06:44)
[8] Re[8]:それから先の話 第9話[koma](2007/12/01 11:26)
[9] それから先の話 第10話[koma](2007/12/01 13:32)
[10] それから先の話 第11話[koma](2008/01/12 06:54)
[11] それから先の話 第12話[koma](2008/03/15 22:54)
[12] それから先の話 第13話[koma](2008/06/21 00:35)
[13] それから先の話 第14話[koma](2008/09/05 23:45)
[14] それから先の話 第15話[koma](2008/11/15 11:51)
[15] それから先の話 第16話[koma](2009/03/12 21:07)
[16] それから先の話 第17話[koma](2009/09/20 02:35)
[17] それから先の話 第18話[koma](2009/12/12 21:44)
[18] それから先の話 第19話[koma](2010/05/10 19:04)
[19] それから先の話 第20話[koma](2011/01/22 23:09)
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[319] それから先の話 第11話
Name: koma◆81adcc4e ID:02602993 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/01/12 06:54
 大企業といえば誰もが思い浮かべる、地球圏に権勢を誇る企業のうちの一つがクリムゾングループである。
 なのであるが・・・・・。
 クリムゾングループの世間一般の評判は、実を言うとあまり芳しくない。

 その理由の第一として挙げられるのは、親族経営を続けるグループ経営陣への不満だろう。これはクリムゾン社内ですらも不満の声があると聞く。
 経営陣が世襲ということは、親族以外の社員の出世に限界があるということになってしまうからだ。

 しかし、今のところクリムゾンに経営体質を改善する気配はないようだ。
 経営トップが固定されているということが有利に働くこともある。血筋や家柄にこだわる人間は未だに残っており、その種の人間は大物であることが多い。クリムゾンがトップ企業であり続ければ、その経営職には箔がつき、それを世襲することでクリムゾン一族にも名誉が生まれる。そして、その名誉が更なる縁を生み出し、利益となり、グループは潤う。

 ところが、現クリムゾン支配人はシャロン・ウィードリン(2x)である。

 典型的な親族経営を執るクリムゾングループで、ウィードリンの彼女がどうしてトップに立っていられるのか。
 それを説明する必要があるだろう。

 もともと、クリムゾングループの跡継ぎと目されていたのは直系のアクア・クリムゾンだったのだが、彼女は既に後継者レースから脱落している。

 何故かというと、アクア・クリムゾンがアレだったからだ。

 彼女のアレっぷりは既にグループ内に知れ渡り、アクア本人ではなくその夫となる人物を見定めようというのが、議論の末に一致した親族一同の見解である。

 しかし、そうはいってもアクアが結婚するまでにグループを取りまとめる代表者は必要であるし、その役目を老体である会長にいつまでも委ねたままではいられない。ちなみに、アクアたちの父親もアクアと同じくアレなので脱落済みである。
 医学の発達したこの23世紀であっても、不老不死は実現の目処すら立っておらず、従って世代交代は必要不可欠なのである。

 そこで白羽の矢が立ったのがシャロン・ウィードリンだ。

 シャロンはアクアの異母姉妹である。
 アクアの父が男の甲斐性でもって作り出したシャロンは当初、クリムゾングループ内では取るに足らない存在であった。
 認知こそ受けているものの所詮は正式な婚姻関係から生まれた娘ではなく、また母親も頭脳明晰な才女ではあったが、その出自は取り立てて着目するところもなく、要するに普通の女だ。
 クリムゾンの家名を継いでいないことからも、彼女の一族内での地位を伺い知ることができる。

 これでシャロン本人も母親同様に常人の部類なら、クリムゾングループ内で意見が分かれることも無かっただろうが・・・・

 シャロン・ウィードリンは、とんでもなく頭がよい。度胸があって、そして野心があった。なおかつ、軽妙洒脱な麗人である。
 加えて運もいい。
 多くの美点を備えているシャロンではあるが、もしアクアが大きく見劣りするとしてもアレでさえなければ、シャロンはそのまま捨て置かれ、一族内で高い地位を得ることは無かっただろう。

 クリムゾン一族がアクアの代打を探しはじめたのも幸運なら、その目にとまったのも幸運であった。

 母方の血筋を見ればどうせシャロンは正式な後継者にはなれないのだから、とりあえず中継ぎとして一番優秀な彼女に任せようという意見がでたのだ。

 親族一同、この決断に至るまでには、さまざまなドラマがあった。暗殺があり、詐欺があり、脅迫があり、懐柔があり、買収があり、そして泣き落としがあった。

 その全ての駆け引きに勝ち、シャロンは今、支配人の座についている。



 幹部会議室に設けられた大画面モニターに映し出されているのは、いつものようなプレゼン資料ではない。クリムゾンの仇敵であるところのネルガル機動兵器が、クリムゾン製機動兵器ステルンクーゲルを思うさまに翻弄しているという、出席各位には実に腹立たしい映像が投影されている。

「以上が、統合軍から入手したネルガルの新型機動兵器の映像です。いかが?技術開発部としての見解を聞かせてください」

 シャロンの凛とした声が支配人室に響きわたった。
 女の美声の比喩としてよく「鈴を転がすような」と言われるが、シャロンの声はまさにその言葉が相応しい声である。声色の美しさは天性のものであり、またそれだけにとどまらず、よほど訓練したのだろう、低すぎずも高すぎもしない、緩急のついた聞き取りやすい声だ。

「この機体が本当にネルガル製であるならば、脅威です」

 起立し、淀みなく返答したのは、クリムゾン軍事技術開発部の部長である。開発の第一線から退き管理職となって久しい男だが、4半期に一度の学会にも欠かさず顔を出しており、最新技術の動向についても常に気を配っている、前線の気概を忘れないナイスミドルだ。
 一言で言うならば、技術開発部部長は有能だ。
 その有能な部長が「脅威である」と断言したのならば、それは真実、脅威なのであろう。シャロンはそう判断し、彼と認識を同じくしたことで自らの確信を更に深くした。

「詳しい説明をお願いします」

「この映像からまず推測できるのは、ネルガルはついに重力波供給に頼らない機体動力の開発に成功したということですな。黒い機体は増設電池パックを搭載したエステバリス2よりも仕事量がかなり多いようですが、エステバリス2が電力切れ寸前にまで追い込まれているのに対して、黒い方にはその兆候が一切見られません。資料には周辺宙域には重力波供給がされていないと書かれていますが、これは事実ですか?」

「ええ」

「では、この機体は従来よりも遥かに高性能なバッテリーを搭載しているのか、またはステルンクーゲルと同じく内燃機関を搭載したか、どちらにしても稼働時間を飛躍的に伸ばしていると考えられます。我が社のネルガルに対するアドバンテージが一つ潰されましたな」

 会議室の中に営業部長のため息がこぼれた。これまで軍への売り込み文句に使っていた「ステルンクーゲルの長時間稼動」というセールストークはもう使えない。何か別のトークを考えなければ・・・・・

「それにこの機体制御能力も新機軸です。側頭部から伸びた尻尾は、多間接のいわば蛇腹のようにしなって跳ね回っています。このブレードが機体に占める質量の割合は、映像から算出すると約3%。直進するだけならともかく、急制動時や旋回時には重心の位置が一定せず、既存の慣性制御機能では正常に機体を制御できないでしょうが、この機体はその状態でも全く姿勢が崩れていません。非常に高度なシステムを積んでいると思われます」

 確かに、と頷いたのは、クリムゾン総合計算システム室の室長である。大規模冷却装置を使って動かす超高性能計算機を運営するこの部署は、開発には携わってはいないものの、計算システム系に限れば技術開発部を超える職能を有する専門家の集まりであり、そのトップも例にもれない。

「これが単なるワンオフの試作品というのであれば話はまた違ってきますが、機体サイズがエステバリスとほぼ等しいということを勘案すると、製品化・量産体制確立までのロードマップができていると考えていいと思います」

 つまり、次のトライアルではこの黒い機体を基にした機体とコンペをすることになるかもしれないということになる。
 選ぶ軍側の視点に立って考えてみると、少なくとも宇宙軍はエステバリスの運用実績と整備経験を流用できる可能性があり、その点からもこの黒い機体は強力なライバルになる可能性が高い。

 技術開発部長はそこまで言って着席した。

「発言ありがとう。他に意見のある方は?」

 シャロンが促すが、皆、一様に押し黙る。

 3年前に成った木連との和平以降、クリムゾンは統合軍相手の商売で美味しい目を見てきたが、統合軍の勢力が著しく減退したことで先行き不透明な現状、ネルガルに開発競争で追いつかれたとなれば、未来に垂れ込める暗雲は誰の目にも明らかだった。

 だから、これからシャロンが告げようとしていることもなんとなくわかった。社員の解雇奨励だろう・・・・。退職金の削減とセットにして。

「危機感を持つのは大事ですが、それに囚われることはありません。我々もこの3年間、着実に実績を上げてきました。今日ここに呼んだのは、私たちは認識を共有すべきだと気づいたからです」

 人はシャロンの声を聞き、威圧感や圧迫感を覚えることはないが、かといって侮ることもない。シャロンの言葉には、決して無視することのできない存在感がある。

 意気消沈していた幹部たちは、それぞれシャロンに目線を送った。

「私たちの3年間は素晴らしいものでした。その実績は確かな利益として今、銀行で眠っています。私たちは自信を喪失することはありません。このまま勝ちに行きます。各部署の予算を減らすことはしません。社員の解雇もしません。社員の新規採用、中途採用を減らすこともしません。私たちは、これからも、この3年間と同じく勝てる企業であり続けます」

 具体的な方針説明など何もない、単なる精神論に過ぎないのだが、シャロンの言葉にはきっと裏がある。単に今は秘密になっているだけだろうということは分かるが、やはりそれでは信用できない。

 だが、ここに集まった幹部たちは多くの部下を抱えている。部下の下にはもっとたくさんの部下がおり、それぞれに養うべき家族がいる。
 熱い言葉で煽られてその気になるような青い人間はこの場に誰一人としていないが、社員を解雇しないというシャロンには漢を見出すことができた。
 この人を盛り立てていこう。

 会議室の温度がじんわりと暖かくなったところで、シャロンは解散を宣言した。
 これから幹部たちは各部署に戻り、ネルガルに対抗するため、それぞれの施策を考えることになる。

 続々と退席していく幹部たちを見送り、シャロンは一人会議室に居残った。

 もう一度映像を再生させる。黒い機動兵器は洗練された流れるような動きで飛び回り、12機もの機動兵器を一定範囲のフィールド内から外へ出さないように牽制している。
 たった一機で戦場をコントロールするという恐るべき離れ業を、火器を使うそぶりも見せずに実行し、超高難易度のテクニックを次々に披露している。
 以前に統合軍の航空ショーで見たことのある機動もあった。あれは確か、過酷な訓練を重ねたパイロットだけが、シナリオの決まった航空ショーという特殊な場面でだけようやく使えるというものだったはずだ。実戦で使える人間はいないという話だったのに。
 ・・・シャロンは思う。この機体の操縦者は、おそらくプリンスオブダークネスだろう。ネルガル子飼いで腕の立つ機動兵器操縦者は、テンカワと月臣の2人だけ。月臣は別の場所で所在確認が取れているので、必然的にこれはテンカワ・アキトとなる。

「遅かりし復讐者、私たちはまだ負けていない。負けるのは、3年前と同じく、貴方の方よ」






 時代は科学全盛の23世紀である。先進諸国が出生率の低下に悩んだのは遥か過去のこと。生めよ増やせよ地に満ちよ、人口は増加の一途をたどり、人口密度低減のために砂漠は緑化及び都市化され、月は居住可能地となり、太陽系内他惑星への殖民も開始されている。

 そんなこの時代、高度なAIによる作業の自動化と人口増加で分業が促進されたため、艦長という職業に期待される職能はかなり限定されてきていた。

 ズバリそれは、「部下にやる気を出させること」だ。作戦立案能力、作戦実行能力、ついでに執行能力はオマケである。

 まぁ、この状況も、ホシノルリやアオイジュンをはじめとする「部下をその気にさせつつ部下に仕事を丸投げしない有能な艦長」という存在が増えてきたためにだんだんと形骸化して、昔に回帰しつつあるものの、下士官および兵卒が場末のバーでぶち上げる「理想の上官」論では、未だに必ず最重要項目としてある項目が入れられている。

 それは何か?


 答えは「容姿」である。


 宇宙軍の士官学校の入学試験および卒業試験には、「容姿」という項目があり、水着審査ならぬ制服審査というものがあり、卒業した学校の制服あるいは軍服の着こなしを審査され、美形が選抜されるのであった。若くて美形の艦長の方がやる気が出るという理由だ。

 軍としては最重要項目として扱っているわけではないので、基本的には髪を短く刈って清潔にして、身長に対する適正体重プラスマイナス5kg以下であれば、「容姿」を理由に落とされることはない。

 あくまで部下にやる気を出させる一つのファクターに過ぎないのだ。だから、「容姿」審査は他のテストと違い、減点方式ではなく加点方式で採点される。他のテストでの失点をある程度は補えるのだ。

 ミスマルユリカはこの審査でもかなり上位の成績だった。
 ナデシコAが大気圏を突破する際に振袖姿で軍の高官たちと交渉していたのは、そのことが影響し、なるべく好印象を与えようと努力した結果だったのである。

 残念ながら逆効果だったが。

 ちなみにルリは容姿で歴代1位を取り、他の学科でも満点で首位を獲得していた。
 ラピスは・・・・・・・・・?


「静粛に」

 改めて言うまでも無く、教官が教室に入った瞬間から私語は止んでいる。生徒が私語をしないというのは民間の学校ではありえないことであるが、軍学校ではまず最初に叩き込まれることであり、それを破れば厳罰だ。
よって、世間的に言えば反抗期真っ盛りの10台の少年少女たちであっても、私語をすることはない。

 教官である軍曹が教壇に立ち、教室を見渡した。服装の乱れがある者無し。頭髪を着色している者無し。装飾品をつけている者無し。化粧をしている者無し。欠席無し。

 よろしい。一つ頷いた。

 合わせて訓練生のリーダーが号令をかけた。

「敬礼!」

 掛け声にあわせ、さまざまな人種の男女が入り混じっている訓練兵たちが一斉に起立し、指をピンと伸ばした手の平を額に掲げた。一糸乱れぬ統率である。なかなかに壮観だ。

「直れ、着席」

 教官の言葉に、訓練兵たちはまたもや一糸乱れぬ動作で着席した。

「今日は、中途編入の者を紹介する。編入試験の学科審査で失点無し。ホシノルリ大佐と合計得点で同点、歴代1位の才媛だ。粗末に扱うなよ」

 失点無し。そして合計でホシノルリと同点、つまり容姿でもホシノルリと同点。中途編入は特に審査が厳しい。それを満点で通過したというのなら、これはものすごいことだ。

 教室中に期待が広がった。才媛ということは女子だ。

 恋人がいない男子連中は、教官から見えない位置で、こぶしをぐっと握り締めた。容姿以外も満点ということだが、自分よりも優秀な女子ということに気後れする奴はいない。度量、という点も、部下にやる気を出させるための重要な資質だ。

 一方、女子も同期が1人増えることに喜んでいた。軍人という職が女に開放されて200年以上が経つものの、やはりこの業界は圧倒的に男が多いく、肩身の狭い思いをすることも少なくない。優秀な女が入ることは、女子全体の評判を上げることに直結する。

 恋人をとられるかも、などとは考えない。同期から恋人を選ぶのは最後の手段だし、それだってキープに過ぎないから関係ないのだ。何しろ任官したらバラバラになっていつ会えるかわからないし、相手も自分もいつ殉職するかわからないのだ。女子はその辺は現実主義だ。刹那的な逢瀬を望む男子が、同期の女子から恋人を見つけようとするのとは正反対である。

 とにかく様々な思惑が入り混じった静寂の中、浅はかなハイティーン男子の考えなどお見通しの教官は、にやけそうになる頬肉を口の内側から奥歯でかみ締め、ちょっと発音が不明瞭ながらも入室の許可を出した。

「入りなさい」

 入れ、ではない。あの教官が優しく声をかけた。ぎょっとする訓練兵たち。鬼軍曹と呼ばれるこの男のこんな声、これまで聞いたことがない。

 がらり。木製の引き戸が横にすべり、軍服に身を包んだ桃色の少女が姿を現した。
 訓練兵たちは、その瞳を見た。金色に輝くあの瞳は・・・・
 あれは、彼女は・・・・・?

「電子の・・・・妖精・・・・?」


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