金持ちの部屋とはどんなものか、想像できるだろうか?
誰でも思いつくのは、広くて綺麗だろうということだ。
では、他には?
たとえば純金の壷が窓際に置かれ、壁を飾るのは庶民の生涯賃金を軽くぶっちぎる絵で、毛の長い絨毯に精悍な体つきをした犬が優雅に寝そべり、寝台はいかなるプレイにも対応できる回転式の天蓋ミラー付きトリプルベッド・・・・とか?
金持ちはホテルのロイヤルスイートをワンフロア貸切に違いない、と思う人もいるだろう。ロイヤルスイートの快適さを知り、なおかつそれを常用できない人はこの考えに賛成するはずだ。
金持ちであればあるほどほど金にこだわらず、材質や災害対策以外には庶民よりも多少部屋が広いとか、その程度ではないか?と推測するのが流行ったこともある。そういう謙虚な金持ちは成金よりも少ないだろう。
アカツキの部屋はどれとも違う。
といっても、アカツキは基本的に会社で生活する人間で、実家がどこにあるか自分でも忘れてしまうような男だ。何しろ、持ち家がたくさんありすぎてどこが生家なのか特定するのは困難なのだ。
従って彼の家と呼べるのは、ネルガル本社会長執務室である。
ネルガル会長執務室は、一般サラリーマンの月給に匹敵する額を時給で受け取る超一流デザイナーが手がけ、成金趣味が排除されたシックでゴージャスでエレガントな部屋に仕上げられた。
しかし、使っているうちに主人の気質が反映されてしまったのか、どうにも貧乏くさいありさまになっている。
黒壇を加工した大きな机にはペンの痕跡がいくつも残っている。電話のメモを取る時に、筆圧が強すぎて机に跡が残ったのだ。あと、メモ用紙も端末も間に合わない時は、塗料ペンで直接机に書いたりすることもある。子供用学習デスクに匹敵する汚さだ。
机と組にして作られたと木製のイスは、飲み物をこぼしたせいで手すりが変色していた。この変色が実に巧妙なマーブル模様を描いており、これを目にした人間を、さすがは人間国宝の作品、と勘違いさせることしきりである。上流階級の人間といえど、見る目のない人間は山ほどいる。
応対用ソファーセットの脇に花瓶があるが、生けられている花に統一性はない。年がら年中いろんな筋からいろんな名目で花が贈られてくるので、それを適当に花瓶に挿しているだけだからだ。
あと、たまに水代わりに余った酒を注いでいるので、薄いアルコール臭が花の香りと混ざり合って漂い、わけの分からない空間を演出している。
隙間なく敷かれた絨毯は最高級ペルシャ絨毯で、ところどころホツレができていて少し見苦しい。おまけににそのホツレを修復しようと試みた形跡もあり、かえって美観を損ねている。エリナが裁縫の腕を見せようと頑張った時のものだ。エリナも実はあれでボタンの付け直しや雑巾を縫うくらいはできる女なのだが、一流職人が手がけた最高級絨毯の補修は、エリナには---各方面に配慮してここは「やや」としておくが---やや、ハードルが高かった。
アカツキの場合、要するに金をたくさん持っているだけで、その本質は他の人間と変わらない。ただ、金の使い方が資産に比例してでかくなっているだけなのである。
で、そのありあまる金を持ったアカツキが何をしているのかというと、地球圏のトップスターを自室に呼び寄せているのだった。
年若い青少年を熱狂させるテレビスター、歌って踊れて映画の吹き替えとかもできる元声優、特技は戦艦のオペレータというけっこう多芸な女(の子、とつけるには少々薹が立ちつつある)、メグミ・レイナードは、アカツキに呼び出されて所属事務所社長とマネージャーを伴い、アカツキの執務室の応接セットで行儀よく座っていた。
社長はいろいろと期待しているようだ。火星の後継者を議事堂で待ち伏せて生ライブを敢行したことに対する、あれこれの報酬が頭を駆け巡っているのだろう。
有頂天になっている社長は、メグミに向かって「もし求められたら拒否するな」と言い含めることまでした。今後の更なる栄達のため、ネルガル会長とねんごろになるのは悪くないと言うのだ。
馬鹿みたい・・・エリナさんだってついてるんだから、アカツキさんがそんなことするはずないのに。
アカツキ単独では信じられないという自分の思考を意図的に無視してここまでやってきて、いざ部屋に入るとエリナがいなかった。と、そこで唐突に気がつくのだった。
アカツキさんが本気だったら断れないかも・・・・
これまでそういう話が皆無だったわけではない。幾度となく、メグミには桃色遊戯のバーターがきていた。所属事務所の中にはその誘いにのってしまう若手も少なくはなく、彼ら彼女らの末路を見て、メグミは固く自らを戒めている。誘いにのった者は一気に視聴率トップ番組への参加を果たすのだが、しかし地力がないために人気は長続きせず、すぐに凋落し、消えていってしまう。一度落ちれば、這い上がるのは容易ではない。
顔を見なくなった多くの先輩後輩のうち、何人が犠牲になったのだろうか。
とにかく、メグミは何を言われたところでアカツキになびくつもりは無かった。それに、今のところ芸能業も順調だ。業界に20年30年と君臨するモノタミンなどの大御所には到底及ばないが、それでも人気絶頂のメグミに取引は不要である。
硬く決意を固めたメグミが背筋を伸ばして毅然とアカツキを見返すと、アカツキも普段は浮かべている口元の笑みを消し、ネクタイを締めなおした。
アカツキの様子を見て、メグミも思い直す。やはり妙な取引の話ではなかったのだ、と。
「悪いね。忙しいお茶の間のアイドルをわざわざ呼び出したりして。本来なら僕から出向くのが筋なんだけど、このごろちょっと忙しくてね。社長さんには無理を聞いてもらってありがたいよ」
最初から下手に出てきたアカツキに事務所社長は慌てて頭を下げた。
「とんでもありません、会長こそお忙しい中、わざわざ時間をとって頂きましてありがとうございます。聞けば会長とウチのメグミちゃんとは付き合いも長く友人同士だとか。今後ともウチのメグミちゃんをよろしくお願い申し上げます」
社長は如才のない笑顔を作り、わざとらしくメグミをプッシュする。商魂逞しい社長にアカツキは苦笑しつつも、機嫌よく応じた。
「もちろん、メグミ君とはこれからも公私共に仲良くやっていきたいと思ってる」
言ってメグミに向けてウインク一つ。
メグミは胸中で、公はいいけど私は遠慮します、と独白した。
社長は営業用の作り笑顔すら見せないメグミに業を煮やし、アカツキから見えないようにテーブルの下でメグミを突付いた。
メグミはにっこりアカツキに笑いかけた。
「ええ、ありがとうございます。ナガレさんもお忙しいでしょうからプライベートでは会えないでしょうけど、その分お仕事の依頼でしたらできる限りスケジュールを都合するようにマネージャーに頼みますね」
角を立てないように遠まわしに、プライベートでは会いたくないと要求するメグミ。普段とは逆に家名ではなくわざわざファーストネームを使うところが嫌味だ。
社長の広めの額に汗がぷつぷつ湧き出した。
「いやこれは手厳しい。何か誤解があるんじゃないかなぁ・・・」
顔を引きつらせ、アカツキは半笑い。
様子見程度で誘ってみたのだが、あっさり断られた。色男は引き際が肝心。
不自然にならないように、会話を繋げる。
「つまりね、この前のライブはネルガルからの依頼ということだったけど、今度は僕個人から仕事を依頼したいってことなんだよ」
ライブの時も思ったことだが、改めてメグミを観察すると彼女はずいぶんと綺麗になっていた。ナデシコに乗っていた時は薄い化粧しか見たことがなかったが、今では芸能界仕込みの技術がメグミを彩り、頭の形や顎のラインなどの素材のよさ(目や鼻はどうとでも誤魔化せる)を十全に引き出した、華やかな娘に仕上がっている。
つまり、実にそそる。
今日はここで一旦引いておくが、いずれは必ずプライベートハウスに招いてみせる。
アカツキは硬く決意し、ネクタイをちょっとだけきつく締めた。
「もちろん報酬を渋ったりはしないよ。こう見えても僕は金持ちなんでねぇ。ただ、拘束期間がちょっと長いのと、芸能業とは畑違いの仕事なんで君のキャリアにはあんまりプラスにはならないかも」
「拘束期間が長いとは、だいたいいかほどで?」
すかさず社長が尋ねた。
「そうだね、だいたい1ヶ月くらいかな」
1ヶ月が長いというのはアカツキの感覚だ。アカツキが話に伝え聞く芸能人のスケジュールは分刻みの秒刻みでハードなものだ。それを1ヶ月もの間拘束するというのはとんでもない話になると踏んでいて、しかしどうしてもメグミが必要なので報酬は弾むつもりでいる。
「アカツキさん、1ヶ月くらいだったら長い方じゃありませんよ」
たとえばシリーズもののドラマや映画の撮影ともなれば、1ヶ月どころか3ヶ月単位での拘束が一般的だ。粗製濫造される安物ドラマとなれば45分のドラマにつき撮影時間が5時間以下というものもあるが、メグミがゲスト出演したことのあるものは全て本格派のもので、ほんの少し出るだけでも2ヶ月も芸能業を休業した。
「内容によってはお引き受けいたしますが、CMの撮影でしょうか?」
CM撮影は実入りのいい仕事で、リスクも小さい。撮影は短期間で終わるし、映像露出機会も多くなり、俳優本人の宣伝にもなる。CM商品がヒットすれば「あの商品のCMをやっていた俳優」という形で覚えてもらえる。商品が売れなかった場合に俳優の演技が問われることもあるが、多くは商品そのものが市場ニーズに合っていなかったということで問題になることはほとんどない。
CMはうまい仕事だ。ぜひとも受けたい。
しかしアカツキの返答は期待したものではなかった。
「いや、CMの話じゃない。商業活動とは無縁の話かな。今回は」
落胆を禁じえないが、それを表に出すようではこの業界は務まらない。慌てる乞食はもらいが少ないともいう。
社長は先を促した。
「と申しますと?」
「ちょっとした計画があってね。まだ秘密にしといてもらえるかな?近いうちに公表されるけど、それまでは表に出すとまずい話なんで」
「もちろんですとも!」
ネルガル会長の秘密計画!
それは社長の下心を一気に燃え上がらせた。商売ではないというが、たとえば私的なパーティでゲストにメグミを呼ぶという話だろうか?となれば、きっとその席には政財界の大物が勢ぞろいだろう。
ああ、でもそれでは1ヶ月の拘束期間という条件に合わない。何か別のことだろうが、何にしろスケールの大きい話に違いない。
ニュースで目にする大物達と並んで談笑する自分を想像して、ついに自分も上流階級へのステップを踏み始める日が来たのか、と年甲斐もなく胸をときめかせた。
名刺を渡さなくてもいい身分。なぜなら相手は既に自分を知っているのだから。
社長は口がにやけそうになるのを頬肉を奥歯で噛み締めて必死で耐えている。
「メグミ君にやってもらいたいのは・・・・」
コツコツ。
軽くノックしたエリナは、失礼します、と断りながら会長室のドアを開けた。
「話になりません!お断りします!」
途端、中年男性の怒鳴り声が耳を直撃し、エリナは危うくお盆を落としそうになった。
内密の話で秘書たちを使えないということで、アカツキから茶を運ぶように指示を受けたエリナは、お盆にお茶を乗せて会長室まで来ていた。
落としそうになったお盆をなんとか持ち直し、部屋を見渡すと、確か今日の客だとかいう若作りのおっさんが立ち上がっていた。いい年をしているのに髪を青く染めて、ブレスレットやネックレスをじゃらじゃらとつけている男だ。気分だけは10代というところか。
「ジャーマネ君、お怒りはごもっとも。だけど、話を聞いてくれないかなぁ」
なるほど。ということは、立ち上がったあの中年はメグミのマネージャーということか。ネルガル会長を怒鳴りつけるとは、なかなかいい度胸をしている。
でも脅迫まで出来ちゃうアキト君には及ばないわね。
どうしても男となればアキトと比較するのをやめられないエリナであった。
「いえ、この話は聞かなかったことにさせてください。そんな、ウチのメグミちゃんをそんなことに・・・。社長からも断ってください!」
「ああ・・・うん・・・」
言葉に詰まる社長に脈がないと見たか、マネージャーは今度はメグミに詰め寄った。
「メグミちゃん、君だってこんな仕事は受けたくないだろ!キャリアに何にもプラスにならない!むしろマイナスだ。ファンのみんなだってがっかりするよ!」
「ええ・・・そうですね。アカツキさんがそんなことを計画してたなんて、夢にも思わなかったです」
メグミにはそれほど悪い仕事とは思えないが、やはりいろいろと問題のある依頼だった。芸能人にとって致命傷とは言えないまでも、決してプラスにはなりえない。
「粗茶ですが」
とりあえず言いたいことを言ったマネージャーが座りなおしたところで、控えていたエリナがお茶を置いた。お茶を用意する時間も惜しんだエリナが暇そうだったイネスに淹れさせたお茶なので、あまり美味くはないだろう。一応最高級茶葉なのだが、イネスはコーヒー以外は下手なのである。
「アカツキ会長。この件は一度、社内に持って帰ってゆっくり検討したいのですが」
リスクが大きすぎるが、引き受ければ借りが作れる。メグミがこれで潰れたとしても、メグミの後輩達はネルガルのバックアップを受けられるかもしれない。うまくいけば、上流階級とのコネも作れる。損得勘定するためにも、とにかく考える時間が欲しい。
「わかった。でも、あんまり時間はないんだ。遅くても数日で結論を出してくれ」
「はい。心得ております」
言って社長は出されたお茶を作法どおりにゆっくりと嚥下し、立ち上がった。
「ご馳走になりました。本日はお招きいただきありがとうございました。また後日、伺わせていただきます」
「うん。待ってるよ。それと、この前のライブのギャラは、そろそろ銀行振り込みされてるはずだ。帰りに秘書が振込み証明書を渡すことになってるから、忘れずに受け取ってくれたまえ」
ライブのことをすっかり忘れていた社長は、あっと口を開いて、慌ててありがとうございますと応じた。楽しみにしていた報酬を忘れるほど、アカツキの依頼に衝撃を受けたのだろう。
都合30分にも満たない会合だったが、社長はへとへとに疲れていた。
「では失礼いたします」
憤懣やるかたなし、といった体でいるマネージャーを引きつれ、ドアを開けて帰りを促すエリナに目礼し、社長とマネージャーは会長室を後にした。
2人と一緒に立ち上がるかと思っていたメグミは、そのまま座っている。
「あれ?メグミ君は一緒に帰らないの?」
ネクタイを緩めて、アカツキは問いかけた。
「はい。アキトさんに会っていこうと思って」
いるんですよね?ここに。
目で訴えかけてくるメグミに、アカツキは首を横に振った。
「いや、彼は長期休暇でここにはいない。しばらくはネルガルから離れてるってさ」
「もしかして、ユリカさんに会いに行ったんですか?」
であるなら、今日の用件は既に果たされたことになる。
そうあって欲しい。
胸の前で祈るように手を組み合わせた。
しかし、アカツキの返答は無情だった。
「彼女と会うつもりはないらしいよ」
「やっぱり・・・せっかくユリカさんを助け出したのに」
アキトが生きていて、ユリカの救出を計画しているというからこそ、メグミは統合軍襲撃を待ち伏せするような危険な作戦にも従事したのだ。2人とは紆余曲折あったが、とても大切な仲間だったから。それなのにいまだ再会ならず、とはメグミには納得しがたい。今日はそれをアキトに問いただすという目的もあるのだ。
「理由を知ってますか?」
「さぁねぇ~。彼女の検査が終わって落ち着くまで待ってるのかと思ってたんだけど、そうでもないみたいだし。あんなに熱心に取り戻そうとしてたのにね」
狂おしく求めていた女がすぐ手の届くところにいるというのに、アキトは会いに行こうともしない。エリナに遠慮しているという風でもなさそうだ。アカツキにはアキトの気持ちが理解できなかった。もはや2人の間には何の障害もないというのに。
メグミにもアキトの気持ちが理解できない。アキトを待っているであろうユリカが不憫で、それ故にアキトに対する憤りが沸いてくる。
一言でいいから、何かアキトに言ってやらなければ気がすまない。
「アキトさんはどこです?」
「砂漠を見に行くとか言ってたかなぁ。ルリ君のサポートもつけずに、一人でどっか行っちゃったんだよ。偽造だけど身障者証明手帳は渡してあるから福祉施設が使えるし、問題ないと思って送り出しちゃった。先に言っておいてもらえれば引き止めておいたんだけど」
サハラだかタクラマカンだかに行っているはずだ。なぜ急に出立したのかはわからない。ルリのサポートがなければ歩くのだって苦労する身なのに、あんな僻地へ行って何をしようというのだろう。
そして、ルリは同行を拒否した。
砂漠は遠すぎるし、砂嵐の電波障害でルリのリンクによる五感サポートも届かない。
出立間際に「チャンスは作ってやる」とアキトが儚く囁いていたのが、耳に残っている。
全く・・・・1週間や2週間テンカワ君と会えないってだけで、エリナ君やドクターが僕になびくわけないってのに。
あれはきっと自慢しているのだ。奪えるものなら奪ってみろ、と挑発しているに違いないのだ。それも絶対無理だとわかっていて言ったのだ。なんとタチの悪い男になったのだろうか、彼は。
「じゃぁ、後日でもかまいません。アキトさんに会わせてください」
「そりゃ僕はかまわないけど・・・・。今となってはネルガルとテンカワ君の雇用関係は解消されちゃってるから、無理強いはできないよ」
「アキトさんが会ってくれないって言うんですか?」
言われてみれば、その可能性もある。ユリカにさえ会わないというのなら、メグミに会う理由はなおさら無い。
「かもね。でももし断られても、僕じゃなくてエリナ君に頼んでみれば何とかなるよ、きっと」
それは不穏当な可能性を示唆する発言だった。
「エリナさんに?」
言って、メグミは初めて気づいたようにエリナに視線を向けた。
目を細めて、嘗め回すように、顔から足首まで採点する。
エリナがびくりと体を震わせた。
・・・・そうね、なかなか美人だし。考えてみれば3年ですもの。十分にありえる話だったわ。
でもだからって、エリナさん経由で約束を取り付けるのは筋違い。だってユリカさんのことなんですもの。
3年間には、ベッドで毛布をかぶっていても寒い夜くらいあったのだろう。それを責める気はしなかった。だがエリナに対しては、多少思うところもある。
「いえ、エリナさんには頼みません」
メグミの脳裏には、イネスのことが浮かんでいた。既に公の場に姿を現しているイネスには、比較的連絡をとりやすい。たとえアキトに断られたとしても、イネスに頼めば何とかなるだろう。彼女はアキトの姉貴分であり同時に妹分でもあるという稀有な存在だ。アキトも無碍にはできまい。
「そうかい?ま、気がかわったらいつでも言ってくれていいよ。それと、僕が頼んだお仕事の件も、前向きに考えて欲しいね」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
言って、メグミは社長たちを追い、会長室から出て行った。