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No.319の一覧
[0] それから先の話[koma](2007/04/21 14:27)
[1] Re:それから先の話 第2話[koma](2007/04/15 10:35)
[2] Re[2]:それから先の話 第3話[koma](2007/04/15 10:41)
[3] Re[3]:それから先の話 第4話[koma](2007/04/21 07:30)
[4] Re[4]:それから先の話 第5話[koma](2007/04/28 05:47)
[5] Re[5]:それから先の話 第6話[koma](2007/05/19 09:18)
[6] Re[6]:それから先の話 第7話[koma](2007/06/02 06:10)
[7] Re[7]:それから先の話 第8話[koma](2007/06/23 06:44)
[8] Re[8]:それから先の話 第9話[koma](2007/12/01 11:26)
[9] それから先の話 第10話[koma](2007/12/01 13:32)
[10] それから先の話 第11話[koma](2008/01/12 06:54)
[11] それから先の話 第12話[koma](2008/03/15 22:54)
[12] それから先の話 第13話[koma](2008/06/21 00:35)
[13] それから先の話 第14話[koma](2008/09/05 23:45)
[14] それから先の話 第15話[koma](2008/11/15 11:51)
[15] それから先の話 第16話[koma](2009/03/12 21:07)
[16] それから先の話 第17話[koma](2009/09/20 02:35)
[17] それから先の話 第18話[koma](2009/12/12 21:44)
[18] それから先の話 第19話[koma](2010/05/10 19:04)
[19] それから先の話 第20話[koma](2011/01/22 23:09)
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[319] Re[8]:それから先の話 第9話
Name: koma◆81adcc4e ID:7f27760e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/12/01 11:26
第9話

 既に統合軍の強行査察の予定は過ぎている。
 ネルガル社内はいまだ平穏を保っていた。
 ルリの電子掌握が順調である証拠だ。
 統合軍艦隊は完全にルリとヤゴコロの制御下にある。馬鹿正直に「貴方たちの艦はこちらで掌握しました」などとアナウンスはしていないので(アナウンスしたら公務執行妨害を自白することになってしまう)、原因不明の故障に統合軍艦隊内部は大騒ぎになっている。
 艦隊の全艦が制御不能という事態は、彼らがこれまでに遭遇してきたどんな異常事態よりも対処が難しい。どんなに調べても機械的にも電子的にも異常は見当たらないのに、制御が不可能なのである。
 右往左往する統合軍将校たちの姿を、ルリたちは艦内のカメラから盗み見ていた。
「うふ、くふふふ」
 不気味な忍び笑いを漏らしているのはエリナである。口元を手で隠し、ひじをかかえて背中をふるふる揺すっている。
 エリナに相応しい笑い方だ。モニター越しに見ていたルリは思った。
 イネスさんにも似合いそう。でも私には似合わない。よかった。
「みっともないわね。たかだか艦の制御が利かなくなったくらいで」
 あまりの言葉にアカツキがあんぐりと口をあけた。宇宙空間で艦の制御を失うということがどれほどの恐怖なのか、機動兵器パイロットでもあったアカツキには十分に想像することができる。何重にも入念に施した故障予防措置、バックアップ装置をものともしない完全な制御不能など、艦が沈む直前にしか経験できない。
 すなわち命の危機である。
「いやいやエリナ君。彼らは立派だよ。普通だったらパニックになってもおかしくない。さすが訓練を受けた軍人だけのことはある」
 各統合軍艦ブリッジでは各部署から殺到する報告を処理しつつも、ブリッジクルーが艦長からの怒号のような指示を受けつつ艦内状況の把握に努めている。艦内の生命維持に支障がないことはもうすぐ明らかになるだろう。そうすれば彼らも落ち着きを取り戻し、この異常事態に作為性を見出すはずだ。艦隊の全艦が同時に生命維持系統だけを残して故障するというありえない事態に、人為的な介入の可能性を考えられないほど無能ではない。
 とはいえ、気づいたところで彼らが電子掌握から自力で脱出するのは不可能だ。ホシノルリはそんな甘い相手ではない。このまま議会が開催される1週間後まで、ここで大人しくしていてもらいたい。なんならネルガルから差し入れだってしてもいい。秘書室の子たちに手作り味噌汁なんぞを持たせて慰問させよう。豚汁も捨てがたい。
「やれやれ、やっぱりルリ君に来てもらって正解だったね。あと1週間。無事に乗り切れるかな?」
 これで一息つけるか。
 しかしアカツキの甘い期待はあっさり裏切られた。
「熱源発生」
 ルリの報告に、一気に緊迫感が高まる。
「やはり伏兵がいたのか。規模と数は?」
「戦艦クラスで数は2。機動兵器と思しき反応が戦艦クラスから分離しました。数は、2、3、4・・7・9・・・12、12機です」
 機動兵器は通常4機で1小隊構成となる。戦艦一隻につき1小隊が基本戦隊なので、これは本来の収容規定数を超えている。。
「機動兵器3個小隊か。搭載限界ギリギリまで詰め込んだわけだね。すぐに掌握しちゃって。接舷された後に査察を拒否したら公務執行妨害になる」
 それに、もし査察を拒否した上にテンカワ君までつかまったら、ネルガルとテンカワ君の共犯関係を証明する状況証拠になってしまう。テンカワ君が逮捕された上にネルガルまで起訴されたんじゃ、踏んだり蹴ったりだよ。艦に接舷される前に片をつけないと。
「・・・・・戦艦2隻の掌握は完了。ですが機動兵器にまわすリソースがありません。これ以上は不可能です」
 ルリの横で、イネスが厳しい顔でモニターを凝視している。エリナは秘書室に通信を開いた。秘書室チームは、万が一のために裏帳簿などの重要機密データを隠匿するという仕事がある。エリナはしばらく手が放せなくなってしまった。
 まだ、まだ最悪の状況ではない。ここまではありうるという前提で作戦を立案してある。まだ大丈夫。
 手元のウィンドウを引き寄せ、アカツキはアキトへの通信を開いた。
「テンカワ君、聞いての通りだ。機動兵器12機、足止めをよろしく。火器の使用は禁止、ボソンジャンプも禁止だ。でも、君なら何とかなるだろ?」
 この条件で何とかできる奴がいるとしたら、それはもう目の前の彼を置いて他にはいない。
「やってみよう。イロクォイス、発進する」
「頼む。ルリ君、エアロック開いて」


 宇宙から舞台を移し、ここはラピスの住む豪華学生寮の一室である。
 ユリカを静かにさせた後、ラピスはずっと作業を続けている。
 話は変わるが、写映像の真贋鑑定技術の発達は、偽造写映像技術の発達とイタチごっこを続けている。
 コナン・ドイルも騙された妖精写真のような初歩的で素朴な偽造から始まり、銀塩ネガの時代のピント・露光調整やその他の技術、デジタル処理されるようになってからはもっと直接的なデータ画像加工技術も利用された。また、技術の進歩に伴い、素人でも扱える偽造技術が普及したということもある。
 これらの写真加工には悪意を伴う物もあれば、そうでないものもある。権力者自らが偽造写真を利用することもあれば、権力者が偽造写真によって追い落とされることもある。ネルガルが出資するシンクタンクの研究によれば、過去の政治スキャンダルの少なくとも4割以上は、こうした偽造写真が証拠になっていたという。もっと身近に、浮気調査やテレビスターの密会写真などなど、ゴシップ・スキャンダルに利用される頻度も高い。
 偽造技術の利用頻度が高いということは、被害者も比例して多いということである。いちいち映写像の真贋に踊らされるのは好ましくないと考える人々は、次第に増加していった。偽造写真の取り締まりが社会全体の要請になるまでに、時間はあまりかからなかった。
 映写像機メーカーがこの要請に応えたのが、ステガノグラフィーによる署名埋め込み技術や、物理シミュレータによる映写像そのものの検算である。映写像の真贋が社会的に問題になれば、メーカーがその映写像を鑑定して結果を公表する。報道機関がセンシティブな問題を扱う時は、必ずメーカーに真贋鑑定を依頼するのが慣習となっている。
 ちなみに、鑑定技術が特許出願されると内容が公開されてしまうためにこれらの鑑定技術は特許出願されず、従ってその全容は不明、各メーカーの秘匿事項になっている。
 鑑定用のツールは広く一般に公開されており、誰でも映写像の真贋鑑定をすることができる。疑わしきは鑑定せよ、の世の中である。
 また、セキュリティホールの詳細を非公開にすることを条件に、メーカーはセキュリティホール報告者に賞金を与えると公言している。これは賞金を餌にして多くの人間に技術を確認してもらい、それが破られないことを証明して信頼性を獲得するためである。暗号技術のテストでは一般的な手法と言える。腕に覚えのあるウィザード級たちが躍起になってこの真贋鑑定の穴を探そうとしているが、今のところは成功例は報告されていない。

 さて、そこでラピス・ラズリは考える。
 いかにしてこの鑑定技術を騙せばよいのか?


 機動部隊の戦闘開始からすでに1時間以上、経過している。
 相転移エンジンを稼動できたのは最初の10秒ほどだけで、それ以降は生命安全装置以外は全て停止状態に陥っていた。明かりが復旧したのはその5分後、通信は20分後、パッシブレーダーはつい先ほどだ。エンジンはいまだ再稼動不可である。
「ブリッジ、聞こえるか?まだ重力波供給は再開できないのか?!バッテリーだけじゃもうもたせられない!」
 統合軍エステ2パイロットの悲鳴がブリッジに木霊する。
 伏兵の2隻は艦内エネルギー発生を最低限にまで落とし、慣性航行でこの宙域にまで航行してきた。艦外の熱発散は極力抑えられ、パッシブセンサーのみの計器飛行、20世紀の「初めての月旅行」並のコストパフォーマンスでここまでやってきたのだ。それもこれも、あの忌々しいネルガルの探査から隠れおおせるためだ。この試みは隠れるという作戦の部分では完全に成功したが、姿を現した途端にトラブルで航行不能となった。原因は掴めていない。
 予定では戦闘開始後に即座に相転移エンジンを稼動させることになっており、問題が起きてエンジンを稼動させられず重力波を供給できなくなった場合に備えて、機動兵器には外装バッテリーも装備されていた。今まさにその問題がおきている。
 バッテリーに頼らない内部動力搭載のステルンクーゲルは4機しかない。残り8機のエステバリス2はすでに外装バッテリーを使い尽くして破棄済み、内蔵バッテリーも長くはもたない。時間切れは近い。
 試作カタログですら見たことのないあの機動兵器は、おそらくネルガルの物だろう。パイロットはテンカワ・アキトか、あるいは月臣か。12機がかりで戦っているのに、攻撃はかすりもしない。いまだ12機が健在なのは、あちらが攻撃してこないからだ。あくまで足止めのつもりなのだろう。
 重力波供給がない宙域で平気で稼動し続けているということは、あの機動兵器は新型の大容量バッテリー搭載型か、もしくはステルンクーゲルのように内部動力炉を搭載している機種と考えられる。このまま戦い続けても、相手の動力切れは狙えそうもない。
 まだエステ隊のバッテリーが残っているうちしか、勝機はない。
 有望な人材の全てが火星の後継者に参加したわけではない。奇襲隊のリーダーを務めるこの艦長も残留した優秀な1人。状況が把握できれば、即座に戦術を再構築できる程度には頭はまわる。状況を把握できなくとも最善の手を打てる人間を最上級とするなら、まぁ上級の部類ではある。
 しかし、悲しいかな。状況把握のために手間取ったこの30分。これが致命傷になるのだ。
「ステルンクーゲル隊は敵機を包囲して牽制と足止め、エステバリス隊は前進せよ。ネルガル機動兵器はこちらを攻撃できない。あれは無視していい。とにかくネルガルのドックに取り付いて、責任者に礼状を見せて読み上げろ、そうすれば後はどうにでもなる」

「動きが変わったな」
 火器使用禁止、つまり撃墜禁止。権力に対する敵対行為と取られないギリギリの範囲がそれである。
 アキトの操縦技術とイロクォイスの性能をもってしても、これは相当な難事だ。ルリも電子掌握にかかりきりで、サポートは期待できない。
 アカツキの出した条件を律儀に守り、アキトは統合軍に対する直接的な攻撃をしかけてない。急速接近から半径10m急旋回などのアクロバティックな機動で翻弄し、隙をついては腕をつかんで振り回して別の機体にぶつけるといった、無茶なことを続けている。
 難局だが、乗り切ってみせる。
 全機が一斉に前進をはじめ、ステルンクーゲル小隊がイロクォイスを取り囲む。
 一方、燃料に不安材料を持たないエステバリスはイロクォイスを無視して前進を続ける。
 残り少ないバッテリーで何をする気なのか。
「なんだ?」
 この動きは、アキトに対する攻撃を意図したものではない。操縦技術も機体性能もこちらが上であることは既に統合軍も理解しているはずだ。この状況で部隊を分けるということは、何か裏がある。
 ステルンクーゲルはイロクォイスを取り囲み、一定の距離を保っている。同心円に展開し、イロクォイスの動きに合わせてステルンクーゲルも位置を変える。かといって静止しているわけでもなく、めまぐるしく相互に位置を交換することでフォーメーションを断続的に組み替え、包囲突破の隙を与えない。個々のパイロットの技量はアキトに遠く及ばないが、チームとしての連携は及第点をつけられるレベルだ。
 サブウィンドウがピコっと効果音を出して出現し、そこからイネスが顔を出した。アカツキとエリナは秘書室の指揮をしており、ルリはヤゴコロと共に掌握の維持にかかりきり。手がすいているのはイネスのみなので、戦闘指揮及はイネスが行っている。
「どうやらこっちが攻撃できないってことを見切られたようね。統合軍はネルガルのエアロックに向かって真っ直ぐ前進してきてるわ。接触通信か、もしくは乗り込んで来る気かもしれない。阻止できる?」
「攻撃許可は下りるのか?」
「それは無し」
「では無理だ。40分というところか?何とかもたせた方だと思うが」 
 即答するアキトに、イネスは眉根を寄せた。
「イロクォイスはそんな柔な設計にはしてないんだけど」
 設計者としての矜持を傷つけられたのだろう。イネスは詰問口調で言った。
 アキトもイネスのこうした反応には手馴れたもので、威嚇射撃で牽制してくる4機のステルンクーゲルを軽くあしらいながらも、イネスのプライドをくすぐるように言ってやった。
「イロクォイスは設計者と同じく優秀だ。戦闘になれば5秒もかからん。だが攻撃禁止では包囲を突破することはできない」
「・・・・・そう、わかったわ。ではこちらは脱出を前提にして進めます。脱出時に合図をするわ。私はルリちゃんを連れてジャンプするから、貴方は単独で脱出を。今後の連絡は、ミスマル提督か会長を通すから」
「了解した」
「それから、ふふ、褒めてくれてありがとう。だから好きよ、お兄ちゃん」
 イネスはアキトの返答を待たず一方的に通信を切った。きっとあちらでは通信を聞いていたエリナと一悶着起きていることだろう。
 イネスは自分の好意を隠す気もないようだ。あからさまにアプローチしてくる。アキトも多少困惑しているが、不快には思っていない。
 昨日もエリナとうまく時間がとれなかったことでもあるし、これが終わったらイネスとのこと、真剣に考えてみるか。
 合図の後の脱出の段取りを考えながらアキトは想像し、一瞬、顔にぼぅっと紋様が浮かび上がった。


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