「木連火星自治区、木星連合国家の人間が住む自治区か。
当然として、軍施設の近くにあるからクーデターの可能性を考慮している。
軍事組織としての力は、80パーセントを殲滅したけど、残しておいた無人艦の影響でDFとGBでもって、駐屯軍は無効化できる。」
ラピスが多数のウインドウを展開して、自分に見せてきた。
久しぶりの視覚情報は、神経系列が然りと繋がっていないために、ちらちらとする。
「アキト、大丈夫?」
「神経系統が復活したばかりだからな。チャンネル設定が必要だ。」
IFS使用者が日常的に使ったチャンネル変更。
これがなければ、肉体とイメージの処理ができない。
手を握り締める。感覚的にチャンネルが変更されて、機体にリンクすれば実際の肉体は稼動しない。
稼動という単語を使う時点で、チャンネルの重要性と自分の立ち位置が人として曖昧だと自覚する。
「チャンネルの拡張は出来るはず。
あとで、イネスに診断をしてもらうといいわ。」
「ユーチャリスの姿とグラフィックは出回っているのか。」
久方ぶりの感触で、ブリッジシートに腰掛けていた。
肉体の再構成とやらは、一瞬だった。
情報入力でもって、自分の肉体構成を変更させることだったが、ジャンプで感じたのは違和感だった。起き抜けに霞がかった頭で認識する感じだ。
チューリップ化処理をした体には残っていた感覚が維持されていた。
鉱物になったというのに、内部では粒子が肉体を維持させている感覚。意識すれば、そのままでも生きていられたかもしれない。
もっとも、人として外れすぎだ。
人としての姿があってこそ、人であるが、姿かたちだけで人を定義することは出来ない。
「グラフィックは構成される前に破壊している。フィルタリングで画像データでユーチャリスを捕らえたものは、全て破壊している。
目撃者や大使の描いた絵には手をつけていない。
増設ユニットイータをオリンポス研究所で建造中。当艦は極冠遺跡に牽引プローブで船体を固定している。
多層DFは、ここにユーチャリスが来た時点で解除されている。」
「理由は。」
「遺跡に接続して情報精査した。可能な限りであり、要求される解読技術が未熟だけど。
ユーチャリスが他世界からの漂着として認識している。」
「というと、ここは過去世界ではなく、他の世界ということか。」
パラレルワールド、時間軸の異なる世界。
「他の世界というだけで、差異は今のところ発生していない。機械発達や兵器発達。人類の文化的進化に違いはない。」
「ということは、裏は残っているわけだ。」
「うん。」
ウインドウに人のバストショットが表示される。
いずれも年配の者で、軍属、政治的権威の人物だ。
「彼らは表に身を出さない。院政のように国家意思として指示を与える。
もっとも、現状で気に掛けないでいい連中だな。」
「彼らの情報を知りたがってるひともいるけどね。」
ウインドウ表示。口ひげを蓄えた男だ。髭はあまり似合っていない。
「木連大使か。彼には注目だな。」
「うん。木連人としては政治観念が強い。育ての親である祖父の影響と見られる。
前回の歴史でも大使として行動は起こしていたけど、暗殺されている。」
始まりの男と言うわけだ。だが、始まりの彼が生き残った。
境遇も大きく変化している。
だが、彼の採る行動は変わらないだろう。
その指針は。
「木連国民の生存だな。」
「何でも使ってくる。わたしたちに向かってくる可能性大。」
「それはそうだな、木連を破壊したのは俺たちだ。」