「未来において火星は停止状態に陥りました。
ひとえにナデシコCクルーが意識を保っていたのは、遺跡に直接接続したユーチャリスの指揮下に置かれていたからです。」
ルリをつれて二人は基地の、先ほどまで話していた部屋にとんぼ返りをした。
ルリはウインドウを複数展開して映像の解説を行う。
遺跡、火星の後継者に占拠された火星、ナデシコC、ユーチャリス、そしてイネスに託されたオーパーツ。
「遺跡に干渉したのならば、干渉した者の自由は確約される。遺跡は多次元知覚を可能とした生命体そのもの
が姿を変えた形。イネスは仮説として言っていたけど、私はそれが正しいと判断する。」
ラピスはルリの言葉を否定しない。
「多次元を知覚できる存在か。遺跡そのものが生命体と考えていいのか。」
アキトははじめて聞く内容だった。ラピスとルリは先刻承知の話題だ。
「イネスさんはこの場合我々も遺跡のコミュニティーに同化して遺跡の一部になることを考えていました。
ユーチャリスは現在この世界にありますね。」
「ああ、場所はいえないがな。」
「そして、ナデシコCもこの世界にあり、この世界に火星の後継者もいます。」
ルリは断言する。
ユーチャリスのシステム的下位にランクされたナデシコCは、そのランクを改訂すればユーチャリスをも凌駕する
電子戦闘艦だ。もちろん武装の面から言えばユーチャリスに物量でもって圧倒されるし、電子戦でイーブンに
持ち込めばバッタでもって攻撃可能である。
「後継者が、生きているのか。」
「あの状態を生きているのだと解釈できればいいのですけどね。
行動を起こせたのはナデシコCのクルーたちだけでした。
後継者のトップはラピスが吹っ飛ばしたのでどうなのかは知りません。
それでも、死者すらもよみがえらせる可能性に、私達は直面しています。」
イネスの講義がウインドウの中で極小展開する。回りくどく遺跡のシステムに解説してその生態系に金属と有機物の
混合したものと考察した後に、仮説であるので判断はつかないと言う。
そして、時間移動のボソン・フェルミオンの仮説に入った。もちろん、早送りなので聞き取りは不可能。
イネスは仮説として時間の経過に関して言及している。
「先進波と遅延波に影響を受けないボソン粒子だけど、時間を移動する選択肢は複数ある。
過去に行く場合において整合性を得るために、並行世界へと接続を開く方法。
自分の存在する世界の過去へと向かう方法。
そして、もう一つある。世界そのものを過去に整合させた過去に回帰させる方法。」
三つが全て異なる選択肢は、世界を変容させる内容だ。
ルリは鎮痛に思う。選択された結果に、この不安定な世界があることへの不安を嘆く。
「ラピスラズリ、あなたが選択した方法によって、世界は過去に回帰しました。
そう、これはあなたが作り上げた世界であり火星であり、未来でもあるんです。
だから、あなたは意識してはならないんですよ。過去のことを。」
ラピスは困ったようにアキトを見上げる。
先の大使と遣り合っていたテーブルを間において行った椅子に着席したまま、アキトはラピスの後ろで立っていた。
即興なので微妙。それはいつもである