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No.29905の一覧
[0] NARUTO‐血風伝(旧題:ナルトをぷろでゅーす)[アビア](2012/06/27 12:11)
[1] [アビア](2012/06/19 18:49)
[2] [アビア](2012/06/19 18:51)
[3] [アビア](2012/06/19 19:26)
[4] [アビア](2012/06/27 12:14)
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[29905]
Name: アビア◆d587929c ID:45f3ed7a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/19 18:49
 少年には嫌いな奴らがいた。

 かつて少年は、その男に好かれたい、認めてもらいたいと切に願っていた。
 しかし、男が少年を愛することは終になかった。いつも男は自身の定めた勝手な尺度で少年を推し量り、期待し、落胆し、少年を悲しませた。
 少年の男に向ける感情が敬愛から憎悪に転じたのは、果たして当然至極のことだったのだろうか、それとも酷薄な運命が向けた悪意だったのだろうか。切欠は男が少年に向けた一言である。

「さすがオレの子だ」

 男は少年の父だった。この一言には、何ら他意などなかったのかもしれない。いや、なかったのだろう。

 少年は忍者の家系、名門・うちは一族に生を受けた子供であった。
 忍者とは、極限の更に先まで鍛え抜いた肉体の運用に加え、チャクラと呼ばれる生体エネルギーを、指先を結んで紡ぐ印と呼ばれる象形により統率し操る戦闘のエキスパート集団である。諜報、暗殺、戦争を始めとした、凡そ戦闘行為に関するありとあらゆる分野に彼らが関与しないことはない。

 この日、父が少年に課した課題は、忍術の習得だった。

 火遁・豪火球の術

 チャクラを息吹に乗せ巨大な火球と成し、眼前の対象を焼失する忍術である。チャクラを炎の性質に加工、運用することを得意とするうちは一族において、比較的習得の容易な基本忍術であると言える。
 とはいえ、少年は忍者としての初等教育すら修了していない若輩である。チャクラの効率的な運用法など、未だ知悉しきることなど到底不可能な齢であった。その彼が、この身の丈に余る忍術を習得できたのは名門の血の成せる業、ではない。親に愛されたいと願う子の欲求。多くの生物が有する生来的な本能である。浮世にあって、これに勝る欲望など、そう多くはない。

 果たして少年は父の期待に応え、その執念に対する報酬を得ることができた。筈だった。

 「子は親を映す鏡」とは、よく言ったものである。子供は親が思っている以上に親のことをよく観察している。

「何故、こんな子に育ってしまったのか……」

 物語乃至現実で、こういった悲嘆を耳にしたことがある読者様方も少なくないのではなかろうか。この手の台詞を臆することなく口にする親は、表面上どう取り繕うとも、心底は実に無責任で軽薄、或いは愚鈍で酷薄だ。
 子が親に返すのは、必ずしも恩ではない。愛であれ、憎しみであれ。返ってくるのは、親の言葉、そして何より行動から察して受け取ったモノを云倍にもした激しい情動である。
 少年は自身に向けられた言葉、そして何よりも雄弁に語る父の双眸から、その心底を洞察した。

 父は少年を見ていなかった。自身の境遇に嘆き、不相応な大望を抱き、その青写真を子供を通して覗き見ていたに過ぎなかった。

 うちは一族とは忍者という特殊な戦闘集団にあって、ひときわ異彩を放つ能力集団である。血継限界とも呼ばれる異能の真髄は、うちはの場合その眼力にある。そう言い切っても過言ではない。人心を読み取り、惑わせ、時として現実すらも侵食し得る力は、少年の代に色濃く表出していた。
 その才覚が花開く気配は未だない。しかし、その片鱗は高い洞察力として現れ、皮肉にも少年の心に致命的な爪痕を残す結果と相成った。こうして植えつけられた憤懣と嫌忌の種は、瞬く間にその花を咲かせることとなる。
 一度生まれた少年の猜疑心は、一族全てに向けられた。血筋の近い者、顔すら判然としない遠戚の者、そして己を産み落とした母。彼らの瞳を覗き見て、その中に父のソレと同質な感情を見出した瞬間、少年の見る世界は一変した。
 無論、父と同様に母すら少年を軽んじていたとは言わない。自身の腹を痛めることのない父と違い、渾身の力を振り絞って命を産み落とす母の愛とは、時として筆舌に尽くしがたいモノがある。
 だがしかし、母は父の無道を諌めたのだろうか。母と子の間に父の知らぬ絆があるように、父と母、即ち男と女の間には、子の入り込む余地のない情愛の鎖がある。これもまた断ち切りがたい不可視の力であろう。この鎖は、時として自身の伴侶が子に成す無道を黙認させてしまう。こういった不健康な夫婦関係を心理学用語で共依存と呼ぶこともある。主にアルコール中毒患者とその配偶者の関係をそう評する場合が多い。
 そして、この不健康な関係が夫婦間に成り立ってしまうと、子供はたちまち自身の居場所を喪失する。「私たちにとって、お前はどうでもいい存在だ」というメッセージを、子供は両親の言動から読み取ってしまうのだ。

『自分の生に満足していない父を持った子は、不幸である』『自分の生に満足していない母を持った子は、悲惨であろう』

 上記は共に、今は亡き時代劇作家、隆 慶一郎氏が、その著作『影武者徳川家康』の作中にて記した二文である。なんとも正鵠を射た表現には思えないだろうか。


 少年には愛すべき家族がいた。

 この不幸な少年であるが、結論から言うと道を踏み外すことはなかった。彼には、無償の愛を注いでくれる存在がいた。歳の離れた兄である。
 兄は天才だった。乾いた綿が水を吸うかの如く技術と知識を吸収し、少年と同じ齢に達する頃には、数多の殺戮により既にその手を朱色に染め上げていたほどである。
 少年は、そのような兄の一面を知らない。ただ時折、兄の見せる沈鬱な面持ちから、何かしらの辛い過去があったという事実を伺い知るのみである。少年にとっては、優しく、頼もしく、愛に溢れた兄こそが全てだった。
 修行をつけてくれたのも、勉強を教えてくれたのも、余暇の過ごし方を教えてくれたのも、父の無道を諌めたのも、足を挫いたとき背に負ってくれたのも全て兄だった。
 もはや少年にとって兄は兄でなかったのだろう。父であり、母であり、同年代の友人であり、尊敬する師でもあり、そしてやはり「兄」だった。
 この兄の存在こそが、何よりも愛を求める幼少期にあって、少年の凍える心に射した春の日差しだった。
 その一方で、兄も少年の存在を殊更必要不可欠な要素に定めていた節がある。無理もない。少年が通る筈であった道は、かつて兄が通過した……通過してしまった道でもある。少年に無償の愛を注ぐことで、兄もまた自身の凍てついた心に陽気を感じていたのだ。これもまた一種の共依存と言えるのかもしれない。


 こうして、少年――うちは サスケの幼少期は異常ながらも愛と優しさに溢れ、憂愁な、それでいて温かみのある秋の夕焼け空のような終わりを迎える筈だった。


 そうなる筈だった。


 たった一夜の出来事である。その一夜を皮切りに、サスケの日常は無惨な変貌を遂げてしまった。
 夏も終わりの秋口だったろうか。中秋の名月とは旧暦にして八月十五日、即ち秋の真中、新暦に直すと凡そ九月に上る月のことを指す。その日は奇しくも十五夜。空に輝く月は真円を描いていた。
 嫌な夜だった。夏の残暑が尾を引き、肌に纏わりつくような空気が満ち々ちていた。風は無かった。そのくせ、木々の葉音だけがザァザ、ザァザと不安を煽るように忙しげにざわめいていた。その不快極まりない空間の中、青白い月のみが清廉であり、同時に嘲うような不吉さを湛えていた。
 夜も未だ明けやらぬ夜半。サスケが起き出したのは、決して寝苦しさのためではない。
 熱かった。暑いのではない。瞳の奥が、自分と大切な何かを繋ぐ要のような部分が不気味に熱を孕んでいた。
 寝具から這い出したサスケは、着の身のまま熱病患者のような足取りで外へ歩を進めた。

(なにか、よくないことがおきてる)

 確信に近い予感は、襖を開け、廊下を進むうちに完全な確信へ変わった。音が聞こえる。無数の怒号に金属の反響音、それよりも多い断末魔の悲鳴。賊だ。それも「うちはに挑む」賊だ。その力量を音のみから窺い知る術など、サスケは持っていない。
 ガチガチという音は、自身の歯の根がかち合う音だった。手足は震え、立っているのも難しかった。いっそ蹲ってしまいたかった。
 そうだ、そうしよう。自分には何もできない。サスケの思考が一つの結末を向かえ、本能に従った逃避防衛行動を選択したときだった。それが聞こえた。

「――ぜだ――イタチ!」

 うちは イタチ――兄の名前だ。声はくぐもっていたが父、うちは フガクの声に相違ない。大広間から聞こえた。
 サスケの臆病風は、瞬く間に掻き消えていった。目の奥がまた疼き、眼前にはチリチリと火花すら舞った。腹の奥、胸の奥から沸き起こった怒りとも焦燥感ともつかぬ活力が四肢に満ちた。
 サスケは駆け出していた。暗い廊下を脇目も振らず。明瞭となった視界で最短距離を捉え、突き進んだ。
 ただ只管に兄の安否のみが気がかりだった。故に広間と廊下を隔てる襖を開いた瞬間、その光景を理解するのに数刻を要した。

 立っているのは二人の人間だった。一人はイタチで、一人はフガクだった。裂帛の気勢を放つフガクは、クナイよりもやや長い小太刀を右手に構え、イタチは武器も構えも無く無造作に立ち尽くし、無感動な面持ちで己の父を睥睨していた。互いに印を結ぶ猶予もないクロスレンジだ。両者の間には、不吉な何かが転がっている。長い黒髪に隠れた口元はサスケの記憶にある母、うちは ミコトと瓜二つだった。

 フガクの口が開き、サスケに向かって何事かを口にした。しかし、サスケの耳には届かなかった。サスケはその場で身動ぎすることなく両者を見つめていた。
 数瞬だったのかもしれないし、半時は経っていたのかもしれない。時が狂ったような緊張の中で、先に動いたのはフガクだった。
 斜に構え、正中線を隠した状態から奥足を踏み込んでの袈裟斬り。何の捻りもない攻撃ではある。
 しかし、ただ立ち尽くすイタチの姿は、その袈裟斬りの回避すら困難に思えるほど隙だらけだった。正中線を曝け出し、腕も上げず、重心すら落とさず。むしろ、その隙しかない構えが、凡百の袈裟斬り以外の行動を許さなかったのかもしれない。
 無論、凡百とは言え、うちは家当主の一撃である。速度、気勢、間の取り方、全てにおいて完璧な一撃だった。惜しむらくは、相対する者が稀代の忍者うちは イタチであったことだろう。こちらは完璧の上を行った。

 小太刀の間合いを精密に読みきり後退、左肩から右脇腹への斬撃を服にすら掠らせずにギリギリの間合いを保って回避してみせた。対するフガクは、二の太刀を見舞わんと即座に体制を入れ替えようとはした。だが、この時点で全ては遅きに失した。
 右足を後退させ、上体を後方に送った時点で、イタチの重心は未だ左前足に集中していたのだ。フガクとて、重心を錯覚させる歩方についての見識はある。虚実を使い分け、変幻自在の戦闘を演出することこそ忍者戦闘の醍醐味と言っていいだろう。ただ、イタチのそれは、芸術的なまでに洗練されていた。天才という言葉で片付けていい話ではない。無心に積み上げた基礎鍛錬の上に聳え立つ、真の応用だった。
 イタチの右足がフガクの小太刀を蹴り落とし、そのまま真下へ踏み下ろされた。上半身は既に蹴り足の逆方向へ捩れ、十分なタメが成されている。

 ハッ、と短く息を吐く音が漏れた。

 その短い呼気は、誰のものか。
 少なくともフガクの物ではない。
 イタチの左手首・鶴頭により右側頭へ見舞われた一撃。上半身のバネをフルに使い叩き込まれた鉄槌は、フガクの頭蓋を砕き、脳漿をひき潰していた。即死である。
 精神の統率から解き放たれたフガクの眼は自然に白目を向き、体は生理的な反射に従ってたたら踏んだ。ツツっと千鳥足の歩調でリズムを刻んだ屍は、斃れ伏す伴侶の上へ崩れ落ちた。折り重なるようにして斃れ付す夫婦の体は、最早ピクリとも動かない。

 広間を静寂が満たしていた。息の音、衣擦れの音すら聞こえない。とうに中天を過ぎた月の光だけが皓々と輝き、死者と生者を照らしていた。
 異常な光景だった。今ここにいる人間は、昨日まで一つ屋根の下で暮らし、同じ釜の飯を食らい、同じ月を見て過ごしてきた人間だ。サスケにとって、決して良い父、母とは言い難い存在ではあった。だが、確かにあった。情と呼べるのか定かではないが、心と心を繋ぐ何かはあったのだ。それも今や確かめようがない。精神から延びた糸のようなモノを手繰った先にあるのは、物言わぬ肉塊である。正に地獄図と言っていい。
 その地獄図の中、唯二人。生き残った兄弟の視線が静かに交差した。
 サスケが感じた瞳の奥の熱は、とうに消えていた。

「……。……。……。に……さ……。にい……さん……。……。にいさん!」

 沈黙を割ったのはサスケだった。ぽつりぽつりと呟くように漏れた声が、水面に波紋を作るように広がった。波紋は徐々に巨大なうねりとなって、少年の喉から飛び出していた。ほとんど絶叫である。
 その姿を見てイタチは、何を思ったのか。サスケの目を直視したまま、ゆっくりと口を開いた。何かしらの言葉を紡ごうとしたのだろう。
 しかし、それよりも早く口を吐いたサスケの一言により、イタチは双眸を見開いて固まった。

「いやだ。おれをおいてかないでよ。ひとりにしないで……」

 何故その言葉が口を吐いたのか。サスケにも分からなかった。ただその目に映った兄の姿は、ひどく寂しげで儚く、今にも消えてしまいそうだった。
 半ば本能に近かったのだろう。生まれて此の方、最も多くの時間を共有してきた兄弟である。幼子は、その心底を無意識裡に窺い知ってしまった。

「未だ、俺を兄と呼ぶ……か」

 血を吐くように声を発したイタチは、視線を逸らすことなく、ゆっくりとサスケの眼前で膝を折った。同じ血の由来を持つ二つの双眸が同一平面状に並んだとき、サスケは額に触れる指先を感じた。

「今の貴様など殺す価値もない」

 イタチが指先でサスケの額を小突くのは、いつも決まって謝るときだ。

「愚かなる弟よ、この俺を殺したくば恨め! 憎め! そして醜く生き延びるがいい。逃げて、逃げて、生にしがみつくがいい」

 その行動の本質は、単なる罪悪感の誤魔化しに過ぎなかったのだろうか。

「そして何時か、俺と同じ"眼"を持って、俺の前に来い」

 サスケの目に映るイタチの双眸は、幽鬼のように赫々と燃えていた。その瘴気に充てられたのか、サスケの意識が遠のく。
 徐々に霞のかかる意思の中でイタチの声だけが妙に響き、無意味に斃れ付す一族の者たちの姿が鮮明に脳裏を過ぎった。 

 最後に見えたイタチの相貌は、皓々たる月の影で笑っているのか泣いているのか判然としなかった。

 少年には嫌いな奴ら、それに愛する家族が確かに「いた」



 それからどれほどの歳月が流れたのだろうか。
 幾度か季節が廻り、常緑樹が瑞々しい芳香を放っている。雑木の立ち並ぶ斜面を削り取って作られた墓場は、ただ幽玄で静謐な空気の底にあった。
 その景観を一望できる場所にサスケはいた。
 一抱えほどある岩の上に腰を落ち着けた男の双眸は、一文字に結ばれている。
 かつての幼子は、未だ少年の齢を越えていない。ただ、その総身からは、かつて存在した幼さとも可愛げともいえる雰囲気が消失していた。手足はすらりと伸び、面持ちも些か引き締まって見えた。変わらないのは、瞼の中の黒い眼と納まりの悪い黒髪ぐらいではないだろうか。

 不意にサスケの右腕が頭上へと跳ね上がった。
 ゴゥッと、硬質な肉のぶつかり合う音が鳴った。
 頭上から一寸の地点で受け止められたのは、人間の踵だった。靴の爪先と踵に鉄板を仕込んでの踵落とし。防御の上から食らったとてひとたまりのない一撃だろう。
 これをサスケは指一本、右手の小指の腹で受けた。年齢に即した太さしか持たない細腕だが、筋肉による内からの圧力により、今は倍以上の太さに膨張していた。
 その異様な膨らみを示した腕が打ち振るわれ元の位置に戻ると、頭上の踵も本来ある位置に戻り、行儀よく平行に並んだ。

「逸り過ぎだ。攻めに移った後も気配は消し続けろ」
「それ以外は一応及第点、ってか」

 既に開いた目で後ろを仰ぎ見たサスケの視界には、一人の少年が映った。
 しかし、この少年はいったい何なのだろう。燦々と輝く金髪にオレンジ色を基調としたジャンプスーツ。この派手な格好から、その身分を言い当てることは可能なのだろうか。
 無論、可能だ。木の葉を模った彫り物を成された額当を頭に巻いている。これは、木の葉の里に所属する忍者であることを示す意思表示のようなものである。
 うずまき ナルト。木の葉の里・下忍部隊第七班に所属する忍者であり、同じく七班に所属するサスケの同僚だ。
 サスケとナルト、共に初等教育期であるアカデミー生の頃から面識自体はあったが、その関係が非常に密なものとなったのは卒業後、下忍となってからだった。

「もう時間か」
「とっくにな。誰かさんの遅刻癖が移ったのかよー」

 何の脈絡もなく話を始めるサスケに、呆れた顔で応えるナルト。
 当初はサスケの態度を「スカしている」と評し、敵視していたナルトだったが、最早慣れたものである。寧ろ今では、その難儀な性格に同情に近いものすら感じ始めている始末であった。

「どうして咎めない」

 尻の下に敷いた岩を叩きながらサスケが言った。これは遅刻のことを指したのではない。七班を統率する上忍、はたけ カカシの遅刻癖など、身をもって知る二人である。今から歩いて集合場所に向かったところで、待つことになるのは自分たちに相違ない。
 サスケが言っているのは、自身が尻に敷いている岩のことだ。墓場の岩から墓石を連想するのは容易なことだろう。おまけにサスケの座っている岩の下土には、なだらかな膨らみがある。どう見ても土饅頭だった。
 常のナルトならば、咎めもしたのだろう。

「お前、絶対笑うから言いたくないってばよ」
「クッ、はっはっは!」

 胡乱気な面持ちで応えたナルトに返ってきたのは、一見すると莞爾とした笑いだった。声だけは清々しい、そのくせ目だけは笑っていない。ナルトが毛嫌いしている笑い方だった。

(もう笑っているのだから、これ以上笑われないぞ)

 そういう屁理屈だ。しかし、屁理屈も理屈だ。
 ナルトは自然に釣りあがる頬と痙攣する目元を揉み解しながら答えた。

「なんかさ、デッカイお前が、チッサイお前を背負ってるように見えたんだってば……」

 笑いが止んだ。気がつくとナルトの目の前にサスケが立っていた。
 人を小バカにするように笑っていた男の一挙動には、細心の注意を払っていた筈だ。にも関わらず、気がつくとそいつは、酷く無機質な面持ちで自分を観察しているのだ。
 驚異的な抜き足である。その挙動に思わず慄然とした面持ちを浮かべるナルトの意識の外、再びサスケが動いた。ツイっと上がった右手人差し指がナルトの額当の下、僅かに覗く額の表面に触れる。

「ひぃっ」

 ナルトは悲鳴を上げて大きく後ろへ飛び退いた。その瞳孔は限界まで拡大し、背中にはじっとり嫌な汗が伝っていた。
 時折、サスケが妙な気配を纏うときがある。その時のサスケが、ナルトの最も苦手とするサスケだった。
 その爛々と輝く黒い瞳で見つめられ、乙女のソレよりも白く肌理細やかな指先を肌で感じる瞬間、酷く心がざわめき、妙な気分になるのである。

(こいつ、やっぱソッチの気があんじゃねーだろーなぁ……)

 無論、被害妄想だ。寧ろ、感じたことを詳らかにして客観的な考察を加えれば、この場合ソッチの気があるのは、ナルトという結果になってしまうだろう。本人は絶対に認めないのだろうが。
 一方、幾分か強い警戒色を示すナルトの視線の先で、サスケは背後を向いて先程まで座っていた墓石と向き合っていた。
 暫し、ふむ、成程などとつぶやいていたサスケであったが、その腕が唐突に霞んだ。傍からは確かにそう見えた。
 そして一拍の間を置き、墓石は微塵に砕け散った。

「って、うわっ、お前、何やってんだよ。流石に、これはマジーってばよ」
「いい、これは兄さんの墓だ」

 再び振り返ったサスケは、いつものサスケだった。
 ナルトが慌てふためくのを気にもかけず、勝手に語りだす。

「兄さんは、この大地の下にも、天に上にもいない。大地の上にも、天の下にも居場所がない」

 厨二病乙とは、到底言い難い雰囲気である。
 サスケとて子供だ。時折口を開き、気取りすぎて空回りしたような物言いをすることだってある。そんなとき、ナルトは持てる限りの語彙を以ってサスケを哂ってやることにしている。
 だが、一族のことを語るときは別だ。そういうとき、サスケの姿が妙に自分と被ってしまうのだ。長く独りの寂しさを味わってきた嫌われ者「うずまき ナルト」の姿に。

「作るんだ。オレが、じゃない。オマエがだ」

 そして、こういうときの会話は、いつもこの一言で締めくくられる。

「だから俺は、お前を火影にするぞ」

 言い切った後、歩み去るサスケは、もう後ろを振り向かなかった。ナルトの横を通り越し、シカクワズなど毒草の茂る獣道を悠々と進んでいく。
 その姿を暫し眺めていたナルトであったが、ハッと我に返った。
 既にサスケの後ろ姿は、遥か遠方にあった。走った様子はない。驚くほど悪路を知悉した歩みだった。

「あいつ、たまに笑うとイイ顔するんだよな」

 大きな嘆息の後に呟くと、ナルトもサスケの後に続いた。こちらは小走りで、遠くまで行ってしまった友を追う。
 二人の話声がなくなり、死者の墓場は再び静寂の海に沈んだ。
 打ち壊された生者の墓だけが、二人の姿をいつまでもいつまでも見送っていた。


あとがき
 息抜きで書いてたのに、なんかすっげー疲れた。特に途中ら辺からグダグダだわー。

あとがき+
 ちょっと修正しました。本当は、全部消して書き直したかったのですが、それやるとエタりそうなので止めました。
 画一的なフォーマットってのがないから、地の文書くのがスゲー苦手です。特に「だった」「であった」「である」とかの使い分けや統一についての勉強が直近の課題でしょうか。あと、普段常用している言葉や表現に対する理解不足や一般常識的語彙の欠落等の補完、物語構造の理解、表現力の強化、貧困な想像力を補うための広範な知識の習得etc……。……。
 ……。過去の僕よ。何故に、もっと本を読まなかったしor2


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