ナルトがカカシ先生にやられてしまったので、私はひとまずその場から撤退する事にした。
・・・それにしても、さっきのナルト・・・いつの間にあんな術を覚えていたのね。
ちょっと・・・カッコよかったな。
それより、サスケ君は何処にいるのかな・・・まさか、もう今頃先生に・・・。
イヤ!サスケ君に限ってそんなことないわよねっ!
そんな事を考えていると、前方に先生がいる事に気がついた。
・・・しめた!本に夢中でこっちに全く気づいてない!!
今のうちに・・・腰についてるスズを何とかして取らないと――――――
「サクラ、後ろ」
――――え?
振り向くと、そこにはカカシ先生がいた。・・・え!?さっきまですぐそこにいたのに・・・!
まさか、最初から気づかれていたの・・・!?
と、驚いて固まっていると、いつの間にか意識がぼやけていた。
朦朧とした意識の中、後ろから声が聞こえた。
「―――――サクラ・・・」
・・・!この声は、間違いない!愛しのサスケ君だわ!!
「・・・サスケ君!!」
はっきりとしない意識の中、パッと後ろを振り返る。
振り向いた私は、自分の目を疑った。
「・・・サ・・・・・・・・・サク・・・ラぁ・・・た・・・助けて・・・くれ・・・」
・・・・・・・・・え?
確かに、その人はサスケ君に違いなかった。
でも・・・体中がボロボロで、左手が切断され、手裏剣やクナイがいたるところに刺さっており、血だらけだった。
大好きな人の、満身創痍なその状態を見て、私の意識は飛んでいった。
「―――あぎゃああああああああああああああああ!!!」
ナルトが捕まった後、オレは一旦その場を離れて作戦を考えていた。
しかし・・・まさか、あのナルトが雷遁を使えるとは。
やはり、あの時感じたモノは勘違いでは無かったのかもしれねェな・・・。
ふと、遠くから下品な叫び声が響いてきた。
・・・今の声、サクラか・・・。あいつ、やられた様だな・・・まぁ、当然だろう。
くの一トップだとはいえ、所詮は恋愛にうつつを抜かしているバカな女だ。
「・・・・・・少し、やりすぎたか・・・・・・」
カカシの呟く声が聞こえた。フン・・・やっと、オレの番って訳か・・・。
「忍戦術の心得、その2。幻術・・・。サクラの奴、簡単にひっかかっちゃってな・・・」
チャリン、と目的の物であるスズの音色が静かに鳴り響いた。
―――幻術か・・・、一種の幻覚催眠法・・・あいつならひっかかるのも無理ねーな・・・。
しかし・・・。
すぐ背後で呑気に本を読んでいるであろうカカシへと言う。
「――――オレはあいつらとは違うぜ・・・」
「・・・そういうのはスズをとってからにしろ」
フン・・・そのつもりだ。残念だが、カカシ。アンタは此処で無様にスズを奪われる事になるんだぜ・・・。
振り返り、想像通り本を読んでいたカカシと対峙する。
「里一番のエリート、うちは一族の力・・・楽しみだなぁ・・・」
相変わらずののほほんとした口調でカカシが言う。フン・・・余裕でいられるのも今のうちだぜ・・・。
アカデミー卒業から一ヶ月、オレはひたすら修行の日々を送った。
あんな忍者学校でやっていたヌルい授業とは違ェ・・・!オレは一ヶ月でかなり成長した。
それでは、ご希望通り見せてやろう・・・!うちは一族の、このオレの力を・・・!!
ホルスターから取り出した数本の手裏剣をカカシへ向けて投げる。
当然、真正面からの手裏剣など当たるハズも無く、全てがひらりと躱された。
「バカ正直に攻撃してもダメだよ」
フン・・・甘い。このオレが何の考えも無く手裏剣を投げたと思ったら大間違いだぜ・・・!
投げた手裏剣は、寸分の狂いも無く、オレがこっそり草むらの間に張っておいたロープを切断する。
ロープが切断された事により、あらかじめセットしたトラップが作動し、カカシの立っている場所へ向かって千本がいくつも襲いかかる。
驚いたカカシだが、すかさずジャンプする事により千本を回避した。
――――――かかった!
ジャンプからの着地の際はどうしても硬直する時間が生まれる。
そこへあらかじめ待機しておき、着地の瞬間に背後から左足で蹴りを入れた。
その蹴りもガードされてしまい、更に左足を掴まれた。
(・・・チィ!流石は、上忍といったところか・・・ここまでの多重トラップを全てガードされるとは・・・だが!)
左足を掴まれたまま、右手をカカシへ向けて振り下ろす。当然、その手も掴まれてしまうが、その体制から右足で蹴りを放つ。
その蹴りもカカシの右手によってガードされた。・・・へっ!甘い・・・・・・!
オレは右手、両足をカカシに阻まれている。対するカカシは、両手を防御へ使ってしまっている。
この状況・・・もう回避する手段は無ェ・・・!
かなり辛い体制ではあるが、大した問題ではない。唯一自由な左手をカカシの腰についているスズへ向けて伸ばした。
――――チャリン!
スズが奪われる、寸前のところでカカシが腰を引いてサスケの伸ばした左手を回避する。
サスケは悔しそうな顔をするが、カカシもかなり焦った顔をしていた。
(・・・なんて奴だ・・・・・・!イチャイチャパラダイスを読むヒマがない)
――――チィ!!クソ・・・あとほんの少しだった!
あとほんの少し手を伸ばしていれば届いた筈なのに・・・流石、あんなナリでも木の葉の上忍って訳か・・・。
「―――ま!あの二人・・・いや、一人とは違うってのは認めてやるよ」
一人・・・・・・ナルトとは違わねェ・・・そういう事か。
チッ!確かにあのナルトは何処か凄ェところがあるのは認めてやるが、オレがあいつと同じだってのは死んでも認めねェ・・・!
(・・・こうなったら・・・アレを使うか!)
フン、と鼻で笑うと、バババッ、とサスケはかなりのスピードで印を結び始めた。
(―――――馬!虎ァ!!)
「なっ・・・なにィ!!」
カカシが驚愕の表情を浮かべる。・・・へッ、もう、遅ぇ・・・・・・!!
(―――――火遁!豪火球の術!!)
刹那、ボウ!という音と共に特大サイズの火の球がカカシを目掛けて放出される。
地面を抉るほどの威力の火球は、サスケの前方全てをその火で焼き尽くした。
(・・・・・・フン、やったか・・・?)
モク、モク、と豪火球によって上がった煙が晴れていく。
煙が晴れていくと、そこには焼け焦げたあのマヌケな上忍が・・・・・・いない!?
―――後方!?いや、上か!?・・・どこだ!?
目の前から突然消えたカカシを探してサスケが周囲をキョロキョロするが、全く見つかる様子は無い。
探し続けるサスケの、すぐ近くからカカシの声がした。
「―――――――下だ」
・・・!?まさか・・・ッ!!
驚いて直ぐにその場から離れようとするが、すかさず地面から生えてきた手がオレの左足を力強く掴んだ。
「土遁・心中斬首の術・・・」
チィ、やはりかッ・・・!ついさっきナルトに使った術とおなじ技だ・・・!
オレとした事が、一度見た筈なのに、冷静さを失って完全に忘れていた・・・!
掴まれた左足が、さっきナルトがやられた様に体ごと地面へ引きずり込まれる。
クッソ・・・!情けねェ・・・。
「忍・・・戦術の心得その3!忍術だ・・・にしても、お前はやっぱ早くも頭角を現して来たか・・・でも、ま!
出る杭は打たれるって言うしな、ハハハ」
オレを小馬鹿にしたようなその耳障りな笑いが無性に腹が立つ。
だが、頭以外を地面に埋められてしまったこの体ではアイツに反撃してやることも出来ない。
「・・・くそ!!」
ちくしょう・・・、ここまでの差が・・・。
あんだけ一ヶ月死に物狂いで修行をしたが、やっぱそう簡単に上忍を出し抜く訳にはいかねェか・・・!
悔しがっていると、目の前にサクラが現れた。チィ・・・こんな無様な姿を他の奴に見られるとは・・・。
サクラはオレを見ると、突然動かなくなった。・・・なんだ?
「あぎゃあああああああ!!今度は生首ィーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
いきなり叫び出すと、ドサ、とその場に倒れ臥した。・・・ワケの分からない女だ・・・。
「・・・。よく分からないけど、これでもう第七班は全員戦闘不能、かな?・・・ま!良く頑張ったけど、残念だったな」
カカシがニコニコした顔でそう言った。クッソ・・・悔しいが、今の状態ではどうする事もできねェ・・・!
スズは取れないまでも、一発はこの目の前のムカつく男に喰らわせてやりてェが・・・。
「・・・それじゃ、ちょっと早いけど、お昼休みってことに―――――――――ッ!?」
その瞬間、カカシのいた場所へ大きな火の球が飛んで来た。
地面へとその火球がぶつかると、周囲が橙色に明るく輝く。
寸前の所で回避したカカシが、そしてその光景を見ていたサスケが、目を疑った。
(・・・・・・なっ・・・!!!サスケの影分身か・・・!いや、あいつにそんなチャクラは残っていないはず・・・いったい、誰が!?)
(あれは・・・。間違いねェ、火遁・豪火球の術・・・さっきオレが放ったやつと同じ技だ。オレより威力は低いみたいだが・・・そんなことはどうでもいい!
誰があの術を使った!?)
驚いて固まる二人。
そして、サスケの目の前に、その術を放った張本人であろう人物が、スタッ、と着地した。
その人物を見た二人が更に驚きを深めた。
「――――――カカシせんせェ・・・、まだ、オレはやられちゃいねーってばよ!!!」
―――――黄金に輝く髪に真紅のマントをその身に纏った、うずまきナルトがそう言った。