「起きろ。仕事の時間だ」
何もない、薄明かりで照らされた洞窟のような部屋で寝ていると、男の声が聞こえた。
「……ああ」
むくり、と体を起こす。嫌な夢を見ていたのか、覚えちゃいないがーーーひどく汗をかいていた。
寝起きも相まって体が怠い。寝起きは嫌いだ、もう一度眠りたい。
だが、そういう訳にもいかないので、とりあえず近くに置いてある瓶を取り、水を一杯ガブッと飲んだ。
「今日は…何をするんだ」
「それは全員集まってから説明する。何時もそうしているだろう…寝惚けていないでさっさと目を覚ませ」
目を覚ませ、か………
今でも俺は酷い幻術の中で彷徨っているのではないかと思う事がある。
術が解けたら何時もの何気ない任務をこなし、家に帰り、父と何気ない会話をして、明日も任務かぁと楽しそうに呟きながら布団に入るのだ。
何気ない日常。今では戻れない日常…
あの頃は楽しかった。
下忍としてランクの低い任務を受けて、メンバーと今朝は何があっただ昼メシはなんだとくだらない会話に花を咲かせ、担当上忍に集中しろと怒られて、シュンとなりながらも上忍は仕方ねえなぁと苦笑いをして。
目標は火影だぁなんてありきたりな夢を語り、皆で強くなりたい、と修行を頑張ったり。
あの頃は本当に、楽しかった…………
まぁ、俺が幻術にかかっていないという事は俺自身が、いや、俺の呪われた眼が一番良く知っている事だ。
現実逃避をしても何も始まらない………。
どうでもいい事を考えているうち、いつの間にか眠気も覚めたようだ。
さっさと支度をして集合しなきゃな…遅れたら何を言われるのか、下手をしたら忍術が飛んできかねん。
自己紹介が遅れた。
俺は憎しみと殺意に呪われたクソッタレな忍者の中でも特にクソッタレな一族。
うちは一族の生き残りであり…犯罪者集団、【暁】のわりと新参メンバー。
うちはミライだ。