軽い倦怠感。まるで体を覆っているかの様なそれは、自分が起き上がる事を阻止している様だった。
意識はとっくに浮上しているというのに、体は未だ眠ったまま。
そんな体験をしたのは決して一度や二度じゃない。最早慣れていた。
ああ、またか。と思える程には。
しかしこの状態になると五感と第六感が一般人並に鈍ってしまい、人の話し声や気配を感じ取れなくなったりしてしまう。
実質寝ているも同然なこの状態は、時間が経つ事によって徐々に確実に薄れていくのだ。
だから今回も待っていれば自然と体も起きる筈なのだ。
そうでなければおかしい。
だというのに…だというのに、自分の体はいつまで経っても起きなかった。
何分何秒経ったかは分からないが、感覚的に言えばそろそろ起き上がっても良い筈だ。
いつもとは違う体の異変に恐怖が胸の内を埋めていった。一体自分の体に何が起きたのか。
目も開けられない今の状況じゃそれすら確認できない。
思い出せ、考えろ。
俺はこうして呑気に寝てる前は何をしてた?どこに居た?うちはの集落に三度目の脱走を図って、その後…その後?集落に居た事は覚えている。
それだけは分かる。が、そこで何をしようとしていた?そこで何があった?自分が何故集落に居たのかが分からない。
それに加え、自分が今どこで眠っているかも分からない。
鈍い触覚はシーツの感触を訴えてくるがそれだけの情報では何も掴めない。
仮に今眠っている場所が布団もしくはベッドだとしよう。
次に浮かんでくる可能性は病室、自室、もしくは誘拐の三つ。
うちはの生き残りは各国の忍、マニアにとって喉から手が出る程欲しい筈。こんなに眠っていられるのも嵐の前の静けさだからなのかもしれない。
いや、そもそも眠っているのだろうか?自覚が無いだけで既に死に絶えている可能性も無いとは言い切れない。
だとすれば自分は幽体なのか。死因は一体…?
そこで不意に上体が起こされた。
どうやら何者かが自分の体を起こしているらしい。
死んだという説は無くなった。それにしても自分を起こしているのは一体誰なんだろうか。
男?女?知り合い?他人?敵?味方?全く分からん。
あ、いや待て。段々目が開いてる気がする。漸く体が起きたのか。
今回は一段と遅くて不安を感じたが杞憂の様だな。
世界を目にする前に深い水底へ叩き落とされた。
* * *
『サスケ。おいでサスケ』
母さんが俺を呼ぶ。
嬉しくて俺は近付く。
『なあに?母さん』
母さんはにっこり笑った。
『今日は皆でお出掛けよ』
俺の頭を撫でて母さんは言う。
『ほんと?兄さんも父さんも?』
また約束が破られるかもしれない。不安。
『父さんもよ。今日は皆一緒』
母さんはにっこり笑う。
『兄さんは?』
母さんはにっこり笑う。
『ねえ、イタチ兄さんは?』
母さんはにっこり笑う。
『兄さんは一緒じゃないの?』
母さんはにっこり笑う。
『まだ兄さんと呼ぶの?』
母さんはにっこり笑う。
母さんはにっこり笑う。
母さんはにっこり笑う。
母さんはにっこり笑う。
母さんはにっこり笑う。
母さんはにっこり笑う。
母さんはにっこり笑う。