今日は母さんと父さんが二人揃って居ない日。
多忙な父さんの事を考えりゃそれもしょうがねぇんだけど、やっぱり家に居てもらいたい気持ちが勝る。
まぁ兄さんが居るから別に良いけど…。
兄さんは満月の夜縁側に出るのが好きらしい。
今夜も俺を抱いて月明かりをぼんやり眺めてる。
俺も嫌いじゃねぇから文句は言わない。
時々こっち見て構ってくれる兄さんはマジ聖人。
そんな穏やかな夜を壊すかの様に、ちらほら灯りが見える里の方から不穏な空気が流れてきた。
赤子だからか知らねぇが、俺は気配とか見えないものの類に敏感になってた。
白い影が部屋の隅に居たのはマジで怖くて泣いた。早く歳取りてぇ。
「なんだ…?この感じ」
兄さんも何かの気配を察したのか不安そうに里の方向を見つめて呟いた。
子供が空気に敏感なのはどうやら嘘じゃなかったらしい。
母さんと父さんは大丈夫だろうか。
強い二人の事だから死んじゃいないと思うけど心配だ。
「あぅ…うえぇ、うー」
「よしよし、泣くなサスケ。何があっても、お兄ちゃんが絶っっ対守ってあげるからな」
里からの空気が気持ち悪くてむずがっていたら、優しげな瞳を向けられながら言われた。
世界一頼りになる兄さんほんと好き。
そんな兄さんがハッとして立ち上がると同時に俺は何故か急に襲ってきた眠気に負けた。
タイミングを見計らったかの様な眠気に気味悪く感じながら眠りに就く。兄さんに抱かれたまま揺さぶられる感じを最後に俺は寝た。
* * *
紅く染まった尾が家屋を叩き潰す。
轟音と衝撃と恐怖に顔を歪めながらも、イタチは弟を守ろうと必死になって指定避難所の方へ向かっていた。
人の流れに従う形で走りながら、すやすやと眠っている腕の中の小さな命を抱え直す。
父と母は居ない。おそらく人々の誘導に手一杯なのだろう。
ならばサスケを守るのは自分しか居ない、何が何でも守らねば。
人波の隙間から父らしき姿とうちはの忍らしき男が見えた。様な気がした。
父らしき男は腕を組んだまま前方を睨み付けている。
それは逃げ惑う人々に対してではなく、抗えない上からの圧力に対しての様だった。
それをきっかけにイタチは速度を速める。
両親が居ない事を再認識した頭は、どこか冷静な部分が早く逃げろと囁いている気がした。
再びの轟音と衝撃にイタチと周囲の人間はは身構える。
そうして目を開けてみれば、先程まで原型を留めていた一軒家達が崩れている事に目を見張った。
どうやら先程の衝撃で目を覚ましたらしく、サスケが不安そうに泣き始めた。
周りが自分の事で手一杯だからか、泣き声なんて何処からでも聞こえてくるからか、はたまたその両方か…幸いにも迷惑そうにする人間は誰一人として居なかった。
「おぎゃぁぁぁ、うぁああぁぁ」
「よしよし、びっくりしちゃったな。今の内だ、避難所に急ぐよ」
安心させる様に言ってもサスケは泣き止まない。
頭を撫でたり強く抱き締めたりと、泣く弟を宥めながら避難所に急ぐイタチ。
突如として化け狐に襲われた里を満月と一人の男だけが眺めていた。
* * *
赤子の泣き声が響く院内。
九尾襲撃から一日経った今、イタチは母ミコトと弟サスケと共に赤子が眠る一室を見つめていた。
父は職務に追われ居ない。
何はともあれ家族が無事で良かった、とイタチは母の手を握り締める。
母の腕の中で眠るサスケは穏やかな寝顔を晒していた。
「……クシナ」
一人の赤子を見つめ呟いた母は、悲痛な面持ちであった。