父さんに呼び出された今朝。
何かしただろうかとひやひやして話を聞いてたけど、漸く俺も一人で領地外へ出る事が許された。一人で、だ。
母さんは渋い顔をしてたけど、俺は嬉しくて堪らなかった。
何せやっと父さんと母さん、兄さんから離れて行動できるんだからしょうがねぇ。
別に嫌って訳じゃなかったけど周りの子達は同年代で集まって動いてるから、いつも兄さん達と一緒に居る俺は結構恥ずかしかった。
それも今日限りで卒業だ。
「やっぱり此処だな…」
ゆるゆるの頬っぺたを晒しながら、俺は里外れの方にある甘味処へ来ていた。
甘栗甘も良いけど断然俺はこっち派だ。兄さんと初めて来た時から忘れられん。
幸い誰も居なかったので、遠慮無く店の外に用意してある長椅子に腰掛ける。
作り物の花(季節によって変わるらしい)が店の外観を彩っており、長椅子に敷かれた赤い敷物は絹の様な手触りがした。
何度来ても飽きない。
子供ができたら教えてやろう。
何てったってここから見える景色も最高だからな。
店は道を挟んでちょうど森の一部に面している訳だが、その一部が花を咲かすのだ。色とりどりの。
時折桜の花弁なんかが散ってきて緑茶に落ちる事がある。実に風流である。
「あらサスケくん。今日は一人?」
「うん!今日やっと一人で遊びに行っても良いって言われてさ!」
「そうかいそうかい、そりゃあ良かったねぇ。あ、そういえば来年からアカデミーなんじゃない?」
「そうだよ、ちょうど一年後!」
「そりゃめでたい!よっし、んじゃ注文どうする?」
「それじゃあ…みたらし三本!」
「よしきた!ちょっと待ってな」
竹を割った様な性格の持ち主である此処の店主、茜さん。
近所のおばちゃんみたいに気さくな話し方から実年齢より上に見られる事が多いけど、まだぴっちぴちの24歳。彼氏は居ないらしい。
姉御肌で頼まれ事は大抵引き受ける。俺が懐くのも時間の問題だったって訳だ。
そんな姉さんの初恋相手はイタチ兄さん。
叶ってもないけど破れてもないから頑張ってほしいと思う。
将来は俺の義理の素敵なお姉さんになるから呼び方も姉さんだ。
本人も満足そうだし別に大丈夫だろ、たぶん。
里の中央に構えてる甘栗甘の方が客足も多いけど、ここは知る人ぞ知るって店なので不評な訳じゃない。
茜姉さんの名誉にかけて言っとくけど。
ぼんやりしてると俺が腰掛けてるのとは別に用意してあるもう一つの長椅子の方に誰か座った。
横目で見ると黒髪と茶髪デブの男子二人組。俺と同年代っぽい。
つーかデブの方は甘味食べに来たんならポテチ食うのやめろよ、俺のりしお派な。
「へいお待ち。みたらし三本ね!」
「ありがと姉さん」
「ゆっくりしていきな!」
お礼を言うとにっこり笑って隣の二人組へ注文取りに行く姉さん。
う~む、やっぱり素敵な義理のお姉さんになってほしい。
兄さんにそれとなく伝えるか。
あ、でも長男だから政略とかあんのか?それは嫌だわ。
「………」
団子を食いながら兄の結婚についてあれこれ考える弟ってどうなんだ。
自分で思ってて複雑な気分になったわ、兄さんの人生は兄さんのだし俺がここまで考えるのもお門違いか。
それにしても……この二人組さっきから人様の事ちらちら見てきて気になるな。
二人組っつってもあからさまなのはデブの方だけどよ。
あっちも団子が届いたのをきっかけに俺は二人組の方へ顔を向ける。
黒髪が面倒臭そうな顔しててちょっとムカつく。
「何だよ、さっきから人の顔見てきやがって。顔に何か付いてんのか?」
「えっ、べ、別に付いてないと思うけど…」
「見ねぇ顔だと思ったから気になっただけだよ。気に障ったんならワリィ」
デブはともかく黒髪が大人な対応してきて正直驚いた。
大人びてんな、親の教育の賜物か?ま、兄さんの方が大人だけど。……当たり前か。
「そーかい…。あんま領地内から出てねぇからな。見覚えねぇのも当たり前だ」
「領地…?お前もしかしてうちはか?」
「だったら何だ?」
緑茶を一気に飲み干すと熱さが喉を通りすぎてくのが分かった。
舌がひりひりして痛い。冷ましゃ良かった。
うちはって聞いて黒髪の方は納得いった顔してるけどデブの方は不思議そうに目を瞬かせていた。
あいや、黒髪の反応が可笑しいのか。
「姉さん、お勘定此処に置いとく。釣銭は要らねぇから」
「あ、ちょっと!?サスケくん待って今行くから!」
店の奥に向かって言うと慌てた声をあげて姉さんが此方に向かってくるのが分かった。
いつものお礼だし気にしなくて良いんだけどな。
姉さんが来る寸前に俺は瞬身で店からある程度離れた場所へ移動する。
シスイさんに教えてもらったんだけどこれ便利だな。
今の体じゃチャクラ結構使ってアレだけど。