「お?サクヤじゃないか。おーーい!」
「ふんふんふふふんふーんふん♪…ふん?」
アカデミーからの帰り道、甘いものでも食べていこうとご機嫌に鼻歌を歌いながら歩いていると、どこかから声をかけられた。振り返ると、そこには誰も居なかった。…あれ?
「こっちこっち」
後ろから肩をポン、と叩かれる。素早く振り返るとまたそこには誰も居ない。
…はぁ。
「からかうのはやめてよー…シスイさん」
「おっ。さすがはサクヤ。よく俺だとわかったな」
「いやこんなことする人他に知らないし…」
「はっはっは。そう言われると照れるなあ」
「いや褒めてないし!!!どこも褒めてないよ!!!!今の会話のどこをとって褒めてると思ったのよ!!」
「はっはっは、いやあスマンスマン。サクヤをからかうのはなかなか面白くてな」
と、その声とともに目の前に現れたのは、爽やか系お兄さんのうちは シスイ。瞬身の術という超高速で移動する忍術を得意とし、目にも止まらない速さで相手を圧倒し瞬身のシスイと呼ばれて恐れられている…らしい。
けど…この人は私をからかうために今無駄に瞬身を連発していたのを考えると、この術を最初に考えた人も報われないね。
こう見えてもイタチ兄さんと同じくらいか、もしくはそれ以上に強いらしい。サスケ曰く、「兄さんの方が強いに決まってる!」らしいけど。人は見かけによらないなぁ…。
「アカデミーの帰り道か。今日はサスケは一緒じゃないんだな?」
「サスケなら先に帰っちゃったよ」
お団子食べに行こうよ、って誘ったら「だ、団子は…団子はいいや…」って嫌な顔しながら帰っちゃった。
あいつは団子に何をされたんだろう…
「お前がサスケと一緒にいないのは珍しいな。サクヤはどこかに寄り道か?」
「うん。甘いものが食べたいから、お団子食べに行くの」
「ほう、団子か。俺も任務が終わって疲れたし、甘いものが食べたくなってきたな…一緒に行くとするかな」
「さっきの瞬身で疲れたんじゃないの……まあいいわ、早く行きましょ」
と、いう訳で…シスイさんが仲間に加わった!
「はむ、はむ、もごご…ごくっ。はー、ここのお団子は甘くておいしいー」
「うーむ、疲れた体に甘いものが身に染みるぜ」
「おばちゃん、もう一皿ちょうだーい」
目の前に置かれたお団子をひょいと掴むと、パクリと口に含む。
噛んでいるうちにタレの甘みと団子の感触が口いっぱいに広がっていき、自然と笑みがこぼれる。
シスイさんも甘いものが好きなのか、一皿、もう一皿…どんどん食べていく。
しばらく幸せなひと時を味わっていると、他のお客さんが入ってきたようだ。
「おばさーん、団子十二皿ちょうだーい……あれ?サクヤにシスイじゃない。珍しい組み合わせねー」
「あれ、アンコさん。アンコさんもお団子食べに来たのね」
「………げえっ」
ちょっと、シスイさん。何よ、その「げえっ」って……失礼じゃないの。
見ると、ものすごく顔が引き攣っている。こんな顔するシスイさん初めて見たんだけど…
「や、やあアンコさん。久しぶり…っと、そうだ!用事を思い出した!すまん、サクヤ!先帰るな!!じゃ、じゃあまた今度な!!」
そうこうしているうちに慌てて出て行ってしまった。また瞬身の術使ってるし……。そんなに急いでどうしたのかしら。
「相変わらず忙しそうなやつねぇ…ま、いいわ。せっかくだしサクヤ、一緒に食べましょ。…おばさん!サクヤに団子十皿あげて!私からのおごりよ」
「わあっ、ありがとうアンコさ……………。………え?十皿?」
ポカーーン、としているうちにおばさんが私の目の前に十皿持ってきてしまった。目の前に広がるのはお団子の山。
お腹ペコペコだったら最高の風景に見えただろう…が、今の私には悪魔の群れに見える。
っていうか、無駄に持ってくるスピード速いな!おばさん!
どうすんのこのお団子の山!もうお腹一杯なんだけど!!!
「あの、アンコさん……私ね、さっきシスイさんとたらふく食べたからもうお腹いっぱ……」
「なあに言ってるのよ!!育ち盛りの子供が、そんな程度でお腹いっぱいになってちゃダメよ!ほら、私のおごりなんだから、たらふく食べなさい!」
「はっ…はぁい………」
ニッ、と満面の笑みでそう言われてしまうと、ごめんなさい食べられません、なんて言えなくなってしまう。
シスイさんめ…これが怖くてさっさと逃げたのか。許さん。あとで足の小指蹴ってやる。5回くらい。
どうしたものか、と途方に暮れていると、すでに目の前に置かれた団子の山を平らげたアンコさんが、もう十二皿!と声を上げているのが聞こえる。え、何皿食べるつもりなのあの人…。
仕方がないので、しぶしぶ目の前に置かれた山の一角を手に取り食べ始める。
が…二つほど食べたところで、お腹からもう食べられないよ!!と文句を言っているのが感じられた。
あと八皿…………ひぇえ、助けてサスケェ………
く、くるしい……もう何も食べられない……。
とんでもなく重くなった体を引きずるようにして、ようやく家にたどり着いた頃にはすっかり暗くなってしまった。
いつもより重く感じる家のドアを頑張って開ける。
「あーーーー……ただいまぁ………けぷ」
「おかえり…ってどうしたの、そんなお腹抱えて」
「アカデミー終わった帰り道に、お腹減っちゃったからシスイさんとお団子食べてきて…」
「あら。シスイさんがいたのね。楽しそうじゃない。食べ過ぎたの?」
「いや、私とシスイさんはそんなに食べてなかったんだけど…」
「だけど?」
「……………途中でアンコさんが来た」
そう伝えた途端、あぁ……と、同情の目を向けられた。やめて!お母さん!
そんな目で私を見ないで!!
「そ、そう…それは大変だったわね…シスイさんもたらふく食べさせられたの?」
「あの人は瞬身で逃げた」
シスイさん、許すまじ。何が瞬身のシスイよ。瞬逃のシスイだったじゃない。
今度会った時は覚悟しなさい。
「さすがは瞬身のシスイね…サクヤもアンコさんには気をつけなさい。悪い人じゃないんだけど…こと甘いものに関してだけは例外よ……。じゃあ今日は夕飯いらない?」
「やめてお母さん!お夕飯って聞いただけでもう限界超えそう……うぷ、もうお風呂はいって寝るわ…」
それだけ伝えるとお風呂に向かった。うう…今日は散々だったわ…。
もうお団子なんてこりごりよ!